咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました、普段より早めに更新です(´ω`)

ファンリビ、始まりましたね。私はリアスで始めました。今のところ割と楽しんでます。子猫可愛いよ子猫。

fgoもボックスガチャ再び。目指せ100箱。尚ガチャは無事爆死です。ゆゆゆいでも遂に大天狗若葉様が来ましたね。勿論爆死です←

ドカバトではLRで新悟飯、すり抜けて体トランクスとブロリー一家が出ました。天下一ガチャで天津飯&餃子も出ましたし、こちらに運が吸われてるのでは無かろうか。

今回はリクエストの憑依ものです。それでは、どうぞ。


番外編 寄り添う花は暖かく ー bsif ー

 油断したと言うべきか。いや、ここは自分の力が足りなかったのだと言うべきだろう。銀ちゃんに動けない2人を託し、1人残って3体のバーテックスを相手に戦いその末に撃退出来た……そう、思っていた。だが結局、自分1人では力不足だったのだろう。だから自分は今……こうして()()()()を聞いている。

 

 『お……兄ちゃ……ああああっ……うええええん!!』

 

 『樹……うぅ……楓ぇ……っ!』

 

 『……私が……私が、断っていれば……私が……』

 

 『貴方……』

 

 樹の泣き声だ。姉さんの泣き声だ。父さんの嘆く声だ。母さんの耐える声だ。自分の姿も見えない程暗い空間の中で耳を塞ぐことも出来ず、ただ悲しみに暮れる家族の声だけが自分に届く。

 

 分かってしまう。悟ってしまう。思い出したように痛む、あるかもわからない首の痛みが、こうして自分を想い泣いている家族の声が、自分があの戦いで命を落としてしまったということを。

 

 自分が力不足だったから、銀ちゃんが戻るまで耐えられなかった。敵を撃退出来なかった。家族の下に帰れなかった。家族を……きっとあの子達も悲しませてしまった。

 

 すまない、ごめんなさい。声すら出せない今の自分には、そう思うことしか出来ない。何度でも、何度でも、後悔だけが続いた。家族の泣き声を聞きながら、聞こえなくなった後も、どれだけの時間が経ったかもわからない程に。

 

 

 

 『お兄ちゃん……お兄ちゃん……お……にぃ……ちゃん……うぅ……ああああっ……!』

 

 

 

 なのに、樹の泣き声だけはずっと聞こえていた。何度も何度も自分の名前を呼んで、ずっとずっと泣き続けている。何度その涙を拭いたいと思ったか、何度樹の側に行ってあげたいと思ったか。

 

 (なんの為に泣き声だけを聞かせるんだ。なんで自分はいつかのように転生することなく、こんな暗い世界に閉じ込められているんだ)

 

 直ぐにでも行ってあげたいのに、例え聞こえなくとも、声を届けたいのに、この暗い世界が邪魔をする。ああ、邪魔だ、邪魔なんだ。あの子の所へ行くのに、この世界は、この場所は。

 

 もがく。あるかもわからない体を、伸ばせているかもわからない手を動かす。みっともなくとも、泥臭くても、どれだけ時間が掛かろうとも、あの子の下へ行くのだと。その意思だけが自分を突き動かした。

 

 やがて、その意思が通じたのか暗い世界に光が射した。その光の中に、自分が伸ばす手が見えた。地面の無い闇を踏みつける足が見えた。そして、光の先に……こことは真逆の真っ白な世界で座り込むあの子の姿が見えた。

 

 

 

 『会いたいよ……お兄ちゃん』

 

 

 

 「会いに来たよ……樹」

 

 これが、死んだ自分が見た都合の良い夢だって構わない。もがいた先で、座り込んで泣いていた彼女が顔を上げて自分を確かに見たから。その目に涙を溜め込みながらも……驚きの表情ではあったが、確かにその涙を止められたから。

 

 「お……兄……ちゃん……? お兄、ちゃん……お兄ちゃん……っ!」

 

 「……樹」

 

 また、泣かせてしまったけれど。自分に向かって伸ばされた手を……確かに掴むことが出来たから。

 

 

 

 

 

 

 いつかまた会えるって。いつか、成長した私を見せるんだって……そう思っていたのに。再会したのは……何故だか、やたらと豪華なお葬式で。お兄ちゃんは……棺の中で真っ白な花に囲まれて眠ったようにそこに居て。その体は冷たくて……こんなにも近くに居るのに、もう2度と会えないとなんとなく理解して、私はお姉ちゃんと、お父さんと、お母さんと一緒に思いっきり泣いた。

 

 その日から私の世界から色が消えたような気がした。ご飯も美味しくない。お父さん達も夜遅くまで帰って来ない。今まで楽しかった事が全部楽しくなくなって。よく歌っていた歌だって……お兄ちゃんと一緒にお風呂で歌っていた事を思い出して辛くて歌えなくなった。

 

 そうして過ごしていると、今度は大橋が崩壊したってニュースが流れて……暫くして、お父さんとお母さんも亡くなったって聞かされた。あの、お兄ちゃんを連れていった人と同じ格好をした人達に。しかもその人達は今度はお姉ちゃんによくわからない話をしてた。こっそり聞いたけど、この時は勇者だとかお役目だとかもよくわかっていなかった。ただ……お姉ちゃんもお兄ちゃんみたいにどこかに行っちゃうかも知れないって思って、怖かった。

 

 家族が2人だけになった。お姉ちゃんは、遅くまで帰って来なくなった。リビングにあるソファに座って待っていても中々帰って来なくて……1人で待つ時間は、とても長くて。寂しくて毎日のように泣いちゃって……泣き疲れて、そのままの姿勢で横になって眠ってしまった。

 

 (会いたいよ……お兄ちゃん)

 

 夢の中でも、私はお兄ちゃんを求めていた。いつだって見るのは家族5人が揃っていて、皆が楽しそうに笑っていて。私はお兄ちゃんと一緒にお風呂に入って歌ったり、膝枕して貰ったり。お姉ちゃんが“アタシも構えー”って突撃してきて3人で笑いながら地面に転がったりして。そんな……幸福(しあわせ)な思い出を映画を見るみたいに。そうしている時、その声は聞こえたんだ。

 

 『会いに来たよ……樹』

 

 驚いて顔を上げると、そこにはお兄ちゃんが居た。会いたくて会いたくて仕方なかった人が、焦った表情で。驚いたまま固まっちゃって……でも、そこにお兄ちゃんが居るんだって思うとまた涙が出て来て。思わず手を伸ばして……その手を掴まれた所で、夢から覚めた。

 

 

 

 

 

 

 「樹……大丈夫?」

 

 「……お姉ちゃん……? お帰りなさい」

 

 「っ……うん、ただいま。こんなところで寝てたら風邪引くわよ?」

 

 目が覚めた時、目の前には心配そうに私を見るお姉ちゃんの姿があった。目を擦りながらそう言ったら、お姉ちゃんは少し泣きそうな顔をした後に無理に浮かべたような笑顔で頭を撫でてくる。その手の暖かさが、夢の中で掴んだお兄ちゃんの手を思い出して、また泣きそうになった。

 

 夢でお兄ちゃんに会えたんだ。そう言ったら、お姉ちゃんはまた泣きそうな顔をして……でも、また笑顔を浮かべて“良かったねぇ。アタシの所にも出てこいっつーのよ……楓”って、震えた声で呟いてた。そんな風に懐かしさと悲しさがあった日の次の日だった。

 

 (……あれ? 体が、動かない……!? えっ、なにこれ!? 金縛り!?)

 

 何故だか、凄く早く起きた。だけど、目は開いているのに体が全く動かない。それに、自分の意思で動かしていないのに勝手に視界が動く。部屋の中をゆっくりと見回して、時計を見ると朝の5時半だった。そして、そんな状態が怖くなって……思わず声に出た。

 

 『いや、やだ、怖い! お兄ちゃん! お姉ちゃん!』

 

 「っ、樹!? どこに居る……っ? なんだ、声が……?」

 

 『え、私の声!? それに今の喋り方……』

 

 何故か、私の声が2つ聞こえた。まるで、私以外にもう1人私が居るみたいに。だけどその喋り方は、とても聞き覚えのある喋り方で。

 

 また勝手に視界が動く。キョロキョロと見回すけど、そこには誰も居ない。なのに、また声が聞こえた。

 

 「ここは……樹の部屋? なんでこんな所に……それにこの声、まるで樹みたいじゃないか……ん? 女の子用の寝間着? これも見覚えが……」

 

 『やっぱり私の声……でも喋り方が……まさか、お兄ちゃん?』

 

 「樹!? やっぱり聞き間違えじゃない……頭の中に樹の声がする……そうだ、鏡。今の姿を見れば、この妙な状況が分かるかもしれない」

 

 『えっ? えっ!?』

 

 体が勝手に動き出して、ベッドから飛び出す。私の体のハズなのに、何故か妙に動きが軽やかな気がする。勢いよく扉を開けてお風呂場へと向かうその足に迷いは無くて、ドタドタと音が響くことも気にせずに走るとあっという間に辿り着いた。そして、鏡を覗き込むと……。

 

 「っ……これは……樹? いや、自分が樹になってる……? それとも、樹の体に入り込んでいるのか……?」

 

 『私の体? ということは、やっぱりお兄ちゃんなの!? お兄ちゃんが私の体を動かしてるの!?』

 

 「どうやらそうみたいだねぇ……なんだこれは、どういうことなんだ……自分は確かにあの日……」

 

 声も、動きも、全部私の体のモノ。だけど……分かる。今私の体を動かしているのはお兄ちゃんだ。お兄ちゃんが、私の体の中に居る。死んだハズのお兄ちゃんが、もう2度と会えないハズのお兄ちゃんが、私の体の中に。

 

 『お兄ちゃん……だよね? お兄ちゃんが、ここに居るんだよね?』

 

 「……不思議な事に、ねぇ。というかこれはどういう状況なんだ……死んだと思ったら樹になってる。しかも頭の中では樹の声がする……自分と樹が入れ替わってる? だが、それなら樹は今どうなって……」

 

 『わ、わかんない……』

 

 「だろうね……これ、まさかずっとこのままな訳じゃないだろうねぇ……? 樹に体を返せない、なんてことは……」

 

 「樹……? 今日は随分と早いのね」

 

 「『っ!?』」

 

 お兄ちゃんの考えを聞いても、私にもどうなっているのかなんて分からなかった。ただ、不安はなくて……どんな形であっても、どんな姿であっても、またお兄ちゃんとこうしてお話出来てるのが嬉しかった。

 

 そんな私の心境とは違ってお兄ちゃんは本気で悩んでるみたいで、顎に指を当てながら考え込む。私の姿でお兄ちゃんみたいな行動をしてるのがなんだか可笑しくて声を出さないようにこっそり笑ってると、ガチャっと扉が開いてお姉ちゃんが入ってきた。思わずビクゥッと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「お、お姉ちゃん。おはよう」

 

 「うん、おはよう。珍しいじゃない、こんな時間に」

 

 「う、うん……あれ、体が動く」

 

 「は?」

 

 「えっとね、さっきまでお兄ちゃんが私の体を動かしてて……そうだ! お姉ちゃん! 私ね、さっきまでお兄ちゃんとお話してたんだ! お兄ちゃん、私の体の中に入り込んじゃったって」

 

 

 

 「樹!!」

 

 

 

 いつの間にか自分で体が動かせるようになってて、その事に驚きつつもさっきまでのことをお姉ちゃんに伝える。だってお兄ちゃんが帰ってきたんだ。もしかしたら幽霊とか、魂だけとか、そういったものなのかもしれないけど……それでも、帰ってきてくれたんだ。きっとお姉ちゃんも喜んでくれる……そう思っていたのに、言葉の途中で怒鳴られて思わず身を竦ませた。

 

 「お姉……ちゃん……?」

 

 「……怒鳴ってごめん。でも樹……楓は、もう居ないのよ。お葬式でお別れ……したでしょ」

 

 「で、でも本当にさっきまで」

 

 「なら、その楓はどこに居るの? お姉ちゃんには……その姿も、声も……何も見えないし、聞こえない」

 

 『……姉さん、自分の声が聞こえるかい?』

 

 「っ! ほ、ほら! 今もお姉ちゃんに話しかけてるよ! お兄ちゃんはここに居るよ! 私達の所に、帰ってきてくれたんだよ!?」

 

 「……樹……そう、ね。あんたには……聞こえているんだもんね。そうなるくらいに……これも全部、あいつらが原因で……」

 

 「……お姉ちゃん……」

 

 「……朝御飯、作って待ってるからね。早く着替えてきなさい」

 

 そう言って、お姉ちゃんは……凄く辛そうに、だけど笑って出ていった。お姉ちゃんに怒鳴られたのは……家族が2人だけになってからは初めてだった。でも、びっくりしただけで怖くはなかった。ただ、なんで? どうして? って分からなくて……でも、私の話を信じてはくれなかったってことは理解出来た。

 

 足から力が抜けてペタンと床の上に座り込む。悲しくて、あんな顔をさせたことが辛くて涙が出てきた。でも、私は何も間違ったことなんて言ってないもん。お兄ちゃんは本当に帰ってきてくれたんだ。本当に声も聞こえるんだ。

 

 『……樹』

 

 「……居るもん……お兄ちゃんはここに居るもん! 幽霊だとしても、魂だけでも、ちゃんと帰ってきてくれたんだもん!! わ、たしと……おはなし……っ……したんだもん……っ!!」

 

 『……うん、そうだねぇ。自分はちゃんと、ここに居るよ。どういう訳か、樹の中に。こうしてお話出来るもんねぇ』

 

 「うああああん! ひくっ……ひっ……ああああん!!」

 

 『ごめんよ樹……今の自分じゃ、頭を撫でてあげることも出来ないんだ。でも……いつでもお喋り出来る。少なくとも、この状態が続く限りは……ずっと一緒に居られるから』

 

 「お兄ちゃん……おに……ちゃ……ううううぅぅぅぅっ」

 

 『そういえば、まだ言ってなかったねぇ……ただいま、樹。どうか泣き止んでくれないか? そして……笑って、お帰りと言ってくれないか?』

 

 お兄ちゃんに言われて、そういえば言ってないなって思って……何度も何度も両手で目を擦る。そうだ、ちゃんと言おうって思ってたんだ。いつかお兄ちゃんが帰ってきたら……成長した私の姿を見せて、笑顔でって。

 

 立ち上がって、鏡に映る自分の姿を見る。我ながら涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、ちっとも可愛くないし、成長した姿だなんて言えない。でも……せめて、笑顔で。上手く、笑えないけど。まだ、涙は止まってくれないけれど。でも……ひきつりながらでも、ニコッと笑って。

 

 「……お帰り、お兄ちゃん」

 

 『ああ……ただいま、樹』

 

 鏡の向こうに映る、不細工な泣き笑い顔の私の直ぐ後ろに……同じように泣き笑い顔のお兄ちゃんの姿が映った気がした。

 

 

 

 

 

 

 その日から、お姉ちゃんは今までよりも早く帰ってくるようになった。今までより、側に居てくれるようになった。お兄ちゃんも居るし、お姉ちゃんも居てくれる。だから、前よりも寂しくなくなった。だけど、お兄ちゃんの事を話すことはなかった。もうあんな辛そうなお姉ちゃんの顔は見たくなかったし、また信じてもらえずに怒鳴られたらって思うと怖かったから。

 

 そんな風にしばらく過ごしていると、色々と分かった事がある。体の……主導権? は私達の意志次第で代えられること。体を動かしてる方は頭の中で話そうとすれば心の中に居る方と会話出来ること。これでお兄ちゃんに勉強を教えて貰えるしテストもバッチリ……と思ったけどそれはカンニングだからダメってお兄ちゃんに叱られちゃった。

 

 運動能力は、体は動かしている方に引っ張られるということ。お兄ちゃんが動かしてる時は私が動かすよりも動けてる気がする……体力も腕力も無いから、誤差の範囲だと思うけど。

 

 『樹……あんまり自分がお前の体を使うのは良くないと思うんだけどねぇ』

 

 「え、なんで?」

 

 『正直、自分達の状態は良いのか悪いのか判別が付かない。けれど、1つの体に2つの心……何かしら悪影響があっても可笑しくない。だからしばらく、自分は体を動かすのはやめておこうと思うんだ』

 

 「私は別に気にしないんだけどなぁ……でもお兄ちゃんが言うなら仕方ないよね」

 

 ある日、部屋でのんびりしてるとお兄ちゃんがそう言ってきた。私としてはそこまで気にしていないし、仕草がお兄ちゃんのまんまだからよりお兄ちゃんが居ることを感じられるからむしろもっと頻繁に動かしてもらってもいいくらいなんだけど……お兄ちゃんが心配してくれるなら、まあ仕方ないかなって思った。その日からお兄ちゃんは、私の体を動かすことはしなかった。

 

 でも、1週間くらい経った頃。お兄ちゃんの声が聞こえにくくなって、私の中に感じられたお兄ちゃんの存在が感じにくくなった。まるで、段々とお兄ちゃんが消えていくみたいで……また、お兄ちゃんが居なくなってしまう気がして、本当に怖かった。

 

 「お兄ちゃん! お兄ちゃん、聞こえる!?」

 

 『……ぃ……き……ご……ん……』

 

 「あ……いや、嫌! 消えないで、また私から離れないで、居なくならないで! お兄ちゃん!!」

 

 何度も何度も泣きながらそう言って、自分の体を抱き締めた。そんなことしてもお兄ちゃんを抱き締めることなんて出来ないのに。でも、そうしなきゃいけない気がして……お兄ちゃんが居なくならないように、どこにも行かないようにって思いながら、強く強く、抱き締めた。

 

 すると、体が動かなくなった。ううん、体は動いてるけど、私の意志で動いてなかった。これは私とお兄ちゃんの意識が入れ替わってる時の状態。その事に気づいたら、また声を掛けていた。

 

 『お兄ちゃん! 聞こえる!?』

 

 「あ、ああ。聞こえるよ樹……あれはなんだったんだろうねぇ。まるで、意識が溶けてなくなっていくような……」

 

 『良かった……良かったよぅ……』

 

 「……また泣かせちゃったねぇ。ごめんね樹……今までこんな事はなかったのに、体を動かさないようにしてからこうなった……まだ確証はないけど、これからは定期的に体を動かすようにした方がいいのかもねぇ」

 

 この出来事があった日から、最低でも3日に1度は丸1日お兄ちゃんが私の体を動かすようになった。4日以上動かさないで居ると段々と意識が途切れていくみたいで、私を不安にさせない為にそれだけの時間を取るようにしたんだって。

 

 ……因みに、この時は真夜中だったので流石に眠そうにしたお姉ちゃんに怒られた……お兄ちゃんが。お兄ちゃんは仕方ないって笑って許してくれたけど、申し訳なさでまた泣きたくなったのは私だけの秘密。

 

 

 

 

 

 

 それから更に時間は経ち、何故だかお姉ちゃんから讃州市に引っ越すと言われ、そこで私も中学生になった。お兄ちゃんを意識して肩まで髪を伸ばしたり、お姉ちゃんに引っ張られて勇者部って所に入って友奈さんと東郷先輩の2人の先輩とも知り合いになったりした。

 

 東郷先輩を見た瞬間お兄ちゃんがとても驚いていたけど、自己紹介を聞いて“まさか……いやでも名前が違うし、他の2人も居ない……他人のそら似かねぇ”って呟いてた。聞いてみると、養子先で知り合った女の子の1人と凄く似ていたらしい。その話を聞いた日から数日後、たまたま部室で2人きりになった時に東郷先輩からこんな事を聞かれた。

 

 「……ねぇ、樹ちゃん。私達、以前にもどこかで会ったことはない?」

 

 「え? い、いえ、部室で会ったのが初めてかなぁ……と、思い、ます」

 

 「そう……そうよね。ごめんなさい、急に変なこと聞いて」

 

 「だ、大丈夫です。でも、なんでそう思ったんですか?」

 

 「……何故かわからないけれどね、樹ちゃんの顔を見た時に……とても、懐かしい気持ちになったの。懐かしくて……でも、悲しくて、切なくて……そんな、不思議な気持ちに」

 

 そう言った東郷先輩は……今にも泣きそうな顔をしていた。私はどう返したらいいか分からなくて、ただ黙って東郷先輩を見ているしか出来なかった。その日から、東郷先輩は私に前よりも優しく接してくれるようになった気がする。まるで、その誰かと私を重ねるみたいに。

 

 しばらくしてから教えてもらったのだけど、東郷先輩は2年間の記憶が無いらしい。もしかしたら、その2年間の中で東郷先輩はお兄ちゃんと会っていたのかも知れない。お兄ちゃんもそうかも……と同意してくれた。だけど、それ以上の事は何も進展はなかった。ただ、4人で……お兄ちゃんも居るから5人かな……楽しく部活をしていて、これからもそんな日々が続くと思ってた。

 

 

 

 「あれが、私達の敵……バーテックスよ」

 

 

 

 前にこっそり話だけは聞いてた“勇者”の存在。“バーテックス”という敵。それらを知るまでは。神樹様を殺しに来る化け物。倒せるのは勇者だけ……私達、だけ。倒さないと世界が滅んでしまう。急にそんなこと言われたって、出来っこない。だけど。

 

 『大丈夫だよ、樹。自分が代わりに戦うから』

 

 (でもお兄ちゃん……あんな大きな敵とどう戦うの?)

 

 『ま、やりようはあるさ。それに……自分、これでも前の勇者だったからねぇ』

 

 (えっ……? お兄ちゃんが……勇者?)

 

 ここで私は初めて、お兄ちゃんが養子に行った本当の理由を知った。そして……死んでしまった、本当の理由も。バーテックス。お兄ちゃんを殺した、敵。お姉ちゃんが前に家を空けるようになったのも、勇者として戦う為の訓練をする為。あの日大赦の人が来たのは、お姉ちゃんに勇者の存在と戦うことを教える為?

 

 そう思うと、胸の奥がムカムカとしてきた。バーテックス。私達家族を、私達兄妹をバラバラにした元凶。大赦の人はお姉ちゃんにだけ教えて、私には黙ってた。もしかしたら、お姉ちゃんが心配して口止めしてたのかも知れないけど……今は、そんなことはどうでもいい。

 

 お姉ちゃん1人では行かせられない。お兄ちゃんにも戦わせられない。だから、私が戦う。私も、戦う。今度は隣で、姉妹で一緒に。家族で一緒に。

 

 「私も……戦う。着いていくよ、何があっても」

 

 「樹……ええ、行くわよ、一緒に!」

 

 と、言っても私が戦い慣れてないなんて分かりきってたことで……お姉ちゃんから変身の仕方とか武器の出し方とか精霊とかの説明を受けても上手くいかずに跳びすぎたり着地に失敗したりバーテックスの攻撃を避け損ねたり……。

 

 『樹! 悪いけど、変わるよ!」

 

 「え、お、お兄ちゃん!?』

 

 精霊バリア越しに攻撃を受けてフラフラとしてたらお兄ちゃんに無理やり入れ替わられた。するとお兄ちゃんは明らかに私とはレベルが違う動きで体を動かす。本当に同じ体なのかと疑問に思うくらいに。

 

 それに、私とは違う武器の……ワイヤーの使い方をしてた。私がワイヤーを動かして飛んでくる爆弾を捕まえたりしてるのに、お兄ちゃんは樹海にある木にワイヤーをくくりつけて引き寄せてそっちに移動したり、乙女座に巻き付けてから同じように移動してドロップキックしたり。

 

 「姉さん、その剣貸して!」

 

 「え? 樹、今……ああっ、アタシの大剣!?」

 

 お姉ちゃんの大剣の持つ所にワイヤーを巻き付けて強引に奪ったかと思えば、思いっきり振り回して乙女座に叩きつけるようにして切り裂いたり。それでも倒せなくて、途中で変身した友奈さんが参加して凄いパンチで乙女座に大穴を開けた後、回復される前に封印の儀? をして御霊っていうのを出して最後は友奈さんが壊した。

 

 そんな日から、私達は学生として、勇者部として日常を送りながら勇者として戦う非日常も送ることになった。途中で夏凜さんっていう大赦から来た勇者も加わって、より賑やかになった。最初は怖い人かと思ったけど、お兄ちゃんが微笑ましそうに見てたし、サプライズの誕生会とかもしたら実はいい人なんだって気付けた。

 

 「……ねえ樹。あんた、時々雰囲気違わない? たまに凄い年上に感じる時があるんだけど」

 

 「夏凜ちゃんもそう思う? 私も時々そう感じる時があって……それに、やっぱり懐かしい気も……」

 

 「そ、そうですか? 気のせいなんじゃないですかね……あはは……」

 

 『2人共鋭いねぇ……それに美森ちゃん……懐かしいってことはやっぱり君は……』

 

 お姉ちゃんですら気付かないのに私の中のお兄ちゃんに気付きかけたりもして、これが完成型勇者……! とちょっと尊敬もしたり。5人……お兄ちゃんも入れて6人になった勇者部は、もっと楽しくなった。

 

 でも、その勇者部が壊れかけた。それは夏凜さんが入った後の戦い……7体のバーテックスの同時侵攻の時。お兄ちゃんの時にはなかった、勇者の更なる力の解放……“満開”。4体のバーテックスが合体した大きなバーテックスは強大で、それをしないと勝てなかった。夏凜さん以外が満開して、何とか戦いに勝って……。

 

 そして、私は声が出なくなった。お兄ちゃんに入れ替わってもそれは変わらなくて、私が直接会話出来るのはお兄ちゃんとだけになった。大好きな、折角出来た夢に必要な歌が歌えなくなったのは悲しかったけれど……でも、皆と過ごす日常が守れたなら、それで良かった。

 

 

 

 「勇者部なんて……作らなきゃ……っ!! 誰も苦しまずに済んだのに!!」

 

 

 

 だけど……お姉ちゃんはとても苦しんでた。私達を勇者部に入れたこと、私を勇者にしたこと。私は後悔なんてしたことなかったのに、私達の状況を誰よりも苦しんでたんだ。止めようとした友奈さんと夏凜さんでも止められないくらいに怒って、恨んで、悲しんで……だから、傷付けても、止まれなくて。

 

 だから……言葉を端末に入力して見せた。私と……お兄ちゃんの分を。私1人だけじゃ足りないかもしれなかったから。ううん、それだけじゃない。私は、やっぱりお姉ちゃんにも分かって欲しかった。お兄ちゃんは本当に……此処に居るんだって。

 

 《勇者部のみんなと出会わなかったら、きっと歌いたいって夢も持てなかった。勇者部に入って本当によかったよ》

 

 《勇者部を考えてくれて、勇者部を作ってくれて……ありがとう、姉さん》

 

 「樹……これ……違う、樹じゃない。楓……本当に、居るの? そこに……ずっと、ずっと前から一緒に……ああああ……っ!!」

 

 入れ替わったお兄ちゃんがお姉ちゃんの前に膝をついて……昔と変わらない、朗らかな笑みを浮かべてお姉ちゃんを抱き締めた。この表情は私じゃ出せないから。だからかもしれないけれど……お姉ちゃんは、お兄ちゃんを信じてくれた。

 

 「退いて! 私の邪魔をしないで!」

 

 「するよ。この世界はアマっちが……貴女の好きだった人が守ろうとした世界なんだから!」

 

 「須美、お前だって新士と……あたし達と一緒に守ってきただろ!」

 

 「私は、覚えてない! 貴女達のことも、そのアマっちって人のことも! 散華の影響で忘れさせられたから!! 友奈ちゃん達のことだって、いつか忘れさせられる!!」

 

 「それでも、アマっちは確かにこの世界に居たから。勇者部の皆と会えたのも、この世界があったから! それはわっしーだって……貴女だって分かるでしょ!?」

 

 「その人が、貴女達が私にとって大切で……友奈ちゃん達と出会わせてくれたのがこの世界なら……その思い出も、その想いも、その何もかもを奪ったのも……世界の方じゃない!!」

 

 「だとしても……私は守るよ。だって、私の好きな人が、私達の未来を見たいって言ってくれた人が守った世界だから!!」

 

 『の、のこちゃんに銀ちゃん!?』

 

 それで終われたら良かったのに、今度は東郷先輩が……正直、私はもういっぱいいっぱいだった。でもお兄ちゃんと……立ち直ってくれたお姉ちゃんが居たから、最後まで頑張れた。数えきれない小さなバーテックスも、最後に出てきた大きな元気っぽい火の玉だって、いつの間にか現れたお兄ちゃんと同じ先代勇者の2人も加えた皆でなんとか出来た。

 

 ……因みに、東郷先輩を止めたのは友奈さんだけど、その前に私と入れ替わったお兄ちゃんが“いい加減にしなさい!!(声に出てない)”って乙女座にしたみたいに東郷先輩にドロップキックしてしばらく悶絶させてた。直ぐに火の玉を止める為に戻ったけど、私だけは東郷先輩の“え……樹ちゃん……え……?”という困惑の表情を知っている。

 

 この後友奈さんの意識が戻らなかったりしたけど、私達の散華が戻ってからしばらくして友奈さんも戻ってきてくれた。やっと……私達の大好きな日常が戻ってきてくれた。それだけじゃなくて、なんと先代勇者の園子さんと銀さんも転校してきて勇者部に入って、またメンバーが増えた。そんなある日のお兄ちゃんと入れ替わってる日のこと。

 

 「ねえねえイッつん。イッつんってたまに雰囲気変わるよね。今日とか」

 

 「そうですか? 前に東郷先輩と夏凜さんも言ってましたけど、そんなに違います?」

 

 「うん、全然違うよ~。でもわたしは今のイッつんの方が好きかも~」

 

 「あはは、それは……ありがとうございます?」

 

 「勿論普段のイッつんも良いけどね~♪ あ、イッつん。今度わたしの家に来ない? お昼ご馳走するんよ~」

 

 「え? いえそんな、悪い……」

 

 「焼きそば、ずっと練習してきたんよ~。2年前の遠足の日の後、大橋の戦いまで……散華が戻ってからも、ずっと。ねえ、イッつん……ううん、“アマっち”……今度は……今度は、食べてくれるよね?」

 

 「……うん。自分も楽しみだったんだよ、のこちゃんが作る焼きそば……きっと、きっと美味しいだろうねぇ」

 

 私だけが知ってる、お兄ちゃんと園子さんの“約束”。いつもは皆を混乱させないように私の演技をしてるお兄ちゃんも、直ぐに本来のお兄ちゃんの口調で園子さんと一緒に居るようになった。園子さんにいつ気付いたのか聞いたら、あの戦いの時に一目見た瞬間に気付いたんだって……それを聞いた瞬間、私は見た。園子さんがまるで獲物を見るかのようにお兄ちゃんを見ていたのを。

 

 「もう2度と離れないよ、アマっち。あんな寂しい思いはもう嫌だから……それに、考え方によってはアマっちは女の子になってるんだし……イッつんも好きだし、問題無いよね」

 

 「何がですか!?」

 

 

 

 

 

 

 これは、死んだ筈の楓が何故か妹の樹に魂だけが入り込んでしまい、時に樹の中で、時に樹の体で別の世界で過ごしていたような勇者として、勇者部として日常と非日常を過ごしていく。

 

 そんな、不思議で……暖かなお話。




今回の補足

・基本的にはDEif√を原作沿いに進めた話。楓の記憶は遠足での三体との戦いまでなので満開の事を知らない

・楓と樹は所謂“もう1人の僕”状態。別の意識が入れ替わったところで体が成長したりはしない

・樹は中に居る兄を意識して髪を肩まで伸ばしている。セミロング樹

・歌のテストは中に兄が居るので安心。その代わり勇者部でカラオケイベント消失

・勇者としての戦闘力は純粋に楓の方が上。戦い方はゆゆゆいで言えば近接

・普段大人しい樹(意識は楓)にドロップキックされて困惑の東郷さん

・安定の園子



という訳で、リクエストのDEifで死んでしまった楓が樹に憑依したというお話でした。1話で纏める為にかなり急ぎ足かつ強引な話になってしまったやもしれません……いやこの設定、作品1つ書けるので纏めるのが大変でした。因みに、ブラザーソウルイフと読みます。まんまですね←

話の流れはDEifと原作のごちゃ混ぜです。なので安芸先生と園子は不仲だったり東郷さんに楓レーダーが無かったり神奈が居なかったりと本編とも大分変わってます。

別に楓が「AIBOOOO!!」と叫んだりはしません。ホントはもっとシリアスな雰囲気になる予定だったのですが、重めなのは前半だけになりましたね。今年は甘々で締めますし、来年はダークな感じで始めるのもいいかもしれません。尚、来年は本編から再開予定です。

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