またランキング乗ってた。やったぜ。
なんか凄い筆が進みました。今回は予告通り、本編わすゆ9から分岐のデッドエンドifルートです。とは言うものの、実質原作銀の位置に主人公を突っ込んだ花結いの章2話になります。ご注意下さい。
後書きにて簡単に捕捉があります。興味がありましたらどうぞ。
あんまり重くないよ!←
ー あの日、あたしは間に合わなかった ー
ー あの日、私は危機を告げることしか出来なかった ー
ー あの日、わたしは何も出来なかった ー
須美に新士の危機だと叫ばれ、彼の元へと全速力で向かっていた銀。樹海を走り、ようやく大橋へと辿り着いた彼女が見たのは……悠々と神樹へと進んでいる、スコーピオンの姿だった。他の2体は見当たらない。そして、新士の姿もまた……見当たらない。
銀は俯き、スコーピオンの前へと出る。敵が現れたことを認識した敵は動きを止め、尻尾をゆらりと動かした。
「……お前……新士をどうしたんだよ……」
返答は、尻尾の先の針による刺突。それを銀は、タイミングを合わせて左手の斧を振って針の側面に叩き付け、針は粉々に砕け散る。
「なぁ……新士を……あたしの大事な親友を……」
ー どうしたんだよ……っ!! ー
意識を取り戻し、銀から遅れること十数分。須美と園子もまた、大橋の中央へと向かっていた。体の痛みを押し殺し、なるべく早く、なるべく速く。数分かけて大橋へと辿り着き、そこからまた少しかけて元の戦っていた場所へと向かう。
「銀!」
「ミノさん!」
やがて、桜の花弁が舞う大橋の中央に立つ銀の姿を見つけた須美は彼女の隣へと降り立ち、遅れて園子が須美の隣に立つ。銀はその声に反応することなく、俯いたまま動かない。そのことに疑問を持つ須美だったが……新士の姿が無いこと、そして、
「……新士、君……は……」
ゆっくりと、銀は前を指差し、2人がその方向に目をやる。そこには
「……須美……」
「わっしー……?」
まさか……そんなハズはない。そう思って、須美はゆっくりとその誰かに近付く。2人もまた、同じようにゆっくりと近付く。今にも胃の中のモノを戻してしまいそうな吐き気と血の気が引いていることによる寒さに震えながら、1歩ずつ。
「……アマっち……?」
「新士……」
隣の2人が何かを言っているが、須美はそれを認識出来なかった。まるで、自分だけが世界から隔離されたかのような、痛いほどの静寂。それは寒気すら感じる程で。
「……ーーっ」
悪夢のように、声は出なかった。代わりに、空気だけが漏れた。
誰かの近くまで来た。誰かの姿を見た。 それは背中を向けていた。それは赤黒く染まった勇者服を着ていた。ソレは身動き1つしなかった。ソレハボロボロの勇者服を着ていた。それは、ソレが、ソレニ。
その体に首はなく、その体の向こうで横倒しになって転がっている彼の頭と目が合った。
悲しい程に、残酷な迄に、救いようがなく、まるで決められた、逃れられぬ運命だったかのように。少女達の絶叫が響き渡る大橋の上で。
悪夢は、再現されてしまった。
悪夢の日から2年程の月日が流れた。その間に起きたことは、銀が生存していることを除けば本来の正史とそう変わらない。所謂“わすゆ組”の戦いが終わり、“ゆゆゆ組”の戦いが始まり、犬吠埼 風の暴走が本来よりも激しかったり東郷 美森が壁を壊す際に三ノ輪 銀と乃木 園子が止めに来たりと多少の違いがあった程度だ。
そうして大きな戦いも終わり、讃州中学勇者部として7人が部活に勤しんでいた頃、急に樹海化が発生し、しかもバーテックスまで現れる。戦いは終わったハズでは? と驚愕に包まれる一同だったが、更に驚くことにスマホの中にもう必要ないハズの勇者アプリが存在したのだ。
そして突然聞こえてきた謎の声に従い、とりあえず勇者へと変身し、バーテックスと戦い始める勇者部。その際になぜか銀と園子の姿が無くなっていたが、5人となっても問題なく撃破する。そうして樹海化が解除され、いつもの部室に戻ってくるとそこには居なくなっていた2人と謎の声の主である少女、西暦時代の巫女であるという上里 ひなたが居た。
彼女は言う。今居る世界は現実ではなく、神樹様の内部の“特別な世界”であると。神樹を構成する土地神の中の強い力を持つ一柱が造反神となって偽物のバーテックスを生み出し、反乱を起こしているのだと。“とある一柱”が抵抗していたものの既に四国の大半を制圧され、このままでは土地神がバラバラになって神樹の力が大きく削がれてしまう。勇者部一同はそれを阻止する為に召還されたのだと。
これは、勇者部と過去の勇者達が一同に集い、造反神の行動を阻止する為の戦い……その中で起きた、奇跡の邂逅を成した者達のもしもの話。
最初の戦いから少しして、勇者部一同はひなたに呼ばれ部室へと集まっていた。何の用かと聞けば……彼女曰く、今後の戦いは激しくなり、新型のバーテックスもどんどん出てくることが予想される。そこで、勇者部の頑張りによって少し取り戻した神樹様の力を使い、過去の勇者達……援軍を呼ぼうとしているという。
「という訳で、全員でお迎えしましょう」
「おぉっ、ついに別の時代の勇者がここに来るんだねヒナちゃん! 楽しみだな~」
「とても不思議な体験をすると思いますよ」
ひなたの言葉に喜色を隠さないのは、結城 友奈。明るく、聞いただけで元気が出るような声に、自然とひなたの口許も緩む。
ひなたは園子、銀、東郷の方を見た後にそう言うと、深呼吸して落ち着くようにと呟く。それを聞いて皆が大なり小なりドキドキと緊張している中で、3人だけが妙な胸騒ぎを感じていた。
(今、私達の方を見ながら言ったよね? ということは……その“不思議な体験”っていうのは、私達に関係すること?)
(なんだ? すごくこう、ざわざわする……まるで、あの日の時みたいな……)
(過去の勇者……まさか……)
そして、その“時”は訪れた。
「あれ? ここは……どこかな~?」
「知らない人達が沢山……あれ? そのっちの……お姉さん? そちらは……銀のお姉さん、かしら?」
「いやいや、あたしに姉とか居ないから」
「私も居ないと思うけど……でも、似てるね~。実はお姉さんなのかな~?」
「私に妹は居なかったと思うんだけど……でも、似てる……?」
「見た目はそっくりね。もしかして、同一人物? 小学生の時の園子、なのかしら」
一瞬の発光と共に現れたのは、小学生時代の園子、須美、銀だった。まさかの登場人物に勇者部の面々が驚愕している中、三好 夏凜がいち早く同一人物であると口にする。ここで、中学生の3人の胸がドクンと早鐘を打つ。まさか……という思いが強くなる。
「園ちゃん以外にも同一人物がいるような……ゆ、ゆあねーむいず東郷さん……?」
「? えっと……はじめまして。確かに以前は“東郷”ですが、今は鷲尾です。後、私はあまり英語が好きじゃありません」
「あ、ハイ。ごめんなさい」
「ってことは、こっちの子は……」
「あ、どうもです。あたしは三ノ輪 銀、です」
「やっぱり同一人物……そっか、3人は小学生の時も勇者やってたんだもんね」
友奈、風、夏凜と続けて3人の名前を確認し、結果全員が同一人物であると発覚する。友奈は今の東郷との差に微妙に気落ちし、夏凜は3人が来たことに納得する。が、中学生側の3人は内心で首を振る。違う、足りない。“彼”が居ない、と。
「あらあら? 変ですね……もう1人呼んだハズなのですが……」
そうひなたが言った瞬間、また部室に光が溢れる。そしてそれが収まると、そこに1人の少年の姿があった。その姿を見た園子、東郷、銀……そして風と樹の5人が驚愕から目を見開く。
「おや? ここは……どこなんだろうねぇ? っと……」
「あ! アマっち~♪」
「新士君! 良かった、はぐれたのかと……」
「新士が遅刻なんて珍しいなー」
「別に遅刻って訳じゃないと思うんだけどねぇ……うん?」
小学生の園子が少年……新士に抱き付き、彼も彼女を抱き締める。その姿に、中学生の園子の胸が痛んだ。新士の姿を見た須美が安堵の息を漏らす。東郷は逆に、あの日を思い出して息を飲む。小学生の銀がからかうように笑う。中学生の銀は、とても笑えなかった。
ここでようやく、新士の目が勇者部の面々へと向けられる。彼の目には、見覚えのあるような顔から見覚えのない顔まで映っている。数秒の間を置き、彼が口にしたのは……一年程会えなかった家族への言葉だった。
「久しぶりだねぇ、姉さんに樹。少し見ない内に大きくなったねぇ」
【……ええっ!? 姉さんに樹!?】
「改めまして、風の弟で樹の兄、犬吠埼 楓です。現在は須美ちゃんと同じく養子に出てまして、雨野 新士と名乗っております。いつも2人がお世話になっております」
「い、いえいえこちらこそ! 風先輩と樹ちゃんには本当にお世話になってます!」
新士が風、樹と姉弟関係であるという驚愕の事実の後にバーテックスの襲撃が発生し、その戦いから戻ってきた部室にて、新士が2人以外の勇者部5人に深々と頭を下げる。そんな彼に友奈は慌てて手を振り、同じように頭を下げた。
「2人はちゃんとやれてますかねぇ? 樹は引っ込み思案で人見知りなところがありまして、養子に出るときは本当に心配で……姉さんも面倒見が良く妹思い弟思いなんですが、やんちゃなところがたまにキズで時々痛々しい発言も……」
「……ねえ、風。あの子、あんたの弟……よね?」
「楓やめてお願い……ホントやめて……」
「お兄ちゃんその辺で……恥ずかしいから……」
お前は親かとツッコミたくなるような新士の口から次々と出てくる言葉に、夏凜から哀れみと“あの子あんたよりしっかりしてるんだけど”とでも言いたげな視線を向けられ、羞恥から顔を隠してしゃがみこむ風とそれ以上はやめてと顔を赤くしながら新士の制服の袖を控え目に引っ張る樹。
勇者部と小学生組、ひなたから生暖かい視線を向けられて更に居たたまれなくなる犬吠埼姉妹。その助け船として……という訳ではないのだろうが、園子(中)が口を開く。
「ところで、リトルわっしーにプチミノさんはどうだったかな? みんなと連携しての戦いは」
「そつなくこなせました、そ……園子さん」
「須美がリトルなのになぜあたしはプチ……? いやー、皆さん強いですね! めっさ心強いです!」
先の戦い、小学生組は自分達以上の強さを示した中学生組にただただ感激していた。訳もわからず、ろくに説明もされないまま赴いた戦いだったが、誰も怪我することもなく、危なげなく終えることが出来た。4人からすれば、自分達よりも年上というだけでも充分心強いのに更に強いとくれば、その安心感は大きい。
そうやって敬語で返す2人に友奈がリラックスしていこうと言っている横で、中学生組も驚愕していた。戦闘力こそ確かに自分達よりも少し劣るかもしれないが、4人の連携の巧みさは自分達と比べても高い位置にある。それはとても小学生のモノとは思えなかった。
「それに凄かったよねー、夏凜ちゃんと銀ちゃんと新士くんの攻撃。こう、ズババババーって」
「そうね、流石は私の先輩ってところかしら」
「先輩? そういえば、夏凜ちゃんのスマホは……」
「そ、元はあの子のよ」
友奈が戦いの内容を思い返しながらそう言うと、夏凜はスカートのポケット越しに自分のスマホを撫でる。大赦からやって来た完成型勇者と称していた夏凜は、元は先代勇者である新士のモノを受け継いでいる。故に、夏凜にとって彼は勇者としてもスマホの持ち主としても先輩に当たるのだ。
そして、その話を勇者部の面々は知っている。ただ、先代勇者が男であり、名前が“雨野 新士”としか伝わっていなかった為、誰も彼と犬吠埼姉妹の関係を知らなかったのだ。前代未聞である筈の男の勇者の存在に驚かなかったのはその為である。ひなたも予め神樹様から聞いていたので驚きはなかった。
「えっと……新士君もしたので、私達も改めまして自己紹介を……神樹館6年、鷲尾須美です」
「神樹館6年、乃木 園子です~。そこの園子さんの小さい頃です」
「同じく! 神樹館6年、三ノ輪 銀、です! そっちのあたしの若い頃です!」
「あたしよ、もう少し違う言い方は出来なかったのか?」
「それじゃ自分も……神樹館6年、雨野 新士です。一応、名前はこちらで通させてもらいますねぇ。どうぞ、よろしくお願いします」
「こっちこそ、皆よろしくね! って、私達もちゃんと自己紹介しないと」
「それでは、私達の自己紹介と、4人の召還された理由もしっかりお伝えしないとですね。東郷さんのぼた餅でも食べながら、聞いて下さい」
「なるほど、詳しい事情まで分かりました」
「アマっち、ぼた餅嫌いなの? あんまり食べてないけど……」
「いやぁ……自分、お餅は苦手でねぇ」
「どうして? 日本男児が、国民食のお餅を嫌うなんて……何がダメなの?」
「ああ、別に味や食感が嫌いって訳じゃないよ」
「じゃあ、なんで? 東郷さんのぼた餅、美味しいのに」
「昔、喉に詰まらせちゃいましてねぇ。それ以来どうも……」
「「お爺ちゃんか!」」
銀(小)が真面目に話を聞いていた隣で、そんな緩い会話が繰り広げられていた。勇者部の中で誰よりも早く小学生組の空気に馴染んだ友奈。そんな彼女への返答に、銀(小)と夏凜が思わずツッコミを入れる。風と樹は“そんなこともあったなぁ……”と思い返し、その頃を思い出して泣きそうになるのを堪える。
「じゃあ、私が食べていい? わっしー先輩のぼた餅美味しくって~♪」
「いいよ。はい、あーん」
「あ~……ん~♪」
「……………………」
「お姉ちゃん、園子さんが自分で自分に嫉妬を……」
「正直意外だわ……この手の役割は東郷のお家芸だとばかり……」
「どういう意味ですか」
園子(小)にねだられ、竹製のフォークで小さく切ったぼた餅を彼女の口に入れる新士。その光景を見詰めて目から光を無くす園子(中)。その胸中には嫉妬以上に深く複雑な想いが絡まっているのだが、犬吠埼姉妹にはそこまで悟ることは出来ない。自然と、園子(中)のフォークを握る手の力が強くなる。その手をそっと包み込みつつ、東郷は姉妹に物申した。
「そうだ、少し気になった……んですけど」
「ええ、なに? 銀ちゃん」
「大きくなった新士ってどこにいるんですか?」
中学生側の3人と姉妹の息が詰まる。その様子に気付いたのは、幸いにも小学生組の3人には居なかった。須美はお餅の良さを解説するのに夢中、園子(小)はぼた餅に舌鼓を打ち、銀は単純に気付けなかった。だが……東郷は見た。自分達の顔を見て、怪訝そうな表情を浮かべた新士を。
(なんだ? 自分の話が出た途端に……でも、確かに自分が居ないのは気になるねぇ。さっきの戦いでも……確か、三好さんだっけ。自分のこと
(まさか……気付きかけてる……!?)
新士の目が勇者部一同の顔を何度か行き来する。それだけで、東郷も新士が
新士と東郷の様子が少し可笑しくなったのを、園子(中)と銀(中)も気付いていた。同時に、銀(小)の質問への返答をどうするか悩んでいた。真実を伝えるか? いや、それをするには小さな自分達の存在が邪魔だった。仮に真実を伝えた場合、彼女達が敵に回る可能性が高い。自分のことだ、それくらいは容易く理解出来る。何せ、
「あのー」
「えっと……そうね、彼は……」
東郷が言い淀む。流石に可笑しいと思い始めたのか、銀の眉が潜められる。何か言わなければ、そう思うも焦りばかりが出て何も思い浮かばない。どうする、どうする、どうする……そして、助けが出た。他ならぬ新士自身から。
「うーん、自分は多分、勇者をリストラされて別の役割になったのかもねぇ」
「ええっ!? なんでその結論に!?」
「ほら、自分は唯一の男の勇者だろう? 多分、男が勇者としてやっていけるかお試し期間か何かだったんだよ。で、自分のスマホは……三好さんが受け継いだのかねぇ。自分のことを先輩って言ってたし」
「えっ? え、ええ、そうよ」
「じゃあ、別の役割って?」
「さぁねぇ。安芸先生みたいにサポート役か、それとも……年齢の近いカウンセラーかな? その辺、大赦はお世辞にも良いとは言えないしねぇ」
【ああ~……】
(
苦笑いを浮かべながら言う新士に驚く銀(小)。その後の彼の説明に納得がいったようないってないような曖昧な顔で首を傾げ、予想を聞いて思うところがあるのか納得の声を上げる。それには勇者部とひなたも感じたことがあるのか同調し、園子(中)だけがまた瞳に暗い光を灯す。
ー 3人共。辛い中……お役目ありがとう ー
ー ……あのね。怖い思いを沢山して、悲しいこともあったのに……貴女達は大変なお役目としっかり向き合っている ー
ー 3人はまさしく……勇者だわ ー
ギリィ……と、園子(中)が強く下唇を噛む。今思い出しても腸が煮えくり返りそうになる。もし当時の須美と銀が己を抑えてくれなければ、勇者の力を持ってして安芸を殺していたかもしれなかった。
訓練以外何もしてくれなかった大人が何を分かった風な口をきいているのか。本当に偉かったのは、本当に強かったのは、誰よりも自分達の助けと、救いとなってくれた存在を勇者から省いたことは本当に赦せなかった。それは安芸……大人と当時の勇者達の間に決定的で埋めようのない溝を作り出し、2年経った今でも彼女の怒りは収まっていない。
それを知らずに、無邪気に彼と接している小さな己の姿が羨ましくも恨めしい。その幸せな時間にまだ居る小さな己が羨ましくて仕方ない。自分はもう、彼と触れ合うことも、言葉を交わすことも出来ないというのに。
ー この世界に居れば、それが出来る ー
誘惑に負けそうになる。何か、あと一押しされれば、きっと坂道を転がるように堕ちてしまう。それを理解しつつ、園子(中)は必死に笑顔の仮面を被った。その仮面に気付けたのは……東郷と銀(中)、そしてひなただけであった。
「……今は神樹様の分裂を止めないと、そもそも皆さんが元の世界に戻れません。現実の話は、造反神を鎮めてからにしませんか?」
「それもそうですね。ところで、1つ再確認。現実に戻っても、時間は経過していないんですよね?」
「はい、そこは大丈夫です。貴方達が遠足の前に召還されたなら、遠足の前に戻ることになります」
「遠足の前、と言っても4日前ですけどねぇ……」
「良かったー。あたし、小さい弟居るからそれが心配で……」
(遠足の4日前……ということは、須美ちゃんは悪夢を見ていない?)
新士の言葉から、彼らは遠足の4日前の時間軸であることを知る。それはつまり、東郷達先代勇者にとってのターニングポイントからも4日前であるということ。もし、現実の歴史を変えることが出来るなら……新士の死を無かったことにする、そんな奇跡を起こすことができるなら。
一縷の望みをかけて、東郷はひなたへと視線を向ける。それに対してひなたは……目を伏せ、静かに首を横に振った。それを見た東郷も目を伏せる。分かっていたことだ。歴史を変えるなど、神の力を持ってしても夢物語。それでも、期待せずには居られなかったのだ。
「これからこの世界で暮らしていく上で、聞きたいことがあるんですが……宜しいですか?」
「な、何かな? 何でも聞いてね、須美ちゃん」
「っ!? 見て、楓。樹が……小学生に対してっ! 年上であろうと! 振る舞っているわっ!!」
「そうだねぇ……成長したんだねぇ、樹……ほら姉さんは涙を拭いて。全く、涙脆くなったんじゃないかい?」
「ぐじゅ……」
「手慣れているわね……流石弟。いや、兄?」
「感動の光景だね……ぐすっ」
「もらい泣き!? あーもう、涙を拭きなさいよって鼻はかむな!」
尚、須美が聞きたかったのは小学生である自分達はどこで勉強したらいいのかということである。それに反応……というか反抗するのは銀(小)。曰く、こんな世界に来てまで勉強は必要ない。しかし須美は勉強も鍛練も必要だと反論。2人から同意を求められ、困ったのは樹。そこに風からエールが送られる。今こそ年上の威厳を見せるべきだと。心なしか、新士からも応援の視線が送られている気がした。よし、と意気込み、樹が口にした答えは……。
「え、えと……勉強は大事、だよね。少しくらいはやった方がいい、と思う、な」
「うぐ、まごうことなき正論……でも、ある意味夢の世界なのに夢がない……」
「勉強は大事、良く言ったわ樹ちゃん。私が樹ちゃんの勉強を見てあげようか?」
「当然、樹もするわよね?」
「も、もちろんするよ……お兄ちゃん、今度勉強教えて……」
「樹……この世界では自分は樹よりも年下になるんだけどねぇ」
「そうだったぁ……」
がっくりと項垂れる樹を他所に風が説明する。曰く、この世界でも大赦は機能しており、明日からでも小学校に通えるようにしてくれるとのこと。それに加え、ひなたが住む場所として中学校の近くに寄宿舎を用意しているという。当面はそこで生活してもらうらしい。
理由として、小学生組の拠点は大橋であり、現在その大橋は造反神によって制圧されている。その為、現状帰ることが出来ないのだ。当然、大橋にある神樹館に通うことも出来ない。よってここ、讃州市にある小学校に通うしかないのだ。
「家を出ての生活……何だかわくわくするね~。でも、私に出来るかな~?」
「大丈夫、分からないことがあったら教えるわ、そのっち」
「小学生の東郷さんも頼りになるなぁ。結城友奈、感激しました! 握手して下さい!」
「は? はぁ」
「寄宿舎、ねぇ……」
「? どうしたの? アマっち」
「ああ、のこちゃん……じゃ、なくて……いや、合ってる……うーん、なんて呼んだらいいですかねぇ」
須美が友奈に良くわからないまま握手している横で、寄宿舎という言葉に考え込む新士。そこに声をかける園子(中)だったが、かつてのあだ名で呼ばれて喜んだのも束の間、すぐに言い直して呼び方を悩む彼の言葉にまた胸が痛む。彼にとっての“のこちゃん”とは、小さい方の自分なのだと。だが、間違っても彼に他人行儀、さん付けなんてされたくはない。
「……のこちゃんさん、とか」
「……それなら、いいかな~」
どうやらギリギリ許容範囲だったらしい。嬉しいとも悲しいとも取れる複雑な表情を浮かべる園子(中)に申し訳なく思いつつ、新士は先程言おうとした言葉を口にする。
「いや、周りが異性だらけで肩身が狭くなりそうだと思ってねぇ」
「あら、楓は私達の家に来たらいいじゃない」
「そうだよお兄ちゃん」
「大きい自分が居るんじゃないかい?」
「あーっと……大丈夫、こっちの楓は今も大橋に居るから」
「なるほど、なら安心かねぇ」
そんな話をしながら、新士は須美達の方を見る。いつの間にか、友奈が須美と東郷を隣に置いて“両手に東郷さん!”と無邪気にはしゃいでいる。両手に東郷だと無敵らしい。次は両手に園子、こちらは幸せになるのだとか。
「次は……両手に銀ちゃん! 元気が出るよ~」
「おっ、勇者部の火の玉ガールであるあたしに元気勝負とは……笑止!」
「元気なら負けませんよ!」
「最後は……」
両手に銀を堪能した後、友奈は樹と新士の手を引いて風の前にしゃがむ。その時点で、周りは友奈がやろうとしていることを悟った。
「周りに犬吠埼姉弟! もう最強だね!」
「よく言った友奈! あたし達姉弟に勝てる者などおらんわ!」
「あ、あはは……」
「面白い人だねぇ」
「姉弟間のテンションの差が激しすぎない?」
テンションの高い友奈と風、苦笑いを浮かべる樹、クスクスと朗らかに笑う新士。同じ血の通った姉弟でこうも違うかとの夏凜のツッコミに周りが内心で頷いていた。
この後、小学生組はひなたより精霊という存在について説明を受ける。この世界では勇者システムは過去の物もまとめて最新の物に統一されるという。精霊が使えるということに無邪気に喜ぶ銀(小)。自分達の時代に無いものが使えるのが嬉しいのだろう。
そして、小学生組は中学生組のことをもっと知るために、彼女達の戦いの軌跡を聞く。嬉しいことも、悲しいことも、辛いことも、楽しいことも沢山あった、勇者部の物語を。
その日の夜、現在犬吠埼姉妹が住む一軒家。風の作る夕食を平らげて満足そうにしていた新士は、リビングのソファに腰掛け、テレビを見ていた。その膝の上にはソファに横になっている樹が頭を置いており、その頭を新士が撫でている。
「もう、樹の方が大きくなっちゃったねぇ」
「えへへ……私ももう中学生だもん」
「……そっか。そうだねぇ」
新士にとっては一年前だが、彼女達にとってはあの別れから三年経っているのだ、大きくなるのも当然というもの。不思議なこともあるものだと、新士は樹に笑いかける。それを見て、樹も笑い返した。
「あんた達、昔もそうやってたわよねぇ……ほーれ楓に樹、あたしも混ぜなさい」
「後ろから抱き締めるのは混ざることになるのかねぇ」
「なるなる」
そこに、洗い物を終えた風が乱入する。新士の言うようにソファの後ろから彼の首に手を回し、ソファ越しに抱き締める。それは、彼がここに居ることを確かめるかのような、強い抱擁で……その手を、新士は弱く掴んだ。
「そうだ、姉さんと樹に聞きたいことがあったんだ」
「なぁに? お兄ちゃん」
「何でも答えてあげるわよー」
「そうかい? じゃあ遠慮なく」
「自分は、生きてここに帰ってこれたかい?」
姉妹は、何も答えなかった。答えられなかった。それは、彼の問い掛けに確信が含まれていたからだ。真実を告げようと、嘘を答えようと、意味はない。これは形だけの問い掛けなのだから。
「やっぱりねぇ……」
納得し、受け入れる。樹が彼のズボンを強く握り締め、風は更に強く抱き締める。今、確かに感じている温もりを離したくないと。何か言葉にすれば、耐えられそうになかった。必死に泣くまいと我慢した。
「……ごめんね」
それもすぐに限界を迎えた。風も、樹も、堪えることが出来なかった。何も言葉にならなくて、口から出るのは嗚咽だけ。
明日からは、また笑顔になれる。仲の良い姉弟として笑い合える。だから、今は。感じることが出来なかった、2度と触れ合うこともなかったハズの家族を感じて、全てを吐き出してしまいたかった。
「楓……かえでぇ……っ!!」
「お兄ちゃん……ううううっ!」
「うん……自分はここにいるよ……ここに、居るから」
姉妹の泣き声はしばらく止まることはなく……あの日の別れのように、新士は涙を流さなかった。
このルートでの出来事と捕捉
・原作通り告別式が行われ、犬吠埼家も出席。わすゆ組と犬吠埼姉妹はここで初邂逅(但し双方余裕無くて覚えてない)
・ヴァルゴ撃退後、迎えに来た安芸が社内で原作通りの発言をし、園子との関係が致命的に拗れる。
・樹海が傷付いた影響で雨野家党首死亡
・大橋の決戦において須美が2、園子と銀が10回ずつ満開。須美は原作通りに記憶を喪失、2人は大赦に奉られる。
・夏凜のスマホは元は主人公のモノ。
・風が大赦よりお役目の内容を伝えられる。ここで主人公が養子に出た理由を知る。バーテックスだけでなく大赦も憎む。
・原作通りに風暴走。弟のこともあり、怒りが原作よりも大きく深い。が、原作通り友奈と夏凜、樹に止められる。多分樹がワイヤーでぐるぐる巻きにした後に説得した。
・東郷が壁を破壊しようとするが園子と銀が止めに来る。が、原作通り破壊。この後は原作通りに進む。
多分、ゆゆゆいで敵に寝返りそうになっても主人公がなんやかんや説得します。勇者の章では真っ先に助けに来ることでしょう。最後には勇者部の紋章の最後にガーベラの紋章が出ます。このルートに行った場合、主人公の高次元の魂云々が死に設定になってしまい、神樹様(少女)も出ません。
次回は普通に本編の続き書きます。番外編やリクエスト取るかどうかはその時に。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)