ハイスクールD×D×O〜悪魔と龍と王の物語〜   作:カノサワ

47 / 55
ギャスパーのぬいぐるみ。
ギャスパー君から借り受けたぬいぐるみ。それ自体は彼が仕事の報酬で手に入れたものであり新品同様だ。
だがしかし、彼の優しさが詰まった一品でもあった。

(誤字報告ありがとうございます!)


第6話=神社と大天使と黒い翼=

ギャスパー君と色々話した次の日、俺とイッセーはある場所へ向かっていた。

 

「本当にここで合ってるんだよな…?」

 

「朱野さんが送ってくれたメッセージを読み違えてなきゃそうなるけど…」

 

辿り着いた場所に怪訝そうに言うイッセー。俺はスマホ画面に映し出されているメッセージを見て間違えてないか確認する。

今朝、スマホのメッセージで俺宛に朱乃さんからここへ来るよう通達が来ていて、イッセーにも来ていたと言うのだから何か重要な用事には違いないだろうが…。

しかし辿り着いた先に目に映ったのは、石段とその先にある赤い鳥居だ。言わば…神社。

それを見た途端イッセーは少し嫌そうな顔をする。何せ悪魔は神聖な場所に入ろうとすると拒絶反応が起き、そう簡単には入れない。

教会もそうだが、神を祀る神社でもそれは同じ事。なぜ朱乃さんはそんな所にイッセーを呼んだのだろうか、と考えていると…。

 

「いらっしゃいマリヒコ君。イッセー君」

 

そこへ巫女服を纏った朱乃さんが石段を降りながら出迎えてきた。

 

_▲▼▲▼_

 

俺らは石段を上りながら朱乃さんと言葉を交わしていた。主に何故ここへ呼ばれたのかなどだ。

 

 

「御免なさい二人とも、急に呼び出してしまって」

 

「いえ、今日は用事が無かったので大丈夫だったんですけど…どうして神社に?」

 

「あそこの神社は私の住んでいる家ですわ。貴方達を呼んだのはこの上でお待ちしているお方を貴方達に合わせるため、その為には私の家が都合よかったの」

 

お待ちしているお方?頭に?マークを浮かばせる俺らの様子を見つつ、上りながら説明するように俺らに語りかけた。

 

「出来ればリアスもお呼びしたかったのですが、会談についての打ち合わせもまだありますから今日は私で対応させていただきましたの」

 

「そうなんですか?なら尚更朱乃さんも出向かなちゃ大変じゃないっすか?」

 

「今日はグレイフィア様がリアスのフォローをしてくださってます。あのお方がいれば私が抜けても大丈夫よ」

 

イッセーの疑問にそう答える朱乃さん。グレイフィアさんも出会った時からなんとなくは思ったけど、あの人も相当凄い人かな…。

そうアレコレ疑問に感じてるうちに、石段を上り終えて鳥居が目の前にある位置に着いていた。

俺は大丈夫だけど、イッセーがまだ不安そうな様子で少し尻込んだ様子を見せていた。

 

「ここは大丈夫ですわよ。裏で特別な約定が執り行われていて、悪魔でも入ることができますわ」

 

そう言うと朱乃さんは平気そうに鳥居を潜る。その様子を見るなり朱乃さんは特に苦しんでる様子もなく、この神社は悪魔が入っても平気そうだ。

 

「お、お邪魔しまーす…お、本当だ」

 

イッセーも続いて恐る恐る鳥居を潜ってみると、彼も苦しんでる様子は無かった。そして俺もお邪魔します、と言いながら鳥居を潜った。

 

「おー…中々良い神社ですね。悪魔の朱乃さんに言うのも何ですけど」

 

俺は目の前の神社を見て正直な感想を述べた。

確かに古いと言えば古いが、逆にそれには一つの風流が感じられ、しっかりと手入れされているのかそこまで古ぼけた感じは無かった。

 

「ありがとうございます♪ここは先代の神主が亡くなり、無人になったこの神社をリアスが私の為に確保してくれたのです」

 

その話に内心感心しながらも、とある疑問が浮かび上がる。

私の為に確保してくれた。であれば確保する前は朱乃さんはどこに住んでいた?そもそも朱乃さんは部長_リアス・グレモリーとどの様に出会ったか。そんな疑問を考えていると_。

 

「彼らが赤龍帝、そしてオーズの力を持つものですか?」

 

_その時、美しい声音と共に神々しい光が舞い降りた。

その声の方を俺とイッセーが向くと、そこには…。

 

「初めまして、赤龍帝の兵藤一誠君に、オーズの独也マリヒコ君」

 

_天使、それもただの天使とは思えない風格とも言える存在で、美しい白いローブを身に纏い、背中には黄金の天使の羽に、頭部には光り輝く輪っかが浮いていた。そんな存在溢れる青年に朱乃さんを除く俺らは言葉を失ってしまった。

そして彼はイッセーに握手を求める様に手を差し伸べた。

 

「私はミカエル。天使の長をしております。なるほど…このオーラの質は正にドライグのものですね。懐かしい限りです」

 

イッセーはたじろいた様子で握手に応じると、ミカエル…そう名乗った者がそう語る。

天使の長…そんな凄い人が何故ここに、そんな疑問の束の間、次に俺に握手を求めるべく手を差し出した。

 

「あ、ど、どうも」

 

「…話は聞いております。オーズのベルトはここには無いのですね、しかしこれは…」

 

握手に応じると、ミカエルさんが何か深く考える様子を見せた。

 

「あ、あの、何か…」

 

「…失礼しました。今日貴方達を呼んだのはある物を授けるがべく参られました。この接触に関してはお互い許可を取っているのでご安心ください」

 

握手を終え、そう彼は優しげな笑みで答える。

 

_▲▼▲▼_

 

朱乃さんに案内され、俺らは神社の本堂まで歩いていた。

内装もとても立派な物で、ここで精神統一するなら落ち着いて出来るだろうと思える程綺麗に手入れされていた。

それはそれとして、さっきからイッセーの様子が変だ、まるで何かを感じ取って怪訝そう…否、警戒する様な顔になっていた。

 

「大丈夫か?この神社は悪魔に影響が無いって聞いたけど…」

 

「あぁ…多分これは神社の影響じゃ無い、なんかあっちの方向から変な気配がするんだ。こう…近づいたらヤバい的な」

 

そう言って本堂内の中央を指差すイッセー。朱乃さんやミカエルさんもあそこに向かっていた。確かある物を授けるとか言ってたな。

そしてそこへ辿り着き、目にしたのは…。

 

「実は、貴方に…赤龍帝にこれを授けようと思いましてね」

 

ミカエルさんがそれに指差すと、イッセーは軽くギョッ、と驚いた表情を見せた。何せそこには一本の剣が浮いていた、それも恐らく多分普通の物じゃなく、何か神々しい感じがする剣だった。

その感じに覚えはある、先日の事件で感じ取ったエクスカリバーや、デュランダルと同じ…恐らくあれは聖剣だ。

 

「これはゲオルギウス…聖ジョージと言えば伝わりやすいでしょうか?彼の持っていた龍殺しの聖剣『アスカロン』です」

 

「っ!?」

 

その言葉に俺は驚愕する。知っての通り聖剣は悪魔にとって天敵、しかも龍殺し。これも合間を縫って悪魔世界の事情を木場と一緒に勉強していたから知っている。

龍殺しと呼ばれる武具はその名の通り龍にとっては天敵の武器であり、強靭な龍の鱗を斬り捨てると言う。

 

「アレは特殊儀礼を施していますので、悪魔。そして龍の力を持つイッセー君でもドラゴンの力を応用すれば扱えるのよ。どっちかって言うと持つより、ブーステッドギアに同化させると言った方がいいですわね」

 

そんな物をイッセーが持てば危ない。そんな疑問を払うかの様に朱乃さんは説明した。

それなら安心した、その思いと同時にある疑問も浮かび上がる。

 

「なんでそんな代物をイッセーに…?」

 

「ミカエル様曰く。今度の会談は三大勢力が手を取り合う大きな機会だと思い、今のうちにそれぞれの勢力に贈り物をしたいとの事です。もしこのまま小規模的な争いが続けば何れかの三大勢力は潰れるかもしれない、仮に潰れなくとも他の勢力が横から攻め込んでくる可能性もある。であれば手を組んだ方がお互い生き残れる可能性が高い。悪魔側からは祐斗君の聖魔剣を何本か天使側にも差し上げたの事でしてよ」

 

朱乃さんの解説に俺はわかった様なわからない様に思考を動かす。

ミカエルさんもイッセーにその現状、そして何故イッセーにあの聖剣を渡してくれるかをも説明していた。

どうやら気が遠くなるほどの数年前の過去に三大勢力が一度だけ手を取り合った事がある。それも勢力同士の戦争に乱入してきた赤と白の二体の龍を打ち倒すと決断した時だ。

あえてその時の様に三大勢力が手を取り合える事を願い、今の赤龍帝…イッセーに願掛けをしたとの事だ。

 

「な、なるほど…けど本当に大丈夫っすよね?何せ悪魔殺しの聖剣な上に龍殺し。俺が触れたら即死じゃ…」

 

その説明を聞いたイッセーは聖剣…アスカロンに体を向ける。

まだ不安が拭えないのか、手を出しづらそうな様子を見せていた。

 

「その剣はこの神社で最終調整をしました。魔王様、アザゼル様、ミカエル様の各陣営の術式を施していますので、悪魔でもドラゴンの力を宿していれば触れますわ」

 

「マジですか!?まぁ朱乃さんがそう言うなら…」

 

イッセーと俺もその言葉に驚いた。何せこれ一つに三大勢力トップが手を加えてイッセーが使える様にしてくれた贅沢な一品だ。

それに少しは安心したのか、恐る恐るイッセーが左手で宙に浮かぶ聖剣の持ち手を握った。

…イッセー自体には何も異変は起きない。どうやら大丈夫そうではある。

 

「?…あ、あぁ。やってみるよ」

 

イッセーがそんな事を言うと左手に自らの神器である赤い籠手を出現させ、集中し始める。

先程のつぶやきはドライグがイッセーに何か言ったのか?俺はその様子を見ていると_聖剣と籠手が赤く輝き、一瞬だけ赤い光が部屋を占領した。

その閃光に一瞬だけ俺は目を瞑ってしまい、目を開くと…。

 

「お…お前その籠手…」

 

「ま…マジで合体しやがった…」

 

イッセーの籠手の先端に、聖剣の刃が生えていた。

合体?つまり聖剣と『赤龍帝の籠手』が合体したって事か?

 

「どうなってんだそれ…」

 

「あぁ、ドライグが俺の神器と聖剣の波動を合わせてみろって言うからやってみたんだが…」

 

俺はその聖剣が生えた…否、合体した籠手をまじまじと見つめるとそう解説する。そう言うのもアリなのか?

 

「では次は独也君に授けたい物があります」

 

イッセーが聖剣を神器と合体させたのを確認すると、ミカエルさんは平手を上にして、光の玉を掌の上に出す。

そして一瞬だけ光が放たれ、その中から出て来たのは…。

 

「…それって」

 

「えぇ。これは私達天使の陣営が保管していたメダル…白のメダルです」

 

_透明の平たいケースに収まった三枚の白いメダル。

それぞれサイ、ゴリラ、ゾウの模様が刻まれている物だ。

 

「今回の会談はマリヒコ君も注目されています。確かにオーズの力は三大勢力にとっては危険ではありますが、これまでのマリヒコ君の行動や、もしもの時のためにメダルはオーズである貴方の元に集めると判断したとの事ですわ…無論ベルトやメダルはまだ会談が終わるまでリアスに預けてもらう事にはなりますけれど」

 

ケースに収まったメダルを眺める俺に、朱乃さんはそう言う。

…確か白の力は大地を破るほどの巨大な怪力と聞いた。メダルに刻まれてる動物から察するに確かにそうだろう。

 

「えぇ、ではお受け取りください」

 

ミカエルさんは俺にそう笑顔を向けながらメダルケースを差し出して来る。

…俺は、ゆっくりとそのケースに手を伸ばすも。

 

「_っ」

 

…ふと、あの時のことが脳裏に蘇ってしまう。

何も知らなかった俺が、あの箱に手を伸ばしてしまった事を。

 

「…独也君?」

 

「……」

 

受け取ろうとした手を止めた俺に対し、ミカエルさんは怪訝そうな様子を見せる。

 

「……失礼します」

 

…意を決してそのメダルケースに手を取る。

それはそこまで重くは無いものだ。だが…決して、軽々しく持たないよう、慎重に受け取った。

 

「…これで受け渡しは完了しました。失礼ですが私にも用事があります、そろそろ失礼致します」

 

俺がメダルを受け取ったのを確認すると、ミカエルさんがそう言ってその場から去ろうとする。

 

「あ、あの。俺、貴方に言いたいことがあるんです」

 

「会談の席か、会談後に聞きましょう。ご安心を。必ず貴方の言葉を聞く事を誓います」

 

唐突にイッセーがそう言った途端、ミカエルさんがそう告げると彼の体が光に包み込まれ、一瞬の光を放った後消え去った。大天使さんも忙しいのだろうか。

 

「イッセー、どうたんだ?ミカエルさんに言いたい事って…」

 

「あぁ…大天使様だったらって思って一つ頼みたいことがあってな。まぁ会談後に聞いてくれるならいいけどさ」

 

どうせ可愛い天使を紹介してくれとかそう言うものかと思った矢先、イッセーの横顔は真面目なものだった。

…であれば、変な頼み事じゃなくて真面目な頼み事だろう。一瞬でも軽率な考えをした自分を少し恥じた。

 

_▲▼▲▼_

 

「お茶ですわ」

 

「ど、どうもっ」

 

ミカエルさんが去った後、俺は朱乃さんが住んでいる境内の家にお邪魔していた。

そこの和室へ通され、今上物であろう茶器を朱乃さんがそれに茶を注いで俺に渡した。

朱乃さんはどうやら茶道にも詳しく、一つ一つの動きが正に雅な物であった。

俺は小声で頂きます。と言って受け取った器を2、3回回して飲んでみる。

 

「お…いい苦味」

 

「あら?ありがとうございます」

 

それを口に含むと、緑茶特有であろう苦味が口内に広がる。

苦味に関してはおじさんが時折淹れてくれるコーヒーとかで慣れている為問題ないが…。

 

「しかしイッセーも忙しいですね?まさか部長から呼び出されるなんて」

 

あの後イッセーは自身のスマホに通知が入り、部長がメダルを保管するため戻ってくるよう通達が入ったと言う。

イッセーはメダルが入ったケースを受け取りなり、何故かサムズアップして『頑張れよ…!』と言った。どう言う意味だ。

 

「そうですわね、リアスもイッセー君の事がすっかり好きになっちゃっているわ。自分の手元に置いておかないと落ち着かない様ですね」

 

「はは…」

 

そうクスクスと笑う朱乃さんに、俺は愛想笑いで返しながら再び器を口に付けて茶を飲み干す。

…しん、とした空気が流れる。お互い何か聞きたそうな事があると言わんばかりな空気だ。

 

「「あの」」

 

言葉が重なる。そしてすぐさま沈黙が流れる。

 

「…朱乃さんからどうぞ」

 

「…ううん。私の聞きたい事は貴方が昨日言ったように、会談後に聞いてもらいます…だからお願い。貴方の聞きたい事は教える。だから絶対会談後に話してちょうだい?」

 

彼女は俺をジッと見つめ、そう告げる。

…こう言われたらもう引き返せない。

 

「…朱乃さんは。バラキエルって言う堕天使の子ですか?」

 

何故こんな事を聞いたのか、あのコカビエルとの戦いでアイツ。コカビエルは朱乃さんの事をバラキエルの娘と。

 

「…えぇ。貴方の言う通り私は元々、堕天使幹部バラキエルと人間の間で産まれた者です」

 

…さっきまで笑顔だった彼女の表情が曇り、そう答える。

その表情を見て、触れてはならない事実だと察してしまう。だけど俺は朱乃さんの表情を決して逸らさず見つめる。

彼女も俺を見つめながら語り続けた。

 

「母は、この国にあるとある神社の娘でした。それも高名の、ある日その神社の前で傷付き倒れていた堕天使の幹部でもある者…バラキエルがそこにいたのです。母はその者を助け、いつしか結ばれて…私が産まれました」

 

父は堕天使の幹部であるどころか、母親もそれはそれで凄い人らしい。

そこも後で自分で調べるとして…語る朱乃さんの表情はどこか苦しく、だけど決して絶えないように耐えていた物だ。

 

「…その、母と父は」

 

「母は…堕天使と敵対する者に殺されました。父については語りたくありません。今の私ではアレについて話すと心が保たないのです。私は堕天使を憎んでいます。母を殺した者の目的は無論、父の抹殺であり…」

 

_母親は殺されていた。そんな語るのも苦しいであろう事実を告げられた後、朱乃さんの背中から翼が広がる。片方は見慣れた悪魔の翼で、もう片方は。

 

「…高名たる神社の娘と、堕天使幹部の血を受け継いだ私の抹殺。母は私を庇って殺された。今の私は悪魔の翼と、汚れた堕天使の翼。その両方を持っています」

 

…レイナーレやコカビエルと同じ、黒い堕天使の翼だ。

朱乃さんは自分の堕天使の翼を憎しみを込めるよう握りながら語り続けた。

 

「幼かった私はその後神社から逃げ出したけれど、まだ幼かった私は追手から逃げる日々に疲れ果てて自害しようとした所をリアスに出会った。悪魔になればこんな翼とおさらば出来ると思って彼女の下僕悪魔になったの…けれど、生まれたのは見ての通り堕天使と悪魔の翼。その二つを持った最もおぞましい生き物。ふふふ…汚れた血を見に宿す私にはお似合いかもしれませんね」

 

そう自傷する様笑いながら、今でも引きちぎらんと言わんばかりに堕天使の翼を持つ手に力を込める朱乃さん。

俺は、そんな彼女を見て言葉を失ってしまった。

 

「…どうかしらマリヒコ君?これが私が語る真実。堕天使は嫌いよね?貴方の親友であるイッセー君を一度殺し、貴方のおじい様がいるこの町を破壊しようとした堕天使に良い思いを持つはずがないのよね?なら…一層こんな翼_」

 

朱乃さんは漆黒の翼を持つ手に力を込めた瞬間…俺は、その手を右手で掴んだ。

 

「…マリヒコ君?」

 

「やめてください。そんな事したらきっと痛いです…確かに俺は堕天使にいい思いを持っていません」

 

俺は彼女の顔を見つめながら、説得する様に語りかける。

…今の彼女はあの時のベルトを捨てようとした俺と同じだ。だけど…背負ってる物が違いすぎる。

 

「…なら離してください。私は自分を罰したいのです。あの時レイナーレを許した時に私はこう思った。なぜアイツを許したの?殺せばよかったのにって、学園じゃ理想のお姉様だなんて呼ばれてるけど、私の本性は所詮堕天使と同じ欲深い化け物。それとも、貴方がこの翼を引きちぎって…」

 

「だからと言って俺は朱乃さんの事を憎んだり嫌ったりしません。そんな朱乃さんが今からやろうとしてる事で苦しむのは見たくありません…寧ろ、朱乃さんが聞かれたくなかった事を聞いた俺に非があります」

 

その俺の言葉に面食らったかの様な様子を見せる朱乃さん。

それでも俺は止まらずに言う。

 

「もし朱乃さんが、このままその翼を引きちぎりたいなら俺の腕も引きちぎってください。その後腕は燃やすなりしてアーシアの治療でも治らない様にしてください。自分を罰したいのであれば俺も罰してください」

 

「!…どうしてそこまで言えるの?貴方は…こんな醜い私を受け入れるの?堕天使の血を引いてる私に。私は貴方を利用すべくあの時拾ったメダルを貴方の元に置いて、メダルを手放さない様に軽い催眠をかけたのですよ?」

 

…朱乃さんが語ったあの時とは、恐らくイッセーがレイナーレに殺され、俺も殺されかけた。次の日の事だろう。恐らく倒れた俺にタカのメダルを渡して手放さない様催眠をかけたらしい。

 

「それにここ最近貴方に色々スキンシップをしているのも…堕天使としての本能ね。貴方を手放したくない、利用したい…嫌われない様にあんな風に近づいて、私は…最低な女よ」

 

「けど、結果的に俺は助かりましたし、こうして今も生きている…寧ろ感謝してます。それと一つ訂正させてください」

 

そう自嘲する様語る朱乃さんに、俺は目を逸らさずにハッキリと語りかける。

 

「俺の大事な仲間を…今まで助けてくれた人を最低な女だって言うな」

 

…その言葉に俺は少し引いた。ちょっと重い声音で言ってしまった事に後悔した。ついこの間おじさんが見ていた恋愛ドラマで、自分を蔑むヒロインを主人公が、『俺の大事な人を悪く言うな』て言葉はアレだが慰めるシーンをつい引用してしまった。

そ言葉を聞いた朱乃さんの目に…涙が浮かび上がっていた。

 

「あ、いや!?すいません!ちょっとカッコつけちゃって…ごめんなさい!」

 

「…驚いた。マリヒコ君がそんな殺し文句言うなんて…可愛い弟って思ってたのに…これじゃ…」

 

怒られる、そう思ったら…朱乃さんは指で自分の涙を拭い、微笑んだ。

 

「す、すいません…コレはその、ドラマのセリフで…空気、読めなかったですね!」

 

「じゃあ、さっきの私の翼を引きちぎるなら自分の腕も引きちぎれってのもドラマのセリフ?」

 

俺はその言葉を聞くとつい自分の右手を見る。

…まだ、朱乃さんの腕を掴んだまんまだ。

 

「あ、アレは自分で考えて…すいません!今離し…」

 

俺は慌てて腕を離そうとすると…朱乃さんは翼を握ってた手を離し、俺の手を掴んだのだ。

 

「…朱乃さん?」

 

「ねぇ。マリヒコ君…契約しませんか?私のこの薄汚い翼を引きちぎらない代わりに、いつでも貴方の手を触ってもいいと」

 

そう言いながら朱乃さんは、俺の手を撫でる様に言う…まるでそれは、先程の翼を引きちぎる様な恨みを込めた手でなく、まるで宝石とかを扱うように優しく撫でる手だ。

 

「け、契約?…まぁ。それなら…」

 

その言葉を交わした瞬間…何か体に一瞬違和感が走った。

 

「…契約成立。これで私の堕天使の翼は貴方の物。そしてこの腕は私の物。どうかしら?堕天使なりの卑怯なやり方、これで少しは軽蔑しました?」

 

_その朱乃さんの表情はどこか危険な魅惑を感じた。笑顔ではあるが、獲物を狙う様な妖しげな目線。とはいえ…。

 

「いや…朱乃さんが翼を引きちぎらないなら大丈夫ですけど。それに俺まだあの時命を救った代わりに、オカ研で働くって契約がありますよね?」

 

レイナーレに殺されかけた時に恐らくであろうが朱乃さんと部長が助けてくれた。

あの時薄れていく意識に、紅い髪と黒い髪が見えた…二人は俺とイッセーを助けてくれた。であれば恩返しするしかない。

その言葉に朱乃さんは、またしても面食らった表情になる。

 

「…ここまで来ると少し不安になるわね。自分の体を呆気なく差し出すなんて…えぇ、決めました。私は決めました」

 

そんな朱乃さんは何かを呟いた。決めた?何をと聞こうとした瞬間…朱乃さんは俺に抱きついてきた。

 

「!?、あ、朱乃さ…」

 

「貴方は私が守りますわ。えぇ、決めたわ…貴方を狙う奴や傷付ける者がいるなら私が消してあげる。もう貴方が無茶するのは仕方ないけれど、その分私が守るわ」

 

け、消してあげる!?朱乃さん!?ちょっと物騒過ぎません!?

 

「ねぇ。お願いがあるの…『朱乃』って呼んでくれない?」

 

朱乃さんは俺を抱きしめながら頭を撫で、そう頼む様に言う。

 

「…朱乃さん?」

 

「朱乃、呼び捨てで呼んでも構わないわ…それとも、嫌?」

 

彼女は目に涙を浮ばせながらそう悲願する。

流石にここまで頼みこまれたら断るのも断れない。

 

「…朱乃」

 

「!!…嬉しいわ、マリヒコ」

 

そう呼んだ瞬間、ギュッと俺を抱きしめる力が強くなる。

こう密着されると、色々な部分が当たって色々混乱してしまう…!

 

「ねぇ…これからは二人の時は朱乃って呼んでくれる?」

 

…今の朱乃さん…否、朱乃は日頃見せるお姉様の様な声音でなく、まるで年相応の様に甘える一人の女子の様に思えてきた。

 

「あ、は、はい!」

 

そんな二人の時に呼び捨てする様に頼む朱乃さんに俺は頷くと、彼女は妖艶とも言える表情を浮かべ、俺の眼差しを見通す様に眺める。

 

「…こうして見るとマリヒコって可愛いわね?目も綺麗…」

 

「…朱乃…?」

 

_何かが、マズイ。

これ以上進めば取り返しがつかない様な…だけど。ソレに抗えない様な魅力。

 

「…マリヒコ、ここには今日誰も来ないわ」

 

「そ、そうなんですね」

 

_抱きしめられたまま俺は左右を見回すと、悪魔の翼と堕天使の翼がまるで俺を包む様に囲んでいた。

まるで捕食者が獲物を喰らう様に、だけど獲物である俺は嫌悪感などなく、寧ろ身を任せても良いぐらいに…きっと、彼女に魅了されて。

 

「…だから、このまま。二人で_」

 

_その時。演歌が流れた。

それも激しくこぶしを効かせるものだった。

 

「…え?」

 

「!!!…す、すすすいません!俺の携帯です!…あの、多分これおじさんからなので一旦電話してもいいですか!!??」

 

「え、えぇ…いいわよ」

 

先程までもどこまでも堕ちていくような甘い感覚から解き放たれるよう、朱乃は俺をゆっくりと離した。

すぐさまポケットからスマホを取り、連絡する。

 

《あ!マリヒコ君!?ごめん!!今日買った機械の操作方法が分からなくて…それとお金は後で渡すから今から言う食材買ってきてくれるかい!?》

 

…やはりおじさんだった。

この演歌の着信音はおじさんの好みでもあり、おじさん用に設定していたものだ。

 

「…えと、朱乃…今日はここで失礼してもいい…かな」

 

「そ、そうね…」

 

どうも気まずい様子になってしまい、朱乃は苦笑する様に言った。

 

_▲▼▲▼_

 

「わざわざ見送らなくても…」

 

「言ったでしょ?貴方の腕は私の物だって。なら見送るぐらいはしないと」

 

帰り支度を終え、神社から出て行く俺を見送るべく玄関先に立ち住まう朱乃さん。

 

「…その、さっきはごめんなさい。つい貴方を可愛がりたくなっちゃって」

 

「い、いえ。気にしないでください」

 

…俺は一瞬、おじさんの着信が来ないであのまま朱乃に身を任せたらどうなるか考えるも。すぐさまその考えを振り払う。

きっとスキンシップの一環、そう内心言い聞かせる。

 

「それじゃ、お邪魔しました…また暇があれば来ますね?」

 

「えぇ。いつでも来てね?」

 

彼女は俺を見送るよう笑顔を見せながら手を振る。

そして俺は踵を返し、外の様子を見る。外はすっかり午後の昼過ぎなのか日は少し傾いていた。とは言え買い物とかしてもまだ暗くはならないだろう。

そして俺が歩き出した瞬間…。

 

「_待って」

 

その後ろから聞こえた声は、まるで去るものを止めるように、何かに追い縋るような声だった。

 

「…朱乃?」

 

踵を返さず、振り返るとその呼び止めた声の主であろう朱乃の姿が目に映った。

 

「…えと、忘れ物は無い?」

 

「?…えぇ。スマホや財布はキチンとポケットの中ですよ」

 

ポケットを叩くよう確認し、俺はそう返した。

 

「ごめんなさい、呼び止めて…また明日ね?マリヒコ」

 

「はい、また明日…朱乃」

 

お互い別れの挨拶を交わし、再び俺は出口でもある鳥居に目を向けて歩き出す。

そして鳥居を潜り、石段をコツコツと下る。

 

「ん?…またおじさんからかな」

 

スマホが振動し、ポケットから取り出して確認すると…今度はおじさんから出なくイッセーからのメッセージだった。

 

【どう?アレから時間経ったけど…出歯亀だったら悪い】

 

【何が出歯亀だ。朱乃さんが淹れた緑茶美味しかったですよ】

 

一度石段を下がる足を止め、そんな慣れた様子でお互い軽口を交わすようメッセージを返す。

 

【えぇー?本当にそれだけでござるか?それとこれはマジな話な。朱乃さんの過去は大体部長から聞いた。俺は朱乃さんが堕天使だって聞いても嫌じゃ無いからそこは安心してくれ】

 

…朱乃の過去はどうやら部長から聞いたようだ。

そのメッセージを見て安心する。少なからずとも堕天使であるレイナーレに一度殺されたイッセー。朱乃に堕天使だから憎いとかそう言うのがなくて良かった。

 

【了解。じゃあ今からおじさんからお使い頼まれたから買い物してくる】

 

【オッケー。ついでに俺にエロ本も頼む、『牛柄ビキニ爆乳娘のハーレムリゾート』ってやつな】

 

そんなメッセージを無視する様に俺はポケットにスマホを入れ、再び石段を下る。

 

_▲▼▲▼_

 

彼を見送った後、私はぽぅっと惚ける様に玄関にまだ立っていた。

あの時もし彼のおじい様からの電話がなければ今頃私は彼と…。

 

「…」

 

『俺の大事な仲間を…今まで助けてくれた人を最低な女だって言うな』

 

あの時の彼の言葉、あの子自身はドラマから取ったセリフだって言ってた。

じゃあ、もし仲間って言葉を…。

 

「意外とあの子って大胆なのね」

 

…私はもう気づいた。気づいてしまった、あの子に抱く私の感情を。

きっと彼の過去は辛い物。だったら受け入れる、あの子が私の正体、歪さを受け入れた様に。それと…。

あの子が帰る時に見せたあの背中、まるでどこかに消え去る様な感じがした、だからつい引き止めてしまったのだろう。

 

「…私が守る。もう失わせない」

 

私はアイツとは違う。母が殺されかけたと言うのに来なかったアイツとは。

 




おじさんがもしかしてヒロイン…てコト!?

もうすっかり10月入りました。時が過ぎるのは本当に早い物です。
皆様は以如何お過ごしでしょうか。私も小説をエタら無い様頑張って書き続けたいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。