咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

予告通り、今回から原作に入っていきます。それと、前回投稿後直ぐに誤字脱字報告を下さった方々、ありがとうございます! 見直してるのになぁ……。

UAがいつの間にか40000を越えてました。皆様ありがとうございます!

ちととあるアプリのガチャで盛大に爆死して傷心中。辛い……

今回は日常とその終わり。少々物足りないかもしれません。


結城 友奈は勇者である ー 3 ー

 昔々、ある所に勇者が居ました。勇者は人々に嫌がらせを続ける魔王を説得する為に旅を続けています。

 

 そしてついに勇者は、魔王の城に辿り着きました。

 

 「やっとここまで辿り着いたぞ魔王! もう悪いことはやめるんだ!」

 

 「わしを怖がって悪者扱いを始めたのは村人達のほうではないか」

 

 「だからと言って嫌がらせはよくない。話し合えばわかるよ!」

 

 「話し合えば、また悪者にされる!」

 

 友奈の勇者と楓の魔王の台詞にも熱が入り、見ている園児達も劇に集中する。そして、友奈が次の台詞を言う時、ついつい前のめりになってしまった時だった。

 

 「君を悪者になんか……しない!!」

 

 (あっ、まず)

 

 楓がそう内心で呟いた瞬間、役者を隠すのと同時に舞台の役割を果たしていた板に友奈の手が当たってしまい、バターン! と大きな音を立てて倒れてしまった。幸いにも園児達から距離が離れていたので当たることはなかったが、人形劇なのに役者が姿を現してしまうという珍事が起きてしまう。

 

 (か、かかか楓君、どうしよう!?)

 

 (うーん、台詞を忘れたりするならまだしも、舞台を倒すのは予想外だねぇ……園児に当たらなかったのは不幸中の幸いか)

 

 あわあわと慌てる友奈と小声で会話をしつつ、どうしたものかと楓が苦笑いしながら小声で返す。フォローすると言った手前、なんとかしたいと思うものの咄嗟には思いつかない。

 

 しゃがんでいる友奈と車椅子では隠れられないので降りて足を伸ばして座っている楓。この状況でこのハプニングを乗り越えるにはどうするべきか。

 

 (こ、こうなったら必殺の勇者キックを……で、でも楓くんが怪我しちゃうかもしれないし……)

 

 友奈の思考がやや危険な方に向かってブレーキが掛かっている時、友奈は楓が苦笑いしてごめん、と口だけを動かしているのを見た。

 

 「隙を見せたな勇者め! 魔王キーック!」

 

 「「ええっ!?」」

 

 唐突に、楓が人形を突き上げて勇者の人形に攻撃した。まさかの展開に友奈とストーリーを書いた風が驚きの声を上げる。

 

 「もうお前の言葉は聞かないぞ! 話し合いをしたければ、まずはわしを倒してみせろ!」

 

 ここで楓が音楽担当の樹とナレーション担当の美森にアイコンタクトを送る。きょとんとしていた美森と急展開に驚いていた樹だったが、アイコンタクトを受けてコクリと頷く。

 

 話し合いの途中だったのでゆったりとした音楽が流れていたが、それが魔王のテーマに変わる。不意打ちを受け、更にテーマ曲。まさに勇者は絶体絶命となり、園児達もハラハラとしている。因みに、この物語は元々は勇者と魔王が話し合いの末に和解する平和なストーリーである。

 

 「たいへん! このままでは勇者が負けちゃうわ。皆で勇者を応援して力を送りましょう! がーんばれ! がーんばれ!」

 

 【がーんばれ! がーんばれ!】

 

 小さな日本国旗を持った美森が園児達にそう言うと、元気良く園児達が声援を送る。中にはハラハラとした表情の子、楽しそうな子、なぜか泣きそうになっている子等様々な子がいる。

 

 (ほら、友奈ちゃん)

 

 「あっ! こ、子供達の応援が力をくれる! 行くぞ魔王! 勇者パーンチ!」

 

 「ぐわああああ!」

 

 「こうして勇者に倒された魔王は勇者との話し合いの末に和解し、祖国は守られました。めでたしめでたし」

 

 「皆のおかげだよ!」

 

 【ばんざーい!】

 

 勇者人形のパンチを受け、楓ごと倒れる魔王人形。すかさず美森が話を締め括り、園児達は無邪気に万歳と手を上げる。こうして人形劇は少々のハプニングに見舞われながらも、無事に終えることが出来たのであった。

 

 讃州中学勇者部。本日も元気に活動中である。

 

 

 

 

 

 

 翌日、全ての授業を終えてこの世界特有の作法である“起立、礼、神樹様に拝”を終えた後、2年生の3人はクラスから出て勇者部の部室へと向かう。1年の時は別々のクラスだった楓と友奈、美森は2年に上がったことで同じクラスとなっていた。

 

 教室でクラスメートに、道中で別のクラスの生徒に助っ人のお願いや勇者部に対する応援の声等を貰いつつ、友奈は東郷の車椅子を押して部室に入り、その後ろを電動車椅子を操作する楓が続く。

 

 「こんにちはー! 友奈、東郷、楓くん入りまーす!」

 

 「こんにちは、風先輩。樹ちゃん」

 

 「こんにちは、姉さんに樹」

 

 「やっと来たわね3人共」

 

 「こんにちは、友奈さん、東郷先輩、お兄ちゃん」

 

 部室の中には既に風と樹が居た。風は黒板に猫の写真を幾つか貼って“子猫の飼い主探し”とチョークで書き、樹は机の上にタロットカードを広げていた。

 

 「昨日の人形劇、大成功でしたね!」

 

 「そうだねぇ。それに楽しかったしねぇ」

 

 「いや、結構ギリギリだったでしょ……確かに2人のアドリブでどうにかなったけどね」

 

 「友奈ちゃんと楓君のアドリブ、よかったわー」

 

 (東郷先輩がこっそりとスマホでお兄ちゃん達を撮影していたのを、私だけが知っています……)

 

 昨日のことを思い出して笑顔を浮かべる友奈と楓にツッコミを入れる風、同じように思い出してうっとりとする美森に、そんな彼女の行動を唯一知りつつ心の内に秘めて苦笑いする樹。

 

 人形劇の感想もそこそこに、5人は部長である風のミーティングをするとの発言を受けて黒板前に集合する。黒板に貼ってある猫の写真に友奈が目を奪われるが、風の咳払いを受けて佇まいを直す。

 

 「見ての通り、未解決の飼い主探しの依頼がどっさり来てるわ」

 

 「本当にいっぱい来たね……」

 

 「ということで、今日からは強化月間。この子達の為にも飼い主探すわよ! 東郷にはホームページの強化、任せたわ」

 

 「了解! 携帯からもアクセス出来るようにモバイル版も作ります」

 

 「私達は……海岸のお掃除に行くから、そこで聞いてみよっか!」

 

 「いいですね!」

 

 「自分も老人会でお相手するから、そこで聞いてみようかねぇ」

 

 自分達で出来ることをしよう。そんな会話をする部員の姿に、部長である風の表情も緩む。そんな4人の裏で、東郷がカタカタと高速でキーボードを叩く音が響く。相変わらず速いなーと風が美森の方へと視線を移した時だった。

 

 「終わりました!」

 

 「「「速っ!?」」」

 

 「おお、流石美森ちゃん。速い上に見やすいねぇ」

 

 「ふふ、頑張ったわ」

 

 風が彼女に指示を出して数分足らずでホームページの強化とモバイル版の作成を終えたという美森。話し合ってた女子3人はあまりの速さに驚愕し、彼女の隣に移動して中身を見た楓はいつもの朗らかな笑みを浮かべて褒め、美森も嬉しそうに笑う。

 

 3人もホームページを覗き込み、その完成度の高さに思わず絶句。これには高かったやる気が更に上がる、ということでそれぞれ活動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 活動も一段落終えた夕方、5人は“かめや”といううどん屋で仲良く少し早めの夕食としてうどんを口にしていた。それぞれ思い思いのうどんを食べる中、風は3杯目となるうどんを食べ終え、汁を飲み干す。その光景は弟と妹には慣れたものだが、まだ少し慣れないのかあまりの速度に友奈と美森は驚きを隠せない。

 

 因みに、席順は4人用テーブルの椅子を1つ取り、それぞれ壁際に美森、隣に友奈。美森の向かいに樹、隣に風。美森と樹の斜め向かいの壁際に楓が居る。友奈と楓に挟まれ、美森はご満悦でうどんを啜る。

 

 「ところでさ、文化祭の出し物のことなんだけど」

 

 そう風が話し始めると樹がまだ5月にも入っていないのにもうそんな話をするのかと疑問を投げ掛ける。そんな妹に、風は準備は大事であり、夏休みに入る前には色々と決めておきたいと告げる。

 

 「確かに、常に有事に備えることは大切です」

 

 「去年は勇者部の依頼に掛かりきりで何も出来なかったからねぇ……」

 

 「樹ちゃんも入ってくれましたし、今年こそは思い出に残ることやりたいですね!」

 

 「が、頑張ります。でも、何をするんですか? 私達勇者部の活動をスライドで写したり……?」

 

 「甘いったぁっ!」

 

 「妹のあぶらげ取らないの。お行儀悪いよ、姉さん」

 

 風の言に同意する美森。その隣で去年のことを思い出しながら楓は冷やし天玉うどんを啜り、樹を見ながら笑って言う友奈とふんすっと両手を握ってやる気を見せる樹。そんな彼女の思い付きを一蹴しつつ樹のうどんに浮く大きな油揚げを盗ろうとする風だったが、楓の割り箸に手の甲を叩かれて敢えなく失敗する。

 

 「娯楽性の無いものに大衆はなびかないですからね」

 

 「それに、勇者部の活動は割と知られてるからねぇ……新聞部の記事とかで。外でも良く活動するし」

 

 「あたた……ま、これは宿題ね。皆それぞれ考えといて。あっすみませーん! うどんおかわり!」

 

 「4杯目!?」

 

 「すみません、自分もおかわり下さい」

 

 「いつの間にか楓くんの前に空の器が4つも!? え、今食べてたの5杯目!? まだ食べるの!?」

 

 「凄いわ、全く気付かなかった……」

 

 そんなうどん屋での一時を過ごした後、5人はそれぞれの帰路に着く。かめやは家から距離があるので美森は家族に車で迎えに来てもらい、お隣さんである友奈も一緒に乗せてもらう。犬吠埼姉弟も家から少し距離があるが、車椅子の楓が居るのでそのまま徒歩での帰宅である。そのことに申し訳なく思う楓だったが、姉妹は笑って気にしないでと言うので言葉に甘える形になっている。

 

 樹が車椅子を押し、3人仲良く並んで帰る。家まで後半分程の距離となった時、不意に風が口を開く。

 

 「2人共……夕飯何作ろっか」

 

 「まだ食べるの!?」

 

 「そうだねぇ……肉ぶっかけうどんでも……」

 

 「いいわねー」

 

 「あれだけうどん食べたのに!?」

 

 樹のツッコミが冴える中、風のスマホにメールの着信が入る。2人に断りを入れてから内容を確認すると、そこには風の勇者候補のグループのメンバー全員が高い適正値で安定しているという報告。そして……神託で予告されていたバーテックスが再び現れるようになる期間内であるという注意。

 

 適正値が高いことなど最初から分かっている。だが、改めて文字に起こされるとやはり……という思いが湧き、まだ何も知らない友奈と美森を思ってか風の表情が歪む。そんな彼女の表情を見ていた弟と妹もまた、表情が曇った。

 

 「大赦からかい?」

 

 「……ええ。適正値の報告と……敵がやってくる期間内だって、ね」

 

 「そっか……覚悟、しておかないとねぇ」

 

 「……樹」

 

 「着いていくよ」

 

 風が何かを言う前に、先んじて樹がはっきりと告げる。その事に面食らう風だったが、彼女の表情を見て何も言えなくなる。樹は微笑んでいた。姉弟共通のその綺麗な緑色の瞳に、強い決意の光を宿して。

 

 「着いていく。お兄ちゃんだけでも、お姉ちゃんだけでも嫌だから。家族3人で居たいから」

 

 「……妹が強くなって、お姉ちゃん嬉しいわー」

 

 「流石、自分達の自慢の妹……だねぇ」

 

 「えへへ……♪」

 

 目尻に滲んだ涙を拭い、樹を抱き締める風と褒める楓。大好きな姉と兄に抱き締められ、褒められて嬉しそうに笑う樹。夕焼けに照らされながら繰り広げられる家族愛は、良く映えた。

 

 道中、勇者部に入部する際にダウンロードするように言っていたSNSアプリ“NARUKO”に友奈から面白画像が届く。そのNARUKOでのんびりと5人でメッセージのやりとりをしながら、風は茜空を見上げながら思う。

 

 (もしかしたら選ばれない……ってことも有り得る……わよね)

 

 それが、限り無く低い可能性であると知りつつ。

 

 

 

 

 

 

 翌日の授業中、友奈は風から言われていた宿題……文化祭の出し物について考えていた。勇者部らしい、それでいて勇者部も見てくれる人達も楽しめる出し物。カリカリと猫の頭にカレーを乗っけてどこぞのアンパンよろしく“僕を食え!”と叫ぶカレー猫なる謎のキャラクターを描き、思い付かず溜め息を吐く。因みに友奈の後ろには楓が、その右隣に美森という席順である。

 

 「友奈ちゃん……溜め息ついてどうかしたかい?」

 

 「えっ? あ、あはは、なんでもない」

 

 「結城さーん? 何でもないなくないですよー」

 

 楓に聞かれ、思わず素の声で答えてしまい、友奈は先生から注意されて教科書を読むように言われてしまう。しょんぼりとしながら立ち上がる友奈に苦笑を隠せない楓と美森。その時、楓がピクッと何かに反応し、苦笑いを消して真剣な表情を浮かべ、一言呟く。

 

 

 

 「……来る」

 

 

 

 そんな楓を横目で確認した美森が疑問符を浮かべた瞬間、不意に教室にアラームが鳴り響いた。それは友奈、美森、楓のカバンの中にあるスマホから鳴っていた。

 

 「えっ、私の!?」

 

 「携帯ですか? 授業中は電源を切っておきなさい」

 

 「はい、すみません。今止め……ってなにこれ?」

 

 クラスの皆からくすくすと笑われる中で“電源切ったのになー”と思いながらスマホを取り出す友奈。だが、画面を見て動きが止まる。“樹海化警報”……そうスマホに表示されているのを友奈が確認した瞬間、突然教室内に響いていた笑い声が止まる。

 

 「えっ!?」

 

 「なっ……皆、止まってる……!?」

 

 友奈と美森が驚いて周りを見回すと、2人と楓を除いた全員が笑ったままの表情と体勢でその動きを止めていた。壁に掛けられている時計の針も止まり、窓の外の雲すらも止まっている。明らかな異常現象に恐怖を覚え、立ち上がった友奈は美森の元に行って車椅子をいつでも押せるようにする。

 

 同じ頃、樹は教室を飛び出して風の教室へと向かっていた。時間が止まることを聞いていた彼女は、予め風と合流すると決めていたのだ。途中、同じように合流しようとしていた風と会い、お互いに無事を確かめ合う。

 

 「お姉ちゃん……これが?」

 

 「ええ……やっぱり、あたし達が当たりだったわ……樹」

 

 「……うん」

 

 「あんたも楓も……あたしが守るから」

 

 「私も、一緒に頑張るね」

 

 風は樹を強く抱き締め、誓いを口にする。樹もまた風を抱き返し、同じく誓いを口にする。今度は弟(兄)を1人で行かせはしない。今度こそ家族、姉弟3人で。そう強く思う。

 

 窓の向こうから極彩色の光が津波のごとく迫る。その常軌を逸している光景に、少女達は身構える。そんな時、美森と友奈が楓に向かって手を伸ばす。

 

 「楓くん!!」

 

 「楓君っ!!」

 

 必死な2人に対して、楓は朗らかに笑う。伸ばした手は……彼には届かない。掴むべき腕が無い。そんなことすらも忘れて、手を伸ばした後にそのことに気付いて唖然とする友奈と……己でも理解出来ない程に、彼女以上に心と表情が絶望に染まる美森。

 

 そんな勇者部5人と世界を、光が呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 「……何、これ」

 

 美森と抱き合う友奈の口から、そんな言葉が漏れる。彼女達の眼前に広がるのは、太い木に埋め尽くされた、毒々しいとも神々しいとも取れる色鮮やかな不思議な世界だった。

 

 「夢? 私居眠り中?」

 

 「……私達は教室に居たハズなのに……あ……か、楓君! 楓君は!?」

 

 「大丈夫、ここにいるよ」

 

 「楓君! よかった……よかったぁ……」

 

 「心配してくれてありがとねぇ」

 

 突然の出来事に自分は今眠っているのではないかと頬をつねる友奈とさっきまでの自分達の状況を思い返す美森。そして先程手を伸ばして掴めなかった楓を慌てて探すと、幸いにも教室に居た時と同じ距離に彼は居た。今度こそ近付いて両手で包むように彼の左手を握り、安心して涙目になる美森とホッと胸を撫で下ろす友奈。そんな2人に、楓は嬉しそうに礼を言った。

 

 「3人共! 無事ね!?」

 

 「良かった、直ぐに会えました……」

 

 「風先輩! 樹ちゃん!」

 

 「姉さん達も無事だったみたいだねぇ」

 

 「よかった……でも、私達の居場所がよく分かりましたね」

 

 「あんた達が携帯を持っててくれたからね」

 

 「……携帯?」

 

 風の言葉に、友奈は不思議そうに首を傾げる。アラームが鳴った時、3人はカバンからスマホを取り出して画面を確認していた。そのスマホには勇者部に入った時にダウンロードするように言われたアプリが存在する。

 

 風が全員の目の前でそのアプリを操作すると、5人の現在地を記す画面が出た。風曰く、この機能は今の状況に陥った場合に自動で作動するという。当然のように語る風に、美森は疑問を覚えた。

 

 「……風先輩は、何か知っているんですか? それに、ここはどこですか?」

 

 「……落ち着いて聞いてね、2人共。あたしは、大赦から派遣された人間なんだ」

 

 風は語る。まず、自分達のグループが当たりでなければずっと黙っているつもりであったこと。今いるこの世界は神樹様の結界であること。悪い場所ではないが、神樹様に()()()()自分達はこの中で敵と戦わなければならないこと。そしてこの世界には今、自分達以外に誰も存在していないこと。

 

 「樹ちゃんと楓くんは知ってたの?」

 

 「……はい。私は、聞かされていました」

 

 「自分も、実は姉さん側でねぇ。理由は姉さんとはちょっと違うけど」

 

 「……私と友奈ちゃんだけ、知らなかったんですね」

 

 「……ごめん。楓は教えようとしてたけど、あたしがギリギリまで黙っていようって言ったのよ」

 

 友奈に聞かれた樹が申し訳なさそうに俯き、楓も苦笑いを溢す。自分と友奈だけが知らされていなかったことにショックを覚えつつも、美森は楓の手を離そうとはしない。そんな彼女に、風は楓を庇うように言うが、楓は“自分も同罪だよ”と首を振った。そんな中、友奈がスマホの画面を指差す。

 

 「あの……この“乙女座”ってなんですか?」

 

 「……来たわね。見て、あれが私達の敵……バーテックスよ」

 

 風が指差す方向の木々の向こうに、ピンク色の体をした巨大な影が見えた。ヴァルゴ・バーテックス。それが、勇者部最初の敵であった。

 

 続けて風は言う。バーテックスの目的はこの世界の恵みである神樹様に辿り着き、世界を殺すことであると。そして自分達はその敵と戦う意思を示すことでアプリの機能がアンロックされ、神樹様の“勇者”となれるのだと。

 

 「あんなのと、戦える訳が……」

 

 声を震わせながら美森が呟く。だがこの時、美森は恐怖の他にも自分の中にある感情が沸き上がるのを感じた。思わず胸に手を当て、服を強く掴む。

 

 (怖いのに……何故かしら。私はあの敵に……“怒り”を抱いてる?)

 

 「……友奈、東郷を連れて逃げて。ここはあたしと……」

 

 ちらりと、風は隣に立つ樹に視線を向ける。その視線を受け、樹はコクりと強く頷いた。それを見て、風も小さく笑い……2人揃って3人の前に立つ。

 

 「樹に、任せなさい」

 

 「は、はい! って東郷さんだけ? 楓くんはどうするんですか!?」

 

 「自分なら大丈夫だよ、友奈ちゃん」

 

 「えっ?」

 

 楓は車椅子を操作して姉妹の隣に並び、左足だけで立ち上がる。3人はスマホを手にし、画面の中心にある花が描かれたアプリに指を伸ばす。そして、楓だけは友奈と美森に首だけ振り返り……いつものように朗らかに笑った。

 

 

 

 「自分、これでも元勇者だからねぇ」

 

 

 

 同時にタップし、そこから花びらと共に光が溢れて3人の衣装が変わる。風は黄色い髪が金髪へと変化し、黄色を基調とした勇者服に、樹は黄緑を基調とした勇者服に。そして……楓は、黄色い髪が真っ白に染まって膝裏まで長くなり、白を基調とした勇者服に。

 

 そして、3人は人間を越えた跳躍力で敵に向かって跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 「……真っ白な……男の子」

 

 楓君が変身した姿を見て、私は思わずそう呟いた。何度も彼を見る度に脳裏に過った真っ白な男の子。その男の子より背は高くなっていたけれど、確かにあの姿は……。

 

 「楓君が……あの男の子だったのね」

 

 「楓君が真っ白になっちゃった……って東郷さん? どうしたの?」

 

 友奈ちゃんが何か言っているけれど、私は彼の姿に集中していてよく聞こえてなかった。

 

 胸に感じるのは懐かしさと、嬉しさ。探していたモノがやっと見つかったような、無くしていたモノが目の前に現れたような。でも、やっぱり記憶には無くて。そんな感情と感覚だけが、私を満たしていく。

 

 「っ、風先輩! 樹ちゃん!」

 

 「あ……っ!」

 

 風先輩がどこからともなく大きな剣を取り出して、バーテックスとか言う敵が出した何かを切り裂くと爆発を引き起こした。樹ちゃんの方は何をしたのかよくわからなかったけれど、彼女の周囲で幾つもの爆発が起きた。

 

 楓君はどこだろうか……そう思って探すと、敵の体から出てきた何かが私達に向かって飛んできているのが見えた。

 

 「東郷さんっ!」

 

 「友奈ちゃん!?」

 

 友奈ちゃんが私を庇うようにして抱き締めてきた。迫ってくる何かが、妙に遅く感じる。これが走馬灯というモノだろうか……そう思った時、その飛んできていた何かを真っ白な沢山の光が貫き、爆発する。

 

 「「きゃあっ!」」

 

 爆風に煽られ、目を開けて居られず思わず悲鳴をあげてしまう。やっと目を開けられるようになった時、高い位置に存在する木の上に、左手から妙に既視感を覚える光の弓を出している楓君の姿が見えた。彼に守られた。彼が守ってくれた。そのことに、不思議と心から喜んでいる私が居て。

 

 同時に何故か……それだけでは嫌だと心で叫んでいる私が居たんだ。




原作との相違点

・勇者キックではなく魔王キック←

・友奈の後ろの席に楓

・東郷がヴァルゴにお怒り

・その他ちょっと多過ぎて……



という訳で、原作1話の半分くらいですかね。中途半端な所で終わってますが、全部書くと長引きそうなんで戦闘は次回です。隊長戦闘書くの大好き←

実のところ、初戦は割と原作よりもイージー難易度予定です。勇者レベル高い楓居ますしね。ヴァルゴさんがまた犠牲になるのか……。

50000か55555UAのどちらかになったら、また記念番外編でも書きましょうかね。リクエストから選んで……ほのぼのか鬱かやべーのしかないって言うね。皆様、本作と私に何を求めてるんですか(震え声

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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