北原翔希の野球人生   作:神戸のモンブラン

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第14試合

窓の外は、叩きつけるような激しい雨に包まれていた。

西東京地区予選の熱戦が続く7月だが流石にこの雨では順延が発表。

 

しかし、昨日3回戦で姿を消した薬師高校は雨など関係なく新チームのスタートとなる。

 

ミーティングのため多目的室に集まった部員たちを前に、監督の雷蔵は全員が揃ってることを確認して話し始める。

 

「まあ、今のうちならあんなもんだ。名門の壁ってのは高いもんだな、仕方ないがまだ1.2年で助かったな。アレが3年なら何もさせてもらえずあんなにあっさり終わるんだぜ。それだけは忘れるなよお前ら」

 

静まり返った室内で突きつけられた冷徹な現実に、1・2年生たちは全身に緊張が走った。

 

「だが俺たちは負けて引退する時に気がつくことに今気付いた。来年の夏、必ずあいつらにリベンジして甲子園に行くぞ! 分かったか!」

 

雷蔵の咆哮に、部員たちは「はい!」と腹の底から声を振り絞り、再び闘志を燃やす。しかし、その気合を断ち切るように、雷蔵はひらひらと手を振った。

 

「よし、気合いは十分だな! てことで、まずは目先のテストをクリアしろ! 赤点取ったら練習試合も出さねえぞ。解散!」

 

あまりの急転換に、部員たちが戸惑いながら荷物をまとめようとした時、キャプテンの山内が恐る恐る手を挙げた。

 

「あの、監督……なにか、野球部としての勉強会や対策とかは……?」

 

雷蔵は足を止め、心底不思議そうに山内を見返した。

 

「おい山内。俺が、そんなに頭いいと思うか?」

 

自信満々に聞き返された言葉に、山内は言葉を失う。多目的室には何とも言えない沈黙が流れ、部員たちは逃げるように教室を後にしていった。

 

静かになった多目的室に、翔希だけが残された。雷蔵に「残れ」と指示されたからだ。そこには、落合も無言で佇んでいた。

 

「さて、原田をクイックで打ち取ろうとしたあの場面だ」

 

雷蔵の切り出しに、翔希は昨日のマウンドの感触を思い出した。

 

「お前の技術がありゃ、あそこで小手先の変化をつけるのは容易い。だが、そんなもんで抑えたところで、その先に何が残る? あの時点でもう負けはほぼ決まってたんだ。あそこは、今の自分の全てで、堂々と勝負しても良かったんじゃねえのか」

 

雷蔵の指摘に、翔希は言葉を詰まらせた。

 

「……すみません。つい目の前の勝負に熱くなって、冷静さを欠きました。自分でも、あの選択は逃げだったと反省してます」

 

俯く翔希の姿を、雷蔵と落合は静かに見守っていた。

 

技術の高さはピカイチだが、土壇場でのマインドセットはまだ若く、脆い。しかし、その未熟さこそが、これからの伸び代でもある。

 

「小手先の器用さに溺れず、芯から強くなれ。次は逃げ道のない真っ向勝負で勝てるピッチャーになってもらうぞ」

 

 

 

 

数日続いたぐずついた天気から一変し、一層暑さが増し夏本番を予感させる。

 

高校球児と言えばその大半が甲子園への道半ばで敗れ去り3年生は引退して新チームへと移行する。

 

そんな中、薬師高校の野球部はテスト期間を含めた2週間の休暇を取った。

1.2年生だけのチームで急造で始動から休みなく野球漬けの日々を送っていたためここで1度リフレッシュ期間を設けようと雷蔵のアイディアに落合も賛同した。

 

落合が賛同した理由としては新チームは一刻も早く次の秋大会に備えるべきだがこのチームは引き続き同じメンバーで戦えるという利点もありまた夏休みは嫌でも野球漬けの日々になる。

 

そこで1度野球から離れさせてリフレッシュさせるのも一つの案だと。

 

それでも戸惑う部員たちに雷蔵はある課題を出した。

 

「オフの間バットとボールに触れるのは禁止だ。とにかく高校生らしい夏を過ごせ!夏休みの前借りだ!」

 

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テストを無事に終え海などに遊びに行く部員や、泣く泣く追試を受ける者もいる中で翔希はテストは無事にクリアしたが大会で抜けていた分の補講を終わらせて両親と大阪へと帰省し英気を養い休みを終えた。

 

 

そして休み明けの初日、雷蔵の一言で薬師高校の本当の夏が始まる。

 

 

「全員倒れる手前まで追い込んでやるよ」

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8月中旬となり容赦なく日差しが照りつけるグラウンドでマウンドへ上がる翔希は両肩で息をしていた。

 

「北原、最後決めろよ!」

 

雷蔵の声に翔希は返事も頷きもせずにひと呼吸置いて投球フォームに入る。

 

正確には返事も頷きも出来ない状態だ。

 

右打者から見てアウトコースギリギリに投げ込まれたボールがネットへと吸い込まれる。審判役を務めていた落合は一拍置いた。あまりにもギリギリのコースだったからだ。

 

「……まあいいだろう。ストライク、北原は終わり。まずはクールダウンだ俺が付き合おう。三野と真田ももうすぐ戻ってくる。」

 

今行われてるのは投手陣は体力強化のメニューで、ストライクを50球投げ込めば終了するメニューだ。投げる球種もストレートのみ。

 

しかし、ボール球を投げればタイム切りのダッシュを1往復というもの。

 

三野、翔希、真田の3人は最初こそ順調にストライクを積み重ねていたがボール球を投げタイム切りに回ると制球が乱れ始めてそのうち1球投げるごとに走り込みに行く場面も増えた。

 

一方の野手陣はロングティーを行っている。

 

こちらも一定距離を越えないとタイム切り走のペナルティ付きである。

 

雷蔵と落合の狙いは体力作りの面もあるが、疲れた夏にこそしっかりと自分のフォームでピッチングやバッティングを行えるかが鍵となり今後勝ち抜く上で絶対に必要なことだと言う。

 

薬師高校の夏は、まだ始まったばかりだった。

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