気持ちが湧いてきたらやらずにはいられない。私の好きな言葉です。
「よっ、と!今!」
「は、はい!」
早朝、俺とギャスパー君は旧校舎付近にある森の広場で時間停止の特訓をしていた。
俺がボールを打ち上げると同時にそれをギャスパー君が停めると言う訓練だが…。
「あっ!?ご、ごめんなさい!また…」
「だ、大丈夫大丈夫!解けたらもう一回行こうか!」
ギャスパー君が神器の制御をミスったか、俺の腕が停まってしまう。どうにか特訓を得て全体的に停まるなんてのは少しずつ無くなっては来てるけど、まだ一部が停まると言うことが度々起きてしまっていた。
そして特訓から数分後、一旦休憩を取ったのだ。
「お疲れさん。上手く行ってるか?」
「んー…ぼちぼちかな」
木に背中を寄り添って休憩してる横でイッセーがそう問いかけてくる。
特訓自体は俺とイッセーの代わりばんこで交代してて、お互いに用事があれば代わっているのだ。
「皆さーん!お茶をどうぞ!」
そこへ同じく俺らの特訓に付き合っていたアーシアが紙コップに注いだ茶を俺らに配ってくる。彼女も同じ『僧侶』としてギャスパー君と親睦を深めたいのか、少しずつ会話は交わしてるようだ。
「お、ありがとうアーシア!」
「助かりますっ」
イッセーと俺がその茶を受け取り、俺の付近で体育座りして休憩してるギャスパー君も申し訳なさそうに受け取る。
「ありがとうございます…それとごめんなさい。特訓が上手くいかなくて…グスン」
さっきの俺の腕を停めた事をまだ気にしてるのか、半泣きしながらそう言う。
どう慰めたら良いものか、良い言葉が思いつかない。
「あー…大丈夫大丈夫。よっぽど聖剣に斬られるとか光の槍に貫かれるとか、その痛みに比べれば大した事無いって」
「いやお前、それはそれでヤバいぞ」
俺の発言に対してそうイッセーにツッコまれる。いや死ぬよりかは大丈夫でしょうに。
「まぁ…二人とも!確かに俺らは未熟かもしれない!けどその分伸び代があるってもんだ!そう…俺達には夢がある!!俺達の力を合わせればどんな事も不可能を可能にできる!!」
「い…イッセー先輩…!」
「イッセーさん…!!」
そうイッセーは胸を張り、俺らを励ますようにそうドン!!と効果音が出そうなほどはっきりと宣言した。それを聞いたアーシアとギャスパー君は尊敬する眼差して彼を見つめる。確かに立派…立派だけど。
「なぁマリヒコ。お前なんだその目??その呆れたを通り越した変な目は??」
「ベツニー。ワーイッセーサンリッパデスネー」
「棒読みやめい!!…ところで聞きたいんだけどよ?」
突如俺に何か耳打ちしてくる。なんだ?
「朱乃さんとどこまで行った?」
「何がだよ」
うん、予想通りくだらん質問だった。大体どこまで行ったとか…あの時は突然朱乃に抱きしめられ、悪魔の翼と、柔らかい堕天使の翼が俺を包んで、そして押し倒されかけた後…。
「…マリヒコ?おーい、何ぽけーとしてんだおい」
「…何もなかったヨ。はいはい休憩時間終わり!特訓開始!」
さっさと休憩時間を切り上げるように言うと、イッセーが何か燻しげに、と言うか何か温かい目で俺を見てくる。目を突いたろか。
その後何回か訓練をしてる最中、イッセーが何か呟き始める。
「…思ったんだけどよ、この調子でならある程度は行けるけど、今の俺らじゃ神器の力を引き出せないよな。はっきり言っちゃ知識不足だしさ」
「まぁ、言われてみれば…調べようにもどう調べれば良いかわからないしね。詳しい人いればいいんだけど…」
確かに神器の力はどの様な物かは分かるが、力を引き出す方法自体はまだそこまでわかってない。精々何回か使って慣れると言うことぐらいだ。
…どうせなら師匠、と言うか先生みたいな人が欲しい。神器を深く理解して、尚且つ経験も積んでる人…俺とイッセーが顔を見合わせると、ふとある人を思い出した。
「「…ないないない」」
お互い考えは合ってはいたが、それを否定する様首を横に振る。
あの人は悪魔にとっては敵である立場だ。まぁこの前アドバイスはしてくれたが。
とは言えあの人ほどの知識を持つ人が先生の様な人になってくれれば大助かりだ。まぁそう都合よくはいかないだろう。
_▲▼▲▼_
「_さて、行くわよ」
三代勢力の会談日。俺らオカ研は全員部室に集まっていた。
部長の一言で全員頷いて、行く準備を整えていた。ただ一人を除いてだが。
『ぶ、部長!!み、みなさぁああぁああぁあん!!』
部室に置かれてる段ボールから声がする。無論ギャスパー君が入ってる。
なぜ彼だけがああなのかはキチンと理由がある。いくら訓練してたとは言え神器はまだ不安定、もし何かあれば会談どころでは無くなる。
「ごめんなさいギャスパー。今日の会談は大事なものだから。まだ神器の制御が不安定な貴方を会談の場に連れて行くわけにはいかないの」
部長はそう彼に優しく言う。俺とイッセーも励ます様続けて言う。
「ギャスパー?大人しくしてろよ。部室に俺の携帯ゲーム機や漫画も置いとくから、好きに遊んでいいし読んどいていいぞ。お菓子もあるから…まぁ漫画やゲームを汚さない様に食べていい。紙袋もあるから寂しくなったら被ってくれ」
「俺も恐竜図鑑とかも持ってきたから、読んでてね?」
「は、はいぃいぃ!!二人とも…!!」
「マリヒコ先輩のチョイス…」
小猫ちゃんがそう、何か軽く呆れた様子で言う。ごめん!けど読んだら意外と面白いよ!うん!
そして俺らは部長へ続く様部室を出始める。
「二人とも、やっぱり面倒見がいいね?」
それを見た木場が微笑みながら言う。まーせっかく出来た男…うん、男の後輩だろうし、それに彼は過去に悲惨な目に遭った。せめて寄り添ってやらなければならない。
_▲▼▲▼_
部長が会議室の扉の前に着くと、コンコンとノックする。
「失礼します」
部長が扉を開き入り、俺らも続く様入ると…そこはなんも変哲の無い会議室じゃなく、今日の会談のために用意されたであろう豪華なテーブルが置かれていた。俺が左右見回すと、それぞれテーブルにはアザゼルさん達がいる堕天使達、ミカエルさんがいる天使達。そしてサーゼクスさんが座っていた。その隣にはこの間出会った、ヴァーリ…さんもいた。
…その光景を見て息を呑む、もし会談が上手く行かなかったらこの場で争うかもしれない。それだけは避けたいのだが、俺の頭にはそうならない様にする方法が全く思いつかない。
「私の妹と、その眷属達だ」
そう考えているとサーゼクスさんが俺らを紹介する様に言う。
よく見てみればミカエルさんはこの間会った時と変わらない、美しい白いローブ姿ではあるが、アザゼルさんはこの間の浴衣姿ではなく漆黒のローブ姿だった。流石にこの場では浴衣姿は合ってないのはわかっているか。
更にはこの間のライザー騒動で会ったメイドさん、グレイフィアさんやレヴィアタンさんもこの場にいて、レヴィアタンさんはこの間会った時の魔法少女姿でなく、装飾が施されたスーツ姿だ。この場で魔法少女姿は合わなすぎるとは流石にわかっているのか。
「報告は受けています。改めてお礼を申し上げます」
「悪かったな。俺のところのコカビエルが色々やらかしてよ」
部長にそう丁寧に礼を言うミカエルさんとは対照的に、アザゼルさんは適当に悪びれもなく言う。天使と堕天使のお偉いさんはやっぱり違うものか。
部長はミカエルさんに対しては冷静に振る舞い一礼するも、アザゼルさんに対してはその態度に口元をひくつかせていた。
「ではそこの席に座りなさい。グレイフィア、お茶を淹れてあげてくれ」
「畏まりました」
サーゼクスさんがそう俺らを席に案内した後、グレイフィアさんはお茶用の台車を俺らの席まで移動させる。
そして恐らく悪魔側の席には支取会長…ソーナ会長、その眷属であろう匙達も座っていた。
先ずは部長が席へ座り、その後俺を含むグレモリー眷属が続く様に席へ座った。
「全員が揃ったところで、会談の前提条件を一つ。ここにいる者たちは、最重要禁則事項である『神の不在』を認知している」
神の不在…神の死。
恐らくソーナ会長や、グレイフィアさんもそれを知っているのか、サーゼクスさんのその言葉に驚いた様子を見せなかった。
「では、それを認知しているとして、会談を始めよう」
サーゼクスさんはそう口火を切る様告げる。
俺が望むはただ一つ、もう争いが起きない事。
だけど、ただ願えば、泣き叫ぶだけでは平和は来ない、無知であれば尚更だ。
ならばせめて、この場にいる三大勢力の人達の言葉を聞いて学ぶ。それが俺のできる事だ。
_▲▼▲▼_
「と言うように、我々天使は_」
「そうだな、その方がいいかもしれない。このままでは確実に三勢力とも滅びの道を_」
結論、全く話についていけません。
ミカエルさんとサーゼクスさんがお互い話し合い、その話を横から聞くもお互い話のテンポが良く、第三者である俺には頭で整理する時間が全く無かった。
「ま、俺らにゃ特にこだわる必要はないけどな」
アザゼルさんも時折横からそう口出しして、その言葉で周囲に緊張が走るも、頭の本人はその反応を楽しんでいる様子だった。
…これはマズイ、さっき聞いて学ぶと息込んだ矢先。すっかり眠気が俺に襲いかかって来た。この場で今の敵は?天使?堕天使?否、眠気。こんな大事な場面で寝てしまったら元も子もない。
幸いグレイフィアさんが淹れてくれた紅茶は今回の会談の為か、甘さ控えめで淹れられており、飲む度に眠気が軽く飛ぶ程美味しかった。とはいえお代わりし過ぎたらそれはそれである意味危ないのだが。
「(マリヒコ君?お手洗いに行きたくなったら私に言ってください。上手く言いますので)」
「(い、いえ。まだ大丈夫です)」
恐らく眠気が来る度に紅茶を飲む俺に察したのか、朱乃さんがそう小声で耳打ちする。流石に目立ったか…?
「(ならいいですけれど…今回の会談。緊張してるのはマリヒコ君だけじゃないようですわね)」
ふと、朱乃さんの視線が部長が座ってる方に向く。俺もそれに釣られるよう見てみると…。
…顔は、凛としているが、手元は緊張しているのか震え、それを支えるようにイッセーの手が繋がれていた。
…そうだ。この会談は失敗してしまえば取り返しがつかない。俺ばっかり緊張して馬鹿みたいにじゃないか。緊張で視界がすっかり狭まっていたじゃないか。
「さて、リアス。そろそろ先日の事件について話してもらおうかな」
「はい。ルシファー様」
次に部長の喋る番となり、部長と会長、そして朱乃さんは立ち上がる。
部長はサーゼクスさんに言われた通り先日の事件…コカビエルとの戦いの一部始終を報告し始める。
銀のメダル…セルメダルを使い、メダル怪人ヤミーを作り上げたバルパー。
更には謎のベルトで奪った黄色のメダルを使い、偽りのオーズに変身したバルパーとコカビエル。
_その戦いで乱入した、謎の機械のスーツの者と、白龍皇の事も。
…部長は確かにはっきりと、三大勢力の人々の目を逸らさずに報告する。
だけどその近くにいる俺、基俺達には見えた。僅かながら部長の手が緊張で震えていた事を。
もし少しでも違えれば取り返しの付かない会談、彼女とて側から見れば完璧な人ではあろうが、決してそうでは無く、部長もまた悪魔ではあるが年相応の人と同じよう人と同じ心を持っていた。
ただ、立場が違う故に責任を持ってしまった…けど、部長は決してそれから逃げないで自分なりに立ち向かっていた。
「_以上が、私、リアス・グレモリーとその眷属悪魔。契約者である人間が関与した事件の報告です」
報告を終え、会議室にいるみんなに一礼する部長。
サーゼクス様が「ご苦労、座ってくれたまえ」と告げると、部長は凛とした態度で着席した。本当にお疲れ様です部長。
「ありがとう⭐︎リアスちゃん⭐︎」
そんな部長をレヴィアタンさんはウィンクしながら労う、この人はマイペースだなぁ…流石魔王様??
「さて、アザゼル。この報告を受けて堕天使総督の意見を聞きたい」
サーゼクス様がそう告げると、全員の視線がアザゼルさんの方へ向く。
そして堕天使総督は不敵な笑みを浮かべながら話し始めた。
「先日の事件は我が堕天使中枢組織である『神の子を見張る者』の幹部、コカビエルが、他の幹部及び総督の俺に黙って、単独で起こしたものだ。無論例のコカビエルが持ってたベルト…名前は『コアドライバー』、確かにアレは俺が作った物だが、勿論廃棄する予定だった。けどコカビエルが無断で持って行って使用した、そして乱入した機械のスーツはこれまた俺が開発した新兵器、『バース』だ。コイツについては後で話す。その後奴の処理は『白龍皇』が行った後、組織の軍法会議でコカビエルは『
…あの戦いに乱入した者の正体はバースて言うのか、けどまだ中の人が誰かはわからない…いや、あの声はどこかで聞いたことがある気がする。ノイズ混じりではあったが、女性のような声だった気がする。
「…説明としては最低の部類…いやそれ以上、それ以下と言うべきですね?貴方個人が我々と大きな事を起こしたくないと言う話はご存知ですが、今回は貴方の開発した道具でバルパー、及びコカビエルが偽りとは言え、オーズの力を手にしたのは事実ですよ?」
ミカエルさんが睨みを効かせながらも言う。
「それは悪かったって、だからこそバースを送り込んで今のオーズにクワガタのメダルを送り込んだんだ。俺自身コアドライバー自体は失敗作だったと思うぜ?同じ色のメダルでしか起動しかしない上に、千枚以上のセルメダルもなきゃダメ…コストが掛かりすぎだ。それと俺自身戦争に興味なんて無い。これでいいだろ?」
だが、アザゼルさんはそう軽く謝罪はするものの、悪びれも無く言う。
…言ってる事はわかる、そのコアドライバーと言うものはコカビエルが勝手に持ち出した物だ。とは言え少しは責任を感じてもらいたいものだ。
サーゼクスさんが怪訝そうな表情をしながらも、質問をし始める。
「…アザゼル、聞きたい事がある。どうしてここ数十年神器の所有者をかき集めている上に、メダルの研究をしている?最初は人間達を集めた上に、メダルの力を利用した戦略増強を図っているかと思っていた。天界か我々に戦争を仕掛けるのでは無いかと予想していたのだが…」
「そう、いつまで経っても貴方は戦争を仕掛けてこなかった。『白い龍』を手に入れたと聞いた時には、強い警戒心を抱いた物です」
その言葉にミカエルさんも動揺するように言う。
二人の意見に苦笑しながらも、アザゼルさんは説明するように言う。
「神器の研究及び、セルメダルを使った道具の開発の為さ。何なら一部の研究資料、及び俺が開発したメダルシステムをお前達に送ろうか?流石にバースは送れないが、他も役に立つと思うぜ?それに戦争なんざ仕掛けねぇよ。戦なんざしたら研究する暇も無くなるしよ。俺は今の世界で十分満足しているさ。部下には『人間の政治にまで手を出すな』って強く言い渡してるぐらいだぜ?そりゃ独断で動く奴もいるが、キチンと罰は受けさせているさ。宗教にも介入する気はねぇし、ましてや悪魔の業界にも手を出す気はねぇ…たく、俺の信用は三すくみの中でも最低かよ?少しは信用してほしいもんだ」
「それもそうだ。少しでも信用できないね」
「そうですね。少しでも信用したら危ういと思います」
「その通りね⭐︎少しでも信用出来ないわ⭐︎」
サーゼクスさん、ミカエルさん、レヴィアタンさんが続け様にそう意見を言う。わぁ、息ピッタリだ。けど気持ちは分かる、俺だってそう心の中でその通りだ。少しでも信用出来る気がしないって言ってしまったもんだ。
そんな言葉を聞き、少しも信用出来ない堕天使総督様はつまんなさそうに指で耳をかっぽじりながらぼやく様に言う。
「チッ。神や先代ルシファーよかもっとマシだと思ったが、お前らもお前らで面倒くせぇ奴らだな。まぁもういい時期か…わかった、あーわかったよ。それなら和平を結ぼうぜ?元々そのつもりでここに集まったんだろ?天使も悪魔もよ」
和平_今、堕天使総督はそう言った。
その一言でアザゼルさん以外の会議室のみんなが驚いた様子を隠せていなかった。無論俺もだ。
「そ…それってもう、みんな戦わなくていい…て事ですか??」
つい俺はそう言ってしまうも、アザゼルさんは平然とした様子で俺に言う。
「少なくとも三大勢力はな。他の神話の奴らとか後々面倒だが…それともお前、戦いたい??」
その発言で俺は思いっきり否定するように首を横に振る。それを見たアザゼルさんはやっぱりと言ったような、どうもいやらしい笑みを浮かべる。
…まさか色々な事件を起こした堕天使の総督からそんな発言が出てくるなど思いもしなかった。恐らくそれは俺だけでなかろう。
「…そうですね。私も悪魔側とグリゴリに和平を持ちかける予定でした。このまま三すくみの関係を続け、無駄な争いをすればこの世界の害となる。それに…今代のオーズが平和を願うのであれば私も嬉しいです…天使の長である私が言うのもなんですが、戦争の大本である神と魔王が消滅したのですから」
ミカエルさんが俺に優しい笑みを向けながら、そう言う。
神社に出会った時、ミカエルさんは和平を願っていたのは聞いていた。
その発言にアザゼルさんは軽く吹き出すよう笑っていた。
「ハッ!!あの堅物ミカエル様が言うようになったね?男子三日会わざればって奴か?アレほど口を開けば神、神、神様の言う通りだって言ってたのにな」
「…失った者は大きい。けれどいない者をいつまでも求めては前に進めません。迷える人間達を導くのが、我らの使命。神の子らをこれからも見守り、先導していくのが一番大事な事だと、私達セラフのメンバーの意見も一致しております」
「おいおい?今の発言は…『堕ちる』ぜ?まぁ今の『システム』はお前が受け継いだんだったな。いい世界になったもんだ。俺らが『堕ちた』頃とはまるで違う」
アザゼルさんがミカエルさんの発言に軽く皮肉そうな笑みを浮かべつつそう返す。堕ちるってのは恐らく天使が堕天使になる事を示してるだろうが…システムについては分からずじまいだ。
「我らも同じだ。魔王がなくとも種を存続するために、悪魔も先へ進まなければならない。戦争は我らも望むべきものでは無い…次の戦争をすれば、悪魔は滅びる」
サーゼクスさんも同意見と言わんばかりに言う、それにアザゼルさんとミカエルさんは頷いた。
「そう、次に戦争をすれば、間違いなく三すくみは共倒れだ。一つ生き残っても他の勢力に喰われるだけだ。そして人間界にも影響を大きく及ぼし、世界は大混乱になる。そうなったら戦争を起こすとかそう言う問題じゃなくる」
_先程までヘラヘラしてたアザゼルさんの表情が、急に真剣な趣きになる。
「神がいない世界は間違いだと思うか?神がいない世界は衰退するだけだと思うか?違うな。悪魔、天使、堕天使…そして人間には欲望ってもんがある。それは綺麗汚いの問題じゃ無い、生きる為に喰らい、発展し、次の世代へと繋げる欲…その結果、俺もお前らも今現在こうやって元気に生きている」
そう語りながら、両手を広げながらハッキリと言う。
「_神がいなくても、世界は回るものさ」
…その言葉は、ハッキリと理解できた。
欲望、響き自体はなんとなく嫌なものだが、それ無くしては人々は発展しなかっただろう。
美味しいものが食べたい、より良い暮らしをしたい、夢を叶えたい。
問題なのは、その欲のために他人を傷つける事…欲をどう上手く制御し、自分のやりたい事を叶えるかが問題だろう。
その後、会談は今後のことを話した。側から聞いてた俺とイッセーは分かったような分からない様子に、時折顔を見合わせていたが…結局の所、ここにいるみんなは戦争を望んで無い様だ。それだけでも安心した。
「_と、こんな所だろうか?」
サーゼクスさんが話を終える様に告げる。その言葉に俺たちを含めたこの場にいる者は肩から力が抜ける様に大きく息を吐いていた。
やっぱりこう言うのは慣れない物だろうが、何事も経験だ。
グレイフィアさんが疲れたみんなの為であろうか、紅茶の給仕をしてる最中、ミカエルさんがイッセーの方に視線を向けて言う。
「さて、話し合いも大分いい方向に進みましたし、そろそろ赤龍帝殿のお話を聞いてもよろしいかな」
その言葉と共に全員の視線がイッセーへ移る。神社でミカエルさんが去る際にイッセーが、ミカエルさんに聞きたいことがあるて言っていた。
イッセーは一度アーシアの方へ顔を向け、頷くと聞き始めた。
「アーシアをどうして追放したんですか」
その言葉を聞いて、俺は驚きはしたが納得はした。
…今のイッセーにとってアーシアは大事な存在。彼女は追放される前、そして神が死んだと知って尚深い信仰心を持っている。
そんな彼女がなぜ追放されたか、イッセーは勿論、俺も気になっていた。
その質問に対し、ミカエルさんははぐらかさずに応える。
「それに関しては申し訳ないとしか言いようがありません…神が消滅した後、加護と慈悲と奇跡を司る『システム』だけが残りました。『システム』とは簡単に説明すると、神が行っていた奇跡などを起こすもの。神は『システム』を作り、これを用いて地上に奇跡をもたらしていました。悪魔祓い、十字架などの聖具へもたらす効果、『システム』なくして地上に奇跡は舞い降りません」
ミカエルさんが先程言っていたシステムは、今説明された通りのものだった。なぜその説明が行われたのか、俺とイッセーが顔を見合わせると、お互い頷く。おそらく俺とイッセーが抱いた疑問は同じだろう。
「…神が死んだから、その『システム』の制御が難しくなったのですか?」
次に俺はそう聞くと、ミカエルさんは頷いた。
「その通りです。『システム』はまだ未知数な所があり、神以外が扱うのは困難を極めます。下手に扱えばすれば地上に悪影響を及ぼす危険性もあります、それ故に私を中心に『
「…じゃあ、アーシアが追放されたのはその『システム』のせいだって言うんですか?」
イッセーの問いに、ミカエルさんは一瞬暗い面影を見せるような表情になるものの、語り始めた。
「…はい、『システム』に影響を及ぼす可能性があるものは教会に関する所から遠ざける必要があったのです。もし影響が及べば奇跡や加護の力が弱まる危険性があった、一部の神器も影響を及ぼす物もあります…これはアーシア・アルジェントの持つ『聖母の微笑』も含まれます。貴方の持つ『赤龍帝の籠手』や『白龍皇の光翼』、『オーズ』もその可能性があります」
「??…まだイッセーや俺の持つ力がその『システム』に影響を及ぼすのは分かりますけど、アーシアの神器が影響を及ぼすのはなんで…」
「…多分だけど、『聖母の微笑』は悪魔も堕天使も癒せるから、じゃ無いですか?」
ミカエルさんの説明を聞いて俺はその疑問を口にしたが、イッセーが答えた。
_そして俺はこの言葉を思い出した。
『神器が神様の贈り物なら!きっと世界を少しでも良くしようとアーシアに贈られて_』
…まだ悪魔になる前に、聖剣が奪われた事を伝えたゼノヴィア達。アーシアを断罪すると刃を向けた際に俺が彼女らに啖呵を切って放った言葉だ。
結局の所神様の贈り物では無く、単純にランダムからアーシアに選ばれただけのものであった。そのせいで彼女の人生は苦難を迎えてしまった。
だけど同時に、何者であろうと癒せる神器をアーシアが授かったのはある意味正解だと思う。悪魔にも手を差し伸べる優しい彼女ならではだ。
俺がそう思う最中、ミカエルさんは説明を続けた。
「はい、信徒のなかに『悪魔と堕天使を回復できる神器』を持つ者がいれば、周囲の信仰に影響が出ます。信者の信仰が我らが天界に住む者の源。その為『聖母の微笑』は確かに素晴らしい神器ではありますが、『システム』に影響を及ぼす禁止神器としています。そして神器以外にも影響を及ぼす例としては_」
「神の不在を知る者、ですね?」
神器以外にも影響を及ぼすもの、ミカエルさんの説明に答えを出すようにゼノヴィアがそう答えた。
「えぇ、そうです。ゼノヴィア、貴方を失うのはこちらとして痛手ですが、我々『熾天使』と一部の上位天使以外が神の不在を知った者が本部に直結した場所へ近づけば『システム』に大きな影響が出るのです…ですが、貴方とアーシア・アルジェントを異端にするしか選択肢がなかったとは言え、責任は全て私にあります。申し訳ありません」
すると、ミカエルさんは申し訳なさそうにアーシアとゼノヴィア頭を下げる。
二人はまさか、自分より格上であろう天使様に頭を下げられるとは思ってもなく、目を丸くしていた。
だけどすぐにゼノヴィアが首を横に振り、笑顔を見せて言う。
「頭を上げてくださいミカエル様。私はこの歳になるまで教会に育てられて信者として歩んだ身です。確かに理不尽に感じてはいましたが、理由を知れただけでも心喜ばしいです」
その言葉を聞いてミカエルさんは頭を上げ、次にアーシアに言葉を向けた。
「自分の意思で転生したとは言え、貴方が悪魔になった事はこちらの罪でもあります」
「いいのです…勿論自分で進んで悪魔になったとは言え、時折後悔も致しましたが、教会に仕えていた頃にはできなかった事、封じていた事。そして未知なる経験が私の日常を華やかに彩ってくれました。そんな事を言えば他の信徒に怒られるかもしれませんが…様々な人と出会って、今私はこの生活に満足しているのです」
アーシアが悪魔になった理由は単純だ。人間のままであればいずれ人としての寿命が来て、悪魔であるイッセーと生き別れてしまう。無論半ばヤケクソではあったのだが、決して自分の選択した事には引きずるほど後悔はしていない。
「ですのでミカエル様、自分を責めないでください。この幸せは私だけじゃ成せなかったもの、大切なヒト達が沢山できましたから。それに憧れのミカエル様とこうしてお会いできるだけでなく言葉を交わせるなんてとても光栄です!寧ろ私が頭を下げるべきだと思います」
アーシアが手を組みながら、俺達を見回しながら言う。
そんな言葉を聞いてミカエルさんは、安心したかの様な表情を見せる。
「アーシア・アルジェント…ありがとうございます。貴方の寛大な心に感謝します。頭は下げなくともよろしいですよ?デュランダルはゼノヴィアにお任せします、サーゼクスの妹君の眷属ならば下手な輩に使われるよりも安全でしょうし」
「…それとアザゼル様、聞きたいことがあります」
ミカエルさんの言葉を聞いた後、アーシアはアザゼルさんに視線を向けた。
「お?なんだ?」
「…今、レイナーレ様はどうしてらっしゃいますか?」
その言葉に、イッセーが少し驚いた表情を見せる。まさかここでアーシアからレイナーレの名が出ると思ってもなかっただろう。だけどアーシアを信じているのだろう、すぐさま真剣な表情に戻る。
「レイナーレか、確かお前を騙くらかして『聖母の微笑み』を抜き取ろうとした堕天使だよな?勿論『神の子を見張る者』の拠点に戻った後、裁判にかけて罰は受けさせた」
「…その罰はいったい」
「俺の作った道具の実験台だ」
実験台、その言葉を聞いてアーシアは無論、イッセーや木場はビクッとした様子を見せた。その後木場は口を開き問いただす。
「…僕が口を挟む資格は無いだろうが、その実験は」
「安心しろ、お前が関わった『聖剣計画』ほど非道じゃ無いぜ?とは言え今のレイナーレは、俺特製堕天使としての能力も封じられる上に逆らえば首を掻っ切られる首輪を付けている。ハッキリ言ってアイツが起こした行動は下手したら堕天使と悪魔の戦争に勃発してた。死刑じゃ無いだけ有情だと思うぜ?」
その言葉を聞いて、まだ納得はしてないが、これ以上追求しないと言わんばかりに「そう」とだけ木場は呟いた。
「レイナーレ様には、お会い出来ますか?」
「会うも何も、この会談が終わったらお前らに会わせようとは思ってたぜ?まさか嬢ちゃんから聞かれるとは思ってなかったから驚いたがよ」
アーシアの言葉を聞いて、アザゼルさんは軽く笑みを浮かべる様子を見せていた。
「お前も何か俺に聞いたらどうだ赤龍帝?お前とその隣のご友人がレイナーレに殺されたってのは聞いてるぜ…オーズは死にかけた程度だが、お前が望めばレイナーレは死刑にだって出来るぜ?」
「…別に死刑なんて求めてない。けどせめて聞かせてくれ、なんで夕…いや、レイナーレは俺を殺した?」
よくよく考えれば少し疑問に残る事があった。レイナーレがアーシアを殺そうとした理由…それは神器を抜き取ったら死ぬから、結果的にそうなるのだ。
俺の場合はあの場に居合わせたことからの口封じ、だがイッセーを殺した理由はどうも解せなかった。あの様子じゃイッセーの神器を抜き取る様子もなかった。
「理由は簡単さ、俺たち堕天使は害悪になるかもしれない神器を持つ者を始末している。勿論組織の将来的な外敵になるかもしれないと予測してとの事だが、もし神器が暴走すれば俺たちや世界に悪影響を及ぼしかねないからだ。『赤龍帝の籠手』を持つお前が悪魔に転生せずにもしそのまま力を発揮してしまったら、どうなってたかもわからないぜ?」
「…そうですかい。これだけは言っておきます、アーシアが無事だったから良かったけどよ、もし殺されてたらまだアンタを責めてただろうさ」
その説明を聞いて、イッセーは理解はしたが納得はまだしてなかった様子で、アザゼルさんを睨んでいた。
部長もイッセーに落ち着く様諌めてくれているか、少しは落ち着いた様子になっていた。
「中々威勢がいいじゃねぇか。まぁ俺も勿論申し訳ないとは思っているが、今更俺が謝ったところで後の祭りだ、だったらせめて行動で詫びるさ。オーズ、お前も言いたいことがあるなら言っときな」
「じゃあ、あのタカの機械は?あの機械のマークにそっちの組織のマークが刻まれていましたし」
俺の質問を聞いてアザゼルさんは面食らった様子になっていた。え、どう言うこと?
「…少しは自分が殺されかけた事に怒るべきじゃねぇか??赤龍帝、コイツある意味ヤバいぞ」
「…同意したく無いけど。まぁうん」
何かアザゼルさんとイッセーが少し呆れた様子を見せていた。やっぱタカの機械の件は後にするべきだったか?
「悪いがソイツについては会談終わりに説明させてもらうぜ…さて、俺たち以外に世界に影響を及ぼしかねん力を持つ奴らに、意見を聞こうか?無敵のドラゴン様に欲望の王様にな。まずはヴァーリ」
「俺は強い奴と戦えればいいさ」
ヴァーリさんは笑みを浮かべてアッサリと答えた。
…戦うにはいいにしても、迷惑だけはかけないで欲しい者だ。
「じゃあ赤龍帝、お前はどうだ?」
「…正直よくわからないです。なんか小難しい事ばかりでいまいち頭の整理が追いついてないのが正直な答えですね。ただでさえ後輩悪魔の面倒を見るのも必死なのに、世界がどうのこうも言われても…実感さえ湧きません」
イッセーは頰をかきながら苦笑しながら答える。
勿論その言葉に共感が持てた。何せ数ヶ月前までこんな事態になるとは思わない程の生活を送ってきた。自分の行動一つで世界が変わる可能性があるなんて事態にはどうすればいいかわからない。
「そう言われてもこっちが困るぜ?お前やそっちのオーズは匙加減一つで世界を動かせるだけの力を持ってるんだ。お前らが答えを出さない限り俺を始め、各勢力の上に立ってる奴らが動きづらくなるんだよ…だったら分かりやすく噛み砕いて説明してやる」
と、アザゼルさんがイッセーをジッと見つめながらハッキリと言った。
「兵藤一誠、もしこの会談が失敗して戦争が起きればリアス・グレモリーは勿論その眷属も表舞台に立たなくちゃならん。そうなればリアス・グレモリーを抱けないぞ?もし和平が結ばれれば後は平和の為に種の存続と繁栄の為に頑張らなきゃいかん。勿論そうなればリアス・グレモリーとそう言うコトが出来る。さてどうする??」
「はい!!!!和平で一つお願いします!!みんな平和が一番!!みんな傷つけ合うより平和の為に頑張りましょう!!部長とそう言うコトがしたいです!!」
………その言葉に俺は机に顔面を突っ伏しつつ、歯をギリギリと言わせるほど噛み締めながら拳をプルプルと震えるまで握る。
いや言っている意味はわかる。勿論将来的にもそう言うのも必要だとはわかる。だけど二人とも、攻めて場をわきまえてほしい。
「イッセー君。サーゼクス様がおられることを忘れてないかい??グレイフィアさん、マリヒコ君に気分を和らげれるお茶を淹れてくれないかい??」
「畏まりました」
そんな俺らを見て木場がグレイフィアさんにそう頼み込みつつもイッセーに軽く注意した。
顔を見上げて見回すと、部長は勿論顔を赤くしながら呆れてはいたが、サーゼクスさんの方を見ると軽く笑みを浮かべており、怒っては…いない様子だった。そして目の前に運ばれたお茶を飲みつつも、俺はイッセーを睨みつつ言葉を出した。
「イッセークン??アザゼルサン??せめて…場をわきまえましょうよ」
そんな言葉にイッセーは多少は反省したか申し訳なさそうにするが、アザゼルさんはニヤニヤしながらコッチを見てた。頼むから反省してください。そしてイッセーが申し訳なさそうにしつつ、この場にいる方々にしっかりと目を向けて発言し始めた。
「す、すいません…えと、俺はこんな事は初めてなもんで、正直言って会談の内容もほぼわからずじまいです…けど、俺が言えるのは。例え俺が持つ力が世界を無茶苦茶に出来るものだとしても、それを仲間達に守るために使いたいです。部長、アーシア、小猫ちゃん。それに他のみんながもし危険に晒されたら、俺がこの力をもってみんなを守ります!…まぁ、『赤龍帝の籠手』は悲しいぐらい使いこなせて無い上に悪魔としてまだまだ弱いんですけどね…でも、それを言い訳にして自分が出来ることをやらない訳には行きません。体張って仲間と共に生きていきたいと思います」
その言葉に会談にいる方々が、意外そうな顔だったり、感心したように頷く者がいる、とそれぞれ反応を見せていた。
「ほー?意外と立派な事言うじゃねぇか。じゃあ次はオーズ、お前だ」
そして次に俺の番と言わんばかりに、俺に視線が集まった。
…その視線に俺は緊張が走った。喉も乾くような感覚に襲われるが…だけど、言える事は言っておこう。
「…すいません。実は言いたい事ほぼイッセーと同じです。それにそもそも俺には世界を変えるとか、そう言う資格は無いと思います。今の俺は部長…リアス・グレモリーにオーズの力を預けていまして、今の俺はハッキリ言って非力な人間です。けどこれだけは言わせてください…どうかもう、戦いを起こして戦えない人達が傷つくことだけはやめてください」
俺はハッキリとそう言って、頭を下げた。
…数秒、だけど長く感じる沈黙が流れた後…拍手の音が耳に入った。
「えぇ。貴方のその願いは我らも同じです」
「戦えない者が傷つくのは私達も避けたい事実だ」
頭を上げると、その拍手をしてたであろうミカエルさんとサーゼクスさんが目に入った。アザゼルさんも予想通りと言わんばかりにニヤけた笑みをこっちに向けていた。
「と言うわけだ。ミカエルにサーゼクスよ、欲望の王様が戦いやめろと言われたらもうやめざるおえな…!!」
途端、アザゼルさんが目を見開いて椅子から立ち上がり_。
俺の、視界が一瞬、白く、染まり_。
後半へ続く。