咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました、ようやく更新です(´ω`)

真面目に難産でした……あんまり時間掛けると番外編間に合わなくなるしそれで焦って更に考えが纏まらなくなる悪循環。

FGOで魔王ノッブ当たってくれました。欲しかったから本気で嬉しい。その後のスカディは来てくれません。dffooもティーダにガブラスにシェルロッタにとfrが来てくれて嬉しい限り。BTも来てくれ頼むから←

スパロボ30は無事クリアしました。今は女主人公に変えて2週目です。アズ可愛いなオイ。

それでは、今年最後の本編、どうぞ。


花結いのきらめき ー 44 ー

 男に戻り、強化を使えるようになった楓による強化を受けた樹の兄妹2人の力により、超大型バーテックス“グランディオーソ”を倒した勇者達。これにより、愛媛は完全に奪還出来る……とはならず、喜ぶ勇者達の前に現れた赤嶺が叫ぶ。

 

 「まだだよ……まだ! まだ!! 四国の半分を……天下の半分をどっちが取るかの戦い……こんなんじゃ終われない!!」

 

 彼女がそう言うや否や、再び集まってくるバーテックス達。これまでに何度も出てきている中、小型だけでなく、大型のモノまでも何体も現れた。これには勇者達も慌てる……事はない。超大型を倒した。楓も元の姿に戻った。ならばこそ、赤嶺が言うて天下の半分を取る戦い……とことんまでやってやろうという気になる。

 

 「受けて立ってやる……正面からな。行くぞ皆!!」

 

 「まだだよ、どんどん来て。惜しみ無く投入してかないとね」

 

 「もうお腹いっぱいなんだけどな~」

 

 「これぐらいで泣き言を言ってるようじゃあれだよ、壁の外は踏破出来ないよ?」

 

 まだまだ、まだまだとバーテックスを呼び続ける赤嶺。その物量を見ても怯まない……むしろいつも通りだとでも言うように若葉の宣言通り真っ向から倒しに行く勇者達。実際の所、超大型さえ居なければいつも通りの戦闘だ。強化は今回はもう使用出来ないがこれまでも使えなかったのだ、何の問題もない。

 

 とは言え、超大型との激戦の後ということもあって流石に相手の物量に嫌気が差してきているのも事実。園子(小)が皆の内心を代弁するようにそう呟くと、赤嶺がそう返す。“壁の外”。そう聞いて幾人かはその意味がよくわからないのか疑問を覚えるが、実際に壁の外を見たことがある神世紀の中学生組もまたどういう事だ? と疑問に思う。

 

 「ええーい! 勇者パーンチ!!」

 

 「おわっとぉ!? せぇんぱぁい!!」

 

 「そろそろ、目的や正体を教えてくれてもいい頃だと思うよ?」

 

 「正体はともかく、目的の方は察しのいい人なら気が付いているんじゃないのかな? 先輩」

 

 「そういうちょっとぼかした言い方は無しで!」

 

 そうして皆が疑問を覚えている中、真っ先に行動したのは高嶋だった。赤嶺の元へと真っ直ぐ跳んで向かい、落下しながらの勇者パンチ。それは彼女が後方へと下がった事で避けられたが、それ自体は気にせずに高嶋はそう言葉を投げる。それに対して赤嶺は相変わらずはっきりとした事は言わず、楓や杏、園子(中)と言った面々に視線を向けながら答えるが、高嶋は納得はせずに首を横に振る。それを見た赤嶺は仕方ないと言うように苦笑いをした後、腕を組みながら改めて口を開いた。

 

 「……神樹は、四国全土に対して生きていけるよう恵みをもたらしているんだ。生態系……生命のサイクルに“因子”のようなものを入れる事だって出来るんだよ。ね、先輩?」

 

 (因子……? それに前々から言ってる“先輩”や“後輩”……友奈と高嶋ちゃん、それに赤嶺ちゃんが瓜二つなのはその因子とやらが理由か? それなら神樹様……神奈ちゃんが同じ顔なのは、その因子を自分自身にも……?)

 

 「っ!? どういう事? もう1回……うわっ!?」

 

 「ワオ、またもっそりと敵が来たわね」

 

 「これが正真正銘、愛媛の最終戦だよ。防ぎきれるかな?」

 

 「できらぁ! 生まれ故郷、返してもらうぞ!!」

 

 素直に答えるのかと思いきや、彼女が口にしたのはそんな話。直接言われた高嶋は勿論、話を聞いていた仲間達も、それこそ園子ズや杏のような頭脳組でさえ何を言おうとしているのか理解出来なかったし、急に因子等と言われても混乱する。勿論楓もそれは同じだが、神奈が神樹であると知り、彼女の姿が曰く“とある勇者の姿”であると知っている彼はつい考察を始めてしまう。

 

 高嶋が今の話はどういう事だと聞く瞬間に、また現れる数多のバーテックス。その数は既に超大型が居た時よりも多くなっている。文字通り、赤嶺はこの戦いで愛媛の戦力の“全て”を出してきていた。超大型という“質”が敗れた以上、残されたのは勇者達の何倍もの“量”。その物量をもってしてこの愛媛での最終戦とするのだ。

 

 この量を防ぎきれるか? そう問い掛ける赤嶺に珠子は叫ぶ。そしてそれを合図に、本当に最後になる愛媛での戦いが始まった。疲労はある。消耗もしている。だが、気炎を滾らせる勇者達の戦意が衰える事はない。大量のバーテックスなど何するものぞ。そんなもの、今更障害にすらなり得ない。

 

 事実、バーテックスは凄まじい勢いでその数を減らしていっている。拳が、刀が、大剣が、双剣が、槍達が、双斧剣が、双斧が、双爪が、鞭が、ヌンチャクが振るわれる度に。ワイヤーが、光の弾が、矢が、投槍が、真っ白か光が宙空を閃く度に。小型も、中型も、大型も平等にその姿を光へと変えていく。向かえど向かえど、勇者達には届かない。近くで、遠くで、距離を問わず爆散し、また光へと変わる。

 

 「そいつらで最後よ!」

 

 「トドメは君達に任せたよ。球子ちゃん、杏ちゃん」

 

 「はい!」

 

 「任せろ! 愛媛は、タマ達が取り返す!」

 

 「タマっち先輩!」

 

 「あんず!」

 

 

 

 「「これで……ラストおおおおっ!!」」

 

 

 

 最後に残ったのは大型バーテックスが2体。その止めを、仲間達は愛媛を故郷に持つ2人に託す。愛媛を取り返すのは、この最終戦の最後を飾るのは、この2人が1番だと思ったからだ。その心意気を、思いを受け取った2人は仲間達に感謝をしつつ前に出て己の武器を構える。そして同時に放たれた旋刃盤と矢は、これまた同時に2体のバーテックスの体を穿ち……天へと昇る光へと変える。

 

 赤嶺は悔しげに、だがどこか安心したような笑みを浮かべ、何も言わずに吹き荒ぶ風と共に樹海からその姿を消した。彼女の表情の変化を見た者は居なかったが、その場から消えるのは誰もが確認していた。美森は直ぐに端末のマップに視線を送る。そこに、敵の反応は無い。あるのは勇者達の……仲間の反応だけ。つまり、敵は本当に全滅した。赤嶺が居なくなった以上、増援も無いのだろう。

 

 それを理解し、勇者達は思い思いに勝鬨の声を上げた。天下分け目の一戦に、故郷を取り戻す一戦に勝利したのだ。四国の半分を取り戻し、楓も元の姿に戻り、そして誰1人欠けることなく、皆の力で手にした勝利。喜ばない訳がない。そしてその勝利を祝福するかのように、美しく煌めく極彩色の花弁が世界を埋め尽くし……勇者達は、巫女達が居る部室へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 そして戻ってきた部室。勇者達が大きな怪我も無く決戦を勝利で飾って無事に戻ってきた事に留守番をしていた巫女達は大層喜び、楓が男に戻っていた事に驚いてはいたが直ぐに笑顔で戻れたことを祝い、その後に労いの言葉を掛ける。勇者達も疲労こそ濃いがまだ樹海での勝利の喜びは続いており、巫女達と共に喜んでいた。が、ふと風がとある事に気付く。

 

 「あら? 楓、あんたなんで変身したままなのよ」

 

 「いや、今変身解くと多分色々と問題があるからねぇ……戻るに戻れないんだよ」

 

 「問題? 何かあるの?」

 

 風が言った通り、勇者達は皆変身を解除して制服姿へと戻っているのだが、楓だけはまだ勇者に変身したままであった。彼女に言われ、彼が返事した事で他の者も気付き、友奈が不思議そうに首を傾げる。問題、と聞いても何も思い付かなかったのだろう。だが、次の彼の言葉で誰もが納得した。

 

 

 

 「自分、変身前はまだ女だったからさ……多分、今変身解くと女の子用の制服を着た状態になるんだよねぇ」

 

 

 

 あっ……と溢したのは誰であったか。もしくは全員だったのかも知れない。今でこそ男の姿であるが、戻ったのは樹海の中。樹海に行く前はまだ女の姿であり、学校に来ている以上当然服装は他の仲間達(新士除く)と同じ女用の制服だ。つまり、このまま変身を解けばそこに居るのは女装した楓という状態になる可能性がある。

 

 これが新士であったなら、まだ見た目が樹に近く銀(小)と同じ背丈ということもあってさほど違和感はなかっただろうし、諦めもついたかもしれない。が、楓の顔は風に似ているとはいえ男と分かる体つきをしている。そんな彼が友奈達と同じ制服を着た姿は……存外様になるかも知れないし、何なら見てみたいと思っている者も一部居るが本人は嫌だろう。

 

 という訳で、楓だけは先に1度自宅へと帰ることとなった。その際園子(中)が少々渋ったりもしたが、変身を解除していた彼女に止める力は無かった。窓から人に見つからないように屋根づたいに跳んで移動し、庭に降りてカバンから鍵を出して玄関の鍵を開け、扉を閉めてからようやく楓は変身を解いた。

 

 

 

 「っぐ、ぅ……やっぱり、か」

 

 

 

 案の定、服装は女の時のままだった。それはともかく、変身を解いた瞬間に彼を凄まじい疲労感が襲った。それも立っていることが困難になる程に、汗が溢れだす程に。実のところ、楓はこうなる事を予想していた。以前強化をした際、2回使ってゲージが1つ残った場合でも疲労感を感じていた。ならばゲージが無くなるまで強化を使えば、それ以上の疲労感を覚えるのは当然と言える。

 

 つまり、楓が先に変身したまま帰ったのはこの女装姿を見られたくなかった事と皆に疲労感に崩れ落ちそうになる姿を見せたくなかったからだ。最悪、無理して3回使った時のように倒れる可能性もあった。折角の勝利で浮かれている空気を壊したくなかったのだ。

 

 (……結構しんどいけれど、動けない程じゃないか。さっさと着替えて、汗も流してしまおう)

 

 そう考え、先に風呂へと向かう楓。着ていた物を全て洗濯機の中へと突っ込み、風呂場でシャワーを使って汗を流す。疲労感はまだ抜けないが、それも本当に少しずつだが薄れていっている。それからしばらく、彼は自宅でまったりとしているのだった。

 

 

 

 そうして彼が自宅に居る頃、部室に残った仲間達は戦勝ムードのままだが一旦解散する事になった。楓も帰ったし、決戦後ということもあって勇者達の疲労が大きかったからだ。後日、愛媛の奪還を祝う為に寄宿舎の食堂を使って祝勝会を開く事となり、一同は別れの挨拶をして各々の帰路へと付いた。

 

 そんな中で、犬吠森姉妹は疲労を感じさせないいつもよりも早い足取りで自宅へと向かっていた。何せようやく兄が、弟が元の姿に戻ったのだ。女だった時も特に不満があった訳では……樹の場合は少々とある部位に対して不満を抱いていたが……ないが、やはり見慣れた姿でいつもの日常を過ごす方が断然良い。

 

 やがて帰ってきた自宅だが、想像していた彼からの“お帰り”の言葉はなかった。帰ってきた事に気付いていないのかと疑問に思いつつリビングへと顔を出してみると、姉妹は顔を見合わせてくすりと笑った。2人が見たのは、ソファに座ってまったりしている内に疲れからか眠ってしまっている私服姿の楓だった。

 

 「寝ちゃってるわね」

 

 「そうだね。あふ……」

 

 「あら可愛らしい欠伸だこと……アタシ達も夕食まで少し寝ちゃおうか。流石に今日は疲れたわ~」

 

 「うん……着替えてからね」

 

 そんな会話を小声でした後、2人は制服から私服へと着替えて楓を起こさないように隣に座る。樹は彼の膝を枕にするように体を横に倒し、風は起こさないようにゆっくり彼の肩に頭を乗せる。女の時とは違う、顔の割にがっしりとした安定感と安心感のある体つき。触れていると落ち着く温かさ。こうして触れている事で、ようやく彼が本当に元の姿に戻れたのだと実感出来た。

 

 「……お帰り、楓」

 

 「……お休みなさい、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

 

 最後にそう溢し、2人は目を閉じる。やはり決戦の疲労は大きかったのだろう、あっという間に2人も彼と同様に眠ってしまった。静かになったリビングには仲良く眠る3人の姉弟の静かな寝息だけが穏やかに響くだけだったのだが、少ししてそれぞれの精霊が姿を現す。出てきたのは夜刀神とだいだらぼっち、犬神、木霊の4体。

 

 4体はお互いに顔を見合わせた後、夜刀神と木霊を残してふよふよと浮かんでどこかへと飛んでいく。しばらくしてリビングへと戻ってきた2体の手にあるのは、どこから持ってきたのか毛布が3枚。その持ってきた毛布を犬神は前足で挟んで、夜刀神は噛んで、だいだらぼっちは手で掴んで持ち上げて眠る3人にえっちらおっちらとその体に被せていった。木霊はぴょこぴょこと跳ねて応援(?)をしている。

 

 少し苦戦しつつも何とか被せた3体は顔を見合わせて満足そうに頷き、各々の主人の側に寄る。夜刀神は楓の首に巻き付き、犬神は風の膝の上。木霊は樹の顔の近くに、だいだらぼっちは床に座って楓の足に寄り添う。そして、そのまま同じように目を閉じてすよすよと寝息を立て始めた。そこに先程まで出ていなかった精霊達も出てきてこれまた主人達に思い思いに寄り添い、眠りにつく。さながら動物園のような状態だが、仲良く眠る姿は平和そのものであった。

 

 ……尚、この後思ったよりがっつり眠ってしまった3人の夕食はかなり遅くなった上に素うどんになってしまい、後日の祝勝会では思いっきり食べたそうな。

 

 

 

 

 

 

 あれから数日。いつものように部室に集まった面々の話題はもっぱら次の解放目標である徳島の話。ここに居る面々には徳島出身の者はおらず、行ったことも殆ど無い。つまりはよく知らないのである。だからだろう、自主的に調べたりしていた者が多かった。

 

 「ねぇねぇ、徳島にもうどんの文化が根付いてるんだって」

 

 「へぇ、それはあまり知らなかったわね。ラーメン1強かと誤解していたわ」

 

 「そうだねぇ、自分も徳島と言えばラーメンというイメージだったよ」

 

 「ちゅるちゅると音を立てて食べる。親しみのあるうどんか……楽しみね」

 

 「渓谷の蕎麦も名物らしいよ。楽しみだね」

 

 「おっ、頑張るわね蕎麦派の水都。でもうどん派の牙城は堅いわよ」

 

 「太めの麺を薄味の出汁でつるつるっと……刻んだネギとちくわも口に広がって……」

 

 花の中学生、花より団子……ではない者も居るがやはり食べ物の話題が中心となるのは仕方ないのかも知れない。友奈から始まった徳島の食文化の話に千景と楓は驚き、美森や他の者も徳島のうどんはどのようなものだろうと想像を膨らませる。因みに、今は話していない園子ズはそれぞれ楓、新士の腕に組み付いており、最早誰も気にしていない辺りすっかり慣れたものだ。

 

 徳島はラーメンやうどんだけではないとその空気の中に蕎麦の話を突っ込んだのはうどん派(ひし)めく勇者部の中では少数派の蕎麦派である水都。歌野ほどではないが、彼女も蕎麦派を増やしたい……のではなく純粋に蕎麦の魅力も知って欲しいだけかもしれないが、それを蕎麦派への勧誘行為と見たのか夏凛はからかい半分で腕を組みながらそう言った。

 

 そんな彼女に向け、水都は目を閉じて自身も想像しながら徳島の蕎麦の食レポ……食べてないが……のような物を始める。その見た目や味を想像したのだろう、気付けば夏凛はゴクリと喉を鳴らしていた。それが聞こえたのか、それとも気になると表情に出ていたのか水都はくすくすと笑い、夏凛は少し顔を赤くしつつ悔しげに“やるわね”と彼女を称賛した。

 

 「皆さん徳島の事で熱くなっていますね、歌野さん」

 

 「なんだかグルメツアーになっているけど、私も楽しみだわ」

 

 「タマは鶏肉にも興味あるな。どれ程のモノか今から楽しみだと知りタマえよ」

 

 「あーどれもこれも美味しそうねぇ。ええい、実際に食べてみない事にはなんとも……」

 

 「棗さんは何が楽しみなんですか?」

 

 「私、気になります。教えてください棗さん」

 

 「渦潮だ。きっと、とてもぐるぐるしている。そこは海の力が豊かに満ちている……!」

 

 「ふ、深い意見だなぁ。()だけに」

 

 「なんだか神秘的ですね、棗さん」

 

 他の者達もやはり徳島の事が気になる様子。その様子を見て楽しそうだと笑う須美に、歌野は食べ物関連ばかりだとは思いつつも自身も気になるので楽しみだと告げる。球子も風も徳島のまだ見ぬ……いや食さぬ食べ物を想像して弛んだ顔をしていた。

 

 皆が食べ物を想像する中で、1年生ズに聞かれた棗はそれまでの流れを断ち切るように答えた。徳島と言えば、鳴門海峡の渦潮は有名だろう。海が好きな棗にとっては見たいモノの筆頭であってもなんら不思議ではない。そうしてあれこれ話す勇者達に、申し訳なさそうにしつつひなたが話し始める。

 

 「あの、皆さん頭が徳島モードの時にすみません。次の県に行く前にやることがありまして」

 

 「そう言えばそうだった。“浄化の儀”があったんだった」

 

 「ジョーカー乃木?」

 

 「いや、トランプのジョーカーじゃなくて(きよ)めるって意味での浄化……」

 

 「切り札若葉ちゃん! 格好いいですね。想像するだけで五穀米が食べられます!」

 

 「もう、そのっち。ひなたさんが脱線してしまうわ」

 

 「ジョウカノギ……はて? ジョウカノギ……」

 

 「なんだか嫌な予感がしてきたぞ……」

 

 「なんとかの儀って聞くとあんまりなぁ」

 

 ひなた、そして銀達と共に徳島のパンフレットを熱心に見ていた神奈が顔を上げてそう言えば……と告げた“浄化の儀”。こてん、と首を傾げながら素なのかボケたのか園子(中)が聞き返せば神奈は苦笑いしつつ言い直す。が、それを遮るようにひなたが目を輝かせて身を乗り出してそう(のたま)い、美森が呆れつつ苦言する。

 

 そんなやり取りをしている横で、友奈が何度もそう呟きながら体を小さく左右に揺らしながら浄化の義とは何かと考えていた。銀達も儀……儀式と聞いてあまりいい予感はしていない。何せ決戦の後に行う儀式だ。内容はまだわからないが、重要な事であるのは確かだろう。

 

 「そう身構えなくても……いや、身構えた方が良いのかな? というのもね、これから皆には奪還した愛媛の各地で“浄化の儀”を行うんだけど……その護衛をして欲しいんだ」

 

 「浄化の儀というのは、危険な儀式ですか~?」

 

 「いえいえ。簡単に言えば、愛媛に敵が侵入しにくいようにする“おまじない”ですね」

 

 「それはありがたいわねぇ。領地が広くなったって事は守るところも多くなったって事だし」

 

 「神樹様の力が大きく戻った事により、可能になりましたよ」

 

 「守りを固めてから心置きなく徳島へ、という事ですね。大賛成です」

 

 「我々が有利な状況になったのだからな。磐石のものにしておきたいな」

 

 神奈とひなたから“浄化の儀”の説明を受け、成る程と納得と賛成の意思を示す勇者達。度々襲撃があるように、敵もまた領地を奪おうと攻めてくる事が多々ある。その度に勇者達はその場所へと急行している訳だが、幾らカガミブネと楓の光の絨毯という移動手段があるとは言ってもある程度時間を要する。また、風が言ったように完全に愛媛を奪い返した以上守るべき土地は多く、大きくなった。また多方向から攻められればいずれ間に合わなくなる可能性もある。

 

 そんな危険性を排除するのがこの“浄化の儀”。ひなた曰く“おまじない”を愛媛の各地に施せば、四国を覆う結界と同じような効果を発揮するのだと言う。これにより襲撃や防衛を気にする事なく、次の土地の奪還に集中出来るということだ。おまじないを施すのは巫女なので、勇者達にはその護衛を頼むとのこと。

 

 「そーいう事なら任せて下さい! 難しい条件をこなしていく役目かと思いました」

 

 「でも巫女さんは大変だね。やる事が多くて」

 

 「ううん、やれる事が多くて嬉しいよ」

 

 「そうだね、水都ちゃん。皆の為に出来る事が沢山ある……とても嬉しい事だよ」

 

 「嬉しいけれど、なんだか大袈裟ね神奈」

 

 「ふふ、では早速行きましょう皆さん。善は急げと言いますからね」

 

 銀(小)が率先してやる気を見せ、皆も同じ気持ちで頷く。大切な仲間を守る。分かりやすく、そしてこれ程やる気が漲る事も無いだろう。そうしてやる気を出している時、友奈はポツリとそう溢す。勇者は基本的にバーテックスを戦う事だけに集中すればいいが、巫女は戦う事が出来ない代わりに……という訳ではないだろうが、神託にカガミブネに浄化の儀にとやることは勇者に比べて多いのは確かだ。

 

 だが、やる事が多いからと言ってそれが苦であるとは限らない。水都は勿論、神奈もむしろ勇者達の為に出来る事が沢山あることに喜びを感じている。特に神奈はその気持ちが大きい。この世界だけとはいえ、こうして生身の体で勇者達の為に、見ているだけではなく巫女や勇者と共に何かをする事が嬉しくてたまらないのだ。そんな彼女に夏凛は苦笑いし、キリが良いところでひなたが出発を促し、皆も頷いた。

 

 

 

 

 

 

 そして勇者達は大赦……と乃木家……から車を出してもらい、樹海からではなく普通に愛媛の浄化ポイントへと向かった。車で幾つかある浄化の儀を行う場所へと直接向かい、儀式を行っている最中に敵が来た場合は勇者達がこれに対応する。部室での説明通りに、事は進んでいく。

 

 警戒する際、園子(中)の提案で普段樹海ではあまり組まない面子でペアを組み、続けて歌野と風が広範囲に広がって警戒し、遭遇したペアが持ちこたえている間に他のペアがその現場に急行、撃破する事を提案してそうすることになった。まあやることは“はーい、それじゃあ2人組を作ってー”という事なのだが、あっさりペアを作る者達も居れば二の足を踏む者達も居る。

 

 はっきり言ってしまえば、須美や千景がそうだった。人付き合いが苦手、人見知り、どう接すればいいかわからない。そんな心境が表情から透けて見えている。特に須美は親友達があっさりとペアを組んでいた事も焦りに繋がっている。例えば銀(小)は若葉と、園子(小)は棗と、新士は美森と組んでいる。

 

 「さあ行くぞ、銀ちゃん」

 

 「お供します! 風雲児様!」

 

 「園子ちゃん……私と組むか?」

 

 「勿論です棗先輩~。今から古波蔵 園子です~」

 

 「籍を入れる必要はないような……」

 

 「新士君は私と行きましょう。ふふ、いつも呼んでる筈なのに、こう呼ぶのも何だか懐かしいわ」

 

 「分かりました、須美ちゃん先輩。自分はなんだか新鮮というか、不思議な感じですけどねぇ」

 

 (う、そうね……上級生として、私も自分から行かないと……)

 

 焦っているのは千景も同じであった。小学生達にとって上級生である自身と同じ者達が自ら率先して、気負った様子もなく誘っているのだ。それは自分には出来ない……とまでは行かなくとも難しいと思いつつもやはり尻込みしていてはいけないとも思う。そして千景はまだペアが見つかっていない須美の元へと向かっていく。

 

 「あの……わ、鷲尾さん。私と……いいかしら?」

 

 「! は、はい! 宜しくお願いします! すみません、予期せぬ不馴れな事態になると……なんだか少し緊張してしまって」

 

 「……そう。いいのよ……そんなものよ。一緒にやりましょう」

 

 「はい、千景さん」

 

 (ふふ、大丈夫そうだねぇ)

 

 そんな2人のやり取りを、微笑ましげに楓は見守っていた。しかしずっと見ている訳にはいかないと自分もペアになってくれる人を探し始める。とは言うものの、楓としては普段絨毯で共に居る遠距離組と勇者部の者達で無ければ、園子(中)が言うあまり組まない面子となる。つまりは杏を除いた西暦組と須美を除いた小学生組がそれに入るのだが……西暦と神世紀の勇者では人数に差がある。

 

 西暦組は8人。対して神世紀組は小学生の4人込みで12人。4人は神世紀同士で組む必要がある。球子は樹と、歌野は夏凛と、高嶋は園子(中)と組んでいる。杏は風と組んでいる為、残るは銀(中)と友奈、雪花なのだが……。

 

 「こうなると、雪花ちゃん以外は“あまり組まない”とは言えないメンバーになるよねぇ」

 

 「なー。あたしと楓は小学生の時からで、友奈は勇者部の時からだもんな」

 

 「そうなんだよね。あっ、じゃあせっちゃんに選んでもらおう!」

 

 「待ちんしゃい結城っち。難しい選択を強いてるって気付いてる?」

 

 「大丈夫、楓くんともミノちゃんともせっちゃんともペアになればきっと楽しいもん。誰を選んでも一緒だよ?」

 

 「そりゃあまあそうかも知れないけどね……」

 

 「じゃあグーとパーで別れようか。選ぶよりは精神的に楽だと思うよ?」

 

 「それでお願いするよかーくん。3人から選ぶなんて私には気が重いよ」

 

 「まー、気持ちは分からんでもないけどな。それじゃ、グーっとパーっで!」

 

 そんなやり取りの後にグーとパーを出し合う4人。結果、グーを出した友奈と銀(中)がペアとなり、パーを出した楓と雪花がペアとなった。そうしてようやく全てのペアが決まり、浄化の儀とその護衛行動が始まった。巫女達が“おまじない”を始めた頃、少しして襲撃を知らせるアラームが鳴り響く。案の定と言うべきか、この儀式を止める為に襲撃してきたのだろう。

 

 ……とは言うものの、襲撃してきたバーテックスの脅威は決戦の時に比べれば遥かに低いものだった。雲泥の差、と言っていい。特に特殊能力を持った個体も居らず、数もこれまでの襲撃と比べればまるで少ない。それでも100前後は居るのだろうが、愛媛が奪還された影響なのか能力は下がっているようにすら思えた。結果、襲撃してきたバーテックスは苦戦する事もなく殲滅し、儀式は問題無く終わった。

 

 それを、数回繰り返した。移動は車で楽々かつ素早く。儀式は順調に進み、襲撃は油断はせずとも軽く撃退。そして最後の浄化の儀を行う海岸へと辿り着き、巫女達は儀式の準備を、勇者達はペアの者と共に今回も来るであろう襲撃に備えたり会話をしたり。楓と雪花のペアもまたそうだった。

 

 「さて、これで最後らしいねぇ。疲れてると思うけれど、もうひと頑張り出来るかい?」

 

 「かーくんが居ると戦いも移動も楽できるからね、もうひと頑張りくらいオッケーだよ」

 

 「それは良かった。これが終わればいよいよ徳島か……徳島には雪花ちゃんの好きなラーメンも有名なのがあるし、早く行けるようになって食べに行こうか」

 

 「いいね。徳島、今から楽しみだね……ここでの勇者としての役目も、終わりが近いかな。そしたらまたあの寒い大地かぁ……考えるだけで凍えてくるにゃあ……」

 

 「……ようやく半分と言ったところだし、相手も色々してくるだろうから、役目が終わるのはまだまだ先だと思うけどねぇ」

 

 「……ん、そうだね。頑張らないとだね」

 

 楓に話を振られた雪花はグッと両手に力を入れ、まだまだいけるとアピールをした。実際、戦いの際には彼が前衛に出て雪花を守ったり、仲間の元へ向かう時には絨毯でひとっ飛びしたりと楽できる所はあったので戦った回数の割に疲労は少なかった。それは何よりだと笑った彼は、部室での続きだと言うように徳島に行った時の話を始める。

 

 彼女もそれに乗り、楽しみだと笑顔で告げるが直ぐに表情は曇り、もうすぐこの世界での戦いも終わり、そうなれば元の世界、元の場所へと戻る事を想像し……弱音のような事を呟く。それが聞こえた楓は苦笑いを浮かべ、慰めるようにそう言った。

 

 これまでの彼女の様子や発言から、楓は彼女の元居た場所が決して温かな、優しい場所では無いことは察していた。少なくとも……彼女が帰りたくはないと、そう思って居る事は理解している。少しの間、楓は目を伏せながら考え込み……目を開けると、雪花の前で少し屈んで目を合わせる。

 

 「うん? どしたのかーくん。いやー、近い距離で見詰められると流石にちょっと恥ずかしいにゃあ」

 

 「……寒い時は、誰かに手を握ってもらったり、側に居てもらえばいいよ。そうすれば寒さなんてへっちゃらさ」

 

 「え? えーっと、いやー、今は夏だから別に……」

 

 「体じゃなくて、心が寒い時だよ。勿論、実際に寒い時でも良いけれどねぇ……ここには君を独りにする人は居ないんだから。誰かが握ってくれるし、誰かが側に居てくれる。そうすると心が温かくなるんだ。自分もそうだったからねぇ」

 

 少し恥ずかしそうにする雪花に、楓は優しく、語りかける様に言う。思い出すのは、小学生の時に1人で戦った後の入院した時。そして、まだ体が五体満足出なかった時の総力戦、その後の生き残りと戦った後の入院していた時。仲間達がお見舞いに来てくれた時、皆と共に居る時、寂しいと感じていた心が暖かさで、そして安心で満たされていた。

 

 雪花が感じているのは、元の世界でまた独りに戻る事への恐怖と寂しさであると楓は思っている。その結末は、恐らくは変える事が出来ないとも。だからこそ、その最後の時までは、孤独を感じることも、寂しさで凍える事もなくなって欲しい。人の暖かさで、震える事が無くなって欲しい。そう願い、この思いが届くようにと、楓はいつもの朗らかな笑みを浮かべる。

 

 「かーくん……」

 

 「っと、襲撃か。まあ、自分が言いたいのはそれだけだよ。友奈とか銀ならきっと直ぐに来てくれるしねぇ。覚えていてくれると嬉しいな」

 

 (……それは、さ。かーくん)

 

 何かを言おうとした雪花の声を遮るように、襲撃を知らせるアラームが鳴り響く。それを聞いた楓は一旦話を切り上げ、その場から移動する。その背中を見ながら、雪花を彼の話を思い返す。

 

 友奈と銀の名を挙げたのは、彼の中でそういった行動をする事に拒否感が無く、むしろ自らしてきそうな面々の筆頭角だからだろう。勇者達も、勿論巫女達も望めばしてくれるのは想像に容易い。そこに自身を挙げなかったのは異性であり、多感な年頃であることも考えたから。その考えに至りつつ、それでもと雪花はこう思った。

 

 

 

 (かーくんに頼んでも、いいのかな? なーんて、雪花さんらしくないかな)

 

 

 

 「……あー、夏だから顔が熱いよ、全く……地元じゃ考えられないねぇ。そうやって優しくされればされるほど、帰りたくなくなっちゃうな……と、私も援護に行かないと。今回もばんばん投げますぜ!」

 

 そんな事を言いながら、顔をパタパタと手で扇ぎながら雪花は楓を追いかけ……。

 

 

 

 「……良いこと聞いちゃったかも。最大の“泣き所”が分かったよ。精神攻撃の方向性を間違えてたね……これもこちら側のお役目だから……」

 

 そんな彼女の姿と声を、どこからともなく現れた赤嶺が見聞きしており……少し苦しそうな声で呟いた後、彼女もまた姿を消したのだった。




精霊紹介コーナー(まだやる)

・天狐

見た目は4本の尻尾を持つ、白い毛色の小さな狐。もふもふとしていてさながらデフォルメされたぬいぐるみのようでもある。

精霊としての能力は犬のように匂いで何かを探したりする事の他に、本作未使用ではあるが狐火のような白い火の玉を出し、それを投げつけて直接攻撃したり友奈の火車のように体に纏わせたりも出来る。言ってしまえば白炎を操る能力。あまり使わないのは、炎が扱う仲間が居る事と普段からやっている(光の操作)事と差程変わらない為。

精霊自身の性格は人懐っこく甘えん坊。1度出てくるとだいたい楓の肩に乗ったり足元をちょこちょこと歩き回ったり背中にしがみついたりととにかく引っ付く。たまに火車と追い駆けっこしたり木霊を前足で優しく転がしたり犬神とのんびりしたりしている。牛鬼の視線を感じると楓の後ろに隠れる。



という訳で、愛媛最終戦~浄化の儀の終わりまでというお話でした。戦闘が続いたのでほのぼのしたシーンを書けて良かったです。

ゆゆゆい原作では千景の成長に涙しそうな話ですが、本作だとのわゆの話はあまりしていないので大幅カット。むしろ雪花との絡みに力が入りました。原作通り友奈とペアでも良かったのですが、やはりここは楓とのペアに。手を握ったりはしませんでしたが……楓もまた入院なりなんなりで孤独を知る者ですしね。雪花とのやり取りに、彼女のその後の行動言動に違和感をあまり感じなければ幸いです。

さて、今年も残すところ2週間程。番外編でしっかり占められるように頑張ります。尚、来年の初めは同じく番外編、個別√を考えています。未定ですがね。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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