咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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本っ当に大変長らくお待たせしました、ようやく更新でございます(´ω`)

最後の投稿の後にコロナの陽性と診断され、先日まで体調不良に悩まされていました。良くなってきた後も酷い頭痛や喉の痛み、声もマトモに出せない状態が続き、ようやく執筆出来るくらいに回復しました。エタる事はしませんので、今後とも本作を宜しくお願いいたします。

さて、今回はサブタイ通り番外編です。それでは、どうぞ。


番外編 咲き誇る花達は甘い一時を

 それは、神樹の中という不思議空間に様々な時代の勇者、巫女達が来て共に過ごしていてる日常の中での出来事。尚、防人組がまだやってきていない頃の話だ。

 

 

 

 部屋に入る陽射しを顔に受け、眩しいと思いつつ銀(中)は目覚めた。寝起きでしょぼしょぼとする目を擦りつつ上半身を起こし、欠伸と共に手を伸ばしてぐーっと屈伸。まだ頭が完全に覚醒していないのか数秒程ボーッとしているとふと部屋を見回し、ポツリと一言。

 

 「あれ……あたしの部屋ってこんな感じだっけ……」

 

 微妙に、というか自身が記憶する部屋の内装とは家具や壁の色等も含めて違う。ではここはどこだ……と思っていると、自分以外の誰かのすやすやという寝息が聞こえた。そちらを見てみれば、そこには見慣れた金髪の親友……園子(中)の姿。そんな彼女と部屋に漂う甘い香りにすんすんと鼻を鳴らし、ようやく意識が完全に覚醒したのか銀(中)はまたポツリと一言。

 

 「……そうだあたし、昨日は園子の部屋に泊まったんだった」

 

 そう、ここは園子(中)が一人暮らししている部屋であり、銀(中)は彼女の部屋に昨日から泊まっていた。その理由は、彼女の視線の先にある壁に掛けられた何の変哲もない2月のページが開いているカレンダー……その、赤ペンで丸い印が書かれた日にある。印が書かれているのは、2月の14日。そして、それは今日この日。

 

 男女が期待に胸を膨らませるイベント……バレンタインデーである。

 

 

 

 「おーし、出来てる出来てる」

 

 「後はラッピングして完成だよ~♪」

 

 すっかり目が覚めた銀(中)と園子(中)の2人。冷蔵庫に冷やしていたチョコレートの確認をし、その出来映えを見て満足そうに頷いた2人は慎重に取り出し、用意していた箱に入れて丁寧にラッピングを施していく。チョコレートだけでなく、クッキーも沢山あり、それらも分けて袋に入れてリボンを結んでいく。テーブルの上にはシンプルなハート型のチョコが入った物が2つとクッキーが入った袋が大量に置かれている。

 

 「カエっちもわっしー達も喜んでくれるといいな~。ね~ミノさん」

 

 「だなー。しっかし、我ながらハートは直球過ぎるというか……今更ながら恥ずかしくなってきた……」

 

 「なんで? 可愛いんよ~♪ それに美味しそうだし、カエっちも喜んでくれるよ~」

 

 「まあ楓はちゃんと受け取ってくれると思うけどさ」

 

 言わずもがな、2つあるハート型のチョコは2人の所謂本命チョコ。勿論渡す相手は楓である。小学生の頃にも渡した事があるがその時は園子(中)はともかく銀(中)は友チョコ、本命を渡すのはこれが初めてとあって恥ずかしそうにしている。それにチョコを渡したのは2人ともその時が最後であり、中学生になってからは初めて渡すのだ、気合いの入り方も違ってくるというもの。

 

 故に直球勝負というか想いを込めて作った結果がハート型ミルクチョコである。箱もハート型で箱もリボンも色は2人それぞれのイメージカラー。園子(中)に至ってはチョコにチョコペンで“大好き”の一言まで添えている程。戦いならともかく、恋愛方面は割と乙女な銀(中)は流石にそこまでやる度胸は無かったが。

 

 2人はしっかりとチョコをカバンの中へと入れ、制服に着替えて学校へと行く準備。渡すタイミングは通学路か放課後かはたまた部室か教室か。むむむと悩む銀(中)の隣では園子(中)が既に渡してからその後までのあれやこれやを妄想している。そうこうしている内に普段部屋から出る時間帯となり、2人はまだ冷える2月の青空の下へと歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 「ばれんたいんでー……女の子が好きな人にちょこれいとを送る日、かぁ」

 

 場所は代わり寄宿舎。そこで食堂の冷蔵庫にあるチョコを見ながらそう呟くのは神奈だ。元々神である彼女にとってバレンタインデーというのは馴染みがない。その無知っぷりはひなたが“もうすぐバレンタインデーですね”と呟いた事に対して“ばれんたいんでーってなに?”と素で返し、周囲に居た者達を驚愕の渦に巻き込んだ程。その時は巫女としての暮らしが長くてイベント事に疎かったのではと楓からフォローが入って事なきを得た。

 

 しかし、知ってしまったのなら行動しない訳にはいかないと仲間達と共にチョコレートを作ってみた神奈。湯煎と聞いてお湯に直接チョコを入れ掛けたり、チョコを溶かすと聞いてフライパンの上にチョコを置いて火に掛けたりとお約束をやりそうになる度にひなたと小学生組に止められ、紆余曲折ありつつも何とか形にしてみた結果、ポピュラーなハート型チョコが完成した。勿論、皆にも渡す用に大量の一口サイズチョコも作ってある。

 

 (……今更だけどこの形、凄く恥ずかしいんじゃないかな……?)

 

 想像する。ハート型チョコを手渡す相手は当然楓を想定している。しかし神とは言え今ここにいるのは普通の女の子とそう変わらない感性をしている神奈である。ハート型という好意を直球に伝える形をしたチョコを相手に渡すのは正直に言ってかなり恥ずかしい。が、作った以上渡さない選択肢は無い。折角作ったのだから是非とも貰って欲しいと思うのだ。

 

 「あのー、神奈さん。そんなに握ってたらチョコ溶けちゃいますよ?」

 

 「わぁっ!? ぎ、銀ちゃん……そ、そうだね」

 

 「うふふ、神奈さんは誰に渡すのを想像したんでしょうね」

 

 「ひなたちゃんも……その……か、楓くんに……」

 

 ((分かりやすいなぁ))

 

 チョコの入った箱を両手で握りしめたまま棒立ちする彼女に話し掛けたのは銀(小)とひなた。彼女達もまた自分達が作ったチョコやクッキーの確認の為に冷蔵庫の前にやってきたのだろう。話し掛けられて驚いた神奈は慌てつつも1度冷蔵庫の中へとチョコを戻し、ニコニコと笑いながら言うひなたの言葉には顔を赤くしながら正直にぼそぼそと呟く。その可愛らしい反応を見て、2人は内心で知ってたとほっこりしていた。

 

 その後、続々と寄宿舎に暮らす仲間達が起きてきては自分が作ったチョコやクッキーの確認をしに冷蔵庫へとやってきていた。勿論男である新士もだ。彼も日頃の感謝を込めてチョコを一緒に作っていた。無論、友チョコである。そして寄宿舎に共に住む者達は、部室で会う仲間達よりも一足先にチョコを手渡していた。

 

 「アマっち~。はいチョコレート。勿論大本命なんよ~♪」

 

 「私からもはい、どうぞ。その……所謂お友達チョコという奴なのだけれど……」

 

 「あたしからもな新士。あまりの美味しさに驚くなよー?」

 

 「ふふ、3人ともありがとねぇ。自分からもはい、チョコレートのプレゼントだよ」

 

 小学生組は女子3人は真っ先に新士へとチョコを渡し、彼も3人へと渡した後、女子3人も互いにチョコを渡し合う。園子(小)から本命と言われても普段の朗らかな笑みを崩さない新士。お友達チョコと言う割には気合を入れて慣れない洋菓子に挑戦し、渡す際にも顔を赤くしている須美を横目でにまにまと笑いながら見ていた銀(小)。渡した後は彼にあーんとチョコをおねだりする園子(小)と食べさせる新士、彼の真似をして差し出す銀(小)と恥ずかしそうに拒否しつつチラチラと見る須美の姿があった。

 

 「若葉ちゃん。はい、チョコレートですよ」

 

 「いつもありがとう、ひなた」

 

 「はいぐんちゃん! 私からのチョコレートだよ。ぐんちゃんには1番に渡したかったんだー」

 

 「た、高嶋さん……あ、ありがとう。とても嬉しいわ。わ、私からも……私も、高嶋さんに最初に渡したかったの」

 

 「さああんず、タマにチョコを、プリーズ。代わりにタマ特製チョコをやろう」

 

 「ふふふ、はいタマっち先輩」

 

 西暦四国組も学校に行く前にチョコを渡し合っている。恒例のやり取りだと言わんばかりにひなたからチョコを受けとる若葉。勿論彼女も皆と共に作っていたチョコをお返しにと手渡している。高嶋は満面の笑みで千景に真っ先に赤いラッピングが施されたチョコを渡す。恥ずかしそうに、同時に嬉しそうに頬を染める千景も礼を言いつつ桜色のラッピングのチョコをお返しに渡した。チョコを交換した彼女達は、大事そうにそのチョコを胸に抱いていた。

 

 球子は他の者達とは違い、杏に両手を伸ばしてチョコを要求していた。彼女としても初めからそのつもりなので微笑ましげに笑いながら用意していたチョコを渡し、逆に球子からのチョコを受け取る。早速ラッピングを綺麗に取り、チョコを食べ始める球子を、杏はやはり微笑ましげに見ていた。

 

 「みーちゃん、私からバレンタインのチョコをプレゼント!」

 

 「ありがとう、うたのん。私からもはい、チョコレートだよ」

 

 「雪花ちゃん、棗さん、先に2人に渡しておくね。初めて作ったから色々と自信はないんだけど……」

 

 「いやいや、作ったところ見てたけど全然大丈夫だったじゃないの。ありがとね、神奈。はい、私からのお返しのチョコ」

 

 「ありがたく受け取ろう。うん、大丈夫だ神奈。見た目も綺麗だ……味も美味しい」

 

 諏訪の2人も相変わらずの仲の良さを見せつけながらお互いにお互いが作ったチョコを交換し合っている。こうして見ればやはり故郷や元居た場所が同じ者同士が真っ先に渡し合っているが、そうでない者の雪花と棗には神奈が最初にチョコを渡していた。渡す際に自信無さげにしていた神奈だが、彼女が頑張ってひなた達から教えて貰いつつ作っていたのを見ていた2人は心配無用だと安心させるように言う。

 

 実際、貰った袋を開けばそこにあるのは四角く綺麗に型どられたシンプルな一口サイズのチョコ。棗はそこから1つ摘まんで早速食べ、少し笑みを浮かべて美味しいと一言。その言葉に安心する神奈に、2人もまたお返しにとチョコを渡す。そこからは全員が全員にチョコやクッキーを渡し合っていた。それは普段の寄宿舎から学校へと向かう時間になるまで続き……寄宿舎から出る皆のカバンの中には、部室で会う仲間達用のチョコが入っていた。

 

 

 

 

 

 

 「おはようカエっち、フーミン先輩、イッつん。カエっち、ハッピーバレンタインなんよ~♪」

 

 「おはよう楓、風さん、樹。あたしからも、その……ハッピーバレンタイン、楓」

 

 「おはようのこちゃん、銀。2人からチョコレートを貰うのは小学生の時以来か……ありがとう、大切に食べさせて貰うねぇ」

 

 「はいおはよう2人共。アタシ達のも含めて早速チョコ4つとは、我が弟ながらモテるわねぇ」

 

 「おはようございます、園子さん、銀さん。お兄ちゃんは毎年沢山貰ってるもんね」

 

 「イッつん、その話詳しく」

 

 「そ、園子さん……目が怖いです」

 

 あれから少し経った朝、通学路の途中で合流した犬吠埼3姉弟と園子(中)と銀(中)。出逢うや否やいつものように即楓の右腕に抱き付きに行く園子(中)がカバンからごそごそと作ってきたチョコレートを取り出し、彼に渡すと銀(中)も恥ずかしそうに顔を赤らめつつ同じように取り出して渡す。受け取った楓は過去に2人から貰った事を思い返しながら、朗らかな笑みを浮かべて大切にカバンの中へと入れた。後でゆっくり食べるのだろう。

 

 2人からチョコを貰う()にどこか誇らしげに笑う姉妹。事実として、楓はバレンタインの日には同級生や勇者部の部活で知り合った先輩、一般市民、年齢を問わずチョコレートやクッキー等を貰い、自然と数が多くなる。勿論義理や友チョコ、お礼もあるが、中には本命と思わしきモノもある辺り侮れない。

 

 が、想い人が毎年バレンタインにアニメや漫画の如く沢山貰ってると聞けば心穏やかに居られないのが恋する乙女。しかも自分達がまだ復帰していない頃からともなれば余計に。脳裏に浮かぶのは小学生の頃、クラスの女子からチョコを受け取っていた彼の姿。それが中学生になっても続いているとは流石自身が好きになった相手と誇るべきか、それとも恋敵が多いと焦るべきか。

 

 そも、楓は雰囲気こそ爺臭いと取られる事が多いがはっきり言ってモテる。器量は姉妹と共通して良し。老衰による転生者という事もあり、勉強の大切さを知る為に勉強を真面目にしているし、頭の回転も悪くない。察しの良さは知っての通り。勇者としての訓練を受けていた上トレーニングも欠かさないので運動も部活の助っ人に呼ばれるくらいに出来る。性格もおおらかで優しく、時に厳しい。

 

 つまり、彼は小中における人気者、或いはモテる男子の条件をおおよそ満たしているのだ。ただ同年代に比べてあまりに老熟した雰囲気や口調等であだ名が“お爺ちゃん”となる為、貰うチョコの量に対して本命は少ない。まあ言い換えればそんな彼に本命を渡すのはかなり真剣な想いを抱いていると言える訳だが。

 

 それはさておき、雑談しながら学校へと向かう5人。学校までそれなりに距離のある道のりを楽しみ、気が付けばもう目的地。姉妹とはまた放課後に部活でと下駄箱で別れ、クラスが違うので楓は2人とは教室まで共に行く。因みに、靴箱の中にチョコレートが入ってるというシチュエーションは良く見掛けるが彼のところには無かった。というのも、ラッピングしてるとは言え靴箱に入れるのは衛生的にどうなのかという彼の注意があったからなのだが。

 

 「おはよう」

 

 「おはようお爺ちゃん」

 

 「おはよう犬吠埼君」

 

 「おー、じーちゃんおはよう!」

 

 2人と別れ、挨拶しながら楓が教室へと入ると既に投稿していたクラスメイト達から挨拶が返ってくる。共に過ごす時間が長いのは勇者部のメンバーであることは周知の事実ではあるが、別にクラスメイト達との仲が悪い訳ではない。むしろ関係はクラスメイト、それどころか先輩後輩を含めても良好である。そもそも神世紀は神樹という実在する神の存在が根付いている為か、四国の人間は基本的に皆善人である。無論例外も居るが。

 

 「あ、お爺ちゃん。はいバレンタインチョコ」

 

 「私もー。いつもありがとね」

 

 「おや、今年も貰えるなんて嬉しいねぇ。ありがとね」

 

 クラスメイトの女の子2人が笑顔でラッピングされた小さなチョコを楓に渡し、彼はそれに礼を言いつつ受けとる。今年も、と言った事から分かるようにこの2人から貰うのは今回が初めてではない。そして、それは2人だけに止まらないのだが。因みに、ホワイトデーにはしっかりとお返ししている。貰う数が数なので大量にクッキーやチョコを作ることになるのだが。因みに、小さいだけに数があるのか他の男子にも配られていた。

 

 「楓くん! おっはよー!」

 

 「おはよう、楓君」

 

 「楓さん、おはようございます」

 

 「おはよう、友奈、美森ちゃん、夏凛ちゃん」

 

 受け取ったチョコをカバンに入れていると、友奈、美森、夏凛の3人が登校してきて元気に、笑みを浮かべながら挨拶をし、楓も朗らかな笑みと共に返す。その後3人は直ぐに自分達の席に向かい……と言っても友奈は楓の前、美森は隣……カバンから何かの箱を取り出して彼に差し出す。何を差し出したかは言うまでもなく、ラッピングされたチョコレートである。

 

 「はい、楓くん。ハッピーバレンタイン!」

 

 「私からも、どうぞ楓君。友奈ちゃんと2人で作ったのよ?」

 

 「わ、私からも……どうぞ、楓さん。2人と違ってその、買ったものだけど……」

 

 「ありがとう、3人共。嬉しいよ」

 

 満面の笑顔で、穏やかな微笑みで、恥ずかしそうに目線を逸らしながら。三者三様に手渡されたチョコを受け取った楓は朗らかな笑みと共に礼を言い、大事そうにカバンの中へとしまう。この時点で彼は家族からの物を含めて9つのチョコを受け取っているのだが、ここから更に登校してきたクラスメイトからも受け取る事になる。

 

 加えて、休み時間や昼休みになれば先輩や後輩からも笑顔と共に勇者部のお礼や顔見知りだから、と様々な理由から手渡される。去年、つまり楓がまだ1年だった頃よりも増えている事に彼は有難い気持ち半分、沢山貰ったけれどどうしようという気持ちが半分だった。尚多くの思春期男子は彼ほど貰えない事に色々と嘆きの声が上がってこそいたが、別に楓を妬むような声は無かったらしい。女子にも、そして男子にも楓は人気だった。

 

 「うん、美味しい。友奈、頑張ったんだねぇ。とても美味しいよ」

 

 「良かったー。東郷さんに教えてもらって良かったよー」

 

 「ふふ、友奈ちゃん頑張ってたもんね」

 

 「確かに美味しい……やるわね、友奈……」

 

 そして時間は少し経ち放課後。少し行儀は悪いが、部室へと向かう途中で楓は友奈から貰ったチョコをポリポリと食べていた。昼食の時にも他の子達から貰ったチョコをデザート代わりに食べていたのだが、それでも尚急遽先生から貰った紙袋2つとカバンいっぱいにチョコがある。こうして食べていかないと何日で食べきれるかわからない。大食漢な上同じ味を食べ続けても飽きない彼がやろうと思えば1日で食べきれる気がしないでもないが。

 

 その隣では夏凛も友奈から貰ったチョコを食べていた。勇者部は皆仲が良い。なので楓相手だけでなく部員全員分を誰もが用意していた。流石にこの世界では部員の総勢が20名にも及ぶ為、本気本命の1つと大量に作れる物と分けたが。本気本命の1つが誰に対する物なのかは部員それぞれだが。尚、友奈の場合は楓と美森に、美森の場合は4つ程、夏凛は1つだけ気合の入れ方が違う。因みに、女子3人のカバンの中には楓から受け取ったクッキーの袋が大切にしまわれている。

 

 「こんちわー! 結城、楓君、東郷さん、夏凛ちゃん入りまーす!」

 

 「こんにちは、4人とも。昨日ぶりだな」

 

 「こんにちは、楓さん、友奈さん、東郷さん、夏凛さん」

 

 「こんにちはー! 皆集まってきたね、ぐんちゃん」

 

 「そうね、高嶋さん。楓君達も、こんにちは」

 

 「楓なんだその大量のチョコは!? お前モテモテだったのか!?」

 

 「もう、タマっち先輩。先に挨拶しなきゃ……こんにちは、皆さん。でも確かに凄い量……」

 

 部室に入りながら先に部室に来ていた西暦四国組と挨拶を交わす4人。球子が楓の持つ袋を指差しながら驚きの声を上げると、他の5人も自然と視線がそちらに向き、その量に驚きの表情を浮かべた。それも仕方ないと言えば仕方ないかも知れない。何しろまるでアニメか漫画かと疑うような量だ、元の時代では異性と過ごす事も殆ど無かった事もあり、楓のような状態は想像もしなかっただろう。

 

 驚きが落ち着いた後、6人と4人はお互いにチョコ、クッキーを手渡していた。その際、楓が“風雲児様達から貰えるなんて光栄だねぇ”とからかうように笑い、若葉が“からかうな楓”と苦笑いするというやり取りがあり、皆が笑っていた。因みに受け取ったチョコ、クッキーは袋に入りきらないこともあって楓の胃袋へと次々入っていっている。6人分ともなればそれなりに量があるが、姉に匹敵、或いは凌駕しうる大食いの彼には少し早いおやつにしかならなかった。

 

 そうして皆でおやつタイムを堪能していると、他の勇者達も部室に集まってくる。園子(中)と銀(中)、風と樹、歌野に水都、雪花に棗、神奈、小学生組。集まる度に元気な挨拶が交わされ、楓の貰ったチョコの量に驚き、部員同士で交換し、今日はバレンタインデーという事で部活はお休みとの事で単純に交換したチョコ、クッキーをおやつにのんびり過ごす時間になっていた。

 

 「ど、どうかな? 楓くん……」

 

 「うん、美味しいよ神奈ちゃん。これだけ作れれば充分だねぇ」

 

 「はい、若葉ちゃん。あーん」

 

 「あーん……ひなたのチョコは美味しいな」

 

 『おぉぉぉぉん……ぅおぉぉぉぉん……』

 

 「私が作ったチョコです。お姉ちゃんにも手伝って貰ったんですけど、そのお陰で上手く出来たんですよ!」

 

 (なんか喋ってない? そのチョコ。泣いてるような、呻いてるような感じで。しかも紫色のオーラみたいなのも見えるし……私のメガネがおかしいのかな?)

 

 (ちょっと風。あんた本当に手伝ったんでしょうね!?)

 

 (いやー、しっかり見てた筈なんだけどねぇ……何がどうなってああなるのかアタシにもわかんないのよ)

 

 「……ありがとう、樹。いただきます……」

 

 (行ったああああ! ちょっと躊躇ってたけど、棗がしっかりと手に取って食べたああああっ!)

 

 神奈が顔を真っ赤にしつつ差し出したチョコを、楓は優しい笑みを浮かべながら受け取って食べる。その感想を聞いた彼女は花が咲くような笑顔を浮かべ、その隣ではひなたが今朝渡したチョコを若葉に食べさせており、少し離れた所で樹が棗にチョコ……らしき紫色の物体が入った箱を渡していた

 

 箱の蓋を開けるまでは何とも無かったが、開けた瞬間何やら紫色のオーラのようなモノがその物体から漏れ出した。しかも空耳か幻聴か何やら妙な声も聞こえてくる始末。冷や汗を掻きながら何度も目とメガネのレンズを拭く雪花だが、そうした所で目の前の現実は変わらない。夏凛が風に小声で本当に手伝ったのだろうなと聞くが、手伝いながら作業もしっかり見ていてこれなのだから世界は不思議に満ちている。

 

 そして差し出された本人の棗は普段のクールな無表情に冷や汗を浮かべ、一瞬たじろいだが樹の邪気の無い笑みと手作りである事を知り、ゴクリと喉を鳴らしつつ……決して前向きな意味で鳴らした訳ではない……その物体を手に取り、礼を言いつつ口の中へと放り込んだ。その光景を見ていた球子は内心で絶叫し、棗を心配そうに見る。

 

 1回、2回とゆっくりチョコ(仮)を咀嚼する棗。口を閉じている事もあるだろうが、不思議な程に噛む音はしなかった。いつの間にか誰もが自然と彼女の一挙手一投足に注目しており、チョコを送った本人だけが自信ありげにニコニコとしていた。やがてゴクリと飲み込んだ棗は、パチクリと目を瞬かせ……。

 

 「……美味しい。本当に美味しいぞ樹」

 

 「良かったです♪」

 

 「マジで? 本当に大丈夫か? 棗。体に違和感とか……」

 

 「無いぞ球子。美味しいチョコだ」

 

 「あの見た目で……?」

 

 「失礼ですよ球子さん、夏凛さん。確かに見た目はちょっと失敗しちゃいましたけど、ちゃんと味見もしたんですよ」

 

 【(見た目は()()()()失敗……?)】

 

 喜ぶ樹を横目で見つつ心配する球子に、棗はそう返した後に美味しい美味しいと言いながら1つ、また1つと手を伸ばして樹のチョコらしきナニカを口へと放り込んでいく。とは言え見た目が見た目なので半信半疑にジト目で見てしまう彼女にムッとする樹。しかし彼女以外のその場に居る全員が同じ事を考えた。その見た目は“ちょっと”どころではないだろう、と。

 

 尚、しっかり全員分作っていた樹から各自受け取り、恐る恐る食べてみるとこれが本当に美味しいと全員が驚きの声を上げる事になる。見た目はアレだが匂いと味はマトモという何とも不思議な樹の手料理であった。

 

 因みに、この後の勇者部は部活動として普段お世話になっている、よく依頼を受ける幼稚園や老人ホーム、商店街等に赴き、バレンタインのチョコレートを配って行った。当然と言うべきか、渡した相手側からも感謝を込めてチョコなり他のお菓子なり感謝の言葉が綴られた手紙等を貰ったのだが。そうしてその日は珍しく、造反神からの襲撃も無く、平和に過ごすことが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 その平和な1日が後数時間で終わるという頃。夕食も入浴も終えて後は寝るだけとなった楓は姉妹におやすみと挨拶を告げ、自室へと入る。歯磨きしたというのにデザートがてらに食べた貰ったチョコレートの味がまだ残っている気がしつつ欠伸を1つし、ふと部屋にある勉強机に目を向ければ見覚えの無い2つの四角い物体。気になって近付いてみれば、それは綺麗に片や白、片や黄色い包装紙でラッピングされ、上から赤いリボンが巻かれた物。

 

 そして、2つの四角い物の間に手紙らしき紙が1枚。手にしてしばし書かれた文字を目で追っていると、読み終えた楓は右手を口元に持ってきてくすくすと小さく笑った。

 

 (ふふ……また来たのか。確かに表立って渡すのは無理だろうねぇ)

 

 この場合、手紙の送り主と言うべきか。それとも差出人と言うべきか。手紙を書き、2つの四角い物を彼の部屋に置いたのは赤嶺であった。中にはまた勝手に部屋に入った事の謝罪と四角い物の中身がチョコレートであり、渡す相手が棗であること。そしてこの事を黙っている事と自身の代わりに彼女へ渡すことへの条件として、もしくはお礼として楓への分のチョコレートも置いた旨が書かれていた。

 

 「どうせなら、朝の内に置いていてくれれば学校に持っていけたんだけどねぇ」

 

 そう言って苦笑いしつつ、楓は手紙を引き出しに入れて箱を両手に持ち、再びリビングへと戻る。目的は勿論、まだ数多くのチョコレートが入っている冷蔵庫の中へと更に2つ追加する為だ。就寝に向かったのにチョコを持って戻ってきた弟に風は驚き、まだあったのかと驚き半分呆れ半分に呟いた彼女に、楓は何も言わず苦笑いだけを返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、チョコは無事に棗の手に渡り、持ち主については楓が“恥ずかしがり屋の棗さんのファン”と誤魔化した。因みに楓が貰ったチョコレートは貰ってから3日で全て彼の腹に納められたそうな。




精霊紹介はありません(!?)

という訳で、2ヶ月遅刻のバレンタイン番外編でした。特に大きな動きや展開は無い、チョコを作ってキャラ達がお互いに渡し合うだけのお話でした。

途中まで書いた後にコロナになりましたので、後半は殆どリハビリがてら書いてました。こんな感じだったっけ……と私自身何度か首を傾げましたが、いかがでしたでしょうか?

さて、次回で140話目、キリの良い150話が見えてきました。ゆゆゆい本編は後何話で終わることになるのか……どうかその時まで本作にお付き合い下さい。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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