2回目ワクチン摂取の副作用が思ったよりも重く、執筆に随分と時間が掛かってしまいました。話には聞いていましたが、かなり体にキますね。そんな私よりももっと重い症状が出る人と居るのですから、必要な事とは言え怖いものです。
ここ暫くガチャ運はマイナスに振り切っているようであらゆるアプリで爆死続きです。水着鯖は出ない。新LR悟空は出ない。新ウマ娘も出ない。白夜極光は遅れてヒイロがやってくる。ガブリエル来てくださいというかチェンジャー本当に来て頼むから……。
さて、今回で1つの山場である精神攻撃編は終結。それでは、どうぞ。
「精霊が消えていく……」
「カエっちが勝ったんよ~!」
「おっと……のこちゃん、ということは戻ってきたみたいだねぇ。ただいま、皆」
「お帰り楓くん! ……楓くん? どうしたの?」
「ああ、いや……ちょっと、精神世界で色々とあったからねぇ」
男の楓の姿をした精霊が精神世界とは違って静かに消え去っていく様を安堵した表情で美森が見送った後に楓が目覚め、それを確認するや否や即抱きつきに行く園子(中)。それを慣れた様子で、半ば反射的に受け止めた楓は精神世界から脱出出来た事を把握してそう呟く。その言葉に直ぐに返したのは友奈。が、彼の表情がこれまで戻ってきた者達と違ってどこか暗いことに気付き、首を傾げながら問うとそう返ってくる。
その言葉に成る程、と皆は内心頷く。だが、楓が睨むように赤嶺を見ると思わずビクッと肩を跳ねさせる者が2人。夏凛と銀(中)である。他の者達も楓の様子に驚きを隠せない。それは睨み付けられている赤嶺も同じだった。何せ誰が見ても分かる程に怒気を放っている楓を見るのは初めてだったのだから。
「赤嶺ちゃん……あの精霊を用意したのは君だったねぇ」
「えっ……と、そうだね。でも、楓くんの前に現れた精霊は私は知らないよ。私は元々、楓くんに精霊を差し向けるつもりはなかったんだし」
「……本当だろうねぇ?」
「ほ、本当だよ。私だって楓くんが精神世界に連れていかれたのは予想外だったんだから」
「となると、用意したのは造反神か……そうか」
「カエっち……?」
「……後で話すよ。樹海から戻った後にでもねぇ」
声を掛けられて一瞬言葉が詰まったが、直ぐに平静を装いつつ口を開く赤嶺。普段よりも少しだけ話す速度が速いのはご愛敬というものだろう。嘘じゃないだろうなという副音声が聞こえてきそうな追及が来ると首を縦に振りつつ本心からそう返す。そこでようやく楓の目線が赤嶺から外れ、睨まれていた本人は安心したように小さく息を吐く。
その後ボソッと小さく呟かれた言葉が聞こえたのは抱き付いたままの園子(中)だけだった。声に含まれた怒りに気付いた彼女は少し不安そうに名前を呼び、その声にハッとした楓は苦笑いを浮かべつつ彼女を安心させるように頭を撫で、柔らかい声色でそう呟いた。
「ちょっと楓がご機嫌ナナメだけどそれはそれとして……見たか赤嶺 友奈! これがオールスター勇者部の精神力ってもんよー!」
「誰を狙おうが空振りさ!」
「……確かに、正直全員戻ってくるとは……コングラチュレーション。それじゃ……力を溜めた私が直接戦うしかないかな」
「あら? いつの間にか鞭がほどけてる!?」
「白鳥 歌野に精霊をぶつけた時点でほどけていたよ。これ以上追い掛け回されたくなかったから後ろ手で鞭を持って捕まった振りをしてただけ」
「っ、戦闘態勢に入ってるわ。皆、気を付けて!」
声と共に表情も柔らかくなった楓に安心しつつ風が勝ち誇るように赤嶺を指差しながら叫び、銀(小)が続く。用意した精霊が全て消え、全員戻ってきているので赤嶺も彼女達の叫びも当然と頷き、勇者達を褒め称える。ならばと拘束されていた筈の腕を動かし、その拳を握る。
いつの間にか鞭による拘束が外れている事に歌野は驚くが、その後の赤嶺の言葉に成る程と頷く。秒殺したとは言え精神世界へと飛ばされたのだから現実の体は無防備……つまり力が入っていなかったのだ、鞭の拘束が外れているのも当然だろう。そうして戦闘の意思を見せる赤嶺に美森は周りに注意するように言い……そして、彼女が動く。
「行くぞ……!」
「私が止める!」
「……勇者パンチ」
「勇者ぁ、パーンチ!」
赤嶺の前に出たのは友奈。2人が繰り出すのはお互いに右の拳。赤嶺は静かに、友奈は何時ものように叫びながら拳を突きだし、ぶつけ合う。思わず雪花が“凄いぶつかり合い”だと感想を漏らす程の重い音と衝撃が走り、弾かれるようにして2人の距離は1度開く。
「前より全然強くなってる!?」
「当然、そうでなければ意味がないよ。さぁさぁ、皆出てきて出てきて」
「お馴染みの愉快なフレンズ……バーテックス軍団ね」
「精神攻撃より……こっちの方が……うん、分かりやすくていい。行くぞ、赤嶺 友奈」
赤嶺と直接戦ったのはあの部室への奇襲を受けた時が最後。そこから時間が経っているし、あの時は彼女自身全力を出している訳ではなかっただろう。しかし、それらを横に置いても友奈が驚愕するには充分なほど赤嶺の拳は重く、強くなっていた。更には先程ちらっとだけレクイエムが出てきただけでそれ以降影も形も無かったバーテックスが普段の様にわらわらと現れる。
しかし、いきなり出てこようが大量な現れようが普段通り過ぎて驚くことすら無くなった勇者達。むしろようやく現れたなとやる気満々に武器を構える始末。中でも精神攻撃を受けなかった者達は待っているだけだった分力が余っている様で今度は自分達が頑張る番だと張り切っている。
そして始まる直接対決。いつものように楓の光の絨毯に乗る上空組と他の地上組に別れ、各々の戦場でバーテックスを撃破していく。赤嶺は友奈がそのまま抑え、皆は周りの対処。普段よりもバーテックスを倒す速度が速いのは気のせいではないだろう。と言うのも先程も言ったように待つばかりで鬱憤と力が余っている者達がそれを晴らすように戦っている事。
「3人とも……悪いけれど、今回だけは援護より攻撃に集中させて欲しい。いいかい?」
「は、はい! 任せて下さい!」
「私達なら大丈夫ですから」
「ありがとねぇ、須美ちゃん、杏ちゃん。さて……今の自分は少し虫の居所が悪いんだ。いつもより派手に行かせてもらうよ!!」
(楓君がここまで怒るなんて……精神世界で何があったのかしら)
「楓さんって怒ったら滅茶苦茶怖いんすね……雰囲気とか、戦い方とか」
「お前も元の時代に戻ったらあれくらい怒られる覚悟しとくんだぞ。アタシも通った道だから」
「未来のアタシにいったいなにが!?」
中でも楓の戦い方は普段よりも苛烈だった。援護は任せたとは言うものの、普段より少ないとは言え地上組の援護はするし誤射もしないように気を付けているが……精霊とのやり取りや造反神に対して余程腹に据えかねているのだろう、獅子座のような太いレーザーや満開した美森の砲撃のような大きな、かつ大火力の光の攻撃を多様し、空中に派手な花火を咲かせている。彼がここまで怒りを顕にするのは、そしてそれを勇者達にも見せるのは本当に珍しい。だからこそ、精神世界で何があったのか美森は気になっている。
そして普段の朗らかな笑みや柔らかい雰囲気から掛け離れた雰囲気や戦い方、怒り様にびっくりしている銀(小)。隣で戦う新士の普段の様子と楓本人の様子と比べても驚くのは仕方のない事だろう。言葉にしないだけで他の勇者達も、赤嶺すら内心驚いているのだから。そんな彼女に実際に怒られた事がある銀(中)は銀(小)に心構えをしておく様に言う。彼女にとっては過去の出来事だが、銀(小)にとっては未来の出来事なのだから。
「勇者ぁ、キーック!」
「……勇者キック」
「わっと、弾かれちゃった! ならもう1度、勇者パーンチ!」
「なら私も、勇者パンチ」
他のメンバーがバーテックスの殲滅に勤しむ中、友奈は赤嶺と激闘を繰り広げていた。最初の拳のぶつかり合いで分かっている事だが、2人の攻撃力はほぼ互角。友奈が勢い良く飛び蹴りを繰り出すと赤嶺は体を1回転して勢いを付けてから右足を突き出す横蹴りで対応。結果としてお互いの足裏がぶつかり合い、再び弾かれて距離を開ける。
弾かれた勢いで空中で1回転しつつ着地した友奈は地を蹴り再び右拳を突き出す。ならば此方もと赤嶺もまた右拳を突き出し、再度ぶつかり合う両者の拳。それは先程の焼き増しのように同じ結果を生み出し、また距離が開く。かと思えばまた友奈が距離を詰め、今度は勇者パンチと叫ぶ事無く、素早く拳に蹴りにと繰り出し、赤嶺も対応する。
打つ打つ打つ打つ。捌く弾く流す避ける。勇者の身体能力を持って繰り出される友奈の拳と蹴りを、赤嶺もまた同じ身体能力、そして経験か技術か両方か、それらを持ってして対応していく。それは明らかに人と戦う事に馴れた者の動きだった。だが、友奈とてこの世界に来てから彼女と出会った事で模擬戦なり訓練なりと仲間達と共に行っており、元の世界に居た時より対人戦にも慣れた。攻守が逆転しても早々当たる事はない。
そうして2人が戦っている内に、バーテックスの姿はすっかり無くなっていた。普段よりも勇者達が攻撃的であり、楓など後先を余り考えず力任せかつ大雑把に吹き飛ばすような攻撃ばかりしていたのだから殲滅速度が早まるのも当然と言うもの。普段は敵の後続を警戒したりしてある程度温存するのだが今回はそういうのは一切無し。彼の怒りの度合いが分かると言うものだ。
「か、勝てた、勝てました。さぁ大人しくして下さい。縛ります」
「自分もやるよ樹。ちょっときつめにねぇ」
「くぅぅっ、糸で雁字搦めっていうかぐるぐる巻き……しかも本当にきついから胸の部分とか圧迫されて苦しいんだけど」
「……」
「待って待って待ってなんでもっときつくんぐぐぐぐ!?」
「こうでもしないとマジックショーでまたまた逃げるでしょう。でも口まで縛ると話せないわ。樹さん、口のホールドはやめましょう」
そうして勇者達の勝利が確定した事で友奈の元へと全員が集まり、流石に多勢に無勢と見たのか赤嶺も戦闘行為を止めたところに樹と楓の緑と白のワイヤーで全身ぐるぐる巻きにされる。楓はまだ怒りが収まりきっていない事と今度こそ逃がさないという意思を込めて樹よりもきつめに巻いた。
そうして彼女の全身を余さず縛ったのだが、その結果勇者服の上から分かる同年代にしては豊満な胸が潰れるようにワイヤーで締め付けられている為、彼女も少々息苦しそうにする。その言葉と、そしてつい胸部へと視線を向けた樹の目が死に、ギリギリと音が聞こえてくる程ワイヤーをきつく締め上げる。更には口元も縛って喋られなくする始末。歌野に言われて彼女は力を緩めて口元のワイヤーも外したが、この時赤嶺は割と本気で命の危機を感じていたそうな。
「あのままバーテックスみたいにバラバラになるかとタマは思ったぞ……さぁ事務所へ行こーか姉ちゃん。な! タマが話聞くから! あいてっ」
「人に精神攻撃を仕掛けた罪は重いわ。それから土居さん、嫌な想像させないで」
「とっても怒ってるね。まあ当然だよね」
「……私、分かりません。精神攻撃は嫌だったけど、それでもきちんと抜け出す説明はなされていた……」
「そうなんです。貴女はなんというか、まるであの手この手で私達を試しているかのよう」
「……ふふ。重要なのはそっちが勝ったって事だよ。造反神の勇者相手に。凄いことだよ。造反神は天の神に近しい力の持ち主なのに」
赤嶺に巻かれたワイヤーを見てバーテックスのようにバラバラになるのではないかと悲惨な想像を口にした後にまるでその手の人間の様な言い回しで迫る球子。同様に淡々とした口調で大鎌を手に迫る千景。その後嫌な想像をしてしまった原因として軽く球子の頭を小突いた。
彼女の言葉や何人かの勇者の怒り混じりの視線にそれも当然だと頷く赤嶺に、杏と須美は疑問をぶつける。今回もそうだが、以前から彼女の行動や言動は勇者達を倒すというよりは試すように感じる物が多い。今回とて精神攻撃やその脱出方法の説明をわざわざ事前にしていた。敵対しているのであればする必要等無いのに。
だが赤嶺はその疑問に深く答える事はなく、重要なのは勝敗だと言って流し、天の神に近しい力を持つ造反神に、その勇者に勝った勇者達は凄いのだと本心から褒める。その言葉を聞き、勇者達は造反神がそこまで強大な存在なのかと驚く。
「そ、そこまで強い存在なんですか?」
「うん。もう1体……いや“
「そこまで強いなら、初期にあそこまで追い込まれていた理由も分かるわ」
「敵の色で真っ赤だったからね、四国」
「でも、それならばまず天の神に負けはしなかったのでは?」
「天の神は周囲も強いからね。何より別……まあそれはいいか……また作戦を見直してくるよ。皆、バイバイね」
「そう何度も逃がさないぞ!」
「もう無駄だって薄々分かってるのに動いてみる辺りは流石勇者だね。お姉様に強く掴まれるのは嬉しいな」
「っ!?」
「あらら~♪ なんて感心してる場合じゃないよ! ……あぁ、やっぱり消えちゃった」
何やら気になる呟きを赤嶺が漏らしたが、その意味を勇者達は知り得ない。だが、美森の言う通りこの世界に来た時に見た四国の地図が敵を表す赤色でほぼ染まりきっていた程追い込まれていた理由は分かった。しかしそこまで神としての力を持つのなら天の神とも渡り合えたのではないかという須美の疑問に、赤嶺はまた意味深な呟きをしつつそう答える。“天の神”と一口に言っても、実際には地の神の集合体である神樹の様に1柱だけの存在ではないのだろう。
そこまで話したところで、これまでと同じように彼女の周りに風が吹き荒ぶ。半ば予想していたとは言え、やはりワイヤーでぐるぐる巻きにしようが関係無く彼女はどこかへと瞬間移動出来るらしい。そうはさせまいと棗が風をものともせずワイヤーの上から赤嶺に掴み掛かる。その行動に嬉しそうにした後、2人のやり取りに園子(中)が嬉しそうな声で感心した頃には既に赤嶺の姿は無く、ワイヤーを抱き締める棗が居るだけだった。
「やっぱり捕まえるのは無理みたいだねぇ……」
「ぬぐぐ。となるとやはり心を折るしかないようだ。赤嶺 友奈……」
ワイヤーを消しつつ悔しげに呟く楓と球子。今回の戦いには勝利したハズなのに赤嶺に逃げられたことにより、どこかスッキリしない気持ちを抱えつつ、勇者達は樹海を覆い尽くす極彩色の光と共に部室へと戻るのだった。
「……成る程、そんな事が。ともかく皆さん、お疲れ様でした」
「精神攻撃なんて怖いなぁ。皆が無事で良かったよ」
「それに対話をしないことで精神世界に閉じ込めるなんて……楓くんもだけど、皆が打ち勝ってくれて本当に良かった」
「怖いものを“怖い”って認められるみーちゃんなら、精神攻撃受けても平気よ」
「そーかなぁ」
部室へ戻り、変身を解いた後に今回の出来事を巫女達に報告する勇者達。流石に精神への攻撃、精霊との対話には驚く巫女達。勇者達も楓が他の者達とは違う手段で閉じ込められていたと知って驚いている。だが、その驚きよりも打ち勝ったとは言えこれまでにない攻撃を受けた者達への心配が勝るのだろう、心配そうな視線を向けている。その視線に気付いた者達は笑って大丈夫だと言外に告げる。
「精神攻撃を受けた皆は、念のため数日安静にしていてね」
「大丈夫、平気だよ」
「自分も平気……だと言いたいけど、一応そうさせてもらおうかな。色々疲れたしねぇ」
「そうだな、ここは言葉に甘えて休んでいこう。私達は長く戦っていくんだからな」
「ふー。最近楽だった分、流石に今回のは疲れたわね」
「でも、とても大きな勝利ですよ。これで愛媛の大部分は奪還出来ました」
今回精神攻撃を受けた者達へ風がそう告げると高嶋が直ぐに問題無いと手を振る。楓もそれに続くが、皆の心配も分かるので近くの椅子に座って休む姿勢を見せる。予想外の精神攻撃もそうだが、楓自身色々とピンチだった上に大暴れしたので肉体的にも精神的にも疲労がある。それに予想外の悪影響があるかもしれないし、若葉が言うようにまだまだ戦いは続くのだ、休んで英気を養うのも大切だろう。
しかし、そうして色々あった戦いも勝利で終わった。それにこれまでの勝利と合わせればひなたが言った通り愛媛の大半を奪還した事になる。球子と杏の故郷を完全に奪い返す日もそう遠くないだろう。
「よーしよし、美しい国は守られた!」
「球子さん、私の真似? だったらもっとこう、想いを込めて」
「愛媛全部を取り返せば、実に四国の半分を取り返した事になります」
「そうなったらもうこっちが有利ですよね。神樹様の力も大きく戻るし」
「そうしてわた……神樹、様の力が戻れば、勇者の皆にもっと力が渡るし、更に奪われた土地の奥へと踏み込めるからね」
「はい。高知と徳島、同時に攻め込む事だって夢ではありませんよ。次の戦いは、愛媛奪還戦であると同時に天下分け目の激突とも言えましょう!」
「関ヶ原って訳ね。女子力も俄然高まるわ」
球子が美森の真似なのか胸を張って言うが、本人から即座にダメ出しを食らう。それはさておき、と口を開くひなたに水都が続き、更に神奈が続く。この世界にやってきた当初は殆ど後が無い状態だったが、今ではほぼ拮抗する迄に土地を奪還出来ている。勇者の人数も多い為、ひなたが言うようにこのまま行けば残りの2県に戦力を分散して同時に攻略することも不可能ではないだろう。
しかし、それも愛媛を完全に奪い返してからの話。造反神側とて今回の精霊を用意するために土地の奪還を黙って見ていた形になっていたし、今回の敗北で更に取り返されたのだ、次の戦いではこれ以上奪い返されてなるものかと奮起する可能性が高い。激突する事は必至だろう。それを聞いた風のやる気が高まる。そして、やる気が高まるのは彼女だけではない。
「その戦いでは役に立ちたいものだ。今から鍛練をしておこう」
「お? お? もしかしてこの世界の戦いも終わりが見えてきたって事ですか」
「……」
(雪花ちゃん……?)
「よーし、次も頑張るぞ。どんな手段で妨害してこようが、負けない!」
「そうだねぇ。次も勝って、しっかり愛媛を取り返そうか」
精神攻撃を受けなかった事と受けた仲間達に何もしてあげられなかった事を悔やんでいるのか、そう言って棗はやる気の炎を燃やす。銀(小)はここまでの話を聞いてこの世界の戦いのゴールが見えてきたのだと少し浮かれていた。これまでは土地の奪還が先決で戦いを終わらせるのは遥か先の話だったのだ。それがようやく半分……折り返し地点まで来た。終わりが近付いてきているのは確かだろう。
そんな風に浮かれている彼女や周りとは対照的に、雪花は1人浮かない顔をしていた。その様子に気付いたのは神奈のみであり、彼女は気になりつつもひとまず黙っている事にする。2人の様子が気付いていない友奈は棗同様にやる気を漲らせ、楓も頷いてそう締め括る。そこまで話したところで今日のところは解散となり、皆は各々の帰路へと着くのだった。
その日の夜、別の時代からこの世界にやってきた者達が暮らす寄宿舎。入浴や食事を終え、後は就寝するまで思い思いに過ごす時間。とある人物の部屋の扉がノックされた。
「はいはーい、ちょっと待ってね……あら、神奈じゃない」
「こんばんは、雪花ちゃん。今大丈夫かな?」
「珍しいねこんな時間に。いいよー、入って入って」
部屋の主は雪花でやってきたのは神奈。お互い寝間着姿で髪も下ろして寝る準備は出来ているようだ。快く部屋に招き入れた雪花は珍しそうにキョロキョロと部屋を見回す彼女を見て小さく笑い、ベッドに座るように促すと素直に神奈は従って座り、雪花は対面するように椅子に座る。
雪花の部屋は他の部屋と同じような内装でそこまで変化は無かった。強いて言えば本棚にファッション雑誌や日本の城に関する本が入っているくらいだろう。そういうのが好きなのだろうかと思っている神奈に、雪花は問いかける。
「んで、こんな時間にどしたの急に。いつもなら千景と銀ちゃんとかと一緒にゲームしたりしてるじゃない?」
「今日は大事を取って早めに切り上げたんだ。疲れてるハズなのにまた1勝も出来なかったよ……」
「神奈が千景達に勝つのはまだまだ先かにゃー? 因みに何やってたの?」
「格闘ゲームだよ。やっと弱攻撃、中攻撃、強攻撃を意識して続けて出せるようになったんだ!」
「私はあんまりゲームやらないからよく分からないけど、多分それって基本中の基本みたいなもんだよね。いやうん、凄い凄い」
時計を見て時間を確認し、普段ならだいたい千景の部屋で3人集まってゲームをしているのは周知の事実。珍しいと表情と言葉で伝える雪花に、神奈は項垂れながら答える。以前よりは上達しているようだがまだまだ2人に勝てる……渡り合うのは先の話だとからかうように笑った後にそう聞くと今度はむんっ、と両手を握りながら力説される。
話の内容的にそこまで力説するような事ではないのではないかと思うものの褒めて褒めてと神奈の雰囲気が言っているので雑に褒めつつ、それはそれとしてと話を戻すように促す雪花。するとさっきまでの褒めてオーラが嘘のように鳴りを潜め、俯きながら彼女は口を開く。
「その、部室で銀ちゃん……あっ、小学生の方の銀ちゃんね? この世界の戦いも終わりが見えてきたって言った時に雪花ちゃん、浮かない顔してたから。どうしたのかなって……」
「あー……そっか、顔に出ちゃってたか」
「うん。何か気になる事でもあった?」
「気になるっていうか……そうだにゃー、このまま近い内に戦いが終わったらって思っちゃってさ」
「戦いが……終わったら?」
苦笑いする雪花の言葉に神奈は首を傾げる。戦いが終わったら。それは、考えて当然の事だろう。最初の頃はまずは土地の奪還が最優先であり、そう言った話は考えるには早いと後回しにしていた。だが、半分近く土地を奪還したことで戦いが終わった後の事を考える余裕が少しずつ出てきている。銀(小)が言ったのもその余裕の表れだろう。
そう、この世界の戦いもいつかは終わりがやってくる。それは当然の帰結であり、勇者達が目指すところでもある。土地を全て奪還し、造反神を倒し……そして、元の時間軸へ、元の世界へと戻る事が。
「ここはさ、居心地が良いんだよね。私にとっては元の場所よりもずっと」
「それは……」
「ああ、別に戦いを終わらせるつもりはないって訳じゃないよ。ただね……戦いが終わってもこのまま……とか思っちゃうんですよ私は」
雪花が語るのは、恐らく誰にも言った事がない心の内。こうして本音を語るのは、他ならぬ彼女自身が驚いていた。誤魔化す事は出来た。何でもないと言って適当に話を逸らす事だってきっと出来た。だが何故だろうか、彼女は目の前に居る神奈にそれらをする事は憚られた。それはきっと、共に過ごす内に心を開き、信用や信頼といった感情を向けているからだろう。
そんな彼女の言葉や表情を見た神奈は、何も返せずに居た。正直に言えば、彼女は雪花に共感を覚えていた。何せ、2人は共通している部分がある。それは、元の世界では独りであるということだ。雪花は元の世界……北海道で、人間関係に恵まれなかった。寒い北の大地で、心身を冷やしながら孤独にバーテックスと戦ってきたのだ。彼女にとってこの世界で出会った勇者達は、ようやく出会えた本当の仲間であり、友人……暖かな感激である。
神奈もまた、独りだった。彼女は四国を守る神樹……“私”その人。勇者が傷付いても見ていることしか出来ず、共に戦うことは出来ない。楓以外と言葉を交わすことも出来ず、ずっと同じ場所から動かない……動けない。肉体と呼べるモノを持たないから。ただ近く、そして遥か遠い場所から見守ることしか出来ない。それは今もさほど変わらないかもしれないが。
(……でも……)
内心で思う。雪花の思いを叶える訳にはいかない。正確に言えば……
それでも共感を覚えるのは、“私”である神奈自身がこの世界で人間であり、巫女であり、勇者部であり……雪花達の仲間である神谷 友奈として過ごしてきたからだ。もっとこの時間が続けば良い。もっと一緒に話せたら良い。もっと一緒に、もっともっと一緒に。人間と同じような心を持った1柱の神は、神より遥かに身近な存在で居られるこの世界が好きになっていた。試練でなければ良いと、そう思ってしまう程に。
「……変な子だねぇ神奈は。別に泣くことはないでしょうに」
「え? あ……私、なんで、泣いて……涙なんか……」
「私の考えなんだから、そこまで思い詰めた顔しなくてもいいのに。ああほら、擦ったらダメだって」
いつの間にか、自分でも気付かない内に涙を流して混乱する神奈。それを見て苦笑いする雪花は目を擦る手を止めさせ、タンスの引き出しからハンカチを取り出して拭った。そんな彼女の優しさに触れて余計に顔を歪ませ、涙はいつまで経っても止まらず……抱き着いてきた神奈を、雪花は驚きつつも抱き返し、その後ろ髪を優しく撫でる。
ごめんなさいと、神奈はそう言いたかった。必ず来る別れに、決して思いが叶わない事に。そして、ありがとうと言いたかった。別れを惜しんでくれる事に、この世界にずっと居たいと思ってくれている事に。だが、それは出来ない。今此処に居るのは神谷 友奈という1人の少女。神樹として、“私”としての言葉を伝える訳にはいかない。この戦いを、試練を与える側であり、見守る側である神として。
そんな様々な思いが溢れ、涙となった。何も言えないけれど、それでも伝えたくて抱き着いた。きっと……雪花は不思議に思うだけで何も伝わってはいない。それでも、神奈が何かを思い、それが雪花への思いであることは……何となく理解しているだろう。
「こういうのはかーくんとか風さんとかひなたとかの役割だと思うんだけどにゃー。でもま……雪花さんので良ければこのまま胸を貸してあげる」
「うん……っ」
声を圧し殺して泣き続ける神奈を見る彼女の目は、とても優しいモノだったから。
「ビュォオオオオウ! 今、すぐ近くでとてつもない波動を感じたんよ! 早く行かないと!」
「待て園子、今は絶対行っちゃダメな空気だと思うぞ! 多分本当ならあたしらも出ちゃダメな感じだ!」
「銀ったら何を訳のわからない事を……そのっちも急に立ち上がらないで」
「夜中なのに元気だねぇ。ほら、トランプ片付けるよ。早く自分達の部屋に戻りなさい」
「「「はーい」」」
今回の相違点
・お怒り楓にちょっとビビる者数名
・原作よりも早く本心をちょっと吐露しちゃう雪花
・ビュォオオオオウ
・後書きの相違点を無くそうと思うが無くならない……←
という訳で、精神攻撃編の終了と雪花の本音というお話でした。戦闘描写は控えめですが、かなり楓が大暴れしています。赤嶺ちゃんは戦闘スタイルはカブトのイメージ。豪快というよりスマートに叩き込みそうですよね。
最近気付いた事ですが、どうにも私は自分が思っている以上に雪花というキャラが好きなようです。無意識に優遇してる気がする。そして何故か神奈と絡ませたがる←
そろそろリクエストの方も消化しないといけませんね。後どれくらい残っていたんでしたっけ。個別√も書かねば……。
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