咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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またこんなに期間が空いてしまって申し訳ありません。切実に以前のような更新速度を取り戻したい……いやでも別作品だと似たような更新速度だったしなぁ……(´ω`)

多くの誤字脱字報告ありがとうございます。球子を珠子と間違えるゆゆゆ好きにあるまじきミス。恥ずかしか!(川へダイブ

相変わらず頭が痛いですが私は元気です。今更ゼノバース2買って楽しんでるくらいには元気です。ドラクエ9も無事エルキモス倒せました。メラゾーマ反射して自爆は笑った。

fgoではバニ上狙うも無事死亡。天華百剣も言わずもがな。ロスワは兎2匹が来てくれました。そしてゆゆゆいでは大満開友奈が来てくれました。本作書いてて大満開友奈には思い入れがありますので本当に嬉しい……本作の場合、友奈の隣には同じく大満開した楓が手を繋いで立っていることでしょう。

ところで皆様、女の子同士の友情やら恋愛やらのいわゆる百合作品は好きですか? 私は大好きです。

そんな百合作品に男性キャラを入れ、友情やら恋愛やらをする二次作品は好きですか? 私は大好きです。

それらに該当する本作はどうですか? 私は大好きです。作者こそが1番のファンの精神ですので。

さて、今回は半分程説明が入ります。内容はお楽しみです。


花結いのきらめき ― 15 ―

 初めての土地の奪還戦を無事に勝利することが出来た勇者達。戦いを終えた後は少しの間を起き、樹海から元の世界の部室へと帰ってきていた。

 

 「ふぅ……ただいま、ひなた」

 

 「お帰りなさい、若葉ちゃん、皆。大戦果を上げましたね」

 

 「皆が守っていた敵を倒したから、土地を1つ取り戻せたみたい。これで行動出来る範囲が広くなったね」

 

 「うたのん、皆、本当にお疲れ様」

 

 戦いの疲労をため息に込めた後、若葉が代表してただいまと告げると巫女達が順番に声を掛ける。勇者達の勝利は土地の奪還という形で留守番組にも伝わっており、皆一様にその顔に笑みを浮かべている。

 

 「取り戻せた土地はもう行くことが出来る訳?」

 

 「勿論、行こうと思えば直ぐにでも行けるよ」

 

 「とは言え、生活するだけなら讃州地域だけで充分だとは思いますが」

 

 「相手の力を削いで、神樹様の力が増した……良いことだらけだね~」

 

 「あたしらはその実感がまるで無いけどなー。神奈達みたいに何かしら感じ取れたり出来ないし」

 

 風がふと疑問に思ったことを聞くと、直ぐに神奈とひなたからそう帰ってくる。これまでは讃州地域しか無事な土地がなかった。その地域を除いて他が赤く塗り潰された地図はまだ勇者達の記憶に刻まれている。だが、今回の勝利でその赤かった土地を1つ取り戻せた。たった1つだが、それでも確実に奪還したのだ。

 

 園子(中)が言うように、それは造反神の力を削り、その分神樹の力を取り戻したことを意味する。奪還戦で勝つことはメリットだらけなのだ。とは言うものの、目に見えて得られる成果というのは少ない為、巫女でない者は実際にその土地に行くまで実感が薄いのは仕方ないのかもしれない。苦笑いする銀(中)に、巫女達も同じく苦笑いを浮かべた。

 

 「後3、4回も土地を取り返せば、造反神は手も足も出なくなるでしょ?」

 

 「そう簡単にはいかないんだ。相手は元々天の神。その力は想像以上に強いから」

 

 「神奈さんの言うとおり、造反神は強力な神です。楽観は出来ません」

 

 「そっか。まあ焦る必要もないか。なんていうか、負ける気しないもん」

 

 「まあ、これだけ勇者が居るしねぇ。それに、負けるつもりもないしねぇ」

 

 「そうそう、まったり行きましょ。焦って帰ることなんてないよ」

 

 夏凜が軽く言うが、それには神奈が首を横に振り、ひなたが同意する。以前にも説明されたことであるが、造反神は元は天の神の所に居た神なのだ。その力の強さはギリギリまで追い詰められている現状が証明している。

 

 それを聞いても、夏凜は不敵に笑った。部室いっぱいに居る、つい先程まで力を合わせて戦ってきた勇者達。これまでも戦い抜き、勝ってきた自負。そもそも負けるつもりもない。そう楓が朗らかな笑みと共に呟き、雪花が笑いながら続いて皆の顔にも自信ありげな笑顔が浮かぶ。

 

 「……」

 

 「……?」

 

 「……新士君、やっぱり……」

 

 「うん……多分、ねぇ」

 

 ふと、友奈は水都が雪花を見ながら浮かない顔をしている事に気付いた。更に近くで須美と新士が同じような表情で小声で話しているのが聞こえた。その理由までは今の彼女では気付くことは出来なかったが。

 

 「まずは皆、お疲れ。解散! たっぷり休んで、次に備えてね」

 

 「よーし! 新しい土地を早速探検だ!」

 

 「銀ー! それタマも行くぞ!」

 

 「あたしは知ってる場所だしいいや。でも、うーん……あたしも銀だから紛らわしいな。と言っても、球子はちゃん付けするタイプじゃなさそうだし」

 

 「あ、それもそうですね。じゃああたしが若い方、そっちが年取った方で……」

 

 「なーんでお前はあたし相手だと遠慮って奴が無くなるのかナー?」

 

 「あだだだだっ! こめかみが! ぐりぐりがーっ!!」

 

 「お、おう……遠慮無いのはそっちもじゃないか? うーん、でもどっちも銀だしなー。大銀(おおぎん)小銀(こぎん)って分けてみるか?」

 

 「ミノさんにもわたしと同じように“小”がつくんだね~」

 

 風が全員に向けそう言った途端、アウトドア派の銀(小)と球子が早速とばかりに外へ行こうとする。その際に彼女が“銀”と呼んだ事でつい反応しそうになる銀(中)は腕を組みながら苦笑い。尚、彼女は探検に行くつもりはない。それは散華が戻り、勇者部へと入部して活動している合間に済ませているからだ。

 

 苦笑いする銀(中)に対して、銀(小)はにししっ、といたずらっ子のように笑いながら呟いた瞬間、素早く彼女の背後に回った銀(中)がにこやかに、かつ的確にこめかみに握り拳を当ててぐりぐりとする。受けた本人は涙目になりながらバタバタと両手を動かしていた。それを見て自身も痛そうに顔を歪める球子が提案し、それを聞いていた園子(小)はぽやぽやと笑った。

 

 「ところで……さっきから気になってたんだけど、神奈ちゃん! その服装似合ってるね! 可愛い!」

 

 「あ、ありがとう結城ちゃん。皆が樹海に行く前に雪花ちゃん達に選んでもらって……その直前で……あぅ……」

 

 「……? 神奈ちゃん、どうかした? 楓君を見て赤くなるなんて……楓君?」

 

 「似合ってる、って言っただけなんだけどねぇ」

 

 「我ながらいい仕事したわー。今度は歌野と水都も着飾らせてもらおうかな。選び甲斐があるし」

 

 「その時は是非、私も若葉ちゃんを連れてご一緒させて下さいね」

 

 「なんで私まで……」

 

 「ぐんちゃんぐんちゃん。私達も色々お洋服を見に行こう!」

 

 「高嶋さんが行くなら……」

 

 そんな楽しげな会話をしながら、皆は思い思いに時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 「……」

 

 「水都ちゃん」

 

 「……え? あ、楓さんと結城さん……それに新士君と須美ちゃんも。どうしてここに?」

 

 「水都ちゃん、部室に居た時にちょっと辛そうだったから」

 

 「自分達は少し、相談したい事がありましてねぇ」

 

 あれから少しして、自分と友奈は部室での水都ちゃんが気になって彼女を追いかけた結果、学校の屋上に来ていた。道中、小さい自分と須美ちゃんから相談は事があると言われてどうせならと同行してもらい、この場には合計5人居る……いや、6人かな。

 

 「相談なら、私は移動した方がいいかな……?」

 

 「いや、友奈も言ったけど水都ちゃんの様子も気になっていたからねぇ……何か悩み事かなってね」

 

 「え……? あ、えっと……全然悩みとかじゃなくて、ちょっと気になった事があったり……?」

 

 「良ければ聞くよ? 水都ちゃんは大事なお友達だん!」

 

 「私達も聞きます。藤森先輩は大事な先輩ですから」

 

 「あ、ありがとう。でも良く気付いたね、私の表情。うたのんも分かってなかったのに」

 

 「そんな事はないと思いますけどねぇ」

 

 「えっ?」

 

 相談の内容を聞かないようにする為かそう言ってくる水都ちゃん。彼女の優しさは嬉しいが、元々の目的は彼女の方だ。それに、言ってない事だが……恐らく、彼女と2人の悩み事、相談したい事は同じだろう。何せ水都ちゃんも、そして2人の表情が変わったのは雪花ちゃんが“焦って帰ることなんてない”と言った時だからだ。

 

 それに、自分達の事よりも他の人の事を優先する気質がある勇者の皆は先に来ていた水都ちゃんを移動させようとはしない。悩み事や気になった事があるならそれを何とかしてあげたいと思う子ばかりだ。案の定2人も友奈も、勿論自分も話を聞く気満々だしねぇ。そして、もう1人もね。

 

 「みーちゃーん、さっき気になる事があったんだけど。あら? 楓君達も一緒ね」

 

 「ほら、やっぱりねぇ」

 

 「……秋原さんの事なんだけど」

 

 自分達よりも少し遅れて屋上に現れたのは歌野ちゃん。自分達の中の誰よりも長く一緒に居て、誰よりも大切に思い合っている彼女が水都ちゃんの表現の変化を見逃すハズがない。小さい自分が朗らかに笑いながら肩を竦めると、彼女の顔に笑顔が浮かんで……また直ぐに沈んだ表情に変わり、口を開いた。

 

 水都ちゃん曰く、雪花ちゃんの“元の時代に帰りたくない”という気持ちが凄く強く感じられたということ。それ故に、もしこのまま全てのお役目を終わらせてしまった場合に一悶着あるかも知れないと不安に思っているらしい。

 

 「……実は、私達の相談というのもその事なんです」

 

 「その事……ってせっちゃんの事?」

 

 「ええ。以前、食堂で雪花さんの故郷での話をする機会がありまして……どうにも、北海道に良い思い出があまり無いようでした」

 

 「みーちゃんのは神託って訳じゃなくて、みーちゃん自身の考えなのね?」

 

 「小さい自分達の場合は直接話したからこその予想、か……」

 

 「うん……私、なんとなく気持ちが分かるんだ。うたのんと会う前の時代に戻りたくないもん」

 

 「私も……分かる気がします。もう新士君達が居ない日常なんて考えられませんから」

 

 水都ちゃんと須美ちゃんの表情が沈む。2人だけじゃなく、自分も含めた全員が少し表情や雰囲気が暗くなる。それは2人だけでなく、自分達も理解出来るからだろう。

 

 この世界は居心地が良い。出会うハズの無かった人達との出会い、それが生み出す新しい日常。笑顔が絶えない日が続き、戦いとなっても皆が居るから心強い。その思いは、1人で戦っていたという雪花ちゃんは人一倍強いんだろう。

 

 ……そして、この日常には終わりが来る。お役目の終了という形で、必ず。それを受け入れられるかどうかは皆次第だが、きっとこの世界にいたいと強く思う子もいる。水都ちゃん達の不安はそこなんだろう。自分としては、雪花ちゃん以外にも()()()()不安な子が居るんだが。

 

 「分かった。私に……もとい、私や楓くん、歌野ちゃんに任せて! なんとかしてみせるよ」

 

 「そうよみーちゃん、須美君、新士君、安心して。畑も心も耕せば芽が出るものよ」

 

 「……歌野ちゃんの言ってる事はちょっとわからないけど、頑張ってみるよ。終わる時は……綺麗に終わりたいしねぇ」

 

 「ありがとう、3人とも」

 

 「私達も、勿論出来る事はします」

 

 「最後はやっぱり笑ってお別れしたいですしねぇ」

 

 いつの間にか自分も“なんとかしてみせる”組に入っていて思わず苦笑いしてしまったが、自分としても否はない。雪花ちゃんの事は気になっていたし、ねぇ。

 

 そこで話は終わり、日も沈み始めていたのもあって皆で屋上を降りる。その道中、自分の脳裏には雪花ちゃんと……そして、樹海から戻ってきてから顔を赤くして目を合わそうとしなかったあの子の事。

 

 (雪花ちゃんが戻りたくないと強く思うのなら……君はもしかしたら、それ以上に思っているのかもしれないねぇ)

 

 何故ならあの子は……この世界()()()自分達と話すことも、触れ合うことも、笑い合うことも出来ないのだから。

 

 「楓くん? 考え事?」

 

 「……いや、何でもないよ、友奈」

 

 不思議そうにする彼女の顔が、あの子の笑顔と重なった。

 

 

 

 

 

 

 「自分の武器の事を知りたい?」

 

 「はい」

 

 初めての攻勢に出た戦いの数日後、楓は聞きたい事があると杏に言われ、特に用事も無かったので他の時代の者達が暮らす寄宿舎の食堂へとやってきていた。同じく特に用事が無かった姉妹も着いていくことにし、折角だからと連絡を入れた友奈達も同じく暇だったのか途中で合流し、結果として食堂には勇者も巫女も全員揃っていた。そこで正面に座る杏に聞かれたのがそれだったのだ。

 

 「前回の戦いで、楓さんは私達に新しい力を見せてくれました。そこで思ったんです……楓さんの武器である“白い光”のことを、私達はよく知らないなと」

 

 「確かに、なんか空飛んだり他にも色々出来るってことしか知らないな」

 

 「ウチの新士の武器とは全然違いますもんね」

 

 「そういえば、アタシも具体的にどういう事が出来るのか知らないわね……弟の事で知らない事があるなんて、姉として自分が許せないわ!」

 

 「姉さんは大袈裟だねぇ……でも確かに、自分の武器は分かりにくいか」

 

 (1人だけ決まった形がない武器だもんね……)

 

 杏の言葉に球子が頷き、銀(小)を含めた小学生3人娘が新士の方を見ながら同意し、風が悔しげに拳を握り締め、楓はそんな彼女に苦笑いした後にふむ……と1つ頷き、神奈は他の勇者達の武器と比べて内心そう思う。

 

 楓の武器。それは両手にあるひし形の水晶……から出てくる“勇者の光”である。決まった形は無く、彼の想像力次第ではどんな形にもなり得る。はたまた先の戦いのように光そのものをレーザーのようにして射出したり、矢として放った光を操作したりも出来る。正しく“万能”と呼べるだろう。

 

 加えて、その威力は彼自身の勇者としての資質や力に左右される。元々歴代でトップである資質と現時点で9回もの満開で劇的に上昇した勇者の力により、その威力は数いる勇者達の中でもトップクラスなのだ。ただ、西暦組が合流してからは主に空飛ぶ絨毯として活用することが多かった為、勇者部以外はその威力を知る機会は今まで無かったのだが。

 

 「楓さんの武器……というより、楓さんの万能さは戦略的に見ても非常に有用です。ただ、万能過ぎて逆にどう組み込むかで悩むところですが……」

 

 「今まで通り、遠距離組の足として使ってくれていいんだけどねぇ」

 

 「そうだな。楓の光の絨毯は機動力がある。空の敵の対処や上空からの援護に指示、杏達の安全面。メリットが多くある」

 

 「今回の敵のように火力が必要な場合は前衛に来て欲しいところだけどね。楓さん、私達の中でもかなり攻撃力あるし」

 

 「防御力もあるわ。光の盾で敵の攻撃から守ってもらったことがあるもの」

 

 「前に光で作った大きな手でバーテックスを殴ったりもしたもんね!」

 

 「そんなモノまで出せるのね……楓君、本当に何でもありね」

 

 「私と一緒に沢山のワイヤーで多くのバーテックスを倒したりしましたし……」

 

 火力がある。機動力もある。手数も出せる。攻撃範囲も広い。防御力も高く、満開と切り札無しに空を飛べる。神世紀で共に戦ってきた夏凜、美森、友奈、樹の証言も加わり、小学生組からは尊敬の眼差しが、西暦組からも称賛の眼差しが向けられ、楓はそこまでのことだろうかと苦笑いを浮かべる。隣では満足げに風がドヤ顔をキメていた。

 

 「それに……まだありますよね? その光の使い道」

 

 「え、まだなんかあるのか? タマは既にお腹いっぱいなんだが」

 

 「楓、他に何があんのよ」

 

 「うーん? ……ああ、友奈と高嶋さんと一緒に殴った時の奴かな?」

 

 「はい、その時のことです。一見、ただお2人と自分の手を光で包んだ……グローブや手甲のような使い方をしてるように見えました。ですが、それだといくら3人同時だとしてもあの威力はおかしいんです」

 

 「そういえば……そうだな。友奈と結城の同時攻撃なら何度かしていたが、それでも倒せなかった相手だ。楓1人入っただけで倒せるというのは少しおかしい……か?」

 

 「そうね、高嶋さん達以外に私達も攻撃していたわ。それでも、倒すにはまだまだ時間が掛かりそうだった。そんな相手を一撃……確かに不思議ね」

 

 「ゆーゆとたかしー、カエっちと同時攻撃とかしてたんだ……羨ましいんよ~」

 

 「園子、論点はそこじゃない」

 

 まだ他に用途があるのかと驚き半分呆れ半分な空気になるが、杏、若葉、千景の疑問を聞いてその戦い見ていた者達も確かにと頷く。最後に現れた大型バーテックス、スケルツォ。それは近接組の攻撃力を集中させても尚倒すのに時間が掛かる堅牢さを誇っていた。攻撃していた者達も同時攻撃や連続攻撃等試行錯誤していたが、それでも倒すのにはかなりの時間を有しただろう……光の手甲を纏った楓と友奈、高嶋の同時攻撃が無ければ。

 

 (楓くんの光、暖かかったな~。それに、なんだか力が湧いてきて……楓くんの手も、あんな風に暖かいのかな?)

 

 羨ましがる園子(中)と彼女にツッコミを入れる銀(中)のやり取りを見ながら1人、高嶋は自分の手を見ながら考える。

 

 彼女の手が楓の白い光に包まれた時、感じたのは暖かさと安心感だった。次に感じたのは、湧き上がってくる力。まだまだ倒すのには時間が掛かると思っていた敵を、自身と楓、友奈の3人でならば倒せるという自信。ただその右手を光に包まれただけだと言うのに、そこまで心に、体に変化を与えていたこと。それは決して嫌ではなく、むしろ心地好くてずっと感じていたいと思えるもので。

 

 「つまり……楓さんの光は、私達を強化する力があるのではないでしょうか?」

 

 「ゲームで言うバフを掛けられるということね……どうなの? 楓君」

 

 「正直なところ、今までは友奈くらいにしか光を使っていなかったのであまりはっきりとは言えないけれどねぇ……多分、杏ちゃんの推測は合っていると思うよ。それに、心当たりが無いわけでもないし」

 

 楓が言う心当たりとは“満開”のことである。神世紀の中学生組が使う満開は、見た目も大きく変わるが基本的に通常時の能力や武器等を大幅に強化するモノだ。

 

 拳を主体にする友奈と2振りの斧剣を振るう銀(中)なら、巨大化した拳と斧剣。多様性がある槍を扱う園子(中)と銃撃を行う美森なら、様々な用途に使える複数の槍を持つ船とより高い威力の砲撃を扱う戦艦。手数がある樹と夏凜なら、より数を増やしたワイヤーに刀と短刀。切れ味と頑強さがある大剣を扱う風なら、その大剣はレオ・スタークラスターの角を切り裂き攻撃を受けても折れない程より鋭く頑強に。

 

 このように満開は勇者の能力と武器を一段も二段も跳ね上げる。では楓の満開はどうだっただろうか。彼の満開では水晶の数が増え、放つ光の数や威力が上がる。それに加え、水晶と光を組み合わせる事で盾を作ったり、レーザーを()()()()より大きく威力のあるレーザーを放ったり、はたまた散弾のようにしたり。加えて、水晶で作った三角形の中心を通ればそれだけで勇者の力と攻撃の威力を上げられる。

 

 再三言うが、満開とは勇者の通常時の能力を跳ね上げるモノだ。ならば逆説的に、満開の時に出来る事とは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()な事なのだ。故に、規模は小さくても楓が勇者の力を強化出来る事はなんら不思議な事ではない。

 

 勿論、楓だけが強化出来るのには理由がある。それは楓の魂は高次元のモノであるが故に神の存在と力を強めるという事。そして“勇者の力”とは、根本的には“神の力”であるという事。根本が神の力であるならば、楓が強化出来ない道理はないのである。この事実を知っているのは……今は“私”である神奈1人だけだが。

 

 「じゃあ楓がタマ達全員に光を使えば、それだけで友奈達と同じくらい威力のある攻撃を出せるようになるのか?」

 

 「あたし達も攻撃力大幅アップしたり!? 友奈さん達みたいに楓さんと同時攻撃したり!?」

 

 「わたしもわたしも、アマっちとアマっち先輩と一緒に同時攻撃したい~。ミノさんとわっしーともしたい~」

 

 「楓、アタシはいつでも準備出来ているわ。樹だけじゃなくてアタシともするわよね?」

 

 「お姉ちゃん……」

 

 「うーん、盛り上がってる所悪いけど、そこまで便利な訳じゃないんだよねぇ」

 

 「やっぱりそう美味い話はないか……で、かーくん。どんな制約とか条件とかあるわけ?」

 

 自分達もあの威力の攻撃が出来るようになるのではないか。そう思ったのかテンションが上がる球子と銀(小)。強化よりは同時攻撃の方がやりたい園子(小)と風。他にも同じような事を思っているらしい面々も居るが、苦笑いを浮かべる楓が申し訳なさそうに言う。半ば予想していたのだろう雪花が聞くと、返ってきたのはこんな話だった。

 

 万能とも言える楓の武器だが、幾つかの制約がある。光で何かしら形作る事が出来るのは、水晶1つにつき1種類。今は2つ水晶があるので同時に2種類作れる。だから今は片方で絨毯を、もう片方で遠距離武器をと分けているのだ。ただ、同じ種類であれば同じ水晶から複数作り出せる。樹と共に数多のワイヤーでバーテックスを輪切りにしたのはこの為だ。

 

 そして強化だが、“光で包み込む”というプロセスを行う必要がある。そして、強化を行えるのは一部分だけであり、尚且つ対象が楓の直ぐ近くに居る、または在る事が条件。更に、その対象も水晶1つにつき1人であること。尚、楓本人はその限りではないが、一部分だけという制約は受ける。ただ、彼の魂の特性上強化の度合いが大きいようだが。

 

 「あの時で言えば、近くに友奈が居て、高嶋さんを近くに呼んだから出来たことだねぇ」

 

 「結構条件が多いんだな……」

 

 「ですが、強化自体は戦略に組み入れるに値する能力です。いざというときには頼りにさせてもらってもいいですか?」

 

 「勿論だとも。杏ちゃんの指示なら信用出来るしねえ。いつでも言ってくれていいんだよ」

 

 「あ、ありがとうございます……やはり、基本的には今まで通りに絨毯で私達の機動力の要になってもらうのがいいですね。制空権はやはり捨てがたいですし、何よりも私達が上空……地上よりも幾らか安全であり、援護もしやすい位置に居るのは皆さんにとっても安心でしょうから」

 

 「そうね、いざとなったらそのまま楓君の絨毯に皆乗せてもらってエスケープも出来る訳だし」

 

 「ん……杏達は楓に任せていれば安心出来る」

 

 「その信頼に応えられるように頑張りますねぇ」

 

 それなりに長く話したが、結果として楓は現状維持……今まで通りということで話は纏まった。そもそも後衛よりも前衛の数の方が多いのだ、楓1人加わるよりは後衛を1人でも多くしておきたいのだろう。それに、楓1人居れば仮にバーテックスに近づかれたとしても盾なり絨毯を操って機動力で撒いたりも出来る。前衛に比べて機動力、防御力がない後衛組には嬉しい存在だろう。

 

 だが、全部今まで通りという訳でもない。いざとなれば楓は前衛に加われる事が分かった。満開も切り札も使えない今、強化という新たな切り札があることが分かった。それらが分かったなら、それは今まで通りに見えても全く新しい作戦、戦術になる。勇者達の心も表情も明るくなるのは当然のことだろう。

 

 「さて、話は纏まったし……もうこのまま皆で何かしようか」

 

 「あっ、じゃあか、えで、くん、ゲームで対戦しよう! あれから千景ちゃんに鍛えてもらったんだ。今度はそう簡単に負けないよ」

 

 「あ、ゲームならあたしもやりまっす! 千景さん、部屋行きましょ部屋!」

 

 「ま、待って銀ちゃん……もう、手を引っ張らないで」

 

 「ぐんちゃん待ってー!」

 

 「私もいこーっと。東郷さんも行こう!」

 

 「ええ、友奈ちゃん。須美ちゃんと園子ちゃんもどうかしら?」

 

 「もうこの際全員で行っちゃう? パーティーゲームの1つや2つあるでしょ」

 

 「ゲームは見てるだけでも楽しい……うん、楽しい」

 

 この後何故か全員が千景の部屋の中に入り、多少窮屈な思いをしつつも皆で面白おかしくゲームをしたり、その様子を見て笑ったり、以前より食らい付いたもののやはり惨敗した神奈を慰めたりしたそうな。

 

 「ふっふっふ、今回はこの恐竜バイクで勝負! やたら攻撃上昇アイテム落ちたから戦闘では強いですよ!」

 

 「今回こそ負けないよ。レースなら私の星の方が早いんだから! カクカクにしか動けないけどね」

 

 「……2人共、今回の予告バトル見てないのね」

 

 「まあ、見てない2人が悪いよねぇ」

 

 「予告バトル? にしても、2人のは随分と飛行能力が高いんだな。千景は翼の乗り物で、楓は……悪魔?」

 

 「「え? ……どれだけ高く飛ぶかを競うステージ……だと……っ!?」」

 

 

 

 

 

 

 それから更に数日。勇者達は“その時”まで思い思いの時間を過ごしていた。

 

 「……それで、ここが玉藻市に五岳市。ここが大橋市、こちらが大束町になります」

 

 「ふむふむ、見事にがらりと変わっているんだな。今までさほど気にしていなかったが……」

 

 若葉とひなたは西暦と神世紀における四国の地名の違いを改めて確認。その際歌野が会話に参加し、諏訪の話題が出て一瞬空気が重くなったかと思えばあっさり本人によって払拭され、おねだりとして新しい畑を要望されたり。後からやってきた雪花が手伝うことになったり。

 

 

 

 「ふっ! せやっ! はぁっ!!」

 

 「何時にも増して気合いが入った鍛練ね、若葉。こりゃあ負けていられないわ。ねぇ? 須美」

 

 「はい! 私も頑張らないと……」

 

 海岸にて冬の寒さにも負けず気合いを入れて鍛練をする若葉に触発され、夏凜と須美も普段以上に気合いを入れて鍛練をしたり。一緒に居た雪花もその熱気に当てられたのか槍を振るったり。

 

 

 

 そして、やがて“その時”がやってくる。勇者にとって2度目の攻勢に出る戦いの日が……西暦勇者の四国組にとって思い入れのある場所、丸亀城周辺の土地を奪還する為の戦いが。




原作との相違点

・屋上での会話に楓、須美、新士参加

・楓の武器“勇者の光”の説明が入る

・神奈はゲームで勝てない←

・どうしてこんなに相違点があるんだ!



という訳で、樹海から帰還後の話と深く説明していなかった楓の武器の説明でした。100話越えてから主人公の武器を深く説明するのってどうなのよ←

この時点での満開数は楓がトップの9回です。次いで園子(8回)、銀(7回)と続き、美森と夏凜(5回)、友奈(3回)、風と樹(2回)となってます。ゆゆゆ編最終戦で稼ぎすぎィ!

次回はなるべく早くと思っていますが、リアル問題と体調面でまたお待たせする事になるかもしれません。どうかご容赦下さい。そして本作を宜しくお願いします。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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