咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

14 / 142
お待たせしました(´ω`)

一時ランキング入りしてました。やったぜ。UAも1万越えてました。やったぜ。評価10が4つ入ってました。やったぜ。

今回、ちょっとご都合入ります。よく考えたら安芸先生、眼鏡(外しても美人)女教師巨乳とか属性多くないですかね。しかもピーマン苦手とか可愛すぎかよと。

ゆゆゆいでバレンタインガチャ引いたら花言葉ぐんちゃんと助っ人タマっち先輩来ました。バレンタインぐんちゃん来て……。


鷲尾 須美は勇者である ー 12 ー

 あの戦いの後、私達は新士君の病室に戻ることは出来なかった。時間も遅かったし、戦った後だったので迎えに来てくれた大赦の人から大事をとって休むようにと言われたから。そのっちは戻りたそうにしていたけれど、安芸先生が居るかもしれなかったし、心も体も疲れきっていたから。その日、私は泥のように眠った。

 

 翌日、学校に登校するとそのっちは居た……新士君の席に、いつものように頭を置いて。その目には隈が出来ていて、あまり眠れていないのが分かる。私は彼女の頭を撫でた後、自分の席に座る。少し遅れて、珍しいことに銀が遅刻せずにやってきた。その顔は笑っているけれど、やっぱりいつもより……暗い。

 

 そのっちを起こしてから少しして、安芸先生が入ってきた。少し気まずい気分になるけれど、その首に包帯が巻かれているのを見て驚く。あの後、何かあったんだろうか……それに、なんというかこう、すっきりした顔をしてる気がする。

 

 「ホームルームに入る前に、皆さんに良いお知らせがあります」

 

 安芸先生はそう前置きして……こう続けた。

 

 

 

 「雨野 新士君が、目を覚ましました」

 

 

 

 「ホント!?」

 

 そのっちが叫ぶように言って立ち上がる。いつもの先生なら、きっと注意していたと思う。でも先生は注意するどころか、そのっちに笑いかけた。それは、前に見たことのある笑顔よりもずっと素敵だと思う笑顔で。

 

 「ええ、本当よ。先生も少し話すことが出来たし……もう大丈夫」

 

 「あ……うええええ……ああああ~……!」

 

 そのっちが力が抜けたように座り込み、泣き声を上げる。すると先生は……そのっちに近付いて、彼女を抱き締めた。その姿には、正直驚きを隠せない。だって昨日の今日だし、そもそも先生はあまりそういうことをしないから。

 

 それ以上に驚いたのは……抱き締めながらあやすように彼女の頭を撫でる先生の姿が、どこか新士君と重なって見えたこと。何が先生を変えたのかはわからないけれど……きっと、新士君が原因なんだろうなって思った。その新士君が目を覚ました。目を覚まして、くれた。

 

 「良かった……良かったよぉ……」

 

 堪えきれなくて、嬉しくて、嬉しくて……私も泣いた。

 

 

 

 「昨日はごめんなさい」

 

 放課後、安芸先生に生徒指導室に来るように言われた私達3人は、部屋に着くなり既に居た先生にソファに座るように勧められ、言われた通りに座ると頭を下げて謝られた。

 

 「えっと……先生?」

 

 「乃木さんに言われて、ずっと後悔していたの……なんて無神経だったんだろうって、傷付けることを言ってしまったんだろうって……」

 

 「あっ……えっと……」

 

 そのっちがしどろもどろになって私と銀の顔を見る。その顔にはどうしよう? どうすればいい? と助けを求めているのが見てとれる。確かに昨日、私達……というかそのっちが安芸先生に対して激怒した。正直、彼女の言葉は私と銀も新士君がああなった時に思っていたことなので撤回するつもりもそのっちにさせるつもりもない。

 

 でも、安芸先生はこうして謝ってくれている。それも深く、深く頭を下げて。ただ……その先生の行動が昨日までの先生と結び付かない。彼女が本当は私達のことを思ってくれているのは……分かりにくいけれど、解ってる。それでも、ここまでするのは予想出来なかった。仮に謝るとしても、頭まで下げるだろうか。

 

 「なんかさ。先生、変わっ……りました?」

 

 不意に、銀がそう聞いた。すると先生は顔を上げて驚いたように目を見開いた後……ふんわりと、見たこともないくらいに優しく笑った。

 

 「……変わったように見える?」

 

 「えっと……はい。昨日、病室であんなことがあったけれど、その時の先生とは、その……」

 

 「……教室で、雨野君と話したと言ったでしょう? 変わったのなら……変わることが出来たのなら、彼のお陰ね」

 

 「アマっちの……」

 

 先生が言うには、私達が居なくなってから少しした後、彼が少しだけ目覚めて、その彼と少しだけ話したんだとか。でも、その“少し”だけでこんなにも人が変われるというの? それとも……新士君“だから”、先生は変わることが出来たのかしら。私が、そうだったように。

 

 「まだ……まだ、先生と……大人のことは許せそうにないんよ……」

 

 「……そう、よね」

 

 「でも……でも! 先生がアマっちのお陰って言ったから……変わることが出来たのならって、そう言ったから……少しだけ、信じるんよ」

 

 「……ええ。今は、それでもいいの。ありがとう……乃木さん」

 

 銀と顔を見合せ、2人して笑う。やっぱり新士君はスゴい。今この場に居なくても、昨日とは全然違う。人も、雰囲気も……私達の心までも。彼に依存気味であることは重々承知している。でも……それが心地いいから、抜け出せそうにない。

 

 それこそ……彼のことを忘れでもしない限り。

 

 

 

 

 

 

 あの後、4人は安芸の車で楓の居る病院に来ていた。病院に着いた途端に3人は我先にと彼の居る病室に向かい、安芸はその後ろ姿に苦笑いを浮かべて自身はゆっくりとした足取りで売店へと進む。学校から直接来たので見舞いの品等持ってきていない為、せめて売店で何かしら買ってから行こうという大人の判断であった。

 

 病室の前に着いた3人は、少し乱れた息を整え、ゆっくりと扉を開ける。彼が眠っているのか起きているのか分からなかったからだ。そして、彼女達は見た。

 

 今では珍しくもない介護用の電動のリクライニングベッド。その上部分を起こして背もたれのようにした状態で、勇者服を着た彼が上半身をもたれさせながら窓の外を見ている姿を。

 

 「……アマっち」

 

 「うん? やぁ、皆。元気だったかい?」

 

 園子の声に反応し、窓の方に向けていた顔を扉へと向ける楓。その頭と左目を覆うように包帯が巻かれている姿は痛々しい。が、そんなモノを感じさせない朗らかな笑みを浮かべて、彼はそう言った。

 

 その声に、姿に、笑顔に、彼女達の涙腺が急激に刺激される。なんだか泣いてばかりだなぁと思いつつもそれを止めることはせず、3人は彼に負担を掛けないように抱き付いた。

 

 

 

 彼女達が落ち着いたのは、それから数分後。泣き止んだ辺りで飲み物やお菓子の入った袋を持った安芸が病室に入ってきた。彼女が見たのは、嬉しそうに楓の左手を握っている園子とその後ろにある椅子に座って笑っている須美、ベッドに座って扉に背を向けている銀……そして、3人に向けて朗らかに笑う楓の姿。そんな4人の姿に、安芸はまた優しく笑っていた。

 

 「ん? ああ、先生も来ていたんですね」

 

 「ええ。体は大丈夫? 雨野君」

 

 「勇者服を着ていれば、こうして体を起こして会話出来るくらいには。これ着てると治りが早いんですよねぇ……先生も大丈夫ですか? ……その喉」

 

 「大丈夫よ。ちょっと痕が残ってるから、こうしているだけだから」

 

 楓に言われて、安芸は喉に巻いている包帯に触れる。昨日、あの男に殺されそうになった時に強く掴まれた喉には、男の手形が不気味な程にくっきりと残っていた。それが完全に消えるまでは、包帯を巻いたままにしていることだろう。そんな2人の会話に疑問を覚えたのは、須美。

 

 「そういえば先生。その喉、どうしたんですか? 昨日はそんなのしてなかったと思うんですが……」

 

 「……そうね、雨野君。話してもいいかしら?」

 

 「そうですねぇ……自分の名前のこともありますし、ねぇ」

 

 「「「……名前?」」」

 

 

 

 

 

 

 「アマっちが……生け贄……?」

 

 「なんだよそれ……っ!!」

 

 「ひどい……そんなのって……」

 

 楓と安芸が語ったのは、3人がバーテックスとの戦いに行った後に病室で起きたこと。楓を養子にした理由、彼を生け贄と称して殺しにきたこと、安芸がそれに巻き込まれて殺されかけたこと。そして、その男は既に死んでいること。

 

 流石に昨日今日で事実確認が出来ておらず、彼女達の精神状況を考えて天の神や結界の外のこと等は話していない。だが、楓も安芸も近い内に話すつもりで居る。勇者として彼女達は知る権利があるのだから。例え知った結果、彼女達が戦うことを拒否したとしても、2人は受け入れるだろう。

 

 「……でも、それじゃあアマっちはどうなるの?」

 

 「そうだねぇ……とりあえず、“雨野 新士”とはもう名乗らないだろうねぇ。言い方は悪いけれど、この名前を使うのは……虫酸が走るって奴だねぇ」

 

 「結構言いますな……」

 

 雨野家は事実上のお家断絶。血筋が居なくなったのだから、もう大赦の名家に名を列ねることもない。そして、彼も雨野の名を使い続ける気は毛頭ない。誰が好き好んで己を殺しに来た男が付けた名を使い続けたいと思うのか。笑いながらそう吐き捨てる楓に、銀は思わず身震いする。彼に怒られた時のことでも思い出したのだろう。

 

 「一応、大赦の方でも話し合いはしているわ。本来養子にするはずだった家に行くことになるのか、それとも別の家になるのかわからないけれど……」

 

 「因みに、その家ってどこなんですか?」

 

 「確か、高嶋家か赤嶺家のどちらかだったハズよ」

 

 「また名前が変わるんですかねぇ……」

 

 安芸の話を聞いた楓が苦笑いを浮かべる。正直なところ、もう住むところも名前も変わるのは遠慮したいという気持ちでいっぱいだった。元々彼は、どちらかと言えばインドア派ののんびりやなのだ。今生の両親のことも好いているし、貰った名前も気に入っている。何度も別の名前を名乗るのは抵抗があった。

 

 そこでふと、楓は思い至る。彼女達に本来の名前を伝えていないことに。

 

 「そうだ、もうあの名前を名乗らない訳だし……改めて自己紹介でもしようか」

 

 「そうね、もう新士君とは呼べないのだし」

 

 「では、改めて……」

 

 そう言って、楓は1度間を置く。その際にチラッと園子へと顔ごと目を向け、急に見られた園子はキョトンして首を傾げる。そんな彼女の愛らしい姿に楓はクスッと笑みを溢し……。

 

 「犬吠埼さんちの楓です。よろしくねぇ」

 

 「あっ……」

 

 「おう! よろしくな、楓!」

 

 「楓君……うん。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 銀と須美がそう返す中、園子だけが何も返せなかった。

 

 

 

 ー それじゃああらためまして……乃木さんちの園子です~ ー

 

 ー これはご丁寧に……雨野さんちの新士です。よろしくねぇ ー

 

 ー ! よ、よろしく~! ー

 

 

 

 それは5年生の頃、楓が転校してきて2日目の日の……園子が初めて“友達”を得た日の会話。楓は覚えていた。あの日の自己紹介を。勿論、園子も覚えている。大切な、大切な記憶なのだから。

 

 「そのっち?」

 

 「あ……えっと……の、乃木さんちの園子ですっ!」

 

 「なんでお前まで自己紹介を……」

 

 「ふふ……よろしくねぇ」

 

 何の反応もない園子に不思議そうにする須美。ハッとして慌ててお辞儀をする園子に呆れる銀。そんな彼女を見て、また優しい笑みを溢す楓。

 

 (……良かった)

 

 その光景を見て、安芸は心から安堵した。もう、昨日のような……悲しみに暮れる彼女達の姿はない。ただ、仲の良い友達同士が笑い合う、ありふれた平和な空間があるだけ。それこそが、子供である4人が本来居るべき世界。その世界を、本当ならば大人が守るべきだというのに、それが出来ないもどかしさは……まだ、彼女の心に燻っている。

 

 安芸は近くのテーブルに袋を置き、自分はやることがあるからと告げて部屋から出る。彼女には見舞いだけでなく、他にもやることが多々あった。

 

 正直なところ、彼女にあの男から聞いたことを大赦に話すつもりは無い。只でさえ秘密主義で、勇者の心のケアもまともにしない上層部のことだ、虚偽であれ事実であれ色々と()()()()()()()ことが知られれば、何かしらの対処をされることは明白。勇者達のサポート役を代えられるだけならまだいい。最悪、命の危険も視野に入れなければならない。

 

 (私に出来ることは……向き合うこと。あの子達と一緒に、絶望的な現実と)

 

 例えそれで自分の身が危険に晒されたとしても、彼女は決して後悔しない。勇者達が何も知らないままで居るよりはいい。

 

 (信じること。あの子達がその絶望を乗り越えていけることを)

 

 勇者達が戦わなくなる危険性を考慮して事実を隠すのではなく、その危険性を理解し、それでも勇者達が乗り越えることを信じる。大人が、子供を信じないでどうするのか。

 

 安芸は見てきた。初めての戦いを、2度目の信頼を、3度目の連携を……4度目の、悲壮を。そして、5度目の怒りを。その全てを乗り越えて、あの笑顔があるのだ。4人揃えば、越えられないモノなんてないだろう。

 

 (そして、守ること。彼とあの子達の心を。彼では出来ない、大赦からの大人の行動からも。今度こそ……“本来あるべき大人”として)

 

 そう決意し、病院から出る安芸。3人の帰りには乃木からリムジンが出ることになっているので彼女が帰ることに問題はない。そして、彼女が自分の車のドアに手を掛けた時だった。

 

 

 

 「勇者達のサポート役である貴女を、大赦の本部まで連行させてもらいます」

 

 

 

 礼服に仮面を着けた集団に囲まれ、そう告げられたのは。

 

 思えば当然のことだった。あの時、病室の窓は開いていて、あの男はそんなことも気にせずに大声で暴露していたのだ。楓の病室が上階にあることを踏まえても、外に居た誰かに聞かれていても可笑しくはない。その中に、大赦の人間が居ても……可笑しくは、ない。何せこの病院は、“大赦が運営する総合病院”なのだから。

 

 「……私を、どうするつもりで?」

 

 「それは私達が知ることではありません。ですが、今の役割から外されることはほぼ確定でしょう」

 

 目の前が暗くなる。せっかく変われたのに。せっかく、園子との関係が改善出来る兆しが見えたのに。せっかく……あの平和な光景を見られたのに。安芸は、自分の足下が崩れていくような感覚を覚えた。

 

 (ごめんなさい……ごめんなさい、皆……)

 

 その心の声は、他の人間には届かなかった。

 

 

 

 ー 昔ならいざ知らず……今の私がそんなこと、させる訳ないでしょう? あの人が“私達”や勇者の子達に必要なように……今の貴女は、あの人達に必要なのだから ー

 

 

 

 だが……神には届いた。

 

 

 

 

 

 

 「~♪」

 

 「犬かお前は」

 

 「のこちゃんは甘えん坊だねぇ」

 

 楓の左手を頭に乗せ、ぐりぐりと押し付けている園子。その表情は花が咲くようなという言葉が相応しい程の満面の笑み。銀には彼女にぶんぶんと凄まじい速度で振られている尻尾が見えている程。そんな彼女をちょっと羨ましいと思いつつも、須美は今まで目を逸らしていた現実……彼の無くなった、何も通っていない勇者服の右袖を見詰める。

 

 楓がこうして生きて笑っている姿を見られたことは素直に嬉しい。だが、現実とは向き合わねばならない。須美は楓の右側に回ってベッドに……彼の隣に腰掛け、右袖を持ち上げる。

 

 「ねえ、しん……楓君」

 

 「ん? ……なんだい?」

 

 「楓君は……右腕が無くなってもまだ、戦うの?」

 

 「須美……その話は、何も今じゃなくてもいいんじゃ」

 

 「ううん。こういうのは、早い方がいい……もう、言えなくて、言わなくて後悔なんてしたくないもの」

 

 明るかった部屋の空気が暗くなる。3人共、分かっていて目を逸らしていたのだ。その空気を壊したくなかったのだ。今じゃなくていい、後からでも聞ける……そう言い訳をして、後回しにしていた。

 

 だが、須美は思い直した。もう既に1度後悔したから。言っていたら変わったかもしれないと、言わなかったことを後悔したから。その空気を壊すのも、腕のことを聞くのも、今後のことを聞くのも怖かったが……それでもと、須美は勇気を出した。

 

 (うん……やっぱり、子供の成長は早いねぇ……)

 

 そんな彼女を、楓は誇らしい気持ちで見ていた。彼女が真面目で、怖がりで、ちょーっと暴走するところがあって、友達のことが大好きで……そんな風に色んな面を知っている。お役目が始まる前の彼女と比べれば雲泥の差という奴だ。

 

 悪夢を見て泣いていた彼女が、勇気を出せた。そんな成長が、何よりも嬉しく、誇らしい。それは楓に、真実を話してもきっと大丈夫だと確信させるに値するモノだった。

 

 「……そうだねぇ。少なくとも、勇者を止めろとは言われてないから戦うよ。それに、確かに片腕が……それも利き腕が無くなったのは痛いけどね? まあ、問題ないと思ってるよ」

 

 「どうして? カエっち」

 

 「新しいあだ名はカエっちになったんだねぇ……まあそれはさておき、何で問題ないかって? 決まってるじゃないか。のこちゃんも、銀ちゃんも、須美ちゃんも居るからだよ」

 

 「あたし達が……?」

 

 「自分達は、1人で戦ってきた訳じゃないからねぇ……それに、須美ちゃんが言ってくれたじゃないか」

 

 「わ、私?」

 

 

 

 「守るって、一緒に頑張るって、ね。そう言ってくれた時、本当に嬉しかったんだよ」

 

 

 

 ー 私も、守るからっ……一緒に頑張る、から! ー

 

 

 

 言った。誓った。それが出来なかったから後悔して、自分を責めていた。それを彼は覚えていた。あの悪夢を見た日に1度、それも嗚咽混じりの須美の言葉を。

 

 「自分は利き腕を無くした。前みたいには、きっと戦えない。だから、聞くのは自分の方なんだよ」

 

 「カエっち……」

 

 「こんな自分でも……もう一度、一緒に戦ってくれますか?」

 

 楓が園子の頭から左手を動かし、前に伸ばす。痛みのせいか、それとも恐怖からか……その手が震えているのを、3人は見た。

 

 3人をお互いに視線を合わせ……笑って、頷く。言葉なんて決まっている。気持ちだって同じハズだ。もう1人で戦わせない。もう2度と、同じ後悔をしたくない。

 

 (カエっちは、今まで私達を守ってくれたから)

 

 (今度は、あたし達が守る番だ)

 

 (もう、あんな思いは嫌だから)

 

 3人も手を伸ばし、楓の手と合わせる。楓の1つの手を、3人が両手で包み込む。手の震えは、いつの間にか止まっていた。

 

 

 

 「「「もちろん!!」」」

 

 

 

 笑い合う4人を、窓の外から頭が赤く、体が桜色のオウムと青い鳥が見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 「貴女には、このままサポート役を続けてもらうことになりました」

 

 「は?」

 

 同日の夜。大赦の本部に連行されて狭い個室に入れられてそのまま放置されていた安芸。そのまま待つこと数時間経った頃にいつもの礼服に仮面を着けた人間……声からして男……が現れ、無機質にそう言ってきた。これからどうなるのか……と悩みに悩んで、扉が開いた瞬間死を宣告されることすら予想していたところにコレである。そりゃあ真面目な安芸と言えどキョトン顔に間の抜けた言葉の1つや2つ出るというモノだろう。

 

 「えっ、あっ……えっ?」

 

 「ですから、このままサポート役を続けてもらうことになりました」

 

 「……なんで、ですか?」

 

 「詳細は私には分かりかねます。ですが、何でも貴女がここに連れてこられて直ぐに神樹様より神託が降ったそうです。貴女をサポート役から外すこと、及び害すること(まか)りならん、と。上層部は大層慌てたそうです」

 

 「神樹様が……?」

 

 男の言葉を聞き、理解するのに数秒の時間を要した。そして神樹様が助けてくれたのだとようやく理解し……安芸は、割と思いっきり己の頬をつねる。手加減しなかったのでかなり痛かったらしく涙が少し滲んでいる。痛い。つまり夢ではない。なのに、彼女はどこか夢心地で居た。

 

 気付けば、安芸は自宅へと送る為の車に乗せられていた。自分の手を見る。その手は震えていた。今更になって自分の未来が閉ざされかけていたことに恐怖し、そこから解放されたことに安堵し、神樹様のお墨付きで子供達と居られることに喜び……泣いた。

 

 「嗚呼……嗚呼っ! 神樹様……ありがとうございます……ありがとう、ございますっ!!」

 

 両手を組み合わせ、泣き笑いの表情で感謝を告げる。ただただ純粋に、どこまでも大きな喜びを言葉に乗せる。そして誓う。己の身が滅ぶその時まで、子供達の味方で居ることを。先生として、サポート役として、大人として……子供達がいつか、勇者というお役目から解放されるその日まで。

 

 

 

 ー 人間って、泣きながらでも笑えるんだね。あの子達の涙は嫌だったけれど……この涙は、うん。嫌いじゃないなぁ ー

 

 

 

 真っ暗な空間の中、巨大の樹の前に立つ赤い髪に薄い桜色の着物の少女……神樹は、目の前の鏡に映る安芸の姿を、優しく笑いながら見詰めていた。




原作との相違点

・安芸と勇者達の関係がより良い方向に

・その他



ちょっとご都合(神樹様介入)がありましたが、至って平和に終わりました。感想で大赦に知られてないとか書いておきながら自分で覆していくスタイル。

原作の通りに進めば、次は決戦です。その前にまたほのぼの系の話を書いて、そこからラストバトルの予定です。

次回、前に言ってたデッドエンドif書きます。そこまで重くならないのでご安心を。この番外編の評判次第では、また他にも番外編とかリクエスト受け付けとかすると思います。今はまだしません←

感想にgood付けるのが間に合わないくらい貰える感想が増えました……嬉しい悲鳴です。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。