咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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大変お待たせしました、ようやく更新です(´ω`)

fgoもゆゆゆいも欲しいキャラは誰一人来てくれず失意に沈んでいる私です。ドカバトも新LR悟空来てくれず、ダンカグも水着こいしちゃん来てくれず……私は悲しい(ポロロン

最近仕事量が増え、必然疲労も増えました。雨も多いので配達業は地獄です。救いなのは段々と涼しくなり、過ごしやすくなってきていることですかね……。

今回はかなり難産でした。後結構無理矢理な感じに……多分、こんな展開は私だけかもしれない←


花結いのきらめき ー 38 ー

 少し時間は巻き戻り、そこは高嶋の精神世界。他の者と同じように真っ白な空間で自分の姿をした精霊を前に彼女は驚きの表情を浮かべるが、直ぐに対話を終わらせてみせると意気込む。

 

 「おおお……私も対話っていうのが始まったんだ。よーし、直ぐに終わらせる!」

 

 「それがいいね。長いと皆に心配かけちゃうから、早い決着と行こうよ」

 

 

 

 ― ねぇ……貴女は……本音をちゃんと話せる人間なのかな? ―

 

 

 

 「え……本音? そ、そんなの内容に寄るんじゃ……ないのかな?」

 

 「内容に関わらず、“本音を言えない人間”……だよね。貴女は周囲に対して気を遣っているもん。だって、嫌だもんね」

 

 本音を言って、意見がぶつかって喧嘩になったりするのは。そう続ける精霊に、高嶋の表情が暗くなる。更に精霊は言葉を紡ぐ。そうして本音でぶつかることを避けている高嶋は、本当に皆とは友達であると言えるのだろうかと。

 

 

 

 ― 貴女の友達は……貴女にとって本当の友達なの? ―

 

 

 

 「確かに私は、あまり自分の事を人に話していないけれど……」

 

 精霊の言うことに、高嶋は心辺りがある。確かに、彼女は自分の事をあまり話す方ではないしそれを自覚している。意見がぶつかり合う事で……いや、自分が、友達同士が喧嘩になることを避けているのも本当だ。そうなることを忌避しているが為に、自分の意見を……本音を言えない、言わない事だってあった。

 

 「でも、話せない訳じゃない。ここに居る皆になら絶対話せる! 断言出来る!」

 

 「本音を言えばぶつかり合うかもよ。怖くない?」

 

 「……それは、正直……怖い」

 

 そう、怖い。喧嘩して、そのまま別れてしまうかもしれない。自分から離れるかもしれない。友達同士が友達でなくなってしまうかもしれない。高嶋は、そうなるかもしれない事が本当に怖い。どこか優しげな声色で問う精霊へと吐いた弱音は震えていて、その恐怖が本物であると聴く者に告げる。それでも、彼女は顔を上げた。その顔に、確かに笑みを浮かべて。

 

 「けど、皆となら大丈夫!!」

 

 恐怖はある。直ぐに本音を告げる事だって出来ないかもしれない。けれど、大丈夫だと彼女は笑う。西暦から共にやってきた友達は勿論、この世界で出会った仲間達とだって、その恐怖を乗り越えられる。本音を言える。意見がぶつかって言い合いになって、喧嘩をしたってきっと大丈夫。

 

 皆となら、大丈夫。声高らかに、彼女はそう精霊に答えた。その答えに、或いはその表情に精霊は満足したかのように、どこか嬉しそうに頷いて……そこで、彼女の精神世界は白く染め上げられた。

 

 

 

 

 

 

 「あっ、友奈の分身も消えていくぞ」

 

 「皆ただいまー!」

 

 「流石友奈だな」

 

 「と言っても結構怖かったよー。さぁ、皆に手を貸そう!」

 

 球子が高嶋の精霊が消えた直後にそう呟けば、意識が戻った高嶋はいつものように元気な笑顔を浮かべて手を振りながらそう言った。勝って戻って来ることを信じていた若葉は流石だと一言誉め、高嶋は喜びつつも両手を振って決して楽ではなかった事を告げる。実際、精霊の問い掛けは赤嶺が言ったように本人のとってかなりエグいのが飛んできた。

 

 が、須美は自分の弱さを認めていた。若葉は既に乗り越えていた。夏凛は仲間達の声援に助けられた。そして高嶋は、皆となら大丈夫だと信じていた。そうして精霊との対話を乗り越えたから、仲間達も乗り越えられると信じられる。精霊との対話など何するものぞと、球子はどこかに居るだろう赤嶺に届くように叫ぶ。

 

 「ほーら見たか赤嶺 友奈ぁ!! どんどん対話とやらに皆が打ち勝っているぞ!! しかも何人かはむしろスッキリさえしているぞ。逆効果だったな、お前の攻撃は!!」

 

 「……まあそういう話は、全員が危機を乗り越えてから聞くよ」

 

 今残っている人達が、こっちの本命狙いだからね……球子の叫びに、遠くの赤嶺はそう呟く。彼女としては確かに若葉、夏凛、高嶋の3人がここまで早く対話に打ち勝つのは予想外だった。しかしそれは、彼女にとって()()()()()()が予想外なのであって《打ち勝つこと自体》は予想通りなのだとも言える。逆に言えば……残りの3人、いや千景と杏の2人は打ち勝てるとは思っていない。もしくは、可能性は低いと考えているという事だ。なぜ楓が入っていないのかと言えば……。

 

 (ただ、楓くんが精霊に精神世界に連れて行かれたのは予想外だったなぁ。私は楓くんはお姉様や銀ちゃん達、土居さんみたいに()()()()()()()()()()()のに。精霊が勝手に動いちゃうんだもんなぁ)

 

 

 

 表情や態度にこそ出なかったが……赤嶺自身にとっても、楓が精霊に精神世界に連れていかれたのが予想外の出来事だったからだ。

 

 

 

 「……ま、いいか。さてさて、精神攻撃もいよいよ最高潮だよ。本命はどんな反応をするんだろう? ってうわ、鞭!? く、んぅ、き、キツイ……!」

 

 「こっそりと近付き、襲う時は一気に……補食の基本ね。さぁ、捕まえたわよ」

 

 「意地でも攻撃してくるなぁ……じゃあ無駄だとは思うけど、白鳥 歌野にも精神攻撃!」

 

 「むっ!?」

 

 それはさておき、と楓の事を頭の片隅に追いやり、精神攻撃を受けている相手も半分になった。そしてその相手も赤嶺の予想としては勇者は中でもこの手の攻撃が効きそうだと思っている2人+1人。このまま打ち勝てるかどうか観察して……と思っていた所に、見覚えのあるロープ……ではなく鞭が両腕の上からぐるぐると巻き付いて彼女の体を縛り上げる。そうして動きを封じたのは……当然と言うべきか歌野。いつの間にか気配を殺してこっそりと近付いてきていたらしい。

 

 何度も攻撃や拘束は意味がないと言ってもめげることなくそれらをしてくる歌野の行動に呆れ半分驚き半分といった表情をし、候補から外した相手だが仕方なく反撃として精神攻撃をすべく精霊を彼女の側に召喚し、現れた精霊に歌野が目を合わせてしまう。

 

 

 

 「貴女は私、私は貴女……という事で、マインドワールドへドーン!」

 

 

 

 と、歌野を精神世界へと連れ込む事には成功した精霊だったのだが……。

 

 「ここが私の精神世界……」

 

 「……って早速土の質を確かめないでくれる?」

 

 「なんだかへにょへにょの地面……私の精神世界なのにショック大きいわ」

 

 やってくるや否や即座にしゃがみこんで真っ白な精神世界の地面を触って質を確かめ、その感触にがっかりと肩を落とし……。

 

 「誰だろうとそこは同じようなモノよ。さぁ、問うわよ! ユーは諏訪の住民を鼓舞する勇者だと言われているけれど……本当は毎日とても怖いんでしょう? 無理をしているんでしょう?」

 

 「そりゃ怖いわよ。あの状況下の諏訪で怖くないのは、ちょっと野菜足りてないわ」

 

 「ほう、怖さをあっさり認めたか」

 

 “本人にとってかなりエグい問い掛け”として元の世界の諏訪の話をするも、その恐怖をあっさりと肯定され……。

 

 「重要なのはそっからどうするかでしょう。私は頑張りますので! みーちゃんや皆と一緒に!」

 

 「ひょっとしたら、諏訪に助けなんて来ないかもしれないよ」

 

 「でも来るかもしれないので!」

 

 「作った農作物は無駄になるかもしれない」

 

 立った1人の勇者として諏訪で戦う彼女に、諏訪に他の勇者の助けなど無いかもしれない。彼女がこよなく愛し、育てている農作物とて無駄になる可能性もある。そうして更なる不安を、恐怖を煽る精霊。だが、歌野の表情は変わらず陰ることはなく……。

 

 

 

 「万が一そうなっても、“種”は残りますので! 何より農業王の魂は不滅ですので!!」

 

 「駄目っ……何を言っても聞かない……」

 

 

 

 「次は私が問う番……ってあら、居なくなっちゃった」

 

 「あっ、もう戻ってきた。早っ、流石っ!」

 

 「やっぱり無駄だったぁ。1人で守ってたタイプはメンタル強そうだもんね」

 

 最後には諦めたようにそう呟き、逃げるように歌野を精神世界から解放する精霊。その精霊に逆に問いかけようとしていた歌野は気付けばその相手は居らず現実世界に戻っていることに肩透かしを食らったように呟き、精霊が現れてから1分と経たずに戻ってきた彼女に共に赤嶺の近くまで来ていた銀(小)が驚きと称賛の声を出し、縛られたままの赤嶺は分かりきっていた結果だと首を振る。

 

 そんな赤嶺をそのまま皆の元へと連行する歌野と銀(小)。皆は見事に赤嶺を捕まえた歌野を誉めるものの、直ぐに視線が楓、千景、杏の3人へと向けられる。そう、3人は未だ精神世界から戻って来ていないのだ。他の者と比べても時間が掛かっている事に少しばかり不安になるが、勇者達は必ず勝って戻ってくると信じて待つ。

 

 「杏さんがまだ帰ってこない……ファイト! ファイトです杏さん!」

 

 「フレー! フレー! ア! ン! ちゃん!」

 

 「杏……こうして手を握っている。戻ってこい」

 

 「あんずはやる時はやるぞ。タマが横に付いてるし、大丈夫だ」

 

 

 

 

 

 

 銀(小)が、友奈が、棗が、そして球子が信じて待っている頃の杏の精神世界。そこではこれまでと同じように精霊との対話が繰り広げられており……精霊は杏の顔で、杏の声でこう言うのだ。

 

 「ねぇ杏。貴女はこう思っているんじゃないかしら? 現実の世界にバーテックスが襲ってきて……勿論、悲しい思いは沢山したけれど、自分的には……」

 

 

 

 ― 総合的に見て、襲ってきてもらえて“良かった”って ―

 

 

 

 「何を言っているの! そんな訳がない!」

 

 精霊の言葉を、杏は即座に否定する。それもそうだろう、神世紀と西暦ではバーテックスの襲撃の規模、度合いがまるで違う。一部の人間しかその存在を知らず、襲撃にも気付けない神世紀と違い、西暦のバーテックスの襲撃とは人類全てに降り注いだ災厄。数多の人間が食い殺され、文字通りその大地が多くの血で染まった。そして、杏達はそれを目の前で見てきた。

 

 そんな災厄が、惨劇が起こって良かった……等と口が裂けても言える訳がない。だが、精霊は杏の怒りが籠った声を無視して更に言葉を重ねる。

 

 「果たしてそうかなぁ……義務教育で原級留置しちゃうほど病弱で、本だけが支えだった伊予島 杏……」

 

 

 

 ― それが勇者として活躍し、皆と仲良くしていられるのは()()()()()()()()()()なんじゃない? ―

 

 

 

 「違うよ……絶対に……」

 

 「だって大好きなタマっち先輩とは、バーテックスが襲ってこなかったら会えなかったよ? もしバーテックスが来なかったら……勇者でもなんでもない、ただの伊予島 杏が居るだけ……」

 

 否定の言葉を紡ぐ杏だが、その声は心なしか震えているようにも思えた。それは、例え僅かでも精霊の言葉に思う所が……同意する所があったからだろう。

 

 病弱でよく学校を休んでしまった杏は、小学校を1学年留年した事がある。その為に彼女は外で遊ぶような事は出来ず、娯楽になるのは本のようなモノばかり。インドアでも出来る読書が趣味となるのは必然であり……故に、アウトドア派の球子と会う可能性はほぼなかっただろう。精霊の言う通り、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「……貴女は私の記憶を眺める事が出来ても、想いまでは分からないみたいね」

 

 「……何?」

 

 だが、杏は先程の不安げな声とは裏腹に強い声ではっきりと言った。そしてその顔に柔らかな笑みを浮かべて精霊の言葉を否定する。バーテックスが襲ってくる事がなかったとしても、そんな惨劇が起こらなかったとしても。例え自分が病弱で外で遊ぶような子供じゃなくても、球子が真逆の元気で外で遊ぶような子供でも。

 

 

 

 「タマっち先輩と私は……出会ってたよ」

 

 

 

 必ずどこかで出逢っていた。それが運命だとか偶然だとか、どんな名で呼ぶのかはどうでもいい。だが、絶対に出逢っていた。伊予島 杏と土居 球子の2人は人類の敵も、遊ぶ場所も、学年も、身体の状態も関係なくどこかで出逢って今と同じような仲良しに、まるで姉妹のような関係になっていた。

 

 「そう確信出来るくらいに、私はタマっち先輩の事を想っているもん……! 大切な友達だから……!」

 

 「……ううん。ロマンチストの度合いを見誤って……いた……」

 

 なんの根拠も無い。だが、確かな確信が込められた言葉は確かに精霊の問い掛けの答えとして叩き付けられ……精霊が僅かな呆れと共にそう呟いた後、精神世界は光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 「あ……分身が消えていく。勝ったんだな杏」

 

 「……ふーっ。ただいま」

 

 「ああ、お帰りな」

 

 「これで残す所は後2人」

 

 杏の姿をした精霊が消え、杏が目覚めたことで棗は安堵の息を吐く。本人と言えば深く息を吐いた後、球子に視線を合わせて軽い調子でそう言い、なんの心配もしていなかったように球子もまた軽い調子で迎えた。そこには確かな信頼があり……杏は、精霊にも伝えた言葉の確信を深めた。

 

 その2人のやり取りを見て、美森は残った2人……まだ精神世界に居る楓と千景に目を向ける。今もまだ精霊との対話に、問い掛けに……自分自身と戦っているであろう2人へと。

 

 

 

 

 

 

 「……ここが私の精神世界、か」

 

 「そう、居るのは私と貴女だけ。高嶋さんの手助けは無いから」

 

 「はっ!!」

 

 そこは千景の精神世界。その真っ白な空間の己の精神世界であると認識し、自身と同じ姿をした精霊から話し掛けられた千景は直ぐにその手にある大鎌を精霊目掛けて振るった。しかし事前に赤嶺が言い、行った通りそれは無駄に終わる。まるで霞を切ったかのようにその刃は精霊の体を通り抜け、攻撃された本人は彼女と同じ顔に無表情を張り付けて呆れ混じりに口を開く。

 

 「お互いに物理的な攻撃は不毛よ。疲れるだけだから、止めましょう」

 

 「ならばさっさと用件を済ませなさい。私に議論なり質問なりするんでしょう?」

 

 「では問おう」

 

 「……今更、何を聞かれても堪えないわ。昔の事でも、家族の事でも」

 

 振り抜いていた大鎌を下ろし、対話なり問い掛けなりを早く終わらせるように急かす千景。では早速と問いかけようとする精霊に、彼女は精霊と同じ無表情で呟く。彼女の過去、家庭環境はお世辞にも良いとは言えない。むしろ最悪に近いほど悪い。とは言え、今の千景は元の世界での経験に加えこの世界にやってきてからの経験もある。今更そんな過去の話で揺らぐことはないと確信していた。

 

 そう、精霊の問い掛けの内容が()()()()ならば。

 

 「高嶋 友奈と郡 千景の関係性について」

 

 「……」

 

 「高嶋 友奈を1番の親友だと思っている貴女。でも」

 

 

 

 ― 高嶋 友奈は、果たしてそう思っているかな? ―

 

 

 

 精霊は言う。自分が親友だと思っている相手は、高嶋にとっては千景の事を“親友”だとまでは思っておらず若葉達と同列の“友達”でしかないのではないか。精霊は問う。高嶋 友奈は千景の事を、最も大切な、1番の大事な友達と見てくれていると思っているのかと。

 

 「……そうよ、と答えたいけどそれが罠なのね。嫌らしい質問」

 

 数秒の沈黙の後、千景はそう呟いた。そして答える……“わからない”と。無論、高嶋にとって1番大事な友達でありたい。しかし、その本心がどうであるかなど心が読めない限りはわからない。何よりも、高嶋は心優しい少女だ。誰が1番だ、とある種の依怙贔屓とも言えるような格付けをする事は無いかも知れない。だが、千景はそれでも構わなかった。何故なら……。

 

 

 

 「でも、私は高嶋さんのそんな所が……優しさと温もりが大好きなのよ」

 

 

 

 「……驚いた。過去を見るに、もう少し精神が不安定だと思っていたけれど。乃木 若葉達の存在……そしてこの世界に来て、出会った仲間達の存在が……貴女を強くしている」

 

 「私は勇者なのだから、強く在らねば」

 

 例え高嶋にとっての1番でなくとも、千景は彼女のそんな優しさに惹かれ、温かな言葉や笑顔に救われ……それらを自分に、周りに向けてくれる彼女が大好きなのだから。それだけは決して変わることはない。揺るぎ無いその答えに、精霊は驚いたように目を見開いた。

 

 再度言うが、精霊が見た千景の過去は悲惨、凄惨と言っても過言ではない。情緒不安定であったとしても、人間嫌いになっていたとしてもなんら可笑しくない程だ。だがその精神は精霊の言葉にも揺れず、過去を引き摺ってもいない。それ程に、彼女は成長していた。それは精霊が言う通り、若葉達の、そしてこの世界で出会った仲間達のお陰でもあるのだろう。そうして成長した彼女の心の強さを見せ付けられ、精霊は千景と同じ顔に笑みを浮かべた。

 

 「……フフ、赤嶺 友奈よ。今の彼女達に精神的な揺さぶりは無駄なようよ……()()()()()()()けどね」

 

 「……? 待ちなさい、それはどういう……」

 

 精霊の意味深な言葉が気にかかり、千景が問い掛けようとした時……それを言いきる前に、精神世界を光が覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 「あっ、ぐんちゃん! 戻ってきた!!」

 

 「……ただいま。最後から2番目に時間が掛かってしまったようね。でもしっかり倒してきたわ」

 

 「千景。良かった……!」

 

 「そんな心配しないでも、私は勇者なのよ乃木さん」

 

 「ああ、そうだな千景」

 

 千景の姿をした精霊が消え、彼女の意識が戻った事を確認した瞬間に高嶋が喜びの声を上げる。精神世界から戻った直後ということもあり、千景は一瞬反応が遅れたものの彼女の声を聞き、自身が現実世界へと戻ってきている事を理解すると小さな笑みを浮かべた。

 

 若葉も高嶋と同じく喜びの声をあげ、千景を出迎える。心配していた、と顔に書いてあるように見える彼女に千景は苦笑いを1つし、そう告げると若葉は同意して頷く。そして千景の視線が何故だか歌野の鞭で拘束されている赤嶺へと向けられ、未だに意識が戻っていない楓を見た後に口を開く。

 

 「……赤嶺さん、貴女に聞きたいことがあるわ」

 

 「うん? なにかな?」

 

 「戻ってくる前に、精霊はこう言っていたわ。“彼女達に精神的な揺さぶりは無駄、彼には関係ないけど”と。彼というのは楓君の事でしょう……関係ない、とはどういうこと?」

 

 「うーんと……良くわからないかな」

 

 「わからない? 精霊をけしかけてきたのは貴女でしょう?」

 

 「そうなんだけどね……うーん、もう皆戻ってきてるし、言っちゃおっか。私は元々、楓くんに精霊をけしかける気はなかったんだよ。というか、精霊が勝手に楓くんを精神世界に連れていったんだよね」

 

 「は? ちょっと、どういうことよそれ」

 

 「どういうことも何も今言った通りだよ。私の命令とかじゃなくて、精霊が勝手に楓くんの前に現れて、勝手に精神世界に連れていった。私にも予想外の事だよ」

 

 千景の問い掛けに、赤嶺はきょとんとした後に首を傾げながら知らないと返す。当然千景はしらばっくれていると思い再度聞くが、彼女は少し思案した後に本音をさらけ出す。楓を捕まえた精霊の行動は、彼女自身にとっても予想外の出来事だと。

 

 その返答に少し前のめり気味に、少し怒った表情を浮かべながら聞く風を恐れること無く赤嶺は知らない、予想外だと繰り返す。勇者達が頭上に疑問符を浮かべる中、思案顔をしているのが4人。園子ズと杏、そして雪花だ。彼女達は自身の中で千景が聞いた精霊の言葉と赤嶺の言葉、杏以外の3人は楓を連れていく前の精霊の言葉を思い返していた。

 

 (楓さんに揺さぶりは関係無い……“無駄”ではなく、“関係無い”ですか)

 

 (精霊の動きは赤嶺さんにとっても予想外……赤嶺さんにアマっち先輩を捕まえるつもりはなかったんだよね~……)

 

 (んで、勝手に動いた精霊は確かに“捕まえた”って言ってた……ひょっとして、捕まえたって()()()()の意味だったりしちゃう?)

 

 「……ねぇ、赤嶺ゆーゆ。ちょっと聞きたいんだけど」

 

 「あ、赤嶺ゆーゆ? ま、まあいいか……それで? 何が聞きたいの?」

 

 「精神世界で精霊が問い掛けとか対話とかを()()()()()()どうなるの?」

 

 「う、うーん? 精霊は皆にそれをする為に生み出された訳だから、しないっていうのは考えにくいんだけど。まあ仮にしなかったとしたら……」

 

 「したら?」

 

 園子(中)の疑問に赤嶺と他の勇者達も首を傾げるが、考え込んでいた4人と精神世界での精霊の言葉に疑問を覚えていた千景がハッとする。それは園子(中)と同じく、最悪に近い答えに辿り着いてしまったからだ。それに気付かないのか赤嶺は、あり得ないと思いつつも自分なりの考えを告げる。それは、聞いた勇者達を絶句させるには充分な威力があった。

 

 「“対話に打ち勝つ”っていう条件が満たせない訳だから……かといって負ける訳でもないし……そのまま精神世界から出られないんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

 「ふっ! はぁっ!!」

 

 「フフ、無駄だよ。何をしても、君は精神世界(ここ)からは出られない」

 

 「っ……本当に出られないみたいだねぇ……」

 

 勇者達が絶句してい頃、精神世界に居る楓はそこから出る為に行動していた。千景がやったように精霊への直接攻撃は勿論、その場から動いて光の翼で飛んで見たり、空間そのままに攻撃を仕掛けてみたり。だが、現状その全てが空振りに終わっている。

 

 精霊への攻撃は他の勇者達と同じく無意味。地面と平行に進むとある程度進んだ所で元の場所に戻ってきてしまう……ループしてしまう。ならばと真上に飛ぶとまるで見えない天井があるように何かにぶつかり、それ以上進めない。では精霊ではなく空間そのものに攻撃してはどうかと光をレーザーとして放ってみれば、平行に撃つと正面に射ったレーザーが背後から襲いかかってきて自爆しかけたので慌てて消し、空に射てば天井などなかったように遥か空へ消えた。

 

 ならばと地面に射てば、手応えこそあったが地面は無傷の真っ白なままで焦げ目1つない。ここまでして空間に何一つ効果が見られない為に、流石の楓も少しばかり気分が沈む。光を消して再び男の自身の姿をした精霊の前に立ち、睨み付ける。そんな彼を、精霊は朗らかな笑みを浮かべて見て現実を突き付ける。この精神世界から出る事は不可能であると。

 

 (どうする……どうすればここから出られる……?)

 

 焦りを抑えつつ、精神世界から出る方法を考える。いや、出る方法は分かっているのだ。“精霊からの問い掛け、論戦に打ち勝つ”……そうすれば出られる。だがこれは()()()()()()()()()()()()()事が前提であり、目の前の精霊は喋ることはしてもそれらを決して仕掛けてこない。故に楓はそれを成し遂げるどころか勝負の場に立つことすら出来ていない。だからこそ他に脱出する方法は無いかと色々試していた訳だが、それは無駄に終わった。

 

 「……っ!? なんだ、あれは……」

 

 「そうだねぇ……君にとっての()()()()()()()ってところかねぇ」

 

 そうして考えている楓の視線の先に、真っ白な精神世界を塗り潰すかのような、さながら燃え盛る炎のような“赤”が遠くから滲んできているのが見えた。それは歩くような速さでゆっくりと、しかし確実に楓達が居る場所へと迫ってきているのが分かる。驚く彼に精霊は言う。タイムリミット……制限時間。無限にこの世界に居られる訳ではないのだと。

 

 精霊の言葉を聞いた楓は流石に焦る。察しが言いと言われているし頭の回転も悪くはない彼だが、その焦りのせいもあってそれが十全に発揮されていない。どうする、どうすればいい、そんな言葉がぐるぐると巡り、前に進めない。なぜこんなにも焦っているのかと言えば、あの“赤”にとてつもない程の嫌な予感を感じているからだ。過去、壁の外で鏡の姿をした“ナニカ”に見られたと感じた時と似たような感覚を。

 

 (攻撃は無駄、移動も無意味……やはり精霊をどうにかしないとダメか。だけど問い掛けをしてこない精霊をどうすれば……)

 

 

 

 『カエっちー! 頑張ってー!!』

 

 『皆戻ってきてるよ!! 楓くんも戻ってきて!!』

 

 『楓君なら精霊なんて敵じゃないわ!!』

 

 『こぉら楓! 負けんじゃないわよ!!』

 

 『お兄ちゃんなら大丈夫だよ!!』

 

 『私も勝てたんだから、楓さんも勝てます!!』

 

 『早く戻ってこい楓! 皆待ってるぞ!!』

 

 

 

 「……皆」

 

 「凄い大声だねぇ」

 

 悩む楓の耳に、仲間達の声が聞こえた。夏凛の時のように精神世界に響いたその声は確かに彼の心に届き、精霊は朗らかに笑いながらそんなことを呟く。そんな精霊を見据え、楓は再び考える。焦りは、仲間達の声援で落ち着いたようだ。

 

 (皆戻ってるのか……なら自分がいつまでもこのままで居る訳にはいかないねぇ。出来るなら()()()()()()皆に声を届けたいところ……)

 

 そこまで考えて、楓はハッとした。それはもしかしたらこの状況を打破できるかもしれない考え……思い付きだったからだ。無論、無駄に終わる可能性もあるが……楓は仲間達の声援のお陰で思い付いたことに感謝の笑みを浮かべ、この思い付きに殉じる気持ちで口を開いた。

 

 「……君は、自分達勇者に問い掛け、論戦する為に生まれた精霊だよねぇ?」

 

 「いきなりなんだい? ……そうだねぇ。でも自分はさっきも言った通り、君にそれをするつもりは」

 

 

 

 ― それって、自分で自分の存在理由を否定してるよねぇ ―

 

 

 

 鋭く切り込むような楓の言葉に、精霊が朗らかな笑みを消して口を噤む。赤嶺は言った。“自分自身との戦い”だと、“精神の競い合い”だと。愛媛の半分を取られるというリスクを犯してまで準備した末に生み出されたのが目の前の精霊。その生まれた意味を、やるべき事を放棄し、存在理由を自ら否定しているのだと、楓は言う。

 

 「……」

 

 「おや、反論は無しかい?」

 

 「……今の自分の役割は、君をこのままこの世界に閉じ込めておくことだ」

 

 「だけどそれは君が生み出された理由じゃない。君が()()()()()()()()()じゃない。それに、皆が戻ってきたという事は皆の所に行った精霊は役割をこなしたということになるねぇ……なのに」

 

 君()()は何もしないんだねぇ。そう言って、楓は精霊を無表情に見つめる。焦りも、怒りも無い、普段の朗らかな笑みも無い無表情を意識して浮かべる。そんな彼の表情に、そして言葉に、精霊は無意識にか1歩後退った。そして口を開いて何かを言いかけ……食い縛るように閉じる。それも当然の事だろう。今の精霊は赤嶺……ではなく“造反神”から楓を()()()()()()()()()この世界に捕まえておくように命令を受けている。ここで何かを言えば、それは“反論”となる。

 

 つまり、楓と“論戦”をする……した事になる。それは出来ない。そう命令されているから。楓の言葉に反論したくてもそれは許されない。逆に楓の過去を見て論戦を仕掛けたくともそれは許されない。そう命令されているから。

 

 「が……ぐ……」

 

 精霊が呻く。さっきまで焦って、そう遠くない時間に“赤”に……造反神の手に落ちるしかなかった筈の楓に己のことを好き勝手言われ、生まれて初めて感じる煮え滾るような熱い何かの感情を胸の奥に感じてそれをそのまま言葉にしたくともそれが出来ない。“言葉”で試練を与える為に生まれた筈の精霊が、その創造主の命令によって言葉を封じられていた。

 

 「……ああそう言えば、赤嶺ちゃんが言ってたねぇ」

 

 

 

 ― 質問に答えられなかったり、論戦の末に論破されちゃったりした場合には悲しい事が起こる……ってねぇ ―

 

 

 

 「あ……う……っ……ああああああああああああああああああああっっ!!!!」

 

 楓がそう言い終わると精霊は胸を、喉を両手で掻き毟るようにガリガリと動かした後に、悲痛な叫び声を楓に殴りかかってきた。物理的な攻撃は無駄だと、自分でも言っていた筈なのに。無論、その拳は楓に届いた所で意味を成さない。それでも精霊は拳を振り続け……そんな精霊を、楓は憐れみの目で見ていた。

 

 その精霊の目には、今までに無い程の様々な“感情”が込められていた。好き勝手言われた“怒り”。それに反論出来ない“悔しさ”。試練を与える側だった筈の自分が逆に問い掛けられ、設定されていた敗北条件を満たしてしまった事の“絶望”。そして、今になって気付いた……否、目を剃らしていた現実……産みの親によって存在理由を取り上げられたという“悲しみ”。

 

 「自分だって! わ、私だって! 俺、あたし、ワタシ、僕、わたし、オレ、アタシ、ボク、だって!! ちゃんと! ちゃんと……なんで、なんで、なんで」

 

 

 

 ― なんで……自分だけ……っ ―

 

 

 

 自分だってちゃんと。自分だけなんで。その続きを、精霊が言葉にする事はなかった。もしかしたら、出来なかったのかもしれない。楓に、仲間の誰かに、名も知らぬ誰かにとスライムのようにぐにゃぐにゃと何度も姿を変えながら子供のように泣き喚いてそう何度も繰り返す精霊に、楓は思わず目を伏せた。いや、実際にこの精霊は子供……何なら赤子と言っても言い程に生まれて間もないのだ。その考えに至った楓は、精神世界が迫る“赤”を逆に塗り潰すかのように真っ白な光に覆われていくのを視界の端に認め、精霊の姿も消えていくのを見て精霊に勝利した事を確信し……。

 

 「……こんなにも気分が悪い勝利は初めてだねぇ」

 

 心底嬉しくなさそうに、吐き捨てるようにそう呟いた。 




原作との相違点

・捕まったまま連行される赤嶺

・ボソッと意味深な一言を付け足した千景(精霊)

・情緒不安定な精霊

・造反神フライング登場(?)

・今度から相違点ではなく、本文に無かった一幕の会話とか書こうかと思います←



という訳で、精霊との論戦の続き~全員勝利までのお話でした。この話を書いてる時に改めて原作の方見てましたが、やっぱり歌野の精神の強さは勇者随一やなって。千景ちゃんも精神的に強くなって本当にもう……このまま永住したらいいのに←

囚われた楓の脱出方法は、対話も論戦もしてこない精霊に逆に論戦を仕掛けるというモノでした。原作では精霊からの問い掛けでなければ無理かも知れませんが本作ではこのような形に。これも全部、造反神って奴の仕業なんだ。

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