東郷√か美森√で悩んだ末に他と同様に名前にしました。そう、今回はお待ちかねの(?)東郷さん√です。
必死に石を集めたゆゆゆいで大天狗若葉様来てくれました。最後の最後で嬉しいサプライズ、風雲児様ありがとう。
ファンリビではチャイカがすり抜けで来てくれましたが元ネタ知らねえ← そして育成が中々進まねぇ……fgoはもうすぐ目標の100箱達成出来そうです。
前回のお話はそれなりに好評のようで何よりです。感想ではドロップキックの言葉が多く見受けられました。そんなに面白かったんですかね、樹ちゃんドロップキック。因みにドロップキックの理由は体重も軽く力も無い樹ちゃんの体でも出せる最大威力の攻撃だからです。
今回は他の親密√同様に色々とキャラが……私の中の本作の東郷さんはこんな感じです。
寄り添うだけでいい。寄り添って貰えれば、もっと良い。まだ私達が小学生だった頃、世界の真実を知り、散華を知り、絶望したその日に4人で行った夏祭りの花火を見上げながら思った事。あの時、彼は右腕を失っていた。残った左手はいつもそのっちが握っていたから……それなら私は右側で良いと、例え手を繋げずとも、側に居てそうしているだけでいいと。
彼の事は勿論好ましく思っている。ううん、もっと簡単に言えば……1人の男性として好きなんだとはっきり言える。でも、私が彼に異性として好かれる必要はない。友奈とでも良い。そのっちとでもいい。銀とでも良い。夏凜ちゃんでも、雪花でも構わない。楓君が誰かと一緒に
私の友達が、私の好きな人が幸福であれば、私にとってそれ以上の幸福はない。その幸福を……私は遠くから、出来れば直ぐ近くで見ていられるなら……そう、思っていた。そんな時だった。
「東郷 美森さん。自分は、貴女の事が好きです。自分と……付き合ってくれませんか」
高校生になり、中学の頃と変わらず勇者部として過ごしていた頃。私と楓君の2人だけで行った依頼の帰り道……茜色の空の下で、私は彼に告白された。それは私にとって思ってもみなかった事で……とても、とても嬉しい出来事で。
いつものような朗らかな笑みではなく、少し緊張した面持ちという珍しい表情なのが彼が本気であることを教えてくれる。高鳴る自分の心臓が、これが夢ではなく現実であると教えてくれる。彼が選んだのは、彼が求めてくれたのは……私であると。
本当に嬉しい。友人としてではなく、異性としての好き。両思いであるその事実が、跳び上がりそうなくらいに。今にも抱き着いて、声高らかに“はい!”と返事をしてしまいたい程に。
「……ごめん……なさい……っ」
でも……私の口から出たのはそんな言葉。嬉しいのは間違いない。私も好きなのは間違いない。本当なら“喜んで”と返事をしたい。友達以上に、彼と恋人に、いずれは夫婦に……そう、思っている。思っているのに。
思い浮かぶのは、中学生の時に私がしてしまったこと。四国の壁を壊し、世界を終わらせかけたこと。仲間達に酷い事を言って、酷い事をしてしまったこと。小学生の時の夏祭り……そこでした約束を散華で忘れて……心にも体にも傷を付けてしまったこと。
皆は最後には赦してくれた。それでも……私の心には未だに残っているんだ。
だから私は、どうしても自分が赦せない。彼と恋仲になることが、幸福の未来を歩むことが、そんな未来を想像することすら。見ているだけでいい。貴方が幸福な姿を。誰かと共に幸福そうに歩く姿を。いつか家庭を持ち、子宝にも恵まれて幸福な日々を過ごす……そんな姿を。
「……そっか。断られたら、仕方ないねぇ」
「ごめんなさい……ごめん、なさい……っ!」
「理由は……言えない、か。分かった。ああ、泣かないで美森ちゃん。自分もいきなり過ぎたねぇ」
嗚呼、私は卑怯者だ。真摯に気持ちを告げてくれたのに、そんな彼に罪悪感まみれの言葉で拒否をしたのは私の方なのに。断る理由も言えず、謝罪の言葉以外言えず……断った側のクセに泣いて、哭いて、啼いて……彼の気持ちを踏みにじったのに、そんな私を彼は優しく抱き締めてくれて、慰めてくれて。
私は……私が……私なんか……大っ嫌いだ。
あの後、私は部室に戻らずに楓君に自宅まで送ってもらった。部室にあった荷物も取ってきてくれて……直接帰った理由は体調を崩したからだと言い訳してくれたらしい。お陰で翌日の朝に友奈と会った時に心配してくれた際、話を合わせることが出来た。
告白のことは……言わなかった。彼も言ってないみたいだし、私の方から言うのもどうかと思ったから。でも、私達の間に何かしらあったのは……丸わかりだったと思う。
「カエっち、昨日わっしーと何かあったの?」
「いいや、美森ちゃんを送っていったくらいだけど。なんでだい?」
「いや、珍しく2人が挨拶くらいしか会話してないなーって話しててさ」
「あっ! 確かにそうだね!」
「そういえば……珍しいこともあるものね」
「あ……そ、れは」
「うーん、これはあんまり言うべきことじゃないんだろうけど……まあ、ちょっと気恥ずかしいからかもねぇ」
「気恥ずかしい? 気付けば夫婦漫才してるのに今更じゃない?」
風先輩と樹ちゃんを除く私達勇者部は高校2年生になって嬉しいことに全員同じクラスだった。なんの思惑が働いたのか席も教室の片隅に集まり、お昼時はこうして7人で机をくっつけてそれぞれ持ち寄ったお弁当なりパンなりを食べている。
今日も全員がお弁当を持ち寄って……楓君と友奈はそれぞれ風先輩とお母様作。意外にも夏凜ちゃんは手作り……食べているとそのっちからそう切り出された。因みに相変わらずそのっちと友奈は彼の両隣を陣取っている。
そのっちに続いて銀、友奈、夏凜ちゃんと続き、楓君は苦笑いしながら呟いた。気恥ずかしい……正直、そんな言葉で済むようなことじゃない。だって私は最低な事をしたのだ。寄り添いたいと、寄り添ってもらいたいと思いながらその人の好意を、その人の想いを足蹴にしたんだ。彼は怒っていい……まともに説明すら出来なかった私を。なのに……どこまでも楓君は優しかった。
「依頼が終わった後の帰り際にハプニングがあってねぇ……簡単に言えば、所謂“ラッキースケベ”って奴だよ」
「……かーくん。それ、具体的にどうなったのよ?」
「正面衝突。但し自分の顔にはクッションが」
「あー……成る程。つまり、須美のエベレストに顔から突っ込んだと。流石の須美もそれは恥ずかしい……よな?」
「あ、当たり前でしょう!?」
「わっしーまだ成長してるもんね~。わたしも成長したけど全然敵わないし」
「教室にはまだ男子が居るからその手の話はやめなさいって」
「あはは……確かにそれは恥ずかしいかも」
らっきーすけべ……つまりは楓君の顔が私のむ、胸に……勿論そんな事は起きていない。むしろ私が彼に胸を借りた側で、勇者時代に鍛えられ、今もトレーニングが続いているという硬く逞しい胸板の感触を堪能し……ごほん。
もし仮に楓君とそうなった場合……銀に言ったように恥ずかしいとは思う。けれども、想像してみると満更では無い。勿論他の男性ならひっぱたいて警察に突き出すくらいはするだろうが、楓君なら別に……そこまで思って、また気持ちが沈む。改めて自分の中の彼へと好意を感じて、同時に昨日の自分の所業に心が痛んだ。
「……もう切腹するしか」
「どっちが!? いや、どっちにしても早まるな須美! 大丈夫だ、減るものじゃないし!」
「楓くんも東郷さんもお腹切っちゃヤダよ!?」
「あんたは昔から変わらないわね……園子、念のため取り押さえるわよ」
「あいあいさ~♪」
「え、昔から切腹とか言い出してんの? あの子」
「まあ、実際に切腹寸前まで行ったことはあるねぇ……ほら、短刀から手を離して。というかなんで刃物入ってるんだ……持ってきちゃダメだよ、美森ちゃん」
わなわなと震えながら鞄の中から常備している布にくるまれた短刀を取り出した所で楓君と雪花以外の4人に取り押さえられる私。手にした短刀は楓君によって取り上げられ……その際、触れた手の感触に少し気恥ずかしさを覚えた。そしてやんわりと叱られながら頭を撫でられる。
嗚呼、こうして触れられる度に、声を掛けられる度に心が温かくなる。告白されるよりも、もっと。そうして思い知るのだ、私も彼が好きだと。でも、思い知らされるのだ……やはり私は、私自身が彼と結ばれる事を赦しはしないのだと。
(ああ……やっぱり私は……)
なんて、面倒な女なのだ。そう何度も思った事を、また思った。
そんなやり取りから数日経った日、私は悪夢を見た。それもあの日……小学生の時、遠足の前に見た神託らしき夢だ。当時はわからなかった、赤黒い勇者服を着た誰かが大橋の上で座り込んでいる……そんな夢を見た。
近付いていく夢の中の私。ダメ、近付かないで、見たくない。そう思っても声は出ない。どれだけ思っても足は止まらない。そして見てしまうんだ……首の無い、そのカラダを。
(ぐ……ぶ……ううううっ……)
夢の中なのに吐き気が込み上げる。これは私の最初に見た神託。言わなかったことを、言えば良かったと後悔したトラウマ。この夢を彼以外にも伝えていれば、結果は変わったかもしれない……何度そう思ったことか。何度過去の自分に怒りを向けたことか。何度……後悔したことか。
ああそうだ、壁を壊した時のことだけじゃない。こうして彼の危機を知らされながらそれに気付かず、ただの悪夢だからと話すこともしなかったからこそ、現実に彼を失いかけたこと。それもまた、私にとって赦し難いことだった。
戦いが終わって尚、この悪夢は私を苦しめる。いや、苦しめているのは私自身。これは言わば自傷行為。両思いであると知って、それでも拒絶した私自身への戒め、罪に対する罰。好きなのだ。これ以上好きになれる人なんて現れないと確信出来るくらいに、この人以外の異性は愛せないと断言するくらいに。だって私には、“鷲尾 須美”と“東郷 美森”の2人分の彼への好意があるんだから。
……そして同時に、“鷲尾 須美”と“東郷 美森”の2人分、彼への罪の意識がある。だから、私は寄り添うだけで良かった。一緒になれずとも、端から見てるだけで良かった。それで……良かったのに。
(あ……楓、君……)
目の前に、中学生の時の楓君が現れて蹲る私を見下ろす。吐き気を耐える為に口に手を当てて見上げる彼は五体満足の姿で……今でこそ存在する右腕に視線が寄る。覚えている。あの病室で、触れようとして伸ばした手が触れられなかったことの絶望を。側に居たい時に限って敵が現れて、側に居られなくなった時の焦燥と怒りを。
(っ、待っ……)
彼が背を向け、私から離れるように歩き出す。咄嗟に私は彼の右手へと手を伸ばし、その手を強く握って……その手が、まるでオモチャのように肩の辺りからズルリと引き抜けた。肩と、腕の断面から夥しい血が吹き出して、私と彼の頬を汚す。そして、固まって動けなくなる私に……彼は振り返って言うのだ。
― 君が伝えていれば……こんな事にならなかったかもねぇ ―
血にまみれたその顔に、悲しげな笑みを浮かべ……その首から、頭を落としながら。
「あああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!!」
絶叫と共に、目が覚めた。悪夢を見た。またあの悪夢を見た。彼に告白され、断ったあの日から続く悪夢を見た。あの時と同じようにはっきりと脳裏に刻まれ、記憶に残る悪夢を見た。
鷲尾 須美の時の、決して忘れられない私の罪。今回見た悪夢はそれだったが、他にも壁を壊し、世界諸とも皆と心中を図ろうとした時の事も悪夢として見ることもある。それらは皆と過ごしていく内に乗り越えることが出来た筈だった。自分を赦せなくても、皆が赦して、支えてくれたから……そうやって、乗り越えた筈だったのに。
「はぁっ……はぁっ……」
荒い息を何とか整えようとする。寝間着である襦袢が汗で湿って気持ち悪い。涙が溢れて止まらない。まだ悪夢の中に居るようで怖い。悪夢はもう通り過ぎた筈なのに、不安が無くなってくれない。
楓君の告白を断った日からこんな調子だ。罪の意識を感じたからか、それとも自分から断っておきながら未練を感じているのか……感じているんだろう。本当はその手を取りたかったんだ。私も好きだと返したかったんだ。そうしなかったのは私が勝手にこれまでのことに罪の意識があるからだ。私が、彼と一緒になって良い筈がないと……そう思ってるからだ。
でも、そう思う程余計に彼の事を想ってしまう。今だって悪夢の事を除けば彼の事ばかり頭に浮かんでしまう。意識を集中すれば、彼の居場所だってある程度把握出来る。今はまだ自分の家に居るんだろう。時間は……深夜。あれだけ大きな声を出してしまったのに両親が何も言わないのは部屋が遠いことと時間帯が理由なんだろう。
「……そういえば、前にもこんな事があったわね」
思い出す。遠足の前の日に見た悪夢から目覚めた後、彼に電話した日の事を。深夜だったにも関わらず、直ぐに出てくれた彼の事を。私の感じていた恐怖を、言葉少なくとも気付いてくれた事を。怖くて、泣いて、眠れなかった私の所に、変身してまで飛んできてくれた事を。
思い出す。窓越しにお互いの顔が見えた状態で、電話越しに聞こえた彼の言葉を。私が泣いている、なら直ぐに駆け付けてくれる……そう言ってくれた事を。そして彼は、本当に駆け付けてくれた。
彼を思う。彼の事を想う。嗚呼、やっぱり私は彼が好きなんだ。銀にだって、そのっちにだって、友奈にだって負けないくらい。だから……こんなにも苦しい。だから……過去の自分が赦せなくて。そんな私が彼と結ばれようとするのが、赦せなくて。
電話を取る。指が動き、彼の電話番号が画面に出たところで止まる。後1度指を動かせば、彼に繋がる。もしかしたら、また出てくれるかもしれない。また、駆け付けてくれるかもしれない。少しの期待。その期待と共に指を動かして……。
「……今の私に……そんな資格は……ない」
その期待を捩じ伏せて、電源を落とした。その後は悪夢を見ることに怯えながら、恐怖を胸に抱いて眠った。
「東郷さん、大丈夫? ここのところずっと目にクマがあるけど……」
「……大丈夫よ、友奈」
それから数日、私は毎日悪夢に苛まれていた。ように、ではなく毎日。決まってあの日の大橋での出来事と、去り行く楓君の手を取ると彼があの言葉を私に告げる悪夢を。繰り返し、繰り返し、罰を与えるように、刻み付けるように。
だからだろう、この数日魘されては起きてまた眠ってを繰り返してまともに眠れていない。授業にも集中出来ない。最近は食事の味だってちゃんと認識出来ていない。友奈達はこうして私を心配してくれる。勿論、楓君も。でも、そうした彼からの優しさだけは……今は、辛かった。
「いやいや、全然大丈夫そうに見えないって須美」
「まあ、そんだけ濃い隈こさえてたらね。眠れてませんって言ってるようなものよ?」
「わっしー……何かあったの?」
「快眠出来るサプリ、明日持ってくるわ」
「……美森ちゃん、保健室に行くかい?」
次の授業の為、別の教室へと移動中に皆からそう言われる。心配を掛けていることが申し訳ない。心配しないでと言おうにも、今の状況では意味がないでしょうね。それでも、私はそう言うしかない。悪夢のことなんて話しても仕方ないし、誰にもどうにも出来ない。それに……楓君には、話せない。
話せばきっと、彼は自分が告白したのが原因だと考える。それだけは思わせてはいけない。口にさせてはいけない。例え私の過去であろうとも、彼の想いと言葉は否定させないし、悪いとは言わせない……拒絶した癖にこう思うのは、矛盾しているかもしれないけれど。
「……ぁ」
「っ、美森ちゃん!?」
返事をしようとした時、不意に視界が揺らいで足から力が抜けた。そのまま廊下へと正面から倒れ込みそうになった時、楓君が素早く回り込んで抱き止めてくれた。その力強い両腕に抱き締められていると、凄く安心出来る。制服越しに彼に触れている事実に、頭の中がふわふわとする。
他の皆から心配の声が聞こえているけれど、はっきりとは言葉を聞き取れない。それだけ睡眠不足による体調不良が酷いのだろう。同時に、彼の温もりに触れた部分の心地良い熱に……私の意識が、心が奪われているからでもあるのだろうけれど。
(楓君……)
私も、大好き。過去の自分の所業さえ無ければ、過去の後悔さえ無ければそう返していたハズなのに。純粋に喜んで、幸福を享受出来ていたハズなのに。誰も悪くない。悪いのは私だけで。ああでも皆は違うって言ってくれて。赦せないのは私だけで。でも皆は赦してくれて。傷付けたのは私で。でも私も傷付いて。考えが纏まらない。意識を保てない。でも眠るのは怖い。
そうして私の意識は途切れた。だけど……悪夢は、見なかった。
「……ここは……」
目が覚めた時、私は自分の部屋に居た。どうして……と思うも、直ぐに学校で倒れた事を思い出す。あの時よりも幾らか頭が冴えているので、ある程度の時間眠る事が出来たんだろう。それが体調不良による気絶なのはどうかと思うけれど。
……皆に、心配を掛けてしまった。ぼんやりと残る皆の心配そうな声と楓君の表情が浮かび、胸の奥が苦しくなる。まるで学習しない、周りに迷惑と心配を掛けてばかりの自分に嫌気が差す。そんな風に自己嫌悪に陥っていると、部屋の
「……ああ、美森ちゃん。目を覚ましてくれて良かった」
「楓……君……」
そこに居たのは、楓君だった。私が倒れてからそう時間は経っていないのか、それとも何日か経った上での学校帰りなのか、彼は制服を着ていた。その手にあるのは、お茶碗と湯飲みが乗ったお盆。
私を見て安心した顔をすると、楓君はこちらへと歩み寄ってきたので私も体を起こす。誰が着替えさせてくれたのか記憶の最後にある制服姿とは違って寝間着の襦袢姿だった。隣に胡座をかいて座った彼が枕元に置いたお盆の上を見るとお粥とお茶が置いてあった。別に風邪を引いた訳じゃないのだけど。
「いきなり倒れたからびっくりしたよ。気分はどうだい?」
「ええ、だいぶ良くなったわ。というか、別に病気でも何でもなくて、ただの睡眠不足が原因なのだけど……」
「気絶までいったら“ただの”とはとても言えないけどねぇ」
聞けば、私が倒れてからまだ数時間程経った程度で、迎えと着替えはお母さんがしてくれたという。そう教えてくれた後の苦笑い気味の彼の言葉にごもっともですと思う。それでも、私は別に平気だと返す。彼に悪夢の内容を知られてはいけない。彼が原因だと思わせてはいけない。何度もそう思って、当たり障りの無い言葉で終わらせようとした。でも、私は忘れていた……彼の察しの良さを。
「自分の告白が原因かい?」
「っ……それは、違うわ。ただ、夢見が悪かっただけで」
「自分が告白して何日か経ってからだったよねぇ、夢見が悪くなり始めたのって。急に顔色が悪くなっていってたの、皆気付いてたよ」
「あ……」
そう言われて、また皆の心配そうな顔が浮かんだ。友奈の、そのっちの、銀の、夏凜ちゃんの、雪花の。部活に行けば風先輩にも、樹ちゃんにも心配された。部活として現地に行けば、依頼人の人にさえ。勿論、家でも両親に同じ顔を。そして今も、楓君に。
「……自分の告白は、そこまで君にとって心労の元になってしまったみたいだねぇ」
「違っ、違う! 楓君は悪くないの! 悪いのは、私で……」
「何故だい? 事実、君はこうして倒れてしまったじゃないか」
「それは……でも……」
「……自分は、告白したことは後悔するつもりはない。断られてしまったけれど、その気持ちに嘘は無いからねぇ」
「ぁ……」
また、胸が苦しくなる。私が断ったと本人から言われて泣きそうになる。あの告白を、彼の言葉を、彼の気持ちを疑ってなんか無い。嬉しかったんだ、両思いだったと教えられて。私からじゃなく、彼から告白されて。そんな……夢みたいな事が現実に起きて。
「だけど……その好きな相手がこうして倒れる原因となる位なら、秘めていたままの方が良かったのかもしれない」
「そんな事ない!! それだけは、それだけは絶対に!!」
「……美森ちゃん」
強く、強く否定する。あの言葉を、あの告白を、無かったことにだけはしたくない。自分勝手な思いだとは分かってる。都合が良いことを言っている自覚もある。だけど、それだけは
「私は……楓君と付き合う資格は……貴方に好かれる資格は、無いから。だから……あの悪夢だって、それを教えるようで……」
「資格……?」
俯きながら、私は悪夢の事を話した。小学生の時にも見た、彼にも話した事のある神託……悪夢。その後に見る、彼の姿と言われた言葉。悪夢だけじゃない。今までの私の所業。乗り越えたハズの、皆に赦されたハズの出来事。壁を壊した事も。言わなかった事を、言えば良かったと後悔した事も。
何よりも……何よりも私自身が赦せないのは……散華のせいとは言え、“約束”を忘れてしまって事だ。
“友達を……楓君を、1人にしたりしない。私が守るから。貴方と一緒に……頑張るから”
4人で行った夏祭りでの約束。悪夢を見た日、駆け付けてくれた彼にした誓い。それを忘れて、挙げ句……こんな裏切りがあってたまるものか。こんな、酷い事をした私に……彼に好かれる資格があるものか。その気持ちを、言葉にした。彼に嫌われるつもりで。彼が離れていくつもりで。
(なのに……私はまた、この期に及んで……!)
だけど……思いは、真逆で。彼に嫌われたくない。側に居て欲しい。このままずっと、ずっと一緒に。情けない。本当に情けない。自分勝手極まりない。私は……こんな私が……。
(本当に……大っ嫌いだ)
「……そっか。安心した」
「……え?」
「嫌われてはいないようでさ。断られた時、実は内心怖くてねぇ。もしかしたら、実は嫌われていたんじゃないかって、ね」
「そ、そんなことない!! 私だって、本当は!!」
「……本当は?」
「あ……本、当……は……」
私が楓君を嫌っていることなんて有り得ない。本人に言われて、思わず否定した。否定して……目の前に皆が、私が大好きな彼の朗らかな笑顔を見た。優しくて、慈しむような……愛しい者を見るような……そんな、笑顔。
次の言葉が紡げない。今更、私も好きだなんて言えない。でも、今更……否定することも、出来ない。嘘は、つけない。
「……察しが良いと言われるけれど、自分だって心が読める訳じゃない。実際に聞かないと、その本心はわからない。それが本当に本心かどうかもね」
「……」
「それでも、今の君の叫びは……自分を嫌ってないって事だけは理解出来るつもりだよ。自惚れでなければ……きっと、両思いなんだって思った。違っていたら恥ずかしいけどねぇ」
「……っ」
違わない。そう思って首を横に振る。
「良かった。ねぇ、美森ちゃん。自分は、君に自分に好かれる資格はないとは思わない。というかね」
「君が、勝手に自分が君を好きになる資格を作るな!!」
「ひっ!? え、あ、う……?」
「自分の気持ちは、自分のモノだ。例え誰であっても、自分の気持ちを否定させない。誰かを好きになる事を誰かに決めさせない。それが自分が好きな君であってもだ。自分が君を……東郷 美森という女性を好きになる邪魔は誰にもさせない。君が自分を嫌っていたならともかく、両思いだったのだとわかった今、例え過去であろうと障害になるなら越えていく!!」
「か、楓君……?」
「もう一度……いや、何度だって伝える。美森ちゃん。自分は君が好きだ。君が過去を理由に断るなら、過去に縛られているなら、自分はその過去から君を奪う。過去も、誰も追い付けないくらい遠くまで、君の手を無理やりにでも引いて連れていく!!」
「……楓、君……」
彼の右手で腕を強く握られながら。言葉が、心がぶつけられる。そんなにも想ってくれている。好きな人に、こんなにも想われている。嬉しい。嬉しい以外の言葉が見つからない。
大橋での悪夢が甦る。悪夢で見た彼に手を伸ばして……掴んだ、その手が。
『通り過ぎた過去が、人の恋路の邪魔をするな』
「楓……君……」
強く、痛いくらい強く抱き締められる。彼の硬く逞しい胸板に胸が押し潰されて苦しい。だけど……その痛みも、苦しさも、彼が与えてくれているのだと思うと心地良いとすら思う。それだけ想ってくれているのだと……実感出来る。
四国を覆う壁を壊した時の、皆と心中しようとした時の悪夢が甦る。何度も何度も、皆に向かって攻撃をしようとする私が……。
『乗り越えた過去が、彼女を縛るな』
「楓、君……っ!」
彼の背に両手を回す。胸の奥から色んな気持ちが溢れてくる。塞き止めていた想いが、間欠泉のように噴き出す。止められない、止まらない……止めたくない。もうこの気持ちを抑えられない。私は、彼が。私も、楓君が。
過去を見ていた私の手を誰かが引く。無理やりにでも、
「私も、大好き。私を……側に置いてください。私の、側に居てください」
― 新士君。前に、私が言ったことを覚えてる? ―
― どれのことだい? ―
― 私も守る。一緒に頑張るって言ったじゃない ―
― うん……覚えてるよ ―
― だったら、もう私達から離れないで。近くに……側に居て? ―
「ああ……自分と一緒に……同じ名字になってくれ。美森」
「うん……うんっ!」
それは……私達の想いが本当が意味で通じ合った日。私達のあの日の約束が……叶った日。
パタン、と見ていたアルバムを閉じる。あれから10数年経ち、犬吠埼 美森と名を変えた私はあの日以来悪夢を見た事はない。そんな私は今、夢を叶えて念願の歴史学者を名乗れるようになった。世界が元の姿に戻ったことで外の世界は神世紀を生きた私達にとっては歴史的発見や宝の山と言っても過言ではない程。研究は時間を忘れるくらいに楽しく遣り甲斐があるが、決して家族との時間を忘れたことはない。
専業主婦になることも考えたが、夫である彼に背中を押されたのでそのまま進んだ。と言っても、主婦業も勿論している。彼の毎日のお味噌汁やお弁当、おやつのぼた餅を作るのは誰にも譲れない私の役目だ。家事は彼も娘も良く手伝ってくれるので差程苦には感じていない。
そう、私達には娘が1人産まれた。もうすぐ私達が出会った頃と同じ年齢になる娘は、私と同じ黒髪に……ついでに胸も……彼と同じ黄色い瞳を持って産まれた。名前は美花。私の名前と彼の名前から一文字ずつ取って名付けた。そして私は今、そんな美花と休日に一緒にアルバムを見ながら過去を振り返っていたのだ。
「お母さん……昔はかなり面倒臭い人だったのね」
「ふふ、お母さんもそう思うわ」
「でも、昔のお父さんってそんなに熱い人だったんだ。今はそんな風に大声出したり怒ったりも全然しないから意外。お母さんから
「今も昔も、お父さんは変わらず優しいままよ。あの人は娘にも甘いんだから……最近は何とか縛ってもどこで覚えたのか縄脱けまでするし、何か対策を……」
(娘
溜め息を吐きつつ、再び過去に想いを馳せる。こんな面倒臭い女を真剣に、今も愛し続けてくれる愛しい自慢の旦那様。そんな旦那様は大赦に所属し、重役であるそのっちの補佐をしている。欲望や目的が透けて見えるが、例え親友であろうとも渡すつもりはない。
不意に、玄関が開く音がした。愛しい愛しい旦那様が帰って来た音だ。気付けば隣に居たハズの娘の姿が無い……相変わらず父親好きなようで何よりだと思いつつ、親友から貰った栞を……泣きたくなる程に綺麗な白い花の栞をアルバムに挟み、私も玄関へと足を運ぶ。
少し歩けば、目的地は直ぐ。そこに居るのはスーツ姿の、べったりとしがみつく娘を片手で抱き上げている、昔よりも背が高く、かっこ良くなった……私の、私だけの。
「お帰りなさい、あなた」
「ああ。ただいま、美森」
その頃も、今も一緒の朗らかな笑顔を浮かべる……私の愛しい人。
という訳で、美森√でした。甘々で締めると言いましたが、甘々かこれ……? 私の中の東郷さんは他の人への愛情が深い故に悪い方に考えると止まれず、自罰的な考えをしてしまう、そんな人です。悪い言い方をすれば面倒な女。でも愛は人も世界も救うのです。
今回は他のキャラがあまり入れない、ほぼほぼ2人だけの世界になりました。そして中々出ない熱い楓君も登場です。もしかしたらこんな彼には違和感を感じるかもしれませんが、割と本編でもこんな感じで大声や気持ちを出してます。
そして東郷さんと言えば鷲尾 須美。鷲尾 須美と言えばわすゆ。わすゆと言えばエガオノキミヘ。という訳で後半全力で歌詞を意識しました。娘は別の番外編でチラッとだけ出てます。名前は話の通りですが、歌詞の“見返した”の部分も意識。
さて、これにて今年の投稿は終わりです。来年1発目はゆゆゆい本編……もしくはゆゆゆい風自己紹介を本編ゆゆゆいに出てるオリキャラの3人分となります。どちらになるかは待て、次回← 今年中に感想を頂いた場合、申し訳ありませんが来年以降に返信させて頂きます。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしております。皆様、よいお年をv(*^^*)