空狩少女のヒーローアカデミア   作:布団は友達

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四話「祭りと言えばフランクフルト」

 

 

 

 第三種目開始直前に事件は起きた。

 対戦表が決められ、上鳴との戦闘準備にたこ焼きを食していた捉把だったが、エンデヴァーと同席している際に峰田の情報によって誤解した女子生徒は、会場にて思わぬ光景を作り出してしまったのだ。

 

「……何やってんだ……?」

『おいおい、1-Aはどうしたァ!?』

 

 チアガールの格好に着替えた女子生徒による応援団。全員の顔は暗い影が落ち、悪辣なる策士峰田と上鳴は満足感に肩を組んだ。捉把だけは動作確認を行い、両手に握ったボンボン(フワフワしたヤツ)を振るって練習していた。尚、相澤へ披露してみたが、彼は呆れる事頻りである。

 悲歎の女子、捉把の除いた面々が口々に峰田を叱責する。捉把の下へは勝己が観戦席から轟然と肉薄し、捕らえられた。何故か轟は自分の上着をまたしても手渡す。

 捉把が身ぶり手振り、少し挙動を発するだけで悲鳴じみた歓呼。此度の雄英体育祭では筆頭の美貌、振り撒く笑顔は繕った物だとも識らずに興奮する。

 欣然とする観客席の中で、エンデヴァーは会場に降り立ち、捉把と会話をする姿を見て益々確信する。将来的な相棒に迎え入れる下準備を始めんと思考を巡らせていた。しかし、嫁云々の話を想起して、即座に唸り声と共に息子の名前で咆哮する。

 観客に答えて踊る捉把は、背後から勝己の手刀を喰らって止まる。両腕を摑まれ、完全に動きを封じられた。轟の上着を渡す手元も、もはや強制の意気がある。自分の姿を検めて、男子二人の前に無表情でポーズを決める。取り繕う必要のない相手だからだった。

 一瞬、忘我した二人だったが、再び凄まじい気迫で詰め寄った。

 

「可愛いかな?」

「っせぇ!!キメェから着替えろや!!」

「そんなに醜かった?」

「いや、きれ……俺の上着を早く」

「轟くんは紳士だね」

 

 捉把は二人に連行されて立ち去る。

 

「おい舐めプ野郎、気安く触んな……!!」

「空狩はお前のペットじゃねぇ、強制するな」

「勝己くん、色々楽しかったよ。今までありがとう」

「殺す、まとめて殺す!!」

 

 更衣室前に捉把は上着を脱いで返す。

 

「はい。ありがとう、着替えて来るね」

「ああ」

 

 捉把が更衣室に消えたが、室前の廊下から二人は立ち去らず待機していた。先程から憤怒に燃え上がる勝己を無視し、床を睨んでいる轟。

 勝己は先程、チアガール事件前に彼が出久に語った内容を意図せず知ってしまった。壮絶な幼少期の体験、心痛絶えぬ凄惨な過去、およそ傍若無人な勝己にも触れ難い話である。ヒーローを志す者の集う中に、並々ならぬ強迫観念じみた動機で入学し、挑戦する。父親の私怨に翻弄された恨みに身を焦がし、心を凍てつかせた。

 だからこそ、他人を意に介さず頂点を獲ると豪語する轟が、あの捉把にここまで接する道理が判らない。確かに彼女も強力な“個性”、出自は兎も角“個性”の生産の為に母親や人生を狂わされた。

 同情なのだとしたら、勝己は甚だ不快でならなかった。捉把が保健室で告げた、全力でヒーローを目指す意志と、轟の親を完全否定する心意気は、明らかに道を違えている。轟に同情される謂れは無いのだ。

 勝己は徐に壁から背を離し、正面に居た轟の居る対岸へ行き、すぐ側の壁を蹴る。目前に佇み、足で逃げ場を防ぐ彼に轟は小首を傾げた。

 

(ひだり)を使え。全力のてめぇを叩き潰す。んで、アイツに関わんな」

「……おまえも知ってるなら言うが、空狩がどんな苦しみを抱えてるか、俺には解る」

「あぁん?テメェと違って、あいつは拗らせてねぇ」

「どうだろうな、根本は変わらねぇよ。教室で以前、アイツは独り暮らしだと言った。……多分、親がいねぇんだろ」

 

 勝己が足を下ろして押し黙る。

 以前、下校中に己の過去を語った彼女を思い出す。強力な“個性”を持つ個体を生産する為に、怪物と母親を強制的に結び、この世に生まれた子供――空狩捉把。今の彼女は確かに、孤独だった。

 家族は居ない、友人やヒーローへの意志以外に支えの無い不安定な心。

 轟は彼を避けて、その後ろに立った。

 

「俺と違って復讐する先が無いか、それとも……見付からないか。そんな環境下だと無自覚になるのも納得だ。空狩の奥にもまだ暗いモンがある」

「何が言いてぇんだ半分野郎」

「だから俺が救ける。大人の一存に縛られた経験があるからこそ、俺はおまえよりもアイツが理解できる」

 

 捉把は着替えを終えたが、扉の向こう側の会話に退室の機会を躊躇っていた。轟の言葉が脳内で反響する。復讐する先――確かに、“あの姿”を見た時に、自分を抑えられる自信はない。末端の脳無でさえ、記憶が曖昧になる程に荒々しい感情の波に飲まれてしまった。

 轟の言葉を全否定できない。勝己の反論など総て空しく聞こえてしまう自分が嫌になった。

 捉把は眥を決して部屋を出ると、二人に手を振る。会話が中断され、舌打ちする勝己と無表情の轟。二人と共に観戦に戻った。

 その道中に心操を倒し、一回戦を通過した出久と遭遇した。クラストップ2を脇に侍らせた捉把の姿に戦々恐々、特に勝己を見て怯えている。威嚇する勝己を窘めて、捉把は出久の首筋に抱き着いた。狼狽える彼と、静かに燃える二人。

 心操によって遺憾のある勝利を収めたため、第一回戦で対決した出久が代わりに雪辱を晴らしたのだと歓喜する。その感情のあまりの行動だった。

 

「そ、空狩さん……!」

「さすが、私の“平和の象徴”。君は英雄だ」

「緑谷……二回戦、宜しく頼む」

「せ、瀬呂くんが勝つかもだし、気が早いよ轟くん!

 (何か、さっきと気迫の種類が違うというか……?)」

 

 出久の態度に、轟が静かに告げた。

 

「そうだな……もし、この中で優勝者が出れば、空狩に一つ依頼が出来る、何でもだ」

「轟くん、先ずは私の許可を」

 

 優勝商品扱いの捉把だが、逆にこの催しは捉把が優勝すれば無効になる。この中で最も高成績を出した者ではなく、この『優勝』こそが必要最低条件なのだとすれば、回避も大いに簡単だ。

 

「はぁ!?要らねえっつのコイツなんか!!」

「要らないのか、なら俺が貰う」

「上等だ覚悟しとけクソ女ァ!!」

「空狩さんに迷惑だけど……優勝は目指して頑張るよ!」

「出久くんなら、何でも良いかな」

 

 捉把を懸けた男達の戦いが始まった(出久は被害者)。

 

 

 

******************

 

 

 

 捉把の戦闘は一瞬で片付いた。

 初手から全力放電の上鳴の技。『空間』で展開した“領域”内に高圧な斥力を全方位へ発し、電流もろとも跳ね返した。強力な電撃の反動で思考能力が著しく低下した彼は、即座に対応する事も適わずに吹き飛んだのだった。

 審判のミッドナイトにも被害は出たが、上鳴に勝利する事は出来た。文字通りの瞬殺、捉把が手を振ると相澤が小さく倦怠感の漂う挙止で頷く。勝利を収めたが、障害物走や知らぬ騎馬戦で消耗した体力の回復が最優先であった。自覚している以上に体が悲鳴を上げているとあって、捉把はスマホを取り出し、最新で登録した連絡先に通話を図る。

 疲労があって動けないため、代わりに食料調達を頼むと、向こう側からは怒声と共に承る声が轟いた。昼食を抜いた事が祟り、観客席にも戻れず、眠気に意識を委ねて会場の小さな椅子の上で憩う最中、テレビ取材が殺到した。

 集う歓喜の声に叩き起こされ、捉把は寝惚け眼を擦りながら応答する。呂律が回らない部分は何度も再質問をされ、その内に覚醒して行く。体力の損耗、寝起き、空腹が相俟って不機嫌だったが、相澤の面目を台無しにする行為は控え、鷹揚に応答する。尤も、テレビ取材自体を受け付けても良いか、その詳細について捉把は未だ理解しておらず、後々相澤に説教をされる危険性に気付いていなかった。

 取材が十分以上も続くと饒舌になり、クラスメイトの様子などについても語り始めていた途中、取材陣の背後に頭の一つ高く天に伸びた影、片手にフランクフルトを持った巨漢が出現した。

 燃え盛る満身、それ以上の熱を感じる気迫。しかし、その再登場を予め知っていた捉把は、手を挙げて応えた。エンデヴァーは怒りの形相で闊歩し、捉把にフランクフルトを突き出す。

 

「貴様、大人を買い出しに使うとは常識が無いな!?」

「代金は、私の食事する姿で良いよね」

「対価として成っとらんだろうが!!」

「それ以上を要求するんだ。本当にヒーロー?」

「この小娘が嫌いだァァァァア!!」

 

 エンデヴァーに渡されたフランクフルトを頬張る。

 

「祭りと言えばフランクフルト。んっ、おじさん、これまた焼いてくれた?嬉しい、注文通りだよ」

「くそぅ、我が力をこうもコンロの如く……して、先刻の提案の返答は!?」

「それもNo.2の財布からとなれば格別の味わい」

「俺は(ヴィラン)になりそうだァァァア!!」

 

 燃え盛るエンデヴァーと会話をしていると、取材陣が更に話の種を見つけたと目を輝かせて詰め寄る。捉把の全方位が一瞬で閉塞し、退路は完全に失われていた。収斂する取材陣の環に、燃えるエンデヴァーとの距離を詰めざるを得ず、一歩後退りすら都度に気温が高くなる。

 捉把はエンデヴァーを睨みあげた。しかし、彼は何やら上機嫌に、昂然と胸を張っており、捉把の肩に手を置く。熱い熱い。

 

「エンデヴァーさん!お二人はどんな関係なのですか!?」

「隠し子です」

「あらぬ事を吹聴するんじゃない小娘!!」

 

 捉把の冗談に一同が乱れたが、エンデヴァーが空かさず訂正に入る。捉把はその隣で依然として食事をしている、。

 

「将来、我が事務所の相棒に如何かと勧誘している。この少女は、将来的に必ず優れたヒーローとなるだろう」

「お褒めに預り恐悦至極。おじさん、下の方が焼けてないよ」

「何ィ!?俺の炎は完璧だ、どこだ、どこが焼けていない!!このエンデヴァーに失敗は無い!!」

 

 捉把が指し示す場所に、直火で弱々しい炎を指先から発して繊細に焼き上げる。

 

「最高。おじさんヒーロー辞めて、料理人になれば?」

「黙っとれい!!」

「な、仲が良さそうで何よりです……。それで、空狩捉把さんは、どう返答なされたのですか?」

 

 マイクが向けられる。

 エンデヴァーを横目に見ると、失言を吐いた場合を想定した憤怒を面相に湛えていたが、些かの憂慮した眼差しだった。捉把は顎に手を当て、暫し黙考する。いま答えても良い案件なのか。

 捉把が思考を巡らせると、努力する出久、強くも悲痛な轟、自分の為に体を張った勝己が浮かぶ。

 

「そうですね……貴重な体験となるので、お引き受けしようかと思っています。さすがに息子さんの嫁、に付いては答えられませんが」

「おい、俺はそんな要望を口にしとらん!!」

 

 捉把の背中をエンデヴァーが叩く。

 上機嫌に、禍々しい笑顔を浮かべていた。

 

「やはり、エンデヴァーさんからのスカウトとは嬉しいものですか?」

「どうでしょうか、ご飯で釣られた感じがします」

「何ィ!!!?」

 

 捉把は椅子を蹴って立ち上がる。

 周囲の喧騒よりも、会場から響く解説の声で次の対戦を察した。彼の腕を叩いて、会場へと歩き出す。その後ろをエンデヴァーが厳かな雰囲気で周囲を圧し、前方の道を開かせた。No.2ともなれば、やはり如何なる者も威圧するのだろう。

 捉把が耳にした対戦――それは出久と轟の対決。

 オールマイトの弟子と、エンデヴァーの子息。

 神の徒としか形容できない組合せであり、二人にとっても大きな意味を帯びている。捉把の予想では、轟の優勢が考えられた。しかし、鍛練に付き合った仲として、そして騎馬戦及び障害物走でも奇策を用いて何度もトップ2を出し抜いた出久の実力自体も油断なら無い。

 統計した結果、捉把の分析は五分五分だった。

 

「フン、素直に最初から来ると言えば良いものを」

「この大会で、もしかしたら幻滅するかもしれないですし」

「そうならぬよう、(ゆめ)忘れるな」

「……」

 

 轟が怨恨の念を向けるのは、エンデヴァーであると話を聞かずとも察した。“個性”婚という手段に訴えかけてまでの、異常な上昇志向。執念深く燃える焔は、その身辺にある者まで焼き尽くす。だからこそ、慕われるべき息子から凄壮な憎悪を懐かれるのだ。

 捉把に出来る事は無い。自分と轟は、有能な“個性”を作り出す目的の下に生まれたとはいえ、やはり根本から違う。彼とも相容れない部分があるのだ。誰にも自分の苦痛は理解できない、勝己でさえも。

 自分の本当の正体は、未だ不明なところがある。けれど、真実を知った時、友人のみならず相澤、そして自分でさえも拒絶してしまうだろう。憧れのヒーローとは――自分を救ってくれた者の事かもしれない。

 テレビで観た活躍、言動などに感動した事で憧憬の始まりとなる。しかし、捉把を心の闇から救ってくれた人間など、まだ一人として現れない。

 轟の目の奥には、自分と違い“憧憬の火”がある。目指すべき形を捉えているのに、それを阻害している感情がある。まだ彼ならば救える、父親への怨恨からも、自分への失意からも、誰かへの罪悪感からも。

 観客席に立った。

 捉把とエンデヴァーが見下ろす眼下の舞台に、両雄相対する。

 

『さぁ、始めるぞ、緑谷――VS――轟――!!』

 

 二人が前に出た。

 

 

 

 

 

 ~おまけ~

 

 

「そ、空狩さん……!?」

 

 観客席に居た八百万百が見上げる先に、捉把とエンデヴァーが立っている。No.2と並び立つ姿に、彼女だけが疑問を呈していた。他の皆は戦闘に集中している。

 不意に勝己がそちらを見遣り、即座に目を見開く。

 

「……んでアイツ、エンデヴァーと?」

「気に入られた、のでしょうか」

 

 暫くそちらに釘付けになっていた勝己に、八百万は微笑みかけた。

 

「爆豪さんも……大変ですね」

「あァ!?んだテメェ、黙ってろやカス!!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 その後に女子勢から叩き出され、勝己は階段で観戦する事になった。

 

 

 

 




よし、次や、暴走したけど次。
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