アキト「アンタのささやかなワガママを叶えてやる」
そうアキトは怜に向かって告げる。
怜衣「・・・」
怜は真剣な面持ちで聞いていたが、アキトの返答を聞いた瞬間、クスッと笑みをこぼす。
怜「ふふっ、まるであの時の瑠衣ね」
アキト「・・・?」
怜「気づいていないの?今の言葉、駅前で貴方が瑠衣に言った言葉にそっくりだったわ」
アキト「そういえばそうだな」
怜「アキト、こういう時ぐらい笑ったらどうなの?」
それなりに恥ずかしいセリフをそれも親子二代に言い切ったにも関わらず、いつも通りのポーカーフェイスを浮かべるアキトに怜は苦笑いをしている。
アキト「笑うか・・・ 最近、瑠衣にも同じようなことを言われた」
怜「そうなの?腐っても親子ね・・・」
怜はそう告げると窓から見える青空を見上げながら、どこか嬉しそうな表情をしている。
その後、コース料理の食事を終え、雑談も程々に秘密の食事会は静かに終わりを告げた。
ちなみにコース料理は美味しかったが、高級料理の味が分からないアキトには普通の食事との違いが分からなかった。
二人はレストランを出る頃には空は当の昔に暗くなっており、携帯の時間を見ると8時を廻っていた。
再び来た道を戻り、林を越え、待機していた車に戻る。
運転手は怜達を見つけると車内から直ぐに降り、二人に丁重にお辞儀をし、車の扉を明ける。
そして二人は車内に座り、車は秋葉原を目指して動き出す。
秋葉原へ向かう中、車内では今後についての会話がなされていた。
怜「アキト、私は来週中にこの街を出るわ」
アキト「何?何故アンタが街を出る必要がある?」
怜「一度、カゲヤシの本家に戻り、全国にいる私の眷族達を呼び戻し、対策を練ろうと考えているの」
アキト「本家?」
怜「そういえば話したことはなかったわね、カゲヤシ達の隠れ家の様なものよ、今までNIROは勿論、普通の人間に一度たりとも見つけられたことは無いわ、道を知っているものしか行けない場所よ」
アキト「そこで今後について話すわけか・・・」
アキト「瑠衣は知っているのか?」
怜「武装魔のこと?一通りのことは教えてあるわ」
アキト「違う、俺が言ってるのはアンタが街を出ることだ」
怜「それは後から瞬にでも伝えてもらうわ」
アキト「・・・」
怜「どうかしたのかしら?」
アキト「アンタはそれでいいのか?」
アキト「今回はNIROの時とは訳が違う・・・」
アキト「話しておくべきだろ」
怜「必要ないわ、あの子もカゲヤシの一員、それくらいの覚悟は・・・」
アキト「瑠衣のことが分かるのは瑠衣だけだ」
怜「何ですって?」
アキト「あの子の気持ちを・・・ 瑠衣の気持ちをアンタや、まして、他人の俺が決めていいわけがない」
アキト「アンタが死んだらあの子はきっと、凄く悲しむ」
アキト「それが分からない程、アンタは馬鹿じゃないだろう」
怜「・・・」
怜「なら、逆に言わせてもらうわ」
怜「あの子が悲しむと何故、分かるの?家族でもない貴方が?」
アキト「アンタは以前、自ら命を絶とうした」
怜「・・・」
アキト「あの時の瑠衣の表情を覚えているか・・・?」
怜衣「・・・」
その言葉を告げられた瞬間、怜の脳裏にある光景が浮かぶ。それは大切な愛娘の今にも崩れてしまいそうな悲惨な表情だった。そして、それはかつて自身が命を捨てようとした時の娘の表情そのものだった。
怜「・・・」
怜(・・・瑠衣)
怜「そうね、確かにそうかもね」
アキト「なら・・・」
怜「だからこそ、会う必要はない」
アキト「・・・」
怜「だってあの子にはもう大切な人が沢山いるのでしょう?」
怜「だからこそ、私の死という形で、その幸せを壊すわけにはいかないのよ・・・」
その時の怜の表情は必死に感情を押し殺し、冷静な表情を浮かべていることが分かる、そんな切ない表情だった。
アキト「・・・そうか」
怜「話は終わりよ、私は来週に街を出る」
怜「瑠衣にも会わない、この考えだけは変える気はないわ」
アキト「・・・」
アキト「分かった、もう俺は何も言わない」
アキト「ただ、頼みがある」
怜「何?言っておくけど、瑠衣に会うというのは無しよ」
アキト「分かってる、それ以外で、この街を出る前に一つ頼みたいことがある」
怜「何かしら?」
アキト「四日後に駅前のビルの屋上に来てほしい」
アキト「渡すものがある」
怜「それなら今、ここで渡せばいいじゃない」
アキト「ここでは見せられないものもあるんでな」
アキト「誰も連れずに一人で来て欲しい」
怜「そこに行って何があるのかしら、時間の無駄ではないと言える?」
アキト「受けなければ、瑠衣の護衛は降りる」
怜「交換条件というわけ・・・」
怜「・・・」
怜「はぁ、いいでしょう、ただし、時間の無駄だと判断したら直ぐに帰らせてもらうわ」
アキト「ああ、それで構わない」
怜は深いため息をつきながらも渋々とアキトの要求を飲むのだった。
怜(まあ、大体、魂胆は分かっているけどね・・・)
アキト(さて、街に着き次第、急いで取り掛からないとな・・・)
運転手(帰りはよく喋るな~)
行きとは違い、会話の途切れない二人を運転手は不思議そうにバックミラー越しに二人を見つめるのだった。
そして、2時間程経ち、車の窓から秋葉原が見えてきた。
その後、秋葉原に到着し、出発地点であるガレージへと着いた。
運転手「到着いたしました」
怜「ありがとう、今日はご苦労様、もう下がっていいわ」
運転手「はい」
怜とアキトは車を降りると運転手は二人に深々とお辞儀をし、車に乗り込み、夜の街へと消えていった。
怜「今日は楽しかったわ、アキト」
アキト「俺はそうでもなかったがな」
怜「ふっ、最後まで憎たらしいわね」
怜はそう静かに笑うとその場を去ろうとする。
怜「それじゃあ、帰るわ」
アキト「ああ、約束、忘れるなよ」
怜「貴方こそ」
二人は互いに皮肉を言い合うと今度こそ別れるのだった。
アキト「・・・」
アキトは携帯を取り出し、ある人物に電話をかける。
プルルルルル
電話音が鳴り響き、しばらくすると電話先の相手が電話に出る。
?「もしもし、珍しいなお前が俺に電話など・・・」
アキト「急にすまない、それよりお前に聞きたいことがある・・・ 情報屋」
情報屋と呼ばれたのは普段、裏通りにいるサングラスにマスクという怪しげな格好の男でアキトに様々な依頼を斡旋し、達成したら報酬を与える人物のことだ。今までもアキトに様々な依頼を斡旋してくれている。
情報屋「構わん、お前には今までに多くの依頼をこなしてもらったからな」
情報屋(それにここで恩を売っておくのも悪くない・・・)
アキト(とか考えていそうだな、こいつは・・・)
電話での会話ながらお互いにビジネスライクな姿勢を崩す気はどちらもないようだ。
アキト「以前、文月瑠衣というカゲヤシの写真を提供して欲しいという依頼を俺にしたのを覚えているか?」
情報屋「ん?ああ、あれか、覚えているが、それがどうした?」
アキト「その依頼の人物の所在地を今日中に突き止めて欲しい」
情報屋「な!?今日中って流石にそれは無理だろ!?もう夜の10時だぞ!?」
アキト「依頼人の連絡先の情報はないのか?」
情報屋「確かに依頼人の連絡先の情報自体はあるが・・・」
情報屋「それを売ると俺がヤバいことになる!」
アキト「はぁ、なら連絡は?」
情報屋「え?、まあ、それならなんとか・・・」
アキト「今日中に頼む」
情報屋「ああ、出来るだけのことはやるさ、だがっ」
ピッ!
アキトはそれだけ告げると電話を切る。
そしてアキトは人気のないガレージで静かに立ち尽くす。
アキト(俺が今、やろうとしているのは余計なことだ・・・)
アキト(妖主を・・・ 瑠衣の父親を・・・)
アキト(会わせたいなんて・・・)
アキト(何故、俺はこんなことをしようとしている・・・?)
アキトは自分でも分からない感情に内心では疑問が浮かんでいる。何故、この二人を会わせたいなどと考えているのか・・・
アキト(親や家族といったものなど、俺には分からないのに・・・)
アキト(だが、大切なものなんだろうか・・・)
アキト「俺は・・・」
アキト「何をしているんだろう・・・」
悲しげに呟くとアキトは静かに夜の暗いガレージから街の光を見つめるのだった。