アキトは瑠衣にクレームを言っていた男性を鋭い目付きで見つめる。
夫「な、なにをするんだ!?いきなり!?」
アキト「常識を理解出来ない馬鹿の頭を冷ましてやっただけだ」
夫「いきなり、他人の話しに首を突っ込んでてきて・・・何なんだ!」
夫「原因が何かも知らないで・・・!」
瑠衣「・・・」
瑠衣は原因という言葉を聞き、俯いてしまう。
アキト「原因? アンタがウェイターの手をいきなり触り、それを咎めた相手に無茶苦茶な理屈で加害者にしようとしていたことか」
夫「・・・!」
アキトは一部始終見ていたようで、ことの有り様はしっかりと把握していた。また、アキトの話を聞いていた周りの客も男性客に対してヒソヒソと話をし始めている。
アキト「反論があるなら聞くが」
夫「あれは冗談で・・・」
アキト「それを警察でも言ってみるか」
夫「け、警察!?」
瑠衣「あ、アキト・・・」
妻「あ、あの!本当に申し訳ありませんでした!料金は払いますので!どうか・・・!」
警察と聞き、男性客の妻は慌てて財布を取り出そうとしている。
アキト「料金は払え、そして彼女に謝罪しろ」
妻「は、はい!ほらっ!あなたも!」
夫「うぅ・・・ すいませんでした・・・」
妻「本当にすいませんでした・・・」
娘「すいませんでしたー」
夫婦は顔を青くさせ、深々と頭を下げ、何故か状況を理解していない幼い娘も頭を下げていた。
アキト「なら、料金を払って出ていけ、二度とこの店に来るな」
夫婦「は、はい・・・本当にすいませんでした・・・」
夫婦は料金を払い、娘を連れ、その場を立ち去るのだった。
すると他の客から歓声の声が上がる。
客1「いや〜兄ちゃん!カッコよかったよ!」
客2「本当!本当!」
オタク達「瑠衣ちゃん〜無事で良かったー!」
瑠衣「・・・」
先程まで誰も自分史を庇おうともしなかった客達の態度を知っている瑠衣の心中は複雑である。
すると見かねたアキトが口を開く。
アキト「食事を終えた者からさっさと帰れ」
客達「・・・はい」
瑠衣「アキト・・・」
アキトは一切感情の籠っていない声で客達にそう告げるとあっという間に皆帰っていった。
誰も居なくなったカフェにはて静寂が訪れていた。
そんな中、アキトは席に着き、先程注文したコーヒーが来るのを待っていた。また、アキトはどこか厳しげな表情をしている。
そうしてしばらく、待っていると瑠衣がコーヒーを持ってきた。
瑠衣「は、はい・・・ コーヒーお待たせ・・・」
アキト「ああ」
アキトはそう一言を呟くと静かにコーヒーを飲む。
瑠衣「あ、あの、アキト・・・」
アキト「何だ」
瑠衣はアキトの雰囲気がいつも違うのを察してか、いつも通りの感じで、アキトに話し掛けることが出来ないらしく、どこか遠慮気味である。
瑠衣「さっきは、ありがとう・・・ その、お客さんのこと・・・」
瑠衣「あと、巻き込んじゃってごめんね・・・」
アキト「いや、コーヒーを飲みに来たついでだ」
瑠衣「・・・」
瑠衣(なんでだろう・・・ 今日のアキト、何だか、少し、怖い・・・)
瑠衣(何かあったのかな・・・)
瑠衣はアキトの向かい側の席に座り、静かにコーヒーを飲むアキトを心配そうに見つめる。
アキトの雰囲気が違うのは、先程、瑠衣の父との会話のせいだけでなく、ディズニーランドでの一件も尾を引いていた。
アキト(覚悟していたとはいえ・・・)
アキト(実際に会うと、うまく話せないものだな・・・)
アキトも瑠衣を動揺させる気など、本当はなかったが、ディズニーランドの一件からまだ、数日しか経っていない為に瑠衣本人との実際の会話は中々に複雑であった。
瑠衣が自身に向けた、あの敵意の籠った瞳をどうしても思い出してしまうのである。
アキト「なあ」
瑠衣「え、な、何?」
アキト「何をそんなに動揺している」
瑠衣「え・・・ あの、アキトの雰囲気が何だか、いつもと違うから・・・」
アキト「・・・」
瑠衣の動揺がアキトにはテーマパークでのこともあり、自身を恐れているかの様に映ってしまう。
瑠衣「ご、ごめん!アキトに助けてもらったのにこんなこと・・・」
アキト「いや、少し考え事をしていただけだ、気にしなくていい」
瑠衣「うん・・・ でも、本当に大丈夫?顔色もあんまり、良くなさそうだし・・・」
アキト「大丈夫だ、それより今日は瑠衣に聞きたいことがあって来たんだ」
瑠衣「聞きたいこと?」
アキト「もし・・・ 父親と会えたら、瑠衣はどうする」
瑠衣「え、父さん、と?」
瑠衣「どうしたの?急に・・・」
アキト「いや、何となく聞きたく、なってな・・・」
瑠衣「・・・」
瑠衣「会いたい・・・ 会って話がしたい、かな?」
アキト「自分を捨てた父親でもか?」
瑠衣「うん・・・ 会いたいよ・・・ そして、色々なことを聞きたい・・・ 昔のこと、母さんとのこと、とかね」
アキト「そうか・・・」
瑠衣の返答はアキトが思っていたよりも早くに出された。仮に自分を捨てた父に対して、瑠衣は一切憎しみを抱いていないようだ。以前にも、父について言及された時も瑠衣は父を信じたいと語っていた。
瑠衣「そういえばアキトは父さんと会ったことがあるんだよね?どんな感じの人だった?」
アキト「・・・」
瑠衣「アキト?」
アキト「優しそうな・・・ 人だった・・・」
瑠衣「そっか~ 今、どこで何をしてるんだろう?」
アキト「・・・」
先程とは別人のような表情で瑠衣は嬉しそうに、この世の何処にいる実父へと思いを馳せている。
母に産み捨てられたアキトにとってはその思いを理解出来ないといったものだが、瑠衣の気持ちを否定する気はなかった。
アキト「もう一つ質問、いいか?」
瑠衣「あ、うん、いいよ」
アキト「もし、父親に会えるとしたら、どうする?」
瑠衣「え・・・ 会えるとしたら、か・・・」
瑠衣「う~ん、会いたいかな?やっぱり・・・」
瑠衣はどこか難しそうに頭を捻っている。
アキト「本当に会いたいか?」
瑠衣「え?」
アキト「・・・」
アキト「いや、何でもない・・・」
アキトはこれ以上の質問は不要と感じ、早急に話題を終わらせるのだった。
しかし、いつもと違う様子のアキトを瑠衣は放っておくことなど出来なかった。
瑠衣「・・・ねえ、アキト」
アキト「何だ」
瑠衣「何か、あったの・・・?急にこんな質問をアキトがするなんて・・・」
瑠衣「もし何かに悩んでるんだったら・・・」
ドクン!
アキト「・・・っ!」
ドクン!ドクン!
アキト(やめろ・・・! 俺をそんな目で見るな・・・!)
心配そうに自身を見つめている瑠衣の表情を見た瞬間、アキトは胸に強い鼓動を感じると同時に表現のしようのない黒い感情が沸き上がってくる。
アキト「何でもない・・・!」
瑠衣「でも・・・」
アキト「何でもないと言っているだろう!」
瑠衣「・・・!(ビクッ)」
アキトは自身を心配する瑠衣の顔を見た瞬間、先程からずっと感じていたどうしようないような感情を押さえることが出来ず、感情を爆発させてしまう。
しかし、次の瞬間にアキトは我に帰り、再び瑠衣の顔を見る。
アキト(俺は何を・・・)
瑠衣はどこか怯えるような、心配するような表情でアキトを見つめている。
アキト「瑠衣・・・」
アキト「俺は・・・」
瑠衣「アキト・・・」
瑠衣は原因こそ分からないがもののアキトが何かに苦しんでいることを察したのか、酷く悲しそうにアキトを見つめている。
瑠衣「アキト・・・ わたし・・・」
アキト「帰る」
瑠衣「え!?」
瑠衣「ちょ、ちょっと待って!」
瑠衣「そんな、急に・・・」
アキト「気分が良くないんだ・・・」
瑠衣「・・・」
瑠衣「あの・・・ それって、わたしが、原因・・・?」
アキト「何故、そう思う」
瑠衣「今日はお店に来てからずっと気分が悪そうだったから・・・ もしかしたら、アキトに嫌な思いをさせたのかもって・・・」
アキト「・・・」
瑠衣は原因が自分にあるのかもしれないと考えているためか、普段は絶対に見せない悲しそう表情でアキトを見つめる。
しかし、瑠衣にアキトの苦悩の理由を教えることは出来ない、それを教えることは自身の「秘密」を話すことになるのだから・・・。
アキト「本当に何でもないんだ・・・」
アキト「だから、気にするな」
そう言ってアキトはその場から立ち去ろうとする。
瑠衣「ア、アキト、ちょっと待って!」
瑠衣はアキトの腕を掴み、それを引き留める。
アキト「・・・」
瑠衣「お願い、待って・・・!」
瑠衣「アキトが何に苦しんでるか、わたしは分からないけど・・・ キミの力になりたい・・・!」
アキト「・・・」
瑠衣「キミがわたしを救ってくれた様に・・・」
瑠衣「わたしも・・・」
アキト「・・・」
バッ!
瑠衣「!」
心配そうに自身を見つめる瑠衣の手を振りほどくと、アキトは今度こそ、立ち去ってしまった。
瑠衣「アキト・・・」
瑠衣はアキトが去っていった方向を悲しそうに見つめる。
瑠衣「どうして・・・」
ポタッ
瑠衣「あ・・・」
瑠衣は地面に落ちた水滴の音で自分の頬に一筋の雫がつたっていることに気付く。
瑠衣は、先程のアキトの態度を思い出す。
理由は分からないが、アキトが自分を見て苦しそうな表情していたこと、そして自分の手を振りほどいたことを。
瑠衣「わたしの・・・ せいなの・・・?」
問答は終わらず、瑠衣はその場に立ち尽くすのだった。