4回表にマウンドに上がった翔希は、打者がバッターボックスに入るまでにベンチに手を広げ2.3人ほどのスペースに堂々とくつろぐ雷蔵がいる1度薬師側のベンチを見た。
(あのおっさんがもう一度、俺に野球をするチャンスをくれた。そしてその初陣…練習試合だとしても絶対勝ちたい)
「プレイ!」
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「さーて…実戦だとどんなピッチングしやがる?」
雷蔵はベンチにくつろぎながらも翔希のピッチングを楽しみにしていた。
先日紅白戦で投げたとはいえ所詮身内同士でのあくまで練習。
投手として、違うチーム相手に投げる姿を初めて見る。
ゆっくりとワイドアップで頭の上まで上げていた両腕をお腹付近まで下ろすと腰を中心にホームと反対方向に捻り腰の高さまで膝を上げると、足を下ろすと同時に胸を張り鋭く腕を振り抜く。
まるで最初に溜めたエネルギーを全て吐き出すようなフォームから放たれたボールはキャッチャーの渡辺のミットへ収まる。
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練習試合が行われたその日の夜、居酒屋で雷蔵はとある人物を待っていた。
「おー轟、待たせたかすまん」
「いや俺も今来たところですよ早川さん」
かつて雷蔵の社会人野球チームでのチームメイト、翔希が所属していた難波シニアの前監督の早川は雷蔵の向かい側に座りビールを注文する。
「どうですかコーチ業は」
「まあ子供に教えてた頃と全く違うような仕事だよ、まあ轟みたいに監督してるわけじゃないしな」
今回都内に早川がいる理由は、難波シニアの監督を退き、かつて雷蔵と共に所属していた社会人野球チームでのコーチをしているためだ。
「まあ細かい話は積もるほどにあるが…どうだった?翔希のピッチングは」
「今日は3イニング投げさせてノーヒットピッチングだったが、何より内容が良かった。コントロールが抜群に良くて打者の反応もよく見ている。高校生のレベルとは思えないピッチャーでした。
正直、このチームに北原がいてくれて良かったなと、正確には敵にいなくて良かった…ですかね」
「ハハハ!やっぱりそうなったか!」
早川はかつての教え子の活躍ぶりと雷蔵の反応が予想通りだったため大きな声で笑い飛ばした。
「まあ翔希についてはそんな感じか、チームとしてはどうなんだ?甲子園狙えそうか?」
「まあ本番は来年以降と考えてます、3年が全員やめちまったので。無名校の割に北原の他に真田ってやつがいいピッチングするし投手はこの2枚っすね。
野手は俺がみっちり磨けばなんとかなる自信はあります。それに来年は秘密兵器が入ってくるんです」
「まず3年が辞めちまったってどういうことだよ!ハハハッ!」
その後、野球談義に花を咲かせたふたりは日付が変わるまで盛り上がった。
翔希の投球フォームはオリックスで先発や抑えとして活躍された岸田護選手で脳内補完お願いいたします。