やはり戦闘、鬱回は筆が乗りますね。皆様、お気を確かに。
気付けば感想100件間近。これまでの沢山の感想ありがとうございます! 今後も本作を宜しくお願いします。
ー お願い、あなたは“あの力”を使わないで ー
あの日、皆で現実世界の神樹様に触れた時……あの子達には言っていないが、あの真っ暗な空間で自分は少女の姿の神樹様と会い、出会い頭にそう言われた。
「どうしてだい?」
ー 他の勇者の子達が私に捧げることになる代償は……時間はかかるし擬似的なモノだけれど、その気になれば返すことが出来る。だけど……あなたには返せない ー
「……それは、どうして?」
ー あなたが、この世界よりも上の次元からやってきた存在だから ー
彼女……神樹様は自分に言う。自分という魂は高次元のモノであり、本来この世界の肉体には入ることが出来ない。小さなコップにプールの水を入れるようなものだと。故に、この肉体もまた……今は真っ白な精神体だが……高次元の存在、恐らくは神によって作り出された器なのだと。
とは言え、両親や姉弟達とはしっかりと血が繋がっている。ただ、自分の魂に見合う器を母さんに宿したのだと。そして、この“高次元”というのが厄介だ。
簡単に言ってしまえば、神樹様も……恐らくは天の神ですら、自分の肉体を生み出すことは叶わない。それは力も寿命も増していっている神樹様でもだ。彼女達に返す時と同じ方法を用いても、肉体の“規格”が合わない。同じものを作り出すには圧倒的に神としての力が足りないのだと。
ー 1度捧げられたら、あなたはずっとそのままになる。あの子達に供物を返しても、あなただけが…… ー
ああ、それはきっと……優しいあの子達は悲しんでくれるだろうねぇ。そして、自分は怒られるんだろう。想像するだけで怖いねぇ。お説教する時の須美ちゃん、おっかないしねぇ。
ー ごめんなさい、私の力が足りないばかりに……あなたのお陰で“私達”は力も寿命も延びたのに。あなたから代償を捧げられたら、もっと力は強くなる。だけど、それでもきっと……届かない ー
「だから、使わないでくれって? あの子達はきっと使うだろうねぇ。それを自分に、使わずに黙って見ていろと?」
ー お願い……私も、あの子達もきっと……望まない ー
神樹様が自分に倒れ込むようにもたれ掛かってきて自分の胸に額を当て、涙ながらに頼み込んでくる。少女の姿も相まって、思わず頷きそうになる。
「……ごめんねぇ」
それでも、自分は首を横に振った。すると神樹様はバッと顔を上げ、涙目でどうして? と訴えてくる。本当に、考えていることが顔に出る神様だと思って苦笑いになる。
「言っただろう? 好き好んで何かを失いたい訳じゃない。だけど、それしか無いなら使う。自分は、あの子達の未来を見たいんだ。あの子達も、家族も、貴女も守りたいんだ」
ー でも! それだとあなたは! ー
「大丈夫」
神樹様の髪を撫でる。本当に優しい神様だと思う。こんなにも自分のことを心配してくれて、あの子達のことも気にかけてくれている。
「大丈夫だよ」
そんな神様だから、守りたいんだ。それが一生残る傷を負うことになってでも。それに、もしかしたら他に可能性があるかもしれない。“あの力”とやらを使わずに済むかもしれない。未来はわからないんだから。
「生きてさえいれば……きっと」
だから、笑って欲しい。折角久しぶりに顔を見られたんだ。泣き顔ばかりじゃ勿体無い。そう思って、彼女が溢した涙を指で掬う。
「いつか、誰もが自分にとっての
そこで、自分は目覚めた。その隣で須美ちゃんが倒れていてのこちゃんと銀ちゃんと一緒に凄く慌てた。
ー なら、私は……私も、あなたを守るから。“私達”じゃない。“私”が、近くであなたを守るから ー
「……これが、精霊の守り……」
爆発によって陣取っていた場所が破壊され、3人の元に落ちていた須美が呟く。4人の周りには、4体の精霊によって張られたバリアが存在していた。そのバリアが爆発の威力や衝撃を防ぎ切り、4人は無傷で居られた。
「凄い……凄いよセバスチャン!」
「せ、セバスチャン……って誰だ?」
「のこちゃんは精霊に名前を付けたんだねぇ。自分も何か名付けてみようかねぇ」
呑気な会話が聞こえるが、4人の表情は真剣だ。何せバリアが発生したということは、今の爆発が自分達にとって“致命的”であったということなのだから。
楓と須美がピスケスが落ちた場所へと視線を向ける。が、そこには何もなかった。須美が素早くスマホのレーダーを確認すると、大橋から離れた海の方へと移動している。そしていつの間にか、動いていなかったハズのレオまでも壁を沿うようにして海の方へと進んでいた。
「どうして海の方へ……?」
そう、須美が疑問を漏らした時。レオの頭部のような部位の前に光が集まったかと思えば、それはかつてのカプリコーンの時のように、それよりも太いビームとなって直接遠くの神樹様へと撃ち出された。
「「「「なぁっ!?」」」」
4人が驚愕の声を上げるが止めることはできない。しかし、距離が遠かったのか、ビームは神樹様へと届く前にどんどん細くなり、途中で消える。ホッと安堵の息を吐く4人だったが、危機感が一気に増す。外の壁ギリギリの距離では届かなかった。なら前進されたら? しかも相手は海上に居て、こちらに海の上で戦う術はない。それこそ空でも飛ばない限り……そして、空を飛ぶ“手段”ならば、ある。
「……思ったより早かったね~……使う“機会”」
「そう、ね……でも、躊躇ってる暇はないわ」
「だな。大丈夫、この一回で終わらせればいいさ!」
「……そうだねぇ。幸いにも、ゲージは溜まってるしねぇ」
「あたしのは? 自分じゃ見えない」
「大丈夫、満タンよ」
「やっぱり、精霊のバリアが発動した時もゲージが溜まるんだねぇ……」
楓の言葉で、全員がようやくゲージが溜まる条件を完全に理解する。勇者の力とは、自分達の攻撃や精霊のバリア、それらを引っ括めてそう言うのだ。攻撃すればするほど、攻撃を受ければ受けるほど、ゲージは溜まる。そして今、先の爆発で全員のゲージが溜まりきっている。
この一回で決める。そう思い……そして、全員でその“言葉”を口にした。
「「「「“満開”!!」」」」
大橋、そして樹海を形作る数多の樹から光の根のようなモノが4人に集まる。そして……蓮が、アサガオが、牡丹が、花菖蒲が花開く。
4人の服装は豪奢で、神秘的で、神々しいモノへと変化していた。そして変化は、服装だけには収まらない。
園子の満開は大きな方舟。その方舟の大きさに見合う巨大な槍の穂先を6枚、漕ぐ為のオールのように展開している。須美は左右4つ、計8つの動く主砲を備え付けた、園子の船に勝るとも劣らない、さながら巨大戦艦のようなモノ。
銀は背後に浮かぶ、阿修羅を思わせる3対6本の巨大なロボットアーム。その片方3本の腕を全て使って、銀の斧剣をそのままスケールアップしたような巨大な斧剣を計2本手にしていた。
そして楓は、背後に浮かぶ金色の円輪の周囲に巨大かつ薄いひし形の、内部に白い花菖蒲が描かれた水晶が計10枚浮かんでいる。
ふわりと、全員が浮かび上がる。溜まった神の力を解放するという満開は、飛行手段を持ち合わせていないように見える銀と楓にも飛行能力を与えていた。初めて行う満開。その力を、4人は正確に理解出来ていた。それが神の力によるものなのかはわからないが、今はありがたい。
「お前達の攻撃は……もう通さない!」
レオから、本体に比べると小さな、だが4人と比べると充分に大きな火球が幾つも迫る。その1つ1つを、須美が砲撃によって撃ち抜いて相殺していく。だが、その須美を狙って海中からピスケスが飛び上がってきた。
「おっと、須美ちゃんの邪魔をするのはいけないねぇ」
楓の背後の水晶が4つ分離し、ピスケスの進行方向に正方形の頂点の位置となるように固定し、白い光のワイヤーを伸ばして正方形を形成。その空白の部分にピスケスが突っ込むと、空白部分には見えない壁があったようでそれにぶつかり、ガァンッ!! という音と共にピスケスが弾かれる。
「逃がさないんだからっ!」
更にそこに園子の巨大な穂先が集中し、ピスケスを5方向から串刺しにしていく。そして残った1枚を真上から突き立て、再び海へと叩き落として穂先を回収する。
「おおおおりゃああああっ!!」
レオの火球を須美が迎撃している間にレオに近付いていた銀はその手の双斧剣を振り上げる。すると連動するように6本のロボットアームもその巨大な2本の斧剣を振り上げ……同時に、×字を描くようにして振り下ろす。それはレオの巨体を斬りつけ、前進していた分後退させる威力を持っていた。
「ん?」
内部が見える程に深く斬りつけられたレオの、×字の傷の向こうに銀は見た。逆四角錐型をした、不気味に光るナニかを。同時に、銀はそれが敵の心臓のようなモノであると悟る。
「銀!!」
「え? お、わああああっ!?」
須美の声に反応し、咄嗟に斧剣を×字に重ね、ロボットアームも同じように重ねる。その瞬間、先程と同じビームをレオが放った。斧剣によってギリギリビームを防いだ銀だったが、その距離は大きく離されてしまう。更にレオは己の頭上に自身と同等の大きさを誇る火球を生成し……それを、4人に向けて放った。
「皆、集まって!!」
楓の叫びを聞き、3人が彼の周囲に集まる。楓は直ぐ様左手を前に突き出し、4つの水晶を使って自分達の前に大きめに正方形を形成。更に2つの水晶を自分の前で上下に重ね合わせる。すると水晶の間で白い光が電気のように走ったかと思えば、その間から細い光が放たれて前の正方形の壁に当たり、そこから正方形の大きさの極太のビームとなって火球とぶつかった。
「楓すげぇ!? そんなことも出来るの!?」
「まるで戦艦長門の主砲のような威力……これなら!」
「いっちゃえカエっち~!」
「う、お、おおおおっ!!」
ぶつかり合う火球と楓のビーム。それは数秒もの間拮抗して相殺という結果に終わる。それによって起きた爆風に煽られ、4人とレオの距離がまた引き離される。何とか体勢を建て直し、再びレオに攻撃に向かおうとする4人。だが、ここで楓と銀の2人の満開が花弁となって散っていき、解除された……海の上で。
「くそっ、満開が……って落ちる!?」
「カエっち!」
「っと、銀ちゃん!」
「た、助かった……ありがと、楓」
上空に放り出される形になった楓の下に園子が方舟を移動させて彼がその上に着地し、そこから左手の水晶からワイヤーを伸ばして操り、銀に巻き付けて落下を防ぐ。その合間に飛んでくるレオの火球は、須美が1つ残らず撃ち落とす。味方をカバーする為の迎撃は合宿で何度もやってきたのだ、今更撃ち漏らす須美ではない。
楓はワイヤーを引き寄せ、銀を園子の方舟の上に上げる。ホッと一息付いたところで、銀が右手の斧剣を落とした。それを皮切りに、2人は体に異変を感じた。
「っ、なんだ? 右腕が、動かない!? まさか、これが……!?」
「自分は……また左目か。やれやれ、折角視力が戻ってきたっていうのにねぇ……」
「カエっち、ミノさん……っ。わっしー! 一回大橋に戻ろ! 多分、もうすぐ満開が消えちゃう!」
「っ、了解!」
間近で2人の供物を捧げた瞬間を見た園子の顔が歪む。だが、それで取り乱していては勇者として戦っていられない。もうすぐ満開が解除されると予想した園子は須美へと声をかけ、須美と共に一旦大橋へと戻る。そして、大橋に辿り着くと同時に満開が解除された。
戻ったはいいが、これで振り出しに戻ってしまった。どうすれば……そう4人が考えた時、須美が唐突に倒れた。更に園子も左目を抑え、右目だけを開けて震えている。
「須美!? 園子!?」
「2人共、大丈夫かい!?」
「あ、足が……動かない……っ」
「右目……見えてないよ……っ!! 2人共、前!!」
慌てて2人に駆け寄る銀と楓だったが、2人の言葉を聞いて絶句する。そして、4人に更なる追い討ちがかかる。園子の叫びを聞いた2人が振り返ると、レオが再び巨大の火球を生み出し……4人が居る大橋に向かって放った。
咄嗟に楓は3人の前に出て水晶から光を出し、ひし形の盾を作り出す。なるべく大きく、それでいて分厚く。だが、山のように大きな敵ほどの火球と小柄の楓が作り出した盾のサイズの差はそれこそ蟻と象。大して拮抗することもなく、無慈悲にも火球は4人諸とも大橋にぶつかった。
「っ……皆……大丈夫かい……?」
「なんとか……」
「生きてるよ~……」
「精霊の守り……本当に凄いのね……でも……」
「大橋が……!」
4人は無事だった。衝撃で体中に痛みこそあるが、傷自体は無いに等しい。それだけ精霊のバリアが優秀であるという証左ではある。が、4人は無事でも大橋は無事とはいかなかった。
まるで、上に持ち上げられてそのまま引きちぎられたかのような、ほんの数秒前の形が見る影もない程に融解し、崩壊した大橋を見て、4人が唖然とする。そして、再びレオへと視線を向ける。銀の付けた傷など疾うに回復し、無傷で壁の近くに存在するその巨体を。
攻撃を受けたのは、ある意味で僥倖だった。防いだ攻撃の威力で溜まる量が違うのか、無くなったばかりの満開ゲージは皆フルに溜まっている。だが、先程と同じように満開を叫ぶのは憚られた。
覚悟していたつもりだった。代償を捧げ、それでも大切な人達の為に戦うつもりだった。だが、実際に代償を……自分達の何かを供物に捧げたことで、恐怖が沸き起こったのだ。
次は何を捧げることになる? また満開して、倒せなかったら、その次は何を差し出すことになる? 2度と歩けないかもしれない。2度と光を見ることが無くなるかもしれない。2度と触れ合うことが出来なくなるかもしれない。話すことが、音を聞くことが、匂いを嗅ぐことが、味を感じることが、それら全てが出来無くなるかもしれない。そんな恐怖に襲われた。
知らなかったら、疑問に思ってもまだ戦えたかもしれない。知ってしまったから、余計に恐いのだ。須美など両足を捧げている、恐怖の度合いは4人の中でも一番かもしれない。今までのどのバーテックスよりも巨大かつ強大な敵と満開への恐怖。それは、これまで戦い抜いてきた少女達の心をへし折るには充分過ぎた。
「“満開”」
だから、その言葉を聞いた時は3人共耳を疑った。だから、3人の目の前で再び満開を果たした楓の姿を見て信じられないと目を見開いた。
「か……えで……お前……怖くないのか?」
「当然、怖いねぇ。正直、いざ捧げてみるとこんなにも怖いなんて思わなかったし」
思わず、といった様子で銀が問い掛ける。それに対して、楓は即答する。その声は、少しだけ震えていた。いかに大人の精神を持つ楓と言えども、彼も元々は一般人なのだ、どんどん体が動かなくなっていくことに恐怖を覚えない訳がない。
「皆も、自分も怖い。それでも……須美ちゃんと」
須美が、前に進む楓の背中を見る。
「銀ちゃんと」
銀が、ふわりと浮かぶ楓を見上げる。
「のこちゃんが、怖い思いをずっとすることになるのなら」
園子が、振り返って自分達を見下ろす楓の姿を見詰める。
「自分が守る。自分が、頑張る。男としてだとか、勇者としてだとか、そんなんじゃない。君達が自分にとって……大切だから」
何時ものように、楓は朗らかに笑った。それを見た彼女達の折れた心に、再び火が灯る。
約束したハズだ、皆で生き残ると。誓ったハズだ、彼を1人にしないと。決めたハズだ、自分達の夢を叶えるのだと。
3人は1人レオに向かって飛んでいく楓を見詰め、お互いに目配せし、頷く。恐怖はある。だが、それでも……呑み込んだ。大切な人達を守りたいから。大切な親友を、大好きな人を1人で行かせたくないから。だから……3人は手を繋いで、叫んだ。
「「「“満開”!!」」」
もう、止められない。否、止めない。楓に遅れぬように3人は飛ぶ。それを邪魔するように、園子にやられてから海中で回復に努めていたピスケスが再び飛び上がって体当たりを敢行する。
「「「邪魔だああああっ!!」」」
だが、銀の巨大な斧剣によって3枚におろされ、園子の6枚の穂先によって切り刻まれ、その破片を須美の砲撃で消し飛ばされた。
その頃、楓はレオから飛んでくる小さな火球を全ての水晶を操り、1つ1つから光の刃を生み出して突撃させて迎撃しつつ近付いていた。後方で彼女達が満開したことは確認している。己の言葉で満開させてしまったかもしれないと少し後悔しつつ、だからこそレオを撃退することに集中する。
「カエっち!!」
「楓!!」
「楓君!!」
「っ……皆、いいのかい?」
迎撃していた分速度が落ちていた為か、3人が追い付く。迎撃に須美の砲撃と園子の穂先が加わり、余裕が出来た楓はそう問い掛ける。3人の返答は、決まっていた。
「怖くない訳じゃ、ないよ」
「だけどさ、それよりも……」
「楓君を1人で戦わせたりしない。私達は、1人で戦ってきた訳じゃないんだから。それに、言ったじゃない」
「私も守るから。一緒に、頑張るから!!」
「……そうだったねぇ。皆で一緒に、頑張ろうかねぇ!!」
「「「うんっ!!」」」
レオの攻撃が激しくなる。小さな火球に加え、ビームまで飛んでくる。火球は須美と園子が迎撃し、 ビームは銀と楓が受け止める。そうやって皆が皆を守って、皆で一緒に頑張って、レオに近付いていく。
レオが再び巨大な火球を作り出す。それを受けてしまえば、また振り出しに戻ってしまう。それだけは避けなければならない。だから、須美は叫んだ。
「私が絶対に相殺する! 3人共……私を、信じて!!」
「「「勿論!!」」」
3人の返答は即答。戦いの最中なのに、須美はついつい笑みを浮かべた。そして放たれる火球。それに向けて、須美は8つの砲撃を同時に放つ。それは途中で1つの大きな光の砲撃となり、火球と衝突。数秒の拮抗の末、相殺……するどころか火球を貫き、威力を大きく下げながらもレオにも届いた。
「後は……お願い……っ!」
力を使い果たしたのか、戦艦が花弁となって消えていく。楓は1つの水晶に気を失って落下する須美を乗せ、近くの壁の上に下ろす。
それを見届けてから、3人は突っ込む。銀が巨大の双斧剣を×字に構える。園子の方舟が正面にバリアを張り、突撃の姿勢を見せる。楓の回りに6つの水晶が浮かび、己を包むように正八面体の光の檻を形成する。
「「「ここから……出ていけええええっ!!」」」
そして、同時にレオに突撃してぶつかった。端から見れば、それは山に小さな流星が突っ込んだかのような光景。3人の勢いはレオという山にぶつかって尚止まらず、やがて壁の向こう……
そこで、3人の満開が解けた。幸いにも壁の向こうにも足場があったので海に落ちるということはなかった。だが、何故か熱気を感じ……疑問に思って目を開けた瞬間、また絶句した。
「……外は火の海……本当、だったんだねぇ」
宇宙にまで伸びる、黄金に光る巨大な樹。その葉の部分に立つ3人が見たのは、まるで太陽の表面であるかのような、地獄の如き毒々しいまでに真っ赤な炎の世界。楓が知る地球の青さなど一片たりとも存在しない、人が住むことを微塵も許容しない神の世界。あまりの光景に、園子は自分の
「……なぁ……あの白いのってまさか……」
銀の視線の先、空とも宇宙とも取れる空間に、星の数ほどの白い体に口だけが存在する不気味なナニかが居た。今まで戦ってきた3人には分かってしまう。あれら全てがバーテックスであるのだと。
「……合体……融合、してる……?」
その小さなバーテックス達が合体、或いは融合していき、3人もよく知る巨大なバーテックスへと形作っていくのが見えた。まるでドロドロに溶けた鉄を捏ねているかのようで、その姿こそ似通っていても未完成なのかこの世界のように赤い体をしている。
こうして3人は、本当の意味で真実を知った。あの男の話は誇張表現や嘘でもなんでもなかった。本当に真実しか話しておらず……そして大赦は、これを知りつつ隠していたのだ。隠す理由を、3人はようやく理解した。あくまでも、結界の外については、であるが。
ー ……………… ー
「っ!?」
唐突に、楓の背筋が凍った。誰かに、ナニかに見られている。楓だけが、そう感じた。視線を感じた方向……正面より少し上の空間を見詰める。遥か遠くに居るその存在を、強化された勇者の目が捉えていた。
それは丸い“鏡”だった。少なくとも、楓はそれ以外に形容する言葉を知らない。顔なんて、ましてや目なんてどこにもない。なのに、楓ははっきりと理解出来る。今、自分はあの鏡に見られている。
「っ、今度は左耳か……来るぞ、2人共!」
左耳が聞こえなくなったと言う銀の声に意識を取り戻したように2人はハッとして自分達に迫り来る小さなバーテックスを迎え撃つ。須美のことも心配である為、倒しつつ後退していく。ふと気が付くと、楓はあれほど感じていた熱気をいつの間にか感じなくなっていることに気付いた。
(……温感、かねぇ。そんなものまで捧げることになるのか……)
楓はふっ、と力無く笑い、水晶から限界まで伸ばした光の剣を作り出して横一閃し、数多のバーテックスを切り裂く。園子は槍を同じように限界まで伸ばして振るい、それらを抜けてくるバーテックスは銀が即座に切り捨てる。ある程度倒したところで、3人は壁を駆け上がって結界の中へと戻る。荒い息を吐き、呼吸を整えつつ須美が居る場所に向かう。
そこで見たのは、満開どころか勇者服すらも解除された須美の姿だった。
「……なに、これ……大橋が、町が……」
目が覚めた時、私が見たのは崩壊した大橋と樹に覆われた妙な世界だった。町なんてどこにもない、見たこともない世界。そうして唖然としている私の前に、妙な格好をした2人と似たような格好の、何故か真っ白になっている楓君が降りてきた。
「須美ちゃん、無事かい?」
「楓、君……あの、その2人は……誰? ここは、どこなの? 町は、何がどうなってるの!?」
「……わっしー……まさか……」
「ははっ……記憶とか……そんなのアリかよ……」
知らない女の子2人が私を見て悲しそうにしている。その理由を私は知らないし、気にしている余裕もなかった。こんな変な世界に、知り合いが彼1人だけなのだから。
「っ! なに、アレ……」
「……質より量、ってことかねぇ」
突然空に、赤い、得体の知れないナニかが幾つも出てきた。その異様な光景に恐怖する私には、楓君が何を言っているのか理解出来なかった。私と同じようにナニかを見ていた3人の内、知らない2人がまた私に振り返る。その顔には、笑顔が浮かんでいた。
「私は、乃木 園子」
「あたしは、三ノ輪 銀」
何故か立てない私の前にしゃがみこんだ2人の内、園子と名乗った人が自分の髪を結んでいたリボンを外し、私の右手を取ってそこに結び付ける。
「貴女は忘れちゃったけど……私達は4人で友達だったんだ~」
「ま、忘れたなら仕方ない。何度だってまた友達になるだけさ」
「あ……」
何か、何か言わなきゃ。でも、何も言葉に出来なかった。私が忘れてしまったという友達。そう言ってくれた彼女達に、何も。
「「またね」」
2人が明らかに人間を越えた脚力で跳躍する。そして空で、蓮と牡丹の花が咲いた。
「須美ちゃん……」
「楓、君……私、私……どうなってるの……何を忘れてるの? 何を忘れてしまったの!?」
怖くて、怖くて仕方がない。何もわからない。でも、段々と忘れていっているのが何となく理解出来た。出来て、しまった。
「いいんだ」
そう言って、楓君は私を抱き締めてくれた。それでも、忘れていっているという焦燥感が私を苛む。
「忘れたくない! 大事なモノなハズなのに、忘れちゃいけないモノなのに!」
「例え、君が自分達のことを忘れてしまっても」
新士君の声が、叫ぶ私の耳に届く。良くない。良くないよ。私は忘れたくないのに。止められない。忘れることを、止められない。
「いや、いや! 消えないで! 消さないで! 私は、私は……」
「それが、君の幸せになるなら……それで、君が平穏な日常を生きられるなら」
……雨野君の声がする。彼に抱き締められている。私と彼はそんなに親密だっただろうか。片腕しかないのは、なんでだろう。幸せって……なに? 平穏な日常って……なに?
「あ……」
「忘れて、いいんだ。だから……
すみって……だれ?
「じゃあね」
真っ白な男の子が私から離れて、朗らかな笑みを向ける。さよならを告げる。優しげな、それでいて寂しげな声で。
彼が背を向ける。思わずその背中に手を伸ばして……届かない。後数センチ。1歩でも足が動けば届くのに、届かない、届かない……届かない。彼が跳ぶ。その先で、炎の剣が空を裂いていた。その手前で、大きな紫の光の鳥が羽ばたいていた。そして……泣きたくなる程に綺麗な白い花が咲いて。
「ーー……」
意識が遠退く。最後に何を口にしたのかは……自分でも分からなかった。
目が覚める。時間帯は夜だろうか……私は病院に居るらしく、ベッドの上で横になっているらしい。ふと右手に何か巻き付いている感覚を覚えたので目の前に持ってくる。そこには、見覚えのないリボンが巻かれていて。
「……」
何故か、それがとても大切なモノに思えて、手放したくないと思って。
「……っ……」
そのリボンの向こうに、知らない人影が3人分見えた気がして。誰か、知らない男の子の声がした気がして。
「ぁ……~……っ!!」
とても、綺麗なモノを見た気がして……訳も分からず、涙が零れた。
原作との相違点
・銀満開(夏凜のモノに更に2本腕が追加されて武器が巨大な斧剣とすると分かりやすいか?)
・園子だけでなく銀、楓も結界の外を見る
・須美が武器に名付けない(銀が生存してるので名付ける必要がない)
・須美の記憶散華。彼女自身が記憶が消えていくことを自覚している
・ピスケスがヴァルゴ並みの被害者に
・その他色々
という訳で、“瀬戸大橋跡地の合戦”でした。楓の満開は、早い話がファ○ネルやビッ○、ド○グーンです。万能性のある満開を求めたらこうなりました。ちゃんと分かりやすく描写できていたでしょうか?
結界の外から見た宇宙規模の黄金の樹。何あのグリッター神樹様と初見思いました。本作ではまだまだ成長します。描写は多分しませんが←
前回の後書きで提示したルート、それぞれ見たいとの感想を頂きまして嬉しい限りです。因みに、この話までが共通ルートです。ルート別に散華の内容変わりますし。いや、別にルート別に書くわけではないですが……書いてもif番外編です。
次回でわすゆ編は終了となります。その後予定通り、1~3程番外編を挟みたいと思います。活動報告に他の作者様のように試しにリクエストでも置いてみましょうかね。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)