筆が……。
ゆゆゆい、ノーマル全章クリアしました。後はメブを7人集めなきゃ……全然落ちないの。
ほのぼのだった(ボディブロー
今回、後書きにちょっとおまけありです。
「ねぇ、樹。あたしと楓が、あんたにも言ってない……到底信じられないような隠し事をしてるって言ったら……どうする?」
とある日の夕食の後、ソファの上で寝転んでお兄ちゃんに膝枕してもらいながらテレビを見ていた時、洗い物を終えて目の前までやってきたお姉ちゃんがそう聞いてきた。その時、私は2年前のお兄ちゃんが養子に出た時のことを思い出した。
あの時の私は今よりももっと小さくて、お兄ちゃんにずっとべったりで、あんまりお姉ちゃんとも遊んだりしなかった。だから、お兄ちゃんが何かの“お役目”って奴で養子に出た時……本当に悲しくて、寂しくて……泣いてばかりで、お別れもちゃんと言えなかった。
だから……いつかお兄ちゃんが帰って来た時に笑って“お帰り”って言ってあげられるようになろうと思った。お兄ちゃんに甘えてばかりいた自分にはさよならをして、もっと前に出ようって。最初は中々上手くいかなかったから、お姉ちゃんの後ろに隠れてたけど。
お兄ちゃんに会えないのはやっぱり寂しくて。電話も、手紙も何も届かなくて、届けられなくて。占いに出会ったのはそんな時。テレビで誰かの運勢や居場所をタロットカードで占ってるシーンが流れたのを見て、これだって思った。元々占いは好きだったし、これならお兄ちゃんの場所や状況を大雑把にでも知ることが出来るって思った。
最初はちゃんと出来なかったけれど、やっていく内に段々と覚えて、今ではお姉ちゃん曰く良く当たるようになった。それでお兄ちゃんの場所を占うのが日課になった。占い趣味が通じて友達だって出来たし、少しだけ前向きになれた気がする。1度、死神の正位置が出て、次に逆位置が出たのはびっくりした。今思えば、正位置は今の怪我を意味して、逆位置はそれでも立ち上がったことを意味していたんだと思う。
「それって、昔お兄ちゃんが養子に出た時の“お役目”のこと?」
「っ!? 樹……あんた……」
「うん、ちゃんと覚えてるよ。それに……」
去年に起きた、大きな自然災害。ニュースにもなって、死傷者の中にお父さんとお母さんの名前があって、2人で泣いてる時にお兄ちゃんを連れてった大赦の人と同じ格好の人が沢山家に来て、わざわざ“両親は死んだ”と告げた。この時、実はお姉ちゃんが対応してて……私はあの日の恐怖が甦って動けなくて、リビングから隠れて見ていた。
「実は、知ってたんだ。お姉ちゃんが“勇者候補”っていうのだって……あの日、こっそり聞いてた」
「え……あ……」
「話は良くわからなかったけど、きっとお兄ちゃんに関係してることなんだって思った。お姉ちゃんが……これからも生活していく為に勇者候補になったのも……今なら分かる」
普通、両親が居なくなったら生活なんて出来ない。でも、今こうして生活出来てるのは……お姉ちゃんがその勇者候補になったから。その時の私は甦った恐怖と両親が死んだことで頭の中がぐちゃぐちゃで、そんなことも考えられなかったけれど。
しばらくお姉ちゃんが大赦に行くようになって、どっちも料理なんて出来ないからご飯は冷凍食品とか出来合い物ばかりで冷たくて、味気ないモノばかりで、独りは寂しくて。でも、お姉ちゃんはそんな私の為に料理を作ってくれて、生焼けでも焦げてても、とても温かくて美味しくて。
「きっと、この家に引っ越してきたのも……今、“勇者部”をやってるのも、それが理由なんだよね。多分、お兄ちゃんが帰って来たのも……」
「……樹……全部、知って……」
突然引っ越すように言われてやってきた今の家。私達姉妹が住むには明らかにバリアフリーが行き届き
お兄ちゃんが帰って来たことは、純粋に嬉しかった。身体のことは確かにびっくりしたけど、それ以上にまた兄妹3人で居られることが嬉しかった。思わずお姉ちゃんと一緒に泣いちゃったけど……本当に、嬉しかったんだ。
『樹、ちょっと見ない内に大きくなったねぇ』
『そう、かな? お兄ちゃんも……背、伸びたね』
『そうだねぇ。姉さんは越えたいところだよ』
『あははっ。越えたらお姉ちゃん、また文句言っちゃうかも』
『“もっと姉を敬えー!”って? ふふ、それも……悪くないかもねぇ』
『悪い顔してるよお兄ちゃん……えへへ……改めてお帰りなさい、お兄ちゃん』
『うん……ただいま、樹』
お姉ちゃんが2階に行ってる間、私達はそんな会話をしていた。なんてことない普通の……私が、私達がずっと求めてた時間だった。
お兄ちゃんがお姉ちゃんと同じく中学校に通うようになって、勇者部の話を聞いて……ここに引っ越してきた理由を何となく悟った。友奈さんと東郷さんとも会って、お話した。良い人達だった。
「友奈さんと東郷さんも……勇者候補なの?」
「……」
「そうだよ。勇者部は、勇者候補を集める為の部活なんだ」
「っ、楓!」
「姉さん……言ったハズじゃないか。樹には話すって」
「それは、勇者としてのお役目の話だけでしょ!?」
「違う。“全部”話すってことだよ。勇者部の本来の目的も……これから、命懸けで戦うことになるかもしれないってことも、自分が何をしていたのかも、全部だ」
お姉ちゃんがお兄ちゃんと睨み合う。と言っても、睨んでるのはお姉ちゃんだけで、お兄ちゃんは真剣な表情でお姉ちゃんの顔を見てる。
「っ……何も、そこまで言う必要は……」
「樹が言っただろう? この子はもう、ある程度知ってる。それならいっそのこと、全部知ってもらった方がいい。樹1人を仲間外れにするつもりかい?」
「この子にはまだ早いわ! まだ小学生なのよ!? それに、話の内容も……」
「姉さん」
「っ……」
「大丈夫だよ、樹なら」
大好きな家族が私のことで言い合う。その光景は、とても悲しくて……2人が私のことを思ってくれているのが伝わってきて、嬉しくて。
お姉ちゃんは、私のことを案じてくれていた。お兄ちゃんは、私のことを信じてくれていた。お姉ちゃんが今にも泣きそうな顔で私達を見下ろして……お兄ちゃんは、いつもみたいに朗らかに笑ってお姉ちゃんと私を見て。私の頭を、ゆっくりと撫でてくれた。
「この子の心は、自分達が思ってるよりもずっと強い。だって、姉さんの事情を知っていて……それでも、知らないフリをしていたんだ」
「あ……」
「きっと、聞きたかっただろうに」
聞きたかった。お姉ちゃんはいつも悩んでて、苦しそうで。でも、私の前では笑ってて、私にいつも構ってくれて。
「きっと、苦しかっただろうに」
苦しかった。お姉ちゃんは私に何も言ってくれなくて、お兄ちゃんが居なくなってからもいつも私を守ってくれていて。私じゃ頼りないから仕方ないって、諦めて。
「きっと……怖かっただろうに」
怖かった。お姉ちゃんもお兄ちゃんみたいに居なくなるんじゃないかって。私に知らせないで、私に隠して、1人でどこかに行っちゃうんじゃないかって。
「きっと……姉さんから言ってくれるのを待っていたんだろうに」
そうだ、私は待ってたんだ。お姉ちゃんから言ってくれるのを、お姉ちゃんから教えてくれるのを。前向きになるって決めたのに、少しは前向きになれたと思ったのに、やっぱり私はまだ、2人の後ろに隠れたままで、2人の側で服の裾を掴んだままで。
ここだ。きっと、ここなんだ。私が本当に前に進む為に、少しでもお姉ちゃんを安心させてあげる為に。隠れていた背中から出て、掴んでた裾から手を離して。2人と一緒に、今度は3人で。
「お姉ちゃん」
「……樹……」
体を起こす。お姉ちゃんはまだ泣きそうな顔をしてる。そんな顔は見たくない。また、いつもみたいに笑って欲しい。
「私は、大丈夫だよ。話の内容なんて想像出来ないし、もしかしたら泣いちゃうかもしれないけど……」
「だったら」
「それでも……聞くよ。どんな話だって、聞く。どこにだって……着いていく。私なら大丈夫って、お兄ちゃんが信じてくれたから。私達は兄妹で……たった3人の家族なんだから」
「……」
「それに……独りは……仲間外れは、イヤだよ」
「……ごめん……樹……分かった。全部、話す」
ちゃんと笑えて言えたかな。思いのままに喋ってたら、急に目の前が滲んできたから……お姉ちゃんの顔、よく見えなくなって、最後なんて、声も何だか変になっちゃった。
泣いてない。泣かないよ。私が泣いちゃうと、お姉ちゃんが心配しちゃうもんね。だから……泣いてないよ。お兄ちゃんに耳元で“良く頑張ったね”って言われながら頭を撫でられても、お姉ちゃんに抱き締められても……泣かないもん。
それから、お姉ちゃんに話してもらった。勇者候補のこと、バーテックスっていう外からやってくる敵のこと、神樹様のこと、樹海化のこと、両親が死んだ理由がバーテックスにあること、友奈さんと東郷さんと私も候補であること……お姉ちゃんが知ってる、教えられたことも、全部。
お兄ちゃんのことも、教えてもらった。バーテックスと戦って腕を失くしたこと。一緒に戦った勇者仲間の女の子達のこと。でも、こっちは全部教えてはくれなかった。ここから先は、本当に勇者になった後にいつか教えるって、そう言って。待ってお兄ちゃん、私みたいに膝枕を沢山してたっていうその羨ましい金髪の女の子についてもう少し話を……。
こほん。お姉ちゃんは話し終わった後、自分の復讐に巻き込んでごめんって謝ってきた。だけど、違うよお姉ちゃん。最初はそうかもしれない。だけど、話を聞いた今なら……違うって、はっきりと言える。
「私は、自分から飛び込んだんだよ。私はお姉ちゃんみたいに復讐とかは……ちょっと考えられないけれど。だけど、それでも……その先が地獄でも、悪いことしかなかったとしても……お姉ちゃんと、お兄ちゃんと一緒に行くからね」
2人が私を大切にしてくれるように……私だって2人のことが大切なんだから。
この日、私は自分で戦うことを選んだ。それが結果として、後々お兄ちゃんとお姉ちゃんの心をどれだけ傷付けることになるかも知らないで。
勇者部の活動が校内外問わずに認知され、依頼も多く入るようになった頃。季節は秋、勇者部一同は神社で落ち葉の掃除の依頼を受けていた。
「さて、張り切ってやるわよ!」
「おー!」
「風先輩、なんだかいつもより元気ね?」
「神主さんがお礼として自分達が集めた落ち葉を使って焼き芋焼いてくれるんだってさ。それに、沢山あるからってサツマイモも分けて貰えるらしいよ」
「なるほど」
そんなやり取りの後、犬吠埼姉弟と友奈、美森の2人組に別れて落ち葉を集め始める。風と友奈が落ち葉を集め、楓と美森は集まった落ち葉を塵取りで大きなビニール袋の中に入れていく。4人で行うには神社は少々広いが、フィジカルに優れ、尚且つ焼き芋を早く食べたいという食欲から何かブーストでも掛かっているのか風の動きが凄まじい。
友奈もサッサッと箒で落ち葉を集めているが、時折気に入った落ち葉を見つけては拾い、保管している。後で押し花にでもするのだろう。相方の2人はそんな風と友奈に苦笑いと微笑みが止まらない。
「姉さん、慌てなくてもサツマイモは逃げないからねぇ」
「だって早く食べたいじゃない? それに、こんな寒空の下で食べる温かい焼き芋……うーん、想像しただけでお腹が減るわー」
「そうだねぇ……きっと、美味しいだろうねぇ」
と言いつつも動きを遅くする風。彼女の行動が早すぎて塵取り役の楓が袋に入れるよりも早く溜まっていくので処理が追い付いて居なかったのだ。そんな姿を見た風は反省し、雑談を挟みつつゆっくりと落ち葉を集めていく。
対する友奈達は、逆に友奈が色々な落ち葉に目移りしてしまいペースが自然と遅くなっていた。
「友奈ちゃん。落ち葉を見るのもいいけれど、あんまり遅くなると焼き芋、食べられなくなっちゃうわよ?」
「えっ!? うぅ、落ち葉も見たいけど焼き芋も食べたい……我慢します……」
(もう5、6枚は取ってるハズだけど、まだ足りないのね……しょんぼりする友奈ちゃんも可愛いけれど)
しょんぼりとする友奈を見て頬に手を当ててうっとりとする美森。それも一瞬で隠し、ペースを上げた友奈に合わせてせっせと落ち葉を袋に詰め込んでいく。
そんなこんなで日が半分も沈んだ頃、ようやく依頼を終えて神社近くのベンチに向かう4人。風と友奈が座り、その前に楓と美森が向かい合うように車椅子を止める。その手にはアルミホイルに巻かれたホクホクの焼き芋があり、楓以外の3人はビニール袋いっぱいのサツマイモも貰っていた。
「はむ……あっふ、はふっ……ふーん、ほふほふ♪」
「あひゅ、はふ……おいふぃ~♪」
「風先輩はなんて?」
「熱っつ、熱っ……うーん、ホクホク。だってさ」
半分に割った焼き芋の黄金色の断面に目を奪われた後、辛抱たまらんとかぶり付く風と友奈。アルミホイルに包まれていただけあってまだ熱々なそれを口の中で弄び、空気を入れて冷ましつつ食べ、2人は満足げに笑顔を浮かべる。
そんな2人を見た後に美森は自分の焼き芋を2つに割り、片方を楓に手渡す。楓の分は樹への土産とし、あまり多く食べる方ではない美森の分を分けて食べることにしていたのだ。
「ふー……ふー……あむ。はふ……焼いただけなのに、本当に美味しいわ」
「おお……東郷さん、上品だ」
「くっ、中々の女子力……これは手強いライバルね」
「食べ方に関しては姉さんの大敗だと思うけどねぇ」
「楓ぇ!? 最近あたしにキツくない!?」
「やだなぁ姉さん。冗談混じりの本音だよ」
「そう、なら安心……本音って言った? ねぇ、今本音って言わなかった?」
「甘くて美味しいねぇ、この焼き芋」
「聞けぇ!!」
湯気が昇る焼き芋に息を吹き掛けて冷ました後、小口でかぶり付く美森。口を手で隠しつつ熱を逃がすように口を動かした後に飲み込み、感想を述べる。そんな彼女に友奈は感嘆の息を漏らし、風は少し悔しげにしつつ不敵な笑みを浮かべた。
そんな姉に、楓はざっくりといい放つ。勇者部として活動してから妙に切り込んでくる弟に、風はそれが弟なりの甘え方であると理解しつつもついつい涙目になる。同時にからかわれていることに気付き、己を無視して焼き芋を食べる楓の首に手を回してじゃれる。勿論、力はそれほど入れてない。
友奈は相変わらず仲が良いなーと少し羨ましげに笑い、美森も同じように笑う。苦しい苦しいと言いつつも楽しげな彼の笑みを見ていると、美森は胸の奥が温かくなることを自覚する。
(それにしても……楓君、暑くないのかしら?)
ふと、そんな疑問を持った。秋に入って落ち葉も大量にある時期だ、外は寒いので皆厚着であるし……と言っても制服の上に学校から支給される上着を着ているだけだが……動いた後の上に焼き芋を食べて温まっている。同じような風に密着されていれば、流石に暑がりそうなモノだが。
それに、と美森は思う。先程も彼が焼き芋を食べる所を見ていたが、息を吹き掛けたりすることなくかぶり付き、口から熱を逃がすことなくそのまま咀嚼して飲み込んでいた。元は自分と同じモノだったのだから、楓の分だけ特別冷えていたということもない。
(……単に、暑さに強いだけかしらね)
よくよく考えてみればそこまで気にするようなことでもない、と美森は結論付けた。そういう体質の人間だっているだろうと。
この後も4人はしばらく焼き芋に舌鼓を打ち、満足げにそれぞれの帰路についた。
更に時は流れ、冬。もっとはっきりと言うならクリスマスイブの夜。部活もなく、勇者部の面々は犬吠埼家へと集まり、勇者部With樹でクリスマスパーティーを開いていた。料理は勿論風作であり、デザートには友奈が母親から持たされたというクリスマスケーキ。更には東郷が持参したぼた餅もある。
「もうクリスマスか……いやー、時間が流れるのは早いわねー」
「お姉ちゃん……それ、おばさん臭いよ」
「ごふっ」
「わー!? 風先輩が血を吐いた!? 大丈夫ですか先輩!?」
「大丈夫だよ友奈ちゃん。ただの赤みが強い野菜ジュースだからねぇ」
「もう、楓君も心配する素振りくらい見せたら?」
野菜ジュースを飲んだ後に風がしみじみと笑いながら言うと樹が苦笑い気味に呟き、それを聞いてしまった風が血を吐くようにジュースを吹き出す。それを血を吐いたと勘違いした友奈が慌てるものの、楓が骨付き鳥に手を伸ばしつつ笑いながらそう言い、美森はそんな楓に苦笑いを溢す。
樹が慌ててタオルでヨロヨロとしている風の口元を拭き、友奈が風の背中を擦り、美森は取り敢えず風の近くの皿を退かし、楓は散乱したジュースを布巾で拭いていく。そんなことをしながら、楓は今日までのことを思い返していた。
4月に入学したと思えばもうすぐ年末。勇者部の活動は楽しく、“お役目”を抜きにしても友奈と美森ともより絆を紡ぐことが出来た。仮にこのまま勇者に選ばれずとも、中学校に通う3年間は楽しいモノになるだろう。
春には花見をして、夏にはお祭りに行った。その際には美森が凄まじい射撃の腕を射的で見せ付け、風と友奈は屋台の食べ物を両手に持ち、楓はヨーヨー釣りであっさりと人数分釣り上げ、一緒に来ていた樹はヒヨコや金魚に目を奪われていた。
秋には落ち葉掃除の依頼の他にも紅葉狩り等のイベントや果物の収穫等もお手伝いし、食欲の秋だと風が全力で料理や果物を使ったデザートを家族にも部員にも振る舞った。樹が体重計を見て泣いていたのを、楓は知っている。
無論、学校でもイベントや依頼は多くあった。体育祭に学園祭を初めとした学校の行事があれば、運動部の試合のチアリーダーを依頼されたり、料理部に味見役を依頼されたり、新聞部に記事にされたりと色々あった。
(本当に……楽しかったねぇ……自分達は)
目の前の4人を朗らかに笑いながら見詰める裏で、楓は一年以上会えていない園子と銀を想う。自分達は楽しかった。だが、彼女達はどうだろうか。
満開の影響で動かない体。園子は趣味である小説を書けないだろうし、銀は小さな弟の世話も出来ないだろう。好きなことが出来ない。大好きな家族と触れ合えない。そんな彼女達に、“楽しい”と思えることが何かあるのか。
(考えたところで、どうしようもないけど、ねぇ……)
ただ、申し訳ないと思うのだ。こうして己が楽しい思いをしていることが。もし、彼女達もこの場に居たなら、もっと楽しかったに違いないとも思うのだ。もしくは……彼女達ではなく、己こそがその立場に居たのなら、と。
「楓くん」
「うん? なんだい? 友奈ちゃん」
「えっとね……楓くん、なんだか楽しくなさそうだったから」
そんなことを考えていると、友奈が小声でそう囁いてきた。これには流石に楓も驚きを隠せない。表面上は朗らかに笑っているハズだったのだから。現に、風と樹は気付いていない。美森は、小声で話す2人を見て疑問には思っているようだが。
「……そんなことないよ」
「そう?」
「うん。楽しいさ。ただ……」
「ただ……?」
「今は会えない友達がここに居たら……もっと楽しかっただろうってねぇ」
姉が居て、樹が居て、友奈が居て、美森が居る。そんな勇者部の中に園子と、銀が加わる。そして己は、その6人が楽しく笑い合う姿を見ているのだ。それはなんと美しく、幸せな光景だろうか。
そして、そうやって遠くから見ていると園子が引っ張りに来るのだ。風には“そんな遠くで何やってるの”とでも言われて、樹には車椅子を押されて、友奈からは手招きされて、美森にはくすくすと笑われ、銀にはからかうように笑われるのだ。
(……いつか、捧げた供物が戻ればいいんだけどねぇ)
そうすれば、いつか……その光景が見られるハズだから。楓はすっかり少なくなった料理に手を伸ばし、そう締め括った。
(えっと……私、もしかして聞いちゃいけないこと聞いちゃった!?)
友奈に、そんな勘違いを残して。
年も明け、2年だった風が3年に、1年だった3人が2年に。そして、小学生だった樹が讃州中学校へと入学して勇者部に入ってしばらく経った4月下旬、5人となった勇者部に依頼が入った。内容は、とある幼稚園で何か出し物をして欲しいというもの。
何をするかと話し合った結果、勇者と魔王が出る人形劇に決定。ストーリーと舞台は風が作り、音楽の担当を樹、ナレーションを美森、魔王を楓が。そして、友奈は勇者である。
「ふっふっふ……元気なちびっこ達め。今から楽しい人形劇の世界へと引きずり込んでくれるわ」
「言ってることが悪役っぽいよお姉ちゃん……」
「自分より魔王やってるねぇ。今からでも代わるかい?」
「出来るか! セリフ覚えてないわよ!」
「風先輩、ストーリーと舞台で手一杯でしたからね」
幼稚園の教室の外でスタンバイしている6人が最後の打ち合わせを行う最中、風が悪どい笑みを浮かべて手をわきわきと動かしながら呟く。そんな姉に妹と弟が絡み、美森は風の働きを思い返してうんうんと頷く。
「あ~、緊張してきちゃった。ちゃんとやれるかな~」
「友奈ちゃんも緊張するんだねぇ。大丈夫、あんなに練習したじゃないか」
「私だって緊張するよ? でも、やっぱり心配だよー……」
「うーん……よし。友奈ちゃん、ちょっと左手出してくれないかい?」
「? ……あっ」
緊張するという友奈に楓がそう言うと、彼女は素直に左手を出す。すると楓は、その手を握ると自分の額にまで持ってくる。
「大丈夫。友奈ちゃんは頑張ってきたんだから……何かあったら自分達もフォローするし、自分が失敗したらフォローしてほしい」
「楓くん……」
「頑張れ、勇者。自分達も一緒に頑張るからねぇ」
「……うん!」
「…………」
「お姉ちゃん……東郷先輩が満ち足りた表情でお兄ちゃん達をスマホで激写してるよ……」
「あー……東郷は友奈と楓が大好きだからね……」
そんな、人形劇前の一幕であった。
原作との相違点
・樹が勇者部入部前に勇者のお役目を教えられる。
・人形劇の魔王役が楓に
・その他色々
という訳で、樹がお役目の内容を知るのとなんか食ってばっかなお話でした。これにて原作前話は終わりです。その記念に、おまけとしてゆゆゆ風の楓のプロフを載っけときます。
名前:犬吠埼 楓
肩書き:勇者
性別:男性
年齢/学年:13歳/中学2年生
誕生日:神世紀286年6月8日
身長:162cm
血液型:A型
出身地:香川県
趣味:のんびりすること
好きな食べ物:うどん、焼きそば、ぼた餅
声優:?
声優には好きな人を入れといて下さい←
あらすじの“暗い勘違い”が仕事をした。多分最初で最後です。次回から原作に入ります。大筋は変わらず、勇者達の心情心境はかなり変わってます。書ききるぞー。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)