「響が危ない!!電、後退だ。危険だが、殿を頼めるか?」
『だいじょうぶなのです!!』
私は、その言葉を聞き、顔をほころばせる。
「第一艦隊ポイントβまだ撤退、電……信頼しているぞ?」
通信を切り、元帥からもらった椅子に深く腰掛ける。手元に置かれた命令書を見て、ため息をつく。
提督になり、1週間……この日が来ることは理解していたが……まさかこのタイミングとはなぁ。
私は陰陽技術の応用であるポータブル通信機を耳にかけると、薄く笑い手元の待機中の艦を第二艦隊に3艦配備する。
『少佐!!御用ですか?』
別の所に通信を開いた。通信先は工廠なのだけど。
「あぁ、例の二人建造はできているかな?」
『えぇ、少佐の狙い通り戦艦と重巡洋艦ですよ』
そうかと小さくつぶやき、私は立ち上がる。
「すまないが、私の第2ドッグへ行くように彼女たちに言っておいてくれないか?」
『確認はいいんですか?』
少し考えた後、あぁとつぶやく。
「人伝いに聞くよりかは、自分の目で確認したいからね?」
そういいながら、提督室を俺は後にし、ドッグへと向かう。
「提督、ついにウチらのでばんやな!!」
元気のいい関西の訛りが聞こえて、私は顔をほころばせた。
「あぁ、初任務は気に入るかわからんがな龍驤」
私はそういうと、彼女のほか二名を見る。右から加古と北上となっている。
「あれ?提督、他の二人は?」
加古がそう聞いてくるので、目を細めて微笑んだ。
「工廠上がりの新人だ」
「まさか大井っち?」
北上が元気になるが、私は首を横に振るう。
「戦艦と重巡らしいよ」
私がそう言うと、ドッグに翔鶴が現れる。金剛と青葉がそれに続いて入ってきた。
「元帥の所の翔鶴さんですか?元帥は元気になさってますか?」
私がそう聞くと、翔鶴さんが驚いたような顔を浮かべる。
「個体によって識別ができるのですか?」
「あぁ、しないとやってられないですから。今は限界なのでお話は置いておいて、初めまして金剛、青葉」
「提督ぅ、よろしくお願いしマース」
「どうも、恐縮ですぅ」
少し笑うと、表情を変え彼女たちを見る。
「金剛を旗艦とし、第二艦隊をこの5名で結成する。第一ミッションが私のわがままを聞くことだ。鎮守府近海ポイントβまで撤退中の第一艦隊を助けに行く」
「やっぱり」
翔鶴さんはそう呟くと、私の方を見る。
「……細かい指揮を執るために私も海出る」
金剛以外が文句を言おうとしていたみたいだが、全員が固まる。
「自分が何を言っているか、解っているのですか?」
私は翔鶴の言葉にうなずく。
「えぇ、あたりまえです。死ぬ危険?だから行かないっていう選択肢なんかは……ありませんよ」
「いきますよー提督ぅー」
金剛は笑顔で、私を迎え入れてくれる。ほかの第二艦隊の面々は少し呆れた顔をしていたが。
「死ぬのは艦娘も私も一緒……私ひとりが安全な場所にいる理由にならないでしょ?」
翔鶴さんを残し、第二艦隊は海へと漕ぎ出していく。
「ここにいると聞いたのだけど」
ドッグに入ってきたのは、女性の提督だった。
「あれ?翔鶴じゃん」
「お久しぶりですね?お元気でしたか?」
翔鶴がそう問いかけると、女性提督は苦笑いを浮かべる。
「元気は出ないけどね?でも、なんであなたが?」
「提督が、彼の様子を見て来いといわれましたので」
彼女がそう言うと提督は驚いたように目を丸めた。
それもそうだろう、彼女の提督はあの元帥なのだから……それが目をかけているとなれば、ちょっとした話題になる。
「で?件の彼は?艦隊がピンチなのに、執務室で指揮をしていなかったから疑問に思っていたのだけど」
翔鶴はうれしそうに海を見る。
「もう、助けに行かれましたよ。私に興味深い言葉をおかけになってね?」
「変わらないわね?貴女は……彼に期待を?」
翔鶴は提督の言葉にうなずき、ただ彼が出て行った海を眺めている。
「あの人も、彼を敵と認めるでしょうね?そして、絶望に染まった彼女を目覚めさせることのできる人物として真実を知ってもなお、私たちを思ってくれる。私と提督は彼にそんな希望を見ているのです」
それはとても勝手な願いということは、彼女がよく理解しているだろう。でも彼女たちではだめなのだ……真実を知っている彼女たちは……
「貴女もためらっていますよね?士野岬(しのさき)少将いえ……」
翔鶴にそう言われた彼女は笑う。
「禁則事項よ、それ以上は……私が鎮守府に戻ってきたのは、あいつの顔を一発殴るためよ。貴方たちみたいに止めようと思っていないもの、貴方たちみたいな中途半端なためらいなんてないわ」
彼女はこぶしを握り締めてドッグの端の椅子に座る。
「待つのですか?」
「えぇ、新人のくせして周りに頼らなかったクソ生意気な子を怒るためにね。そんなところも、彼に似ているのね確かあなたが大破して航行不能になった時に」
翔鶴は顔を真っ赤にしてぶんぶんと腕を振りまくっていた。
「それは内緒のはずですよ!!」
彼女は翔鶴の必死の顔に吹き出してしまう。まるで……そうまるで伝説の提督がいたときみたいに……
『これいじょうもたないの……です』
通信越しに、私は彼女の弱気な声を聴き、にやりと笑う。
「かわいいこといっているね!!金剛、35.6cm連装砲1時の方向、最大射角用意。龍驤!!偵察機を放って、リアルタイムの接敵……いや、25000m圏内に入ったら合図を出してくれ」
「了解や」
『提督……いったい何を!!』
通信機から聞こえてくる声をにやりとして受け止める。
「後5000耐えてくれ。そうしたら何とかしてやれる!!」
『最大船速で突破するのです』
しばらく待ったのち、双眼鏡越しに、彼女の船と敵の船が見えてくる。
「提督!!カウント開始するで!!接敵まで10」
「北上、青葉は全速前進。北上は接敵後自己判断で魚雷を叩き込め。青葉はその間主砲で敵の妨害。加古は彼女たちの後ろにつき、彼女たちが弾切れになったら全砲門を開け!!」
「5」
私は心の中で時間をカウントし始める。
4
「3」
2
「1」
「連装砲うてぇ!!」
電のぎりぎりを砲弾が通過し、敵艦に着弾する。
『なんでここにいるのですか!!』
彼女は通信機越しに叫び声をあげたので、俺は金剛の後ろからひょっこりと顔をだし苦笑いを浮かべた。
「あまり提督をなめないほうがいい。仲間を見捨てるほど私は腐ってはいないよ」
「敵艦隊、撤退していくで。ちょっとまち……なんやあれ」
学生時代に、資料で読んだことがある……
「なんでこんなところに、こんな化け物がいるんだよ!!全艦隊撤退しろ、攻撃してくるまで反撃するな!!あいつには今の戦力じゃ……」
勝てないと言おうとして、私の言葉はさえぎられる。
「艦隊を指揮している人物と話がしたい」
そう、あり得ないものを見て、私が止まってしまったからだ。深海棲艦から人が現れたという驚きで。
「いないのか?だとしたら、興ざめなんだが」
私は顔を出して、出てきた人間の顔を真正面から見る。
「貴方は!!高台の!!退役軍人であるあなたがなぜそちら側に!!」
「やっぱりあの時の男だったか……」
なぜ、なぜ味方だったはずの人間が……あちらにいる。
「提督……提督なのですか?生きて……生きていたのですね。」
電はボロボロの体を動かし。タ級にふらふらと向かっていく。
「久しいな、電……」
「あんたまさか、伝説の……提督か!!」
私は息をのむ、ウソだろ……嘘だといってくれ、なんで憧れた存在が……人類の敵になっているんだよ!!
「なんでおいて行ってんだよ吉崎!!てめぇは何で電を置いてそっちに言っちまってんだよ」
私は……いや俺は声を荒げる。
「お前はそっくりだな。私とは違う。知らないほうが幸せということがあるだろ?それだよ。君は知らないほうがいい」
「金剛全訪問を射角10度で開いてフルバーストしろ」
俺の中の何かがブ千切れる。
「さっき自分で言ったっ言葉を……」
「あぁこの戦力じゃそいつを落とすことはできない!!だけどな!!泣いている奴がいるんだ!!」
吉崎は電のことを見ると、息をのむ。
「艦隊を危険にさらすことはしたかないが、俺はお前がゆるせねぇ!!」
「撤退する……電をよろしく頼むよ。ニュービー私の分もね」
中指をおったてて、俺はゆっくりと目を伏せた。
「なんやったんや?なんで人間があそこにおるんや?」
私もわからないとつぶやき、さて帰ろうかと彼女たちにつぶやいた。
次回、女性提督が暴れまわります。