空狩少女のヒーローアカデミア   作:布団は友達

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受験当日に、オリジナル展開ぶっこみます。
シリアス展開、出久と勝己とも違う捉把の戦いと“個性”発動です!!


三話「そうだ、焼肉にしよう」

 吐息が白く煙る冬の日。

 遂に空狩捉把は念願の国立雄英高校受験当日を迎えた。清涼な空気で門を潜り、道行く受験生の波に押し潰されぬよう堂々と歩く。制服の上を猫耳帽子とマフラー、コートの防寒具で強固にし、体を温めている。

 試験内容は主に実技と筆記の二種に分かれる。

 本日は前者を行うに当たり、捉把の気迫は平生のものとは異質であった。夜食のアイスを食し、早朝にオールマイトから願掛けのアイスを追加で貰った以上、誰よりも加護を授かっている。

 “個性”については、オールマイトの的確な助言(解決法がたまに筋力解決な場合もあって信頼性は五分五分)を貰い、弱点の改善と成長を入念に行った。地勢や状況を想定し、その場合の対処法と利用できる応用も網羅した。

 同じ中学の仲間とも、今回ばかりは競争相手。普段親しくとも、結託は勿論、応援する余裕も無い。真に個々の実力が試されるのだから、出し惜しみする訳にはいかないのである。

 捉把は拳を握り締めた。

 

 この日に全身全霊を注力する所存であり、ライバルたる受験生の面差しは、さながら戦場に赴く兵の面相であった。今更ながらに、アイスのみで鼓舞された自身の剽軽な性格を恥じる。

 不意に目前に緑谷出久の後ろ姿を発見し、駆け寄ろうとした。

 

「俺の前を歩くんじゃねぇ、デク!!」

「私は良いの?」

「うっせ!!」

 

 音圧で背を打つように豪快な怒声を響かせる爆豪勝己に出久は肩を跳ねさせて飛び退く。険相のまま通過する幼馴染の背に何を想うか、円らな瞳を決意に光らせた様子に捉把は心中で応援した。辛く厳しい修練の時間を共有した仲だからこそ、誰よりも彼の努力を知っている。

 オールマイトが認めた男として、そして無個性を嘲られた人生に、試験に懸ける想いは誰よりも強い。確実に変わっている、ヒーローへの一歩を踏み出している。

 前とは違う!出久は決然と一歩前に踏み出し――た瞬間、足を縺れさせて前傾姿勢のまま地面に突っ込もうとする。捉把が慌てて“個性”を発動し、彼が地面と熱烈な接吻を交わす前に救出する積もりだったが、その体が空中で静止した事に驚いた。

 中空で足を振り、混乱する出久の隣には、同じ受験生の少女が立つ。

 全体的にふわふわとした茶の髪にやや丸みのある輪郭の顔、それが肥満体型ではなく彼女自身の雰囲気を和やかで麗らかなものにしていた。

 少女が何かを言って合掌すると、出久の体が地面に着いた。互いの健闘を祈りながら暇乞いを告げた少女を呆然と見送る出久に、捉把は共感してその肩を叩いて頷く。

 

「女の子と喋れた、良かったね」

「君も女の子だよ??」

 

 そんな二人の隣を、虚ろな目をした双子の少年が過ぎて行く。

 癖のある紫の短髪に、長身であった。本来ならば燃える火を連想させるであろう真紅の瞳は昏く翳っていた。

 捉把はそちらに顔を巡らせた。奇妙な感覚だった、何やら不気味な気配が背中を撫でる悪寒に出久の袖を握る。

 戸惑う出久もまた、彼から目を離さなかった。

 

 

**************

 

 

 

 プレゼントマイクの説明を受け、其々の試験会場に配置する受験生。形のみとはいえど、市街地を擁する演習場を幾つも所有するのは、広大な敷地面積を誇る雄英高校だからこそ可能な試験である。模擬市街地で仮想敵ロボットを撃破し、ポイントを稼ぐ単純明快な仕組みだが、その分力量が瞭然と判る。個体にも種類があり、それに依ってポイントも異なるのだ。なお、途中から妨害となる0ポイントの敵も乱入するとの忠告。

 意気込む者の団塊の中でも、寒風に震える事すら無く、タンクトップにハーフパンツにスニーカーという、如何にも武装というには心細い姿で捉把は立つ。

 外気に晒されたその肢体は、闘志が漲り寒気を跳ね返していた。今や戦闘体制の心構えに入った捉把の雰囲気は周囲を圧する。彼女を中心に円形に人の居ない空間が生まれていた。皆が避けているのだ、試験監督すらも息を呑む。

 薄紅の髪をポニーテールにし、準備が完了した。後は事前に受けた説明通り、殲滅する事を意図するのみ。他の受験生を妨害せず、ただロボットを潰せば良いのだから、彼女としては何の造作もない。

 ふと、捉把は集団の中に先程の少年の姿を見咎めた。体操着を着て門前に構えているが、やはり目に光は宿っておらず、蛻に見える。もう一人がいない。

 体調管理を怠ったのか、それとも当日に悲しき訃報を受けたか、どちらにせよ捉把には関係ない。

 しかし、それでも……彼が異様に思えて仕方がなかった。

 

 合図に備えていた全員は、号令の下に開かれた門へ一斉に募る。捉把も例に漏れず、市街地の中へと馳せた。遅れを取る訳にはいくまい、誰よりも殲滅数を稼ぎ、合格への切符を獲得する。

 ――そうでなくては……母が浮かばれない!

 街路を一人疾駆する捉把に、頭上よりビルの影から人よりやや大きな影が出現する。足を止め、耳を澄ませた捉把は、周囲の気配を探った。

 ――路地裏から騒がしい跫、全方位、数は……三〇!

 捉把が泰然とその場に構えると、予測通りに三〇体の敵が押し寄せた。退路は無い、相手は体格の大きさもあり行動速度には自分に劣るが、その分の攻撃力が高い。

 その場で地面を爪先で軽く叩く。

 すると、捉把を中心に半球状の薄く透明な膜が現れた。何の違和感も懐かず踏み込む敵は、膜に触れても害は無いと知って、進む足を更に加速させる。

 姿勢を低くして、敵を迎え撃つ。

 前後から挟撃を仕掛ける敵は、(アーム)を全力で振るった。しかし、後ろを確認せずとも音で先んじて感知していた少女が屈み、仲間で同士討ちとなった。

 高く跳躍し、空中で身を丸めた捉把が五指に力を込めると、爪が著しく伸びて長い鈎爪のようになった。敵が見上げる中、宙でその鋭利な武器を縦横無尽に振った。

 何もない虚空を斬る、その行為は何なのか、カメラで確認する試験監督も注視した。

 捉把が敵の一機の上に着地する。全勢力がそちらへ殺到し、今まさに攻撃を開始せんとする――寸前で、総てが停止した。

 

「――空間断裂」

 

 少女の声は死の宣告だった。

 告げられた時、半球状の領域に侵入した敵の殆どが爆発した。中には不発の個体もあり、部品は綺麗な断面が完成するように両断されている。

 少女は続く別の敵も破壊して行く。

 モニタールームで観戦する教師陣が歓声を上げた。その中でも、長身痩躯の男は不敵に笑っている。あの強力無比と称して相応しき“個性”では、あの敵では何の足留めにもならない。

 

 “個性”――発動型:『空間』。

 自分を中心に半径十五メートルの空間を支配する。内側に侵入、または元より実在していた物体でも、足を踏み換えたり、肩を動かすだけで空気振動が起き、その位置や体格、距離までもが捕捉される。空間把握能力の究極の一つの理想形である。

 なお、内部ならばどんな現象も起こせる反則級。

 先程のは、空間内に鋭利な爪で裂いた時に空気振動の刃を形成したのだ。対象が鋼鐵や金でも、尋常に防げる物体は無い。

 更に、あの高い身体能力もまた“個性”の一つ。

 “個性”――異形型:『獣性』。

 獣の如く鋭敏な感覚器官、身体能力を発揮する。夜目も利く上に、爪を伸ばして攻撃するなど多彩過ぎる。

 

 既に彼女の存在を嗅ぎ付けて来た個体も含め、五十体以上も撃破した捉把は、爪をしまって周囲を眺め回す。市街地の空に響く受験生の蛮声を遠くに、額に浮かぶ汗を手背で拭った。

 勝己ならばこんなものではない。出久も奮闘している筈だ、まだ立ち止まる時ではない、慢心などしない。捉把は極めて冷静に、そして厳しく己を律する。その精神自体が、彼女に隙が生まない理由である。

 駆け出す捉把は、負傷した受験生を攻撃するロボットを横合いから蹴りを叩き込んで退かす。その子を抱え、門の前まで運んだ。

 

「あ、ありがとう」

「うん」

 

 再び街路に躍り出た捉把を出迎えたのは、数の暴力であった。一斉に振り向いたロボットが急迫する。『空間』を展開しても捌けるか判らない。

 撤退を考えた捉把だったが、ロボットの郡の中心で憤然と破片が宙に飛散するのを目にした。雄叫びと共に、ロボットの破壊音が接近する。

 遂にロボットを押し退けて現れたのは、全身を硬化させた黒髪の少年である。快活な印象を受ける笑顔で拳を後ろ手に振るい、敵の一機を粉砕していた。

 

「大丈夫かっ?」

「うん、ありがとう。君も随分疲れているね」

「そうなんだけどよ、逆に敵が多いと滾る、男って感じだろ!?」

「そうだね、女の私には判らないね」

 

 少年と会話をしていると、違う方角の街路から悲鳴が響いた。二人で振り向いた先では、常に絶叫が聞こえる。耳の鋭い捉把に判別出来たのは、これが一人では無い、集団が何かに恐怖しているという事だけだ。

 

「向こうで何か起きてる」

「あの0P野郎の仕業じゃねぇのか?」

「そうだとしても、やる事は決まってる」

「お前……男だな!」

「失礼だね、私は女だよ。出久を見習って欲しい」

 

 悪態をついて、少年と共に件の場所へ。

 然して離れていない事から、現場と思しき地点には大した時間を要さずに到着した。土煙が周囲に立ち込めて、視界が塞がれている。

 塵が目に入らぬよう注意していた捉把は、ふと鼻先に漂った悪臭に顔を押さえて踞る。少年が直ぐに駆け寄り、状態を確かめた。

 

「ど、どうしたっ!?」

「君……臭わない?」

「何がだよ、俺には判んねぇ――」

 

 少年も間もなく、口を閉ざした。

 晴れて行く土煙の下に、手足を切断された受験生達が倒れている。中には出血量が尋常ではない者、頭を真一文字に断たれた骸まであった。

 少年の顔から血の気が引いていく。捉把でさえ、心臓が凍りそうになった。喩え超難関高校であっても、それは疑似的な戦闘――ただの試験、その筈だった。

 捉把は煙の先に、一人立っているのを発見した。

 少年は生存者がいないか、半ば涙目になって叫んでいる。人影が声に反応して近付く、ゆっくりと歩くその姿から鋭い何かが生えていた。まずい、何か、何か嫌な予感がする。少年は気付いていない、これは、まさか。

 

「少年!全身を硬化して!」

「あ?」

 

 人影が消えた。

 その瞬間、少年の居た方向で金属音が鳴り響く。捉把が振り向くと、そこに肘から生えて湾曲した銀色の刃を持つ人物である。少年は辛うじて硬化に間に合ったのか、負傷は見られないものの、刃を防いだ際の衝撃で捉把の隣へと転がった。

 恐怖に凍り付く捉把だったが、目前の敵、いや受験生に既視感があった。

 あれは、試験前に見た双子の片割れである。まさか彼が、よもやこの惨状を作り出したのか!

 呆然とする捉把に、少年が問いかける。

 

「おい、コイツは何なんだよ!?」

「受験生の一人だよ、試験前に見た。でも何で……判らない、誰かに操作されてるのかもしれない!」

「やべぇぞ、結構速かったぞ!」

「少年、私を少しの間守って!」

 

 捉把は深呼吸をしてから上空に向けて大声を発した。肘の刀を軽く振って、此方に向けて謎の受験生が疾走する。救助を求めるならば、その前に潰すと考えてだろう。

 だが、それはただの悲鳴ではない。個性『獣性』により、狼の遠吠えを再現した。寒空に谺し、模擬市街地全域に伝播していく。無論、それは門で待機している試験監督にもである。

 無防備に曝された捉把の喉元に肘刀を一閃したが、十字に組んだ少年の硬化した腕が受け止めた。両者の間で火花が散る。鍔迫りの様に押し合って、謎の受験生が退いた。

 

「ごめん、助かった」

「これで助けが来るかもな」

「うん」

「これは不祥事だ、受験生は大人しくしてなくちゃならねぇ」

「うん」

「判ってる、判ってるさ」

「うん」

「……だけどよ――」

 

 周囲を見渡し、少年が悲壮な笑顔を浮かべた。

 

「こんなに人が殺されてんのに、黙って退くのがヒーローかよ?男としても、それは出来ねぇ」

「全く以て同感だね、女だけど」

「時間稼ぐ、でもお前は」

「私も戦うよ」

 

 捉把も両腕を掲げて構える。

 唖然とする少年だったが、少しして笑っていた。死体が転がる道路の中央で、二人は獰猛な笑顔で凶悪な敵を前に立ち塞がる。ここで野放しにすれば、別の受験生も同じ被害に遭うだろう。それを看過できない、二人はヒーローとして立つ勇気で自分を前に奮い立たせる。

 

「見た目に反して、根性あんな!気に入ったぜ、俺は切島鋭児郎!!」

「私は空狩捉把だよ」

 

 前を見据えた少年――切島鋭児郎と共に跳躍の準備に入る。

 

「切島くん、試験が終わり次第、一緒に食事しよう」

「おうよ」

「そうだ、焼肉にしよう。苛々した時は、人間肉を食うのが一番だしね」

「……あぁ、そうだよな」

 

 謎の受験生が咆哮を上げ、再び飛び出した。

 

「成敗してやる、悪党」

 

 

 

 

 




オリ主の“個性”紹介です。





 ~空狩捉把:個性『空間』~

 自身を中心として、半径十五メートルの範囲に半球状の“領域”を展開する。内部に存在する物が動作を起こせば、僅かな空気振動で“領域”の基部である自分に位置や大きさ、距離が伝達される。
 また、その空間内部ならば様々な現象を自在に操れる。但し、“領域”で感知する数が多いほど負担が大きくなる。

 ~空狩捉把:個性『獣性』~

 獣としての感覚器官などを持ち、常に五感が常人よりも優れている。様々な動物の生態などを再現可能な反面、エネルギー消費が激しいため濫用は危険である。






次回も宜しくお願い致します。



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