咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました、ようやく更新でございます(´ω`)

fgo5.5部、無事クリアしました。ガチャは無事爆死。リンボと伊吹欲しかった……伊吹、イブキ。心惹かれる名前ですよね←

セブストも奏目当てに始めました。相変わらず可愛い。ラスクラではアリス狙うも出るのはキリングドールばかりで心折れそうです。

さて、今年も残すところ2週間と少し。クリスマスと年末年始のイベントも楽しみです。福袋ガチャも、ね。

それでは今年最後の本編、どうぞ。


花結いのきらめき ― 25 ―

 「アマっち先輩、思ったより元気そうだったね~」

 

 「そうね。強化の後遺症で体が殆ど動かない、というのはびっくりしたけれど……」

 

 「本人あんまり気にしてなさそうだったなー。そこは良かった……のか?」

 

 「姉さん達も居るし、生活する分には心配はなさそうで良かったよ。ただ……」

 

 「まあ……」

 

 「ええ……」

 

 「……? 顔に何かついてたりする?」

 

 「いいや、いつも通り可愛い顔をしているよ」

 

 「本当? にへへ~♪」

 

 楓さんが目覚めたと若葉さん達から聞かされた日の翌日、自分達小学生組は姉さん達の家にお見舞いに行ってきた。部屋に入るとベッドの上で横になっている楓さんが居たが、まさか強化の代償のせいで須美ちゃんが言ったように体を動かすのが困難になっていたとは驚いた。

 

 説明を受けた時には自分も含めて全員が心配したし嫌な想像だってしたが、回復の兆候は出ているとの事なので安心した。そうして軽く雑談と姉さんが用意してくれた昼食をご馳走になり、遅くなる前に家を出て今は帰路に着いている。

 

 家での出来事を思い出しながら歩く途中、のこちゃん以外の目が彼女を見る。恐らく他の2人も思い浮かべているであろう、今日目にした事を考えながら。

 

 

 

 『今日も来たよカエっち! 身の回りのお世話は全部わたしにお任せなんよ!』

 

 『させる訳ないでしょうが! あんたにやらせるくらいなら全部アタシがやるわ! っていうかやるつもりだったのに断られた以上誰にもやらせてたまるもんですか!』

 

 『そんな、酷いよフーミン先輩……わたし、ちゃんとやれるよ! ちょっと恥ずかしいけど、お風呂だって予行演習として……』

 

 『なんの予行演習!? とにかく、ちび楓達もお見舞いに来てるんだから変な話を聞かせる前に帰れ!』

 

 『え、アマっち達も来てるの? じゃあそのっちも一緒にカエっちのお世話を』

 

 『あんたの煩悩まみれの行動にあの子達まで巻き込むんじゃないわよ!!』

 

 

 

 以上が扉越しに聞こえてきた姉さんとのこちゃん先輩の会話だ。お世話だお風呂だと聞こえる度に須美ちゃんと銀ちゃんは赤くなってたし、自分達は乗り気になったのこちゃんを抑えるのに必死だった。そうしていると会話はいつの間にか聞こえなくなった。

 

 

 

 『うるさいよ2人共……お兄ちゃんの迷惑になるから騒がないでね?』

 

 

 

 そんな、静かな樹の声と共に。その声色が聞こえただけの自分達でさえ震えたのだ、正面から本人に直接言われたであろう2人はどうだったのか。唯一楓さんだけが朗らかに笑っていてついつい4人で尊敬の目で見てしまったものだ……これはある種の自画自賛になるのかねぇ。

 

 それに樹も随分と成長して……まさか姉さんを、更にのこちゃん先輩も含めて圧倒するとは。元の世界で実際に目にするのがより楽しみになってきた。まあ楓さん曰くまだ甘え癖があるそうだが……そこは中学1年生なのだからまだまだ許容範囲だろう。甘えさせている彼も彼だし。

 

 「にしてもさ、初めて風さん達の家に行ったけど色々凄かったな。あたし家の中にエレベーターがあるの初めて見た」

 

 「そうね。それにバリアフリーも行き届いていたし、今の楓さんでも過ごしやすいと思うわ」

 

 「リビングも広かったし、ソファもアマっち先輩のベッドもふかふかだったんよ~♪」

 

 (確かに、過ごしやすそうではあったが……)

 

 皆の話し声を聞きつつ歩きながら考えるのは先程のお見舞い、その時に感じた幾つかの疑問。そして、前からあった疑問のこと。

 

 銀ちゃんと須美ちゃんが言った通り、あの家は随分とバリアフリーが行き届いていた。自分は彼女達と違って何度か家に来ているが、その度に不思議だったのだ。両親が死去し、五体満足の3人姉弟が暮らしているのになぜあそこまで整っていたのかと。

 

 それに、楓さんの部屋に置いてあった車椅子。よく見てみるとタイヤや車椅子自体にも細かな傷があった。自分達勇者に良くしてくれる大赦が用意したのなら、そんな傷だらけの車椅子を用意するだろうか?

 

 (思い付く理由としては、家族の誰かが元の世界で車椅子を使わざるを得ない怪我や病気をしていたから。そしてその誰かとは、恐らくは未来の自分)

 

 根拠は姉さん達が自分達の見送りをしてくれた際に楓さんを車椅子に乗せて押していたこと。その一連の動作がやけに手馴れたように見えたからだ。無論、気のせいという可能性もあるが。だが、それにしたってエレベーターはやりすぎだと思う。あんなモノ、後付けで付けられるとは思えないし、仮に後付けだとしたら思いきったことをしたと思う。

 

 ……いや、今更だが自分が養子に出る前に住んでいた家と場所や内装は違う。つまりあの家には引っ越してきた訳で、最初からバリアフリーが整っていた? ならなんでそんな家に引っ越すことにしたのか……。

 

 (……家族の誰かの為に必要だった? もしそうなら……)

 

 「アマっち? 何か考え事?」

 

 「うん? いや、今日の晩御飯は何だろうと思ってねぇ。お腹空いちゃって」

 

 「あー、あたしもお腹減ってきた。お母さん、今日は何ー?」

 

 「誰がお母さんよ……今日の当番は確か歌野さんと水都さん、それから雪花さんと棗さんだったから……」

 

 「野菜たっぷりは確定だねぇ。後は蕎麦かラーメンか……」

 

 「歌野さん達ならうどんは出ないだろうなー。でも美味しいから問題なし! 天ぷら蕎麦とか煮込みラーメンとか……」

 

 「前に棗さんが作ってくれたごーやちゃんぷるーも美味しかったんよ~♪」

 

 「歌野さんが作ると生野菜のサラダも誰よりも美味しくなるのよね。あの美味しさの秘訣はいったい……」

 

 考え事を止め、そんな会話をしながら寄宿舎に帰った。その日の晩御飯は案の定野菜たっぷり、蕎麦とラーメンが並んだ。四国組はうどんが無いことに少しだけ残念そうにしながらもいざ食べれば満足げに完食していた。勿論、自分は蕎麦もラーメンも野菜もお代わり数回ずつだ。

 

 そうだ、今はこの世界で過ごしているんだから元の世界の事なんて考えても仕方ない。どこまで行っても自分に出来ることは予想予測で、真実なんて本人から直接教えてもらうまで知り得ない。それに、実際に聞いたところで教えてくれないだろうし……仮に教えてもらったとしても、それは自分の胸の内に秘めたままにするだろう。

 

 今の自分達の時間軸より更に未来で、恐らくは自分が車椅子が必要になるような状態に陥る等と……彼女達に言える訳がないのだから。

 

 

 

 

 

 

 楓が3回目の強化を使ったあの戦いからおよそ1ヶ月の時間が経った。その間に襲撃が来ることはなく、神託も来ていない。彼の散華が復活したことで神世紀の中学生組は一時精神が不安定になったものの、戦いから10日程経ってようやく治った彼の姿を見てホッと一安心していた。

 

 3回目の強化については、余程の事がない限り使用の禁止が本人に告げられた。楓としても仲間達に無闇に心配を掛けたくはないしまた寝た切りになるのも嫌なので了承。尚、治るまでの間に幾度となく園子(中)、風の彼の身の回りの世話をする権利を掛けた攻防が繰り広げられた。風呂やトイレ等の介護は風が見事に防衛し切ったものの、食事だけはたまに楓本人の許可を得て行っていた。具体的に言えば“あーん”である。

 

 「平和だな……連戦は大変だったし、楓が動けなくなったりと色々あったが……もう1ヶ月も戦闘が無い」

 

 「その節はお手数掛けました、っと……うん、いい暖かさだ。お昼寝したくなるねぇ」

 

 「お昼寝もいいよね~。押し花製作も捗っちゃうなぁ」

 

 「3人共、ぼた餅食べます?」

 

 「わーい食べる! いただきまーす! ……うーん、相変わらずでりしゃす!」

 

 「東郷の作るお菓子は本当に美味しい……いただきます」

 

 「自分も貰うよ、美森ちゃん。いただきます……うん、美味しいねぇ。ところで、いつも作って持ち歩いているのかい? 自分用の一口サイズの奴まで……」

 

 「流石にいつでも持ち歩いている訳じゃないけれど、今日は楓君と友奈ちゃんに会える気がしたから用意したの」

 

 (それで本当にこうして会ってるんだから凄いよねぇ……)

 

 そんなドタバタとしつつも平和な時を過ごしていたとある日の海水浴場。季節的に人は居ないそこに、すっかり春となった暖かな陽気とまだ少し冷たさが残る潮風に吹かれながら、楓達はそこに居た。理由は各々違うが、偶然にも出会った彼らはそのまま海を見に行く棗に付き合う形でやってきたのだ。

 

 ふと、海を眺めていた棗がこの1ヶ月のことを思い返す。色々とショックな出来事こそ起きたが、それを除けば平和そのもの。それは良いことであるし平和な時間は穏やかに過ぎていたが、一部の者は口には出さないが若干の物足りなさも感じていた。その物足りなさを鍛練やリハビリで埋めていたのだが。

 

 寝た切りだった期間の事を軽い調子で謝罪しつつ、楓はそよそよと吹く風の気持ち良さに目を閉じる。このまま寝転べば本当に寝てしまいそうな程、その表情は穏やかだ。そんな彼の横顔を嬉しそうに見た後、友奈も道中で回収した押し花用の草花……相変わらず花以外もあるが……を眺めつつ手帳に挟んでポケットへと仕舞う。

 

 そうした所で、美森は持参した重箱を取り出して3人へとぼた餅を提供。彼女の作る甘味の虜である3人はそれぞれ手を伸ばして口へと運び、相変わらずの美味しさに頬を弛ませる。不意に楓が疑問を投げ掛けると、美森は何でもないようにさらりと言ってのけた。相変わらず楓と友奈に関しては超能力染みた勘の良さを発揮する彼女に楓が苦笑いを浮かべた時、ふと美森はこんなことを呟いた。

 

 「作ると言えば、例のアレはどうなったんだろう」

 

 

 

 

 

 

 「レタス。玉葱。ほうれん草。トマト。インゲン。ナス……ピーマンにししとう……大根にブロッコリー。とうもろこし」

 

 「何あれ、育てたい野菜の名前を口にしてるの?」

 

 「だ、大丈夫なんでしょうか? いつものはつらつとしている歌野さんらしくないというか……まるでお兄ちゃんと東郷先輩に何日も会えない友奈さんみたいになってますけど……」

 

 「禁断症状だね。うたのんは土に触れていないと少しずつおかしくなっていくんだ……というか結城さんの話が凄く気になるんだけど……」

 

 「友奈さんはお兄ちゃんと東郷先輩に暫く会わないと目に見える人全てが2人のどちらかに見えてくるそうで……一応、ある程度の判断基準はあるみたいですけどね……判断基準が……」

 

 (なんで自分の胸に手を……ああ、判断基準ってそういうことなんだね……)

 

 所変わって勇者部部室。そこに光の消えた目で野菜の名前を虚空に向かって呟く歌野は居た。その姿を不審に思う風、普段の明るい姿からかけ離れた様子の彼女を心配そうに見る樹。その脳裏に浮かぶのはかつての友奈の姿。

 

 歌野の状態を説明してくれた水都に、今度は樹が簡単に説明する。以前、諸事情で普段から一緒に居る2人が友奈から暫し離れた事があった。すると寂しさのあまり2人の名前を連呼してその存在を求めるようになり、直ぐ近くの人間を2人と見間違えるようになったのだ。

 

 まさに禁断症状と呼ぶべき状態に陥った彼女に樹も抱き付かれる形で被害に遭ったのだが、その際とある部分の感触から“東郷さんじゃない”と断言された事があるのである。どんよりと闇を背負う彼女に何かを察し、水都は思った事を心に留めておく事にした。

 

 「そんな農業王に素敵なお知らせだよ~。畑の許可が降りたから自由に使ってねって」

 

 「リアリー!?」

 

 「マジだぜ。大赦関係者諸々話をつけてくれたよ~、安芸先生が! 思う存分どうぞ」

 

 「やっっっったああああっ!! ばんざああああいっ!! 園子さんも安芸先生って人もありがとおおおおっ!! 愛してるわ!!」

 

 「愛されちゃった~♪ でもわたしにはカエっちが居るんだ~♪」

 

 「弟はあげないわよ」

 

 「お姉ちゃんさっきの歌野さんみたいな目をしてるよ……」

 

 園子(中)からの報告に叫びのような喜びの声を上げる歌野。彼女は楓と友奈から紹介された場所に元の持ち主から農業が出来るように許可を貰ったのだが、持ち主側の都合でその場所がこの今日この日まで使えなくなっていたのだ。その為、畑を耕して種を蒔くことも土を弄るどころか、そもそも畑に立ち入ることすらも出来ていなかった。

 

 そこでサポート役である安芸の出番。詳細は省くが、彼女の手腕と大赦の存在もあって無事に再度許可を得た上に畑も完全な大赦預かりとしたのだ。無論、双方に不満も不利益もない円満解決である。これにより歌野は自由に畑を好きに出来るようになった。禁断症状が出るまで追い詰められた所にこの朗報、喜びもひとしおだろう。

 

 喜びのあまり園子(中)に抱き付いて叫ぶ歌野。そんな彼女を水都が菩薩のような優しい目で見ている先で抱擁を受けつつニコニコと笑う園子(中)の言葉に、風が即答。その目から先程の歌野のように光が消えているのを、樹だけが見ていた。

 

 「畑が耕せるよ!」

 

 「やったねうたのん」

 

 「これで皆に素敵な野菜を食べさせてあげるわ!」

 

 「楽しみです」

 

 「樹さんは嫌いな野菜とかない? 大丈夫?」

 

 「はい。敢えて言うなら、ブロッコリーかな? 全然食べられますけど、苦い時があって……」

 

 「農業王を目指す私のブロッコリーは糖分多めで食べやすいわよ。茎まで柔らかくて甘味があるの」

 

 「素敵です! 私の体も成長するかも……わくわく」

 

 「ねえねえフーミン先輩。カエっちは嫌いな野菜とかってあるの?」

 

 「え? うーん、基本的に楓も樹も好き嫌いしないからねぇ……ああ、でもトマトはあんまり得意じゃなさそうだったかしら? ケチャップとかは平気みたいだけど」

 

 「そんな楓君もきっと私のトマトなら大丈夫! フルーツトマトにだって負けない甘さで苦手な人でも安心!」

 

 余程畑を耕せること、そしてその畑で採れる野菜を仲間達に提供出来るようになるのが嬉しいのだろう、いつにも増してテンションが高い歌野。西暦の時にも経験があるのだろう、野菜の話にも淀みがなく自信に溢れている。

 

 そうして野菜のセールストークで樹と風の心をがっちり掴んだ歌野だったが、もう辛抱たまらんと畑に向かいたいと言い始め、この場に居る5人全員で件の畑へと向かう事に。一刻も早くその場に行きたいと満面の笑みを浮かべている彼女を、水都もまた嬉しそうに見ていた。

 

 「ところで、園子ちゃんが楓君と一緒に居ないのって珍しいね」

 

 「体が治ってからずっとべったりだったから、たまには休ませないとと思って楓の所に行かせないよう途中で捕獲したわ」

 

 「捕まっちゃった~♪」

 

 

 

 

 

 

 再び場所は変わり、とある山道。そこにはアウトドア好きな球子と銀達と共に歩く夏凜、新士、杏の姿があった。涼しげな顔で歩く5人とは対称的に、杏だけは疲労しているのが見て取れた。そんな風に仲良くてくてくと歩いていると球子の端末に連絡が入る。

 

 「んあ? 連絡か……何々? 速報……歌野の畑が使えるようになった、ってさ」

 

 「歌野さん良かったね。大喜びだろうな……ふぅ……はぁ……」

 

 「大丈夫? 杏。疲れてるみたいだけど……まあ結構歩いたもんね」

 

 「大丈夫です。私も勇者の端くれなので、足腰を鍛えないと……」

 

 「よく言った杏。下山までもう少しだぞ」

 

 「慣れてないと山登りは疲れるからな。無理はするなよ?」

 

 「あっ、球子さん、銀さん。この野草って食べられるんですか?」

 

 「バッチリいけるぞぼうず。アウトドアの達人が言うんだから超間違いない」

 

 「いや、それ以前によく分からん野草を食べようとすなよ……」

 

 「呆れてますけど、過去の貴女ですよ銀ちゃん先輩」

 

 先の部室でのやり取りを簡単にメールで届けられたらしい。球子が皆に画面を歩きながら見せると、その様子を想像したのか全員がくすくすと笑う。杏だけは直ぐに息を切らして心配されてしまったが、読書家である彼女としても勇者である自負があり、己よりも年下の小学生2人が息を切らしていないのを見てやる気を漲らせた。

 

 そうして杏を励ましつつ下山する途中、銀(小)が山道にある野草に近寄って指差しながら聞いてみると球子から妙に自信に溢れた答えが返ってきた。2人のやり取りを呆れた表情で見ていた銀(中)が疲れたように言うが、隣から苦笑い気味の新士から鋭いツッコミを入れられて項垂れた。

 

 「山だといつもより一層元気ね、ホント……」

 

 「ん? なんだ夏凜、煮干が食べたいのか?」

 

 「違うわよ。あんたと杏が、風と樹に被ることがあるのよね。だから話しやすいってのもあるけど」

 

 「分かります。風さんと樹さんが、球子さんと杏さんに見えるときがあります、雰囲気的に。新士的にはどう? 弟として」

 

 「そうだねぇ……確かに、自分から見ても似てるというか、重なる時があるねぇ。多分、楓さんもそうだと思うよ。姉さんの時と同じノリで球子さんを弄ってるし」

 

 「ああ、確かに楓は楽しそうに弄ってるな……んー、球子と杏の2人が風さん達に似てると思うのは、2人が姉妹みたいな雰囲気だからか? 普段のやり取りとか」

 

 普段よりも更にテンションが高い球子達を見て呆れ顔をした後、じーっと球子と杏の顔を見る夏凜。その視線に気付いた球子が振り返りつつ聞くと、彼女はそう言って首を振った。その言葉に銀達と新士も頷いても同意する。

 

 姉妹のよう、そう言われて満更でもない……むしろ嬉しいのだろう球子は来世では杏と共に姉妹に生まれ変わっているかもしれないと嬉々として言い、杏もそうだったら嬉しいと笑って頷いた。そんな風に和やかな空気が流れた時、不意に夏凜と銀(中)が真剣な顔になる。

 

 「夏凜、ちょっと急いだ方が良いかも知れない」

 

 「そうね、嫌な風が出てきてる。急いで戻りましょう」

 

 「えっ、銀さんも完成型の夏凜さんみたいにそんな事まで分かるんですか? 凄いなぁ」

 

 「いや、未来の君だろうに」

 

 そんな新士のツッコミの後、6人は早足で下山するのであった。

 

 

 

 

 

 

 部室でのやり取りから少し経ち、場所は件の畑。着くや否や歌野は思いっきり深呼吸をして畑の土の匂いを嗅ぎ、次にしゃがんで土の感触や質を確かめる。そうした後にご満悦な顔をしながら立ち上がり、満足そうにうんうんた畑を見ながら頷いた。

 

 「うっっっっとりする程の畑だわ。見て、私から立ち上るこのオーラ!!」

 

 「すんごい“耕してやる!”感が伝わってくるよ」

 

 「だって触ってみてよこの土! これはいいわよ!」

 

 「なんだか木霊が嬉しそうです。いつもより弾んでるといいますか……」

 

 「精霊には分かっているのよ。ここが素敵なHA・TA・KEであることが」

 

 全身から喜びのオーラを立ち上らせるだけに留まらず周囲にもばら蒔いていそうなくらいに上機嫌な歌野。普段よりもテンションが上がりに上がっているのが言葉を介さずとも4人に伝わっている。文字通り木の精霊である木霊も姿を現し、畑の上でぽむぽむといつも以上に元気よく跳ねていた。

 

 「水都も一緒に耕すんでしょ?」

 

 「えっ、私はその……あ、神託だ……そんな、3方向から同時攻撃……!? その内の1つが凄い速度でこっちに来る!?」

 

 「異常事態か。それは把握したから大丈夫。クールに行きましょう」

 

 「頼りにしてるわ農業王! 水都、落ち着いて状況を分析して」

 

 風からそう聞かれて水都が答えようとした時、彼女の動きが一瞬止まる。それは神託が来た合図でもあり、それを受けた水都が驚きの声をあげる。そして次の瞬間には警報まで端末から鳴り響き、戦闘まで差程猶予が無いことも理解出来た。

 

 突然の展開に慌てる水都だったが、歌野と風に声を掛けられて深呼吸を1つし、何とか気を落ち着けて神託に意識を向ける。彼女がそうすることでいきなりの敵襲に少なからず驚いていた他の4人も落ち着き、準備運動をしたり神託を受ける水都の言葉を待つ。

 

 「直ぐにここに敵が来ます。迎撃準備を。他の区域は他の皆に任せて……丁度、他の2つにひなたさんと神奈さんも居るみたいですから、同じ神託を受けて皆に伝えてると思います」

 

 「オーケーみーちゃん。園子さんと一緒に安全なところへ」

 

 「うん……大型も居るみたい。気を付けてね、皆……」

 

 「あ~わたしとミノさんも戦えたらいいのにな~。歯痒いよ~」

 

 少しして、水都が受けた神託の内容を話す。その際に他の巫女の居場所も知ったようで、自分達と同じ状況だろうと予想。簡潔ながらも話を聞いた後、歌野の言葉の後に園子は悔しげに眉を下げつつ、水都と共にその場から離れていった。2人の姿が住宅街へと消えた後、3人はそれぞれ端末を手にする。

 

 「さぁ樹! ウインクしながら変身して!」

 

 「普通に指示してくれればいいってば!」

 

 「ふふ、緊張を解そうとしてるのよ。さて、他の皆も頑張ってるだろうからやりましょう」

 

 端末にある勇者アプリをタップ。画面から溢れる光と花びらがその身を覆い隠すのと、勇者達を樹海へと誘う極彩色の光が世界を覆うのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 「あっ、居たぞ、若葉達だ。おぉーい! こちらタマーズだ!」

 

 「球子! 杏! 夏凜! 新士! 銀! よく戻ってきてくれた」

 

 「急いで下山してきて正解だったわ。敵襲なのね」

 

 「ああ、いきなり来たぞ。直ぐに戦いになる」

 

 「ふーっ、間に合って良かった」

 

 「これで全員ですか? いきなりだったから皆バラバラの場所に居るでしょうし、直ぐに合流するのは難しいですかねぇ」

 

 風達が樹海に移動したのと同じく樹海に来ていた球子達。直ぐに下山したのが功を奏したのか、移動してから直ぐにひなたから神託を聞かされたという若葉、そして彼女達の近くで一緒に居たという須美と園子(小)とも合流出来ていた。若葉以外は神託を知らないが、警報は聞いているので敵襲があったということだけは理解していた。また、これまでのように全員が揃うのは難しいということも。

 

 「ああ、神託が無かったから油断していたな。全員の合流が難しいのもそうだが、奇襲される可能性もある。点呼1」

 

 「こちらが攻めていたとはいえ、相手が攻めてくることもありますからね……点呼2」

 

 「切り替えて戦おう。点呼3」

 

 「同感です! 点呼4」

 

 「まあこのメンバーならそうそう負けることはないでしょうけどねぇ……点呼5」

 

 「私とそのっちは鍛練する為に集まっていたので丁度良かったと切り替えます。点呼6」

 

 「点呼7~! ひなた先輩がさっき言っていた情報だと、相手は足が速いバーテックス。だから……」

 

 「やっぱり全員が集まるのは難しいわね。私達だけで殲滅しましょう。点呼8、以上!」

 

 「この8人でバーテックスを迎撃する。今度の敵は足が速いとのこと、気を付けろ」

 

 会話の合間に人数確認の為の点呼を挟み、現状の把握に勤める。この場にいる勇者は8人、半分近い人数が集まっている。突発的に始まった敵襲、しかも多方面からの同時侵攻。かつてない状況ではあるが、勇者達に焦りは無い。とは言え戦力がバラけてしまっているのも確か。全員が声に出さずとも、なるべく早く殲滅し、他の勇者の元へと行こうと考えていた。他に懸念があるとすれば……。

 

 「……ひなた。安全な所に避難出来ただろうか」

 

 「銀ちゃん先輩も避難出来てるといいんですけどねぇ」

 

 「若葉も新士君も、ひなたと銀が心配ならとっとと片付ければいいのよ」

 

 「……そうだな、夏凜の言うとおりだ」

 

 「敵が見えてきました!」

 

 「よし、行くぞ! 奇襲など無駄な事だと、教えてやろうではないか!!」

 

 戦う術を持たない、いつものお留守番組が無事に避難出来ているかどうかであった。だがそれも夏凜の言葉で払拭され、バーテックスを直ぐ様殲滅する為に戦意を高める。そうしていると黙視できる距離に敵の姿を確認した須美が知らせ、いつものように若葉が気合いを乗せた声を出す。

 

 「アイアイサー!」

 

 「了解でいいのよ銀!」

 

 「ふふ、銀ちゃんは元気だねぇ。了解です、若葉さん」

 

 「わたし達は4人揃ってるから、頑張るよ~!」

 

 そうして小学生組の元気な返事の後、8人はバーテックスへと立ち向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 「あっ、せっちゃーん! こっちこっちー!」

 

 「やあ、雪花ちゃん。こんにちは」

 

 「結城っち、呼ばれて飛び出てきたよーん。かーくんもこんちわ。ここは風が気持ちいいね」

 

 「今皆でまったりしてるから、せっちゃんもどうかなーって」

 

 「いいねぇまったり。ご相伴にあずかりますか」

 

 「挨拶代わりのぼた餅はいかが?」

 

 「海を見ながら皆で食べるお菓子は美味しいぞ。元が美味しいから尚更だ」

 

 「いただきまーす。むぐむぐ……甘ーい♪ んまーい♪ お、他にも来た」

 

 時は少し遡り、楓達が居る海水浴場。友奈が連絡して呼んだ雪花が加わり、5人となったメンバーでのんびりまったりとしながら美森の作ってきた美味しいぼた餅を頬張る。春風の心地好さもあり、何ともほのぼのとした空気が流れていた。

 

 そうしてのんびりしていると雪花が誰かがやってきた事に気付く。他の4人がその彼女の視線の先に目を向けると、そこにあったのは3人の少女の姿。それは神奈、高嶋、千景であった。よくもまあ勇者がここに集まるものだと思うかもしれないが、今やこの海水浴場は勇者達の人気スポット。今回のようにのんびりする場所としてもいいし、トレーニングの場所にするメンバーも居るくらいなのだ。

 

 「ぐんちゃんと神奈ちゃんもたまにはお散歩しないとね」

 

 「神奈さんを鍛えるのが楽しくて、ついゲームばかりしてしまって……誘ってくれて嬉しいわ」

 

 「あはは、私も千景ちゃんとゲームするのが楽しくて……でも、こうやって誰かと歩くのも楽しいね」

 

 「あら、手を繋いで仲良しね」

 

 「本当だねぇ。それに楽しそうにしているし、邪魔しちゃ悪いかな?」

 

 まだ3人は5人に気付いていないらしく、楽しげに浜辺を歩いていた。その手は千景を真ん中に置いて繋がれており、両手を塞がれている彼女はとても幸福そうに微笑んでいた。そんな仲睦まじい姿に声を掛けようとした雪花も止まり、楓と顔を見合わせてくすくすと笑いながら見送ろうとして……不意に、楓と美森の表情が山道での夏凜と銀(中)のように真剣なモノへと変わり……。

 

 

 

 「てな感じで、のんびり浜辺でスローライフを楽しんでいたのに敵の強襲とか……」

 

 「急だからびっくりだよね。皆が近くに居て良かったよ」

 

 「東郷さんと神奈ちゃんから神託を聞けたから心の準備が出来たよ」

 

 「勇者と巫女の両方の適正を持ってるからねぇ、美森ちゃんは。自分達の中では彼女だけだし、やっぱり凄いことだよねぇ」

 

 「うん、東郷さんは凄いよ!」

 

 「うん、東郷さんは凄いんだよ!」

 

 「褒めてくれるのは嬉しいけど、恥ずかしいわ」

 

 そんなこんなで、他の場所と同じように樹海へとやってきていた7人。飛ばされる前に神奈、そして神託を受けた美森から簡単に状況の説明を受けているので状況は把握出来ている。既に変身も終え、準備も万端である。勿論、楓の左手の水晶にある満開ゲージも最大まで回復している。

 

 「状況を分析するに、私達で迎え撃つしかないっていう訳ね」

 

 「こっちに1体向かってきているもの」

 

 「私達が抜けたら神樹様に辿り着いてしまうな。合流は考えずここを守るしかない」

 

 「多分、皆そんな感じで各地で戦いが始まっていると思う」

 

 「なら、自分達も速攻で片付けて救援に行こうか。自分なら直ぐに皆の所にまで飛んで行けるからねぇ」

 

 「この前の戦いではパーティを分けずに済んだけど、とうとう分割する時が来たのね……楓君がこちらに居るのは、不幸中の幸いかしら」

 

 そんな会話をしていると、勇者達へと向かってきていたバーテックスの姿を美森が捉えた。高速で動く大型に加え、遅れて無数の中、小型の影。他の場所も似たようなモノだろうと思いながら、勇者達はそれぞれの武器を手に迎撃準備を整える。

 

 戦う場所は違えど、思うことは同じ。素早く敵を倒し、そして離れた味方の救援へ。こうしておよそ1ヶ月ぶりとなる造反神との戦いは幕を開けたのだった。




原作との相違点

・海水浴場、山道にそれぞれ楓と新士を追加

・Q.なんでぼた餅作って持ってるの? A.会う気がしたから

・楓君はトマトがちょっと苦手

・両手に花のぐんちゃん

・他色々ありすぎて……



という訳で、原作9話の始まりからバトルスタート直前というお話でした。次の本編更新は来年になります。

今年の初めから書いてきたゆゆゆい編ですが、原作沿いに進んでまだ1/3なんですよね。このペースだと完結は再来年に……もう少し更新速度を上げたい所です。完結はさせます。絶対させます(鋼の意思

本編はこれで終わりですが、今年はまだ番外編を更新します。出来れば2つ程。リクエストも消化したいですしね……忘れられているかもしれない活動報告にあるリクエスト箱、中身見ると結構真っ黒です(震え声

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