本作最大の難産と言っても過言ではない内容に加え、ここしばらく仕事疲れかどうにも睡魔に抗えない日々でした。待っていて下さった皆様、本当に申し訳ありません。
最近のfgoの運の良さが怖い。始皇帝が来ました……嬉しいんですけどね。他のアプリは殆ど爆死ですが。せいぜいポケマスでマジコス初代御三家揃ったくらいで。リーフ可愛いよリーフ。
テイクレ、コレット欲しかった……私はTOSから始めたので思い入れあるキャラでしたし。ゆゆゆいも爆死です。今月の切り札枠は誰ですかねぇ。
さて、今回も戦闘シーン多めです。レクリエーション、遂に決着。優勝者は誰なのか。
それぞれの場所で決着が着き、また新しく戦いが始まっている頃。楓、友奈、高嶋の3人の戦いは未だ続いていた。その戦いの中での何度目かの拳のぶつかり合いの後、3人の距離が再び開く。
ここまでの3人の戦いは、正しく一進一退の一言。2人がぶつかり、ある程度時間を置くと残った1人が乱入し、ぶつかっていた2人の内1人が離脱して残った1人が乱入者と戦い、また時間を置いて乱入して……そんなローテーションで動いていた。
(なんというか……攻めきれないねぇ)
(攻撃が全然当たらないよー……)
(楓くんも結城ちゃんも強いなぁ)
一撃でもクリーンヒットすれば落ちるルール。具体的に言うなら、胴体や頭部等へ防御も回避もされずにダメージを与えることが条件。なのに、その一撃がどうしても届かない。その理由の1つとして、やはり勇者に変身したことで上がった身体能力。ひいては動体視力や反射神経が上がる。
3人の共通点は、過程は違えど武術及び格闘技を習得している事。楓は小学生時代の訓練で、友奈は父親から、高嶋も勇者としての訓練の一環で。それらの経験がある3人は、体の動かし方や殴る蹴るといった行動に勇者の中で最も慣れている。同時に、その対処方も知っている。
「やああああっ!」
「ふっ!」
「今度は私! 連続! 勇者パーンチ!」
「っ、流石にやるねぇ!」
友奈の拳や蹴りを、楓は落ち着いて対処する。拳が飛んでくれば両手を使って剃らし、受け流す。蹴りが飛んでくれば後方へと動いて距離を離して避け、間に合わなければその場でしゃがみ、或いは上に跳んで、無理ならば拳同様に手で受け流す。3人の中では楓が1番防御が上手かった。
だが、反撃として拳を突き出しても友奈はそれを回避する。楓がどれだけ素早く拳を、蹴りを繰り出そうとも、友奈はそれをしっかりと目で捉え、対処する。楓のような防御の技術こそ無いが、拳に拳を当てたり、蹴りに蹴りを当てたりと迎撃するのでダメージを負うことはない。サジタリウスが放つ数多の矢を連続パンチで対処出来る彼女は、3人の中で最も目が良かった。
何度目かの攻防を終え、友奈が横に跳ぶと今度は高嶋が楓と相対する。楓が防御、友奈が目の良さならば、彼女はその攻撃の速度と量こそが最も秀でた部分だろう。素早く、かつ的確に体に、顔に一撃を入れんと拳を連続で突き出す高嶋。それでも楓ならば技術で、友奈ならばその動体視力で対処する。こうした攻守が入れ替わり立ち代わりすれど決定打となり得る事はなく、時間だけが過ぎていっているのだ。
「今度は私だよ、高嶋ちゃん!」
「結城ちゃん! 負けないよ!」
(誠に遺憾ながら、あの男の元での訓練は無駄じゃなかったねぇ……さて、どうしたものか……怖いのは美森ちゃん達遠距離組だ。いつ視界外から攻撃が飛んでくるかもわからないし)
高嶋の攻撃を捌ききり、友奈が乱入してきたところで距離を離す楓は2人の攻防を見ながら思案する。過去のことで軽くない苛立ちを覚えるもすぐにそれに蓋をし、周囲に軽く目をやってから直ぐに2人に向ける。
楓が最も警戒しているのは美森、須美、球子、杏の遠距離武器持ちの4人。こうした乱戦の最中に遠距離攻撃による横槍が入るのが1番怖かった。何なら今もどこかからこちらを狙っている可能性もあるのだから。
(いっそのこと、このまま2人から離れて別の場所に向かうのもありかな。少なくとも、この状況をどうにかする為には何かアクションがいる。さて、どうしたものか……)
頭を回転させ続ける楓。そうしながらも視線は2人から離れず、動きを見逃さないようにしている。だが、無意識の内に体が思考を反映したかのように少しずつ2人から距離を取っていた。
(あれ? 楓くんが入ってこない……?)
(そろそろかな? ……? 距離を取ってる? まさか、ここから離れる気!?)
思考に時間を割きすぎたのか、戦っている2人が未だに乱入してこない楓を不思議に思ってちらりと視線を送ると、そこには思案顔をしつつ少しずつ距離を離していく姿。それを確認した瞬間、2人は殆ど同時に行動を起こした。
「「楓くん! 逃がさないよ!」」
「いっ!? 2人同時はちょっとどころじゃなく厳しいんだけどねぇ!?」
即ち、ここから離れようとしている様に見える彼を逃がさない為に接近。全く同じ思考をしたのだろう2人は図らずも2対1の状況を作り出し、楓は1人でさえ辛いのに2人の友奈を同時に相手取る事になってしまった。彼の無意識に離れるという行動こそが、状況を変える為のアクションとなったのだ。
流石に防御が得意な楓とあっても2人を同時に対処する事は不可能……かと思われたが、意外にも彼は対処出来ていた。後ろに下がりながら友奈の拳を左手で、高嶋の拳を右手で受け止め、逸らす。2人同時に素早く、かつ連続で飛んでくるパンチを、楓は冷静に対処する。
それが出来る理由として、まず楓は2つ以上の事を同時に行うという行為が得意であること。でなければ光の絨毯を動かしつつ攻撃する、なんて事が普通に出来る訳がない。次に、2人以上の相手を同時に相手取る経験があったこと。無論、あの男のもとでの実戦的訓練の賜物である。後は3体のバーテックスを同時に相手したこともあるだろう。
そして、どれだけ素早く攻撃してこようとも結局は1人に付き
「高嶋ちゃんと2人がかりなのに!」
「なんで当たらないのー!?」
「いやいや、滅茶苦茶キツイんだけどねぇ!?」
しかし、そこに気付かない2人は攻撃が当たらない事に焦りを覚える。その焦りから更に攻撃は単調なモノになり、楓にとっては対処しやすくなる。だが、それもいつまでも続かない。
3人が戦っている場所。それは、現在若葉達が居る場所の丁度反対側にある石垣の上。そこで下がりながら攻撃を対処していた楓だったが、一瞬だけ後方を見ると足場が無いことに気付く。下がり続けた結果、いつの間に石垣の端まで来てしまっていたのだ。これ以上が下がる場合、彼は石垣の上から林へと落ちてしまう。最も、落ちたところで何ともないが。
(下がれない。なら、ここでどうにかするしかないか)
「やっと止まった! 行くよ楓くん!」
「今度こそ! 勇者……パーンチ!」
「そう簡単には、いかないよ!」
楓は石垣のギリギリで足を止め、2人は止まった事に驚きつつも同時に友奈は左、高嶋は右拳を突き出した。それに対し、楓は強く地面を踏み締めて両拳を突き出す。狙いは当然、2人が突き出した拳。避けるでもなく、逸らすでもなく、受け止めるでもない。彼は迎撃を選んだ。
幾度目かの手甲同士のぶつかり合う音が響く。結果として、迎撃には成功した。3人の拳は弾かれ、2人の右手は大きく後ろへと反っている。それに伴い、体も大きく仰け反っていた。対して楓は強く地面を踏み締めていた分、左右に弾かれた両の拳と軽く仰け反っただけで済んだ。
「だあっ!!」
「ふぐぅっ!?」
「あだっ!?」
更に1歩踏み込み、その勢いのまま2人に向けて両手を突き出す。それは真っ直ぐに2人の腹部へと向かっていったが、当たる寸前に友奈は空いていた右手を、高嶋は左手を間に差し込んで防御することでクリーンヒットは免れる。
だが、ここで楓が攻勢に出た事で流れが再び変わる。彼が狙い定めたのは友奈。ガードした腕に響いた衝撃と痛みに呻く彼女に近付き、再び腹部へと右拳を突き出す。友奈はそれを見て痛みに耐えつつ何度もしたように左拳を突き出して迎撃しようとするが……。
「いい加減、パターンを変えないとねぇ!」
「え? わわっ! あいたぁっ!」
楓は途中で握り拳を解いて指を伸ばし、突き出された手に添えるように下に動かし……その手首を掴む。そのまま立ち止まって掴んだ腕を引っ張ると友奈はバランスを崩してされるがままに引き寄せられる。
引き寄せた勢いをそのままに彼は少し腰を落としつつ右へと回転。彼女の懐に、まるで背負うかのように入り込みつつ左足で友奈の足を後ろへと弾き、左手は彼女の左腕の二の腕辺りに回す。そしてそのままの彼女の体を前方へと……つまりは一本背負いである。彼に容赦の文字はなかった。
文字通りされるがままに背中から地面へと投げられた友奈は驚きの後に背中から来る痛みに声を上げる。涙目になりつつ痛みから閉じていた目を開くと、その眼前には彼の右拳が突き付けられていた。
「まだやるかい? 友奈」
「こ、降参しま~す……」
「よろしいっと、危ないねぇ」
「次は私だよ、楓くん!」
にっこり、といつもとは違う少し威圧感のある笑みで問われ、地面に寝転んだまま苦笑いと共に両手を顔の横に持ってくる友奈。彼女のリタイアを見届けて満足げに朗らかに笑う彼の横から、高嶋の飛び蹴りが飛んでくる。しかし楓は直ぐに後方に跳ぶことで避け、2人は再び正面から対峙する。
今度は楓の方から仕掛けた。素早く距離を詰めて放つのはシンプルな右ストレート。高嶋はそれを曲げた左手を内側から外へと動かすように当てて受け流し、お返しにと反撃の右ストレート。しかしそれは楓に同じように左手で受け流される。
さながら鏡合わせのような体勢になりつつ、同時に距離を離すと今度は高嶋が接近。右左の連続パンチを繰り出すも、楓は冷静に手のひらを当てて受け流す。どれだけ攻撃しても通らない事実に、高嶋は顔をしかめる……事はなく、むしろ楽しげな表情を浮かべる。
(楓くん、やっぱり強いなー。でも……その方が燃えてくる!)
(ここで笑うんだ……意外とバトルジャンキーという奴なのかねぇ?)
楓は苦笑いしつつ、高嶋の攻撃を捌き続ける。時には友奈と同じように投げる為に手を伸ばすが、瞬時に引かれて避けられる。攻撃の速度が速いということは、攻撃の出と共に引きも速いということ。腕を掴むのは難しいだろう。
故に、楓は別の方法を取った。今までのように受け止めるでも受け流すでもない。かといって攻撃に攻撃を当てて迎撃するでもない。後方へと跳ぶことで大きく距離を取ったのだ。
「逃がさないよ!」
「逃げないよ」
高嶋が距離を詰める合間に何やらごそごそと腕を動かす楓。その行動の後、楓は右腕を後ろへと引き絞る姿勢を取る。何をするつもりだ? と彼女が疑問に思いつつも更に距離を詰め……。
「よい、しょぉっ!!」
「え? うわっとぉ!?」
その途中で、楓が素早く、鋭く引き絞っていた右腕を突き出す。次の瞬間、驚く事に楓の右手がまだ距離がある高嶋の顔に向かって
「もらったよ!」
「いっ!? わ、わわ、あうち!」
距離を詰められ、未だに残る驚愕の感情と不利な体勢のまま楓の攻撃をなんとか捌こうとする高嶋。だがそんな状態で完全に捌ききれるハズもなく、2度のパンチで防御に使った両手を弾かれ、戻す間も無く額に素手によるデコピンを受けて尻餅を着いた。
痛みから涙目になりつつ、額を擦りながら楓の方を見る彼女は楓の右腕に先程まであった物が無いことに気付く。先程“素手”と言ったことから分かるように、彼の右手には手甲がなかった。きょとんとする高嶋に苦笑いしつつ、楓は彼女の後ろを指差す。高嶋がその方向を見ると、そこには数10メートル程先に件の手甲が転がっていた。
「飛ばせ手甲、ロケットパンチってところかな」
「な、なるほど……うーん、負けちゃった。悔しい!」
つまり、楓は手甲を外して右手に被せるだけに止め、突きの勢いで飛ばしたのだ。ごそごそとしていたのはその動作の為。何が起きたのか理解し、悔しげにしつつも笑って変身を解く高嶋。そんな彼女を見届け、楓は次の相手を探すべく手甲を回収してから跳び上がったのだった。
(ここで友奈さん達が脱落……正直、楓さんの近接能力があそこまで高いのは予想外ですが……何とかしてみせます。私の望みの為に)
楓の勝利から少し時を戻して場面は代わり、若葉達4人が居る場所。屋根から放たれた美森の弾丸から守った千景と守られた若葉は背中合わせになり、若葉の正面数10メートル先に須美が、千景の正面上の方向に胸から上だけ見せている美森の姿。
「千景、助かったぞ」
「別に、貴女の為じゃないわ。咄嗟に体が動いただけで……いえ、何でもない」
「ふっ、そうか。だが、感謝する。ありがとう千景」
「……これはバトルロイヤルだってこと、忘れないで」
「勿論忘れてないさ。だが、今は千景と戦うより……」
「そうね、そこは同意しましょう。今は……」
背中合わせのまま感謝する若葉に、千景もまた背中合わせのままそう返す。素直なのか素直じゃないのかわからない返答に思わず笑みが溢れる若葉。彼女には見えていないが、感謝の言葉を受けた千景の顔は少し赤くなっていた。それがはっきり見えている美森はにまにまとしており、同じように表情が見えている千景は顔が赤いまま彼女を睨み付けている。
そして2人はお互いに武器を構え、そう呟いた後……合図もなく、しかし同時に自身の目に映る狙撃主の元に向かって飛び出した。
「「厄介な狙撃主を狙う!!」」
「くっ、やっぱり来ますか」
「ここに辿り着く前に、狙い撃たせてもらうわよ」
林の中、須美に向かって真っ直ぐ進む若葉と丸亀城の一番上の屋根に居る美森に向かって跳ぶ千景。狙撃主の2人はそれぞれ弓と狙撃銃を構え、迫り来る2人を狙い撃つ。
だが、本来の武器ならともかくレプリカ武器ではその試みは無謀とも言える。バーテックスの高速の攻撃すら回避を可能とする勇者の動体視力と身体能力は正面からの矢も弾丸も対処を可能とする。
「ふっ、はっ!」
「当たらない! 流石は若葉さん……っ!」
「見えるわよ。私にも敵の弾丸が!」
(やっぱり簡単には当たってくれないわね……それに角度的にもう狙撃出来ない。後は……文字通り、千景ちゃんと出たとこ勝負ね)
須美が次々に放つ矢を切り伏せ、叩き落とす若葉。半ば分かりきっていた事ではあるが、こうまで当たらないといっそ清々しいと須美は矢を射ながら苦笑いと共に思う。千景も飛んでくる弾丸を大鎌の刃の側面を使って防ぎつつ丸亀城の元に辿り着き、今度は屋根をどんどん跳び上がっていく。
美森から見て屋根を登る千景の姿は見えない。こうなっては出来ることは移動して距離を取るか待ち構えるかの2択だが、彼女は待ち構える事を選んだ。狙撃銃の弾をリロードをし、姿勢をそのままに待つ。
「須美、悪いが手加減はしないぞ! はああああっ!!」
「最後の一矢……当たって! っ、これも外れ、あうっ!?」
「っ! や、やりすぎてしまった。須美、大丈夫か?」
「いたた……は、はい、なんとか。負けてしまいましたね……」
「いや、須美の狙いは正確だった。正直、あまり相手にしたくないな……千景はどうだ?」
矢を放ち続け、遂にはレプリカ武器故に背中に背負っていた矢筒の中身が残り1本となる須美。必中の意思を胸にもう10メートルも無い距離の先に居る若葉に向けて構え、放つ。しかし、やはり当たらない。若葉は速度を維持したまま右から左へと一閃し、矢を弾く。そして距離を詰め、返す刃で須美の体を切りつけた。
切りつけられた須美は痛みに呻きながら吹き飛ばされ、背中から地面に落ちる。焦りながら近付く若葉に須美は切られた部分を押さえつつ起き上がり、大丈夫だと告げる。リタイアしたことにしょんぼりとする彼女に慰めるようにそう言いつつ、若葉は千景が向かったであろう丸亀城を見上げる。その視線の先では、まさに千景と美森が接触するところであった。
(そろそろ来るハズ……? 上がってこない? いえ、足音が……左から!?)
「スナイパーが居ると分かっていて、ばか正直に正面から姿を晒す訳が無いでしょう?」
「くぅっ!!」
撃った場所から動かず待ち構えていた美森だったが、未だに千景が姿を現さないことに疑問を抱く。だが左側から足音が聞こえたことで、己の思慮が足りなかったことに気付く。そして、気付いた時には遅かった。
千景はある程度まで屋根を登るとそのまま屋根を横方向に移動し、美森の側面を取ったのだ。そもそもスナイパーに真っ正面から向かって行くなど自殺行為でしかない。千景は姿を現すと同時に接近し大鎌を振るうが、美森は移動や体勢をどうにかする前に咄嗟に持っている狙撃銃を縦に構え、大きな音を立てながら大鎌を受け止めた。
「っ、そんな姿勢で……? 動かない!? どんな力をしているのよ!」
「ごめんなさいね。これでも私、勇者部の中だと3番目に腕力があるのよ」
左手だけで狙撃銃を縦に持っているにも関わらず、大鎌を受け止められた上にそこから全く動かない事に驚愕する千景。今思えば両手で持って全力で振り抜いたハズの大鎌を片手持ちで防がれた時点でおかしいのだが。そんな彼女に淡々と言いつつ体勢を整える美森はゆっくりと右手を自身の年不相応に豊かな胸元へと持っていく。
何してんだコイツと思っていた千景だが、その手が谷間に入り込み、引き抜いた手に拳銃が握られているのを見て再度驚愕する。そんな彼女を見て、美森はしてやったりと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「武器の複数所持は禁止されていない。それに、近付かれた時の為の保険は必要だものね」
「……くっ!」
タァンッ! という軽い銃声と共にレプリカの弾が拳銃から放たれる。それは至近距離に居る千景に向かって真っ直ぐ飛び、勇者服の上から腹部に衝撃を与えた。弾がレプリカであることと勇者服の性能のお陰で痛みはほぼ無いに等しいが、それでもルール上千景はリタイアとなってしまった。
戦いに敗れ、女としても凄まじい敗北感を覚えながら大鎌から手を離して座り込む千景。その瞬間、思わず自身の手でペタペタと一部に触れて悔しそうにしていたのはご愛敬。それを見て苦笑いしていた美森だったが、直ぐに表情を引き締めて拳銃をまた谷間にしまいつつ千景の後方に向けて狙撃銃を構える。
(さっき楓君が友奈ちゃんから離れていった。そして、今ここに真っ直ぐ向かってる……勝ったのは楓君ということね。近付かれたら敗北は必至。だけど私が此処に居るのはわからないハズ。なら、出てきた瞬間に決める)
相変わらず超能力染みた感覚で友奈と楓の位置を把握していた美森はつい先程2人の勝負がついたことに気付き、楓が自身が居る丸亀城の屋根の上に向かって居ることを知る。千景と違い、彼はこの場所に美森が居ることを知らない。その為、このままやってくれば出会い頭に当てられると思った。
そして、遂にその時が来る。跳び上がってきた楓は屋根の上に美森と千景の姿がある事に驚き、既に狙撃銃の銃口が自身に向いているのを見て焦りの表情を浮かべている。そんな彼に向かって容赦なく引き金を引こうとする美森。だが、途中でその指が止まった。何故なら……。
(っ!? 銃身が歪んでる!? これじゃ弾が……いつの間に……いえ、千景ちゃんの大鎌を受けた時ね!?)
(撃たない? なら、今がチャンスだねぇ!)
「くっ、いっっっったぁっ!?」
明らかに、狙撃銃の銃身が途中から歪んでいた。それは丁度千景の大鎌を防いだ部分であり、その際に歪んでしまったのだろう。レプリカ故の耐久性の低さが仇となった。その事に今更気付き、驚愕する美森。それは楓を前にした今では致命的な隙となる。
その隙を逃すことなく、楓は素早く美森に近付く。彼女も直ぐに対応するが、それはせいぜい狙撃銃を鈍器の如く振るう程度。だが屋根の天辺に居る美森と縁から登ってきたばかりの楓とは高低差もあり、体勢を低くされたことであっさり避けられる。
ならばと虎の子の拳銃を手にしようとするが時既に遅し。その動作よりも速く距離を詰められ、顔に向かって楓の右手が伸びる。思わず目を瞑る美森だったが、次の瞬間には“ビヂィッ!!”と何とも痛そうな音と衝撃が額に走った。高嶋と同様に楓がデコピンをしたのだ。尚、彼女の時は素手だがこちらは手甲付きである。
「……ふっ」
「痛ぅ~! ち、千景ちゃん、今鼻で笑ったわよね……?」
「いいえ、別に」
「痛かったねぇ、美森ちゃん。ごめんねぇ。でもこれ以外でダメージを与えるとなると、殴るかチョップか蹴るくらいしか……」
「い、いいのよ楓君。確かに痛いけどそれらに比べたらマシだもの」
そんなこんなでリタイアとなった美森、直ぐ近くで2人の攻防を見ていた千景を後にして前に進み、屋根の上から下を見る楓。そこで彼が見たのは、変身が解けた須美の近くに居る若葉。左右も確認してみるが、隠れているのか見えないだけか他に人は居ない。
「さて、後何人かねぇ……友奈と高嶋ちゃんはリタイアしたけど」
「高嶋さんが? そう……白鳥さんと秋原さんはリタイアしたわ。後、風さんも」
「杏ちゃんもね。須美ちゃんも脱落してるみたい」
「やっぱり、もう殆どリタイアしたみたいだねぇ……」
そもそも、楓は残り人数を把握出来ていない。若葉もそうなのだが、なんとなく2人は感じている。もう殆どの勇者達はリタイアしており、残るは自分達と数人程度であろうと。その考えが当たっていると教えるように美森と千景からも情報を教えられ、ふむと1つ頷く。
そうした後に楓と若葉の2人は距離が離れているにも関わらず目を合わせ……若葉は丸亀城に向けて全速力で走り、楓は屋根の上から躊躇いなく飛び降りた。
「カエっち~、わかちゃ~ん、頑張れ~!」
「若葉ちゃん! 後少しですよ!」
「後誰が残ってるっけ?」
「2人以外だと……土居さんの姿も見てないかな? 後は……」
(が、頑張ってか、えで、くん……!)
留守番組がそうやって応援なり会話なりをしていると2人は石垣の上でぶつかる。楓の右拳によるパンチと若葉の刀が打ち合い、甲高い金属音を響き渡らせる。
そこからは数秒間、拳と刀の応酬とぶつかり合いが続いた。楓の両手でのラッシュに若葉は刀と鞘で対応し、ラッシュを凌げば鋭い一閃が彼を襲う。それを手甲で防ぎ、受け止め、弾いてまたラッシュ。そしてそれを……と繰り返す。そんな攻防が20秒程続いた時、突如2人は弾かれたように距離を開け……その数瞬後に見覚えのある円盤が横から通りすぎた。
「今のは……」
「球子!」
「タマも混ぜろー!!」
円盤は引き戻しながら叫んだのは勿論球子。いつの間にか戻ってきていた彼女は2人から距離を離しつつ、いつでも円盤……旋刃盤を射出出来るように構える。2人はまた三つ巴か……と内心で思いつつ、その場で自身以外の2人を油断無く見る。
3人の誰もが動くに動けなかった。どちらかに向かって行けば、もう1人に狙われる。その攻撃を避ければ隙が出来、向かおうとした相手に狙われる。つまりは2対1の関係に自ら飛び込むようなモノ。故に動けない。
さて、どうしたものか。そう考えながら何かこの状況を変える方法は無いかとあちらこちらに視線を向ける楓の目があるモノを捉える。それを見た彼はニヤリと笑い……若葉に向かって突っ込んだ。
「動いた!? 何をする気か知らないが、向かってくるなら容赦はしないぞ!」
「隙ありだ楓! 時タマ弄られる恨みー!!」
ここで楓が動いた事に驚きつつも待ち構えて迎え撃つ姿勢を取る若葉。そんな彼女に対して球子は普段から風と同じく弄られる事、反撃してもいなされる事に恨みがあるらしく直ぐ様彼に向けて旋刃盤を射出する。それは彼の移動速度等もある程度計算したモノであり、走る彼の直撃コースを辿る。
「君ならそうしてくると思ったよ球子ちゃん!」
「何? っ!? それは歌野の!」
「は? 何いいいいっ!?」
若葉に向かう途中、楓は若葉から見て右に向かって跳んで地面の上を転がった。突然の行動に疑問を覚える若葉だったが、起き上がった彼の右手にあるモノを見て驚く。彼の手にあったのは、歌野が手離して風が投げ捨てていた“鞭”であった。因みに、風本人と大剣は無い。リタイアした後に持っていったのだろう。
彼は飛んできた旋刃盤に向けて鞭を振るう。すると鞭は旋刃盤と球子の腕を繋ぐ紐に絡まり、直撃コースから大きく逸れる事になる。更には絡まっている事で引き戻す事も封じ、球子から攻撃手段を奪うことに成功した。
「さぁ、こっちに……おいで!!」
「え、ちょ、のおおおお!?」
「楓、確かにお前は風の弟だな……しかし、好機!!」
更に楓は鞭を引き寄せて旋刃盤の紐を握り、思いっきり自分の方へと引っ張った。その力の強さに球子は踏ん張ることも出来ずに引き寄せられ、その小柄な体躯が宙を舞う。似たような光景をつい先程見た若葉は苦笑いを浮かべ、直ぐに表情を真剣なモノに変えると楓に向かって走る。
引き寄せた球子に意識が向いている楓。武器を封じられ、身動きの取れない空中に居る球子。勇者の身体能力をフルに使って2人に向けて疾走する若葉。楓はしっかりと若葉の方にも意識を向け、迎撃する為か紐から手を離して拳を握る。若葉は直ぐ様抜刀出来る様に刀を握る。そして球子は……何故か、ニヤリと笑みを浮かべていた。
「この模擬戦、私が勝つ!」
「自分も負ける気はないねぇ!」
「いーや! この勝負……」
「私達の勝ちですよ♪」
「なっ!? ぐっ!」
「しま……痛ぅっ! これは、杏の矢か!」
「はーっはっはっは! 若葉と楓敗れたりぃっ!! タマが相手を引き付けて意識を向けさせ、その隙に杏が射抜く。タマ達のチームワークの勝利だ!」
突如として楓、そして若葉の側面から襲い来る2発の矢。それはお互いに意識を向けていた2人の死角を完全に突き、攻撃と反撃の姿勢を取っていた2人の脇腹に突き刺さった。痛みこそそれほどでもないが衝撃から思わず呻き、着地して膝を着いた2人を同じく着地した球子が高笑いしながら指を指す。
2人に当たり、地面に落ちた矢は須美のモノにしては短く、美森は矢は使わないので確実に杏のモノ。予想はしていたにも関わらずしてやられた楓は苦笑いを浮かべ、若葉は悔しげに俯く。そんな2人の様子を満足げに見た球子は勝利の要因を自慢気に口にした後、笑顔で矢が飛んできた方向に振り向いた。
「やったなあんずぅっ!?」
((……ええー……?))
その瞬間、彼女の額に1本の矢が飛来し、突き刺さった。そのままパタリ、と額を赤くして仰向けに倒れる球子を見て、2人の表情が微妙そうなモノに変わる。
そんな3人の元に向かってくる足音が1つ。球子を除く2人がそちらへと視線を向けると、そこにはボウガンを手にニコニコとした表情でゆっくりと歩いてくる杏の姿。
「これでタマっち先輩もリタイア。他の皆さんも全滅……お疲れ様でした♪」
「なに? まさか、本当に他の皆はリタイアしたのか!?」
「というか、何故杏ちゃんが……美森ちゃんは確かに、君が脱落したと」
「東郷さん、それからタマっち先輩とは模擬戦の前日に3人の内誰かが勝てるように動くと協定を結びました。模擬戦前に準備なり交渉なりをしてはいけないとは言われてませんから♪」
「盲点だった……!」
「やれやれ、まんまと騙された訳だ……皆がリタイアしたというのは?」
「この目で確認してきました。皆さんの性格やルール、人数を考えると直接戦わなくても大方減ると予想してましたしね。結果は案の定、です」
「戦わずに見ていた、ということか……やるな、杏」
「戦いとは、戦わずして勝つ事こそが理想ですからね」
(杏が勝って嬉しいような、組んでたのに容赦なく撃たれて悲しいような……)
杏の説明を受け、若葉は四つん這いで落ち込み、楓は苦笑いしながら首を振り、球子は額を撫でつつ複雑な表情を浮かべ、勝者となった彼女は自慢気に笑う。
杏はこの模擬戦中、ひたすら姿を隠して情報収集と戦況の把握に徹していた。勇者は20人近く居るのだから誰も戦わない、なんて状況が起こることはほぼ無い。つまりは勝手に潰しあってくれる。故に自ら戦う必要は無いというのが彼女の考えだった。そしてその考えは的中し、そう時間を掛けずにほぼ全員がリタイアするに至った。
後は残ったメンバーを協定を結んだ者と撃破し、協定通りに3人の内の誰かを勝たせば良い。美森が嘘を伝えたのも協定の内、球子が囮として動いたのは最後に合流していたから。最後に撃ったのは……まあ、隙だらけだったからだろう。それら全てを説明し終え、杏は再び満面の笑みを浮かべた。
「模擬戦が始まる前からこの瞬間まで全て私の計画通り。私達の、そして私の勝利です♪」
若葉主催レクリエーションという名の模擬戦、ここに決着。優勝者、伊予島 杏。
そして、その翌日。
「俺のモノになれよ……球子」
(……いや、どうしてこうなった!?)
西暦勇者達に用意された特別教室。そこで、球子は真剣な表情の楓に壁際まで詰め寄られて顔の真横に手を置かれ、ほんの数cmの距離まで顔が近付いた状態で……所謂“壁ドン”をされて顔を赤くしていた。
レクリエーションの戦績
3人撃破:楓(友奈、高嶋、美森)/樹(新士、園子(小)銀(小)/杏(楓、若葉、球子)
2人撃破:若葉(風、須美)/千景(歌野、雪花)
1人撃破:美森(千景)/須美(樹)
反則負け:夏凜、棗
という訳で、レクリエーションでのお話でした。優勝者は杏。知ってた、という方も多そうですね。しかしこのレクリエーションがほぼ彼女の掌の上であったとは思うまい。楓が友奈ズ相手に強くない? と思われるかもしれませんが、理由は本文が書いた通り。そもそも天の神でもない楓には特攻も意味ないですしね。それに誰が言ったか友奈特攻持ちなので←
結果を見ると1年2人が大健闘。内1人は優勝。やっぱり自慢の妹なんやなって。美森の力の強さですが、本当に友奈より強いらしいです。仮に勇者部で腕相撲をした場合。
楓(左手)>風>楓(右手)>美森>友奈>園子>銀=夏凜>越えられない壁>樹、となります。
さて、今回でレクリエーションは終わり、次回は優勝者へのご褒美(暴走とも言う)回。原作以上に被害者と加害者が居ることになるでしょう。因みに、原作の髪下ろしたヒロイン球子は必見。誰だお前!
……ところで、ハーメルンで“ここ好き”なる新機能があるとか。本作にもあったら是非してみて下さい。私が喜びます←
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
ちょっとした裏話
誰かの感想に返したか忘れましたが、楓君の散華はTOSのコレットの天使化の症状+αとなる予定だったり。そうなっていたら、本作はBEif寄りになっていた……かも?