咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

11 / 142
お待たせしました(´ω`)

今回は戦闘回。やはり戦闘は書いていて楽しいです……ちゃんと想像出来る文章となっていればいいですが。


鷲尾 須美は勇者である ー 9 ー

 何かを……致命的に何かを間違っている気がした。

 

 「ちくしょっ……安全な場所っつったって何処まで行けば……」

 

 銀にそのっちと共に担がれて運ばれながら、私はそんな不安を感じていた。お腹が少し苦しい。視線の先には、まだ大橋の下側と側面が見えている。ピカピカと光っているから、新士君はあそこで戦っているんだろう……1人で。

 

 (()()()()()の銀がここに居るから、少なくともあんな夢みたいなことにはならないハズ……なのに……)

 

 不安が無くならない。違和感が無くならない。だから、今一度夢の内容を思い出す。まごうことなき悪夢ではあったが、未だに鮮明に記憶に焼き付いている。思い出すこと自体は容易だった。

 

 大橋の中央で、1つの人影が座り込んでいて。それは、赤黒く染まった勇者服を着ていて。私の両隣を誰かが歩いていて……その人影に、首が、無くて。

 

 「……こほっ……」

 

 「須美? 大丈夫?」

 

 「ええ……大丈……夫……?」

 

 苦しくなって咳き込む。そういえば、さっき血を吐いたんだっけ……そう思いながら、銀の心配そうな声に返しつつぐいっと袖口で口元を拭う。ふと、その拭った袖口が視界に入る。当たり前だけど、袖口は拭った血で()()()()()()()()()

 

 

 

 ナニカが、致命的に間違っていることに気付いた。

 

 

 

 「……あ」

 

 

 

 致命的な勘違いをしていたことに気付いた。

 

 

 

 「ああああ……!」

 

 「須美? どうしたんだ?」

 

 今この場に私達()()が居て、新士君が()()()()()()()()。そして夢で見た人影は()()()()()()()()()()を着ていたのであって、()()()()()を着ていた訳じゃない。

 

 「止まって!! お願い銀!! これ以上離れないで!!」

 

 「わわっ、須美? どうし……」

 

 「戻っ……戻って!! 私達を置いて戻って!! 間に合わなくなる!!」

 

 「だから! いったい何が……」

 

 「()()()()()()()()()()()()()!! 新士君が……新士君が死んじゃう!!」

 

 ゾッとした。だから必死に暴れた。銀とそのっちには悪いけれど、これ以上大橋から離れたくなかった。銀がいきなり暴れだした私に慌てて立ち止まる。彼女にとってはいきなり訳の分からないことを言い出したからか少し苛立ってるみたいだけど、それでも止める訳にはいかなかった。

 

 「夢で見たって……何の話?」

 

 「赤黒く染まった勇者服を着た誰かが大橋の上で、1人で首が無くなって死んでる……そんな夢を見たの」

 

 「それは、只の夢なんじゃ……」

 

 「銀も知ってるでしょう? 私には巫女の適性がある。それに、夢の状況に近付いていってるの……只の夢なんかじゃないわ」

 

 銀にとっては突拍子もない話だから、信じられなくても仕方ない。いえ、私の話を信じられないというより、話についていけてないという方が正しい。分かる、きっと私も銀の立場だったら同じように……いえ、否定するかもしれない。そんなの只の夢だって。

 

 でも、今はこんな会話をしている時間すらも惜しい。早く、早く戻らないと。大橋を降りてしまったから只でさえ戻るのに遠回りしなくちゃいけない。いくら勇者の高い身体能力でも、流石に大橋の上に跳び移るのは厳しいのだから。

 

 「でも、その人影は赤い勇者服を着てたんだろ? 赤い勇者服ならあたししか」

 

 「私も、新士君もそう思ってた。でも違うの」

 

 私は自分の血で赤黒く染まった袖口を銀に見せる。それがなんだと言いたげな銀だったけど、それを数秒見た後にサッと青ざめ……まさか、と私の方を見る。

 

 「赤い勇者服じゃなくて、赤黒く染まった勇者服。つまり……血で染まった勇者服を着た、誰か。そして大橋には新士君1人だけ……お願い。戻って、銀!!」

 

 銀は頷いて私とそのっちをその場に置き、弾かれたように大橋に向かって戻っていく。その後ろ姿を見た後、私は段々と意識が遠くなってきた。

 

 (お願いします、神樹様……どうか、私の大切な人を……お守り、下さい……)

 

 そこで、私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 サジタリウスの顔にある口が開き、そこから大量の光の矢が新士目掛けて放たれる。新士はスコーピオンの方に向かって走り、矢の射線上から外れつつサジタリウスとの間にスコーピオンを置いて盾にしようとしていた。それを遮ろうと、新士の進行方向からスコーピオンの尻尾の凪ぎ払いが迫る。

 

 「問題ない、ねぇ!!」

 

 その尻尾を、新士は両手の爪を尻尾目掛けて×字に振るうことで文字通りに切り開く。黄色い奴は問題なく切れる、そう頭に刻みつつ新士は切り飛ばされた尻尾の残骸を見ることなく進み、スコーピオンの体には幾百もの矢が突き刺さり、穴を開けて消える。その光景を見て、新士は余計に矢に当たる訳にはいかないと気を引き締める。

 

 光の矢は消える。もし体に受けてしまえば、その部分にそのまま綺麗な丸い穴が空くだろう。そうなれば血は垂れ流しになり、死へと近付く。そうでなくとも1度の被弾が命取りとなり得る状況なのだから。

 

 新士はスコーピオンを通り過ぎ、矢の放出が止まったところで一気にサジタリウスへと近付く。まずは厄介な遠距離攻撃を持つサジタリウスを先に倒すつもりなのだ。

 

 「まずは、お前だ!!」

 

 サジタリウスに飛び掛かり、具足の爪を引っ掻けてその青い体を駆け上がり、同時に両手の爪で切り裂いていく。これだけ密着していれば矢を撃ったところでどうにもならないだろう。そう思っていた矢先に、またサジタリウスが大量の矢を正面へと放つ。

 

 新士は自分に当たる訳もないのに何を……そう思って矢の行く先をチラリと目だけで追う。

 

 「な……にぃっ!?」

 

 大量の矢が、新士に迫って来ていた。彼はサジタリウスの体を駆け上がることで間一髪避けるが、飛んで来る矢は駆ける新士を追い掛けるように軌道を修正。いったいどうなっているんだ? そう疑問に思う新士だったが、答えは直ぐに得られた。サジタリウスの前方、さほど遠くない位置にキャンサーの板があり、それがサジタリウスの吐き出す矢を反射していたのだ。

 

 (なるほど。真っ直ぐにしか飛ばないのに最初に雨のように降ってきたのは、アレで反射していたからか)

 

 ならばと、新士はサジタリウスの後ろへと回り込む。結果として敵の巨体が盾となり、サジタリウスは己の矢を自分自身で幾つも受けることになった。これで大丈夫だろうと背後に回った新士は再び具足の爪をその体に引っ掻けて体を固定し、両手の爪で切り裂いていく。

 

 だが、そのままやられているバーテックスではない。サジタリウスは再び大量の矢を発射し、前方にあるキャンサーの板がそれを()()()向けて反射。そして、その方向に2枚目の板が置いてあり、背後に取り付いている新士の上から襲い掛かってきた。

 

 「ち、いぃぃぃぃ!!」

 

 流石に体勢が悪く、咄嗟に敵の体を蹴って矢を回避しつつ着地、そのまま襲い掛かる矢から逃れる為に走り、板が厄介だと判断して新士はキャンサーに標的を変更。矢が止まったことを確認してから飛び掛かり、顔目掛けて右の爪を突き出す。

 

 「っ!? かっ……たいねぇ!!」

 

 だが、それは3枚目の板に阻まれる。銀の攻撃を受けても微動だにしなかった板は、見た目の薄さとは裏腹にかなり頑強である。それは攻撃した新士の右腕を痺れさせ、爪の先が衝撃で砕け、腕は弾かれる。砕けた破片は矢と同じように反射され、新士の右頬を浅く切った。

 

 「ぐ……っ」

 

 腕が弾かれたことで無防備を晒す新士に、キャンサーの4枚目の板が叩き落とすように面で襲い掛かる。幸いにもそれは左側からの攻撃だったので左腕による防御が間に合う……が、空中で踏ん張りなど効くハズもなく、サジタリウスの前まで吹っ飛ばされる。

 

 「くそっ……!? しまっ」

 

 地面に叩き付けられる新士だが、直ぐに体制を立て直し……その直後、スコーピオンが修復中の尻尾を新士を叩き潰さんと振り下ろす。彼に避ける術は、無かった。ドゴォッ!! そんな音と共に尻尾が叩き付けられ、大橋の一部が砕かれる。

 

 「……まだ、だあっ!!」

 

 尻尾を伸ばされた爪が突き破り、そのまま横に引き裂かれる。その下から新士が現れる……が、その頭からは血が流れている。避けられずとも迎撃を……と両手を上に突き上げて爪を伸ばした新士だったが、やはり敵の巨体もあって完全に威力を殺しきれなかった。それでも押し潰されるよりは遥かにマシ。頭部と背中に大きなダメージこそ負ったが、死ぬよりはいい。

 

 体をふらつかせつつ、新士は荒い息を吐いて3体を見る。スコーピオンの尻尾の修復はまだ少し掛かりそうだが、サジタリウスはもう殆ど治っている。キャンサーに至ってはマトモにダメージを与えられていない。それに対してこちらは板に吹き飛ばされ、地面に叩き付けられ、尻尾に叩き潰されかけと大ダメージを負っている。

 

 (全く……イヤになるねぇ……)

 

 内心で弱音を吐く。だが、その目は鋭く敵を射抜いていた。

 

 サジタリウスが再び顔の口を開く。そこから放たれる大量の矢。新士は避けようとするが、頭部へのダメージは思いの外大きく、ふらついてそのまま膝を突いてしまう。チッ、と舌打ちをしつつ、新士は体をなるべく小さくし、両手を曲げて前に出して盾とする。

 

 「ぎ、ぐ、う、ううううっ!!」

 

 耐えるしか無かった。カバーし切れない肩付近や太もも辺りに矢が掠り、肉が削れる。貫通しないだけマシかもしれないが、傷が増えれば出血も増える。しかも敵は1体だけではないのだ。

 

 キャンサーの板が、剣の如く新士へと振り下ろされる。新士は両手を前にしつつ足の力だけで後方へと跳躍。勇者の力ならそれだけでも充分に距離を取れたし、板を避けることも出来た。代わりに、跳ぶ為に足を伸ばしたことで具足で覆いきれていない左太もも、その真ん中に1つの矢が刺さった。

 

 左足に激痛が走り、着地を失敗して尻餅をつき、そのまま後ろに1回転してうつ伏せに倒れ込む。矢は直ぐに消え、綺麗に空いた丸い穴から血が流れる。最早新士は満身創痍であった。

 

 「……ぐ、お……おぉっ!」

 

 痛みに呻き、歯を食い縛り……全身に力を入れる。まだ動けると。まだ負けてないと。

 

 (まだまだ……死ねない、ねぇ)

 

 “気合い”で立ち上がる。痛みは“根性”で耐える。敵を睨むその目とまだ握れる拳には己の意地を……“魂”を乗せる。

 

 

 

 1つ、新士の前に紋章が現れる。

 

 

 

 (今の爪じゃあ……ダメだ。もっと鋭く、強い……例えば、剣のような……)

 

 “イメージ”する。正直に言って使い難くて仕方ない爪。それではなく、例えば、爪同士が重なり合って1つの剣になるような。一々反動で腕が跳ね上がる射出ではなく、ワイヤーでも付いていて鞭を振るうような感じで、ある程度の遠距離攻撃も出来ればいい。“想像力”を働かせる。

 

 

 

 また1つ、新士の前に紋章が現れる。

 

 

 

 (神樹様、お願いします。自分だけじゃあ厳しい。自分だけじゃあ、あなたを守りきれない……アイツらを通す訳にはいかないんだ。死ぬ訳には、いかないんだ)

 

 そっと手を合わせて“神樹様に願う”。己だけではあまりに力が足りない。今この場ではその力こそが必要なのに、それが足りなさすぎる。

 

 

 

 また1つ、新士の前に紋章が現れる。

 

 

 

 (ああそうだ、自分は死ねない。約束したからねぇ。守るって、頑張るって言ったからねぇ……それに、夢も出来たしねぇ)

 

 そんな己の考えに、新士は思わず苦笑いが浮かぶ。結局はそういうことだ。自分の為だ。彼女達との約束を破りたくない。彼女との約束を破りたくない。彼女達の夢を叶えた姿を見るという夢を叶えたい。

 

 新士はいつものように朗らかな笑みを浮かべる。合わせていた手を下ろし、目の前に浮かぶ3つの紋章、その向こうの敵を見る。まるで己を見下すかのように佇む姿は、既に完全に修復されていた。

 

 「銀ちゃんのお嫁さん姿、きっと綺麗だろうねぇ」

 

 紋章が輝く。

 

 「のこちゃんの焼きそば、きっと美味しいだろうねぇ」

 

 紋章が輝く。

 

 「須美ちゃんのこと、守ってあげないとねぇ」

 

 紋章が輝く。

 

 「その為にも……自分が頑張らないとねぇ」

 

 新士の背後にある幾つもの樹木、そこから彼に向けて、一本の細い木の根のようなものが伸びて背中に触れる。

 

 「だから……」

 

 

 

 ー お前達には、出ていってもらわないとねぇ ー

 

 

 

 4枚目の紋章が、目の前に現れた。そこに描かれた花の名前を、花に詳しくない新士は知らない。花の名はガーベラ。オレンジ色のガーベラ。花言葉は“希望”と“前進”、“神秘”に“冒険心”。

 

 新士は笑みを消し、紋章に突っ込み……通り抜ける。1つ、2つ、3つと通り抜ける度に、体に変化が起こった。具足の爪はそのままに、4本ずつあった手甲の爪は1つの鋭い両刃の剣に。肩甲骨程の髪が膝裏程までに、黄色い髪が白く染まる。そして最後の4つ目を通り抜けた時、勇者服が宮司服のように変化するのを見ながら、新士は確かに聞いた。

 

 

 

 ー 頑張って! あなたなら、きっと出来る! ー

 

 

 

 そっと背中を押してくれるような、明るい、聞くだけで元気になるような少女の声を。

 

 「うん……頑張るよ」

 

 そう呟き、新士は走る。痛みはもう感じなかった。治っている訳ではないが、今はそれでも有り難かった。

 

 それは、後に勇者システムに搭載されるとあるシステム……その先駆け。彼の背後で、ガーベラの花が咲き誇る。完全なる開花には至らず、それは精々七分咲き程度であったが……それは、確かに花開いた。

 

 サジタリウスの顔の口から大量の矢。もう見飽きたと言えるそれを、新士はただ真っ直ぐ走ることで射線から抜けた。明らかに彼自身の速度が上がっており、サジタリウスが射線を合わせようとしてもそれに間に合わない。ならばと、今度はスコーピオンが新士の正面から尻尾を凪ぎ払う。

 

 「その連携、いい加減見飽きたねぇ」

 

 新士は止まることなく、両手の手甲の剣を前に突き出して走る。そして尻尾と接触し……まるで豆腐のように切り裂いた。今度はキャンサーの板がサジタリウスの矢を反射し、新士を背後から襲う。

 

 「それも、食らわないねぇ」

 

 新士は飛び上がり、矢を回避しつつキャンサーに向けて右腕を振るう。それだけで、右腕の剣がキャンサーに向かってオレンジ色の光のワイヤーを伸ばしながら飛んだ。それはキャンサーの下半身の細い部分に突き刺さり、新士の意思でそのワイヤーが回収されていく。すると必然的に、新士はキャンサーへと高速で近付き……手甲に剣が収まった瞬間に横に一閃、その細い体を切り裂いた。

 

 「いいねぇ……扱いやすい」

 

 新しくなった手甲の使い勝手に満足しつつ、振り下ろされた板を横に飛んで回避し、その板の上に乗って飛び上がり、キャンサーの顔に両手の剣を突き刺し、そのまま振り上げて切り裂き、顔を蹴り飛ばして距離を取る。その瞬間、新士を狙っていたであろう大量の矢がキャンサーの顔に次々と突き刺さった。

 

 着地した新士は直ぐに左腕を振るって剣を伸ばし、それはスコーピオンの顔に突き刺さる。ワイヤーを回収して一気に近付き、さっきと同じように横に一閃、加えて爪を伸ばした具足でその横顔を思いっきり蹴り飛ばした。

 

 「っ!? ぐううううっ!!」

 

 その直後、新士は咄嗟にサジタリウスの方に向けて両手をクロスさせる。その瞬間に両腕に凄まじい衝撃が走る。3人が居た時にもやったように、サジタリウスが大量の矢ではなく上の口から槍のように巨大な矢を放ったのだ。

 

 防いだことは防いだが空中にいた為に吹き飛ばされる新士。危なげなく着地するが、その衝撃で穴の空いた太ももから血が吹き出す。その痛みに顔をしかめつつ、また新士は走る。

 

 「これ以上、やらせない」

 

 避ける。切り裂く。避ける。突き刺す。避ける。伸ばす。防ぐ。吹き飛ぶ。また走る。

 

 「これ以上、怖い思いはさせない」

 

 避ける。切り裂く。避ける。突き刺す。避けきれない。肩に掠る。血が出る。それでも攻める。

 

 「ここから……この世界から」

 

 避ける。切り裂くが浅い。吹き飛ばされる。立ち上がる。走る。幾度も繰り返す。倒れても立ち上がる。攻める。攻める。攻める。血が吹き出しても、痛みを感じても、敵が何度再生しようと、何度でも走る。何度でも攻める。

 

 

 

 「出ていけええええっ!!」

 

 

 

 何度でも。何度でも。

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間が経ったのか、新士には分からない。何時間も戦っていた気がするし、そんなに経っていない気もした。実際は10分に達するかどうかと言ったところなのだが、今の彼には確認する気力は無かった。

 

 「……どっこいしょっ……と……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()。いつの間にか元の勇者服と爪に戻っていて、その勇者服は()()()()()()()いた。

 

 肩に裂傷、左太ももには穴。頭部からも血が流れ、あちこち肉が削れているし、打撲なんて逆にどこに打撲していないところがあるのだと言いたい。

 

 「ふぅ……老体には堪えるねぇ……いや、今の自分は若いんだったねぇ……」

 

 それでも、生きていた。血が足りなくて今にも意識が飛びそうで、もう立つ力も無くて……それでも、新士は確かに生きていた。

 

 スコーピオンが倒れ伏した所を見た。サジタリウスが消え去る所を見た。キャンサーが消え去る所を見た。敵が居なくなったことで緊張が切れた。今の新士は、もう動くことさえままならない。

 

 (なんとか銀ちゃんとの約束は守れそうだねぇ……許されるかは、分からないけど)

 

 死んだら許さないとは言われたが、半死半生はどうだろうか。苦笑いを浮かべながら、そんなことを呑気に考える。こんな格好で3人に泣かれやしないだろうか。もしかしたら怒られるかもしれない。そんな想像が出来るのも生きているからこそと考えれば、まあ悪い気はしないと彼は思った。

 

 (……疲れた、ねぇ……)

 

 意識を留めておくのが難しくなってきて、自然と瞼が落ちてくる。このまま眠ってしまえば、次はちゃんと起きれるだろうか。そんな縁起でもないことを考えながら新士は眠るように意識を落としかけ……。

 

 

 

 「新士いいいいぃぃぃぃっっ!!!!」

 

 

 

 そんな、必死な声で名前を呼ばれて咄嗟に体を左に傾かせる。それが限界だった。それが、彼の命運を分けた。

 

 スコーピオンは消えていなかった。倒れ伏したまま、謂わば死んだフリをしていただけだった。他の2体が消えたからスコーピオンも消えたのだと、新士は勘違いしていた。そのスコーピオンの鋭い針が頭上から新士へと振り下ろされていた。そのまま行けば、新士は須美が見た夢の通りに首を落とされていた。

 

 血が吹き出す。それは首からではなく、右腕からだった。新士の名前を呼んだ存在……銀は、その光景を見ていた。今にも殺されそうな新士。彼が体を傾けた瞬間に地面を穿つスコーピオンの針。そして……千切れ飛ぶ、彼の右腕。その衝撃で地面を転がる……血塗れの新士。

 

 「お前ええええっ!! よくも、よくもあたしの親友を!! 絶対……絶対に許さないからな!!」

 

 烈火の如く怒り狂い、その怒りに呼応するように双斧から吹き上がる紅蓮の炎。それは縦横無尽に振り回され、スコーピオンにその怒りが全て注がれる。

 

 桜の花弁が舞ったのは、それからすぐのこと。須美の見た悪夢は、完全には再現されることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 大橋が見える祠がある場所で、3人の少女の泣き叫ぶ声がしていた。

 

 「早く! 早く来て下さい! 新士が……新士が……っ!」

 

 「アマっち! 死んじゃダメだから……死なないで、お願い!」

 

 「新士君が……新士君……うあ……ああああ……っ」

 

 端末を手にどこかへと連絡し、必死に叫ぶ銀。新士の左手を握り締め、死なないでと必死に声をかける園子。新士の惨状を見てへたり込み、虚ろな瞳で彼を見つめる須美。共通しているのは、涙を流していること。

 

 その様子を、どこからか飛んできた赤い頭に桜色の体のオウムと青い鳥が心配そうに見詰めていた。




原作との相違点

・戦ったのは主人公

・銀生存

・銀生存(大事なことなので(ry)

・他色々



という訳で、ただ主人公が頑張るお話でした。前話で須美の悪夢の内容と須美の話した内容が微妙に違ってたの、気付かれてましたかね?

とあるシステムの先駆け……はい、アレです。まあそこまで劇的な強化ではないので無双とはいきませんでしたが。そして声の主……イッタイダレナンダー。

つか他の作者様方が楽しく甘いバレンタイン話やってるのに私はなんで血のバレンタインやってるのやら←

あ、いずれ悪夢のまま進んだデットエンドifやります。お楽しみに?

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。