空狩少女のヒーローアカデミア   作:布団は友達

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五話です!平和です!


五話「〆の一杯にコーラだね」

 

 

 試験日の事件は大々的に取り挙げられた。

 鉄壁の警備体制を敷いていた筈の雄英高校に、敵と思われる侵入者の手で、数々の犠牲者が出た。侵入者の戸籍、家族関係などを調査したところ、明らかに捏造されたものである事が判明した。

 現場で生存した二名は黙秘を強制され、マスコミによる質問の猛撃を受けるとなっても、何も語る事はしなかった。世間の注視を浴びるとなっても、雄英高校は受験者に対して、合格通知書の遅送や延長などはせず、従前通りの期日に発送した。

 

 現場に駆け付けた相澤は、手元の書類に目を通している中、一人の受験者の情報に目を留める。今試験でも特筆すべき、異質にして最優の成績を記録した少女。筆記と実技は問題なく通過し、面接に於ける人格も、些か問題はあったが、事件遭遇の影響であると処理され、正常と判断された。見た目に反し、他人を救出する正義感がある。

 しかし、前述の“問題”――それは偏に、混在する冷徹な側面にあった。判断力、行動力、戦闘力、作戦立案は高性能、過去でも将来を属望された生徒となるし、合格する事は間違いない。それでも、人を救いたいと願う裏で、状況に応じて容易く不要な他人を切り捨てる、敵を滅するのにも躊躇が無い。

 一見して、一つの感情に己を統御する機能が失われ、危険な兵器にもなりかねない。ヒーローと(ヴィラン)の要素が混在した異質な存在である。推薦入学を果たす生徒よりも有能で、誰よりも危険性を垣間見せる。

 相澤は頭痛を覚えて、髪の毛を掻き毟った。何かあれば、自分が制御してやらねばならない。いずれは己を強く律する成長を見せるまでは。

 

 

 

*************

 

 

 

 合格通知の内容を確認した捉把は、机上にそれを擲ってからベッドの上に四肢を投げ出す。総合成績二位という良好な結果だった。忌まわしくも首位は爆豪勝己に奪われたが、自分は事件の真っ只中であったため、仕方無いと慰める。寧ろ、自分の事よりも切島鋭児郎の結果を喜んだ。

 筆記を除外すれば好成績。いっそ巻き込んでしまった罪悪感があったが、正義感の人一倍強い彼ならば、その遭遇は必至。それでも、実技では三位を確保するのだから相当に優秀な人物。連絡先も交換し、今では勝己よりも仲が良く、試験終了後には互いの合格を祝す際に焼肉を約束した。

 熱血という一語の相応しい切島と、冷淡な印象のある捉把では対照的だが、危地を共に脱した事の築いた友情は何よりも固く、信頼も出来る。ゆくゆくは同じクラスで励みたいとさえ願っていた。

 

 夕飯前に約束を果たすべく、予約した焼肉店へ向かう。独り暮らしとあって、無論食事を拵えるのは自分である。今晩は焼肉、決定事項であった。

 ふと出久の結果が気になったが、本人の告白があるまで待機する他無い。詰問して不合格の言葉を聞けば、数ヶ月の誼とあって、その後悔や無念まで伝わって来てしまう。まだ分かち合うべき時ではないのだ。

 切島との焼肉に向かう道の途上で、スーパーの出口から現れた勝己と遭遇した。彼が気付いて捉把の方へ闊歩し、昂然と目の前に立ち塞がる。見慣れた仏頂面に会釈して躱そうとしたが、再び進路を妨害する様に立つ。

 捉把は嘆息した。身長の高い彼に阻害されては、“個性”を行使する以外の手段では通れない。

 

「勝己くん、どうしたの?」

「てめぇ、結果教えろっつったろ」

「(初耳だよ)」

 

 合格と口にせず、ピースサインだけ示せば、それで察して勝己は舌打ちした。捉把は訊ねた理由について質問すれば、恐らく罵倒混じりに面倒臭く答えるだろうと予測する。件の焼肉店との距離、集合時間と現時刻を勘案し、勝己に拘っている場合ではないと悟って、再び進行方向を変えた。

 無言でまた妨害する勝己。

 捉把は物珍しく静かな彼に違和感を懐く。先日の敵と同じで、まさか知り合いに擬装したのか。瞳を見れば光はある、不機嫌な面の歪め方は平時の勝己そのもの。精巧な作りなのかもしれない。

 勝己が両手の袋を捉把の面前に突き出す。中身を適当に検めた捉把は、概ね夕飯の材料なのだと推測したが、だからといって自分を引き留める理由までは判らず、眉根を寄せて見上げた。

 

「俺んちで鍋だ」

「そうなんだ。私はこれから焼肉を予定」

「はぁ?……一人でか」

「友達と」

「てめぇに居ねぇだろうが、ンなの」

「実技三位の子だよ」

「んなモブ知らねぇんだよッ!」

 

 遂にキレた勝己に驚きつつ、暫く考えてから捉把は首を傾げる。鈍い捉把に対し、苛立たしく彼はその場で貧乏揺すりをしていた。傍から見れば、目付きの悪さと相俟って非常に威嚇的である。

 平然と正対する少女の顔に変化は無い。

 

「合格祝いしてくれるの?」

「クソババアがてめぇを誘えってうるせぇんだよ」

「申し訳無いけど先約だから。光己さんに伝えて」

 

 再び方向転換。

 今度は阻害されず、勝己の隣を通過した。その場に一人立ち尽くす彼の背中を肩越しに見て、不意に己の失念を想起した捉把は、慌てて彼の方に駆け寄る。

 何事かと振り向いた勝己の両頬を手で挟み、引き付けて額に口付けをした。商店街の人通りが、一斉に二人を見た。以前から知っていた者は、遂に結ばれたかと黄色い歓声を上げる。一方で、密かに彼女を想い慕っていた男連中は、悔恨に己の膝を叩いて絶叫する。

 騒々しい喧騒の中、勝己の耳には少女の声だけが聞こえる。それ以外の音がすべて取り払われたように。

 

「勝己くん。合格、おめでとう」

「……っせぇよ」

 

 小声で返す彼に手を振った。

 猫耳帽子を深く被り、コートの襟に顎を埋める。道の先々で皆に祝われるが、捉把には何事か判らない。全員に会釈しつつ、早々に商店街を立ち去り、電車に乗って目的の駅まで行く。尻尾を抱くようにして、座席の端の方に座を占める。

 異形型専用車両が存在するが、捉把はそちらには乗車しない。理由としては、彼等は体質上で一人で広い空間を占有する場合が多い。故に、団塊となれば人数が少なかれど、満員電車に似た状態となる。

 基本的に異形型でも体格が小さく、本来の人間の貌に近い捉把は、こちらを常に利用していた。猫耳は防止で匿せば良いし、猫の尻尾は抱え込んでしまえば場所を取らない。中学二年辺りから電車で痴漢行為を受ける事があってか、空席や広い空間を優先的に狙う。

 まだあどけなさが残る中学生だが、捉把の容貌は少し大人びた空気を醸す。感情の起伏が無い表情、白い肌が冬の新雪を思わせる一方で、薄紅の毛髪や双眸は情熱的に映える。そんな美少女を見て、興味を惹かれ卑劣な行動に及ぶ者がいた。だからこそ、護身には何よりも気を配っている。

 不意に、目の前の吊革を摑んでいる人物に視線が留まった。

 左右で紅白に分かれた頭髪、端麗な面貌は左に火傷の痕が残る少年。質素であるかに思えたが、ジャケットの下のシャツは、胸部に『ローン』とロゴの入った奇抜な服装。非常に残念なセンスに関しても、捉把は瞬きを数回するだけで目を伏せた。

 

「お前、この前に雄英のインタビュー受けてたろ」

 

 唐突に呼び掛けられて顔を上げると、先程の少年が見下ろしていた。捉把は自分を指差して確認すると、彼は首肯する。誰かと積極的に会話を求める気質では無い外見だが、少し好奇心に身を委ねて応じた。

 

「うん」

「合格は、したのか?」

「うん、総合二位だった」

「そうか」

 

 あとは興味が失せたのか、少年は黙り込む。

 

「もしかして、貴方も受験した?」

「ああ。……推薦だ」

「そう、じゃあ来年から宜しく。私は空狩捉把」

「……轟焦凍」

 

 目的の駅に到着し、捉把は尻尾を放す。前にいた少年――轟焦凍の頭に手を伸ばして撫でた。訝る彼に対し、少し儚げに微笑んだ。

 

「無理、しなくて良いんだよ」

「!?」

 

 瞠目する轟の両肩を叩き、捉把は降車した。

 振り向けば、車窓から愕然とした少年の相貌が筒抜けとなっている。軽く手を振ってから、改札口への階段を駆け降りる。発車も待たずに去った彼女に驚かされ、轟は表情の乏しい顔を硬直させたまま、今は無き後ろ姿を追って窓を凝視していた。

 

 改札を出て暫し、駅の地下に広がる街の中を散策すると、件の焼肉店を発見した。捉把は腕時計を確かめると、約束の時間丁度である。勝己との会話も僅かであったとはいえ、如何に自身がぎりぎりで外出していたかを痛感した。

 切島らしき者の姿は認められない。彼が遅刻かと思って、壁に背を預けてスマホを眺める。暇な時間を英単語帳や参考書で潰す身分ではなくなったため、安穏とした暇潰しが懐かしく感じた。

 捉把の前に赤髪の少年が立った。

 不意に振り仰いだ時、捉把はその人相に既視感があった。思いを巡らせ、正体を探る。――切島か。

 

「よっ」

「うん、何で髪?」

「へへっ、憧れのヒーローが居てな、そのイメージカラーに合わせて。それと……あんな状況下で、一番冷静に戦ってたお前よりも、もっと強くなるって願掛けだ」

「薄紅を濃くした紅、ね。悪くないよ」

「単純だって嗤うとこだろ」

「単純だけれど、切島くんの場合は嘲るべきじゃない、称賛すべきなんだよ。だから、嗤わない」

 

 捉把はスマホをコートの懐中に仕舞い、帽子を取って挨拶をする。切島も照れ臭そうに笑って応えた。

 

「ッしゃあ!先ずは食うぞ、めちゃ食うぞ!!」

「お金は大丈夫?」

「任せろ、結構あるんだぜ。お前は?」

「私はこれがあるから」

 

 黒い財布を取り出す。

 

「何だ、結構入ってるのか」

「勿論だとも。近所の友人と少し話して、その時に拝借したんだ」

 

 直情に投げ、回転する財布を摑み取る。

 額にキスをした際、密かに勝己の懐から盗み出した物である。無論、今頃気付いて怒り心頭であろう。冷静でなくとも、何者によって奪われたかは解る筈だ。

 鮮やかな手捌きに見惚れる切島だったが、眉を顰めた。ヒーロー科を受験した人間が、他人から窃盗をして来ている、それも死地を共に潜り抜けた友人である。

 

「お前、本当にヒーロー志望か!?でも平然とやって堂々としてる所が、男!って感じだな!」

「私は女の子だよ、失礼だね」

「一番失礼なのお前だろ!?」

 

 案内を受けて二人で入店した。

 個室がそれぞれ設けられ、座敷の様式となっており、個人的な話題を話すには何ら問題が無さそうであった。

 食事を始めてから、二人の時間は有意義だった。流石は雄英合格者なのか、始終ヒーローの話題である。先日の戦闘から互いの欠点などを炙り出し、改善点や補う為の策を考察した。始動(スタートダッシュ)で周囲と差を付ける――そうではなく、より理想のヒーローに近付く為に二人の思考は働いている。

 一頻り食事と会話を終えて、満腹状態で転がる二人。明日のスタートダッシュが遅くなるのは明確だが、先日から胸に蟠っていた煩悶は、肉と共に自然消化されてしまった。

 

「切島くん、やるよ」

「ああ、宜しくな!!」

 

 これからは雄英高校の生徒である。

 微かな高揚に、捉把は小さく笑んだ。

 

「さて……〆の一杯にコーラだね」

 

 

 

 ~おまけ~

 

 

「オ゛ールマイド!!空狩ざん!!」

「誰それ!!」

「八木さんでしょ?」

 

 夜の海浜公園に呼び出された両名は、今は隣で吐血する八木俊典に呼び出されていた。合格祝いの挨拶かと思ったが、出久に熱心に語り聞かせる八木の傍では、いつ会話が終わるのかと星空を望洋と眺める捉把。

 振り向いた八木は、捉把の肩を摑んだ。

 

「空狩少女、良い成績だった!……らしいね」

「はい、頑張りました」

「これからは様々なライバルが――」

「う……吐きそう」

「君と競い合い、そして高め――」

「だ、大丈夫かい空狩さん!?」

「より己の中にあるヒーロー像に――」

「焼肉食べ過ぎた……」

「――ぃぃいん!人の話聞いて、おじさんガラスハートなの!」

 

 捉把は立ち上がって、正面から八木を見る。

 

「言いたい事は判りますから」

「……そうか、励みたまえ、此所が君のヒーローアカデミアだ!」

「それより、オールマイトに伝言を。アイス、まだなんですか?」

「君はとことん、アイスだねぇ……」

 

 

 




次から漸く雄英高校生活です。
面白く書きたいと思います。
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