咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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前回よりは早いが平均よりは遅い、という訳でお待たせしました、ようやく更新です(´ω`)

気が付けばUAが40万を突破していました。皆様ご愛読、誠にありがとうございます。今後も花結いの章完結まで頑張りますので宜しくお願いします。

fgoのノーチラスイベント、個人的にはとても楽しめました。ゴッホちゃんも来てくれてくっそ可愛くて満足。ゆゆゆいでは銀ちゃん、芽吹、雪花に続くゲームオリジナル切り札の棗も来てくれました。今年の私は来ている←

また、アンケートにご協力ありがとうございます。現時点で結果は勇者の章と番外編が同率でした。次点ではわすゆ編と見てみると綺麗に分かれた感じが。愉悦か? 愉悦成分か? 友奈虐めやDEif、BEifが好きか?←

さて、今年も終わりまで本当に後1ヶ月程。個人√で締めるのは確定として、後1つはリクエストから発掘しますがさてはて。また愉悦系→個人√の流れにしますかね。LEif……友奈√……うっ、頭が。

今回はほぼ説明回。それでは、どうぞ。


花結いのきらめき ― 24 ―

 (――これは、次からは使わせてもらえないな)

 

 無理矢理に行った3回目の強化。光が姉さんの大剣を包み込んだ瞬間、自分はそう悟った。

 

 強化を行うこと自体には問題は無かった。だが、包み込んだ瞬間に自分の視界が半分……左側が黒く染まった。右足も動かなくなり、左側の音も聴こえなくなった。

 

 大剣を掲げる頃には胸の奥……心臓に激痛が走った。更には満開が解ける時のように変身が足下から解除されていっているのも見えた。多分、他の皆は気付いていないだろうけども。

 

 姉さんの台詞に思わずツッコミを入れた時には、もう殆ど意識が飛んでいた。最後に大剣を振り下ろしたが、敵に当たったかどうかも曖昧だ。ただ、振り下ろしたまま受け身も取れずに倒れ込んだことだけは理解出来て……痛みを感じることもなく、自分の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 光の大剣を振り下ろし、2体の大型バーテックスを倒した風は最初、初めて強化を受けたことと一緒に攻撃したことの嬉しさから楓に抱き着いて喜びを分かち合うつもりであった。だが、そうするつもりで横を向けば、そこには変身が解けた上でうつ伏せに倒れている弟の姿。先の喜びなど直ぐに消え失せ、代わりに背筋が凍ったかのような錯覚と不安、焦燥感がその胸中を占めた。

 

 慌てて直ぐ近くにしゃがみこみ、体を揺する。だが起きる気配は全く無く、身動ぎ1つしないことに更に不安は募る。少しして他の者達も集まり、倒れた楓を見て焦りの表情を浮かべる。

 

 「風、楓は……」

 

 「わ、分からない。アタシも攻撃の後に見たらもうこの状態だったし……」

 

 「東郷さん。楓くん、どうしちゃったんだろう……やっぱり、3回目の強化を使ったから?」

 

 「そうね、元々3回目は無理に発動すれば使えるという事だったから……見た限りは眠ってるだけみたいね。怪我もしていないし」

 

 「2回目の時はどうだったんだっけ?」

 

 「2回目を使った場合は、疲労感だけだったハズです。それを踏まえれば、無理に3回目を使ったから強制的に気絶……眠ってしまったというのはありそうなんですが……」

 

 「その話は後にしましょう。敵を倒した以上、樹海化が解除されるハズよ。このままだと彼は部室に戻った時にこのまま地面に寝ている事になるわ」

 

 「それはダメね。楓君にも悪いし、部室の皆もビックリしてしまうわ」

 

 「楓はアタシがおぶっておくわ。樹、手伝って」

 

 「うん、お姉ちゃん」

 

 若葉が問い掛けると風は首を横に振り、起きる気配の無い弟の姿に不安を隠せないで居る。同じく不安げな表情を浮かべる友奈が美森に聞き、彼女もまた同じような表情をしつつも状況、状態の把握に努める。だが見た限りでは本当に眠っているだけのようで、その顔も特に苦痛に歪んではいないのが救いだろう。

 

 雪花が真面目な顔で誰にでも無く口にすると答えたのは杏。美森と同じく間近で疲労感を覚えていた彼の姿を思い返し、ならば無理に使った3回目の反動でこうなるのは予想の範疇ではある。だが予想したことが現実に起きるとなるとやはり不安、動揺は隠せなかった。ましてこの世界では誰も戦いの中で気を失ったりしたことがないのだ、驚きも大きいのは仕方ないだろう。

 

 そこで話を一旦区切るように言ったのは千景。敵の復活の兆しが無い以上、普段通りに元の空間に戻ることになり、このままにしておけば地面の上で倒れたままになる。歌野も同意した後、風は樹の手を借りて楓をおぶる。そして、いつものように勇者達は元の世界へと戻るのだった。

 

 (……楓君が倒れる前、彼の表情が苦痛に歪んだような気配がしたけど……気のせい、よね?)

 

 その一瞬前、美森はそんな事を考えていたが……どう考えても彼の表情が見えない位置に居たにも関わらず、なぜそれを感じ取れたのかは彼女のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 「皆さん、お疲れ様です……あの、楓さんはどうしたのでしょう?」

 

 「カエっちはどうしたの? フーミン先輩」

 

 「寝てる……のか? そんなに疲れる戦いだったんですか?」

 

 「確かに疲れたけど、楓は3回目の強化を使った後に倒れてたのよ。今は眠ってるみたいだけどねぇ」

 

 「眠ってるだけ、なんだね。良かった……」

 

 (3回目の強化……そっか、それで楓君は……)

 

 戻ってきた勇者達を迎えたお留守番組だったが、やはりその視線は風に背負われた楓に向けられた。彼女が疑問に答えると直ぐに心配そうな表情に変わり、園子(中)と銀(中)が彼に近寄って眠っていることを確認する。水都も確認した後にホッと胸を撫で下ろし……神奈は未だに表情が晴れなかった。

 

 ひとまず楓を4つ並べた椅子に寝転ばせ、膝枕をしたところで自分達も疲労感から思い思いの椅子に座りながら戦勝の報告をする勇者達。お留守番組も楓の事を心配しつつ長丁場の戦闘を終えた皆に労いの言葉を贈る。だがふと気付くと、大半の者達が座ったまま船を漕いでいるのが見えた。

 

 「皆お疲れだね。ぐっすりだ……それだけ大変な戦いだったって事なんだよね」

 

 「やっぱり連戦は体力を削られるんだね……起きてる人も眠そうだし」

 

 「そうですねぇ、起きてるのは自分を含めても半分も居ませんし」

 

 「小学生で起きてるのは新士君くらいだもんねぇ。というかまだ体力残ってるのか。おっそろしい小学生だこと」

 

 「いや、実はそうでもないんですよねぇ……正直、今にも寝そうです」

 

 「その状態で寝られるのか?」

 

 「ええ、目を瞑ったら直ぐにでも……寝、そう……な……」

 

 「あらら、本当に直ぐに寝ちゃったわ」

 

 寝ているのは夏凜以外の勇者部と若葉と歌野、雪花、棗以外の西暦組、新士を除く小学生組。部室なので布団等は無く、皆椅子の上で数人ずつ寄り添うようにして眠っていた。座ったままや椅子2つを使って窮屈そうに寝転んだりと体勢は辛いかも知れないが、それが気にならない程に疲労し、熟睡しているようだ。

 

 そうして眠っている勇者達を見ながら、水都と神奈が納得するように呟く。実のところ起きているメンバーとしても眠気はあるようで、何度か目をしぱしぱと瞬きしたり擦ったりとしている。そんな中で右肩に園子(小)を、左肩に須美の頭を乗せた新士が起きている事に雪花が驚いていた。尚、銀(小)は寝転んでいて頭は須美の膝の上である。

 

 そうして棗とも少し話した後、園子(小)の方へと頭を倒して目を閉じると直ぐに彼から静かな寝息が聞こえてきた。普段から老熟しているように思われても体は小学生、本人が言った通り限界だったらしい。微笑ましげに笑う歌野の後ろで、小学生組が眠る姿を見ながら高速でメモを取る園子(中)の姿があったが誰もツッコまなかった。

 

 この後、少しして勇者達は全員が日が沈むまで眠った。眠る勇者達にお留守番組は毛布を掛けてやり、ひなたと水都はそれぞれ若葉と歌野に膝枕をしてあげたり。園子(中)と銀(中)は小学生組の頭を労いを込めて撫でてやり、神奈は眠る楓の頭に恐る恐る触れて同じように撫でたり、それに園子(中)が参加したり。起きた後はそれぞれの住む場所へと戻る。お留守番組が作った麺料理はその日の晩御飯として皆の胃の中に消えたそうな。

 

 そして、新しい1日が始まり……その日、そしてその次の日。戦った当日を合わせた約3日の間、楓が起きることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 目が覚めて最初に目についたのは、暗い部屋の中に見える見慣れた天井だった。どうやら樹海から戻ってきているようで、今は自宅の自分の部屋に居るらしい。

 

 (……体の動きが鈍い。それに、両手と右足が全く動かない……視界もいつもより狭いし、やっぱり勘違いじゃなかったみたいだねぇ)

 

 3回目の強化を使った後に感じた違和感や痛み。そしてベッドの上で横になって布団を被せられているにも関わらず温かいとも寒いとも感じていない、ある意味で慣れた感覚。ここまでくれば嫌でも理解出来る。自分の体は今、散華が戻る前の状態に戻っている。しかし、両手が動かないのは何故だろう。散華した訳でも無い……いや、右腕は神樹様が作り治してくれたモノで、左手は現実世界の最後の戦いの時の満開で散華したんだったか。

 

 「夜刀神、居るかい?」

 

 「シャー……」

 

 「おはよう、夜刀神。悪いけれど、自分の端末を持ってきて欲しいんだ。ついでに操作も頼めるかな?」

 

 天井に向けて夜刀神の名前を呼ぶと、直ぐに目の前に現れてくれた。どこか心配そうにしているように見える夜刀神に挨拶しつつそう頼むと、直ぐに自分の視界の外から端末を咥えて持ってきてくれた。枕元に置いた夜刀神は頼んだ通り尻尾で画面を押して操作し、ロックを外してくれたので横目で画面を見る。

 

 (あれから4日経っているのか……どおりで喉がカラカラだし、お腹も空いている訳だ)

 

 時刻は5時半と普段から自分が起きる時間ではあるものの、日付が最後に確認した日から4日も経っている事に驚く。思った以上に眠っていたようだ。これは皆にだいぶ心配を掛けてしまっただろう。特に同じ神世紀の皆には西暦の皆よりも大きく、深く。

 

 腹筋だけで体を起こす。散華が戻ってからしばらく経っているのでブランクはあるものの、2年も散華がある状態で過ごしていたのだから動かす分には問題無い。だが部屋を見渡す限り車椅子は無いから、移動するのは少しばかり厳しいものがある。さて、どうしたものかと考えていると、不意に部屋の扉が開いた。

 

 「楓、起きてるー? ……楓起きてる!?」

 

 「……おはよう、姉さん。長いこと寝てたみたいだねぇ」

 

 「ホントよ、もう。寝過ぎよ……おはよう、楓。心配したんだから」

 

 「うん、心配かけてごめんねぇ」

 

 開いた扉から入ってきたのは姉さんだった。自分が眠っている間、こうして朝早くに起きているか確認しにきてくれていたんだろうか。同じセリフを違うトーンで繰り返した姉さんに思わず笑いつつ挨拶すると、姉さんは自分の近くまで来て……恐らくは涙目になってるんだろう。顔をそちらへと向けると案の定で、そこまで心配掛けたことを申し訳なく思うと同時に嬉しく思う。

 

 だが、今の姉さんには更に心配を掛けてしまうだろう。どうかまた、神奈ちゃん……ではなく神樹様に怒りが向けられないことを願うばかりだ。

 

 「起きて早々なんだけど、お願いがあるんだ」

 

 「なに? 何でも聞いてあげるわよ」

 

 

 

 「車椅子、まだあったよねぇ? それを持ってきて欲しいんだ」

 

 

 

 「……な、んで? 数日寝た切りだったけど、そこまで……」

 

 「両手と右足に感覚が無いし、左側が見えてない……ここまで言えば、分かるだろう?」

 

 「あ……なんで、なんでまたっ!? ……もしかしてそれが、3回目の強化の……?」

 

 「みたいだねぇ」

 

 予想通り、絶句した姉さんが自分の言葉の後に酷く狼狽えて泣いてしまった。だが隠しきれる事でもないし、伝えるべきことでもあったのだ。ただやっぱり、泣かせてしまったのは心苦しい。

 

 苦笑いしながら肯定すると姉さんに力一杯に抱き締められた。やはり本来感じるであろう温もりも、抱き締められている息苦しさや痛みなんかも感じない。再び失って分かる、それらの有り難みに自分も鼻の奥がつんとしたが、それを耐えつつ……抱き返すことも出来ないのでされるがままでいる。

 

 「ずっとそのまま……なんてことはないわよね?」

 

 「確約は出来ないけど、それは無いと思うねぇ。巫女の皆に聞くと、もしかしたら分かるかも知れない」

 

 「神奈達? そっか、神託ね?」

 

 「そういうこと。だから他の皆にも今起きてることの説明と報告をするつもりだよ。ただ、小学生の子達には内緒にしておくけどねぇ」

 

 「……そうね、ちび楓達には言わない方がいいかもね」

 

 そういうこと、と頷く。決してあの子達を信用していない訳でも侮っている訳でもないが、散華や今回の自分の容態の詳細を知ればあの子達の心に重くのしかかるだろう。それは自分の望むところではないし、血生臭い話もすることになる。経験したとは言え、わざわざ小学生の子達に聞かせる話でもない。

 

 西暦組の人達と勇者部の皆を家に呼び、そこで現状の説明をする。西暦の人達にはぼかしていた散華のこともある程度話す。そう話を纏め、自分は姉さんに持ってきて貰った電動の車椅子で移動して姉さんの作る朝食を食べた。その際起きてきた樹にも泣かれてしまった後に抱き着かれたが……仕方ないと苦笑いしつつ受け入れた……流石に、日課のトレーニングは治るまで出来そうにないかな。

 

 

 

 「私達の“切り札”に似た力、“満開”……話は聞いていたが、その代償の“散華”、か」

 

 「なるほど、そりゃ話辛いわ。でも話してくれたってことは、今のかーくんの状態に関係あるってことでしょ?」

 

 「うん、その通りだよ。まあ見ての通り、体のあちこちに異常が出てる。で、その異常が散華の時と同じなんだよねぇ」

 

 「楓さんの3回目の強化はもう使えませんね……いえ、使わせる訳にはいかなくなりました。そういう意味では、早い内に結果を知れた事は幸いです。3回目を使っても戦いが終わらなければ、無防備な楓さんを守りながら戦うことになりますし……」

 

 「もしそうなってもタマがばっちり守ってやるからな!」

 

 「それは頼もしいねぇ。ありがとね、球子ちゃん」

 

 で、その後に小学生組以外の皆を家に呼んで自分に起きてる事の説明をした。以前はぼかしていた散華の説明もし、頭に入れて貰った上で現状を語った。話の内容と自分の姿を見た皆が驚きと悲しみが混じった目で見るけれど、自分の都合の実験の結果でそんな顔をされると少し早まったかと考えてしまう。

 

 因みに今、自分はのこちゃんと友奈、樹、姉さんに前後左右から抱き着かれ、美森ちゃんに右手を、銀に左手を掴まれている。夏凜ちゃんは姉さんの後ろに居るようだ。ぎゅうぎゅうと擬音が聞こえてきそうな程で西暦組の皆からは生暖かい目で見られているが甘んじて受け止めよう。神奈ちゃんは顔を赤くしてちらちらとこちらを見ているが、動く様子はない。

 

 尚、全員が座るにはリビングにあるソファだけでは足りなかったのでテーブルの椅子や1階の自分の部屋から持ってきた椅子に座ってもらっている。自分は勿論、姉さんに持ってきてもらった懐かしい車椅子だ。

 

 「でも、3日経ってから楓君が起きて、まだその……散華? が残ってるのね。2回目とのこの差はなんなのかしら」

 

 「それは多分、楓くんに戻した散華の力を使ってしまったからじゃないかな。残っていた勇者の力だけじゃ足りなくて、その力を使ってようやく強化出来たんだと思うよ。勇者の力も散華を治す為に送った力も、元々は同じ神樹……様の力だから」

 

 「えっ、戻ってきた散華って元は神樹様の力なのか? そのまま返したんじゃなくて? ていうか神奈、良くそんなこと知ってたな」

 

 「え゛っ!? えっと、私は皆と直接会ったことはないけど同じ時間軸だし……後は……そう、神託で知ったんだ」

 

 「そういえばそうだったわね。まあどちらにせよ、戻してもらって良かったわ。私なんかそのままだったらまともに生活出来なかったし」

 

 (どうして君はそう口が軽いと言うか危機感が無いと言うか……隠す気はあるんだろうけどねぇ)

 

 千景ちゃんの疑問に皆も考え込むけれど、直ぐに神奈ちゃんが答える。だけど、はっきりと答えた事や散華が戻ってきた理由を知らない銀がまた疑問に思ったみたいで、姉さん達も同じように神奈ちゃんへと視線を向ける。彼女は慌てて誤魔化したし、夏凜ちゃんを含めて皆も納得したようだけど……この神様は本当にもう。

 

 それはともかく、夏凜ちゃんが言うように散華が戻って……治して、かな。まあ良かったと本当に思う。自分なんか一時は治らないとまで言われたしねぇ。そして、1度は治ったからこそ、余計に姉さん達に現状心配を掛けてしまっている訳だが。

 

 「楓くんはずっとそのまま、ってわけじゃないんだよね?」

 

 「そうですね、そこが重要です。神奈さん、大丈夫なんでしょうか?」

 

 「うん、大丈夫。今の楓くんは、謂わば空の容器みたいなもの。だからその容器に水……この場合は神樹、様から勇者の皆にも送られてる勇者の力を注いで貰えば、また散華は治るハズだよ」

 

 「あー、んー、つまりなんだ? カップうどんにお湯を淹れるみたいなもんか?」

 

 「なんでわざわざカップうどんに例えたんだタマちゃん」

 

 「そうだねぇ……球子ちゃん()()分かりやすく言うなら、自分は今は腕とか足とかが電池切れになっていて、ゆっくりと充電しているところなんだよ」

 

 「なるほど! ……ん? おい楓、今タマ“でも”って言った?」

 

 「気のせい気のせい」

 

 球子ちゃんから剣呑な雰囲気を感じたのでいつも通りに誤魔化しつつ、我ながら“電池切れ”や“充電”は上手い例えだと思う。実はさっきまで何も感じていなかった体だが、今はほんの少しだけ温かさを感じているのだ。やはり勇者の力は普通に生活している間に回復していっているのだろう。そうでなければ1度に満開ゲージを2つ使う強化はとっくに打ち止めになり、もっと早く今のような状態に陥っているハズなのだから。

 

 そうして回復する……つまりは満タンまで充電出来れば動くようになるのはと道理。勇者の力の消費のし過ぎでこうなったのだから、力が戻れば神奈ちゃんが言うように散華も戻るハズ。という神樹様本人からお墨付きをもらったようなものなのだから疑う余地はない。

 

 「まあ、自分は充電が終わるまで勇者はお休みするってことだねぇ」

 

 「そうか……楓の離脱は痛いが、その分我々が頑張ろう。ゆっくり休んでくれ」

 

 「まあこんだけ勇者が居るんだから、かーくん1人の穴くらいなら何とかなるでしょ」

 

 「ですが、楓さんは唯一空を飛べます。私達はそれで敵が居る場所へ素早く向かったり、私や東郷さん、須美ちゃんの機動力と安全面の確保が出来ました。戦力としても戦術としても、決して小さい穴とは言えませんね」

 

 「でもそれって、元いた時代の時の戦い方に戻っただけよね? ならノープロブレム! 沢山仲間も居るんだし、その時と比べたらまだまだ余裕があるわ」

 

 「私達も楓くんの分まで頑張るよ!」

 

 「そうね、弟の分は姉が埋めて見せるわ。お姉ちゃんにドーンと任せなさい!」

 

 「ふふ、流石姉さん。頼もしいねぇ」

 

 皆の優しく頼もしい言葉がじんわりと身に染みる。実際に戦力は多いし、替えの効かない能力があるとは言え、それは無ければ不便になる程度だろう。それに小学生の時の自分達や西暦組の皆の時代は自分のように空を飛べる勇者は居なかったのだから、戦闘にも特に支障はないハズ。楽観的な考えかも知れないが、そもそも自分が戦えない時に襲撃があるとも限らないし。

 

 「それで、楓の散華はどれくらいの期間で治るんだ?」

 

 「それがもう1つの皆……というより巫女の3人を呼んだ理由でもあるんですよねぇ。もしかしたら、神託とかである程度治る期間が絞れないかと思いまして」

 

 「すみません、私にはそういう神託は……」

 

 「ごめんなさい、私にも……」

 

 「ごめんなさい、詳しい時間は私にもわからない……でも、楓くんが眠っていたのは3日だから、同じ期間か倍くらい時間が掛かるんじゃないかな……と、思いたいかな~」

 

 「やっぱりそこまで美味い話はない、か」

 

 「神奈のも結局願望でしかないわね。本当にそれくらいの時間か、もしくはもっと早く治るならいいんだけど」

 

 (実際、“私達”にもそこまで詳細にはわからないし……何より初めての出来事だから前例とか基準みたいなのもわかんないもんね。でも、“私達”から聞く限り力の貯まる速度は枯渇していたにしては結構早い……なら本当に、3日~1週間くらいだと思うけれど……)

 

 棗さんに聞かれたのでそう答えて3人に視線を向けてみるけど、やはりそんなピンポイントな神託は無いようだ。神奈ちゃんの誤魔化し方はもう諦めるとして、彼女が言った通りなら思ったより短いと考えるべきか、それとも長いと考えるべきか。

 

 ……いや、短いだろう。前は2年以上も掛かったんだから、それに比べれば雲泥の差と言って良い。だが……きっと、その2年以上に匹敵する程、長く感じるんだろうねぇ。1度は失って、再び得たモノだ。戻ってきた時は本当に嬉しかったし、皆と一緒に歩けることの喜びは言葉に出来ない。それを知ったからこそ、余計に色々思ってしまうんだが。

 

 「……ところで、姉さん達はいつまでそうしているつもりだい?」

 

 「楓が治るまで」

 

 「お兄ちゃんが治るまで」

 

 「ごめんね楓くん。でももう少しこのまま……」

 

 「こうして手を繋ぐことで、私から勇者の力とかアルファ波を送れないかと思って……」

 

 「前は離ればなれだったから、今回はおはようからおやすみまでこうしてるんよ~」

 

 「その、感触はあるんだろ? こうしてたら、安心するかなって……」

 

 「いや、気持ちはわからんでもないがいい加減離れなさいよあんたら。楓さんに迷惑でしょうが」

 

 話も一段落したと思い、今の今までずっと自分にしがみついたままの姉さん達に苦笑いしつつ聞いてみると返ってきたのはそんな言葉。西暦の皆とは違い、姉さん達は皆自分と同じく散華を経験し、その状態の自分を見ている。だからまあ、こうなるのは予想通りではあるんだけどねぇ。あれ、なんか美森ちゃんの手から何か送られてきてるような気が……いや、流石に気のせいだろう。

 

 因みに、この後自分の両手が使えない事を理由にのこちゃんが治るまで泊まり込みで自分の世話をすると言い出したが姉さんによって却下されたり、じゃあ毎日世話をしに来ると言って却下されたり、この後皆で家で昼食を食べる事になった際にあーんをしようとして姉さんにインターセプトされたりと色々あった。これじゃ完全に介護される老人だねぇ……。

 

 尚、寝ている間は男性の大赦の人が体を拭いて清潔にしてくれていたらしい。治るまでの間も同じように大赦の人が風呂や御手洗いを手伝ってくれた。前世で経験があるものの、家族とは言え異性にされるのは……と思っていたから感謝だ。因みにこれは後から聞いた話だけど……のこちゃんが突然家に来ては水着を着て風呂の世話をしようとしていたが姉さんが本気で止めていたそうな。

 

 

 

 

 

 

 「楓くん、目が覚めて良かったねー」

 

 「そうね、友奈ちゃん」

 

 楓君達の家からの帰り道を、私は友奈ちゃんと2人で歩いていた。この世界に来た当初は冬間近だったのに今はもう春。現実の世界の時間は進まないと言うけれど、この世界に来て初めて年を越してしまった。時間が経つのは早いものね。

 

 あの戦いから3日。その期間で彼が目覚めてくれたのは早いと言うべきか、それとも遅いと言うべきか。ともかく目覚めてくれて本当に良かった。またあの時のような……起きた時に誰かが居なくなって、誰かが眠り続けるのを見るのは嫌だったから。

 

 「……ねぇ、東郷さん」

 

 「なぁに? 友奈ちゃん」

 

 ふと、友奈ちゃんの足が止まった。私も足を止めて彼女の方を見ると、さっきまで笑顔だったのが嘘のように俯いている。気づけば、その俯いて見えない顔から滴が落ちているのが見えた。

 

 「楓くん……心臓、止まってた。左手も動いてなくて……っ……多分、また温度とかも感じてなくて……!」

 

 「友奈ちゃん……」

 

 「どうしよう。神奈ちゃんは治るって言ってたけど……もし治らなかったら……また、ずっとあのままだったら……!」

 

 それは、友奈ちゃんらしくないと言えばらしくない言葉。でも、こうなるのは仕方ないのでしょうね。散華は私達の心に深い傷を残してる。治った今でも、まだその時の恐怖は大なり小なり残っているもの。私だって、捧げていた記憶が戻った時の絶望感は心に刻み込まれている。

 

 仮に散華が戻ってしまったのが楓君でなくとも、私達は同じように不安を抱いてしまう。でも今は、神奈ちゃんの言葉を信じるしかない。きっと戻ると。それに、帰り際に楓君は少しは温かいと感じるような気がすると言ってた。だから大丈夫……また、直ぐに元気に歩く彼を見ることが出来るから。

 

 「大丈夫……大丈夫よ友奈ちゃん。満開した訳じゃないし、治る予兆は出てるみたいだから。楓君と神奈ちゃんを信じましょう?」

 

 「うん……うんっ……!」

 

 すがり付く友奈ちゃんを抱き締めてその頭を撫でる。自分の口から出る言葉は……彼女だけでなく、私自身にも言い聞かせている。大丈夫。必ず治る。そうでなければ……私はまた、神樹様を恨んでしまうかも知れない。

 

 だけど結局、私達の不安は杞憂に終わる。そして楓君が倒れたあの日から約1ヶ月もの間、襲撃も自分達から攻めることもない、平和で穏やかな時間が流れることになることを……この時の私達は、まだ知らない。

 

 (それにしても……3人の巫女の内、神奈ちゃんだけが願望とは言え治る期間を口にしてた。それ以前にも、直接会ったことはないハズなのに私達の事をよく知ってるような事も……まるで見ていたかのよう。神奈ちゃん……もしかして、あなたは現実の世界では……)

 

 

 

 

 

 

 (私やそのっちのように、楓君の気配や場所を察知出来る領域に居るのかもしれないわ……!)

 

 

 

 

 

 

 「ど、どうした神奈!? 急に頭を押さえて……」

 

 「神奈さん、大丈夫ですか? 頭が痛いのですか?」

 

 「だ、大丈夫だよ若葉ちゃん、ひなたちゃん。何故だか急に頭の中で八百万の神が盛大にずっこけたような音が響き渡っただけだから……」

 

 「いやそれ大丈夫なのか!?」




原作との相違点はお休みです(!?)

という訳で、3回目の強化の代償とその説明回でした。予定通りと言うべきか、代償は楓の散華の復活です。ゆゆゆ編の最終バトルの満開の散華も込みですので、それまで動いていた左手も動きません。

原理というか理由としては、話の中でも書いた通り楓の中にある勇者の力の全てを使っている為です。散華は神樹の力によってそのまま戻されたのではなく新たに構成されていますので、その構成している力を使ってしまったので動かなくなった=散華の復活ということですね。右腕は散華した訳ではありませんが、これも神奈が構成した部分ですので同じように動かなくなりました。

西暦組に散華の説明をしたのは実は初。流石にその辺はぼかして話すでしょうしね。散華だとか世界を滅ぼし掛けたとか説明する方が……特に小学生組に言うわけないですし。

神奈ちゃん割とうっかりさん。そしてズレた考えして気付かない東郷さん。ヒロインやってる友奈ちゃん。芸人気質になってきてる他の神々。シリアスな雰囲気もありつつ微妙になりきれないのはゆゆゆい時空だからです。

さて、今年は投稿出来て2~3回。どんな番外編になるかはお楽しみです。個人√は後2人。いや3人……?

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