咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

今回、リクエストを盛り込んだDEifの2です。

戦闘回や鬱回で無くても筆が乗るのだと証明して見せよう。私になら、それが出来るハズだ←

全く関係ない話ですが、“主人公名”は勇者であるとタイトルにした場合、本作だと略称が“いかゆ”、“あしゆ”、“たかゆ”となるという……あしゆに全部持っていかれそうだ。おのれあの男。

あ、番外編なので後書きに捕捉とかがあります。


番外編 花結いのきらめき ー DEif2 ー

 「アマっちもなってみない? 国防仮面」

 

 それは、一年生へのレクリエーションが終わって安芸に怒られた日から少し経った日のこと。勇者4人で乃木家に集まり、サンチョの抱き枕に埋もれながら皆でのんびりと過ごしていると、唐突に園子が呟いた。

 

 「国防仮面? ああ、レクリエーションの時の……うーん、衣装を着るのはいいんだけどねぇ。君達のサイズだと自分には……」

 

 「大丈夫だよ~。こんなこともあろうかと、アマっち用の奴も作っておいたんだ~」

 

 「こんなこともあろうかとって……何を想定してたんだよ園子……」

 

 「流石ね、そのっち」

 

 という訳で、以前にもファッションショーをした衣装部屋までやってきた4人。銀が少し入るのを躊躇っていたが、今回は自分ではないと己に言い聞かせる。新士も女装の記憶が甦ったのか一瞬部屋の前で足が止まったものの、園子に手を引かれて無情にも部屋に入り込む。

 

 「確かこの辺に……あったー! はい、これ」

 

 「うん、ありがとねぇ」

 

 園子から手渡されたのは、2号が着ていた陸軍将校の服、その新士のサイズに調整されたモノである。1号のモノではなく自身も着ていた2号のモノを渡したのは無意識か、それとも意識してか……それは本人にしかわからない。

 

 それじゃあ早速着替えよう……と服に手を掛けた新士の動きが止まり、彼の視線が右隣へと向く。そこに居るのは、ニコニコとしながら新士が着替えるのを今か今かと待ち構えている園子の姿。1度前を向き、また右を向く。園子の姿は変わらずそこにあった。そんな彼の動きをニコニコしながら見ていた園子が口を開く。

 

 

 

 「着替えないの?」

 

 「着替えるから出ていきなさい」

 

 

 

 須美を呼んで園子を引きずって部屋の外に出してもらってから数分も経たずに着替え終えた新士。彼が部屋を出ようとすると3人が居る部屋の襖がいつの間にか閉まっており、間に何かの紙が挟んであった。

 

 何が書いてあるのかと疑問に思いつつ、その紙を取って内容を確認する新士。中には国防仮面の口上と、襖を開けながらそれをやって欲しいとのリクエスト。流石に気恥ずかしさを感じた新士だったが、ここまで来たなら最後までやろうという気持ちになる。

 

 書かれた口上をじっくりと読み、暗記する。幸いにも口上は短く、覚えることにさほど苦労はしなかった。こほん、と咳払いを1つし、襖に手を掛ける。

 

 「行くよー」

 

 「「「はーい」」」

 

 念のための声かけも忘れない。そして、始める。

 

 「国を護れと人が呼ぶ……」

 

 何度か見たことのある特撮モノの名乗りを意識し、少し低めに、それでいて重みのある声を意識して出す。

 

 「愛を護れと叫んでる」

 

 勢い良く襖を開き、割と近くに居た3人を目付きをキリッとさせながら見る。

 

 「全員、気を付け!!」

 

 普段よりも低い、それでいて響く声に思わず3人が言われた通りに気を付けをする。

 

 「憂国の戦士、国防仮面。見、参!! ……なんてね」

 

 ビシッと敬礼。そして少し間をおいて恥ずかしそうに笑う新士。ノリノリでやったは良いものの、やはり恥ずかしさが勝ったらしい。そんな彼を見て、須美が顔を赤くしつつ物申す。

 

 「新士君……敬礼の手が違うわ!」

 

 「あ、やっぱり?」

 

 

 

 

 

 

 「国防仮面1号!」

 

 「国防仮面2号~!」

 

 「国防仮面V3」

 

 「国防仮面X!」

 

 「「「「見参!!」」」」

 

 その後、何故か銀の分まで用意されていたので彼女も着替え、折角なので4人揃って名乗りとポーズを決めてみる。V3だとかXだとかに特に意味はない。因みに、V3は新士でXが銀であり、彼女は海軍将校のモノを着ている。

 

 満足そうにしている女の子達に対し、新士は1人恥ずかしそうに顔を隠す。精神年齢3桁近い彼に、今回のこれは些か厳しかった。彼自身やる時はノリノリなので我に戻るとダメージが増すようだ。

 

 「折角だし、今日は帰るまでこの格好で過ごしましょうか」

 

 「いいね~」

 

 「たまにはいっかな」

 

 「勘弁してくれないかねぇ……」

 

 そんな、平穏な一幕。

 

 

 

 

 

 

 「……そういえば、そんなこともあったな~……」

 

 目が覚めた。とても懐かしい夢を見て気分が良い。あれからアマっちは長いこと恥ずかしがってて、それが珍しくって可愛くって、いつも以上にくっついていたっけ。今ではもう、遠い記憶だけれど。

 

 体を起こす。スマホを見ると、時刻は7時を回った頃。この不思議空間でも学校は普通にあるので、着替えて支度をして朝食を作って食べて……すっかり1人暮らしにも馴れた。家事を教えてくれたわっしーとミノさんには本当に感謝してる。

 

 「……アマっちは、どうしてるかな」

 

 こないだ召還された、小学生だった頃の私達。小さい私とリトルわっしー、プチミノさんが寄宿舎で暮らしているのに対して、アマっちはフーミン先輩といっつんと一緒に暮らしてる。元々家族なんだから不思議はないけれど……羨ましいと思ってしまう。

 

 今頃、彼は家族と一緒にご飯を食べてるんだろうか。一緒に登校……は、彼が小学生だから途中までしか出来ないだろうし。なんで私は中学生なんだろう。どうしておんなじ時間を過ごせないんだろう。また彼の机に頭を預けて、彼の手に撫でられながら眠りたい。それで安芸先生(あいつ)に怒られるとしても、そんなモノ毛ほどの痛みも感じない。そんなものに気を取られるよりも彼の温もりを感じていたい。

 

 彼の姿が見たい。この世界に居るのだと安心したい。早く放課後にならないだろうか。まだ家を出てすらいないけれど。今からフーミン先輩の家に行ってもいいだろうか。でも残念ながらこの家は反対方向にあるから今から出ないと間に合わない。朝食を抜くくらい別に……あっ、昨日も朝食抜いてアマっちにやんわり怒られたっけ。それすらも嬉しいけれど、もし繰り返して愛想を尽かされたらと思うと恐怖で動けなくなる。

 

 「……普通に……普通に過ごせばいいんだ」

 

 結局、その結論に行き着いた。アレほど願った、彼が居る日常がそこにあるんだ。何も特別なことは必要ない。いつものように過ごして、いつものように部室に行って……いつものように小さい私達と一緒にやってくる彼を笑って迎えれば、それでいい。例えそれが、今だけでも。どこかで終わりが来ると知っていても。

 

 

 

 放課後、私は勇者部の皆と部室に来ていた。最近は造反神側の侵攻も落ち着いている。だからこうしてのんびりと過ごしていられる訳だけど。ひなタンは大赦に用事があるとのことなので居ない。

 

 朝、校門のところまでフーミン先輩といっつんがアマっちと一緒に歩いているのを見た。羨ましい。羨ましい。私だって、そうしたい。彼の隣を歩いていたい。きっとわっしーだって。

 

 アマっち達が来るのを待つこの時間が辛い。1分1秒が何倍にも長く感じる。おかしいな、のんびりボーッと過ごすのは好きだったハズなのに、私はこんなにもせっかちだっただろうか。

 

 「こんにちはー!」

 

 「こんにちは」

 

 「こんにちは~」

 

 「おいーっす。良く来たわねちびっこ達」

 

 小さい私達がやってきてフーミン先輩が歓迎する。この数日ですっかりお馴染みになった光景に思わず笑みが溢れる。だけど、それも直ぐに消える。プチミノさんは居た。リトルわっしーも居る。小さい私も居る。なのに……彼だけが、居ない。それが、否が応でもあの日、アマっちを失った日を思い出す。

 

 「……アマっち、は……?」

 

 「あっ、新士は今日日直で少し遅れます」

 

 「私達は待ってるって言ったんですが、待たせるのも悪いとのことで……風さん、連絡来てませんか?」

 

 「えっ? ……あっ、ホントだ」

 

 思わずそう聞いて、返ってきた答えに安心して泣きそうになる。しかし、ここで私は気付いてしまった。まだ、アマっちには会えないということは、彼と過ごす時間がそれだけ減ってしまうのだと。只でさえ限られている時間が更に減る。今こうしている間も着実に減り続けている。

 

 後何分待てば彼は来る? 後何十分待てば彼は来る? まさか何時間? それよりももっと? そう考えてしまい……ぽっきりと、心が折れた。

 

 「わっじいいいいっ!! ミノざああああん!!」

 

 「ああ、また耐えられなくなっちゃったのね……よしよし」

 

 「最近良く壊れるなー園子……分からんでもないけど」

 

 「2年経つとああなるのか、園子」

 

 「そのっち、新士君にべったりだもの……大橋に居て中々会えないのなら、ああなるのも納得……かしら?」

 

 「うええええんわっじいいいいっ! ミノざああああん!!」

 

 「しまった、園子ちゃんも共鳴した!」

 

 

 

 

 

 

 「で、こうなってる訳だ」

 

 日直によって遅れること数十分。部室にやってくるや否やいきなり園子ズに抱き着かれて押し倒された新士。他の勇者達に助けてもらい、立ち上がっても尚左右から絶対に離さないとばかりに抱き締められている。

 

 小学生組が召還されて以来、この光景は見られるようになった。と言ってもまだ3回目だが。マイペースで、いつもニコニコとしている園子(中)の号泣には当初誰もが面食らったものの、彼女の想いと新士が本来死去していることを知る勇者部からすれば、納得の行くものだった。犬吠埼姉妹とて、召還された日に吐き出していなければ危なかったかもしれない。

 

 同じ理由で東郷も危なかったのだが、園子(中)のあまりの号泣っぷりに冷静にならざるを得なかった。いや、正確に言うなら……銀(中)と東郷は嬉しかったのだ。園子(中)が本気で泣いたことが。

 

 あの日、新士の無惨な姿を見た後に3人共絶叫し、枯れ果てる程に涙を流した。その後の告別式に、ヴァルゴの襲来。そして、安芸との関係の崩壊。更には10回の満開によって寝たきりの状態と言葉にならない程。

 

 悲惨さで言えば東郷と銀も負けず劣らず……そもそも優劣を着けることでもないが。だが、東郷は勇者部の戦いの中で友奈と出会い、泣くことが出来た。銀(中)は捧げた供物が戻り、家族と再会することで泣くことが出来た。園子だけだったのだ……供物が戻っても、再び東郷と銀(中)と共に歩けるようになっても泣けなかったのは。

 

 そんな彼女が、突発的とは言え泣くようになった。驚き、後に安堵。同時に、危機感。東郷と銀(中)、恐らくは犬吠埼姉妹も抱きかけている……或いは、既に抱いてしまっているかもしれない。

 

 ー 彼の居るこの世界に、永遠に居られたなら ー

 

 「のこちゃんものこちゃんさんもそろそろ離してくれないかねぇ……動けないよ」

 

 「「……やっ!」」

 

 「さっすが同一人物。台詞もタイミングも声のトーンまでも一緒、しかも体勢も鏡合わせみたいだわ」

 

 「いや、そんなこと言ってないで助けてあげなさいよ犬吠埼姉」

 

 「そのちゃん達と新士くんは仲良しさんだねー」

 

 「友奈さん……あれは仲良しというかなんというか……」

 

 苦笑いを浮かべる新士にしがみついて離れない園子ズ。風は2人のシンクロに称賛の声を漏らし、夏凜がジト目で睨む。友奈は3人の様子を見て天然なのか嬉しそうに呟き、樹が新士と同じく苦笑いを浮かべる。その外で、残りの小学生組と中学生組も笑う。小学生組は仕方ないなぁと苦笑い。

 

 中学生組は……仕方ないなぁと、泣きそうな笑みで。

 

 

 

 

 

 

 「ごめん楓! あたしと樹、昼前から部活動で居なくて……お昼ご飯、園子に頼んどいたから!」

 

 翌日の休日の朝、申し訳なさそうに手を合わせて頭を下げる風に了承の意を示した新士。何故そこで園子なのかという疑問は……特になかった。予想の範囲ではあるが、理由を悟っていたからだ。

 

 新士から見ても、園子(中)の状態は危うい。本人は隠しているつもりだろうが、元々新士は人の機微に聡い。既に自身が本来の時間軸で死んでしまっていることを悟っている新士は、己の死によって彼女があそこまで泣くほどに心に傷を負っていることを悲しく思い……そのせいで己が生きているこの世界にこのまま居続けることを選択するのではないかと危惧していた。

 

 (どうしたもんかねぇ)

 

 取れる手段はあまりに少ない。そもそも、どんな風に自分が死んだのかもわからないのだ。恐らくはバーテックス戦、そこで何があったのか。姉妹は当然として友奈と夏凜も知らない。中学生組の3人は頑なに当時のことを話そうとはしない。それが自分達小学生組に配慮してのことだと分かっているから、聞くに聞けない。

 

 何の改善策も思い付かないまま時間だけが過ぎ、家のインターホンが鳴る。鳴らしたのは、園子(中)。もうそんな時間かとスマホを見れば12時前。考えることを一旦止め、新士は彼女を招き入れた。

 

 「いらっしゃい、のこちゃんさん」

 

 「お邪魔します~♪ フーミン先輩達の家、初めて来たよ~」

 

 「おや、そうなんですか……うーん」

 

 「? どうしたの?」

 

 「いえ、そうですね……まああの子も今は居ないし……いいか」

 

 リビングに向かう途中、新士が園子(中)を見た後に顎に右手の指を当て、何やらぶつぶつと呟く。そうすること数秒、彼の中で納得の行く答えが出たのだろう。リビングに続く扉を開けながら、園子(中)に笑い掛けた。

 

 「改めて……いらっしゃい、“のこちゃん”。中学生になった君のお昼ご飯、楽しみにしてるねぇ」

 

 「っ!! ……うん、楽しみにしてて。わっしーとミノさんにいっぱい……いっぱい教わったから」

 

 

 

 

 

 

 

 アマっちから敬語が抜けた。小さい私じゃなくて、私を“のこちゃん”って呼んでくれた。まるで、昔に戻れたみたいで……胸がいっぱいになって。自分でもはっきり分かるくらいご機嫌になって、浮かれて、でもしっかりとお昼ご飯を作る。と言っても……作るのは決まっている。

 

 作りながら、フーミン先輩にアマっちのお昼を頼まれた時のことを思い出す。朝早くに電話が来たときは何事かと思ったけれど、頼まれた瞬間に2つ返事で頷いた。なんでそこでわっしーやミノさんじゃないのかと思ったけれど……それがフーミン先輩の優しさなんだって、電話が切れてから分かった。

 

 この数日、私はアマっちが絡むとどうにも情緒不安定になる。そこまで、追い詰められてる。何か後一押し、なんて無くても……勝手に転がり落ちてしまいそうになる。彼と再会出来たことは嬉しい。同時に、再会出来たから……私の心の均衡が崩れた。いきなり泣き出すくらいに。

 

 材料を切る手を一旦止めて、後ろを見る。フーミン先輩の家の台所から直ぐ後ろに、リビングとソファの背凭れが見えて、そこからひょっこりと出ている黄色い髪が見えてる。料理を作る私と、その出来上がりを待つ彼。その関係性はまるで……。

 

 (……これは、タマネギのせいだから……おのれタマネギめ)

 

 目を擦り、強めにタマネギを切る。少しだけ、暗い気持ちが晴れた気がした。

 

 

 

 「お待たせ~」

 

 「待ってました。ずっといい匂いがしてたから楽しみだねぇ」

 

 「わっしーとミノさん直伝だよ~」

 

 「これは……美味しそうな“焼きそば”だねぇ、のこちゃん。いただきます」

 

 作ってたのは焼きそば。彼にお昼を作ってと頼まれた時点で、これを作るのは決まっていた。この料理を作った意味を……遠足の4日前から来たという彼は知らない。それが少し悲しいけれど……それでも、作らない理由にはならない。

 

 自分の分も置き、手を合わせて食べる彼を見る。味見はちゃんとしてるから味に問題はないハズ。強いて言うなら、せいぜい味の濃さとかくらいだと思う……作る前に聞けば良かったと遅れてから後悔する。

 

 「うん……美味しいねぇ。買い食いもあんまりしたこと無かったのこちゃんが、中学生になるとこんなにも美味しい焼きそばを作れるようになるんだねぇ」

 

 「えへへ……褒めすぎだよアマっち。味は……濃さとか、どうかな」

 

 「うん? そうだねぇ……強いて言うなら、自分はもう少し濃い味の方が好きなくらいかな?」

 

 アマっちは濃い味の方が好き、と脳内でメモする。完璧には届かなかったけれど、美味しいと言ってもらえたからそこは満足。それに、この世界にいる限り……これっきりって訳じゃない。

 

 直ぐに問題が片付く訳でもない。なら、それまでやりたいこともやってあげたいことも全部やろう。その問題が片付くまで、何度も、何度でも、それこそ……終わりを迎えるまで。

 

 片付けは、アマっちがやってくれてる。料理はお片付けするまでが料理、と言って断ったんだけど両肩を掴まれてソファに押し付けられ、“自分がやるからねぇ”とにっこりと笑われると逆らえなかった。なので、私はソファに座ってボーッと彼が来るのを待つ。

 

 「……ん?」

 

 ふと、テーブルの片隅にあったアマっちのスマホが窓ガラスから入る日の光を浴びて銀色に輝いた。なんとなく気になって、近付いて見てみる。

 

 「あ……懐かしいなぁ」

 

 裏向けに置いてあったアマっちのスマホ。手にとって見ると、その中心に小学生の私達が写った写真が貼ってあった。その写真は、ちゃんと覚えてる。初めての戦いの後、わっしーの誘いでイネスで祝勝会をした時に撮ったプリクラだ。私も、大切に保管してる。

 

 わっしーの首に左手を回して右手でピースして元気に笑ってるミノさん。少し重そうにしながらも同じように左手でピースして小さく微笑んでるわっしー。そんな2人の前で頬をくっつけてアップで映る笑顔の私と……朗らかに笑ってるアマっち。

 

 ……今はもう、同じ写真を取ることは出来ないけれど。

 

 「懐かしいかい?」

 

 「あ、アマっち……うん。懐かしいよ……懐かしい、よ」

 

 「……ちょっと隣に座るよ」

 

 「え? あ、うん」

 

 「よっと。悪いけれど、ちょっと離れてくれる? そう、そこでいいよ。そんでもって……こうだ」

 

 「わふっ」

 

 いつの間にか、片付けを終えたらしいアマっちが後ろに居た。彼の問い掛けに答えつつ、テーブルの上にスマホを置く。もう少し見ていたかった気もするけれど……ちょっと残念に思いつつ、隣に座るアマっちの言うとおりにする。離れてと言われた時に胸に痛みが走ったけれど、それも……彼が私の手を引いて横に倒し、私に膝枕してくれたことで消え失せる。

 

 彼の右手が私の頭を撫でる。覚えてる。この手も、この温もりも、全部。忘れたことなんて1度もない。薄れたことなんて1秒もない。

 

 「ありがとねぇ、のこちゃん」

 

 「……なに、が……?」

 

 「そんなになるまで……自分を想っていてくれて」

 

 涙が流れる。ほんの少しも、我慢出来なかった。

 

 「きっと……いっぱい辛かったんだよねぇ」

 

 辛かった。アマっちが死んだことも、その後の戦いの散華の影響で動けなくなったことも、わっしーに忘れられたことも……わっしーと、戦う羽目になったことも。

 

 

 

 ー 退いて! 私の邪魔をしないで! ー

 

 ー するよ。この世界はアマっちが……貴女の好きだった人が守ろうとした世界なんだから! ー

 

 ー 須美、お前だって新士と……あたし達と一緒に守ってきただろ! ー

 

 ー 私は、覚えてない! 貴女達のことも、そのアマっちって人のことも! 散華の影響で忘れさせられたから!! 友奈ちゃん達のことだって、いつか忘れさせられる!!ー

 

 ー それでも、アマっちは確かにこの世界に居たから。勇者部の皆と会えたのも、この世界があったから! それはわっしーだって……貴女だって分かるでしょ!? ー

 

 ー その人が、貴女達が私にとって大切で……友奈ちゃん達と出会わせてくれたのがこの世界なら……その思い出も、その想いも、その何もかもを奪ったのも……世界の方じゃない!! ー

 

 ー だとしても……私は守るよ。だって、私の好きな人が、私達の未来を見たいって言ってくれた人が守った世界だから!! ー

 

 

 

 (……ああ……なんでこんな大事なこと、忘れてたんだろ)

 

 そうだった。友達と戦うことになっても世界を守りたかったのは……彼が私達の未来を夢見たからだ。結局寝たきりだった分のブランクのせいで守りきれなかったのは苦い思い出だけど。ゆーゆ達勇者部には感謝しかない。

 

 少しだけ、目の前の坂道が緩やかになった。

 

 「……いっぱいね、一緒にやりたいこと、あるんよ」

 

 「そうだねぇ。じゃあ……いっぱいやろうねぇ」

 

 その坂道に、転がり落ちそうになるのを止める柵がついて。

 

 「いっぱい……一緒に行きたいところもあって」

 

 「それじゃあ、いっぱい行かないとねぇ。皆でも、2人でも」

 

 坂道(うしろ)ばかり見てる私を、前に向かせてくれる人が現れて。

 

 「いっぱい……いっぱい……づだえだいごと、あってぇ……っ!」

 

 「うん……自分も、未来ののこちゃんの話……いっぱい聞きたいねぇ」

 

 その人はいつも私に向かって……朗らかに笑ってくれるのだ。

 

 

 

 

 

 

 「こんにちはー!」

 

 「こんにちは」

 

 「こんにちは~」

 

 「こんにちは」

 

 「おっ、今日は全員そろって来たわねちびっこ達」

 

 放課後の部室に、小さい私達が4人揃って入ってくる。最後に入ってきたアマっちを見て……あの日の号泣を思い出して少し、恥ずかしくなる。

 

 でも、きっと今はそこまではいかないと思う。まだ少し、坂道が近くにあるけれど……まだ、意志が揺らぎそうで、誘惑に負けそうにもなるけれど。その度にきっと、彼が、皆が前を向かせてくれると思うから。

 

 「姉さん。今日は自分達でも出来そうなのは何かあるのかい?」

 

 「そうねぇ……神社のゴミ掃除に老夫婦の家の庭の草むしり、後は空き家のお掃除の依頼が来てるけど……」

 

 「うーん……どれにする?」

 

 「そうね……老人は大事にしなければいけないわ」

 

 「だな! あたし達で頑張れば直ぐ終わるって。若いし!」

 

 「あたしよ、なんであたしの方を見るんだ? ん?」

 

 「落ち着きなさい銀」

 

 普段は私達にも敬語を使うプチミノさんはミノさんには遠慮がない。まるで、本当の姉に甘えてるみたいで私達からすれば微笑ましい。思わずくすくす笑ってると、園子ちゃんが私の制服の袖をくいくいと引っ張ってきた。

 

 「園子さんも一緒に行きませんか~?」

 

 「……私は、今回は遠慮しよっかな~」

 

 【えっ!?】

 

 そう言ったら皆……アマっち以外に驚かれた。彼だけは、いつものように朗らかに笑って見てくれていた。いつだって彼はそうやって……私を、私達を信じてくれている。それが、堪らなく嬉しい。

 

 「そのっち? 無理してない?」

 

 「大丈夫だよな? なんだったら小さいあたしと変わってもらうか?」

 

 「銀さん、あたしだけ仲間外れにさせないでください」

 

 「もう、心配し過ぎだよ~……もう、大丈夫だよ」

 

 もう、大丈夫。きっと、また沢山泣いちゃうけど。きっと、またアマっちを求めて壊れそうになるけれど。他でもない彼が、私に前を向かせてくれるから。わっしーも、ミノさんも、勇者部の皆も、ひなタンも居るから。

 

 だから、きっと大丈夫。過去、4人で一緒に笑ってた……その頃のように。

 

 「少なくとも今は……いつだって一緒に居られるんだから」

 

 今でもこうやって、一緒に笑えるんだから。




補足

・国防仮面の話は本編わすゆ7~8の間。なので本編の楓君も経験してる

・V3とXに特に意味はない←

・小学生の時間軸が遠足の4日前なので新士は約束を知らない

・園子が新士の味の好みを知らない



リクエストとして国防仮面、病み園子、DEifの続き、と盛り込んだお話でした。すみません、国防仮面は最初に頂いたのでやりたかったんですが、これだけだと話が膨らまなかったんです……じゃあDEifの続編希望も来てたし混ぜちゃえと思い、こうなりました。

今回は園子様中心のお話に。完全に前を向いた訳ではないですが、少しは回復しました。

こちらの世界線でも“やくそく”を果たした園子様。わざわざ“右手で撫でる”と書いてるのは私からの皆様への地味な精神攻撃です←

新士が焼きそば食べる時のセリフ、ゆゆゆいで園子(中)からうどん貰う時の大成功セリフとしてそのまま使えますね……。

リクエストして下さった方々、ありがとうございます。ご満足頂けたでしょうか? 番外編はもう1話続きます。その後、いよいよゆゆゆ編へと突入します。動画に漫画に他作者様の作品と色々漁らなきゃ。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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