「どうもようこそ来ていただきました、私はこの薬師高校野球部監督の轟雷蔵です」
雷蔵はよろしくお願いいたしますと言いながら自身の名刺を白髪混じりの中年男性に手渡す。
「どうも、よろしくお願いします。
落合は自身の胸ポケットに雷蔵の名刺を入れて軽く会釈をする。
先日、早川と食事をした際に早川から「知り合いで高校野球を専門としている指導者がいるが今現在職を探している知り合いがいる」と聞いたら雷蔵はちょうど技術指導が出来るコーチを探していたこともあり、コーチ就任として依頼をした。
まずは今日は見学をしてその後判断すると言う。
「3年がいなくて2年と1年だけのヒヨっ子のチームですがご指導お願いします。是非気になることがあれば仰ってください」
「ええ、わかりました」
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特徴的な顎髭を撫でながら落合はまずは野手の練習を見る。
(打ち勝つ野球を志し、何より試合は選手達のもの。自由にやらせるとお伺いしたが)
早川からある程度、雷蔵の考えなどは聞いており打ち勝つ野球を志すと聞いていた落合だが、目の前で行われているのはバント練習。
(試合で自由にさせる分練習をきっちりこなすように指導している感じだな。意外としっかりした人なんだな轟監督は)
心の中で雷蔵の意外な部分に感心しながら次に向かった先はグラウンドの端のブルペン。
まずは1年の真田の投球から確認する。
「シュート行きます!」
そう宣言した真田のボールは右バッターの胸元に食い込むシュートを投げ込む。
(球威不足は否めないがいいボールじゃないか。他の変化球にもよるがムービング系統を操れるようになれば3年の時にはある程度まとまったピッチャーになれるな)
次にその隣でピッチングをしている三野に目を向ける。
(どれも平均点レベルだが無名校ということを考えれば妥当なところか。逆に指導者としての腕がなるな。体格がいいから、体の使い方さえ理解してくれれば真っ直ぐに力をつけれそうだな)
そして最後に翔希のピッチングを眺める。
(やはりと言うべきか、名門難波シニアのエース級は2人に比べてモノが違うな)
難波シニアのピッチャーがいると伝えられていたものの、部員の名前を認識していない落合。
ただストレートや変化球の質に加えてコントロールも良い翔希にピッチングを見て翔希が難波シニアのピッチャーだと確信した。
(本来であればこのレベルの投手は
早川が退いてから、お金にまつまる問題やそれまで主力だった選手達が相次いでチームを辞めたりしていた難波シニアに色々な噂は絶えず落合の耳にも入っていた。
(難波シニアのエースがいるのであれば、後の2人でバックアップするような体制をとることが出来れば十分甲子園も狙えるな。あとはこの西東京の強豪達のエース達を打ち崩すことが出来れば…)
そこまで考えていると顎髭を撫でていた落合の右手が止まり落合は心の中で苦笑いをうかべた。
(ふむ、俺は薬師高校でのコーチを引き受けて甲子園に行くつもりになっているみたいだな)
一通り見学を終えると雷蔵にコーチへの就任依頼を快諾した落合だった。
落合さん結構好きなんで薬師に入れちゃいました