UA20000突破、ありがとうございます! 今後とも励んでいきますので、本作を宜しくお願いします。
そろそろわすゆ編も終了間近。ゆゆゆについてちょっと悩んでます。詳しくは後書きにて。
ゆゆゆいランキングイベやっと星全部取りました。恵み500個美味しいです(^q^)
夏祭りの後、私達はより息を合わせる為、みっちりとした訓練を行う為に前回と同じ場所で2度目となる合宿を行っていた。今回も楓君を含めた4人共同室で、前回よりもより多く、それでいて質の高い訓練をしている。楓君は高嶋家が誇るという武術の達人による手解きを受けている。私もその手解き……組手やら型の確認やら乱取りやらをやっているところを見たけれど、毎回ケガとか骨を折ったりしないかと心配になる。
勇者システムの更新が終わるのは9月の予定らしい。繊細かつ高度な調節が行われていて、その為に時間が掛かっているのだとか。安芸先生曰く、“楓君が死ぬところだった為、今後勇者を失うことにならない為にも細心の注意を払って行っている”とのこと。どうせならもっと早くそうしてくれていれば良かったのに。
更新が終わるまで勇者に変身した状態での訓練は出来ない。とりあえず今まで通り弓の訓練もしているけれど、武器がこのままなのかもわからないので正直続けるのは疑問だったりする。だからといって手を抜くことはしないけれど。
「……ふぅ」
訓練を中断し、休憩に入る。少し離れたところではそのっちがブンブンと曲芸のように槍を振り回している姿が見える。反対側では銀が斧を模した2本の棒を振り回し、サンドバッグを叩いてる。2人共真剣な表情で真面目に訓練に取り組んでる。バーテックスと、天の神と戦う為に。いつ来るかわからない、戦いの果てにある未来を得る為に。
私も、もっと頑張らないと。そう思って、また訓練を始めた。
夜、以前の合宿のように頭同士をくっつけた2対4枚の布団に入り込んで就寝。眠る場所も以前と同じで、楓君の左隣にそのっち、彼の向かいに私、そのっちの向かいに銀。訓練で疲れたからか、布団に入って早々に楓君は今にも寝そうにうつらうつらとしてる。かく言う私も眠たくて仕方ない。
「おっと、今夜も寝かさないゾ? 貴重な自由時間なんだ、ここで楽しまなきゃな」
「わっしーもカエっちお喋りしようよ~」
「元気だねぇ……あふ……自分は眠くて仕方ないよ」
「自由時間も何も寝るだけなんだから……」
だと言うのに、疲れ知らずの2人は妙にテンションが高い。眠くないのだろうか……眠くないんだろうなぁ……もしくは眠くて逆にテンションが上がっているのかもしれない。
「だいたい、お喋りするって何を……」
「前みたいにコイバナとかどうよ? 前に楓のは聞き損ねたし」
「自分のコイバナ、ねぇ……そうだねぇ、3人のことは好きだよ。後は姉さんに妹も、ね」
「くっ、流石は楓……かわし方を心得ているな……しかも臆面もなく……」
「えへへ……私もカエっちもわっしーもミノさんも大好きなんよ~♪」
(ていうか、2人にコイバナ振っても結果分かってるし……楓……あたしはどうなんだろ)
楓君のコイバナは、正直ちょっと興味があった。ただ、彼が誰かと恋愛する……というのは少し想像しにくかった。私やそのっちとしては不本意というか、壁が高いというか……それはさておき、彼に姉と妹が居るというのを初めて知った。こうした女所帯でも慌てたりしないのは、その2人で馴れているからなのかもしれない。あれ、妹が居るというのはどこかで聞いたような……。
で、銀としてもそれではつまらなかったようなので私がちょっとした怪談を話してみた。するとそんなに怖かったのか耳を塞いで震えるそのっちともういい、もうやめてと懇願する銀……その反応がちょっと楽しい。
「寝ないともっと話すわよ」
「「おやすみなさいっ!」」
「「はい、おやすみなさい」」
ようやく静かになり、目を閉じて眠……ろうとしていると、何やら頭上でごそごそと音がする。気になって見てみると、そのっちが楓君の布団に潜り込んでいた。なんだか前にも見た気がする光景だ。
「……怖くて眠れないのかい?」
「う、うん……目が冴えちゃって……」
「仕方ないねぇ……眠れるまで手を握ってあげるから」
「ありがと、カエっち」
ああ、思い出した。悪夢を見たあの日、彼に電話した時に言っていたんだっけ。怖い夢を見た妹が布団に潜り込んでくるって……それはさておき、そのっちには注意すべきなんでしょうけど、原因が私なだけに言いづらい。それに……ちょっと羨ましい。
……魔が差した、んだと思う。布団から出た私は、彼の方まで歩いて行き……彼の眠る布団に潜り込んだ。左にはそのっちが居るから、私は右に。
「須美ちゃん……?」
「……怖くて目が冴えちゃって」
我ながら無理があると思う。怪談を話した本人が怖がるなんて笑い話にもなりはしない。けれど、咄嗟に思い付いた言い訳がこれだったんだから仕方ない。誰に対しての言い訳かわからないけれど。
「……それなら、仕方ないねぇ」
でも、彼はそう言って笑って、このままで居ることを許してくれた。嬉しくなって、思いきってもう少し体を近付ける。くっ付けるのは、まだ少し恥ずかしい。触れるか触れないかのこの距離で、彼の浴衣を少し摘まむのが私の精一杯。ドキドキと高鳴る胸は、私に安心感と心地良い眠りを届けてくれた。
翌朝、起きると何故か銀も楓君の布団の中、しかも彼の上に乗っかっていて、乗られていた彼は魘されていた。なんでも、自分だけ除け者みたいで嫌だったんだとか。気持ちはわからないでもないので、お説教は10分くらいにしてあげよう。
合宿から数週間。夏休みも終わって学校が始まり……片腕の無い楓君を見たクラスメート達が絶句していた……9月も下旬になった頃の休日。私達は大赦の本部の奥にあるという神樹様にご挨拶する為に、その近くにある滝に打たれて身を清めていた。なんでもこの滝は神聖なものらしく、神樹様とお会いする前には必ず打たれねばならないらしい。
「……ふぅ」
「つ、冷たっ、冷たい!」
「わ、わっしーはよく黙って打たれていられるね~……冷たいよ~」
「毎朝自宅で冷水を浴びて心身を引き締めているもの。馴れているわ」
因みに、この場に楓君は居ない。私達の服装は薄い真っ白な
身を清めたら別の清潔な白装束に着替え、神樹様と楓君が待つ最奥の部屋に向かう。そこにいる巫女さんによって招き入れられた部屋の中には……樹海化の時のような巨大なものではないけれど、それでも充分に大きな木があった。でも、その木から言葉に出来ない荘厳な雰囲気が漂っている。
(これが神樹様……私達の世界を支えてくれている、土地神の集合体)
私が感動に震えている横で、銀とそのっちも声に出来ない何かを感じているらしく黙って神樹様を見ていた。ふと、楓君はどこだろうと思って視線を動かすと、私達が入ってきた扉の直ぐ側に居た。私と目が合うと、楓君は軽く手を振って私達のところまで歩いてくる。
楓君が並んだ辺りで、巫女さんから神樹様に触れてみて下さいと言われたので皆で幹に触れる。隣でそのっちが“神樹様って温かいんだね~”と言い、銀が“おお……うおお……”と何も言葉に出来ていない声を聞きながら……私の意識は遠退いた。
夜だろうか。私は1人、地面が崩れて崖のようになっている場所に居た。遠くの暗い空に幾つもの大きな赤いナニかが浮かんでいて、そのナニかに向かって大きな……とても大きな紫の光の鳥が羽ばたき、その更に向こうでは2本の大きな炎の剣が空を裂いた。
ああ、これは夢だと理解した。あの時の悪夢のような、夢。そのっちはどこだろう。銀はどこだろう。楓君は……どこだろう。
ー いいんだ ー
彼の声が聞こえた。
ー 例え、君が■■■のことを■■■しまっても ー
雑音混じりの、彼の声が聞こえた。
ー それが、君の■■になるなら……それで、君が■■な■■を■■■■■なら ー
それは、とてもやさしいこえで。
ー ■■■、いいんだ。だから……■■にね、須美ちゃん ー
とても……さびしげなこえで。
ー じゃあね ー
手を伸ばす。届かない、届かない……届かない。何も言葉に出来なくて、何もその手に掴めなくて。
伸ばした先の空に咲いた白い花が……泣きたくなる程に綺麗だと思った。
「っ!?」
ハッと、目が覚めた。そこは神樹様があった部屋ではなくて、鷲尾の家にある私の部屋で、私は布団に寝かされていた。
「おっ、起きたな……全く、びっくりさせて……」
「大丈夫? わっしー」
「あ……私、は……」
「神樹様に触れた瞬間、急に倒れたんだよ。どこか痛いところはないかい?」
周りには皆が居て、3人とも心配そうに私を見ていた。心配をかけたことを心苦しく思うけれど、今私の脳裏には先程の夢が朧気に繰り返されていた。
「……夢を、見たわ。あの時の悪夢、みたいな」
「っ!? わっしー、それは……どんなの?」
「大きな……赤いナニかが浮かんでて、紫の光の鳥が飛んでて……炎の剣が、あって……白い花が、咲いてて……」
「お、おう……なんだソレ、新しいバーテックスか……?」
そう言われても困る。私だって言葉にしづらいのだから。どういう訳か、今回の夢は前ほどはっきりと覚えていなくて、抽象的なモノに思える。楓君の言葉なんか殆ど聞こえていなかったのだから。
ただ、覚えていることもある。彼が私に何かを言っていて……それがとても優しくて……寂しげな声色だったということ。
「神託って奴なのか?」
「多分、ね。もしかしたら、もうすぐ敵がやってくるって暗示なのかもしれないわ」
「他に何か見なかったかい?」
「他には……楓君の声がして……」
なんだっけ。その後に何か……とても綺麗なモノを見た気がする。
「また、カエっちに何か起きるの……?」
「ううん。楓君の声は、私に話し掛けてるみたいだった……と、思う。ごめんなさい、前ほどはっきりと覚えてないの」
「いや、仕方ないよ。今はゆっくりお休み」
「……うん」
楓君に頭を撫でられ、段々と瞼が落ちてくる。その手から感じる温かさが心地よくて……でも、私の心には小さくない不安があった。
また、何か大事なモノを失くすような……そんな不安が。
神樹様に触れた須美が倒れた日の翌日、大赦の訓練施設にて。勇者システムのアップデートが終わったと伝えられた4人は早速習熟訓練に入る為、施設に集まって4人で同時にアプリをタップ、勇者へと変身する。その姿は、大なり小なり変化していた。
須美の勇者服は薄紫から水色へと、園子の濃い紫は薄紫と白が混じったモノに、銀の赤は少し濃さが増し、そして楓は……。
「えっ……楓?」
「うん? ……おお、これは……」
「カエっちが真っ白になっちゃった……」
「それに髪も長くなってるわ……」
中華風の勇者服の衣装はそのままに、オレンジだったカラーリングが真っ白になり、服の周りを沿うように紫のラインが入っている。また、肩甲骨ほど迄だった黄色い髪も真っ白になり、膝裏まで伸びている。宮司服でないことを除けば、それは遠足の日の戦いの時に変化した格好だった。
楓の格好に驚いた後、次は武器を確認する。園子の武器は槍のままだが、沢山あった穂先は1つになり、より攻撃的なフォルムに。弓だった須美の武器は大きな狙撃銃に。銀の双斧は縦に長くなり、斧剣と呼ぶべきモノに。そして楓は……。
「……なんだこれ?」
「ひし形の……なに?」
銀と須美がソレを見て首を傾げる。楓は手甲具足こそ変わらないが、その左手の手の甲の部分にひし形の水晶のようなモノがあり、よく見ればその水晶の真横に沿うように深めの窪みがある。が、それだけだ。爪も、あの時のようなワイヤー付きの剣も存在しない。
なんだ、あの時の武器じゃないのか……と、楓があの日のようにワイヤーが付いた剣が飛び出す想像をした時だった。
「うおっ!?」
「わっ!?」
「「きゃっ!?」」
水晶の窪みから真っ白な光の剣が現れ、天井に向かってワイヤーを伸ばしながら飛び出し、突き刺さった。突然の出来事にポカーンとする4人。しばしの間沈黙し、いち早く正気に戻った楓が消えるように念じると、想像通りに剣もワイヤーも消え失せる。その一連の動作で、どういう武器なのかを彼は悟った。
「……前ののこちゃんの槍みたいな武器、なんだろうねぇ。勇者の力を光として、それで色々と形作るんだ」
そう言うと楓は色々と想像してみる。前のような爪、須美のような弓、また剣、ひし形に展開した盾、鞭にして床を叩いたり、ワイヤーを縦横無尽に操ったり。勇者の力と己の想像力次第で様々な姿に変えることが出来る変幻自在の武器。それが、楓の新たな武器だった。
爪に比べれば遥かに使いやすく多様性がある。光の量は変えられるみたいで大きさも長さも太さもある程度変化可能。更には光そのものを爪を射出する要領で弾として放つことも出来た上に反動も少ない。片腕の楓にとって嬉しい武器だろう。
「そして……このマスコットみたいなのがサポート……“精霊”って奴かねぇ」
「可愛いね~♪」
「ちっさいな……でも、うん。可愛いな」
「そうね……」
園子の側には、まんまるとした体の精霊“烏天狗”が。銀の側には、全体的に紫色の刀を持った人形のような精霊“鈴鹿御前”が。須美の側には、卵のような体の中から2つの目が光る精霊“青坊主”が。そして楓の側には……青い体に白い角を生やした蛇の精霊“
園子は烏天狗を撫で、銀も彼女に倣って恐る恐る鈴鹿御前の髪を撫で、須美は青坊主を抱き抱え、楓は夜刀神に首に巻き付かれた。その光景に一瞬慌てる3人だったが、よく見てみると首に巻き付いた夜刀神はすりすりと気持ち良さそうに目を細めて楓の頬にすり寄っていた。
「なんだか人懐っこいねぇ。よしよし」
「カエっちの蛇さんも可愛いね~♪ 私も撫でさせ」
「シャーッ」
「に゛ゃー! 噛まれたー!」
「何やってんだ……」
「だ、大丈夫? そのっち」
そんなハプニングが起きた後、4人は新しい勇者服の性能と武器の習熟訓練に努める。出来ることは、全てやっておきたかった。何せ、もうすぐ敵が……バーテックスがやってくるからだ。
須美が見た朧気にしか覚えていない夢に加え、大赦の巫女にも新たな神託が降りたと言う。数多の星が、流星のように落ちてくる。そんな神託から、次の戦いはあの日のように複数のバーテックスからの襲撃を受けるとの予測が出たのだ。その連絡を受けた時、楓以外の3人が奮起した。
複数のバーテックスとの戦いは、彼女達にとって忘れられないモノだ。あれから2ヶ月、3ヶ月近く経っていて尚、あの日の楓を鮮明に思い出せてしまう。血によって赤黒く染まった勇者服、地面を染め上げる流れ出した大量の血、失われた右腕、血の気の無い蒼白の顔、閉じられたまま開かなかった目、その何もかもを。
今度は、皆で無事に帰るのだ。この新しい力ならそれが出来る。皆が居れば戦い続けられる。夏祭りの誓いを果たす為に、4人は努力する。それに、新たな力は他にもあるのだ。
側に居る精霊は勇者の身を致命的な攻撃から守ってくれるらしい。それによって死ぬ可能性が限りなく減ったと言う。安芸を経由して大赦から伝えられたその情報を知った彼女達の心境は、“もっと早くそれがあれば”である。
そして“満開”と呼ばれるシステム。勇者としての力を振るっていくことで勇者服にある“満開ゲージ”が溜まっていき、完全に溜まった状態で解放することで神に等しい力を得られるという。しかも使えば使うほど勇者としてのレベルが上がり、より強くなっていく。それが安芸に
因みに、園子のゲージは腹部に存在して蓮の花が描かれている。須美は左胸元の部分にあり、アサガオが描かれている。銀は後ろ腰に存在し、アップデート前と変わらずに牡丹が。楓は武器でもある水晶の上部分にあり、白い
「ま……そんな訳ないけどねぇ」
「満開のこと?」
「うん。まあ、十中八九……大赦はデメリットを隠してるねぇ」
「……何か、確証があるのね?」
「実は自分、死にかけてた時に神樹様に会ってるんだよ」
「「「ええっ!?」」」
訓練の休憩中に満開の話になり、楓から唐突に驚愕の事実を告げられる3人。そんな彼女達の驚きを他所に、楓は話を続ける。
神樹様から直接聞いた、“あの力”。そしてそれを使うと神樹様に代償として何かを“捧げる”ことになるということ。その話の後、楓はようやく視力が戻り始めた左目に触れる。その仕草で、彼女達は楓の左目の視力がその代償なのだと悟る。
「“あの力”とは、恐らく満開のこと。代償……神樹様に捧げることになるから“供物”とでも言おうか」
「満開をすれば大きな力を得られる。代わりに……私達の何かを供物として捧げることになる」
「何だよそれ……そんな大事なことを、また大赦は黙ってたってのかよっ!」
「……じゃあ……最近の大赦から贈られてくる食べ物とか服とかは……」
「そういうこと、でしょうね……いつの時代も、人身御供には優しいのよ……」
2度目の合宿を終えた辺りから、4人の家には大赦から高級な食品や高価な衣類、装飾品が贈られてきている。それを4人は“勇者として頑張ってくれているご褒美”だと聞かされていた。無論、大赦に対して不信感を抱いていた4人はそのままの意味で受け止めてはいなかった。だが、まさかそんな理由だとも思っていなかったのだ。
そして、安芸にもこの情報は知らされていない。サポート役である彼女にすら、大赦はデメリットの情報を伏せたのだ。大赦の誤算は、楓が神樹様から直接話を聞いていたのを知らなかったことだろう。
なるべく満開は使わないと決める4人。だが、きっと何度も使うことになる。それは、4人の誰もが理解していた。
その後、4人は訓練をしつつも普通に日常を過ごした。いつもの、変わらない日常を。
学校に行けば、楓の机に頭を置いて眠る園子と彼女の頭を撫でる楓が居て、たまにそこに須美が混ざり、時々銀が遅刻して安芸に怒られる。ずっと続いてきた、学校での日常を過ごした。
4人で外で集まれば、銀が先導してイネスへと向かってぶらぶらと宛もなく歩いたり、中の店で物色したり。カラオケにもまた行ったし、ジェラートだって食べた。例え何もしなくても、4人で居るだけで楽しかった。
誰かの家で集まれば、様々なことをした。銀の家に行けば弟も交えてゲームをしたりテレビを見たり。須美の家に行けばまた料理をしたりぼた餅を作ったり、旧世紀の話を須美から延々と聞かされたり。園子の家に行けばまたファッションショーが開催されたり、サンチョの抱き枕に埋もれて皆で眠ったり。楓の家に行けば、ただただのんびりして過ごしたり、たまに居る友華から旦那との惚気話を延々と聞かされたりした。
やりたいことをやった。言いたいことを言い合った。沢山笑った。沢山楽しいことをした。ちょっとだけケンカもした。それでも、直ぐに仲直りして、また笑いあって。勇者のことも大赦のことも忘れて、普通の小学生のように。
こんな日常を、もっと過ごせるように。これからもずっと、ずっと親友で居られるように。いつか、勇者の役割から解放されて、自分達の夢を掴み取れるように。いつの日か……大好きな人の隣に居られるように。
そして……その“時”はやってきた。
秋に入ってしばらく、日が落ちるのも早くなり、肌寒さも目立ち始めた。そんな日の平日……街路樹が赤く染まる頃。神樹館を出た辺りで、4人が同時に足を止めた。その数秒後……“時”が止まった。
「もう、分かるようになっちゃったね~」
「そうだねぇ……やれやれ、疲れて帰ると、友華さんの惚気話の途中で寝そうになるんだけどねぇ」
「あたしも疲れて帰ると宿題やってる最中に寝そうに……」
「見せないわよ、銀」
「そんな殺生な!」
まるで、戦いが始まるなんて嘘のような会話をしている4人を極彩色の光が飲み込み、いつもの樹海へと変わる。4人はスマホを取り出し、ジッと画面を見詰める。
「皆で、生きて帰るんだ」
「うん! 約束だよ~」
「約束なら、ちゃんと守らないとねぇ」
「破る気はないっての!」
今1度、大事な約束をする。そして、アプリをタップ。新たな勇者服に身を包み、側にはそれぞれの精霊が付き従い、その手には新たな武器を持ち……大橋へと向かう。
狙撃銃を手にした須美は大橋の一番高い場所にうつ伏せに寝転んで狙撃体勢に入り、既に見えている敵に照準を合わせる。今回の敵も、大橋の向こうの壁から現れた。
まるで背骨のような細長い体にエイのような平たい頭部を持つバーテックス。そしてこれまでの敵とは大きさが倍近く違う、山のように大きい体に鋭い牙のような腕らしきモノを持つ、とんでもない威圧感を誇るバーテックス。それぞれアリエス、レオ・バーテックスと呼ばれる存在である。
楓はスマホを取り出し、勇者アプリを開く。勇者アプリには精霊、満開の他にも機能が追加されていた。それが、勇者と敵の位置を示すレーダーのようなシステム。そこには敵の位置に“牡羊座”、“獅子座”と示され、大橋から見える海の辺りに高速で動き回っているピスケス……“魚座”の名前が示されていた。
「敵の名前は星座から取られているって訳だ。“天”の神から産み出された存在だからかねぇ」
彼がそう呟くと同時に、蛇か鰻を思わせるにょろにょろとした動きでアリエスが進む。レオは身動きせず、ピスケスも海の中から姿を見せない。
「よし、ここはあたしの出番だな!」
「はいストップ。まずは須美ちゃんの狙撃からだよ……全く、わざとかい?」
「あ、バレた?」
勇んで一歩を踏み出す銀の左肩を楓が掴んで止める。そんな2人のやり取りを見ていた園子はくすくすと笑い、楓も苦笑し、銀も嬉しそうに笑う。勇者に変身したことで強化された聴力で3人の声を拾っていた須美も小さく笑い……表情と気持ちを引き締め、その巨体がはっきり見える程に近付いてきたアリアスの頭部を狙い撃つ。放たれた弾丸は正確に頭部に当たり、貫通し、アリエスの動きを止めただけでなく大きく体を仰け反らせる。
(明らかに威力が上がってる。弓の時とは、全然違う!)
「わっしーすごーい! よ~し、私も!」
「おっと、今度こそあたしも行くぞ!」
「それじゃ、自分も行こうかねぇ」
須美が狙撃銃の威力に感動を覚えている中、3人がアリエスに突っ込む。強化された勇者の身体能力はその距離をあっという間に詰め、園子が槍を丸い間接部らしき部位に振るい、彼女自身驚く程にあっさりと切り裂いた。
銀も銀で頭部に張り付き、両手の斧剣を合わせてその体を頭から下まで一刀両断。豆腐に包丁を入れたかのようにストンと下まで切り裂いたことに、銀が顔ににんまりと笑みが浮かぶ。そんな2人に対して完全に出遅れた楓はやることないなぁと苦笑を浮かべ……その顔が驚愕に染まる。
「えっ……なんだこれ!? 増えた!?」
「再生? ううん、分裂!? そんなバーテックスもいるの!?」
切り裂かれてバラバラになった幾つものアリエスの破片が凄まじい速度で先と変わらない姿に再生する。つまり、“破片だった1つ1つ”がアリエスというバーテックスへと再生したのだ。分裂、或いは増殖。それがアリエスの能力。破片の数は12……つまり、敵が12体増えたことになり。
「問題ないねぇ」
楓の左手の水晶、その窪みから四方向に伸びた白いワイヤーがアリエス達を1匹残らず包囲し、楓が引っ張ると一気に収縮、一網打尽に捕まえる。それに止まらず、ワイヤーは更に収縮。そして彼が更に力を加えた瞬間、ワイヤーは1本の線になり…アリエスをバラバラに引き裂いた。それと同時に桜の花弁が舞い、スゥッとアリエスの姿が消えていく。
敵が消えたことにホッと息を吐いた瞬間、彼の下から巨大な何かが勢い良く突き上げるように飛び出してきた。それは、名前の通りどこか魚を思わせる姿をしたピスケスであった。
「カエっち!?」
「よくも!!」
空へと吹き飛んだ楓の姿に悲鳴じみた声をあげる園子、怒りを露にしてピスケスへと斬りかかる銀。だが、勢い良く跳び上がった敵には僅かに届かない……というところで、須美の狙撃によって体を穿たれて勢いを失い、僅かな差を埋められて銀によって体を切り裂かれて大橋へと落ちる。その辺りで、吹き飛ばされていた楓が落ちてきた。
「カエっち!! 大丈夫!?」
「……あー、びっくりした。大丈夫、何ともないよ。精霊の守りってのはスゴいねぇ」
危なげなく着地した楓に素早く近づいて無事を確認する園子。肝心の楓と言えば、衝撃こそ感じたものの無傷であった。直撃する前に夜刀神が間に入り、バリアのような膜を張って防いでいたのだ。無傷であることを確認した園子はホッと安堵の息を吐き、振り返ってピスケスを睨み付ける。よくも楓を……と。
その後ろで、楓は水晶の上部分にある満開ゲージを見る。5段階で表されるそれは、ゲージが3つ分光っていた。
(思ったよりゲージの貯まる速度が速い……? あの攻撃だけでそんなにも貯まるものかねぇ?)
勇者の力を振るえばゲージが貯まっていく。そうは聞いていたものの、楓が勇者の力を振るったのは先の攻撃だけ……そう思っていた楓だったが、ふと敵へと視線を向けると、ピスケスが体から紫色の煙を噴出しているのが見えた。素早く、しかも広範囲に噴き出したその煙は、瞬く間に大橋の上にいる銀、園子、楓を包み込み、須美の元にも届きかけていた。
「なんだこれ!? 毒ガス!?」
「えっ!? でも、なんともないよ~?」
「皆! 無事!?」
「ああ! 無事だよ須美ちゃん!」
そう楓が須美へと返した時、4人は煙の中に一瞬電気のようなモノが走ったのを確認し……。
次の瞬間、大橋の上で大きな爆発が4人を襲った。
原作との相違点
・また須美が夢を見る。但し今回は良く覚えてない
・勇者達が満開のデメリットを知る(安芸は知らされていない)
・銀に精霊鈴鹿御前が付き、武器が斧剣(元々の斧を某狂戦士のアレに近付けた感じ)に
・全体的に勇者の能力が高い
・他色々
という訳で、合戦の序章のお話でした。楓君の精霊は夜刀神となりました。別に腕が4本生えてるとか厳つい顔してるとかはありません。
マンガと小説が混じった上にオリ展開ガンガン突っ込んでます。銀ちゃんの花は悩みましたがそのままに、武器は彼女を生存させるとなった時から決めてました。
楓君の武器は義手ではなく、万能系武器に。樹が光のワイヤーとか出してたので、彼はそれをより万能にした感じです。剣を出すときはメビウスを想像してもらえると分かりやすいと思います。
さて、もうすぐわすゆ編が終わりますのでその後のことを少し。わすゆは次、その次と残り2話の予定です。その後にまた番外編を1~3ほど挟み、ゆゆゆ編に向かいます。悩んでいるのは、ゆゆゆ編での主人公の立ち位置が現状3つ程あることです。
1.他でもよく見掛ける記憶喪失ルート
2.ハガレン的精神散華ルート
3.勇者部入部ルート
詳細は話しませんが、基本的にどれに言っても犬吠埼姉妹(特に姉)と園子様の精神が死にます。多分DEifより←
因みに、ちゃんとやるルートは決まってます。全部書きたいから悩んでるだけです。そしてどれも見たいと悩む皆さんを見たかったんです(自意識過剰)。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)