いつの間にバーが赤く……評価を下さった皆様に感謝。
最近エガオノキミヘを聞きながら執筆してました。ホント神曲過ぎて永遠に聴いていられますね。
ゆゆゆいにてバレンタインひなたが来てくれました(歓喜)
夢を見た。樹海で戦っている時の夢を見た。大橋の上、舞い落ちる桜の花弁の下で座り込む、赤黒く染まった服を着た1つの人影を見た。その人影を目指し、己は進む。足取りは重い。頭から血を流し、それが左目に入っているのか左側の視界が暗い。
「……」
歩く。己の両隣に人が居る気がするが、そちらへは視線が行かない。人影に声をかけている気がするが、己の口からも隣人からも音が漏れることはない。人影からの返事もない。痛いほどの静寂、それは寒気すら感じる程で。
「……あ」
声が出た。どちらかというと漏れた、と言う方が正しい。少なくとも、意図して出したモノではなかった。
「ああ」
人影の近くまで来た。人影の姿を見た。 それは背中を向けていた。それは赤黒く染まった勇者服を着ていた。ソレは身動き1つしなかった。ソレハボロボロの勇者服を着ていた。それは、ソレが、ソレニ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
その体に、首はついていなかった。
「ーーーーっ!!」
自分の声にならない悲鳴と共に起き上がる。呼吸がし難くておもわず胸を抑え、荒い呼吸を必死に整える。視界がぼやけているから涙も出ているらしい。片手は胸を抑え、もう片方は涙を拭く。
「っはぁ! はぁっ! はっ……えふっ、ひっ……ふ……うぅ……っ」
嫌な夢を見た。嫌な夢を見た。嫌な夢を見た。そう何度も繰り返す程に、嫌な、怖い、恐い、そんな夢を見た。
落ち着いたのは、それから数分後。それまで自分自身の状況すら分かっていなかった。目の前には電源が付いているノートPC、そこには明日……端末の時計を見れば今日。同じ勇者であり、班員でもある3人へと渡そうとしているモノのテキストデータが写っている。どうやら書いてる途中に眠ってしまったらしい。
座りながら机にうつ伏して眠っていたからか体が痛い。それ以上に、心が痛かった。夢見が悪いなんてモノじゃない。悪夢を見るにしてもあんな……縁起でもないモノなんて見たくなかった。
「あれは夢……そう、夢なんだから……」
嫌にはっきりと覚えていることが怖かった。気味が悪い。気持ち悪い。大声で悲鳴を上げなかったのが我ながら不思議で堪らない。
「なのに、なんでこんなに……」
涙が溢れて止まらない。先日にも感じた嫌な予感が甦ってきて、夢と重なって、怖くて恐くて堪らない。誰かに会いたい。そのっちに、銀に、新士君に、誰かに会って生きてることを確かめたい。でも、確かめるには時間が悪い。時計は深夜の1時を回ってる。電話なんてもってのほかだ。
「……ごめんなさい」
それでも、かけてしまった。恐怖に勝てなかった。相手に聞こえない謝罪をして、でもどうか出てほしいと願う。
一回、二回、三回と呼び出し音が鳴る。普通出るハズがないと理解していても焦りが出る。お願い、お願いだから出て。
『ふぁい、もしもし……?』
「あっ……も、もしもし……」
かくして、その願いは叶った。でも本当に出てくれるとなると何を言ったらいいか分からなくなる。恐い夢を見たから電話しました……小学6年にもなって恥ずかしすぎる理由だ。
『……? 須美ちゃん? こんな時間に電話なんて珍しいねぇ』
「あ、えっと……その……」
私が掛けたのは、新士君だった。電話帳に登録されている友達の名前で最初に出てくるのがあ行である彼だからというのもあるけれど……きっと、私は彼なら私の心境を理解してくれる、笑わずに話を聞いてくれる……いや、私は無意識の内に彼を頼りにしていたんだと思う。
『……何か、恐い夢でも見たのかい?』
「っ!? な、なんで……」
『妹が恐い夢を見た時、よく自分の布団に潜り込んで来てねぇ。それと似たような感じがしたからさ』
「……うん、そうなの。ごめんなさい、こんな時間に……」
『いや、いいよ。須美ちゃんが眠れるまで、こうしていようか。恐い時は、無理しなくていいんだよ』
ああ、やっぱり分かってくれた。いつだって彼は、私の恐怖を理解してくれるんだ。彼やそのっち、銀が居なければ……私の心は疾うの昔に壊れていてもおかしくない。だから、あの夢が余計に恐い。
「……夢、見たの」
『うん』
「樹海で戦いがあって、終わってて……誰かが1人で、大橋に座ってて……」
『……うん』
説明している内に甦る悪夢。嫌になる程はっきりと覚えている夢の内容が、説明している私の心を引き裂きに来る。また涙が溢れて、それでも口は止まらなくて。
「赤い服、着てて。近付いたらくび、首が無くてぇ……っ!」
『……』
「あんな夢、見たくなかったのに! 覚えていたくないのに! 今もずっと頭に残って、恐くて、それで!」
『……須美ちゃん』
「……新士君……?」
『ちょっと待っててね』
その言葉を最後に、彼の声が聞こえなくなった。もしかしたら……恥ずかしい話、用を足しに行ったのかもしれない。なので、私は彼の言うとおりに待っていた。その待っている時間の静寂すら、今は怖かった。
仕方ないと思う気持ちと、何も今行かなくてもいいのに……と我ながら面倒臭い我が儘な部分が出てくる。数分待っても反応が無かったが、コンコンと窓をノックするような音がした。まさか……そう思って窓まで行き、閉めていたカーテンを開ける。
『やっ』
電話越しに聞こえる彼の声。その本人が月明かりの下、勇者服姿で私の部屋の窓の外に居た。
「な……なんで……」
休養期間中に3人を招いたことがあるから、家の場所も部屋の場所も知っていることに不思議はない。不思議なのは、なぜここに勇者服で居るのか。
『なんでって……電話越しに話してるより、顔を見れた方が安心出来るからねぇ。いやぁ勇者の身体能力はやっぱりスゴいねぇ。数分足らずでここまで来れたよ』
「そうじゃなくて! 今深夜で、どうしてここまで……」
『決まってるじゃないか』
「え……?」
『須美ちゃんが泣いているんだ。だったら自分は、いつでも駆け付けるよ』
きっと、深い意味はない。彼はそういう人だ。孫を甘やかす祖父のように誰かを甘えさせる。私だけが特別という訳じゃない。そのっちと銀が私みたいになっても、きっと彼は同じことをする。
「……う……う゛ぅ~……!」
端末を持ったまま窓を開けると、彼は勇者服を消していつか見た浴衣姿で部屋に入り、私を抱き締めてくれた。その衝撃で端末を落としてしまう。勝手に部屋に入ってきたことに文句はない。そのつもりで開けたのだから。
彼の手が優しく私の頭を撫で、違う手でポンポンと背中を叩く。人肌の温もりが私を安心させてくれて、また涙が出てくる。恐いからではない。安心したからだ。
「大丈夫、大丈夫。今は1人じゃないからねぇ」
「うん……っ」
きっと、深い意味はない。でも、私はそうじゃなくて。
「夢は夢だから。自分達4人なら、夢みたいなことにはならない……させないから」
「うん……っ」
胸の奥が温かくて。彼にずっとこうしていてほしくて。
「大丈夫……自分が守るよ」
「私も、守るからっ……一緒に頑張る、から!」
「……うん、一緒に頑張ろうねぇ」
守られるだけじゃ嫌だった。頑張ってもらうだけじゃ嫌だった。私も守りたくて、夢のようにならないように頑張りたくて。
そうして私達は……新士君は、朝方まで抱き締めてくれていた。
彼がまた勇者に変身して帰っていった後、私は眠気を我慢しつつ登校すると、既にそのっちと新士君が居た。彼女はいつものように彼の机に頭を置いて眠っていて……彼もまた、同じように眠っている。
「……むぅ」
何故か、それが面白くない。そう思った私は自分の席に鞄を置き、そのっちとは反対方向の席の椅子を借りる。そして自分でも不思議なことに、2人と同じように机の上に頭を置いた。
瞬間、他のクラスメートがざわついた。私自身なんでこんなことをしているのか不思議なのだが、やってみるとこれが意外と心地好い……その理由はきっと、目の前に彼の寝顔があるからだろう。
結局私はこの後眠ってしまい、3人揃って安芸先生に珍しそうな顔をされた後に怒られることになり、銀はまた遅刻して怒られた。悪夢は、見なかった。
それが、遠足に行く前日の出来事。
遠足当日、場所は4人が住む町から少し離れた場所にある有名かつ人気の観光地であった。国内最大と言われる庭園にアスレチックコース、 キャンプ地としても開放される広場等、中々の広さを誇る。
「さて、どこに行こうかねぇ」
「当然、アスレチックコースだろ! 勇者たるもの、それくらい軽く制覇しなくちゃな!」
「ミノさん元気だね~」
「銀の理論はよくわからないけど、今の私達ならどれくらい行けるのか……試してみたいわね」
生徒各員が班毎に散らばる中、勇者4人はそんな会話の流れからアスレチックコースを選択。辿り着いた先には合同訓練の際にも見たことのあるモノから見たことないモノまで様々で広さもある。既に来ていた他の生徒達もチャレンジしているのが見える。
4人も早速チャレンジ。スタート地点からゴール地点までに存在する全てのアスレチックを制覇しようと銀が先頭を行き、須美、園子と続き、新士が最後。体操服なので下着が見えるなんてことはない。見えたとしても新士は気にしないが。
「へへー、楽勝楽勝♪」
「まぁ、これくらいは……んっ……ね」
「ミノさ~ん、わっし~、早いよ~……あわ、わわわ!?」
「ほらのこちゃん、ゆっくりで良いからねぇ。慌てない慌てない」
「えへへ……」
吊るされたタイヤをするすると潜り抜けていく銀、時折その大きな胸が引っ掛かるものの銀に遅れず進む須美。2人に少し遅れて園子が進むものの時折タイヤから落ちそうになり、それを見た新士がタイヤから降りて園子を支える。こうなると予想して最後尾に居てよかった……と彼は苦笑いし、園子は恥ずかしそうに笑った。
その後も4人はアスレチックを進み、先に進んでいた生徒達を追い越してゴールまで辿り着いた。途中で銀が調子に乗って片手で斜面板の吊るされた紐を登りきろうとしたが手を滑らせ、あわやというところを新士にお姫様抱っこされる形で助けられ、彼に思いっきり怒られるという一幕があったが。
「お姫様抱っこは正直ドキドキした。でも新士に怒られて別の意味でドキドキした……」
とは銀の談である。普段怒らない人が怒ると怖い。その場面を目撃した全員の感想であった。
昼食はお弁当を持参……ではなく、広場にあるキャンプ地に備え付けられたバーベキュー用の鉄板を用いた焼きそばであった。班毎に分けられた材料を使い、生徒達で調理を施していく。それは当然、4人の班も変わらない。
「く~! これ美味しい奴。絶対美味しい奴!」
「まだ味付けもしてないのに、気が早いねぇ」
(新士君、料理出来るのね……失礼な話だけど意外だわ)
家の手伝いで手慣れている銀とある程度家事をそつなくこなす須美、前世の影響でざっくりとした男料理くらいなら作れる新士が材料を切り、焼きと調理をする中、唯一家事などしたことがない園子は紙皿や紙コップ等を用意する。
「ミノさんはわんぱくだね~」
「……いえ、そのっちも大概だと思うけれど……そのカブトムシを手に付けてても動じないところとか」
ふと須美が園子を見ると、彼女の左腕の肩辺りにカブトムシが一匹止まっていた。虫が苦手である須美は冷や汗をかき、園子から少しだけ距離を取る。いくら彼女が友達とは言え、苦手なモノを付けていては近付きたくないらしい。
「わっしー虫苦手なんだっけ?」
「ちょ、ちょっとだけ……」
「大丈夫! 直ぐに仲良くなれるから」
「そうかし……ら……」
苦手な虫と仲良くなれると言われても乗り気になれず、1度園子から目を離して焼いている肉を焦げ付かないように引っくり返す。そして再び園子へと視線を向けると、そこにはいったいどこからそんなに集まってきたんだとツッコミたくなる程に全身をカブトムシに覆われた園子の姿。
瞬間、須美は声にならない悲鳴を上げて逃走。直ぐ近くでそばを焼いていた新士の後ろへと隠れてぶるぶると涙目で震えるのであった。
「うーん、美味い! カブト味だな」
「入れてないから!」
「流石にカブトムシを食べたくはないねぇ……」
「美味しい~♪」
そんなこんなで出来た焼きそばに舌鼓を打つ4人。ソースの良い匂いが香り、具沢山に仕上がった焼きそばは青空の下、仲の良いメンバーで食べるということもあってか4人にはとても美味しく感じられた。
「はぁ……」
「おおう、どうした園子。テンションの上がり下がりが激しいゾ」
「だって、3人共料理出来るのに私だけ……」
「焼きそばくらい、簡単に作れるわよ」
「自分は料理と言っても、大雑把に切って炒めるくらいしか出来ないんだけどねぇ」
「う~……! そうだ、ミノさんにわっしー。今度の日曜に焼きそばの作り方教えて! わっしーの家で!」
「私の家!? まあ、いいけど」
「あたしもいいよ。この銀様が美味しい焼きそばの作り方を伝授してしんぜよう」
(仲良き事は美しきかな……とは言うもんだねぇ)
自分の名前が省かれたことは、新士は気にならない。友人の家で料理を教えてもらう、何とも女の子らしさがあるじゃないか。そんな空間に自分のような男は不用だろう……そんな考えが彼にはあった。が、そう考えていたのは彼だけだったらしい。
「そんでね? アマっち」
「ん?」
「美味しく出来たら……アマっちに最初に食べて欲しいんよ……」
恥ずかしそうに俯きながら、園子は呟くような声で言った。銀はニヤニヤとしながら口元に手を当てて新士を見て、須美はあらあらと顔を赤くしながら興味深そうに同じように視線を送る。新士自身、園子からそんなことを言われては嬉しくないハズもなく。
「……うん。その時は、是非ともご馳走になろうかねぇ」
「ホント?」
「うん」
「約束ね?」
「うん、約束」
朗らかな笑みを浮かべる新士に、園子は頬を染めながら笑った。
焼きそばを食べ終えた4人は食休みがてら、キャンプ地の近くにある高台に登り、自分達の街がある方を向いて景色を眺めていた。その際に銀がイネスは見えないかと遠くを見据え、相も変わらずイネス好きな彼女に須美が呆れの溜め息を吐く。園子も銀の隣で景色を眺め、新士は彼女達から少し離れたところでその様子を見ていた。
「なんかさ、不思議だよね」
「何が?」
「いやさ、お役目に選ばれていなかったらさ。こうして4人で居なかったんだなーって」
ふと、銀が笑いながら言った。それを聞いて、他の3人も確かに……と思う。
もし、この場の4人がお役目に選ばれなければ。新士は雨野 新士ではなく犬吠埼 楓のまま、神樹館に来ることもなく家族で平和な日々を過ごしていただろう。接点もないので、3人とは関わることは無かったかもしれない。
須美も鷲尾家に養子に出ることもなく、元の家で今とは違う生活を送っていただろう。仮に神樹館に入学したとしても、新士も居なければ接する必要もないので、当初苦手であった銀、園子とはあまり仲良くならなかったかもしれない。
園子もまた、友達が出来ないままでいたかもしれない。新士のように乃木家のことを知らない生徒等居ないのだから、そのまま遠巻きに見られ、近付き難い存在として扱われていたかもしれない。
銀も銀で、家の手伝いに弟の世話、学校では2人と違って活発なので外で遊び、接点がなければ関わることはなかった可能性が高い。最も、彼女は差別等しないタイプなので1度接点を持てばそのまま友人関係になったかもしれないが。
「今じゃこうして一緒に話したり、出掛けたり、遊んだりしてさ。不思議だなーって」
「そうだねぇ……そう考えると、勇者に選んでくれた神樹様に感謝だねぇ」
「ええ、そうね。私も……皆と友達になれて嬉しいから」
「私もなんよ~♪ アマっちもわっしーもミノさんも大好き~♪」
「きゃ、もう、そのっちったら……」
銀と新士がしみじみと言い、須美は少し恥ずかしそうに笑い、園子が満面の笑みで須美に抱き付き、彼女も受け止めて抱き返す。その後すぐにあたしも混ぜろー! と銀も反対側から抱き付き、新士はその光景をただただ眩しそうに、見ているだけで幸せな気持ちになりながら見ていた。
そんな彼の姿を見て、3人は少し不安に思う。新士はいつだって自分達を遠くから見守る。自ら輪に入ってくることはあまりない。今もこうして見ているだけで、あんなにも幸せそうに笑っている。まるで、そこに自分は必要ないと……自分は見ているだけで充分だと言っているかのように。
(2人共)
(おう)
(うん!)
須美から2人へのアイコンタクト。それだけで2人は理解する。
「アマっち~♪」
「うん? っとぉ……」
まずは園子が抱き付きにかかり、新士が受け止める。他の男子ならやらないが、彼なら躊躇いなく出来る。それだけの信頼があるのだから。
「なーに離れてるのさ」
「銀ちゃん……?」
「遠くから離れて見るんじゃなくて、友達なんだから近くに居ればいいじゃんか」
続いて銀が新士に近寄り、園子を抱き止めている新士の腕を引いて須美の居る場所まで連れていく。彼女の言葉に何か思うことが合ったのか新士は一瞬目を見開き……また口元に笑みを浮かべ、頷いてから移動する。
「新士君。前に、私が言ったことを覚えてる?」
「どれのことだい?」
「私も守る。一緒に頑張るって言ったじゃない」
「うん……覚えてるよ」
「だったら、もう私達から離れないで。近くに……側に居て?」
女の子から言われる台詞としては何とも破壊力のある言葉だと新士は思った。須美が言った言葉は、銀も園子も思っているのだと分かる。彼女達の目がそう告げていた。女の子の成長は早いものだ……そう思いつつ、クスクスと笑みが溢れる。何故なら須美の言葉はまるで……。
「側に居て、か……告白みたいだねぇ」
「こっ!? いや、あの、そういうつもりじゃ! いえ、別に新士君が嫌な訳じゃ、どちらかと言えば好意的で、でも私達にはまだそういうのは早いというか……」
「む~……む~!」
「おっと、次はあたしが仲間外れな感じに……いやはや、新士さんはモテますな~」
新士がからかうように言うと須美は真っ赤になって慌て、園子が面白くなさそうに抱き付く力を強め、銀がそんな2人と自分の温度差に少し疎外感を覚えるも直ぐに茶化す。まだまだ恋だ愛だと言うには早い。新士はともかく、彼女達はまだ中学生にすらなっていないのだから。
だが、まあ……悪い空気でもなければ嫌な気持ちという訳でもない。次第に、4人は可笑しくなって笑い合う。楽しくて、嬉しくて、心地好い。ただの同じお役目の仲間から仲の良い友達へ。そして、友達から掛け替えのない親友へと関係は変わる。その先へと至るのかは……まだ分からない。
4度目となる襲撃が来たのは、遠足から戻ってきてからの帰路でのこと。直ぐに大橋へと向かい、その中央で敵を待つ。その際、夢を見た須美とその夢の内容を聞かされていた新士は自然と赤い勇者服姿の銀へと視線を向けていた。
以前の合宿中、須美は勇者でありながら巫女の適性も持つという話を安芸から聞かされていた。須美の夢が巫女に降りるという神託、或いはそれに近い予知夢のようなモノであるならば……そう2人は考えている。荒唐無稽だとは思わない。何故なら自分達は神様という超常の存在が居る世界を生きているのだから。
守る。仲間を、友達を、神樹様を、世界を。何度も何度もそう決意する。そして、今回の敵が現れる。
「2体……!?」
「なるほど、そーきたか……!」
黄色い、蛇のように長い数珠のように球体が繋がっている部位。その先に鋭い針が付いており、反対側には金魚鉢を抱えた丸椅子のような胴体と顔のようなモノがある。相も変わらず説明に困る姿をしているソレは、後にスコーピオン・バーテックスと呼ばれる存在である。
そして、これまた顔のような部位と赤い細長い体。その先には巨大な鋏が存在し、更に特徴として周囲に6枚、両刃の剣先にも見える五角形の巨大な板。後にキャンサー・バーテックスと呼ばれる存在が、同時に現れた。
「ミノさんは赤い奴! アマっちは私と黄色い方! わっしーは援護!」
「「「了解!」」」
即座に園子が短くも素早く指示を出し、それぞれが行動を開始する。銀が向かって来るや否や、キャンサーはその鋏を突き出し、銀はタイミングを合わせて手にした双斧の片方を下から上へと振り上げて弾くが、直ぐにそれは彼女を押し潰さんと振り下ろされた。だが今更そんな単調な動きに当たる銀ではなく、攻撃の軌道上から外れてキャンサー目掛けて飛び上がり、斧を振るう。しかしそれはキャンサーの周りに浮いている板の一枚が間に入ることで防がれた。
やばっと焦りが顔に出るが、敵が反撃に出る前に須美の矢が顔らしき部分に当たり、爆発。反撃を受けることなく着地した銀は須美にお礼を言いつつ、敵から少し距離を開ける。
「サンキュー須美! こいつ、シンプルな動きであたし向けだけど、あの板が硬い!」
「次は気をつけてね、銀!」
同時に、スコーピオンに向かって行った新士と園子。スコーピオンの攻撃もまたシンプルなモノで、長い数珠のような体……尻尾の先に付いている針を2人目掛けて何度も振り下ろしていた。
「嫌な体の色と鋭さの針だねぇ……掠るだけでもヤバそうだ」
「それじゃあ、絶対当たらないようにしないとね~」
園子はいつものように傘状にした槍で防ぎ、新士は持ち前の素早さを生かしてかわし続け、数度目となる敵の振り下ろしを同時に避けたところで跳躍し、爪と槍をその顔のような部位に叩き込む。スコーピオンが仰け反ったところでその顔を蹴り、後方へと跳んで着地、1度距離を取る。
一連の流れを見れば優勢に事を進められていた。このまま油断無く行けば勝てる……4人がそう思い、新士が再びスコーピオンへと向かった瞬間、ソレは降ってきた。
「っ!? そのっち!」
「わっしー! ミノさん!」
「っ、なんだよ、これ!」
それは、オレンジ色の細い光の矢であった。その矢が大量に、さながらどしゃ降りの如く上から降ってきたのだ。咄嗟に園子が槍を上に向けて傘状に展開、近くに居た須美と銀がその中へと入り、難を逃れる。
「皆!? がっ!?」
1人その矢から逃れる形となった新士だったが、2体のバーテックスの奥に巨大な影を見た瞬間に本能的に両腕をクロスさせて体の前に出す。するとその瞬間、影から一筋の光が飛んできたかと思えば両腕に凄まじい衝撃が走り、後方へと吹き飛ばされた。
「新士君は……!?」
「アマっち!!」
「新士!」
矢は雨が止まった後に新士が心配した3人が彼が居た方へと目をやると、丁度新士が何か……巨大な槍のようなモノを受けて吹き飛ばされる瞬間だった。唖然とする須美と思わず声を上げる園子と銀。それは、戦闘中では決定的な隙だった。
再び降ってくる矢の雨。その矢のせいで身動きが出来なくなる3人。その3人に、スコーピオンが矢を体に受けつつも強引に尻尾をがら空きの横から凪ぎ払う。咄嗟に銀が双斧を盾にして2人の前に立つ……が、やはり敵の巨体を受け止めきれず。3人は、声を出す間も無く吹き飛ばされ、体を強く地面へと打ち付けた。
「が……あ……」
「ぐ……大、丈夫……か!?」
須美は痛みに呻き、園子は頭から血を流して気絶。咄嗟に防いだ銀も、口の中を切ったのか口元から血を流してふらふらとしている。
「う……げぇ……」
何とか体を起こそうとする須美だったが、立ち上がることが出来ず、それどころか内臓を傷付けたのか血を吐いてしまう。たった一撃。それだけで優勢だった戦況が大きく引っくり返された。
「ちっ……アイツか……!」
銀が2体の奥を睨む。そこに居たのは、どこに隠れていたのか3体目のバーテックス。勾玉のような形の青い体、その上部分に巨大な口があり、その下に不気味な顔がある。サジタリウス・バーテックス。それが矢の雨を降らせ、新士を吹き飛ばした槍のような矢を放った下手人であった。
スコーピオンが矢を受けた体を修復していき、サジタリウスはゆっくりと近付き、キャンサーが板で押し潰さんと3人目掛けて振り下ろしてくる。銀は直ぐ近くの須美を抱えるが、園子にまで手が届かない。
「やばっ、園子!」
「大丈夫、自分が居る!」
「っ! ナイス新士!」
が、彼女は戻ってきた新士が抱える。それを見た銀は称賛しつつ、2人で板の範囲から逃れる。そのまま止まること無く、3体から目を離さずに距離を取った。須美と園子を抱えたままではマトモに戦うことなど出来ないからだ。
「新士、大丈夫?」
「手甲の上からだったからねぇ、問題ないよ」
「……どうする? 新士」
「……」
銀の問いに、新士は沈黙で返す。どうする? と聞いてはいるが、銀自身どうするべきかは分かっている。須美と園子は今は戦えない。だからどこか安全な場所へと運ぶ必要がある。それが最優先。だが、それを敵が黙って見ていてくれるとは思っていない。故に、どちらかが敵を引き付ける必要がある。問題は、どちらがどちらをするか。
(……やっぱり、ここは防御力のあるあたしが……怖いけど、やるしか……)
同じ近接型として速度は新士に劣るが、タフさでは自分に分があると銀は思っている。なら、ここは自分が敵を引き付けるべきだと彼女は考えた。
「銀ちゃん」
「ん?」
「2人を頼むよ。自分がアイツらを引き付けるからねぇ」
「なっ!? あたしの方が防御力があるから、引き付けるのはあたしが」
3人を守るように前に出た新士の言葉に銀は反論する。だが、それは直ぐに遮られた。
「銀!!」
ビクッ!! と銀は肩を跳ねさせる。新士に呼び捨てにされたのも、大声で怒鳴られるのも初めてのことだった。そこに感じたのは、まるで悪いことをして親に怒られた時のような恐怖だった。
「……頼むよ。君の斧ならいざというときに盾に出来る。自分じゃ、守り切れないんだ」
新士は振り返りながら、今度は悔しげな声で諭すように言った。そう言われては銀も返す言葉がない。彼の速度も、2人を抱えていては十全に出せない。もし攻撃されてしまえば、避けきれるか分からない。その点銀なら、例え避けられずとも斧を盾に出来る。それだけの大きさがある。
新士を……誰かを1人残すのは、銀にとって自分が1人残るよりも怖かった。しかも相手は3体も居るのだ、無事で居られる保証なんてどこにもない。むしろ……それでも、悩んでる時間すら惜しい。だから銀は、頷いた。
「……ありがとう。怒鳴ってごめんねぇ」
銀はポン、と頭に手を置かれ、撫でられた。そこにある愛おしいという感情と、新士の良い子だと小さな子供を褒めるような笑顔を見て……言葉を聞いた銀の背筋が凍った。それがまるで、今生の別れのように思えたから。
「っ……直ぐ、戻るから。2人を安全な場所に連れていったら、直ぐに戻るから! 死んだら、許さないからな!!」
それだけ言って、銀は2人を抱えて走り出す。サジタリウスが銀の方を向き、下の顔の口が開く。その瞬間、ガガガガッ!! と音が響き渡り、サジタリウスの体に4つの小さな穴が空き、体が傾いて行動を中断。その間に銀は大橋から飛び降り、勇者の身体能力をフルに使って問題なく着地すると、そのまま樹海の中を走って離れていく。
新士は銀の言葉に小さく笑みを浮かべ、体勢を低くして両腕を広げ、1メートル程に爪を伸ばし、視線は3体の敵へと向ける。3体もその体を新士へと向けた。
「さて……あの子達を傷付けた責任を取ってもらわないとねぇ……!!」
その言葉と共に憤怒の表情を浮かべ、新士は走る。今まで守ることに割いていた分の力を、全て敵を倒すことへと注ぐ。
今、彼の孤独な戦いが始まった。
原作との相違点
・須美が悪夢を見る
・須美が分厚いしおりを作るも間に合わない
・焼きそばの約束に“主人公が最初に食べる”が追加
・銀ではなく主人公が足止めに
・その他色々
バーテックスのビジュアルの説明難しいんだよ!(床ダァン!
はい、わすゆの山場です。日常詰め合わせ、フラグ詰め合わせ回でもあります。ブレイブキラースコーピオン登場。お前ぜってぇ許さねえからな←
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)