咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました、ようやく更新です(´ω`)

遂にきらめきの章の数字が40に……ストーリー的にはまだ半分ちょっと越えた辺りなのに。このペースなら80越えますね。リクエストも残ってるのに←

大満開の章始まりましたね。事実上くめゆアニメ化とは予想外でした。でも動くくめゆ組良いぞ良いぞ。こっちでも早くくめゆ組出して爺孫やりたいですな。

fgoは相変わらずガチャ運に恵まれませんが、ゆゆゆいで新UR芽吹、コトダマンではウォンレイ以外のガッシュコラボキャラ、dffooではサイスを初め色々とLDEXBTをゲット。ユウナ本当に嬉しい。

さて、今回は遂に(?)造反神の目的が明らかに……?


花結いのきらめき ー 40 ー

 (流石に、今回の件は問い質さないと)

 

 雪花の部屋から出て自室へと戻ってきた神奈は、部屋の壁の天井付近に備え付けられた神棚に向きながら真剣な……そして怒りが混ざった表情を浮かべる。理由は当然と言うべきか、今回の戦い……中でも楓を精神世界に捕え、脱出させないようにした事だ。

 

 この世界における戦いは、そのほぼ全てが勇者達への試練である。それを神奈は……“私達”は当然把握しているし、実行している言わば運営側。精神攻撃も試練の一環であるし、何なら楓が女になっているのもその側面がある……のかも知れない。曖昧なのは戦い、試練の内容そのものは造反神側が決めており、神樹側は勇者達のサポート以外はノータッチだからだ。

 

 だが、今回の楓の監禁未遂……それに加え、話を聞いた神奈は造反神が精神世界で彼の拉致未遂まで行ったと考えている。試練の内容を一任しているとは言え、これは流石に度が過ぎている……というより、本当に必要な事なのか疑問に思ったのだ。これが精神攻撃を受けた全員にも行われていたのならともかく、性転換の件も含めて楓が狙われ過ぎている。不審に思うのも当然だろう。

 

 (……答えて)

 

 神奈は祈るように両手を組み、目を閉じる。瞬間、密閉された部屋にも関わらず柔らかな風が吹き、彼女のパジャマや髪を揺らす。もし今の彼女を外側から見ている者が居れば、淡く緑色の光がその身を包み、さながらホタルのような同色の数多の光の珠が周囲に浮かぶ幻想的な光景が見られた事だろう。

 

 心の中で短く呟き、造反神……“彼の神”の名を思う。そうして意思を繋ごうとする傍らで、神奈は罪悪感を抱く。神である彼女は、造反神……敵の首魁と繋がる事が出来る。文字通り、人間として勇者達の仲間と共に行動しつつ神としては試練を見守っているのだ。それはスパイ行為とも言えるし……ある種の裏切り行為とも取れる。少なくとも本人自身はそう考え、罪悪感に苛まれている。

 

 また泣きそうになる。罪悪感に押し潰されそうになる。それでも今の暮らしが、勇者達と共に居る事が楽しく、甘美で離れる事が出来ない。ああ、本当に人間のように考え、思うようになったなぁと苦笑いしたところでようやく意思が繋がった。

 

 (答えて。今回の試練の事を。楓くんの事を。何故そうしたのかを……目的を)

 

 ― ………… ―

 

 緑色の光の珠の中に赤い光の珠が1つ。それが造反神の意思……その端末のようなモノ。それが彼女の前に移動し、神同士でのみ伝わる意思を交わす。そのような言葉無き会話を続ける事数分、神奈は思わずそれを言葉として口にする。

 

 (……それが、目的? 確かにそれをすれば、“私達”はその存在をより強く出来るかも知れない。少なくとも寿命や力については心配が無くなるし、天の神にだって……)

 

 ― ………… ―

 

 (でも、それはダメ。“私達”はそれでいいかも知れないけれど……それで、人間は確かに救われるかも知れないけれど。勇者の子達も、家族や友達、そんな繋がりを持つ人達が悲しむ。それに彼の意思も無視してる……本当の本当に、もう後がないってくらいの最後の時に、楓くん本人に聞くべきだよ)

 

 造反神が楓を連れ去ろうとした目的を聞き、神奈は驚き、そして納得し、しかしそれはダメだと首を横に振る。造反神の目的はこうだ。

 

 

 

 ― 高次元の魂を持つ犬吠埼 楓を、神樹を構成する神として迎え入れる ―

 

 

 

 奇しくも、というべきか、それは本編勇者の章……“咲き誇る花達に幸福を”で天の神が楓にやろうとしていた事と殆ど同じである。無論、この時点では誰もその事を知らないのだが。言ってしまえば、造反神は楓と神婚しようと言っているのだ。そして、そうする事のメリットは大きい。高次元の魂を持つ楓と神婚し、取り込む事で遥かに力や寿命は増すだろう。もう天の神に脅えなくても良くなる事だろう。

 

 だが、と神奈はそれを拒む。“私達”として言えば、納得はしている。元より人間達を守ってきたのだ、それがより強固に、確実になるのならばやるべきだろう。だが“私”として、神奈としては納得出来ない。それは人間と同じような心を持ち、倫理観や道徳観、良心と言ったものが育まれたからだろう。何よりも、彼女はもう勇者達が悲しい思いをするのも、悲しい表情をするのも嫌だった。

 

 ― ………… ―

 

 その言い分を、一先ずは受け入れる造反神。彼の神もまた“私達”の中の1柱、神奈の思いも理解しているのだ。だが、この世界の戦い……試練を越えられないようならば天の神の打倒や人間達を生き長らえさせるなど夢のまた夢。もし越えられなければ、確実な手段を取るだろう。そう言葉にせずとも理解していると、神奈は頷く。そしてここで話は終わりだと赤い光の珠が離れていくのを見て、ふと彼女は思い至る。

 

 

 

 あれ、でもこれまでの話だと楓を女の子にする必要はないのでは?

 

 

 

 (……ところで、楓くんを女の子にした理由をまだ聞いてないんだけど、なんで?)

 

 ― ………… ―

 

 (ねぇ、なんで? なんで急に黙ったの? 待って、話を終わらせようとしないで。“電波が悪くなってきたから切る”って“私達”に電波とか関係ないでしょ! 答えるまで何度でも意思を繋げるからね!)

 

 ― …………! ―

 

 (“どうせ神婚するなら男より女の方がいい”? ってやっぱりそんな理由だったの!? あなたお嫁さん居たでしょ! 何をそんなに力強い声で……こら、逃げるな! ってもう繋がらない!?)

 

 「……あ、本気で繋がらない……も、もー! もーっ!!」

 

 この後、何度も再び意思を繋げようとするも全く繋がらず直接文句も言えない事にぷんすかと怒り、暫くぼふぼふと枕を弱めに叩いて八つ当たりする見た目相応な神奈が居たそうな。そしてそれを見て和んでいた“私達”が居たことを、彼女は知らない。

 

 

 

 

 

 

 「いよいよ愛媛を解放する戦い……ひいては天下の半分を手に入れる戦いだ」

 

 「天下(四国)(かっこしこく)

 

 「アタシ達は、それに備えて訓練の量を増やしていくわ」

 

 「という訳で、今日は全員で合同訓練です。張り切っていきましょう」

 

 翌日の朝、勇者達は大赦が用意した一般人が入れない砂浜を使って勇者全員参加の合同訓練を行っていた。若葉の言葉に雪花は小さく笑いながら呟き、風と須美が合同訓練の目的を全員に再確認しつつ締める。勇者達も皆やる気を出し、各々訓練を始める。

 

 基本的には素振りや組み手、射撃組なら的当てや回避訓練。前回の戦いで久しぶりに戦った赤嶺はより強くなっており、バーテックスは倒したが彼女自身を倒すまでは至れなかった。友奈は次の戦いでは彼女が更に強くなっていると予想し、高嶋と共に熱意を持って訓練に当たる。戦闘スタイルも殆ど同じの彼女達は訓練時には良くこうしてペアとなって組み手をしている。

 

 熱意を持っているのは彼女達だけではない。高嶋に続くぞと千景も大鎌を振り回して次はもっと多くの敵を刈り取るのだと決意し、夏凛や雪花は変身しての訓練とはいえあまり体力がある方ではない樹を気にかけ、面倒を見ている。年上から可愛がられている妹の姿を、風は妹は可愛いだろうと自慢げに見ていた。

 

 「風、惚気ていないで……修行」

 

 「なっちの動きは鋭くて、いい訓練になるよ~」

 

 「なっち、か……何度聞いてもこう……」

 

 「あれ、ごめん嫌だった~? ちゃんとする~?」

 

 「ううん。なっち……なっち。ふふ」

 

 「気に入ってもらえてるみたいだねぇ、のこちゃん」

 

 「うん。何よりなんよ~」

 

 妹を見てばかりで動きが止まっている風に苦言を申しつつ、棗はヌンチャクを園子相手に振り回していた。それを時に避け、槍で受け、或いは流しと対応している園子(中)がアダ名で呼んだ時に1度手が止まり、モゴモゴと何かを言おうとする棗。もしやアダ名が嫌だったのでは? と不安に思う園子(中)だったが、口元を綻ばせて軽く体を揺らす彼女はどこか満足げであった。

 

 不安が杞憂に終わり、近くで訓練していた楓の朗らかな笑みと言葉を受けて同じように嬉しそうに笑う。そのまま風を巻き込みに行き、訓練をし始める4人とはまた別の場所で他の頭脳担当は次以降の戦いの話し合いをしていた。

 

 「愛媛解放戦ってことは、相手も相当の気合を入れてくるよね~」

 

 「うん、何かしら勝ち筋を考えてくると思う。対応出来るようにしておかないと」

 

 「それでは、相手が打ってきそうな手をもっともっとシミュレーションしてみましょうか」

 

 「それはいいんですが、のこちゃん? なんでずっと自分と腕を組んでいるのかねぇ?」

 

 「こうしてると頭の回転が早くなる気がするんよ~♪」

 

 「只でさえ早い方なのにもっと早くなるのか……」

 

 (好意を隠さずに積極的に側に行ってボディタッチする園子ちゃんにされるがまま優しく受け入れている新士君……やはり小学生カップルは良いものですね! それにここに須美ちゃんや銀ちゃんまで入ってくるのですから、初々しくも微笑ましい恋愛模様……素晴らしいの一言です。この世界にやってこれて良かった)

 

 頭脳担当と言えばやはり園子ズと杏。その内の園子(小)とひなたを加え、次の戦いに赤嶺がどのような戦法を取ってくるかを可能な限り考え、詰めていく。そんな3人の輪の中に、というか園子(小)に右腕に抱き付かれている新士。頭脳担当というわけではない彼がなぜここに、と疑問を口にすれば即座にすぐ近くからそんな言葉が返ってくる。それには苦笑いを返しつつ、ならしょうがないとそのままで居る彼と嬉しそうに笑う彼女。

 

 そんなやり取りを見ていた杏の脳が高速で回転し、記憶に焼き付けていく。勿論それはそれとして顔に出すこと無くしっかりと話し合いは進めていく彼女は確かに頭脳担当であった。そんな風に各々次の戦いに向けて行動をしていく。愛媛を必ず奪還する為に。そんな仲間達を見ながら、珠子は決意を口にする。

 

 「皆、大張り切りだな。あんずはちょっと怪しいけど……待ってろよ、我が故郷。間もなく完全解放するからな」

 

 

 

 

 

 

 そうした朝の訓練の後、各々が自宅なり息抜きに町に行ったり遊んだりと自由に過ごしている時間帯。美森の家に遊びに来ていた友奈と神奈。初めてやってきた友達の家という事でそわそわと落ち着かない様子を見せる神奈を見て可笑しそうに笑う2人とそれに気付いて顔を赤くして俯かせる神奈と囲碁やら将棋やらで遊んだりして穏やかな時間が流れるが、不意に友奈が小さな欠伸を1つ。

 

 「ふ……あ、ふ……」

 

 「友奈ちゃん? 眠い?」

 

 「ん……ちょっと寝そうになってた」

 

 「皆と一緒に訓練頑張ってたもんね、結城ちゃん。疲れてるんだよ」

 

 「なんていっても、もうすぐ天下分け目の……あれだよ。関ヶ原だからね」

 

 欠伸をした上にカクンッと頭が一瞬落ちて今にも寝てしまいそうな友奈。美森はその姿を優しげな眼差しで見つめ、神奈はそうなるのも仕方ないと朝の訓練の様子を思い返す。何度も言うように次の戦いは愛媛解放の為の大事かつ大きな戦闘……決戦になる。それに備えての訓練は普段よりも力が入るのは仕方ないし、それにより普段よりも疲れるのも当然の事だろう。

 

 実際、寄宿舎では小学生組の4人が千景の部屋に集まってゲームで遊んでいたが少しすると並んで仲良くお昼寝をしている。その4人にタオルケットを持ってきて体に掛けたのは勿論千景で、彼女もまた眠る4人を見て睡魔が伝染したのか隣で眠り、こっそりやってきた高嶋がその隣に潜り込んで一緒に寝ているのだがそれはさておき今は東郷家でのお話。

 

 「皆張り切って訓練していたもんね。須美ちゃんなんか汗だくになって」

 

 「若葉ちゃんと夏凛ちゃん、棗さんとか凄かったよね。訓練というか実戦って感じだったし」

 

 「小学生なのに凄いよね。夏凛ちゃん達も流石……ん、ふぁ~。ちゃんと帰って寝るね……ふ、ぁ~……」

 

 「ふふ、凄い欠伸。あふ……結城ちゃんのが移っちゃったかな。私も帰ってお昼寝しようかな」

 

 「いくらお隣だからって、そんなにふらふらじゃ危ないわよ。神奈ちゃんもここからだと寄宿舎まで少し距離があるし……2人共ここで寝ていけばいいわ。こうしてこうして……ほら、もう寝られる」

 

 「わわわ、手伝う間もなく布団がてきぱきと敷かれて……」

 

 「あれ? ここ東郷さんの部屋だよね。なんで敷き布団が2つも……」

 

 「1つはお客様用にね」

 

 2人も訓練内容を思い返すがまた友奈が欠伸をし、同じように神奈も欠伸を1つしながら立ち上がってそれぞれ自宅と寄宿舎に戻ろうとするが美森が待ったをかける。実際、神奈はまだ余裕がありそうだが友奈の足取りは覚束無い。お隣さんとは言えこれは危ないと判断した美森は瞬時に碁盤と将棋盤を片付けて素早く押し入れから敷き布団を2つ床に敷き、ぽふぽふと叩いてそこで寝るように催促する。

 

 その手際の良さに驚きつつ、厚意を無下に扱うのも悪いし眠気も限界に近いしで彼女の言葉に甘えて布団の上に横になる2人。それを満足そうに見ていた美森も2人の欠伸が移ったのか同じように小さな欠伸をし、顔を見合わせて笑いあった後に彼女達に誘われて2人の間で横になり、そのまま仲良くお昼寝をするのであった。

 

 

 

 夢を見た。愛媛の樹海の奥深く、そこで成長する大型の……もっと大きな、超大型とでも言うべきバーテックスが2体も存在する夢を見た。感じる威圧感はこれまでのどのバーテックスよりも大きく、強い。そして、それと対峙する……多くの人影を見た。

 

 

 

 「東郷さん!」

 

 「っ!? は、ぁ……はぁ……友奈、ちゃん?」

 

 「東郷さん、大丈夫? ……もしかして、“見た”?」

 

 「神奈ちゃん……見た? って……あ、そうか。あれは神託なのね」

 

 「神託?」

 

 「やっぱり、私と同じ夢を見たんだね」

 

 暫くして、友奈が起きると美森が魘されており、慌てて起こそうとする。次に神奈が起き、同じように揺すって起こそうとすると少しして美森が身動ぎをしてから目を開けた。2人に心配されながら体を起こし、神奈の言葉で今見た夢が神託であることを理解する。同じ夢を見たという神奈も頷き、不思議そうにする友奈に2人が説明し……仲間達にも説明しようとするが気が付けば夕日が半ばまで沈んでいたので流石に翌日に部室でという事になった。

 

 

 

 

 

 

 「新たな神託です。愛媛で大型よりも大きな超大型バーテックス2体が成長中です」

 

 「完成予測は1ヶ月後。愛媛を襲撃したあと香川に向かってくるみたい」

 

 「間違いなく、決戦に投入する為の向こうの切り札だね。これまでのバーテックスよりも遥かに強力だと思う」

 

 「それほどの……問題なのは、そのバーテックスの対応ですが……」

 

 「今のところ、神託が降りてきていません。出撃ではなく迎撃が望ましいのではないかと」

 

 翌日、部室に集まった仲間達に神託を受けた巫女達から説明が入る。これまでレクイエムを初めとして様々な大型バーテックスと戦ってきた勇者達だが、今回は敵はそれらよりも大きく、強力と聞いては流石に表情を強張らせる。特に勇者部の8人は脳裏に獅子座、及び複数のバーテックスが合体したレオ・スタークラスターの存在を思い返し、体に力が入る。

 

 その超大型にどう対応するべきかという神託は無く、巫女達としてはいつものように愛媛に向かうのではなく、香川に近付いた所を迎撃する姿勢を取った方が良いのではないかと考えている。が、その考えを聞いた勇者達はあまり肯定的ではなかった。それを最初に言葉にしたのは美森。

 

 「香川が……ここが抜かれたら決定的にまずい以上、堅守が確かに確実であるとは思うけれど……」

 

 「でもそうすると愛媛が危ないんじゃないか? 超大型が2体通ってくるんだぞ」

 

 「はい。神託を考えると堅守で間違いはないかとは思うのですが……」

 

 「ん~、難しい問題だね、これは。結構根が深いと思うな」

 

 (皆悩んでるね。さて、あなた達はどんな選択をするのかな)

 

 話し合う勇者と巫女達の姿を、同じように悩みつつ神奈は眺める。神託、それは神の意思であり、言葉であり、導きでもある。西暦で、そして神世紀でもその神託によって人間達は救われ、生き長らえてきた。無論、あくまでもイメージしか伝わらないので誤った解釈や、降ろしたとしてもどうにもならなかった事はあるが、概ね助けられてきた事には変わり無い。

 

 そして今回、神託に従うのであれば堅守……守りに入るべき。そうすれば相手が成長する間の時間を使って万全の状態まで持っていけるだろう。愛媛の地が再び敵の手に落ちるかも知れないが、最悪の事態はほぼ確実に打破できる。しかし、神託を受け入れない……つまり、勇者達の意思を、人間の意思を優先するのであれば。

 

 「ちょっとタマ、凄いこと言っていいか? ビックリするかも知れないけど」

 

 「良いわよ、どんどん言っちゃって。そのためのミーティングなんだから」

 

 「神樹って、四国を結界で囲って守護してくれたじゃないか。でも逆の言い方をすれば、他の地域の皆を護ってはくれなかったよな?」

 

 (ぐ、グサッときた……)

 

 「一部の地域で例外はあったけど、そういう言い方も出きちゃうわね」

 

 「しかしそれは、四国が頑張れる……守れる範囲のギリギリの所だったんだろう」

 

 (若葉ちゃんが言う通りなんだよね……当時の人間に怒り狂った天の神に着いた神々は“私達”よりも多くて、それだけ力の差が開いてしまった。信仰心も昔に比べれば遥かに弱くなってたから、加護を与えられて結界を作れる範囲もそう広くはなかったんだよね……)

 

 球子と歌野の言葉に心に大きなダメージを受けて思わず胸を抑えそうになった神奈(神樹本人)だが何とか表情も歪めないように頑張って悩んでる表情を貫く。彼女が神樹であると知っている楓は思わず苦笑いを浮かべていた。若葉が擁護するように言うが、球子もそれは分かっていると頷く。

 

 「何が言いたいかってさ、今回も同じケースな気がするんだよ。神樹の神託がない限り守りに徹する……それはタマ達が勝てるんだろうけどさ。でも、多分愛媛が痛め付けられる。勝つ為の犠牲として」

 

 「……確かにそうですね」

 

 「何度も言うけどさ、神樹は限界まで頑張ってて、出来る範囲で人類を生かそうとしてくれてる。だから神樹を責めてはいないんだよ。“逆”なんだ」

 

 「……逆? タマちゃん、逆ってどういうこと?」

 

 「つまりな? 神奈。“神様”が無理な範囲は……」

 

 「……私達、“人間”が頑張ればいい、だね?」

 

 グサグサと球子の言葉がナイフのように胸に突き刺さっている神奈が首を傾げながら疑問を口にすると、彼女の後に高嶋が続き、球子も頷く。神託が出ない時に攻め込む危険性は理解している。その話は以前にも1度出ているし、その際には神託が出るまで待った。

 

 だが、と彼女は言う。その時と今とでは状況がまるで違うのだと。前よりも土地は沢山取り返し、前よりも強くなった。戦力は充実している。ならば、危険性が高いとしても仕掛けてみる価値はあるのではないか。そう、彼女は胸を張って強く言い放った。

 

 「……なるほど。なるほどな」

 

 「神樹様の神託の上を行く行動を取る……私達“人類”が。そういう事ですね? 球子さん」

 

 「なんか格好良く纏めてくれたな須美。それそれ、そういう事」

 

 「実は私もタマ坊に賛成なんだよね。神託は本当に大事というのは分かるけど、それに甘えすぎるのも良くないというか」

 

 「……そうだな、私も賛成だ。すまない、ひなた達は頑張って神託を受け取ってくれているのに……」

 

 「……いえ。皆さんの勇者としての思いは素敵です。尊重すべきだと思います。若葉ちゃんも球子さんの意見に賛成でしょう?」

 

 「あぁ。正直グッと来たぞ。お前格好良いな球子」

 

 (……うん。本当に、格好良いなぁ、皆)

 

 神託の上を行く行動を取る。神託に従うのではなく、自分達の意思で立ち向かい、乗り越えて見せる。神様(わたしたち)では無理な部分を人間が頑張る。そう強く意思を示し、賛同する皆の姿を、神奈は胸の奥が暖かくなるのを感じていた。

 

 神という存在は概念的、自然的なモノだ。それでいてその動きや考え方はどこか機械染みている。効率的で、リスクを抑えてより確実な動きをする。それが四国を包囲し外界隔てた結界であり、巫女に降ろす神託。天の神だってそうだ。かつて誰かが言った。バーテックスは天の神が作り出した人類粛清“システム”だと。バーテックス、星屑は人類に怒り狂った天の神が効率的に人類を殺し尽くす為のシステムに近い。

 

 効率よりも、確実性よりも感情を、意思を優先する。それは……神には出来ない思考なのだ。敵である天の神でさえ、自ら滅び尽くすのではなくより効率的に大量に殺し尽くす為にバーテックスを産み出したのだから。なんか冒頭辺りで己の欲望を優先したバ神が居たかも知れないが直ぐに神奈は脳内から追い出した。

 

 「……言うてさ、ここの愛媛は実際の愛媛ではない訳だし? 神樹の中の世界の訳だし? 最重要拠点の堅守が重要な訳で、神託通りに動くのがクレバーな気がするけども」

 

 「……でも、それでもだ、雪花」

 

 「……理屈じゃないのね。ハートなのね。OK了解。やったりましょうや!」

 

 「貴女、どんどんここに染まってきているわ。素敵な事よ」

 

 「うん、雪花ちゃんも格好良いよ!」

 

 「よしてよ神奈。そんな笑顔で言われると恥ずかしいって」

 

 「じゃ、ここは1発、成長中の超大型バーテックスに仕掛けてみるって事で、いいかな?」

 

 そうして熱が高まっている所に、雪花の冷静な意見が入る。球子自身も言った通り、神託通りに行けば勇者達は勝てるのだろう。そして、この世界は現実ではない。この世界の愛媛がどれだけ傷付こうとも、元の世界の愛媛には何の影響も無い。それでも、そう言う球子に彼女はだろうね、と首を横に振る。そういう人間ばかりであることはとっくの昔に分かっているのだ。

 

 故に、雪花もやる気を見せる。すっかり仲間達に染められている彼女を見て歌野は微笑ましそうに呟き、神奈は本心から褒める。恥ずかしそうにパタパタと手で自分の顔を扇ぐ彼女を周りが楽しげに笑った後、風が纏めて皆に問い掛ける。神託には従わず、自分達の意思に従うぞと。反対意見は、無い……のだが、ひなただけが不安げに呟く。

 

 「敢えて言うのなら、条件付きで賛成でしょうか? 本当に危ない所に行く訳ですから……まずい! と思ったら撤退する勇気も持って下さいね?」

 

 「大丈夫だよひなたちゃん。その時にはちゃんと撤退するし、撤退しそうにない人には首にワイヤー付けて引き摺ってでも引かせるから」

 

 「だって、お姉ちゃん」

 

 「銀達も分かった?」

 

 「「「なんでアタシ(あたし)達だけ!?」」」

 

 「心配を掛けるな、ひなた。ありがとう」

 

 神託に従わずに動くことは危険だが、その危険性は未知数だ。それ故に不安が隠しきれないひなたは、賛成ではあるが撤退する事も念頭に置くように伝える。それには水都も神奈も同じ意見なのか同じように不安そうな表情になり、頷く。その不安を拭い去るように楓が笑いながら払うようにして右腕を動かしながらそう言った。

 

 それを聞いた樹が風に、美森が銀(中)と(小)に向かって笑いながら囁く。これには周りも同意なのか本人以外がうんうんと頷き、3人は自分達だけが言われた上に誰も否定しないことに驚愕の表情を浮かべた。因みにこの時こっそり杏から球子へ同じように注意されて驚いていたりする。そして若葉がひなたに心配してくれた事に感謝を告げ……勇者達は巫女達の応援を背に、愛媛へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 「あ、あれがあれが成長中の……うわわわ、大きすぎるような……」

 

 「思ったよりも……もっともっと……大きいね。わ、なんか動いてる!」

 

 「成長中だから、更に進化を遂げようとしているのでは?」

 

 「これで成長中か……予想以上、だねぇ」

 

 そうして到着した勇者達を待っていたのは、神託通りの()()()の超大型バーテックス。成長中……つまりはまだ大きくなるというのに、その大きさは既にこれまでに出会ったどの大型バーテックスよりも大きく、勇者部が出会った獅子座に匹敵……或いは凌駕しうる程。流石にスタークラスター程ではないが、このまま成長すれば届く……下手をすれば、本当に凌駕する可能性もあるだろう。

 

 その大きさのバーテックスが2体、目の前に居る。間違いなく、今回の戦闘は勇者達にとって未知の領域。だが、自分達は今からあれと戦い、そして勝利して愛媛の全てを奪還せねばならない。そう意識したのか、勇者達の体に力が入る。

 

 「よし! 引き返す勇気を持とう!」

 

 「早い早い! 警戒はしながらも、超大型バーテックスに仕掛けるわよ」

 

 「前にも同じ事を言ったかもだけど、これだけ勇者が揃っているんだから大丈夫だよ!」

 

 「何より、完成型勇者がここに居るんだからね。特訓の成果を見せてやるわ」

 

 「皆で呼吸を合わせて仕掛けるぞ! せーのっ!」

 

 雪花が力強く言うが風がツッコミを入れつつ大剣を構えながら周りに呼び掛け、高嶋が左手の平に右拳を打ち付けて安心させるように言い放つ。それに乗るように夏凛が両手の刀を軽く振りながら超大型バーテックスを見据え、球子が全員にそう言い、皆は頷きながら各々構える。そして彼女の合図と共にいつものように地上組と上空組に別れ……。

 

 次の瞬間には、地上と上空から一斉に攻撃を初め、その全てが身動き1つしない超大型バーテックス2体に殺到するのであった。




精霊紹介コーナー(!?)

夜刀神(やとのかみ)

本作オリジナルの角の生えた白蛇の姿をした精霊。その正体は楓の精霊であると同時に“私”と意思を共有する端末の役割も持つ。夜刀神の意思全てが“私”という訳ではなく、あくまでも見聞きしたモノを共有する。行動は本能的で、楓以外が撫でようとすると噛み付く(主な被害者は園子(中)と友奈)。ゆゆゆい編だとひなたと雪花、水都は撫でる事が出来るが他の人間だと威嚇される。バリアや光の生成等の主要部分のアシストを担っている。



という訳で、勇者達の戦いはこれからだ! というお話でした。本作の造反神はちょいと色ボケが入っている模様。

今回から“原作との相違点”は少しお休みし、楓の手持ち精霊の紹介を今更ながら後書きに書いていこうと思います。勿論無理に見る必要はありませんが、何か書かないと落ち着かなくて←

次回、遂に愛媛奪還……まで進むといいなぁ(´ω`)

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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