咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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大変長らくお待たせしました。ようやく更新です(´ω`)

機種変した為、扱いに馴れずやたら時間掛かりました。何が辛いって削除長押ししたら凄い速度で文字が消えるんですよ……何回心折れそうになったか。

アプリのガチャはどれもこれも可もなく不可もなし。ゆゆゆいで園子(小)のUR、グラブルで光ルシオ、ファンリビで春虎が当たったくらいですかね。fgoも乳上当たってくれないかな←

モンハンライズを遂に買いました。よく使うのはライトボウガンと操蟲棍です。翔蟲と操竜はまだ馴れませんね……。

今回もまたまた赤嶺ちゃん登場回。そして……それでは、どうぞ


花結いのきらめき ― 33 ―

 突然部室の中に吹き荒ぶ風と共に現れた赤嶺。彼女を見た者達の反応は多くが困惑であり、数人が警戒心を持って睨むように見ている。中でも楓や夏凜、雪花等はいつでも変身出来るようにかポケットの中の端末へと手を忍ばせている。そんな視線の先に居る赤嶺と言えば、軽く全員参加視線を向けた後に神奈を注視する。

 

 (顔といい髪といい、確かに私達と同じ“友奈”みたいだね……おかしいなぁ、カミサマはこの世界に居る“友奈”は私を含めて現状は3人だって言ってたんだけど……カミサマが黙ってた? それとも気付かなかった?)

 

 カミサマ……造反神からある程度情報を貰っていた彼女の知識に無い、4人目の“友奈”。彼女にとってイレギュラーと言える存在に意識が向くのは仕方ないことだろう。しかし、その意識も直ぐに他の皆へと向けられる。友奈が声を掛けたからだ。

 

 「ど、どうも……って、あ、赤嶺さん!」

 

 「あはは、上里 ひなたと、4人目の“友奈”を見たくて着いてきちゃった。うん、若葉さんと並ぶとお似合いだよ」

 

 「お似合いって……そんな事言われなくても自覚しています」

 

 「……流石、強力な伝説を残した人だね……」

 

 【(多分、ろくな伝説じゃないんだろうなぁ……)】

 

 考えを1度止め、友奈に笑いかけながらこの場にやってきた……否、着いてきた理由を述べる赤嶺。若葉と並び立つ……というよりは若葉が庇うように立ってその少し後ろに居るひなたを見てそう言うと、彼女は至極真面目な顔をして即答してみせた。赤嶺がその速さに思わずというように口元を少しひきつらせながらボソッと呟くと、そう広くない部室に居る為に全員の耳に届き、チラリと横目にひなたを見ながら大半が内心でそう思った。

 

 「いい度胸してるわねーチミぃ。この勇者でみーっちりの勇者ルームに乗り込んでくるなんて」

 

 「およ、もしかして私を捕まえようと? 無理だよ、捕まえる事は出来ない。私も攻撃意思はないけど」

 

 「……どうにも分からないわ。敵と言いながら、今はあまり貴女から緊張感が伝わってこない」

 

 「今は戦う気ないから。私はね、試合開始ってなったら勝つ為に一生懸命になるけれど……ゴングが鳴る前から襲い掛かったりはしないよ。今来ているのは挨拶の続き」

 

 「樹海化していない今は戦闘意志が無いということか……」

 

 「はい!」

 

 「何故かいい返事になったぞ、読めない奴だな。2タマポイント没収だな」

 

 (ふむ……棗さんが“自分の方を向いていた気がする”と言ってた事といい、彼女の言葉に対しての返事といい、樹海で言ってた“お姉様”とやらは棗さんの事っぽいねぇ……だけど彼女は確か神世紀序盤から来たと言っていたから西暦からやってきた棗さんとは年代が合わない……棗さんは序盤まで生きていて、そこでの知り合い? それとも……)

 

 勇者服姿とは言え単身で敵の本拠地でもある部室へとやってきた赤嶺に敵意を向ける雪花。彼女は端末に手を伸ばしたままジリジリと近付いており、その意図を悟った赤嶺は手を振りながら気負う事なく言ってのけた。そんな彼女が言った通り、彼女自身から戦意といったモノが感じられない事に困り顔の美森。それは他の何人かも同じのようで、同じように困り顔を彼女へと向けている。

 

 棗が赤嶺の言葉を簡単に纏めると何故か本人は途端に満面の笑みで元気良く返事を返す。そんな彼女に球子がまた謎のポイントを没収していると、真剣な表情をした楓が樹海での出会いから今この瞬間までの赤嶺の行動言動を考察していく。そうした空気をモノともせず、再び彼女が口を開く。

 

 「1つ知っておいて欲しいけど、私は貴方達を倒す気はあるけど戦闘で殺めようとは思ってない」

 

 「私達を殺める気はなくても、神樹様が分裂してしまっては我らにとっても死活問題ですが?」

 

 「……まあ何が言いたいかって、対人だからって暗くならず全力でぶつかってきてねってこと……ふふふ。私が敗けを認めれば、私達“友奈”に関する謎も造反神様の正体もぜーんぶ教えてあげるよ?」

 

 (ぜーんぶ教えてくれそうな……というか知ってそうな人はこっちにも居るけどねぇ)

 

 (楓くんが確信を持った目でこっちを見てる……っ! でも教えてあげられないんだ、ごめんなさい!)

 

 「だから存分に腕を競い合おうよ。こちらの数の不利は疑似バーテックスで埋めるから」

 

 敵側とは言え勇者……同じ人との戦闘ということで嫌な想像はしていたのだろう、赤嶺が殺し合うつもりはないと言えば誰もがホッと息を吐く。しかし実際に殺し合う事はなくとも、仮に造反神側が勝利して神樹を構成する神々がバラバラになれば結果的に勇者達だけでなく四国そのものが滅び、人類は死に絶える。そうなっては意味が無いし、結局は生死が掛かっているのではないか。

 

 そんな須美の疑問に答える事はなく、彼女はただそう言って笑う。“友奈”の謎も造反神の事も知りたいのだろう先程よりもやる気が出たように見える勇者達の中で、楓だけがそのぜーんぶを知るであろう神奈……神樹へと目を向ける。その視線を感じた神奈は目で謝ると彼も予想はしていたので苦笑いで頷いた。

 

 「……なんだか不思議な人だね。まるで対人に関しての不安を取り除くように……」

 

 「あたしはただただ友奈達と比べて掴み所が無い奴だなぁとしか思えんけどな……」

 

 「じゃあそういうことでグッバーイ。次の神託の日……樹海化がゴングだよ。そしたら全力で行くから」

 

 「うん、まあ逃がさないんだけどねっ! 召し取ったりぃ! ほら、皆で押さえて押さえて!」

 

 「任せて雪花ちゃん。ちょっと手荒にいかせてもらうよ」

 

 「おお? 楓くん思ったより筋肉あるんだね……でもまあ無理なんだけどね。戦いの決着はしっかりと樹海で着けようよ。じゃあね」

 

 「っ、また突風!?」

 

 園子(中)の言葉に銀(中)が首を横に振りながら呟く。何度も言うが、基本的に勇者達は良い子……善良であり、バーテックスのような化け物相手とは違って人間と戦うことなんて殆ど無ければ訓練以外でその力を振るうことに躊躇いもある。何せ自身よりも巨大な相手を屠るような力だ、人間相手に振るおうものなら相手がどうなるかなど想像に容易い。

 

 故に、敵である赤嶺相手であっても実際に本気で戦えるかとなると難しい……が、それも彼女の言葉である程度は払拭される。敵であるならそういった躊躇はむしろプラスに働く筈だが、わざわざ彼女はその有利を捨てるような真似をした。園子(中)の疑問も当然と言える。

 

 それじゃあと赤嶺がこの場から去るような事を言うと、いつでも動けるようにしていた雪花が真っ先にその左手を押さえ込み、楓も続いて右腕の関節を極めるように押さえる。他の者達も直ぐに、或いは慌てて足なり肩なり腰なりとしがみつくように押さえる……が、現れた時も同じように部室に風が吹く吹き荒び、誰もが思わず目を閉じてしまい……次に開けた時には、数人がかりで押さえていた筈の彼女姿はどこにもなかった。

 

 「逃げられた……足をしっかり握っていたと言うのに……」

 

 「嵐のように去っていったわね……なんなのよいったい」

 

 千景が悔しそうな呟く。その隣に居る風の疑問には、誰も返せなかった。

 

 

 

 

 

 

 「それじゃあ、赤嶺 友奈に関しては樹海で捕まえて話を聞くことで対応、ということで」

 

 「了解した、それが最善だろう。今、細かい事を考えていても仕方ない」

 

 「敵である事は間違いないと思うんだけど……一応“友奈”な訳だし、非道な感じには見えないのよね」

 

 「早めに捕獲して色々と教えてもらいましょう。そうしましょう。決まり!」

 

 「私達に関する謎だって、高嶋ちゃん、神奈ちゃん」

 

 「なんなんだろうね~。気になるね、結城ちゃん、神奈ちゃん」

 

 「そ、そうだね、結城ちゃん、高嶋ちゃん」

 

 「でーんと構えてる辺り流石だな~。須美、あたし達も友奈さん達の力になろうな」

 

 「ええ、それは勿論。銀、赤嶺……さんは競い合おうと言ってきたのだから遠慮はしなくていいからね」

 

 赤嶺が去った後、突風のせいで紙やら椅子やらが散らかった部室を皆で綺麗にして後に彼女についてあれこれ話し合い、纏めとして“樹海で捕まえて色々聞き出す”という事に決まった。というよりはそれ以外に無い。相手の居場所は分からないし、仮にまだ未解放の場所に本拠地があるのならどのみち行けないのだから。

 

 そうして真剣に話し合っている横で肝心の友奈達は自分達の謎についてわくわくとしている。小学生組は悩む素振りもなくむしろ楽しげにしている彼女達にどこか頼もしさを覚えつつ、自分達も中学生達の力になろうと改めて決意。人間相手に、それも知り合いと同じ顔相手に力を振るえるか? という懸念はあるが、多分大丈夫だろうと4人で話ながら結論付けていた。

 

 「私なんて敵である以上、気にせず槍を連射しちゃうけどな~。ねぇ? 棗さん」

 

 「うん、普通に戦うが、対人なんだから少しくらいは相手を気にすると思う」

 

 「そ、そうだよね勿論。あ、さっきの発言は取り消しで。私の爽やかなイメージが危ないから……っとそういえば。かーくん」

 

 「うん? なんだい?」

 

 「ほら、樹海であの子に1人だけ連れてかれたでしょ? 何かされたりしなかった?」

 

 「ああ、まだ話してなかったねぇ。特に別に何かされた訳じゃないよ。ただ……仲間にならないかって勧誘されてねぇ。何でも、造反神が自分を仲間にしたいんだとさ」

 

 【造反神が勧誘!?】

 

 本心か冗談か闇を感じさせる事を言い、棗に同意を求める雪花だったが非情にも返答は求めたモノとは違ったらしい。慌てて前言撤回を図るが、何とも言えない空気が広がっている。それを払拭する為と、樹海から今まで聞きそびれていた、赤嶺が楓だけを引き離した理由を聞いてみると、さらりと平然と言ってのける楓に全員が驚く。何かしら目的はあるとは思っていたが、まさか勧誘とは思っていなかったらしい。

 

 「な、なんで楓くんを!?」

 

 「さぁ、そこまでは……ただ、力ずくでも連れていくとは言っていたから、造反神が自分を勧誘……連れてくるように言っているのは本当なのかもねぇ」

 

 「それは、楓君が男の勇者だからかしら……」

 

 「その可能性はあるかも~。でもそれならカエっちだけじゃなくてアマっちも連れていこうとしてもおかしくないけど……」

 

 「楓さんと違って、自分はあんまり視界に入ってない感じでしたねぇ」

 

 「楓、あんたなんか身に覚えとか心当たりとかはないの? あっても絶対あの友奈モドキと造反神になんな渡さないけど」

 

 「と言われてもねぇ……せいぜい美森ちゃんが言った男の勇者であることくらいしか思い付かないけど」

 

 そこまで話し、全員がうーんと考え込む。まさか敵である造反神が勇者を召喚するのではなく勧誘してきていたとは思いもよらなかったのだから。その理由も思い付かない。

 

 「……まあ神様が人間を求める理由なんて、大抵は人間にとってろくでもないことだけどね」

 

 「ろくでもないこと? それってなんですか? 雪花さん」

 

 「そりゃあ……まあ、生け贄とか……後は嫁入り婿入りとか」

 

 「生け贄!? そんなの絶対ダメよ! 婿入りもさせる訳ないでしょ! 楓はまだ中学生よ!?」

 

 「そうだよアッキー。それにカエっちは私がお婿さんに貰うんだから~」

 

 「あんたにもあげないわよ!!」

 

 「落ち着いて風さんと園子、例えばの話だから。実際にどうかはわかんないし」

 

 「そうだな。どのみち仲間を渡す気はない。また勧誘に来ても、力ずくで来ても追い返すだけだ」

 

 (勧誘……“私達”の時から一緒に楓くんの事を見ていたのだから、手元に……と考えるのは別に不思議じゃない。“試練”に当て嵌める気かも知れないし……)

 

 神と言えば神樹、というのか根付いている神世紀の人間である銀(小)は雪花の言う“ろくでもないこと”が思い浮かばなかったらしく首を傾げながら問い掛け、その返答に新士以外の小学生組が驚く。それに加えて風が怒り心頭に立ち上がりながら叫び、園子(中)がぽやぽやと笑って楓の右腕に抱き着きながら言えば風はそれにも怒鳴る。当の本人や周りは苦笑いしていた。

 

 やり取りが落ち着いた後に若葉が強く言えば、仲間達は全員頷いて同意する。好き好んで仲間を敵に渡すような人間はこの場には居ないのだ。そんな中で、神奈は造反神が楓を勧誘する理由について考えていた。

 

 造反神も元は神樹、“私達”である以上彼がこの世界よりも高次元からやってきた転生者であることを知っているし神である以上その魂を求めるのは理解出来る。また、楓の勇者としての能力……主にそのオールラウンドな武器や強化の存在は勇者達にとって心強く、敵にとっては厄介。“試練”の難易度を上げる為だと考えるなら、勧誘……勇者達から楓という存在する取り上げるのも分からなくはない。

 

 そう、“試練”だ。それを知るのは神奈を含めた神々のみ。彼女から見て、造反神側の勇者である赤嶺も知っている……彼の神から聞かされている可能性も充分にある。それにしては神奈の存在を知らない様子だったのは疑問だが。

 

 (ていうか、お願いだから純粋な勧誘であって欲しいよ……だって私の予想だと、造反神って)

 

 (……考えても分からないね。“試練”については彼の神に一存しているし。でも、目的が“試練”に関するものじゃなくて、楓くんそのものだったら……いや、無いよね。だって彼の神は)

 

 話も一段落し、そろそろ帰ろうかという空気になっている時、雪花と神奈は偶然にも同じ事を……造反神の事を考えていた。そして色々と考えた後、これまた偶然にも冷や汗を流しながら思った。

 

 

 

 ((男神の上にお嫁さんまで居た筈だし……))

 

 

 

 男(神)が男(人間)を求めるという、アブノーマルな事になりませんように、と。

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方、寄宿舎の高嶋の部屋。制服から私服へと着替え、各々自由に行動している時分に、彼女の部屋には部屋主に加えて若葉、神奈の姿があった。

 

 「その、本当に大丈夫か友奈、それに神奈も。自分と似た人間が敵として現れて……」

 

 「驚いたけど、赤嶺ちゃん悪い人に見えないし。なんだか少し私に懐いてくれたし」

 

 「私は、高嶋ちゃんと違って戦わない……戦えないから、あんまり気にならないかな。それに高嶋ちゃんと結城ちゃんにそっくりだから、きっと良い子だし」

 

 「神奈ちゃんにもそっくりだから、うん! きっと良い子だよね! きっと色々と事情があるんだよ。だから早くお話したい」

 

 「いや、同じ顔だろお前達……それはともかく、お前は……お前達は本当に優しいな。そうだな、赤嶺 友奈……何か事情があるんだろうな」

 

 話題はやはりというべきか、今日出会った赤嶺のこと。若葉としては同じ顔の人間が敵対するというほぼ遭遇する事のないシチュエーションに高嶋達が参っていないかという心配があった。しかし、当の本人達はさほど気にした様子はない。そもそも敵だ味方だ、という意識があまり無い様で、高嶋は取り敢えずゆっくり話したいという思いが強いらしい。

 

 きっと良い子。そう思える彼女達の姿が若葉には眩しく、そして誇らしい。その2人に感化されたのか、それとも彼女自身もまた優しい心を持っているからか、赤嶺の事も前向きに考える。きっと、敵対せざるを得ない事情が、自分達には言えない理由があるのだろう、と。若葉もまた、高嶋と同じように彼女から好意的な意志があったことを感じているのだから。

 

 「別に私が赤嶺ちゃんの先祖でもいいんだけどね。若葉ちゃんにべったりの園子ちゃん可愛いし」

 

 「格好いいご先祖様に惚れ惚れ~♪」

 

 因みに、この場には3人の他にずっと園子(小)も居て若葉の膝枕を堪能していたりするのであった。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって犬吠埼家のリビング。そこには犬吠埼3姉弟の姿に加え、友奈の姿もあった。話の内容は奇しくもと言うべきか、若葉達も話していた赤嶺の事。理由は当然、高嶋にもしていたように友奈を心配してのことだった。

 

 「友奈、大丈夫? なんだかちょい悪風味な赤嶺が出てきたけど」

 

 「色々と気にはなりますけど、お友達になれる気もしますので、大丈夫です!」

 

 「そーね。相手も競い合おうとか言ってたし、河原で勝負して分かり合う展開を目指しますか。楓は渡さないけど」

 

 「友奈なら、きっとお友達になれるねぇ。あ、骨は拾ってあげるよ姉さん」

 

 「なんでアタシが負ける前提なのよ! ていうかやるのはアタシじゃなくて友奈でしょうが!」

 

 「あはは! お気遣いありがとうございます、風先輩。楓くんもありがとう。よーし、待っててね赤嶺ちゃん」

 

 そんな会話をして、もう遅いからと友奈を楓が彼女の家まで送っていく。幾らこの世界が神樹の中の不思議空間とは言え、中学生の女の子1人で夜道を行かせる訳にはいかない。特に何事もなく送り届け、また明日と挨拶を交わし、帰ってくれば家族3人で少し遅い夕食を食べた。後は風呂に入り、そして眠るだけ……そんな時間帯。そして正にそうしようとパジャマに着替えた楓がベッドへと潜り込む為に膝を乗せた時だった。

 

 

 

 「こんばんは、楓くん」

 

 

 

 窓も扉も締め切った部屋の中に不自然なそよ風が吹き、そのすぐ後に送り届けた彼女と同じ声が背後からしたのは。

 

 「なっ、むぐ!?」

 

 「おっと、ごめんね? 君だけに用事があるから、家の人に気付かれるのは困るんだ~」

 

 振り返った先に居たのは、部室にもやってきた勇者服姿の赤嶺。驚きのあまり声をあげようとした楓の口を素早く右手で塞ぎ、その勢いのままベッドへと押し倒された。右手は左手で押さえ付けられ、右足には左足を乗せられて封じられる。左手で口を塞いでいる手を退けようとするが相手は変身済みで勇者の身体能力と生身では力の差がありすぎる。残った左足だけでは大したことは出来ない。

 

 近くに端末が有れば変身出来たかもしれないが、生憎と勢いよくベッドに押し倒されたせいか枕元にあった端末は勢い良く跳ね、ベッドから落ちるという最悪の事態にはならなかったものの運悪くどう頑張っても手が届かない場所にある。現状、楓が赤嶺をどうにかする方法はなかった。

 

 「夜遅くにごめんね、と言っても10時前だけど」

 

 (……いや、それよりもなぜ自分の部屋に。部室に来たのは戻ってきた自分達を着けてきたのだとしても、ここにどうやって来れた?)

 

 「あっ、どうやって此処に来たか分からない? 実はね、樹海で君だけを皆から引き離した時、カミサマから渡されたカミサマの力を君に刻み付けたんだ。発信器、みたいなモノかな。私も良く知らないんだけどね」

 

 楓の目から彼の疑問を感じ取ったのか、今まさに欲しかった答えを告げる赤嶺。話を聞いた彼の脳裏に浮かんだのは、彼女の攻撃を防御した時の事。彼女の言った事が本当ならば、あの時受け止めた水晶に、或いはそれを通して彼自身にカミサマの力とやらを刻み付けられたのだろう。部室にやってきたのも実は着けてきたのではなく、刻み付けたという力を辿って来たのかも知れない。

 

 「ここに来たのは当然、勧誘の続きだよ。と言っても、このままだと何回誘っても応じてくれないよね」

 

 当然だ、と楓は口を塞がれたまま頷く。その目はしっかりと彼女の目を見ている。睨み付けていると言ってもいい。赤嶺としてもこのまま勧誘を続けたところで彼が応じる事は決してないと理解している。そんな彼女の顔に浮かぶのは……苦笑い。それもどこか憐憫を感じさせるような。樹海や部室で見せていた余裕そうな表情ではない、初めて見せるそのカオに楓は疑問と困惑を浮かべる。

 

 「だから、応じざるを得ないようにするんだって。正直、私はあんまり乗り気じゃないんだけど」

 

 (だったらやらないで欲しいんだけどねぇ……)

 

 「その方法もあんまり……うーん、説明が難しいな。だけど大丈夫、他の皆に害はないよ。心の方までは分からないけど……」

 

 その言葉を聞き、楓の目が先程よりも強く敵意を持つ。西暦の勇者達はまだ深くまで知らないが、神世紀の勇者達……特に同じ時間軸の仲間達は既に心に大きな傷を持っている。乗り越えているとは言え、傷が癒えたという事はないだろう。そんな彼女達に、また傷を負わせるつもりか。また、悲しませるつもりかと、彼の心に煮えたぎるような怒りが沸き上がる。

 

 彼女の右手を掴んでいた左手に先程よりも力が入る。それは痛みが走り、赤嶺が思わず痛みに顔を僅かにしかめる程。それに伴い、口を抑えて居た手の力が僅かに弛んだことで少しだけ、手が離れた。しまった、と彼女は思うがもう遅い。

 

 「姉さん!! ここに赤嶺ちゃんが居る!!」

 

 「……残念、また失敗しちゃった。もう勧誘は諦めるようにカミサマに言った方がいいかな」

 

  「そうしてくれると助かるねぇ……」

 

 家中に響いたであろう彼の大きな声。これ以上の会話も行動も不可能だと判断した赤嶺は彼から離れ、残念そうに呟く。その間に楓は素早く端末を手に取り、いつでも変身出来る準備を整える。彼女がこれ以上この場に居るなら、直ぐにでも変身して取り押さえるか攻撃出来るように。

 

 「だけど……もう1つの方は成功かな」

 

 「もう1つの方……?」

 

 「そう。勧誘はそれ自体が目的だけど、それ以外にも君を狙う理由があったんだ。まあ今はこれ以上言う時間はないけど」

 

 「何を……っ、風が……」

 

 「楓!! 無事!? うっ、これ、部室の時の……!?」

 

 「お兄ちゃん!? わわっ、凄い風!?」

 

 

 

 「じゃあねー。もう1つの理由は……次の戦いの時に分かると思うよ」

 

 

 

 ドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきたからか、赤嶺は楓の左手を……樹海で殴った部分と端末を見て呟いてから言葉を切る。彼が再び問い掛けようとした瞬間に部屋の扉が開き、血相を変えた風と樹が入ってきた瞬間に目を開けるのも難しい突風が部屋に吹き荒んだ。そしてそんな赤嶺の、どこか哀れみを感じさせる声色の言葉が聞こえた後に風が止み……3人が目を開けると、そこに彼女の姿はなかった。

 

 (勧誘に乗ってこっちの味方になってくれたら……まだ()()()()が効いたかもしれないのに……男の子にはちょっと、いや結構可哀想……かな)

 

 去り際に赤嶺がそんなことを思っていたことを、3人は知る由もなかった。そして、何があったのかと姉妹に詳しく説明をする楓もまた……自身の端末の勇者アプリに、一瞬ノイズが走った事に気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 「そうか、赤嶺が直接……その刻み付けられた力というのが理由なら、また楓の所に現れるかもしれないな」

 

 「じゃあ私がカエっちの護衛をやるんよ~。おはようからおやすみまで守るよ~♪」

 

 「させないわよ。とは言っても、造反神が諦めないなら赤嶺がまた来る可能性はあるわね……どうにかならないかしら」

 

 翌日、昨夜の赤嶺来襲の事を部室に集まった仲間達に話した楓達。部室だけでなく個人の部屋に直接やってきた、という事実に、仲間達は一様に難しい表情を浮かべる。つまるところ、相手は楓を……最悪の場合、自分達全員を直接奇襲出来るかもしれないという事だ。なのに逆は叶わず、常に奇襲を警戒して気を張るなんてことも出来る筈がない。どうしたものかと悩む仲間達だが、神奈が明るい顔で口を開く。

 

 「大丈夫だよ。刻み付けられた力はそれほど強くないみたいで、もう1度変身すればその時に纏う勇者の力が塗り潰してくれる筈だから……って、神樹、様から神託が来たよ」

 

 「……はい、私にもそれらしき神託が来ました。それに……」

 

 「うん……来たよ。これからまた戦いが始まるって神託が」

 

 神奈の言葉にひなたが肯定し、それに安堵の息を吐く間もなく続く水都の言葉に勇者達の顔が引き締まる。戦いを知らせる神託……それ即ち、赤嶺が言っていたゴングが鳴ったということだ。それを聞いた風が不敵な笑みを浮かべ、仲間達を見回す。

 

 「さー皆の衆、出撃準備は出来たかな。愛媛奪還戦、新たなラウンドよ」

 

 「いつでも行けるわ……戦が始まる。赤嶺 友奈……高嶋さん達に似た人への攻撃は気が進まないけど」

 

 「神託は激戦を予想しています。ご武運を」

 

 「皆、気をつけてね」

 

 「無事に帰ってこいよ!」

 

 「うん、園ちゃんありがとう!」

 

 「銀もありがとねぇ。ちゃんと無事に戻ってくるよ」

 

 そうした会話の後、世界が極彩色の光に呑み込まれる。そして勇者達は樹海へと渡り、いつものお留守番組が部室へと残される。仲間達の姿が見えなくなり、先程までの大人数による圧迫感は消えたものの、やはり仲間が居なくなるこの瞬間はより部室が広くなった気がして寂しさを感じさせた。

 

 「もどかしいですね、園子さん、銀さん。戦いたいのに戦えないというのは」

 

 「まーね。あたしらも居れば、もっと早く敵を倒せるのに」

 

 「ね~。それに、ゆーゆは気にしてない雰囲気を出してるけど、赤嶺ゆーゆの事が引っ掛かってると思うんだ」

 

 「赤嶺ゆーゆてお前ね……」

 

 「ゆーゆにも、カエっちにも力になってあげたいのにな~。わたし達、本当に緊急事態の切り札なのかな? はっ、まさか漫画とかである、お前は秘密兵器だからと言いくるめられて出番が無いパターン……?」

 

 「不吉なこと言わないでくれよ園子……無いよな?」

 

 「か、考え過ぎだよ2人共。大丈夫大丈夫」

 

 (それに試練に彼女達だけ参加させない、なんて事はないからね。新しい土地に来て、赤嶺ちゃんという存在も増えた。彼女達が皆と一緒に戦えるのも、早ければ今回、遅くても次かその次には……)

 

 いつまでたっても端末のロックが解けず変身出来ない園子(中)と銀(中)。ひなたが言うように自分達だけ戦えないと言うのはかつて大赦に奉られていた事を思い出して歯痒い。またかつてのように楓と美森で、そして今居る仲間達と共に肩を並べて戦いたいと強く思う。

 

 そんな2人を宥める水都を見ながら、神奈は口にせずに考える。2人が戦えるようになる日が近いとも感じている。今は造反神となって分かれてはいるが元は神樹という地の神の集合体の1柱、彼の神とて2人の存在は認知しているハズ。だからこそ、2人だけいつまでも戦わせないという事は無い。そこまで考えて、彼女はふと別の疑問を浮かべる。

 

 (それにしても、彼の神はなんで次の戦闘には消える程度の力をわざわざ刻み付けたのかな)

 

 今でこそ造反神として敵対関係……勇者達に試練を与える側として存在する“彼の神”は、何度も言うが元はたまに神奈と脳内で神託という名の会話をしている“私達”だった。当然、楓を含めた勇者達の事はある程度把握しているハズ。それは赤嶺に情報を渡している事からも分かるだろう。

 

 疑問なのは、そうと理解しているにも関わらず少ない力を楓に刻ませたのかだ。本当に彼を狙うなら、それこそどこでも場所を把握出来るような、或いは昨夜のように赤嶺がいつでも拉致できるように強い力を刻む……マーキングでもした方がいい。或いは……とそこまで考えて、神奈がたらりと冷や汗をかいた。

 

 「……楓くん、危ないかもしれない」

 

 「うぇっ? 神奈、どうした急に」

 

 「カエっちが危ないって、どういうこと?」

 

 「うん……なんで造反神が変身1回で消えるような弱い力を赤嶺ちゃんに刻ませたのかなって考えてたんだけど……」

 

 「か、楓さんの場所を把握出来るようにする為じゃないのかな」

 

 「……いえ、でしたら長い時間把握出来るように強い力を刻むのではないでしょうか。そうでないと言うのなら……」

 

 「うん、弱い力だからこそ意味がある……もしくは、()()()()()()()にこそ意味がある。つまり、楓くんが変身して、私が言っ……じゃなくて神託通りに力を塗り潰してしまおうとした時」

 

 彼の身に、何かが起こってしまうかもしれない。そう、神奈は暗い表情で消え入るような声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 そして、部室でそんな会話がされ、終わった直後に。

 

 「そ、そんな……楓くんが……!?」

 

 驚きに満ちた友奈の声が、樹海に響き渡った。




原作との相違点

・勢揃い、4人の“友奈”

・ちょっと筋肉好きが発動した赤嶺

・突撃! 楓の部屋!

・お留守番組に銀(中)と神奈追加(今更

・どの辺が違うのかもう面倒なんでその目で確かめよう!←



という訳で原作との相違点をそろそろ別のおまけか何かにしようか考え中です。何か良い案や後書きで出来そうなのがあれば感想へ(雑な誘導

さて、次回は恐らく6月での投稿になると思います。本編の続きではなく番外編を予定しており、ゆゆゆいの過去イベから発掘して改変すると思います。どのイベントか悩みますが、今の候補としては……ヒントは本編ゆゆゆ編の夏凛ちゃんが出た辺り。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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