咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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また長らくお待たせしてしまい、大変申し訳ありません。ようやく更新出来ました(´ω`)

ゲームのイベントをやっていたのもありますが、前回同様、或いは前回以上に難産でした。特に後半。その分思いっきり楽しんで書きましたが←

fgoは最終的に目標を少し越えた104箱開けました。開封作業疲れた……スカサハ師匠も当たりましたし満足。沖田さんと土方さん来ないかな……他のゲームのガチャは諦めの境地です。樹ちゃん本気で欲しかった……。

さて、前回は戦闘シーンもりもりでしたが、今回は戦闘無しの会話と甘さと色々多めです。普段地の文多めに書く私ですが、今回は会話大盛り……かも?


花結いのきらめき ― 21 ―

 それは、杏がレクリエーション(模擬戦)の優勝者となった後のこと。留守番組が居た丸亀城の最上階に全員が集まり、優勝者の杏に皆で称賛の拍手をしていた。変身は既に解いており、素直に称賛する者も居れば自身の結果に未だに落ち込んでいる者も居る。次第に拍手の音も消え、休憩も兼ねたのんびりとした時間になる。

 

 「今回は散々なリザルトに終わったわ……みーちゃん、慰めてー」

 

 「あ、あはは……残念だったねうたのん」

 

 「散々なのはこっちもだけどね。ホント、歌野が飛んできたのは何事かと……何があったのアレ」

 

 「アレはびっくりしたわね。まあそのお陰で勝ちが拾えたのだけど」

 

 「ああ、アレか。風が大剣に絡めた鞭ごと歌野を振り回してな……」

 

 「風は相変わらず無茶苦茶ね。前にバーテックスの一部をそのバーテックスにぶつけたりしてたもんね」

 

 「本当に何をやっているんだ風は」

 

 よよよ……と泣きマネをする歌野に膝枕をしながら頭をよしよしと撫でる水都。2人を苦笑いしながら見る雪花はそう言って今は痛みこそないがその際の痛みを思い出してか脇腹を擦り、千景も腕を組みながらうんうん頷く。若葉はあの衝撃のシーンを思い出してか遠い目をしながら彼女の疑問に答え、当の本人は会話に参加することなくサッと目を剃らしていた。

 

 そんな話を聞いた夏凜がとある1戦を思い出しながらそう呟くと勇者部以外の全員から“えっ?”という視線が風に集まる。その視線を受けて顔を背けたまま冷や汗を流す彼女に、若葉の呆れた声が胸に刺さった。

 

 「風さんも凄かったみたいだけど、樹さんもやっぱ凄かったよなー。あたし達相手に1人で勝っちゃったし」

 

 「そうだねぇ。正直、3人がかりで負けるとは思わなかったねぇ。隠れてた須美ちゃんが決めてくれなかったら本当に1人に全滅するところだったよ」

 

 「イッつん先輩とっても強かったんよ~♪」

 

 「はい、本当に。ワイヤーのせいで最後くらいしか攻撃出来ませんでしたし……樹先輩、お見事でした」

 

 「あ、ありがとう皆。ところで小さいお兄ちゃん、あの呼び方をもう1度……」

 

 「言いません」

 

 【(何て呼ばれたんだろう……?)】

 

 「妹が絶賛されてお姉ちゃん嬉しい……ずびっ」

 

 「何も泣かなくてもいいだろうに」

 

 次に話を始めたのは小学生組と樹。風の話にほうほうと頷いていた銀(小)が自分達の戦いを思い返しつつキラキラとした目を樹に向ける。新士もそれに乗り、ふむと1つ頷きながら苦笑いする。最後の彼の秘密兵器と須美の一撃がなければ小学生組は樹によって全滅させられていたのだからそれも仕方ないだろう。それでも4人中3人倒されているのだが。

 

 そんな戦いを終えたからか、小学生組からの樹への評価が鰻登りである。銀(小)など尊敬の感情を惜しげもなく向け、新士も最後の呼び方を請われて脱力しているが称賛の目を向けている。園子(小)と須美も似たようなモノ。話を聞いていた他の者達も樹に同じような視線を向けだす。風に至っては感涙している。そんな姉を仕方ないなぁと弟は優しげに見ていた。

 

 「強かったと言えば楓くんもだよ! 私と高嶋ちゃんの2人でも倒せなかったし」

 

 「途中までは3人で戦ってたんだけど、私達と楓くんの2対1になってからはあっという間だったね」

 

 「君達2人を同時に相手するのは2度とやりたくないねぇ……ギリギリだったんだよ、アレでも」

 

 「楓さんが友奈さん達を相手に勝利したのは目を疑いましたけどね」

 

 「あの時から見てたのかい?」

 

 「はい。因みに、夏凜さんと棗さんの戦いも樹ちゃん達の戦いも見てました。勇者の視力と運動能力って凄いですよね」

 

 「いつの間に!?」

 

 「ってことは結果も知られてるのか……あれを見られた、と。うああああ……」

 

 「うん……海があったら潜りたいな……」

 

 「いや、普通は“穴があったら入りたい”じゃないの? 棗的にはそれで正しいのかも知れないけど」

 

 次に話し始めたのは三つ巴の戦いをしていた楓達。友奈と高嶋の2人からすれば、拮抗していた三つ巴の戦いが2対1という有利な状況になってからあっという間に負けたのだからその印象は強いだろう。彼からすれば、勝利したとは言え同じ顔の2人から同時に攻めてこられるのは悪夢のような出来事だっただろうが。

 

 そう、彼は勝利したのだ、友奈と高嶋の2人を相手に。2人の実力を知る仲間達としても驚愕の出来事のようで幾人か目を見開いている。信じがたいと言わんばかりだが、そこに承認の杏も加われば最早疑いはない。実は同じように見られていたと知った樹は驚き、夏凜と棗は再び落ち込む。その際に出た迷言にツッコんだのは風である。

 

 「美森ちゃんも杏ちゃんと繋がっていたんだっけ? 見事に騙されたよ」

 

 「ふふ、ごめんなさいね楓君。本当ならもう1人か2人は倒しておきたかったのだけど……」

 

 「千景が居なければ倒されていたのは私だったかも知れないな。改めて感謝するぞ、千景。お前が居てくれて助かった」

 

 「べ……別に、乃木さんを守ろうとした訳じゃ……あれは偶々よ」

 

 「あら、偶々にしては必死な表情だったような気がしたけれど?」

 

 「……黙りなさい」

 

 「自分も屋根に登った所を待ち構えられていたから、その時点でやられていたかもねぇ。そういえばなんで撃たなかったんだい?」

 

 「ああ、あれは千景ちゃんの攻撃を受け止めた時に銃身が歪んでいたのに気付いてなかったのよ。気付いた時には楓君が来た後だったの」

 

 「成る程、それで……という事は自分も千景ちゃんのお陰で助かったってことか。ありがとうねぇ、千景ちゃん」

 

 「ぐ、偶然よ……その、お礼を言われるような事じゃ……」

 

 美森と杏、球子の3人が模擬戦前に繋がっていたという話を思いだし、彼女の方を見ながら本日何度目かの苦笑いを浮かべる楓。そんな彼に楽しげに笑い返した美森はその際の事を思い返し、少し悔しげにそう呟く。同じように思い返した若葉は千景の方を向き、改めて礼を言うと千景は腕を組みながら若葉から視線を剃らしつつ言い訳するように言った。美森にクスクスと笑いながら言われると少し顔を赤くして睨んでいたが。

 

 そういえば、と楓が問い掛けると美森はそう説明すし、理解すると彼もまた千景に礼を言う。実際のところ、彼女が居なければ若葉と楓の2人は美森の手によって脱落していた可能性が高い。言うなれば彼女は2人にとって恩人とも言える。彼の朗らかな笑みと共に真っ直ぐ向けられたお礼の言葉を受けた千景は、今度は恥ずかしそうにふいっと顔を背けたのだった。

 

 「で、最後は杏にしてやられた訳だが……」

 

 「模擬戦前に交渉もしてる辺り、本気で優勝しに来てたねぇ」

 

 「流石あんずだな! タマも鼻が高いぞ」

 

 「その球子ちゃんは何してたんだっけ? フリスビーかな?」

 

 「ふふん、今回は楓のからかいも嫌味も効かないな。タマはずっと囮と意識を杏から逸らす為にタマに向け続けるだけだったからな」

 

 「成る程、私達に避けられるのも計算の内だったということか」

 

 「なら、球子ちゃんはしっかりと仕事をしていたんだねぇ。実際負けてる訳だし、今回は杏ちゃんに完敗かな」

 

 「ああ。流石は我らが誇る参謀役だ。見事だったぞ、杏」

 

 「ありがとうございます。タマっち先輩と東郷さんも協力してくれて本当に助かりました」

 

 「そうだろうそうだろう。おい楓、タマにはタマを素直に褒めても良いんだぞ?」

 

 「うん、こればかりは褒めるしかないねぇ。流石は杏ちゃんだ」

 

 「だからあんずだけじゃなくてタマも褒めろよ!?」

 

 「ふふ、ごめんごめん。囮役としての君にはまんまと引き付けられたよ。やる時はやるもんだねぇ、球子ちゃん」

 

 「ふふーん♪」

 

 そして最後の場面の話になり、若葉が悔しげに呟くと楓はまた苦笑いを浮かべる。恐らく今回のレクリエーションで最も勝利する為に動いたのは杏であろうとこの場の誰もが理解する。やる気や戦果の問題ではなく、勝利までの道程の作成と準備を最も行った者、という意味でだ。

 

 杏に称賛の目が向けられた事が嬉しいのか、本人よりも自慢げに胸を張る球子。いつものように楓が弄りに行くが、今回ばかりは糠に釘。球子の役割はあくまでも囮と注意を引くこと。彼女は立派にかつ完璧にその役割をこなしてみせた。そんな彼女が凄いのか、その作戦と役割分担を考案した杏が凄いのか……言うまでもなく、両者だろう。

 

 敗けを認め、杏を褒める楓と若葉。それを見てうんうん頷き、楓にどや顔をして詰め寄る球子。余程彼を出し抜いた上でチームでの勝利を得た事が嬉しいのだろう。そこまでしても杏しか褒めない楓に結局弄られた球子だったが、朗らかな笑みと共に褒められるとまた自慢げに胸を張って満足げな笑みを浮かべた。そんな姿を周囲の者達に微笑ましいモノを見る目で見られている事には気付かずに。

 

 「さて、そろそろあたし達の箱の中身を確認しますか……自分の結果は分かってるけどさ」

 

 「銀さん、なんですか? その箱」

 

 「お前はもう忘れてるのか……あたし留守番組がレクリエーションで勝つと予想した人の名前を書いた紙がこの中に入ってんだよ」

 

 「あ、あははー、そんな話をしてたよーなしてなかったよーな……」

 

 「もうっ、してたわよ銀」

 

 「皆さんが誰に賭けたのか気になりますねぇ」

 

 「まあ何人かは予想出来るけどね」

 

 そう言って銀(中)が取りに行ってきたのは上の部分に丸い穴が空いている四角い紙製の白い箱。彼女が説明した通り、その中には模擬戦に参加できない5人が予想した模擬戦の勝者の名前を書いた紙が入っている。この予想……今回は“杏”と書かれた紙が入っていれば、彼女と共に書いた人が優勝賞品である“皆に命令する権利”を得られるのだ。

 

 頬を掻いてあらぬ方を見る銀(小)に呆れる須美。そんな2人をくすくすと笑いながら見た後に新士と風は銀(中)が箱から紙を取り出す姿を見る。2人だけでなく全員がそこに視線を向け、結果発表を今か今かと待っていた。

 

 「まずは……“須美(東郷)”。これはあたしだな」

 

 「あら、銀は私に賭けていたのね」

 

 「楓か須美にするか迷ったんだけどなー。どっち道外してたけどさ。次は……“楓くん”って書いてある」

 

 「あっ、わ、私だね」

 

 「神奈ちゃんだったんだ。勝たせてあげられなくてごめんねぇ」

 

 「ううん、いいの。それに当たってたとしても命令とか思い付かなかったし」

 

 「後3枚だし、一気に引いちゃうか。これは“うたのん”、これは“若葉ちゃん”、これは“カエっち”って書いてるな」

 

 「うたのんは私だね」

 

 「若葉ちゃんは私ですね」

 

 「カエっちはわたしだよ~」

 

 【(知ってた)】

 

 箱から次々と紙を取り出し、書いてある名前を読み上げていく銀(中)。結果から言えば、留守番組は全員予想を外した形になる。読み上げた後に名前を書いた本人が手を挙げれば全員が言葉にせずとも頷いて納得の意を示す。特に最後の3人はそれ以外書く気がなかっただろうと言わんばかりである。

 

 「さて、それじゃあ優勝した杏は皆にどんな命令をするんだ?」

 

 「はい。私が皆さんに命令する内容は……ズバリ」

 

 留守番組の賭けの確認も終え、今回の締めとして若葉が代表して杏に問い掛けると彼女は一旦目を伏せ……満面の、それはもう満面の笑みでこう言った。

 

 

 

 「お気に入りの恋愛小説(多数)のシーンと私自身の要望のシーンの再現。それを皆さんに順番に演じて貰います♪」

 

 

 

 

 

 

 そして、話は前回の最後のシーンへと戻る。西暦組が通う特別教室を使い、杏のお気に入りの恋愛小説のシーンの1つであるヒロインがヒーローに壁ドンされて迫られているというシーンなのだろう。ヒーロー役が楓なのは当然男性だからであり、新士ではないのは年齢や身長の問題である。

 

 (そう、これは演技だ。それに相手は楓なんだし、普段からこいつを見てれば別に慌てる事はない……)

 

 「どうした? 聞こえなかったのならもう1度言ってやる……俺のモノになれ、球子」

 

 (いやもう誰だよお前!? 普段そんなキリッとした目でもないしそんな男らしい喋り方もしてないだろうが!?)

 

 球子にとっての普段の楓、と言えば思い浮かべるのは朗らかな笑顔と爺臭いとも言える老熟した雰囲気。加えて少し悪戯好きなイメージもあるだろう。落ち着きがあり、優しげな雰囲気と実際に優しい性格は好印象なのは違いないが、肉食系よりは草食系に位置する男性である。

 

 だが、目の前にいる楓は普段の彼とは似ても似つかない。いつもの讃州中学の制服ではなく学ラン姿であり、髪もポニーテールに纏め、目は鋭さの奥に優しさを持って球子を至近距離で射抜き、普段より幾分か低く耳に残る声色。口調ものんびりしたモノではなく力強さがあり、一人称すらも“自分”から“俺”に変わっている。

 

 最早変貌と言っても良い変わりっぷりに球子の自身がドキドキとしているのを自覚する。それが驚き過ぎているからなのか、それとも普段とのギャップにときめいているからなのかは本人にすら分からない。因みに、球子も衣装はどこかの学校のブレザーを着ており、髪も下ろしている。

 

 「そ……そんな事言われても、タマには他に好きな人が……」

 

 「ストップだ! 球子ちゃんが嫌がってるじゃないか!」

 

 「白鳥君……ってやってられるかああああっ!!」

 

 「タマっち先輩! ちゃんと台本通りに台詞を言ってくれないとダメじゃない!」

 

 「言えるか!! というか何でタマの役が“内気な少女”なんだよ!?」

 

 「ヒロインの女の子が“小柄な少女”だからタマっち先輩にぴったりかなって……それに普段と違ってしおらしいタマっち先輩も見たかったから」

 

 「チビだって言いたいのか!? それなら樹とか小銀達小学生組でも良かったじゃないか! というか普段と違ってってやかましいわ!!」

 

 「ツッコミが忙しいわね、土居さん」

 

 「見てる分には面白いねぇ」

 

 何とか演技を続けると教室の扉が開き、男子生徒という役なのだろう学ランを来た歌野が入ってくる。そして彼女の名前を呼んだところで球子が羞恥のあまりに爆発。両手で頭を抱えながら背中を剃らして叫んだ。そんな彼女に丸めた台本を手に近付く杏に、球子は再び疑問と共に叫ぶ。

 

 彼女の疑問に対してしれっと欲望混じりに答える杏。彼女に詰め寄って心の丈を叫ぶ球子だったが、残念ながら杏の心には響かなかったようだ。そんな2人のやり取りを間近で見ていた楓と歌野は我関せずと少し距離を開けて楽しげに見ていた。

 

 「にしても、まさか衣装まで用意しているとはねぇ」

 

 「そうね、男子生徒の格好なんて初めてしたわ。なんだかフレッシュな気分ね」

 

 「それは私の要望でもあるからよ」

 

 「東郷さんの要望?」

 

 学ランの襟元を摘まんで引っ張りながら首を傾げつつ衣装を見る楓と、くるくると回って少し大きいサイズの学ランを楽しげに見る歌野。2人の様子を見ていた外野の中から美森が声を上げ、全員の視線が彼女へと向いたところで代表するように友奈が疑問符を浮かべる。

 

 話を聞けば、協定を結んでいた美森、球子、杏の3人は誰かがレクリエーションで優勝した場合、自身の願いと他2人の願いを可能な限り叶えるという約束をしていたのだ。今回は杏が優勝したので彼女の願い、命令を聞いて貰いつつ、美森、球子の願いも出来るだけ叶えるつもりだった。

 

 「私の場合、杏ちゃんに“なるべくいろんな格好をした皆の姿を見たい”とお願いしたわ」

 

 「衣装は大赦の人に頼んだんだよ~。武器のレプリカを作ってくれた人達に頼んだらレクリエーションの後に半日でやってくれました~♪ 色んな衣装があるよ? この教室が埋まる位」

 

 「私達の知ってる大赦と違うわね……というか早くないかしら。それに量も……」

 

 「千景、ここは私達の時代から300年も経っているんだ。そういうこともあるだろう」

 

 「私達は300年前の大赦も知らないけどね。でも色んな衣装を着た皆を見られるとは東郷ナイス。着飾るのは任せんしゃい!」

 

 「アタシも手伝うわよ雪花。楓達と樹は勿論、皆綺麗に可愛くしてやるわ! 夏凜にはこのフリフリした衣装を着せてあげましょ」

 

 「なんで私を引き合いに出すのよ! や、やめろー! そんなフリフリしたのを持って私に近寄るなー!」

 

 「うん……2人が楽しそうで何よりだ。ところで、演技は良いのか? このままだと日が暮れてしまうぞ」

 

 美森の要望は杏としても願ったり叶ったりだったことだろう。現にわざわざ衣装を変えて演技をさせているのだから。因みに、衣装は大型トラックによって運ばれており、必要に応じて用意した大赦の人間達が運んでくる。総勢10名程の大赦の者達はレプリカを用意した時と同じくノリノリであった。

 

 園子(小)の説明を受けて唖然としている千景に若葉が若干の諦めが入った表情で諭すように呟く。戦っていた場所が北海道なので大赦の存在をこの世界に来るまで知らなかった雪花は特に気にした様子もなく、色んな衣装を皆に着せられると燃えていた。

 

 そんな彼女に同調した風もやる気を出すや否やニヤニヤとしながらフリルが沢山付けられた可愛らしい服を手に夏凜に迫り、彼女は全力で逃げ出した。それを見てうっすらと微笑んだ棗のその後の言葉でハッとした杏は、再び皆に演技をしてもらうように動くのだった。

 

 「学ラン、男装……若葉ちゃんにも後でしてもらいましょう。でも今は楓さん達をこのカメラで……」

 

 「須美ちゃん、フィルムとメモリーカードの容量は充分ね?」

 

 「はい、東郷先輩! この時の為にそれぞれ10ダースずつ、メモリーカードは32ギガのモノを用意してあります!」

 

 「わ、私もか、えでくんを写真に撮りたいな」

 

 「私もうたのんを……」

 

 「やっぱ東郷さんは須美なんだよなぁ……」

 

 「アマっちアマっち。わたしにもあれやって?」

 

 「杏さんに頼まれたらねぇ」

 

 

 

 

 

 

 3人の演技に杏が満足した所で次のシーンに移る。メンバーは楓は続投で相手は千景。場所は変わらず教室のままである。

 

 現在、黒いゴスロリを着用して髪も左側のサイドテールに纏めた千景は教室の真ん中に立っていた。その手にはクマのぬいぐるみが抱かれ……そして目の前に、片膝を付いて(ひざまず)いて頭を垂れる、勇者に変身した状態で黒いスーツを着ている楓の姿。更にその頭には髪と同じ色の犬だか狐だかの着け耳があり、腰の辺りから垂れ下がった尻尾らしきモノ。

 

 「ぼくの為に、その命を賭けるというのか」

 

 「はい、この身は貴女の為にあります故に」

 

 「ぼくの為に、その生涯を使うというのか」

 

 「はい、それが私のすべてであります故に」

 

 

 

 「ぼくと……ずっと一緒に居てくれる……?」

 

 「はい。貴女を……愛していますが故に」

 

 

 

 「……ここまでやってなんだけど、伊予島さん、なにこれ? それに楓君に変身までさせて……」

 

 「“高貴な家柄の孤独な少女と人外(獣人でも妖怪でも可)の青年の異種族ラブストーリー”です! 先程のタマっち先輩達のが学園ラブコメならこちらはファンタジー! やはり種族の壁を感じつつもそれを共に乗り越えていくのは王道ですよね! 因みに、今回はそれに加えて主従の禁断の愛も追加です! 千景さんの雰囲気と変身した楓さんの姿がもうぴったりで! あ、獣耳と尻尾はアクセサリーで例によって大赦の方が作ってくれたそうです」

 

 「凄いよこの耳と尻尾、本物みたいにモフモフしてる!」

 

 「ぐんちゃんもその服似合ってて可愛い! ね、ね、もっかい“ぼく”って言って!」

 

 「友奈、あんまり触ると取れちゃうから……」

 

 「た、高嶋さん……そんなに抱き着かれると、その……ぼくも恥ずかしいわ」

 

 (演技だって分かってるけど、カエっちに愛してるって言われるなんて……羨ましい)

 

 演技が恥ずかしかったのか、それとも楓の言葉が恥ずかしかったのか顔を真っ赤にした千景が杏に問い掛けると怒涛の勢いで説明が始まる。その間にも美森と須美、ひなたがパシャパシャと写真をあらゆる角度から撮りまくっているが最早誰も気にしていなかった。

 

 立ち上がった楓に近付き、着け耳と尻尾を触って満足げな友奈と苦笑いしている楓。千景の方も高嶋が満面の笑みで抱き着き、演技での一人称が気に入ったのかそれを要求すると千景は恥ずかしそうにしつつもそれに応えた。幸福そうに笑う彼女を見て、軽い嫉妬の視線を園子(中)が向けていたのを、銀(中)だけが知っている。

 

 

 

 

 

 

 「部長。試合を受けてくれてありがとうございます」

 

 「いや、お前がそんな事を言うのは珍しいからな。だが、急にどうしたんだ?」

 

 「……僕は、この試合で勝って部長に言いたい事が……伝えたい事があるんです」

 

 「伝えたい事? それなら別に試合などしなくとも」

 

 「いいえ、それではダメなんです。僕は試合に勝って、貴女よりも強いんだと……弟分ではなく、貴女を守る事が出来る1人の立派な男なんだと証明したいんです」

 

 「新士……そうか。ならば、本気でやらなくてはな」

 

 「うん、全力でお願いします。若葉姉さん……僕は、貴女を越えてみせる!」

 

 

 

 「……杏、説明をくれ。いや、大体の流れは分かるんだが……」

 

 「勿論、“姉弟のような幼馴染で同じ部活(今回は若葉さんが相手なので剣道部)を通して関係を進めていく純愛物語”です! 年上の幼馴染に守られてばかりの弟分! そして姉貴分は学校では有名かつ高嶺の花! やがて自分を情けなく思う男の子は守られるよりも守れる立派な男を目指し、いつかは幼馴染という近くて遠い関係から脱却してその募る想いを彼女へと……やっぱり若葉さんはお……タが似合いますね」

 

 「そしてどれだけ打ち据えられても諦めずに立ち上がり、遂に死闘の末に若葉ちゃんに勝利する新士君。守る事が当たり前だった筈の弟分の成長を目の当たりにし、本気の想いを告げるその姿に若葉ちゃんはドキドキと胸を高鳴らせてしまうのです! やがて弟分から1人の男として意識するようになった若葉ちゃんは新士君の想いを受け入れ、2人の影は部活で使う体育館の中で重なって……」

 

 「おい、あんずが増えたぞ」

 

 「ひなた……なんでお前まで……」

 

 「ひなたさんは若葉さん大好きですからねぇ」

 

 「園子さん園子さん、アマっちが僕って言うの……良いですね~」

 

 「さっきの俺って言うのも良いよね~そのっち」

 

 「若葉……アタシを差し置いてちび楓に“姉さん”呼びだと……?」

 

 「お姉ちゃん、どうどう」

 

 教室の中で人形劇に使うような簡易的な背景を使って体育館の内装を演出しつつ、お互いに髪をポニーテールに纏めて竹刀を手に胴着を着た姿で向かい合う若葉と新士。演技を終えた若葉が頭に手を当てながら聞くと、相変わらずテンションの高い杏が説明し、更にカメラをパシャパシャと言わせながらひなたもそれに参加する。まさかの参戦に球子が遠い目をし、若葉が頭を抱え、新士はくすくすと笑っていた。

 

 そこから離れた位置では園子ズがこれまでの楓達の演技を思い返しながら感想を言い合い、新士に若葉が姉さんと呼ばれた事に実姉(じっし)としてのプライドが刺激されたのか風の目が据わる。そんな姉を、妹は苦笑いしながら抑えていた。

 

 

 

 

 

 

 それからも、杏の命令であるお気に入りシーンや要望シーンの再現は続いた。砕けた荒っぽい口調の高嶋と少し舌ったらずなお嬢様口調をこなす友奈の2人に無表情キャラをこなす楓、眼鏡を掛けて姉にコンプレックスを持つ内気な少女を演じる美森に鈍感な熱血正義漢な少年を演じる楓、元気な男装女子の従者をやりきる風に魔王のような厳かな主をやりきる楓、人懐っこい小学生のアイドルを恥ずかしがりながらも演じた樹にそのプロデューサーとして接する楓、ダルいダルいと無気力に言う夏凜に膝枕をして真っ赤になる彼女に笑いかける楓。

 

 酒好きな刀の人の姿の女性として絡むひなたにその刀の主として付き合う楓、(球子の要望で)恥ずかしがりながらも貴族の少女として剣の師事(勿論真似事)を受ける杏と真っ黒な服に身を包んで剣を教える楓、露出度高めな盗賊の格好をする歌野と一緒に楽しげに酒を飲む振りをするジャージ姿のそろそろ疲労困憊な楓、渋い叔父様キャラが好きという設定で羞恥と戦いながら演技する水都とメイクや付け髭等で渋い叔父様キャラを演じる楓。

 

 テンション高い姿が見たいとの要望でギャルのような格好をして頑張ってテンションを上げるが失敗する棗とそんな彼女を慰めつつこれまた要望でお姫様抱っこする楓、意外とノリノリで露出度高めの黒く際どい服を着て眼鏡を外している雪花と1回人類を救いそうな露出度の少ない白い服を着て右手の甲に赤い模様のシールを貼る楓。

 

 先程の美森と共に男装女子としてこれ幸いと遠慮なく抱き着きに行く園子(中)と抱き着かれて苦笑いする楓、大赦の者が用意したテント(教室内です)を貼って家庭用プラネタリウムで星空を観賞する銀と肩が触れ合う程に近くの隣に座って共に見上げる楓、無表情系食いしん坊キャラの園子(小)と彼女のお世話をする狸耳と尻尾を付けられた新士、仮面を着けて全身を覆う白い服を着た銀(小)とそんな彼女を抱っこする全身漆黒の鎧に身を包んだ新士、チョココロネが好きな女の子として苦笑いしながら一緒に食べる須美とどこから漏れたのか女装する事になってしまって落ち込んでチョココロネを食べる新士(傍らに楽器のベース)。

 

 途中から小説云々より欲望を優先した結果、死屍累々と言わざるを得ない状況が出来上がっていた。男性2人が肉体的にも精神的にも疲労困憊状態になり、女性陣も嬉し恥ずかしな混沌とした空気になっている。そんなこんなで時は過ぎ、最後の1組となった。

 

 「それで、自分に用って? わざわざ手紙でこんな時間に教室に来るように書いてさ」

 

 「ご、ごめんなさい…その、か、えでくんに言いたい事があって……」

 

 「ふぅん? 自分に、ねぇ……で、その言いたい事って?」

 

 「えっと、その……」

 

 場所は変わらず教室。沈み行く夕日の赤い光が窓から入り込み、それを背に受ける制服を着た神奈の姿が逆光で暗くなる。楓は右手に持つ手紙をひらひらとさせ、もじもじとする彼女を優しげに見た後にポケットへとしまい込んで問い掛けると、神奈は恥ずかしそうに俯いたまま言葉に出来ずに居る。

 

 今回のシチュエーションは今までのモノに比べてシンプル。夕方の誰もいない教室。女子の方から意中の男子に呼び出しの手紙を送り、来てくれた相手に告白する……そんな、恋愛物ではありふれた場面。つまりはここから告白するのだが、恥ずかしさが勝って中々台詞が出てこない。

 

 思わず監督でもある杏が声を掛けようとするが、それは振り返った楓が視線で止めた。そしてしばらく待ってみるものの、何度か声を出そうとしてまた俯いてを繰り返すだけで台詞が聞こえてこない。彼の後ろでは声を出さずに友奈と高嶋が“頑張れー”と声援を送り、他の者達もそれを見て身振り手振りで応援し、楓はただ微笑んだまま待つ。

 

 「……か、えでくん」

 

 「うん、なに?」

 

 (このまま台詞を……ううん、まだ駄目。だってここでは彼の名前を噛んだりどもったりしないから。だから……)

 

 再び深呼吸。演技なのに本当に告白するかのような緊張感。神である自分が、本当の人間の女の子のようにドキドキと胸を高鳴らせている事に内心笑みが溢れる。よし、と両手をギュッと握り締め、楓に向かって1歩踏み出す神奈。そして、今度こそ口を開いた。

 

 「か、えで……楓くん!」

 

 「うん」

 

 

 

 「私と……つ、ちゅきあってくりゃはい!」

 

 

 

 「……ふ……くふ……っ」

 

 「……ぁぅ……」

 

 神奈、噛んだ。それはもう盛大に。折角名前を噛まずに言えたのに肝心の告白部分でこれが手本であると言わんばかりの見事な噛みっぷりを見せ付けた。これには楓も演技抜きに笑いを我慢出来ず、他の者達も苦笑いを浮かべる者も居れば盛大にコケている者も居る。勿論神奈はこれまでにない程に顔を赤くして俯いている。

 

 そんな彼女に、楓は歩み寄った。その事に神奈は気付かなかったが、俯いた視線の先に彼の足が見えた事で近付いてきている事に気付き、思わず顔を上げようとして……その前に彼の右手が彼女の顎の先に添えられ、ゆっくりと上を向かせた。所謂、顎クイである。

 

 少し背中を曲げているのであろう、神奈の目と鼻の先に彼の顔はあった。あとほんの少し近付けば、唇が重なる程の距離。あうあうとしか声を出せない彼女に、楓は演技ではない彼自身の朗らかな笑みを浮かべ……。

 

 

 

 「自分で良ければ喜んで……神奈ちゃん」

 

 

 

 この後、その言葉を聞いた神奈が嬉しさやら恥ずかしさやらのあまりに気絶してしまい、その場はお開きとなる。その後しばらくは一部はこの時の演技や衣装姿で撮った動画やら写真やらで盛り上がり、一部は家や自室に戻って泥のように眠った。更に翌日以降も数日間、数人は楓達と目も合わせられない日が続いたそうな。




今回は後書きのおまけ的なモノは一切ありません(!?)

という訳で、レクリエーションの報酬による杏(と私)の欲望開放回でした。シチュエーション書くのも時間掛かりましたが、1番時間掛かったのは最後の辺りのダイジェスト風に書く際に中の人の出演作を調べた時ですね。この人これにも出てたんか!? となって面白かったです。1番笑ったのは東郷さんとひなたがきららファンタジアでコンビ組んでた(ランプ&マッチ)事です。次点にぱるにゃすがちょい役とは言えエピソードオブバーダックに出てたこと。

演技は原作のモノを入れつつ、元ネタありきやふと思い付いたのを入れました。ダイジェストは別作品キャラのを簡単に。楓のcvがコロコロ代わりますな。NLしか書いてないので楓は誰よりも疲れてますね← 元ネタ知ってるとニヤリとするかもしれません。

さて、今回で幕間のようなお話は終わり。次回から原作へと戻ります。番外編はしばらく無しですかね。それから、本作の話への“ここすき”ありがとうございます。この文が好きなのかーとニヤニヤさせてもらっています。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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