「稲実」と世間からは呼ばれ、甲子園には春夏13回出場している名門稲城実業高校。
シードにより、西東京地区予選の2回戦からの登場となったが危なげなく12-0のコールド勝ちで勝ち抜き3回戦の薬師戦を翌日に控えミーティングを行っていた。
「薬師はベンチからもよく声が出ており全員が伸び伸びと野球をやってる印象を受けました。2試合で17得点していますが犠打は0でした。バントはしてこない分ファーストストライクからしっかり振ってきます。
ピッチャーですがエースナンバーは2年生の三野が背負っていますが1年の背番号3の真田と背番号6の北原の計3名が登板しています」
薬師の試合の映像を流しながら偵察隊が薬師に関して説明を終えると監督の国友広重が全体を見渡す。
「勝てばベスト16だが目の前の試合に集中しろ。バッテリーは安易にストライクを取りに行くことがないように。ピッチャーの持ち球の把握をしておけ。誰が投げて来てもいいように情報だけ頭に入れておけ」
「「「はい!!」」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「1番の北原が9打数6安打で振れている。2試合とも1回の先頭打者で初球を叩いて出塁して得点に絡んでるからまずはこいつを出さない…って聞いてるのか鳴」
「ふあぁー、聞いてるよ雅さん」
「あくびしてる奴が人の話を聞いてるとは思えん、2試合で17得点。相手には2回勝ったという勢いがある」
バッテリー間での打ち合わせ中に稲実の2年生正捕手の原田雅功が1年生投手の成宮鳴を咎める。
成宮は1年生ながら強豪稲実で1年生で唯一ベンチ入りする実力者。監督の国友は来年以降を見据えて先発を経験させることを決めて、明日の薬師戦で先発の予定だ。
「所詮1.2回戦の弱小校の投手を打ってるだけでしょ。大丈夫…ってあれ?雅さんリモコン!」
原田は咄嗟にリモコンを差し出すと成宮はそれまで興味を示さなかった薬師のビデオを巻き戻し翔希の打席を最初から映し出しそれをじっと見る。
「どうした鳴?」
「なんかこいつ見た事ある…気がする…あーっ!こいつリトルでヒット3本打ったやつだ!こいつ全然空振りしないんだよ!」
「鳴の球をか…それは警戒が必要だな」
原田はこの春入学してきた成宮の球を受けた時に変化球を捕球どころか、後ろへ何度も逸らしている。
成宮が調子に乗ることが目に見えてる原田は口に出して褒めることはないが今まで見た中でナンバーワンのピッチャーだと思っている。
そんな成宮から3本ヒットを打っている翔希を警戒せざるを得ない。
それからやる気を出した成宮は原田と入念に薬師の打者のビデオをチェックし打ち合わせを続けていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方の薬師高校も稲場のビデオを見てミーティングを行っていた。
「はっきりいって今年の稲実は優勝候補だ。それも甲子園のだ。全員が何をすべきか分かっている打線、そして充実した投手陣。今年のお前らじゃまあ無理だ」
監督の雷蔵はそう言い切る。
薬師の選手全員も映し出されている稲実の映像を見て稲実の強さを目にしている。
「勝負の世界は何かが起きるとは言う。否定はしないがここまで圧倒的だと間違いも起きねぇだろ。だがタダで負けるな。負けの中でなにか拾え。ピッチャー陣は今の自分がどれだけ通用するか思い切って勝負してこい。他の奴らも打席でフルスイング貫いてこい。勝負は来年だ。だから今年は強い奴らとの勝負をとことん楽しめ!」
雷蔵がそう発破をかけると選手達は元気よく返事をした。