咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

127 / 142
お待たせしました、ようやく更新です(´ω`)

楓を早く男に戻してあげてとの優しい感想がちらほら見えました。申し訳ありませんが、彼には今暫く彼女になっていてもらいます。原作20話前後まではそのままの予定です。

ディシディアファイナルファンタジーオペラオムニア、略してdffooを再開しました。やはりティーダとユウナ、アーロンはいいなぁ……ルフェニア全く勝てませんが←

妖精ランスロット爆死しました。パーさん来てくれただけマシですかね……福袋に居たら狙います。久々にドツボにハマった鯖ですのでホント欲しい。

ゆゆゆいでは新しいUR銀が来ましたが、杏と園子(中)とすり抜け。持ってなかったので嬉しいですがね。でも銀ちゃんも欲しかったんや……。

前話のアンケートにご協力、誠にありがとうございました。変身シーン、需要あるんですかね。これで新士含めて3種類目です←

それでは本編、どうぞ。


花結いのきらめき ー 36 ー

 「……ふぅ、いい加減切り替えよう。落ち込んでても戦いは始まるんだしねぇ」

 

 「そうそう、落ち込んでても仕方ないって。という訳で」

 

 「久しぶりに皆揃って変身なんよ~」

 

 「ふふ、そうね。4人揃って一緒に変身なんて本当に久しぶり」

 

 樹海に着いて直ぐ、楓は頭を振って意識を切り替えて真っ直ぐ立ち、樹海を見渡す。その左隣に銀(中)が立ち、反対の右側には園子(中)が、その更に隣に美森が立つ。かつてはこうして4人で並んで樹海に立つのが普通だったのに、今では20人に及ぶ仲間達が居る。その中にはかつての自分達4人の、今の自分達と同じように並んでいる姿。それらを改めて認識した後に4人は顔を見合わせて頷き合い、今の仲間達と共に勇者アプリをタップした。

 

 銀(中)は勝ち気な笑みを浮かべ、左手を真横に伸ばして右へと振るとその軌跡をなぞるように炎が燃え上がり、その炎に隠れるように体を一回転させる。炎が消えるとそこには制服からインナー姿へと変わっている彼女の姿があり、回転を止めるように両足で強く地面を踏みつけるとインナーの下半身部分の上に勇者服が現れた。

 

 そしてどこからともなく2輪の牡丹の花が回転しながら彼女に向かい、途中で燃え上がる。銀(中)はその燃えた牡丹に両手を伸ばし、掴んだ後に頭上へと掲げて左右に振り下ろすと上半身部分にも勇者服が現れ、勝ち気な笑みのまま両手の炎を気合の入った声と共にX字を描くように順に振るうと炎が掻き消え、現れるのは2本の巨大な斧剣。最後は斧剣の刃を地面スレスレまで下ろして左右に広げるように持ち、背中を向けるようにして変身を完了する。

 

 楓は自身の体を抱き締めると全身が光に包まれ、それが弾けるように消えると制服姿からレオタードのようなインナー姿へと変わっていた。そしてトントンと軽く右足の爪先で地面を叩くと両足に光が集まり、脚甲を形作る。その後にくるりとその場で回転すると前後左右に光が伸びて布を形作り、その下に同じように光がミニスカートも作り出し、回転によってふわりと翻った。

 

 両手で腰までの長い黄色い髪を後ろへと流すように動かすと旋毛(つむじ)から毛先まで真っ白に染まり、長さも膝裏までに伸びて両手には手甲。次の瞬間には彼の前に光で出来た真っ白な花菖蒲が現れ、それに手を伸ばすと弾けて彼の体へと降り注ぎ、両手の手甲に水晶が付き、上半身の勇者服も現れる。最後には朗らかな笑みを浮かべてその妹に似た顔に似合う右目を閉じたウインクを1つし、左腕を開いた状態で胸の前で曲げ、右腕も開いた状態で下ろし、軽く足を開いた姿勢で変身完了。

 

 

 

 そして変身が終わった瞬間、楓は崩れ落ちてどんよりした空気を背負いながら四つん這いになった。

 

 

 

 「か、楓ー!?」

 

 「違う……違うんだよ……自分の意思じゃなくて体が勝手に動くんだ……友奈と樹ならともかく、自分がウインクなんてしてどうするんだ……」

 

 「大丈夫だよカエっち! 凄く可愛かったんよ!」

 

 「そうだよ楓くん! 可愛くてなんだかドキドキしちゃった!」

 

 「園子と友奈、それトドメだからやめてやれよ……」

 

 「うずうず……」

 

 「あんずもダメだぞー。心の中でだけにしろよー」

 

 「東郷。ばっちりね?」

 

 「はい、風先輩。最初から最後までこの端末に確かに録画してあります」

 

 「いつの間に!? ていうか風、東郷の行動に気付いてたんなら止め……樹? どうしたの、そんな暗い目をして」

 

 「夏凛さん……お兄ちゃん、揺れてたんです……お兄ちゃんなのに……」

 

 そんなやり取りもそこそこに、美森のカガミブネで愛媛まで瞬間移動し、そこからいつものように楓の光の絨毯に乗り込んでマップに映る敵の反応がある場所まで飛ぶ。話には聞いてはいたが実際に飛ぶのは初めてになる園子(中)と銀(中)はその速度と体験に少しはしゃぎ、周りから微笑ましげに見られていた。

 

 少しして、目的の場所へと辿り着く。相変わらずうじゃうじゃと居るバーテックス達に顔をしかめ、各々武器を握りしめる。そしてもうすぐ接触するというところで、地上組が身構えた。

 

 「そろそろだねぇ……皆、準備はいいかい?」

 

 「オーケーよ楓」

 

 「こちらも問題ない」

 

 「そろそろか……よし、行くぞ! あたしに続けー!!」

 

 「あっ、銀さんずるい! あたしもいっくぞー!!」

 

 「やれやれ、銀ちゃんが2人になった……ってのは今更か。突っ込みすぎちゃダメだよ」

 

 「それじゃ、行ってくるねカエっち。ミノさん待って~」

 

 「もう、銀とそのっちは……ふふ、こんなやり取りも懐かしいわね」

 

 「そうだねぇ。それじゃ自分達も昔みたいに……やろうか。自分は遠距離に変わってるけどねぇ」

 

 後数十メートル程の距離まで近付いた地点で、銀(中)が真っ先に絨毯から飛び出して空中でバーテックスを切り裂きながら着地し、銀(小)も続いて別のバーテックスを切り裂きながら同じように着地。2人を追い掛けて園子(中)も突っ込み、残った地上組も次々と飛び出して行く。昔のように早々に突っ込んだ2人に楓と美森はお互いに苦笑いを浮かべて昔を懐かしみつつ、絨毯の上に残った須美、杏と共に上空のバーテックスを殲滅にかかる。

 

 戦力的に見れば、勇者が2人加わっただけ。だが、バーテックスの殲滅速度は飛躍的に上昇していた。銀(中)の炎と斧剣の圧倒的と言って申し分ない攻撃力。園子(中)の伸びる槍や召喚する数多の槍の凄まじい手数と攻撃範囲。大型すら秒で倒しきる程の強さは、改めて彼女達を切り札と呼ぶに相応しい。

 

 だからと言って他の勇者が劣っているかと言えばそんな訳がない。むしろ2人が活躍すればする程“自分も負けていられない”と普段以上にその力を発揮する。これまでの戦いで皆がより強く、成長しているのだ。決して見劣りする訳ではない。やがてバーテックスの数が目に見えて減り、残り数体程になる。その内何体かを上空からの攻撃で倒し、残りを地上組が殲滅し、そして最後の1体に向かって高嶋が右手を引いて飛び掛かり……。

 

 「これでトドメ! 全力全開気合必中! 勇者あーんどぐんちゃんパーンチ!!」

 

 「た、高嶋さん!?」

 

 「あっ、本当に威力が上がった気がする!? 勝利のぶい!」

 

 「敵、全滅ですね……お疲れ様でした。普通に襲ってきただけでしたね」

 

 「ごめんね、名前を借りちゃって。千景お姉様……なーんて♪」

 

 「高嶋さんってば……」

 

 部室で言った通りの技名を叫びながら殴り付け、撃破する高嶋。心なしか普段よりも威力が上がっている気がするのは本人だけでなくそれを見ていた者達も同じであった。技名に組み込まれた本人と言えば、まさか本当に言うとは思っていなかったの恥ずかしさからか、それとも嬉しかったのか、或いはその両方か顔を赤らめていた。

 

 着地して直ぐに振り返り、千景へと右手でVサインを向ける高嶋。彼女が倒したのが最後だったのを見届けた後、須美がそう言った後に全員が1ヶ所に集まる。上空組は念のため絨毯から降りることはなかったが。集まった後に高嶋は謝りつつも悪戯っ子のように笑い、千景もくすくすと笑う。そんな2人のやり取りを見ていた風がポツリと呟く。

 

 「お姉様呼びがにわかにブームって訳ね。さあ部員達よ、呼ぶのじゃ」

 

 「あんた部室で楓さん達に呼ばれてたでしょうが。これでいいかしら、風お姉様?」

 

 「なんだか……いい潮目に変わってきたな。このまま皆がお姉様呼びをすれば……素敵だ。私がお姉様と呼ばれても……目立たない。うん」

 

 「残念ながら、直ぐ終わってしまう流行りかと……」

 

 (今は楓さんもお姉様だねぇ……とは流石に言えないかな)

 

 お姉様呼びが随分と気に召したのか、弟妹達だけでなく部員達にも要求し始まる風。はいはい、と呆れを含みつつも夏凛が呼んであげれば、彼女はうむと満足そうに頷いた。最初にお姉様呼びされた棗と言えば、周りが“お姉様”と呼び、それを楽しんでいる空気にどこか満足げに頷いていた。それだけ自分だけが赤嶺からお姉様と呼ばれている事が慣れなかったのだろう。

 

 このままブームが続けば1人だけお姉様と呼ばれる事は無くなる……と思っていた棗だが、無慈悲な美森の一言に無言で小さく肩を落とした。ふと、新士は今は女となっている楓へと目を向ける。性別だけ見れば呼ばれても不思議ではない未来の自身の姿に、そう思うだけで言葉にはせず少しの哀れみを込めて首を横に振った。そうしているとすすす……と樹と杏が棗は左右から静かに近寄り……。

 

 「あのー、な、な、棗お姉様!」

 

 「ん、んん?」

 

 「戦闘お疲れ様でした、棗お姉様!」

 

 「う、うん」

 

 「呼んじゃった呼んじゃった!」

 

 「呼んじゃったねぇ!」

 

 「大人気ぃ」

 

 「うぅぅ……恥ずかしい……」

 

 「あんずが嬉しそうでタマは何よりだ」

 

 「ありがとう、タマお姉様」

 

 左右から中1組にお姉様呼びされた後に2人がお互いの両手を合わせてぴょこぴょこと跳ねながら嬉しそうにしているのを見て、一連の流れを見ていた雪花が面白そうに笑いながら呟くと、やはりお姉様呼びが慣れない棗は恥ずかしげに俯いた。球子は嬉しそうな2人、その中の杏を見てうんうんと腕を組んで頷き、杏は今度は彼女に近付いてそう呼ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 「皆さん、お帰りなさい。どうでした? 何事もありませんでしたか?」

 

 「あぁ、何ともないぞひなた。戦闘も恙無(つつがな)く終わった」

 

 「出てこなかったんですね、赤嶺さん。諦めてしまったんでしょうか」

 

 「だと良いがな……引き続き警戒していこう。大胆な奇襲をする奴だ、油断はならない」

 

 「警戒若葉ちゃん! 凛としてて素敵です」

 

 「ホントどんな若葉でもいいのね……愛が深いわ」

 

 「自分としては出てきてもらわないと困るんだけどねぇ……何としても男に戻る方法を聞き出さないと」

 

 「でも赤嶺ちゃんもよく知らないみたいだったよ?」

 

 「それでも知ってる可能性が1番高いのが彼女だからねぇ……」

 

 それからしばらく。特に何か起こることもなく戦闘を終えた勇者達は樹海から部室へと戻ってきていた。出迎えた巫女組からひなたが代表して樹海での出来事を聞くと、彼女に近付きながら若葉が答える。その自然なやり取りに何人かは仕事から帰ってきた夫を出迎える妻の姿を幻視した。

 

 それはさておき、今回も出てくると思っていた赤嶺が現れなかったことを悟ったひなた。勇者達と戦うことを諦めてしまったのかと半ば冗談で言うが、若葉もそう思うことなく警戒は怠らない姿勢を見せる。前回の奇襲にはそれだけ焦らされたのだ、警戒しておくに越したことはないだろう。

 

 真剣な表情でそう言う彼女にひなたがときめき、そんな彼女に夏凛が呆れと感心をしているが、赤嶺が出てこないと困るのは変身から戻っても変わらず女のままの楓。一刻も早く男に戻りたい彼としては何としても戻る方法を聞き出したいところだが……正直に言って、友奈が言うように望みは薄いとは彼自身も感じている。しかし原因である造反神に最も近いのが彼女なのも事実なのだ。だからこそ、早急に赤嶺と接触……出来れば捕まえて色々と聞きたいところなのだが。

 

 その日以降、連日のように樹海に行ってはバーテックスを殲滅し、愛媛奪還を進めていく勇者達。新たに加わった2人という要因があるからかこれまで以上にサクサクと危なげなく連戦連勝を重ねていく事になるのだが……どういう訳か、赤嶺が出てくることはなかった。それどころか赤嶺が居た時のような人間染みた戦術、時折現れていた特殊なバーテックスの登場等もなく、本当に順調に勝利を重ねて愛媛の土地を奪還していった。

 

 だが、その順風満帆な結果に不安を覚える者達もいる。杏曰く、勝たせ続けることで油断させてその隙を突くという兵法もあるとのこと。しかし、勇者達には確かに連勝に気を良くする者も居れば警戒を怠らない者達も居る。また巫女達が危険な目に合わないように奇襲には特に気をつけているし、早々油断することもない。とは言え、何をしてくるのかわからないのが赤嶺、そして造反神なのだが。

 

 「実際のところ、どう思う? ひなたちゃん」

 

 「そうですね……私も、油断させてからの一撃に賭けているのではないかと思います。勇者部の拠点は、神樹様の世界において中心部に近いところです」

 

 「ここが取られちゃうと、とっても危ないもんね」

 

 「しかもさ、なんだかここから離れる程に敵さんたら強くなってない?」

 

 「それは仕方ないよ。わ……神樹、様から離れれば離れる程、それは造反神に近付くという事だから。力の元から離れれば離れる程加護は弱くなり、敵はその元が近ければ近いほど強くなる……」

 

 「RPGみたいね。冒険が進めば進むほどに強い敵が出てくるという」

 

 「ますます気が抜けないな! 残念だったな赤嶺も! タマ達を油断させようという目論見は崩れている!」

 

 「さっき“楽勝過ぎてタマだけでも充分かもしれないな”とか言ってちょっと油断してなかったかしら? 球子は」

 

 「言い掛かりはやめタマえ。海に還してしまうぞ」

 

 「人を海から来たみたいに言わないでくれる?」

 

 今日も今日とて集まった部室でこれまでの戦闘の事を話し合い、ひなたに意見を聞く楓。彼女としてもやはり油断させる為に勝たせているのではないかと疑っているらしい。現実でもそうだが、勇者部は他の3県と比べて神樹の本体にかなり近い場所にある。水都が言うようにこの場所を取られてしまうということは即ち神樹の懐に近い場所を敵に奪われるということ。それがどれだけ危険な事か言うまでもない。

 

 そして、雪花の感じた事も気のせいではない。勇者達の力は元は神樹の、或いは神樹と協力関係にある神の力だ。その元、つまりは神樹本体から離れてしまう程に勇者達に力を送る事が難しくなり、造反神側の力の干渉も受けてしまう。つまり、充分な量の力を渡す事が困難になる。逆にバーテックスはその力の元である造反神に近い為に力は送りやすいだろうし、そもそも本拠地に近くなっているのだからその付近の戦力を強くするのは当然のこと。

 

 「……海!? それはともかく。もしも……この快進撃が油断させる作戦じゃないとしたら……?」

 

 「敵さんは何かの秘密兵器の準備をしていたりでこっちに手が回らないとか?」

 

 「あー、有り得るかもなそれ。なんせ奇襲仕掛けてくるなんてことをしてくる奴だし」

 

 「ありそうよね。神様が関わってるとホント何が起こるか未知数……」

 

 (神様の私でも造反神が何をしてくるか未知数だよー……)

 

 「私達も勇者ロボの開発を急ごうよにぼっしー」

 

 「さも建設している風に言うな!」

 

 球子と夏凛の会話に入った海の単語に反応した棗だが直ぐに話を戻し、別の可能性を考える。彼女が言った通り、これまでの勝利が全て赤嶺の思惑とはなんの関係もない可能性も有り得るのだ。その別の可能性を直ぐに思い付いたのは銀(小)で、納得だと頷くのは銀(中)と夏凛。最早赤嶺は何をしてきても可笑しくないと思い知らされているのだ、本当に対勇者用の秘密兵器を用意している最中だと言われてもあまり違和感が無い。

 

 神奈が彼女の言葉に乾いた笑いを内心で浮かべていると、園子(中)が夏凛に真剣な表情をしながらそう言って即座にツッコミを喰らう。球子といい園子といい自身に向かってボケられるのでもしや弄られて遊ばれているのではないかと懸念するが雪花から“完成型勇者だから親しみやすいだけ”と言われ、なら仕方ないと納得するのだった。

 

 

 

 

 

 

 「よーし、準備完了っと。その間に随分と土地を奪われちゃったなぁ……まぁ、ここからだね」

 

 丁度その頃の愛媛にて、赤嶺によってまさか本当に秘密兵器が用意されているとは、勇者達も確信を持っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、いつものように愛媛の樹海へとやってきていた勇者達。既に準備万端だとカガミブネによって到着した地点で各々の武器を片手に広い樹海を見据え、現れるであろう敵の反応を待っていた。しかし……。

 

 「よし! 今日も愛媛を奪還していくぞ。勝ち続けているからと言って気を弛めるなよ」

 

 「……敵の姿がどこにも見当たりません。絨毯の上から見ているのに、どこにも」

 

 下から聞こえる若葉の声の後、上から絨毯に乗っている美森のそんな声が地上組に聞こえてくる。これまでの戦いと違い、彼女が言った通り周囲に敵の姿が全く見えないのだ。それは遠くを見渡せる絨毯の上であっても変わらず、マップを見ても敵らしき反応はない。

 

 「透明とかステルスとか、特殊な敵の可能性は?」

 

 「それは無いと思う。気配というか……雰囲気で分かる。海もそう言っている」

 

 「とにかく警戒態勢を維持してくれ。樹海だというのを忘れるな」

 

 

 

 「全く油断してないのは流石ー。少しぐらい隙があってもいいのに」

 

 

 

 千景の疑問に棗がいつものように海が云々と返し、周りが苦笑いして場の空気が若干弛む。若葉がその空気を引き締めるように言った後直ぐに聞こえた声に、誰もがその聞こえた場所を見た。そこにはいつの間にやってきたのか赤嶺の姿があり、勇者達は直ぐに戦闘態勢を取る。

 

 「っ! 今回は出てきたのか……赤嶺 友奈」

 

 「とりあえず挨拶しておこうかしら。ハロー!!」

 

 「こんにちは」

 

 「こんにちはー! 挨拶はきちんと!」

 

 「皆元気そうで何よりだね。私はちょっと低血圧気味……」

 

 「ああ、元気だとも……男に戻ればもっと元気になれるんだけどねぇ」

 

 「あ……うん。ちょっと楓くんには何とも言えないかな……」

 

 現れた赤嶺に警戒する若葉を他所にフレンドリーに挨拶するのは歌野と友奈。赤嶺も存外普通に挨拶を返し、いつの間にか地上付近まで降りてきていた楓の朗らかな笑み……の後ろのどんよりと暗い空気を感じて曖昧に笑って言葉を濁す。当初よりは女の姿を受け止める事が出来ている楓だが、完全に受け止めるにはもう少しだけ時間が掛かるようだ。

 

 「楓さん……こほん。ふん! 投降するって言うならサプリとにぼしを分けてあげてもいいわよ」

 

 「前は1本取られたから色々準備してきたよ。今回は精霊を使うんだ」

 

 「くっ、無視か……」

 

 「私が持ってきた精霊は造反神のオリジナルでね。人に変身するんだ……こーんな風に。ばぁぁーん」

 

 楓を一瞬痛ましげに見た後、直ぐにキリッとした表情に変えた夏凛が赤嶺にそう話し掛けるも当の本人は一瞥することすら無く話を進める。悔しがる夏凛をそのままに赤嶺は掛け声と共に両手を左隣へと伸ばす。すると一瞬の発光の後、彼女の隣には私服姿の、目に光が無い須美の姿があった。彼女の言が正しければ、その須美は精霊が変身した姿。だが本人との違いはまるで見受けられず瓜二つ。そのあまりのそっくりさに何人も精霊と本人を見比べた。

 

 「わ、私そっくりな人間が……!?」

 

 「これが新しい攻撃方法……なの?」

 

 「何かまた嫌な予感がしてきたわねぇ……」

 

 「須美ちゃん、念のため自分の後ろに。何してくるかわからないからねぇ」

 

 「は、はい」

 

 まるで鏡を見ているようにも思えるその姿に本人は当然驚き、秘密兵器と言っていた割にこれまでの戦いと比べて静か……というか規模が小さい事にこれのどこが秘密兵器なのかと首を傾げる樹。その隣に居る姉は直感的にロクでもない事が起きるだろうと思い、内心同意した楓が絨毯の上で須美を自身よりも後ろへと移動させ、盾になるように前に出る。

 

 「見ての通り、そっくりさんの登場だよ」

 

 「須美が2人……か。でもよく見るとコピーした方は何だかくすんでるというか……存在が変だ」

 

 「自分達の神樹様の精霊とは違って造反神の精霊だから、かねぇ……でも、そっくりになってどうするつもりなのか……」

 

 「須美ちゃんそっくりの敵だから、私達が攻撃しにくいという狙い……?」

 

 「だとしたらセコいわね。だいたい、友奈に似たアンタと腕比べしてる今、そんな作戦無駄よ」

 

 「勿論それが狙いじゃないよ。今回のテーマは……“自分自身との戦い”と言ったところかな。例えば、この鷲尾 須美そっくりになった精霊に対して……」

 

 須美そっくりの姿に最も困惑しているのは、やはりその親友達。しかし銀(小)が言ったように、よくよく見てみればどこか存在があやふや……僅かながら、本人よりもくすんでいるように見えた。新士はその理由を自分達の神樹から出た精霊ではなく造反神の精霊だからと予想するが、赤嶺は何も語らない。

 

 しかしながら、疑問なのはバーテックスではなくなぜそっくりに変身する精霊を用意したのかという事だ。美森が言うように攻撃を躊躇わせるのが理由だとすれば、特に問題はない。勇者達の中には相手を傷付けず捕縛する術を持つ者も居るし、なんなら無視してもいい。それを聞いた風もセコいと思わず口にするが、赤嶺は首を振って否定する。それどころか“勇者パーンチ”と軽い口調で拳をその須美そっくりの精霊に向かって振るう始末。そっくりさんとは言え見た目が須美の為、思わず息を呑む勇者達だが……。

 

 「ほら、元気そのもの。私の攻撃が全く効いてない。割りと強く仕掛けたのにさ。変身した精霊はね、その姿の元ネタの人じゃないと倒せないルールなんだ」

 

 「えーっ、凄く強いルール。何かしら制約があるのかな?」

 

 「……偽物とは言え、須美ちゃんが殴られるのを見るのは気に喰わないねぇ」

 

 「そう怖い顔しないでよ楓くん。ルールの確認の為にはこれが1番手っ取り早いからさ。それと、すぐバレるから白状しちゃうけど、変身した精霊は()()()()攻撃が一切出来ない」

 

 つまり、物理的には無害、安心安全。そう言って笑う赤嶺だが、勇者達としては全く笑えない。そもそも特に効いた様子が無く、そもそも偽物とは言え須美の姿をした精霊に殴られて仲間達、特に小中の親友組は気が気でない。園子(小)も一見冷静にルールの考察をしているが、心の中は小さくない苛立ちを秘めている。楓などモロに顔に出ている程だ。例え見た目だけでも大切で、大事な存在に拳を振るわれたのだ、それも当然だろう。

 

 そんな仲間達の姿に自分達は大切に思われている事を感じ取り、自然と笑みが浮かぶ須美と美森。その喜びを一旦心の端に置き、赤嶺の白状した部分を聞き、ならば何のためにこの精霊を用意したのかと疑問に思いつつ、理由がどうであれ変身された本人が倒せばいいだけの事だと須美が楓の後ろから出て精霊目掛けて素早くを矢を放つ。その矢は少しの間を置いて精霊に直撃した……のだが。

 

 「あれ? 矢が命中しているのに精霊が消えない?」

 

 「本人であろうと物理的な攻撃じゃ倒せないよ。肉体的にじゃなくて、()()()()倒さないと駄目な敵なんだ」

 

 「……?」

 

 

 

 「簡単な事よ……須美」

 

 

 

 「「うわああああっ! 喋ったああああっ!?」」

 

 矢は確かに精霊に直撃したハズが、先程の赤嶺の拳の時のように微動だにせず、効いた様子もない。その事に首を傾げる樹だが、その理由は赤嶺によって語られる。しかしその内容がよく分からなかったのか須美が精霊を睨み付けつつも不思議そうにしていると、これまで特に動きを見せなかった精霊が須美と同じ声でポツリと呟いた。

 

 突然言葉を発した事にてっきり変身した精霊は喋らないもだと思い込んでいた仲間達、特に2人の銀は飛び上がる勢いで同じように驚き、改めて2人が同一人物なのだと思い知る仲間達。その様子を見て小さく笑う精霊……しかしその視線が一瞬、楓に向けられたのに気付いた者は居なかった。

 

 「この精霊はね、変身した人に質問を投げ掛けたり論戦を仕掛けたりするんだ。その質問に答えられなかったり……論戦の末に論破されちゃったりした場合……悲しい事が起こる」

 

 「悲しい事って何よ!」

 

 「死にはしないけど、もうこの神樹の中では戦えなくかるだろうね……この精霊に取り憑かれるんだから。議論は本人の精神世界で行われるの。だから、負けたら呑み込まれる感じ?」

 

 「勝手に精神世界に入って問答を仕掛けてくる癖に負かしたら取り憑いてくるのか……普通に悪霊だねぇ」

 

 「それかタチの悪い妖怪じゃないの……」

 

 「元々、精霊は妖怪が多いからね。牛鬼も青坊主も」

 

 悲しい事……そう聞いて幾人かが最悪の場合を考えるものの、赤嶺によってそれは覆される……が、それでも議論に負けた場合の結果は決して軽くない。それに、取り憑かれた本人がその後どうなるのかも言及されていないのだ。変身出来なくなるだけなのか、それとも目覚めなくなるのか、はたまたこの世界から消えるのか……それとも、精霊が変身ではなく本人そのものに成り代わるのか。

 

 心底不愉快だと言うように吐き捨てる楓に同意するように頷く夏凛。そんな2人に赤嶺は軽い口調で返した。確かに精霊には妖怪と同じ名前、伝承を連想する姿をしているモノが多いが目の前の精霊ほどタチの悪い存在ではない。一緒にするな、というのが勇者達の総意であった。

 

 「……とにかく、口喧嘩に勝てば良いってことでしょ。これは得手不得手、分かれそうですにゃあ」

 

 「因みに、質問や議論は本人にとってかなりえぐい話題が飛んでくるから気を付けてね。どうかな? この趣向。ある意味、自分自身との対話とも言えるね。なかなか出来ない体験だよ」

 

 「自分との対話なら何度もやっているけど……須美ちゃんとはよく話すし」

 

 「わたしはわたしとお喋りするし」

 

 「息もぴったりだし」

 

 「自分はまあ、未来の自分とは言え数少ない男勇者同士だしねぇ……今は違うけど」

 

 「小さい自分、帰ったら覚えておくんだねぇ」

 

 「あたしもさっきは息ぴったりだったしな!」

 

 「自分自身のハズなのに手の掛かる妹みたい……って思うのはどうしてなんだろうなぁ……」

 

 「……あっ、そう言えばそっか。ていうか多いね、同一人物……それはまあ良しとしちゃおう。さぁ、説明と警告はきちんとしたからね。そろそろ始めようか」

 

 雪花がポツリと呟き、それを聞いた勇者達も確かにと頷く。口が回るタイプも居ればそこまで回らないタイプも居る。その回らないタイプに論戦を仕掛けられた場合、ちゃんと論破出来るか不安ではある。更に赤嶺から“本人にとって”の話題、自分自身との対話となればよりその不安を煽ると言うものだ。

 

 ただ、勇者部には小中の年齢差はあれど同一人物が4人居て、そういう意味では“自分自身との対話”はもはや日常的である。各々和気藹々と話す様子と内容にそれもそうかと納得する赤嶺だったが、それはそれだと気を取り直してそう口にし……何かをする前に雪花の動いた。

 

 「その前に君を倒したらいいんでない!? ほいや!」

 

 「おっと! 距離を取って逃げるだけだよ。勇者ならこの攻撃、正攻法で打ち破ってくれると嬉しいな」

 

 「怪しい技を使ってくるわねぇ……全員、気をしっかり持つのよ!」

 

 「今度は自分とのマインドバトル。なんともホットな戦いになりそうね!」

 

 「……歌野は楽勝だと思うんだが、気のせいだろうか」

 

 「自分との戦い……ってよく分からないところもあるけど、為せば大抵なんとかなーる!」

 

 「それじゃまずは鷲尾 須美ちゃん。バトルに行ってらっしゃい」

 

 雪花の素早く力強い槍投げを難なく躱した赤嶺は本人にその意識があるかはともかく挑発のように言い放ち、少しムッとした風がそう声を掛ける。どのようにして精霊が精神攻撃を仕掛けてくるかまだ分からないからだ。彼女が真剣に注意しているすぐ近くでは歌野がどこか自分自身との戦いを楽しみにしているように思え、普段の彼女を見ている限りその戦いに負けるとは思えない若葉が苦笑いしながら小声で呟いた。

 

 そして赤嶺が須美を名指しし、絨毯の上で警戒する彼女に向けて精霊が右腕を上げて人差し指を突きだし……こう一言。

 

 

 

 「どーん!!」

 

 

 

 「……それってひょっとして、笑うせぇる……」

 

 「新士君、それ以上はダメ。というかなんで知っているの……?」

 

 何かを言いかけた新士に対する千景のツッコミが、樹海に小さく響いた。




原作との相違点

・銀(中)の変身シーン追加

・4人揃って変身する先代勇者中学生組

・同一人物多すぎ問題(4組)

・ツッコミ千景

・相違点多すぎて手に負えねえよ……



という訳で、原作14話の終わりと15話の始まりというところでした。

アンケートでTS楓の変身シーン書くのは決まってましたが、よく考えると銀(中)の変身シーンとか原作には無いのでこちらもオリジナルで書きました。彼女は背中で語るのが似合うと思うんです。

遂に来ました、精霊による自問自答。がっつり書くべきか、それともある程度簡略して書くべきか今から悩みますね。あれを実際に書くと文字数結構増えそうですし、Deifの時のような書き方でもいいかもしれませんね。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。