咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました、ようやく更新です(´ω`)

前回のアンケートにご協力、誠にありがとうございます。僅差で本編ゆゆゆい軸で過去イベから抜粋となりましたので、近いうちに番外編として書く予定です。

最近はもっぱらグラブルとウマ娘な私です。ちょこちょことクラス4を解放出来てきているので嬉しい……最初の十天衆はシエテでした。JPと覇者の証1兆個くらい欲しい(枯渇気味

ゆゆゆはちゅるっとが始まってますね。所属を描いている娘太丸様の絵が動いていて短くも楽しいアニメです。大満開の章も楽しみで仕方ないですね。

それでは本編、どうぞ。


花結いのきらめき ― 31 ―

 「愛媛奪還第1戦、勇者部大勝利~! おめでとう~! どんどん、パフパフ~!」

 

 「皆さん、お疲れ様です。私達でご飯を作って待っていましたよ」

 

 「やったぁ! もうお腹ペコペコー」

 

 「うむ。飯、そして風呂だな」

 

 「いっぱい作ったから沢山食べてくれよな!」

 

 「私も手伝ったよ。皆程美味しくはないかもしれないけれど……」

 

 「ふふ、そんなことないよ神奈さん。あ、うたのんにはお蕎麦あるよ。沖縄そばとラーメンも作ってみたから……本場の味には敵わないけど」

 

 戻ってきた勇者達を出迎えたのは園子(中)、ひなた、銀(中)、神奈、水都。そして彼女達が作った沢山の気持ちの籠ったご飯であった。戦いの後なのでお腹が空いていた勇者達は西暦組と神世紀組に別れて各々の席に座り、美味しい料理に舌鼓を打つ。特に風と楓、新士の大食い組は余程腹が減っていたのだろう、うどんや目の前に置かれた焼きそばを凄まじい勢いで、かつ妙に綺麗な仕草で食べている。

 

 因みに、神奈は他の4人から教わりながらそれぞれの料理に手を加えている。少し焦げた卵焼きや麺類の上に乗せるのであろう形が歪なかき揚げや天ぷら等は彼女が高温の油におっかなびっくりしながら作ったもののようだ。ただ、友奈達が食べている肉ぶっかけうどんの肉の味付けや量の調整は何故か4人を越えており、調理時に全員が首を傾げていたそうな。

 

 「では、食べながらで良いので聞いて下さい。まず、愛媛での初戦は我々の勝利です」

 

 皆が作ってくれた5人に感謝しながら美味しく食べている中、ひなたが話し始める。彼女の言うとおり、愛媛での初戦は無事に勇者部の勝利で終わることが出来た。今後はこのまま愛媛に存在する敵陣営へと攻撃を仕掛けていくことになる。が、解放した香川が再び占領されないように守ることも必要となってくると。

 

 「そうね、むしろ難しいのはここからかも。攻撃と防衛を両立させないといけないから」

 

 「なーに、難しいほど燃え上がる! それが、タマ魂ってもんだ! ご飯を食べ終わったら、すぐに次の地域に攻め入るぞ!」

 

 「先陣切るのは、この若い方の銀にお任せを!」

 

 「お前ご飯抜きな」

 

 「ああっ! 銀さんそんな殺生な!」

 

 「君も懲りないねぇ銀ちゃん。また爆発に巻き込まれても知らないよ? でも、まだ仕掛ける訳にはいかないんでしょう? ひなたさん」

 

 「その通りです新士君。球子さんと銀ちゃんも落ち着いてください。攻撃を仕掛けるのは、神託が下ってからです」

 

 風が今後の動きの難しさに眉間に皺を寄せるが、むしろその方が燃えると球子、そして銀(小)が張り切る。その際にいつものノリで言ってしまった彼女の背後に素早く移動した銀(中)が銀(小)の前から用意したご飯を取り上げていく。無論、呆れながら直ぐに返したが。

 

 そんな2人のやり取りに苦笑いしつつ、新士も自分も先陣にと立候補する。が、これまでの戦闘からそうはならないだろうとひなたに問いかけるとひなたは頷き、そう告げる。

 

 これまでの戦闘において、攻め込むタイミング等は全て神託が下ってから行動している。神託は下るのはその時こそが好機であり、それ以外では危険が大きい為だ。次に神託が下るまでは攻め入ることはない。なので、勇者達はしっかりと休養を取るようにとひなたは締め括った。

 

 「む~、もどかしいな……」

 

 「自分達も爆発型なんて初見の敵と戦ったんだから休息は必要だよ。バリアを張って突撃なんてあんまりやりたくもないしねぇ」

 

 「んぁ、なんでだ? 攻撃を防ぎながら進めるしバーテックスも倒せるしで便利じゃないか」

 

 「あれは小型のバーテックスだから倒せただけだよ。確かに自分の武器は“勇者の光”だからバリアそのものにも攻撃力はある。だけどそれは他の攻撃に比べれば遥かに低いんだよ」

 

 現に、バリアでバーテックスを倒したと言っても数秒程の時間が掛かっている。それもバリアを押し付けた……向こうからぶつかってきた……状態でだ。これはつまり、倒せないことはないが光を直に数秒当て続けなければ倒せないと言うこと。それも小型相手にだ。もしこれが中型なら更に時間は掛かるだろうし、大型なら更に掛かり、以前戦った超大型など倒せるかもわからない。それなら普通紙武器や光を飛ばして攻撃した方が遥かに早い。

 

 更に言えば、バリアを張ったまま突っ込めば確かに敵の攻撃を気にしないで済む。だがそれはつまりバリア越しとは言え攻撃を受け続けている訳だから解除してしまうとそのまま攻撃が殺到することになる。つまり、敵の攻撃が止むまで、もしくはぶつかっている敵が居なくなるまでバリアが解除出来なくなり、楓自身身動きが出来なくなるのだ。

 

 「現に、1度自分はそれが原因で……まあちょっと大変なことになってねぇ。今回は皆が居るからなんとかなると思って突っ込んだけど、本来ならやらないんだよ」

 

 「ふーん。やっぱそう上手い話は無いんだな」

 

 ちらりと友奈の方を見て言葉を濁しながらそう締めくくる楓。同時に、園子(中)と銀(中)を除く勇者部の6人の脳裏に浮かぶのは現実世界での総力戦。友奈と自身をバリアでレオ・スタークラスターの攻撃から守っている時にそのまま内部に取り込まれてしまった時のこと。今は乗り越えたとは言え、あの時の恐怖は友奈にまだ残っているし、他の5人も苦い思い出としてまだ刻まれている。

 

 だが、それを乗り越えたから今こうして沢山を仲間と共に過ごしている。まだまだ戦いは続くだろうが、それも過去と同じように乗り越えていけるだろう。そう思いながら、勇者部は……そして勇者と巫女達は愛媛の戦い初勝利の余韻と共に楽しい食事を続けるのだった。尚、沢山あった料理は無事に完食したことを告げておこう。主に3人が理由で。

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方、勇者部の部室にはまだ明かりが点いていた。先程の賑わいが嘘のように静かなそこに居たのは杏1人。その視線の先にあるのは机の上に広げられた地図。それも今後の戦いの場となる愛媛の地図であった。

 

 (愛媛は土地が広いから拠点との距離に問題が……うーん……カガミブネは東郷さんが居るし、楓さんの絨毯もあるし……)

 

 「何やってるの? 杏。1人で部室に籠って」

 

 「ああ、夏凜さん」

 

 その地図を見ながらうんうんと1人色々と考えている杏に後ろから声を掛けたのは私服姿は夏凜。振り向いた杏は彼女に返事をした後に机に向き直り、夏凜は隣まで行ってその地図を見下ろす。隣に来た彼女を見た後、杏は地図を指差しながら先の質問に答えた。

 

 「愛媛の土地を調べていたんです。敵陣地を知ることは、戦いの役に立つかと思って。夏凜さんこそ、なんでここに?」

 

 「ロードワーク終わって帰ろうとしてたら、部室の窓に人の姿が見えたから。よーし、じゃあ私も手伝うわ。愛媛のこと調べるの」

 

 「え? でも、トレーニングが終わったばかりで疲れてませんか?」

 

 「全っ然平気。ロードワークなんて私にとっては準備運動みたいなものよ」

 

 「わ、凄いです。夏凜さんの基礎体力の高さは、やっぱり抜きん出ていますよね」

 

 「私は完成型勇者だから」

 

 「ふふっ、前から思ってましたけど……夏凜さんってその言葉に拘りますよね。“完成型”って」

 

 杏の脳裏に浮かぶのは、双剣を手に樹海を動き回りながらバーテックスを殲滅していく夏凜の姿。日常でも鍛練や勇者の誰かと組み手をしたりして自己研鑽に余念が無く、戦いでは己のことを“完成型勇者”と自信満々に口にしてはその自信と完成型勇者に相応しい獅子奮迅の勇姿を見せ付ける。そんな姿はどちらかと言えばインドア派であり、戦うことも決して好きではない杏にとっては純粋に格好いいと思えた。

 

 「まあね……色々あったから。勇者になるまで……」

 

 何気ない疑問……いや、疑問ですらない只の感想だったのだが、苦笑いと共に返ってきたのはそんな言葉。その言葉に対して不思議そうに聞いてみると、彼女は思い出すように目を閉じながら語ってくれる。

 

 “勇者”。西暦とは違い、神世紀ではその存在は公にはなっていない。だがこの四国と人類、そして神樹を守る存在として確かに存在し、勇者となる為には資質が必要。夏凜以外の勇者部の7人は神樹により選ばれたが、夏凜は他にも居る勇者“候補”の中から厳しい鍛練の末にその座を勝ち取った。

 

 そう、勇者候補は他にも多く居たのだ。そして夏凜は、その多くの中から1人勇者となれた。その背中には、勇者になれなかった少女達の意志を背負っている。彼女達の分まで勇者として……“完成型勇者”として戦うのだと。決して軽くはないその思いを聞き、軽い気持ちで聞いて良いことではなかったと暗くなる杏……だが、そんな彼女の気持ちを吹き飛ばすように、夏凜は笑った。

 

 「さぁ、やるわよ! 愛媛の地図と地形図はこれ?」

 

 「……はい! じゃあ、宜しくお願いします!」

 

 その笑顔に夏凜の優しさを感じ、杏もまた笑って地図に向き直る。この後2人は真面目に、だがどこか楽しげに見回りの人に注意されるまで皆の為に愛媛の地図に向き合い続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、そこは美森の家の彼女の自室。そこには部屋の主である彼女自身と友奈の姿があった。本来なら部屋中に友奈、そして楓の写真が貼ってあるのだがそれを知るのは本人のみ。その写真は自力で改造を施した部屋の壁の裏へと消えているのだが勿論友奈は気付くことはない。

 

 「東郷さんの部屋に来るのって久しぶりな気がする!」

 

 「ふふ、久しぶりって……前に来た時からそんなに間空いてないよ?」

 

 「そうだっけ? でも何でだろ? 東郷さんの家に来るのも、こうして東郷さんと2人だけで過ごすのも、凄く久しぶりに感じるんだ」

 

 「そうね……もしかしたら、以前よりも色んな人が周りに居て、色んな事が起こっているからかも」

 

 「色んなこと?」

 

 現実には居なかった様々なバーテックスとの戦いのことだろうか? と首を傾げる友奈を微笑ましげに笑いつつ、美森はそれも勿論あるが、それだけではないと語る。

 

 この世界にやってきて、8人だった勇者部の仲間達が2倍以上に多くなった。その大人数で過ごす毎日は楽しく、お祭り騒ぎのように騒がしい。それだけ多くの事が起こっているのだから、こうして2人で過ごす時間が短く感じるのかもしれないのだと。

 

 「あはは、なんだか難しい……」

 

 「ふふ、いいの。難しく考えないで」

 

 「うん。でもね、友達が沢山出来るのは凄く嬉しいし、皆と過ごすのも楽しいけど……やっぱり、こうして東郷さんと2人だけで居る時間は何だか特別なんだ」

 

 「友奈ちゃん……」

 

 勇者部に入る前は、美森がお隣さんとして友奈の家の隣に引っ越してきてからずっと一緒だった2人。讃州中学に入学してからは風に勇者部に誘われ、そこで楓と出会い、2人の妹である樹と出会った。その頃は楓も含めた同級生3人で居る事が多くなったが、やはり家が近所であることから2人でいる時間の方が長かった。

 

 だからだろう、共に居る時間が当たり前だった。他の人ではきっとこうは思わない。そこに()()()()と付くのは共通事項であるが。

 

 「ねえ東郷さん。四国を取り戻したら色んなところに行ってみようよ! 香川だけじゃなくて、遠出して、他の県とかも一緒に行ってみたいな!」

 

 「うん、凄く楽しそう。私と色んなところをこの足で歩いて回ってみたいし」

 

 「よーし、じゃあ早く四国を取り戻そう!」

 

 (うん……きっと楽しい。友奈ちゃんと2人だけでも、皆と行っても……楓君と行っても。男女2人だけというのはまだ早いかもしれないけれど……)

 

 「でも東郷さん、無理はしないでね。何かあったら私が絶対に東郷さんを守るからね!」

 

 「友奈ちゃん……」

 

 いつかお役目を終えて現実に戻ったら、友奈が言うように香川を出て他の県に旅行に行くのも悪くない。それが友奈と2人でも、勇者部全員で行ってもきっと楽しい。そこに楓と2人きりで……と考えるのも、彼に好意を抱く年頃が少女であれば仕方ないことだろう。

 

 そうやって想像を楽しんでいる美森だったが、友奈の言葉でそれも止まる。“守る”、“頑張る”。それはいつだって友奈が、楓が美森に掛けてくれる言葉だ。そして、実際に守ってくれる。頑張ってくれる。その度に美森は思う。言葉にする。

 

 「私だって、守られるだけじゃないよ友奈ちゃん。私も友奈ちゃんを守る……私も、頑張るから」

 

 「ありがとう東郷さん。お互いに守って、守られてだね!」

 

 「うん。守って、守られて……」

 

 そう言って笑い合う友奈の右手と美森の左手が自然と握り合う。そしてもう片方の手が、もう1人の誰かを探すように動き、握るように指が閉じる。きっと思い描く人物は同じで、お互いの気持ちを感じ取ったようにクスクスと笑い声が溢れた。

 

 

 

 

 

 

 再び場所は代わり、そこは犬吠埼邸。日はすっかり沈んで既に夜と言っていい時間になっている。その家のリビングにあるテーブルを挟んで向かい合う風と若葉の姿はあった。

 

 「風さん達や皆には本当に感謝している。最近……いや、この世界に来てからかもな。千景が前よりも生き生きしている気がするんだ」

 

 「それならアタシだって若葉に感謝しないと。夏凜がね、あんたと訓練してる時は楽しそうなのよ」

 

 「私も夏凜と鍛練するのは楽しいぞ! 全力で模擬戦が出来る相手は滅多に居ないからな」

 

 「あはは、あんた達ってそういうところ似てるわよね」

 

 それぞれの時代の四国勇者のリーダー同士の会話。その話題は自分達のことではなくもっぱら仲間の事。お互いに夏凜と千景という、少し気難しいところを持つ仲間が居て、その仲間がこの世界に来て多くの仲間と出会ってからより楽しそうに、生き生きと過ごせている事が嬉しいのだ。

 

 夏凜は1人でやっていた鍛練に若葉や棗を初めとして共に鍛練する仲間が増えて充実しているようだし、千景は高嶋だけでなく銀(小)に神奈とよくゲームをしている。元の世界よりも笑顔が増えたように見えるのは気のせいではないだろう。そうやって楽しげに話しているとリビングの扉が開き、パジャマ姿の樹が入ってきた。

 

 「若葉さん、お姉ちゃん。もう結構遅い時間だけど……若葉さん、泊まっていくんですか? 家、お兄ちゃん居ますけど……」

 

 「ああ、今日はそうさせてもらおうと思う。楓が居ることも問題ないと思っている。ひなたからも“楓さんは大丈夫です”と言われているしな」

 

 「ひなたの基準が気になるわね……樹ももう寝ないとダメよ? 子供は寝る時間。それと楓どこ行ったのか知らない? さっきまでソファに座ってたと思うんだけど」

 

 「むぅ……私子供じゃないもん。中学生だもん。お兄ちゃんは……あ、居た。ソファの上で寝ちゃってる」

 

 「成長期なんだから夜更かしは許しません。大きくなりたいでしょ? で、楓がソファで? 珍しいわね、疲れてたのかしら」

 

 「今回の戦いも楓には助けられたからな。無理もないだろう」

 

 樹が遅い時間にも関わらずまだ居る若葉を見て泊まるのか問う。姉妹だけならばまだ女同士と言うこともあってあまり気を使う事もないだろうが、この家には男である楓が居る。気心知れた仲間とは言え異性が居る家に泊まるのはどうだろうかと言う気遣いだったが、若葉はあっさりとそう言ってのけた。ひなたからのお墨付きもあるようで、異性が居ることもそれほど気にしていないらしい。

 

 若葉大好きなひなたがOKサインを出していると聞いてその基準が気になる風。それはさておき、成長期の妹の夜更かしが許せないので寝るように促しつつ、実は先程までソファに座って本を読んでいた楓の姿がいつの間にか見えなくなっているのでその所在を妹に聞く。普段なら部屋に戻る時には一声掛けるので、それが無かったのが気になったようだ。

 

 姉に言われてソファに寄って見ると、そこには読んでいた本を腹の上にしてソファに横たわりながらすやすやと寝息を立てる兄の姿。腰程の長い髪が床に垂れてしまっており、寝相は悪くないとは言え少々だらしない。そんな兄の珍しい姿に姉妹共々少しばかり驚いて居ると、若葉が苦笑いしながらそう言う。

 

 実際、戦いにおいて楓の存在は大きい。カガミブネが出る前も後も樹海の移動に便利な絨毯の存在、空を自由に飛べる為に制空権を奪い、遠距離組の空からの援護と視野の確保も出来る。その遠距離組の回避と防御を絨毯の操作で担いつつ自身も援護に参加し、戦況を良くする為に知恵も絞る。

 

 更に今回は途中の敵の爆発から仲間達を1人で守りきり、親玉の懐に入り込めた。光の操作にイメージ……頭を使う為、普段以上に働かせていたであろうことは想像に難くない。彼1人だけという事ではないが、肉体的、精神的な疲労はどうしてもあるのだろう。それこそ、着替えもせずに読書の途中で寝落ちてしまうくらいには。

 

 「ま、仕方ないか。楓を部屋に運んで来るわ。樹ももう自分の部屋に行って寝ちゃいなさいな」

 

 「はぁい。分かった、もう寝る」

 

 「若葉はどうする? 樹の部屋で寝るか、アタシと一緒に寝るか。流石に今から空き部屋の用意するんじゃ時間掛かるしね。あ、楓の部屋は止めといた方が身のためよ? 絶対園子が聞いてくるから」

 

 「想像出来るのが恐ろしいな……というか、流石に楓とは言え異性と床を共にする気はないぞ。風さんと一緒で頼む。話したいことがまだあるしな」

 

 「ならばよ~し! 今宵は夜通し語るのじゃ~。という訳で、先にアタシの部屋で待ってて。よいしょっと」

 

 「ああ、分かった……いや力持ちだな風さん……中学生とは言え男1人抱き上げるとは」

 

 「じゃあおやすみなさいお姉ちゃん、若葉さん。お兄ちゃんもね」

 

 「「おやすみ、樹」」

 

 楓の持つ本をテーブルの上に置き、ひょいと横抱きに持ち上げる風を見て驚愕する若葉。確かに楓はまだ中学生であるし身長も風よりは僅かに小さい。が、それでも日々のトレーニングで筋肉も付いていて相応に重い筈なのだが彼女はそれを感じさせない。姉のそんな姿に馴れているのか樹は特に驚いた様子もなく、挨拶をして自室へと向かっていった。

 

 この後、風と若葉は彼女の部屋にてリーダーミーティング……という名の恋バナを(風から一方的に)することになり、若葉は都合4度目となる風の自分のチアリーダー姿に惚れた男子が居て云々かんぬんの話を聞かされることになる。そうして話し疲れ、聞き疲れた2人はそのままベッドの上に横たわって眠ってしまった。占いをしていて夜更かししていた樹はそれを見て呆れながら2人に布団を掛け……占いの結果を思いだし、難しい表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 「ああ、若葉ちゃんはちゃんとお風呂に入ったり歯を磨いたりしているでしょうか……夜更かししたりしてないでしょうか……」

 

 「心配し過ぎだと思うよひなたちゃん……若葉ちゃんも小さい子供じゃないんだから」

 

 枕を抱いて心配そうな表情をしながらぶつぶつと呟くひなたに苦笑いを浮かべる神奈。2人が居るのはひなたの部屋であり、そこに神奈がお邪魔している。先程まで2人は水都と歌野の諏訪組も合わせた4人でトランプやボードゲーム等で遊んでいたのだが、遅い時間になってきたので諏訪の2人はそれぞれの部屋に戻り、2人だけになるや否やひなたがこうなった。尚、遊びの結果は当然のように神奈が惨敗である。

 

 「確かに若葉ちゃんももう子供ではありませんが、こうしてお友達の家に泊まりに行ったことなんて殆ど無いんです。なので羽目を外していないか心配で心配で……」

 

 「楓くん達の家だっけ。ひなたちゃんは男の子の彼が居るのはいいの?」

 

 「楓さんは大丈夫です。確かに若葉ちゃんはとても、それはもうとっても魅力的ですが、彼はなんというか……年頃の男の子というより、年配のお爺さんという感じがして。なのであまり間違いが起こるという心配は無いんです」

 

 (す、鋭い……)

 

 心配だ心配だとぎゅむぎゅむと枕を強く抱き締めながら何度も呟くひなたに1つ屋根の下に男子が居るのは問題ではないかと聞くと返って来たのはそんな言葉。その理由にあははと苦笑いを浮かべる神奈だが、たらりと冷や汗を流していた。

 

 楓が前世はお爺ちゃんであり、高次元からの転生者であることを彼女は知っている。が、それは彼女の正体が“神樹”であるからであり、それ以外が知る者は居ない。仮に知られたところでどうなるという訳でもないが、ひなたのようにちょくちょく勘が働く存在が居るとどうしても驚く。普段は風に似た顔の普通(?)の男の子なのだから。

 

 「若葉ちゃんから連絡も無いですし……ああ、ちゃんと歯磨きはしたでしょうか。お風呂に入ったでしょうか。しっかりと髪を乾かしたり、夜更かししたり……」

 

 「それさっきも言ったよね……ほら、言ってる本人が夜更かししてたらダメだよ? そろそろ寝よう、ね?」

 

 「うう……はい」

 

 まだおろおろしているひなたを宥め、手を引いてベッドに誘導する神奈。彼女がベッドの奥に潜り込んだ事を確認し、部屋の電気を消して自分も同じベッドに潜り込む。実は若葉が泊まるつもりで犬吠埼邸に行ったように、元々神奈もひなた部屋に泊まっていく事になっていたのだ。因みに、この事を知っていた諏訪組は感化されたのか戻ってから同じように歌野の部屋に水都が泊まりに行っている。

 

 「……ふふ」

 

 「……? どうしたの?」

 

 「いえ……何だか懐かしいと思いまして。最初の頃は私達しか居なくて、こうして同じ部屋で住んでましたから」

 

 「あ……そうだね。そんなに前の事でもないのに……不思議だね」

 

 お互いに横を向いて顔を合わせていると不意にひなたが小さく笑いだし、彼女の言葉に神奈も笑みを浮かべて同意する。今でこそ20人に及ぶ勇者部だが、当初は元々の8人にひなたと神奈を加えた10人だけだった。そして異なる時代、場所……次元と言ってもいい……からやってきた2人は大赦に用意された住まいに2人で住んでいたのだ。

 

 2人はそのまま、その時の思い出を語り合う。人間の営みを知識として知りつつも行動に移したことのない神奈はひなたから見てどこかの箱入り娘か世間知らずに見えた事だろう。だが彼女は呆れも面倒臭がりもせず神奈の好奇心や純粋な疑問から来る質問に丁寧に答え、時に体験させて教えた。特に髪や肌の手入れ等は女の子の嗜みだと真剣に。

 

 今でこそ簡単な料理は作れるようになったしその他家事も覚えた神奈だが当時はそれらの事もまるでやり方が分からなかった。なので基本的にひなたがやり、申し訳なく思った神奈も教わりながらやっていた。この不思議世界で最もお世話になった人物を挙げるのなら、神奈は真っ先にひなたの名を挙げるだろう。

 

 だが、ひなたもまた神奈に感謝していた。もし神奈がいなければ、彼女は小学生組がやってくるまで1人でどこかに住むことになっていただろう。しっかりしていてもまだひなたは中学生の女の子なのだ、表に出さずとも寂しさは感じていたハズだ。だが神奈が居たからこそ、1人ではなかった。若葉達が居ない事に寂しさは感じても、決して孤独に夜を過ごす事はなかった。

 

 「……ひなたちゃん」

 

 「……神奈さん」

 

 ありがとう、おやすみなさい。最後にそう言葉を交わして、2人は目を閉じる。お互いの右手と左手を間に伸ばして重ね、自然と笑みを浮かべる。少しすれば2人から小さな寝息が聞こえ始め……その顔は、とても安らかで……幸福(しあわせ)そうな寝顔であった。

 

 

 

 

 

 

 各々が平和な時間を過ごしていた翌日に、敵はやってきた。カガミブネで愛媛の樹海に跳び、敵の場所まで楓の絨毯で向かう。その先に、いつものように大量のバーテックスは居た。各々がいつものように戦闘体勢を整えていた頃、樹は前夜の事を思い返していた。

 

 (昨日の夜のタロット占いの結果……出たのは“吊るされた男”、“恋人”、“戦車”……それから“剣”。どれも“試練”って意味を含んでる。それに“剣”は……“大事、大切なものが奪われる、失う”って意味もある……何だか嫌な予感がするよ)

 

 「よし、愛媛奪還戦2回目! 行くわよ!」

 

 「……楓、園子、どうだ?」

 

 「う~ん、やっぱり見られてる気がする~」

 

 「そうだねぇ。それに、前より近くで見ている気がするよ。バーテックスじゃない、と思うけど……」

 

 樹が難しい顔をし、風が戦闘開始の声を上げる隣で若葉が園子(小)と絨毯の上の楓に問いかける。無論、愛媛に来てから感じた視線の事だ。そして2人も彼女同様に視線を感じており、周囲に目を向けながら頷く。だがやはりその視線の主らしき存在を見つけられず、ひとまずこの戦いを制する為に戦闘を開始する。

 

 そうして始まった2回目の愛媛奪還戦。だがその戦いは最初から1回目の時と……否、これまでの戦いとは違っていた。

 

 「前回よりも敵が多いししつっこいぞ! うりゃああああっ!!」

 

 「2戦目だもの、相手もこれ以上陣地を奪われたまるかって思ってんで……しょ!!」

 

 「さっきから楓達が狙われている……いや、東郷と楓が狙われている……?」

 

 「えっ!?」

 

 「うん、私もそう思う……てやああああっ!! 楓くんと東郷さんも、須美ちゃんと杏ちゃんも私が守る!!」

 

 「今回は本当にしつこいねぇ……っ!」

 

 これまでよりも敵の数が多い。大量の敵と戦う事に馴れている勇者でもはっきりとそう確信出来る程、その数は凄まじかった。さらに言えば、その執拗さもこれまで以上。1度狙った獲物は逃がさないとばかりに最初に狙った勇者に向かい、光と消える直前まで攻撃し続けた。

 

 何よりも違っているのは、バーテックスが狙っている勇者が上空組に集中していること。正確に言えば、棗と友奈の言うとおり楓と美森に集中しているのだ。必然的に絨毯で行動を共にしている他の3人にも攻撃が集中している。楓が普段よりも消極的にしか反撃に移ることが出来ず、思わず苛立ちの声を呟いて回避行動に専念しなければならない程に。

 

 そしてここに来て絨毯の弱点が露呈する。それは遠距離組を一纏めにしている為、集中的に狙われると射程距離の問題で地上組からの援護が届きにくいことだ。故に楓は普段よりも低く飛ぶ事で地上組の援護が届きやすいようにしているのだが、それ故に制空権を上手く得られないで居る。これは光の絨毯という移動手段を得てから初めての事であった。

 

 「どうして私と楓君が……?」

 

 「もしかして、“巫女”だからではないでしょうか? 私達の移動手段“カガミブネ”の要である巫女が居なくなれば、戦略上圧倒的に有利ですから」

 

 「じゃあ楓さんは、この絨毯の飛行能力が厄介だから……? でも、なぜ急にそんな……人間が考えるような戦いをするように?」

 

 須美の疑問は当然の事だろう。これまでの戦いでは確かにバーテックスが戦術のようなモノを使った事があるが、ここまで計算されたような動きではなかった。少なくとも、一部の勇者を重点的に狙うような事はない。また、消滅するギリギリまで攻撃してくるような事も。

 

 初めてだらけの戦況。それでも何とか対応し、疑問を口にしながらも迫り来るバーテックスの殲滅をしていく勇者達。そんな時、須美の疑問に答えるかのように勇者達の耳に()()()()()()()()が届いた。

 

 

 

 「それはね、私が命令しているからだよ」

 

 

 

 咄嗟に、各々が目を向ける……友奈、そして高嶋に。何せ今聞こえた声は彼女達と同じだったのだから。しかし当然と言うべきか2人はそんな事は言っていない。ならば誰が……と目を動かした先に、その少女は居た。そしてその姿を見た誰もが驚きの表情を浮かべた。

 

 赤と黒が目立つ勇者服と思わしき服装と右腕を覆う程の大きさの手甲のような装備。しかし、勇者達はその格好に驚いた訳ではない。驚いた理由はただ1つ……その背格好が、そして顔が、棗のような褐色の肌である事を除けば友奈と高嶋、神奈と同じだったからだ。

 

 「ばぁーん。皆、初めまして……だね」

 

 「「4人目!?」」

 

 「どうだろうね……えっ、4人目?」

 

 バーテックス達の中心でフレンドリーに手を振る少女。思わず叫ぶように驚いた友奈達の言葉に浮かべたきょとんとした表情もまた、彼女達にそっくりであった。




原作との相違点

・ちょくちょく台詞が違う(今更

・DEifと違って楓が居る(原作ではない)

・若葉のお泊まりはひなた公認

・神奈とひなたの会話

・占い結果に“剣”が追加

・4人目発言にびっくり○嶺ちゃん

・その他その他その他その他その他その他ソナタその他その他



という訳で原作12話の半分までというお話でした。地味にDEifでも書いた部分なのでかき分けにちょっと悩みました。

原作でも色々語り合う部分ですが、楓や新士、神奈という存在が居るのでちらほら台詞や心境が違います。原作ゆゆゆいではこの辺りから不穏な空気が流れ始め、ステージも一筋縄では行かなくなってくるんですよね……○嶺ちゃんの右手の装備、初見はパイルバンカー的な何かだと思ってました。ちょっと「これが私の切り札だ!」って言って欲しい←

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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