空狩少女のヒーローアカデミア   作:布団は友達

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お久しぶりですね!
今回は脇道に逸れます!


二.5話「サイドニューも主役だよ」

 

 中学校最後の春だった。

 空狩捉把はつい最近だが仲良くなった――と思っているのは自分だけなのかもと悲観的にならない――新たな友人たる爆豪勝己と共にラーメン店を巡っている。

 無表情ながらも嬉々としているパンフレットと街の景観を忙しなく交互に見て歩く姿に、隣では勝己が呆れていた。誰もがヘドロ事件で腫れ物扱いする中で彼女だけは平生と変わらない。

 だから共に行動をしている。

 心地いいからではなく、やりやすいからだ。

 

「勝己くん、次は塩ラーメンだ」

「まだ食えんのかよ」

「おや、もう君の胃袋は弱音を吐いているのかい。駄目だね、私のように好物なら幾らでも食べられるくらいの気合が無ければ」

「胃袋の空きじゃなくて気合かよ。テメェも弱音吐いてるようなもんだろ」

「減らない口だね」

「テメエに一番言われたくねぇんだよクソ猫!!」

「猫に失礼だよ、速やかな私への謝罪を求む」

 

 調子よく捉把は嘲笑って次のラーメン店の戸を叩く。

 なぜこんなことになったのか。

 それは数日前に遡って、学校の裏庭で友人と昼食を取る勝己の下へ、突如として捉把が出現した。それも大胆に屋上から飛び降りて現れるという破天荒ぶりに暫し一同は絶句しつつ、やはり後で勝己の怒号が爆発した。

 彼の罵倒を鮮やかに躱しながら捉把が休日の遊びに誘った。

 

『今週末の予定は空いてるかな』

『あ?空いてたら何だよ』

『実はラーメンを梯してみたいんだけれど、もし良ければラーメン好きの誼でどうかと誘ったんだ』

『行かねえよ、梯するほどラーメン好きじゃねえしテメエとなんざ休日だろうが平日でも会いたくねえ。他を当たれ』

『他だって?』

『あ?』

 

 捉把が肩をわなわなと震わせる。

 訝った勝己が片眉をつり上げた

 

『ンだよ』

『私の友達にこってりもあっさりもイケる口がいないんだ。由々しき事態だよ、勝己くん!』

『テメエ一人で騒いでろカスが』

『言ったな!?今日本中のラーメンを敵に回したぞ君は!』

『ンでテメエ一人の否定がラーメン界に波及すんだよ』

『君に拒否権はないんだよ。答えはイエスかはいか、だ』

 

 このよく理解できない迫力に圧され、爆豪勝己は抵抗を断念するのだった。

 後に友人から聞けば、学年で密かに人気を集める女子らしく、その本心が読み取れないことで有名な人物だった。誰に対しても分け隔てなく、誰からの信頼も篤いので特に問題を起こしたことはない。だが不思議なことに仲の良い友達自体があまりいないという不思議な特徴がある。

 そんな世間評判を聞いて、ヘドロ事件のこともあって心身ともにやや疲れていた爆豪勝己は興味本位で彼女を探ることにしたのだった。

 したのだったが――。

 

 予定時間の三十分前に爆豪勝己は到着した。

 約束した場所で静かに待機する。

 十分、二十分…………常識人ならばそろそろ来る頃合いだろう。そんな予測を立てて待機していたが、驚くことに彼女は一向に姿を見せなかった。

 やがて予定時間から三十分を過ぎた辺りで苛立ちが頂点に発した勝己が憤慨する直前に、捉把は現れた――口からニンニクの臭いをたっぷりと発して。

 

『ごめんね、厄介な相手に絡まれてて』

『おい、テメエから何か臭うぞ』

『新店舗の爪痕だよ』

『何キョトンって顔してんだオラ!!人待たせて食事取れるとかどんな神経してんだ!?』

『そうだよね、君も味わいたかったよね』

『そうじゃねえ!!』

『申し訳ないけど、新店舗へは後日一人で行ってね』

『自由すぎんだろ!?』

 

 そうして合流し、現在に至る。

 それから三店舗を巡って、とうとう捉把の余力も危うしとなってきた。隣でぴこぴこと嬉しそうに動く三角耳に時折だが視線を吸い寄せられつつも、二人で商店街を歩き回った。

 そして、ふと捉把が足を止める。

 勝己は彼女の視線が留まった方を確認した。

 

「油そば専門店だって……………!?」

「腹いっぱいじゃねえのかよデブ」

「体型を気にしてるのかい、君も案外乙女だね」

「テメエに言ってんだよ」

「ふふ、君のお腹も雛鳥みたいになっ――…………あれ、硬い。凄いな、同じ腹筋でもここまで違うなんて」

「触んな気色悪い」

「君じゃない、私は腹筋に許しを得て触れているんだよ」

「俺に許可求めろや!!」

 

 また冗談に流されて二人で油そば専門店へ入る。

 捉把と勝己は注文に入るが――。

 

「油そばと、この餃子セット下さい。あ、彼にも同じ物を」

「専門店のくせしてサイドメニューとかプライド無えのか、この店」

「プライドが一体何円になると言うんだ」

「テメエが一番プライド捨ててるだろ、っていうか、おい、俺の注文なに勝手に決めてやがる。俺の人権はどうした」

「安心して、私が保証するよ。拒否権や注文権、発言権は取り上げても、私も鬼畜じゃない…………君は人間だ」

「全て返せ」

 

 二人の前に注文した物が届く。

 勝己の前で、捉把が箸を割ってすぐに食べ始めた。

 油そばを躊躇いなく啜る姿は、なるほど普通の女子とは異なる。彼女のこんな姿を、一体学校の知人たちには想像し得ただろうか、勝己の知る女性にも類を見ない。

 しばらく見つめていると、心做しか満足げな捉把と目が合う。

 

「食べないの?」

「テメエを見てて腹いっぱいだっつの」

「じゃあ、その餃子も頂戴?」

「さてはソレ込で注文しやがったなコラ」

「実はそっちが本命なんだ」

「あ?」

 

 捉把はふふん、と愉快げに鼻を鳴らす。

 

「専門店でサイドメニューは邪道と言われる」

「当たり前だろ、専門って銘打ってんのに横道作ってんだぞ」

「誰しもが王道を行くわけじゃないんだ」

「あ?」

「オールマイト影響で確かに犯罪率は低下したけど、必ずしも彼一人の功じゃない。普段からマイナーなヒーローたちの働きもあって、平和は築かれてる。そんなヒーローたちを慕う人たちもいる」

「…………何が言いてえんだよ」

「端役と侮ってるけど、サイドメニューも主役だよ」

「テメエ、喧嘩売って――あ?」

 

 その言葉に出久を想起して憤慨する勝己だったが、ふと自身の前から餃子セットはおろか、油そばまで忽然と姿を消していた。

 さっと捉把の方を見ると、いつの間にか勝己の分をさも自分の物のように食していた。完食した自分の皿を、隣に積んでいる。

 絶句する勝己の耳朶を空の皿を叩いた箸の音が打つ。

 

「ごちそうさま、最高だね」

「…………」

「怒らないのかい?」

「呆れてんだよ、こちとら」

「なら良かった。どうやらデートを楽しんでくれたみたいだね」

「ニンニク臭えデートだな」

「楽しかったでしょう、お腹も心も満たされて」

「腹はともかく、俺を満足させたっつー自信はどっから来てんだよ」

「君の表情だよ。しかめっ面かと思ったら、食べてるときはコロコロと変わって可愛かったな」

 

 そう言われて勝己ははたと止まる。

 食事中、熱心に食べているようで実は自分は見られていたのか。

 存外、侮れない…………端役(サイドメニュー)も主役という言葉が、やけに言い得て妙に思えてしまったのだった。

 

「次は何処に行こうか」

「もう行かねえよ」

「味に飽きたというのなら業腹ながらも予定を変える腹積もりはある。次はうどんを企画しているよ」

「また食う企画かよ」

「食べるだけじゃないよ。いずれは、もっと色々なところを君と巡ってみたいな」

 

 捉把が微笑んだ顔も、よく憶えている。

 

 

 

 

 

 後日。

 雄英高校に進学した爆豪勝己は、少し遠い町で休日に待ち合わせをしていた。

 当然、相手は――。

 

「ごめんね、待ったかな」

「別に」

「ふふ」

 

 捉把が笑いながらカバンからパンフレットを取り出す。

 それを勝己の面前に展げた。

 

「今日は何処へ行こうか」

「とうとうノープランか、アホ」

「君といれば楽しいからね。余計な道を作れば、半減してしまうから」

「…………ふん」

「こういうの、『慣れるな、感じろ!』って言うんでしょ?」

「うるせえ、さっさと行くぞ」

 

 

 

 




次ッスね。
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