咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

やっぱり戦闘書くのは楽しいですね。お陰で筆が乗り、文字数が一万越えました←

ゆゆゆい、ランキングイベント来ましたね。回復キャラ少ないので超級で中々星3取れません。

今回は前回の続きで戦闘と少しの説明回。ちょいとご都合というか、ん? となるかもしれません。


結城 友奈は勇者である ー 4 ー

 「へ、変身した……は、いいけどどうしたらいいの!?」

 

 「戦う意思を示せば、武器が出るわ! 戦い方はアプリに書いてあるっていうか樹! 前! 前!」

 

 「えっ? ふぎゃんっ!」

 

 少し離れたところで、樹が着地に失敗して顔から木に突っ込んでいるのが見えた。その際に精霊のバリアが発生したのも確認してる……あれ、致命的だったのか。流石に覚悟はしてても何の訓練も受けていない樹は勇者の身体能力に振り回されてるなぁ。

 

 「よっ……と」

 

 自分も失敗しないようにと、高い位置にある木の上に降りる。勇者として鍛えてきた訓練と戦いの経験のお陰か、片足しか動かない自分でも問題なく着地することが出来た。姉さん達はどうだ? と確認してみると、丁度樹に精霊の説明をしているところだった。姉さんのは青い、犬っぽい奴で……樹のは……なんだアレ。黄色い毛玉に双葉が生えてる。

 

 取り敢えず、2人は大丈夫そう……か? と思いつつ、バーテックスの姿を確認する。本来なら何かしらアドバイスを送るべきなのだが、生憎と自分はあのバーテックスは初見だ。何をしてくるのか分かったもんじゃない。強いて言うなら、あのマントのようなモノが攻撃手段……かねぇ。

 

 「さて……どうしたものか」

 

 前のようには動けない以上、自分がやれることは限られている。想像力次第で如何様にも化けるこの左手の水晶は距離を選ばない。そして、今必要であろう遠距離武器の想像は容易い。何せ、ずっと見てきたんだからねぇ。

 

 「シャー♪」

 

 「おっと……久しぶりだねぇ、夜刀神」

 

 水晶の窪みから光が溢れ、弓の形を……美森(すみ)ちゃんが使っていた弓を作り出す。形だけ、だけどねぇ。その直後、夜刀神が現れて自分の首に巻き付き、すりすりと頬擦りをしてきた。会うのは久しぶりだけど、まだ懐いてくれているようで嬉しくなり、同じく頬を擦り寄せる。

 

 そうしていると、バーテックスの下の部分から何か卵のようなモノが出て姉さん達に飛んでいった。姉さんが巨大な剣を取り出してそれを斬ると、それは爆発する……なるほど、爆弾って訳だ。

 

 樹も手を前に翳すと、細くて見えにくいが緑色の光の糸……ワイヤーが出て広範囲の爆弾を切り裂き、爆発させた。なるほど、樹の武器は自分も使ったことがあるワイヤーか。兄妹とはそんなところまで似ているのかねぇ……そんな感想を抱いていると、美森ちゃん達の方にも爆弾が飛んでいくのが見えた。

 

 「流石に、やらせる訳にはいかないねぇ」

 

 左手を伸ばし、弓を構える。これは自分の想像で生み出した勇者の光の弓。矢をつがえるのも、弦を引くのも、狙いを定めるのも、全て自分の意思1つで事足りる。

 

 「初陣だよ……“与一”」

 

 自分の言葉に反応してか、いつの間にか追加されていた人の形をした弓を携えた自分の新たな精霊、与一が現れる。そして、自分の目には放った矢が彼女達に届く前に爆弾を射抜く光の軌跡が映る。後は、それをなぞるように矢を射る意思を示せば……その軌跡の通りに矢が飛び、爆弾を射抜いた。爆風に煽られることになったのは、流石に許してほしいねぇ。

 

 2人が無事な姿を確認したのと同時に、バーテックスが自分に向かって爆弾を幾つか飛ばしてきた。直ぐにそちらへと体と左手を向け、矢を連続で放つ。それは爆弾を射抜いて爆発させたものの、爆煙のせいでバーテックスが見えなくなってしまった。

 

 「厄介な……っ」

 

 爆煙に対して舌打ちすると、それを突き抜けて爆弾が飛んで来た。また矢を放って空中で爆発させるが、そのせいでまた爆煙が出て視界を封じられる。しかも煙がさっきより近い。そして、直ぐにまた煙を突き抜けて爆弾が飛んで来た。

 

 「そんなに連射が効くのか!?」

 

 流石に迎撃が間に合わないので左足を曲げ、左方向へと跳ぶ。すると爆弾は途中で方向を変え、自分に向かってきた。追尾もするのか……本当に何でもありな敵だ。

 

 「このっ! ああっ!?」

 

 「お姉ちゃん!? きゃあっ!?」

 

 「っ、姉さん! 樹!」

 

 跳んでいる最中、姉さんと樹が爆弾を受けたところを見てしまった。精霊バリアの強固さと優秀さは自分も知るところではあるが、全ての衝撃を防ぎきれる訳ではないし痛みだって感じる。それに万が一ということもあり得る。姉さんの方は、剣を盾にしているように見えた。だが樹は直撃だ、その衝撃は大きいだろう。

 

 木の上で倒れ伏してる2人が見えた。その姿に怒りで頭が沸騰しそうになるが……ふうっ、と息を吐いて落ち着く。前のように戦えない、自分の動き1つ1つにも気を払わなければ直ぐに地面を転ぶ羽目になる。全く、やりにくいったらありゃしないが……それでも、自分は元勇者だ。

 

 「やり方を変えるか……」

 

 どうにも自分に遠距離武器は合わない。着地した後に弓を変化させ、ワイヤーよりも太い光の糸……鞭として伸ばす。満開をしたせいというべきかお陰というべきか、勇者の力が前よりも上がってる自分は以前よりもより多く光を扱える。伸ばした鞭を操り、爆弾を切り裂く……のではなく、絡めとる。

 

 振り回して遠心力を加え、バーテックスに向けて投げ返す。それが敵にぶつかって爆発して煙で姿が見えなくなったのを確認し、鞭を木に巻き付けてターザンの如く移動し、姉さん達の元に降り立つ。

 

 「無事かい? 2人共」

 

 「痛っ……なんとかね。精霊が居なかったらと思うとゾッとするわ」

 

 「わ、私も大丈夫~……」

 

 痛そうではあるが意識ははっきりしてるし、少なくとも立ち上がったことに安心する。それに、戦意を喪失している様子もない。結構タフだねぇ、2人共。

 

 さて、どうしたモノか。強引に近付いて攻撃するのも手だが、自分じゃ小回りが効かない。また弓で遠距離攻撃を仕掛けてもいいんだが……この初戦、あまり自分がでしゃばりたくはない。彼女達が戦うことになった以上、少しでも経験を積ませたいのが本音だ。

 

 勿論、いざという時は()()()()()()()()()()自分が倒すが……自分は1人で戦い抜ける程強くない。必ず彼女達の手を借りなければ、この先も勝つことは出来ないだろう。

 

 「まだ、やれるね?」

 

 「当然! 樹、行くわよ!」

 

 「う、うん! 頑張る!」

 

 自分の言葉に強く返事をして敵に向かっていく2人。少し遅れて自分も敵に向かって跳ぶ。敵に動きがないのが気になるが、そもそも未だに煙で姿が見えない。爆弾を返したのは失敗だったか……と少し後悔する。その直後だった。敵の煙が急に晴れ、大量の爆弾が自分達に向かって飛んで来たのは。

 

 「ちょ、多い多い!?」

 

 「樹! 自分と一緒にやるよ!」

 

 「うん! やああああっ!!」

 

 驚きつつも樹に声をかけ、2人で同時に手を伸ばす。樹の手のリングに付いている花から伸びる4本のワイヤーと自分の水晶の窪みから伸びる4本のワイヤーが爆弾目掛けて伸び、1つ残らず切り捨てる。当然爆弾は爆発し、その量もあってか強烈な爆風が自分達を吹き飛ばした。

 

 悲鳴も聞こえない程の爆音と共に爆風に飛ばされた自分は直ぐにワイヤーを鞭に変えて木に巻き付けることでそれほど飛ばされることはなかったが、2人はかなり飛んでった。ただ、勇者の身体能力に慣れ始めたのか叩き付けられるということはなかったようで、しっかりと着地を……失敗して姉妹仲良くコロコロと転がっているのを見た。まあバリアも発生してないし、背中から叩き付けられなかっただけマシか。

 

 (さて……姉さん達だけじゃ厳しいか?)

 

 大きな剣を使う姉さんは爆弾と相性が悪い。1個や2個ならなんとかなりそうだが、数が多いと迎撃が間に合わない。樹のワイヤーは爆弾を処理できても、それに掛かりきりでは本体に辿り着けない。避けようにも追尾してくるし、自分では美森ちゃんのように動きながら弓を射るなんて芸当は出来ない。

 

 どうしたものかと考えていると、敵の爆弾が美森ちゃん達に向かって飛んでいくのが見えた。やらせない、と着地して鞭を弓に変える……が、自分にも爆弾が飛んできているのが見えたので反射的に跳んで避けてしまう。避けながら戦っていた経験が、悪い方に作用してしまった。

 

 「友奈ちゃん、美森ちゃん!!」

 

 思わず叫ぶ。生身では精霊のバリアが発生するかもわからない。彼女達が死んでしまっては、自分がこうして帰って来た意味がない。だから、当たる可能性が低いと知りつつも空中で狙いを定め、射ち出す。与一の存在もあってか、無事に爆弾を射抜けたことに安堵し……。

 

 「っ!? しまっ」

 

 いつの間にか近くまで移動していたバーテックスに気付くのが遅れ、布のような、触手を1つに束ねたようなモノに周りも見えない程に雁字搦めにされた。

 

 

 

 

 

 

 「風先輩! 樹ちゃん!」

 

 「楓君!!」

 

 3人が戦ってるのを、私達は黙って見ていることしか出来なかった。風先輩に言われて逃げようって思った。だけど、楓くんに守ってもらって……その時の爆風のせいで、怖くて動けなくなって。

 

 風先輩と樹ちゃんが爆風で吹き飛ばされたのが見えた。楓くんが私達に向かってくる爆弾を撃ち落として……その後に大きなバーテックスっていう敵に捕まったのも、見えた。そして……敵が私達に向かってまた爆弾を飛ばしてくるのも……見えた。

 

 「っ、友奈ちゃん! 私を置いて逃げて!」

 

 東郷さんの必死な声が聞こえる。嫌だ、友達を置いていくなんてしたくない。でも、怖い。足も震えて、涙だって滲んできて。死んじゃうかもしれないって思った。だって私は勇者に憧れるだけの普通の女の子で……ただ、勇者部の皆と部活するのが楽しくて、そんな日々を過ごしたかっただけなのに、こんなことになって。

 

 「嫌だ」

 

 そうだよ……私は、私達はそんな日々を過ごしたいんだ。なのにあの敵は、それを壊しに来てる。風先輩達はそんな敵と戦ってるんだ。私達に内緒で、私達に逃げるように言って、たった3人で世界の為に。

 

 (それって……勇者部の活動目的通りだよね)

 

 皆の為になることを勇んで、進んでやる者達のクラブ。世界の為に戦うことは、私達の為に戦ってることは……何も、間違ってない!

 

 「だから……」

 

 「お願い逃げて! 友奈ちゃんが死んじゃう!」

 

 爆弾が飛んでくる。もしかしたら、本当に死んじゃうかもしれない。だけど……頭の中で楓くんの声が響くんだ。

 

 

 

 ー 何かあったら自分達もフォローするし、自分が失敗したらフォローしてほしい ー

 

 ー 頑張れ、勇者。自分達も一緒に頑張るからねぇ ー

 

 

 

 例え人形劇の中の話でも、楓くんは私を勇者だって言ってくれた。失敗したらフォローしてくれるって言ってくれて、実際にフォローしてくれた。だから、今度は私が助けるんだ。それに、私が憧れる勇者は……絶対、誰も見捨てたりなんかしないんだから。

 

 「友達を……仲間を見捨てるような奴は……」

 

 爆弾が迫る。もう後戻りは出来ない。私がやらやきゃ、私も東郷さんも死ぬ。させるもんか、やらせるもんか。絶対に、誰も……死なせるもんか!!

 

 

 

 「勇者じゃ……ない!!」

 

 

 

 右手に携帯を握り締めて、そう声に出しながら左拳を爆弾目掛けて突き出す。何かを殴った感触の後、また爆風と爆煙が私を覆う。だけど、痛みも熱さも感じない。

 

 「友奈ちゃん!!」

 

 「大丈夫だよ、東郷さん。それに私、嫌なんだ」

 

 いつの間にか、左手に桜色の手甲のようなのが付いている。それをはっきりと認識する間も無く、次の爆弾が飛んで来た。

 

 「誰かが傷付くことも!」

 

 さっきよりもはっきり見える爆弾に、右足の上段回し蹴りを叩き込んで破壊。すると、今度は左手が変わったように右足の靴が変わる。お父さんに武術を教えてもらってて良かったと思いつつ、また1つ迫る爆弾を確認する。

 

 「誰かが、辛い思いをすることも!!」

 

 回し蹴りの勢いをそのままにくるりと1回転し、次は左足での上段後ろ回し蹴り。同じように爆弾を破壊すると同時に、また靴が変わる。迫る爆弾は、後2つ。

 

 「皆がそんな思いをするくらいなら……私が、守る!」

 

 爆弾の1つを跳んで避けて最後の爆弾へと向かう。途中、手足だけじゃなくて全身が一瞬光に包まれて服装が変わる。チラッと見えた髪も、赤から桜色に変わってる気がした。ついでに、握っていた携帯もどこかに消えた。

 

 「私が……頑張る!!」

 

 最後の爆弾に右拳を叩き込み、突き破る。すると後ろで爆発して、その爆風に押されて大きな敵に突っ込む。狙いは、楓くんを捕まえたなんか長い部分。楓くんを、返してもらう!!

 

 

 

 「勇者……パァァァァンチッ!!」

 

 

 

 そう叫び、狙い通りに長い部分に右拳を突き出す。爆弾よりも硬い、それでいて柔らかい不思議な感触の後にそれを突き破り、更に勢いは止まることなく敵の大きな体、その後ろの……お尻みたいな部分に突き刺さり、それも突き破って着地し、振り返って敵を見上げる。

 

 まだ、怖いって思ってる。

 

 「勇者部の活動は、皆の為になることを勇んで、進んでやること」

 

 だけど、私は勇者部の活動が好きで。 勇者部の皆が、大好きで。

 

 「私は、讃州中学2年、勇者部所属……結城 友奈」

 

 だから私は。

 

 

 

 「私は……勇者になる!!」

 

 

 

 自分から進んで、勇者になったんだ。

 

 

 

 

 

 

 「友奈さん、凄いパンチ! カッコいいです!」

 

 「ありがとう樹ちゃん! 何だか漲ってきたよ!」

 

 友奈が敵の体の一部を破壊したお陰か敵の攻撃が止み、追い付いた樹が彼女を称賛する。それに友奈は返し、改めて拳を握り締める。変身前と比べれば明らかに漲っている力。そして勇者部の仲間達。これならあの大きな敵だって倒せる……と思ったところで、ふと友奈は思い出す。

 

 「あ……か、楓くんは!?」

 

 「あー、重かった……潰れて死ぬかと思ったよ」

 

 「えっ? って浮いてるー!?」

 

 敵に捕まった楓は大丈夫なのか? そう思って友奈が慌てると、その本人の声が何故か頭上から聞こえてきた。疑問に思いつつ友奈と樹、それから追い付いた風が見上げると、そこには鳥のような精霊と共に真っ白な光の翼を背中から生やした楓の姿があった。

 

 「え、浮いてる? じゃなくて飛んでる!? しかも翼まで生えてる!? なんで!?」

 

 「いやー、前に飛んだことがあるから出来ないかなーって思ったんだけどねぇ……出来ちゃった」

 

 「飛んだことあるの!? というか出来ちゃったの!?」

 

 「樹が居るとツッコミしなくていいから楽だわー」

 

 良く見ると左手の水晶の窪みから背中の翼に向けて光が伸びており、翼も光が胸を覆うように巻き付いて固定されている。楓は友奈に助けられた後にヴァルゴの触手を剣を出して切り裂いて中から出た後、どうにか機動力を得られないかと考えた。そして思い付いたのが、先の弓での攻撃である。

 

 弓で放った光の矢は操作できる。元は同じ光なのだから当然であるし、楓は満開時にも複数の水晶を同時に操作できる。そこで、光を操って空を飛ぶ、ないしは光に乗れないかと思い至った。満開時に飛んでいた経験もあるのでイメージすることは容易かった。別に光を巻き付けるだけでも良かったのだが、そこは想像力の問題である。因みに、精霊の名前は陰摩羅鬼(おんもらき)と言うらしい。

 

 「さて、驚いてばかりも居られないわ。敵を見て」

 

 「えっ? そんな、治ってる……!?」

 

 「バーテックスはダメージを与えても直ぐに治ってしまうの。“封印の儀式”っていうの特別な手順を踏まないと絶対に倒せないのよ。説明するから、攻撃を避けながら聞いてね!」

 

 「「は、はい!」」

 

 (そういえば、倒せるようになったんだっけねぇ……2年も経ってるだけあって、勇者システムも強化されたもんだ)

 

 自分達の頃と比べて随分と強化されたもんだと頷き、他の2人と同じく風に従ってバーテックスに向かって飛ぶ楓。満開時の飛行の感覚を思いだし、迫り来る爆弾は回避しながら通り過ぎ、すれ違い様に翼を当て、切り裂く。飛行手段にして攻撃手段、それがこの光の翼である。弱点として、光は1種類の武器の形にしか出来ないのだが。ワイヤーを複数同時に出せても、ワイヤーと鞭を同時には扱えないのだ。

 

 そうこうしている内に、接近した4人がヴァルゴを囲むようにそれぞれの位置に立つ。封印の儀式の手順の1つ目は、こうして対象を囲むこと。そして次は、敵を押さえ込む為の祝詞(のりと)を唱えるのだと言う。その内容はアプリに記載されており、確認した友奈はその内容にげんなりとする。

 

 「うわぁ……これ全部? えっと……かくりよのおおかみ、あわれみたまい」

 

 「めぐみたまい、さきみたま、くしみたま」

 

 「まもりたまい、さきはえ……」

 

 それぞれの精霊が頭上に現れ、友奈、樹、楓の順に唱えていく。もうそろそろ読み終わる、まさにその時。

 

 

 

 「大人しくしろこんにゃろぉぉぉぉっ!!」

 

 

 

 思いっきり大剣を振るい、祝詞? を叫ぶ風が居た。

 

 「「それでいいの!?」」

 

 「魂込めれば、言葉は問わないのよ!」

 

 「姉さん……それ、先に言ってくれないかい? そうでなくとももうすぐ読み終えたのに……」

 

 風の行動に友奈と樹が驚き、楓が呆れたように溜め息を吐く。もし右手があれば頭に手を当てていただろう。そんな4人の祝詞は無事効果を発揮したらしく、ヴァルゴの頭部らしき部分に描かれている模様の線に沿うようにパカッと開き、中から逆三角錐の大きなナニカが出てきた。

 

 かつて、“瀬戸大橋の合戦”の際に銀がレオの中に見たモノと同一のそれは“御霊(みたま)”と呼ばれ、それはバーテックスの心臓部であるという。それさえ破壊すれば、バーテックスを倒せるのだ。

 

 「なら、私が行きます! たああああ!! ……いったーい! 硬い! 滅茶苦茶硬いよこれ!?」

 

 それを風から聞いた友奈が飛び上がり、御霊を上から右手で殴り付ける。問題なくぶち破ったヴァルゴの中から出てきたのだからイケる、そう思っていた。だが、ガンッ!! と何とも堅そうな音の後に数秒の間を置いて友奈は痛みのせいで涙目になりつつ悲鳴を上げる。予想以上に御霊は硬かったらしい。

 

 ふと、樹は御霊の近くに“百二九”という漢数字が浮き上がっているのを見つける。それは1秒経つ毎に1ずつ減っていっていた。

 

 「お兄ちゃん、なんか数字が……減っていってるんだけど」

 

 「ああ、それは自分達の力の残量らしいねぇ。その数字がゼロになると……」

 

 「なると?」

 

 「敵を倒せなくなる。ま、タイムリミットだねぇ」

 

 「しかも封印の儀式中に時間が経てば経つほど、今見えてる樹海が枯れていっちゃうの。枯れると現実世界に悪い影響が出るわ……」

 

 樹の質問に楓が答えた後、風が続けて説明する。その際に苦々しい表情を浮かべたのを、3人共気付いていた。友奈だけはその理由に気付けなかったが、2人は気付いている。その悪い影響こそが、自分達の両親を失った原因なのだから。

 

 「……だから、悠長にはしていられないのよ。という訳で喰らいなさい! あたしの……渾身の女子力をおおおおっ!!」

 

 そう言って風は友奈と同じく飛び上がり、縦に回転して言った通り渾身の力で御霊に大剣で切り裂こうとする。が、切り裂くことは出来ず、僅かにヒビを入れるだけに収まった。

 

 「~っ、堅すぎよこれ!」

 

 「姉さん! そのまま動かないで!」

 

 「え? っどわ!?」

 

 じ~んと手に痺れるような痛みを感じていた風の耳に、そんな楓の声が届く。何事? とそちらへ視線を向けると……飛び上がって凄まじい速度で突っ込んでくる楓の姿。今出せる限界の速度まで加速した楓はそのまま左足を突き出し、具足の上から風の僅かに御霊にめり込んだ刃の反対側を蹴り込む。すると大剣が御霊の半ばまで更にめり込んだ。

 

 「びっくりしたじゃないの!」

 

 「これでも壊れないか……ならもう一度」

 

 「無視か!?」

 

 「お姉ちゃん、落ち着いて……」

 

 「ごめんよ姉さん。でも、チャンスだと思ってねぇ」

 

 「……まあ、許してあげるわよ」

 

 翼を解除して着地する楓に、御霊から大剣を引き抜いた風も御霊から降りて詰め寄る。サラッと無視されたことに涙目になるが、樹に宥められ、楓に謝られて仕方なさそうに溜め息を吐く。

 

 「楓くん、次は私が……」

 

 「友奈ちゃん、さっきので右手痛めてるでしょ」

 

 「……でも、私が……やりたいんだ」

 

 「……問答してる時間も惜しいか。なら、一緒にやろうか」

 

 「えっ? あ……」

 

 自分がやると言って聞かない友奈に楓は苦笑いを浮かべ、そう言うと水晶から光を出して自分の左手と友奈の右手を包み込む。即席の勇者の光で作り出した手甲、それを見て友奈はグッと拳を握り締める。

 

 (真っ白で綺麗な光……それに、前に楓くんが手を握ってくれたみたいに温かい……)

 

 「さて、やるよ友奈ちゃん。折角だから、さっきみたいに必殺技でも叫んでみるかい?」

 

 「……うん! ダブルで、だね!」

 

 「そうだねぇ。それじゃ」

 

 「「せーのっ!!」」

 

 楓の光に一時恐怖を忘れて微笑む友奈。そんな友奈に楓は声をかけ、友奈は嬉しそうに笑うと楓の左側に立ち、声を揃えて同時に飛び上がり……楓は左手を、友奈は右手を引き絞る。

 

 そして、同時に突き出した。

 

 「ダブル!」

 

 「勇者!」

 

 「「パァァァァンチッ!!」」

 

 御霊の大きなヒビに、2人の光を纏った拳が叩き込まれる。ドゴォッ!! という重々しい音を響かせ、2人は弾かれるように後ろへと着地して手を包んでいた光が消え失せる。

 

 4人が同時にどうだ? と御霊を見上げる。それと同時に、その御霊が砂となって崩れ落ちた。その光景を少しの間眺めた後、友奈が気が抜けたように呟いた。

 

 「……勝った?」

 

 「うん。勝ったよ、友奈ちゃん」

 

 「楓! 友奈! ナイスよ! やったああああ!!」

 

 「「お゛う゛っ!?」」

 

 「お姉ちゃん! 首! 2人の首絞めてる!」

 

 感極まった風が楓と友奈に抱き付き、無意識の内に2人の首を締め、2人は顔を青くする。そんな姉に樹は慌ててしがみつき、引き離そうと奮闘していた。

 

 そんな4人と離れた場所に居た東郷を、再び光が呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 光が晴れた時、私達は学校の屋上に居た。その屋上には祠があり、風先輩曰く神樹様がこの祠がある場所に戻して下さったのだと言う。戻った私と楓君達には、少し距離があった。それが、戦った彼らと……何もしなかった私との距離を表しているように思えてならない。

 

 「美森ちゃん。無事かい?」

 

 「東郷さん! 大丈夫だった!?」

 

 「楓君……友奈ちゃん……2人も、風先輩と樹ちゃんも無事で良かった……」

 

 その距離を、2人は直ぐに詰めてくれた。友奈ちゃんは私の両手を握って、楓君はいつものように朗らかな笑みを見せてくれて安心させてくれる。それが余計に、恐怖で何も出来なかった私の心を苛ませる。

 

 あの時、怒りに任せてでも共に戦っていたら……こんな思いはしなかったんだろうか。

 

 「美森ちゃん」

 

 「……?」

 

 「友奈ちゃんも……怖かったねぇ。よく、頑張ったね」

 

 「「あ……う……」」

 

 友奈ちゃんと私にそう言って、少し身を乗り出して順番に頭を撫でてくれる楓君。それだけのことが凄く嬉しくて、涙腺が緩む。見れば友奈ちゃんも似たような感じだった。

 

 友奈ちゃんは戦ったけれど、やっぱり怖かったんだ。怖かったのは同じなんだって知れたことが、嬉しかった。それでも戦うことが出来た友奈ちゃんは凄い。私には……出来なかったから。

 

 「大丈夫、大丈夫。もう安全だからねぇ」

 

 「本当……?」

 

 「ええ、本当よ。町を見てみなさいな」

 

 思わず私が聞き返すと、彼ではなく樹ちゃんと共にこちらに歩いてきた風先輩が答えてくれた。言われた通りに屋上の柵越しに町を見てみると、あれだけのことがあったのに平和そのものだった。

 

 風先輩曰く、誰もさっきの出来事に気付いていない。他の人からすれば今日は普通の日であり、自分達は皆の日常を、世界を守れたのだと。ただ、世界の時間は止まったままだったから今は普通に授業中とのこと……ってそれはつまり、私達はサボりということになるのでは?

 

 「あの、それって不味いんじゃ……?」

 

 「その辺は姉さんがフォローしてくれるよ。それに、大赦からも何かしら行動を起こしてくれるさ」

 

 「それなら、いいのだけれど……」

 

 「……お兄ちゃん。お姉ちゃん……」

 

 「樹もおいで。よく頑張ったねぇ……流石、自分と姉さんの自慢の妹だ」

 

 「ホントよ。良く頑張ったわ、樹。家に帰ったら樹の好きなの作ってあげるわね」

 

 「ふえぇぇぇぇんっ!」

 

 目の前で泣き出した樹ちゃんが風先輩に抱き締められ、楓君に頭を撫でられている。話を聞いていたとは言え、年下である樹ちゃんも戦っていた。なのに、私は……。

 

 正直に言えば、こんな大事なことを黙っていた風先輩達には思うところはある。それに真っ白な男の子……楓君にも聞きたいことは、ある。だけど、この戦勝の雰囲気を崩すのも憚られた。

 

 「美森ちゃん」

 

 「っ……楓、君……」

 

 「聞きたいことや言いたいことはあると思う。けれど……今は、呑み込んでくれないかい? 明日、勇者部で改めて姉さんからも説明があると思うから」

 

 「……分かったわ」

 

 「ありがとねぇ」

 

 そんな会話の後、樹ちゃんが落ち着いたのを見計らって私達は屋上を後にした。彼が言うように、明日聞けばいいんだ。それに、私自身少し考える時間が欲しかった。ただ、何故かしら。

 

 また、明日。そんな普通の言葉が……とても尊いもののように思えるのは。

 

 因みに、教室に戻ると案の定クラスメートに質問攻めされたものの、3人揃って“自分達もよく分かってない”で押し通した。

 

 

 

 

 

 

 真っ暗な空間の中で、少女の姿の神樹が目の前に浮く楓の右腕と砂になった御霊を見て呟く。

 

 ー やっぱり……2年前よりも力が込められてる ー

 

 明らかに強化されていたバーテックス。それを知るのは、今は神樹のみ。強くなった神樹の力で勇者達の能力も上がっている。だが、敵も同じように強化されていた。それはつまり、天の神がバーテックスにより力を込めていることを意味する。

 

 ー それに、バーテックスのあの動き…… ー

 

 勇者達は何とも思っていなかったが、戦いを見守っていた神樹はヴァルゴが楓を捕らえたことに疑問を抱いていた。叩き落とすでも、凪ぎ払うでもなく、捕らえた。そのまま叩き付けることも出来たのに、それもしなかった。

 

 ー ……まさか、知ってる? あの人の姿を ー

 

 だとすれば不味い、と苦々しく思う神樹。楓は存在するだけで“自分達”の力を引き上げてくれる。だが、もし天の神の手に渡れば、それはそのまま天の神達の力を引き上げることになる。何より、“自分達”と同じ神である天の神が、かの高次元の魂に惹かれないハズがない。

 

 ならば、捕らえたのはそのまま結界の外へと持ち帰るつもりだったか。その行動を含めての強化だったのか。

 

 ー でも……その強化のお陰で見えたよ ー

 

 考察を終え、神樹は再び楓の腕に視線を送る。その隣に、光が集まって少しずつ何かの形を成していっているのが見えた。

 

 バーテックスは天の神が生み出したモノだ。そして御霊はバーテックスの核であり、強化には“天の神の力”が使われている。“自分達”では足りない。“天の神”でも、不可能だ。ならば、“天と地の神”の力が合わさればどうか。

 

 この2年間、ずっと楓にどんな形であれ供物を戻す方法を考えていた“私達”ではない“私”としての神樹。お手本を見続け、解析を続け、試行錯誤を繰り返し、努力を重ねた。少しずつ形を成す光を見ながら、神樹は笑う。

 

 ー 相変わらず勇者達に頼む形になるけれど……今後も強化されたバーテックスが来るなら。その力に、“私達”の力を加えれば…… ー

 

 

 

 ー 戻せる……あの子達にも……あの人にも! ー

 

 

 

 神樹の瞳に……希望が、見えた。




原作との相違点

・強化されたヴァルゴ

・思ったよりヒビが入らない風の一撃。女子力が足らんわ!

・ダブル勇者パンチのフライング&面子変更

・その他台詞とか場面とか。多過ぎて今さら書ききれるか!



という訳で、原作1話後半と2話前半の戦闘と帰還のお話でした。ヴァルゴは犠牲になったのだ……ダブル勇者パンチの犠牲にな。

ご都合というのは最後の神樹様と楓の飛行能力です。一応自分なりに理由付けはしましたが、受け入れられるかちょいと心配ではあります。因みに光の翼ですが、別に深い意味はありません←

新精霊は与一とゆゆゆいにも居る陰摩羅鬼です。与一の弓の軌跡云々は友奈が火車で火を出してるようなモノです。それに園子も獏と枕返しで夢に干渉したりしてましたしね。

あの3体は次回です……多分。そして東郷さん覚醒(きょうか)も次回です……多分←

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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