キャラが勝手に動く:当初の予定以上に特定のキャラが行動したり話したりすること。気がつけばそうなっているので、“勝手に”動くと言われている。
という説明を何故したかと言えば、まあそういうことです。11000字越えました。
シティウォーズ、のんびり始めました。推しはディケイドです。だいたいわかった?
本作の目次の下にある読者層が似ている作品欄にゆゆゆ作品が1つもない事実。どういうことなの……。
説明及び覚醒回です。
皆が戦った日の翌日。いつもと同じように友奈ちゃんと登校し、教室に入る。中にはまだ、楓君の姿は無かった。まだ少し気まずいから、僅かな時間でも覚悟する時間があるのは有難い。
まだ、昨日の恐怖は残っていた。家に帰って自室で1人になると体が震えて……でも、友奈ちゃんから貰った花菖蒲の押し花を握っていると不思議と安心出来た。このまま自分が変身出来なかったらどうしよう、なんてモヤモヤとした考えも、少し忘れられた。
今日の放課後の部活で、昨日のことや勇者のことを説明してもらえる。何で黙っていたのかは……何となく分かる。仮に話を聞いていたとしても、到底信じられなかったと思う。いや、もしかしたら楓君に真剣な表情で説明されたら信じたかもしれないけれど。
「隣町で昨日、事故があったじゃない? 私近くに居てビックリしちゃった」
「えっ、あの2、3人怪我したって奴?」
私達の他に居たクラスメートの話し声が聞こえた。昨日の帰り道に、友奈ちゃんから戦ってる最中にどんな話をしていたかはある程度聞いている。その中に、樹海が枯れると現実に悪影響が出るって話があったハズ……あの時、木が枯れていたようには見えなかった。話の事故と戦いを結び付けるのは早計だろうか。
「おはよう、美森ちゃん」
「あ……楓、君……」
「あっ、楓くんおはよう!」
「おはよう、友奈ちゃん。今日も元気だねぇ」
そんなことを考えていると、楓君が教室に入ってきた。折角挨拶してくれた彼に私は名前を呟くことしか出来ず、友奈ちゃんはいつものように元気に挨拶していた。そういえば、勇者部の五ヶ条にも“挨拶はきちんと”とあったハズ。
「……おはよう、楓君」
「うん、おはよう美森ちゃん」
改めて、きちんと挨拶を交わす。それにいつもの朗らかな笑みで返してくれた彼を見て、暗くなっていた心が少し晴れた気がした。
放課後の勇者部の部室。5人全員が集まったところで、風先輩が黒板に何やら書き始め、その後ろに居る友奈ちゃんの頭に何か……白い、何かが乗っていた。楓君の首には白い角が生えた蛇が巻き付いて頬擦りしてる。苦しくないのかと聞いたところ、別にそんなことはないらしい。
「お兄ちゃんの精霊もそうですけど、友奈さんのその子も懐いてますね」
「えへへ、牛鬼って言うんだよ」
「牛なんだ。可愛いねぇ」
「ビーフジャーキーが好きなんだよ!」
「牛なのに!?」
牛の鬼と書いて牛鬼。なのにビーフジャーキーが好物なのね。それ、共食いなんじゃ……あれ? 前にも似たようなことがあったような……気のせいかしら。そんなことを考えていると、友奈ちゃんの視線が楓君が撫でている蛇に向かうのが見えた。
「楓くんの蛇さんも可愛いよねー」
「夜刀神と言ってね。よく懐いてくれてるよ」
「夜刀神ちゃんか。私にも撫でさせ」
「シャーッ」
「あいたーっ! 噛まれたー!」
「さっきから何やってんのよあんたは……」
「だ、大丈夫? 友奈ちゃん」
友奈ちゃんが撫でようと手を伸ばすと、その手を夜刀神が噛んだ。直ぐに手を引いて痛がる友奈ちゃんの手を撫でると、風先輩が呆れた顔で振り返って腰に手を当てる。後ろの黒板には、何かの絵が書かれていた。また感じた既視感は、直ぐに薄れた。
「はぁ……さて、まずは皆無事で良かった。早速昨日のことを説明していくけど……戦い方はアプリに説明テキストがあるから、今は何故戦うのかを話すわね」
そう言って、風先輩は黒板のよく分からない落書きを指差す。辛うじて顔のようにも見えなくもないそれは、昨日の敵……バーテックスらしい。それは人類の天敵であり、神樹様が作り出している壁の向こうから現れ、全部で12体攻めてくるのが神樹様の神託で分かったらしい。
「あ、それ昨日の敵だったんだ……」
「奇抜なデザインを良く現した絵だよね」
「物は言い様だねぇ」
「……は、話を続けるわね」
樹ちゃん、友奈ちゃんと絵の感想を言った後、楓君がクスクスと笑ってそう言った。風先輩はそんな彼の言葉に口元をヒクつかせつつも説明を続けてくれた。バーテックスの目的は神樹様の破壊、つまりは人類の滅亡だと言う。
「前にも襲ってきてはいたんだけどねぇ。その時は攻撃して弱らせた後に神樹様の力で撃退してもらうのが限界で、倒すことは出来なかったんだ」
「楓君……詳しいのね。そういえば、あの時元勇者って……」
「うん。自分の他にも3人。4人で戦ったんだよ……勇者部を今の勇者と呼ぶなら、自分達は先代勇者、になるのかねぇ」
「……その、他の勇者は……」
「大丈夫、生きてるよ。ただ、戦える状態じゃなくてねぇ……自分は、戦えるだけまだマシな方さ」
楓君が先代勇者。そして、その先代勇者達は戦える状態じゃない……そんな戦いを、友奈ちゃんと楓君は……勇者部はしなければならないのね。もしかして、楓君の体もその戦いの時に……片腕も、片目も無くしてるのに、左耳も聞こえないって言ってたのに……私には、とても“マシ”だなんて思えないのだけど。
楓君の後に風先輩が続けて説明する。バーテックスと渡り合う為に大赦が造ったのが、神樹様の力を借りて“勇者”と呼ばれる姿に変身するシステム。通称“勇者システム”らしい。精霊バリアに封印の儀式等は最近になって追加された機能なんだとか……つまり、先代勇者達にはバリアは無かったという訳で。先代勇者達の戦いは、昨日の戦い以上に命懸けだったのね。
人智を越えた敵に対抗するには、こちらも人智を越えた力を使うという訳ね。そう風先輩が黒板の……棒、人間? のような絵を指差しながら締めくくった。
「……その絵、私達だったんだ?」
「げ、現代アートって奴だよ」
「友奈ちゃん、無理にフォローしようとしなくてもいいんだよ。こういう時はね、もっとがんばりましょうって優しく言ってあげるんだ」
「そっか! 風先輩、もっとがんばりましょう!」
「やかましいわ!! 悪かったわね! 絵心なくて!」
相変わらず楓君は風先輩を弄ると楽しそうに笑うなぁ……なんて、つい笑ってしまう。それくらいには、また心の暗い部分が晴れた。
数秒後に風先輩がこほん、と咳払いを1つ。注意事項としてと前置きをした後、樹海が何かしらの形でダメージを受けると、その分日常に戻った時に何らかの災いとなって現れると言われているらしい。それを聞いて、私と友奈ちゃんがハッとする。朝、クラスメートが事故が起きたと話していたことを思い出したから。
樹海が派手に破壊されて大惨事になる、なんてことはあってはならない。その為に私達勇者部が頑張らないといけない。大赦もサポートの為に動き始めているらしい。それは分かった。でも、これだけは聞いておかないといけない。
「その勇者部も……先輩と楓君が意図的に集めた面子だったという訳ですよね?」
大赦から派遣されてきたと言っていた先輩と、理由はちょっと違うけれど先輩側だと言っていた楓君。あの日、勇者部を作って私と友奈ちゃんの前に現れたのも、誘ったのも勇者として戦わせる為。
「……そうだよ。適正値が高い人は分かってたからね。アタシは神樹様をお祀りしている大赦から指令を受けているの。この地域の担当として、ね」
「楓君と樹ちゃんは……」
「私は昔、お姉ちゃんが大赦の人達に勇者候補になるように言われたところを見ていたんです。実際に話を聞いたのは、去年の6月です」
「自分は先代勇者として、今回選ばれる勇者達のサポートの為だねぇ。適正値の数値から見て、勇者に選ばれる可能性が一番高かった姉さん達のグループに寄越されたのさ」
犬吠埼姉弟だけが、全部知っていた。私と友奈ちゃんは、知らなかった。悔しい? ううん、これは……悲しいんだ。まるで、今まで楽しかった勇者部の時間が嘘のような思えて。3人との思い出や優しさ、暖かさが計算の上でのことに思えて……怒りよりも、悲しみの方が大きい。
友奈ちゃんが次の敵は何時来るのかと聞いて、風先輩はわからないと答えた。明日かもしれない。1週間後かもしれない。でも、そう遠くはないんだと。
「……なんでもっと早く……勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか……」
友奈ちゃんが死んでいたかもしれない。見ていた限り、樹ちゃんだって馴れてる訳ではないようだった。楓君だって、片足で動きづらそうだった。風先輩だって何度も爆弾で吹き飛ばされていた。皆……死んでしまうかと思った。
「……ごめん。どれだけ勇者の適正値が高くても実際にどのグループが神樹様に選ばれるか分からなかったの。確かにアタシのグループが可能性としては一番高かったんだけどね……僅かでも選ばれない可能性があったから、言えなかった」
「どのグループが……? そっか、他にも同じように勇者候補のグループがあるんですね」
「人類存亡の危機だからね」
「こんな大事なことを……ずっと黙っていたんですか……! 友奈ちゃんも……皆も死ぬかもしれなかったかもしれないんですよ……っ!」
理屈は分かる。あんな非現実的な出来事を口頭で言われたとしても困惑する。それに、もし私が風先輩の立場だったらと思うと、私でも言わないでおくかもしれない。頭では理解出来る。なのに、感情が……心が納得してくれない。辛くて、悲しくて……俯いてしまう。言葉に怒りが籠る。
「私達が……話を聞いても信じないと思っていたんでしょう……?」
「東郷……」
「東郷先輩……」
「例え風先輩から聞かされて信じなくても……楓君から言ってくれれば信じたかもしれないのに……!」
「「……うん?」」
この場に居たくなくて、車椅子を動かして部室を後にする。今は、彼女達から離れたかった。そして、ざわめく心を落ち着かせたかった。
部室での出来事から数分後。美森は校舎の奥まったところに居た。心を落ち着かせるように息を吐き……両手で顔を隠す。
(私は何を口走っているの……っ!!)
怒りと悲しみとが混ざりあった結果、思っていたことをそのまま口にしてしまった美森。今や怒りも悲しみもどこかへと飛んで行き、あるのは恥ずかしさだけである。ついでに風への申し訳なさもどこかへ飛び去っている。
そんな美森の頬に、紙パックのお茶が当てられる。驚いて振り返ると、そこには友奈と楓の姿があった。彼の顔を見てまた顔が赤くなるが、友奈が自分の奢りだと言ってお茶を手渡してきたので受け取る。
「友奈ちゃん……楓君……なんで」
「さっき東郷さん、私の為に怒ってくれたから。ありがとうね、東郷さん」
「自分は、美森ちゃんに謝りたくてねぇ……後、あんなこと言われた後に姉さんと同じ空間には居づらくてねぇ。姉さん、落ち込んでたよ」
「それについては本当にごめんなさいっ!」
友奈の笑顔とお礼に癒され、楓の苦笑にまた両手で顔を隠す。何せ風の言葉は信じないが楓の言葉なら信じるとはっきり言ってしまったのだ、それも本人達の前で、感情まで込めて。美森が出ていった後に彼女の言葉を吟味した風はまるで心臓を撃ち抜かれたように胸を抑えて崩れ落ち、樹は慌てて彼女の介抱をしている。
そんな風に楓は涙目で恨めしそうに見られ、美森に謝りたい気持ちもあって何とも言えない心境でこうして追い掛けてきたのだと言う。友奈もこれには笑顔から苦笑いに代わり、美森はただ恥ずかしさから謝る。
「いいよ、別に。自分達も2人に黙っていたからねぇ……ただ、悪意があって黙っていた訳じゃないっていうのは信じて欲しい。それに……ただ、勇者候補を集めるだけが勇者部じゃないってことも」
「それは……」
「最初はそれが目的だった。それは、残念だけど否定しないよ。でも……一年も嘘の笑顔を浮かべられる程、自分達は器用じゃないよ」
「……うん」
「勇者部の活動は楽しかった。皆で何かをするのは……楽しかった。それも、本当なんだ」
「うん……大丈夫。元々、モヤモヤとしたものぶつけてしまっただけだったもの」
「モヤモヤ?」
楓の言葉に落ち着きを取り戻し、頷く美森。その後に申し訳なさそうに言ったことに、友奈が首を傾げる。
美森は言う。昨日の夜から考えていた。このまま変身出来なければ、自分は勇者部の足手まといになるのではないかと。ここからは口にはしていないが、昨日の敵を見て抱いた怒りのままに変身していれば、こんな思いはしなかったのではないかと。
先程部室で言ったことは、紛れもなく本心からの言葉だ。だが、そういったモヤモヤとした感情も重なり、攻撃的になってしまったのだと言う。
「楓君達には、悪いことを言ってしまったわ……友奈ちゃんは皆の危険に、怖くても変身したのに……樹ちゃんも年下なのに……それに、お国の危機だっていうのに……」
「東郷さん?」
「私は……戦うどころか敵前逃亡……風先輩の仲間集めもお国の為の大事な命令のハズなのに……ああ、私はなんてことを……」
「東郷さーん!?」
どんどん暗くなっていく美森に友奈が慌てる。楓はただ苦笑いを浮かべ、全くこの子は……と内心呆れていた。やはり記憶を失っても、変わらないのだと。日本が好きで、真面目で、責任感も強い。そういえば、最初の頃はこうだったと思い返す。段々と暴走する部分もあったが、それも今では懐かしいと。
「いいんだよ、怖くても、変身出来なくても」
「楓君……でも……」
「怖いのが当たり前なんだ。戦えないって思うのが普通なんだ。確かに友奈ちゃんは怖くても変身して戦った。でも、だからって美森ちゃんが無理して戦う必要はないんだよ」
「そうだよ東郷さん! 大丈夫、私が守るよ!」
「自分も、頑張るよ。こんな体じゃ説得力はないかもしれないけどねぇ」
「そんなことない!!」
美森が叫ぶように言うと、友奈も楓もビックリして言葉を止める。見れば、美森は泣いていた。突然のことにまた友奈は慌て、楓も何を言ったらいいか分からなくなる。
「そんなことない……楓君も、友奈ちゃんもかっこよかった! でも、私は! 私は……守られてばかりは嫌だって、頑張ってもらうばかりは嫌だって思うの。心が、そう叫んでるの」
「東郷、さん……」
「中学に入る前に事故で足が全く動かなくなって、記憶だって少し消えて、それからの生活がとても怖かった……でも、友奈ちゃんが居たから不安が消えた。楓君と出会えたから……勇者部があったから学校生活がもっと楽しくなった」
「……そんな風に、思ってくれてたんだねぇ」
「だから……だから! 私だって2人と……皆と、一緒に……なのに、怖くて、逃げたくて、そんな自分が情けなくて、嫌で……っ!」
「うん……大丈夫。気持ちは、伝わったよ。そんなになるまで……悩んでくれたんだねぇ。友奈ちゃん、抱き締めてあげて」
「うん!」
「うぅ……ああぁぁ……!」
涙ながら思いの丈を叫び、ついには言葉に出来なくなる美森を、言葉を聞いて嬉しそうにしていた楓がその頭を撫で、友奈が美森の頭を優しく抱き締める。楓も、友奈も嬉しかった。美森がそんなにも自分達を、勇者部を好きでいてくれたことが。同時に、泣かせてしまったと苦く思う。
「……友奈ちゃんは、どうなんだい?」
「えっ?」
「勇者のことを隠していた自分達……自分に、何か思うところはないかい?」
「うーん……確かにビックリはしたけど……でも、その適正のお蔭で楓君にも、風先輩にも、樹ちゃんにも出会えたって思ったら……嬉しくて、この適正に感謝かな」
「前向きだねぇ……もっと恨んだり、怒ってもいいんだよ?」
「どっちもしないよ。私は、勇者部が大好きで、勇者部の皆が大好きで……勇者部の皆でする活動が大好きなんだから」
眩しい。友奈の言葉を聞いた楓と美森は、同時にそう思った。怖かったハズだ、泣きそうだったハズだ。それでも彼女は笑って、適正があって嬉しいと言うのだ。そんな友奈だから、美森の不安が消えた。そんな友奈だから、楓は守りたいと思った。
だが、同時に不安にも思った。楓から見て、友奈は誰かの為に恐怖を呑み込める子だ。誰かの為に頑張れるからこそ、結果として己を後回しにするタイプだ。勇者としては正しいが、年頃の普通の女の子としてはどうか。
(美森ちゃんもそうだけど、友奈ちゃんも溜め込むタイプだねぇ……ちゃんと、見ておかないとねぇ)
楓がそう思った辺りでようやく美森が落ち着き、2人にもう大丈夫と告げる。それを聞いて2人が美森から離れると、彼女は先程の自分の状態が如何に己にとって至福だったかを思い浮かべて少し残念に思う。が、ふと思い出したように顔を上げ、口を開く。
「そうだわ……楓君に聞きたいことがあったの」
「うん? なんだい?」
「うん……その、真っ白な男の子のことなんだけど……」
そこまで美森が言った時だった。楓が驚いたように、焦ったように窓の方へと視線を向ける。釣られて2人も不思議そうにしながらも窓の方を向いた。
「そんな……昨日来たばかりなのに、もう来るのか?」
時間は少し遡り、3人が部室から出ていった後。美森の言葉に心臓を撃ち抜かれていた風がヨロヨロとしながらも立ち上がり、出ていった美森にどう謝罪するべきかを自分の精霊である
「いやー、説明足りなくてごめーんね☆ ……いや、こんなんやったら東郷だけでなくて楓にも怒られるわ……」
(じゃあなんでやったんだろう……)
「東郷、ごめんねぇ……これじゃ楓の真似してるだけか……」
「ちょっと似てたよ、お姉ちゃん」
「物真似してるんじゃないんだけどねぇ……こうやって語尾が伸びるの、絶対あいつの影響だわって違う、今は東郷に謝る練習をしてるのよ」
(でも似てるって言った時嬉しそうにしてたのを、私はしっかりと見ました。お姉ちゃんもお兄ちゃん大好きだよね)
色々と謝罪のパターンを試していると何故か楓みたいな口調になり、それを樹に指摘されて少しだけ嬉しそうにしつつも首を振る風。そんな姉にほっこりとしつつ、姉の為にタロットカードでどう謝罪すればいいかを占う樹。
「2人共……本っ当にごめんなさい!! ……低姿勢過ぎるかなぁ……困った、どうしよう……樹ー、どうするべきか占えた?」
「待ってて、今結果出るからねぇ……あ、お兄ちゃんの移っちゃった」
そんな会話の後にタロットカードを広げていた樹が最後の1枚をひっくり返す。その途中、空中でピタリとタロットカードが動きを止め、微動だにしなくなる。摩訶不思議な出来事に、思わず樹がきょとんとする。そしてそれを見ていた風もあら? と疑問符を浮かべ、ふよふよと浮かんで移動してきた犬神が持つ彼女のスマホの画面を見て唖然とする。
「“樹海化警報”!? まさか……2日連続でバーテックスが!?」
楓から少し遅れ、風がそう言った後に、また世界が極彩色の光に呑み込まれた。
樹海に来た自分達はアプリでお互いの位置を確認し、直ぐに合流する。姉さんと樹は既に変身していて、5人揃ったところで敵の姿を確認して……絶句した。
「3体……!?」
姉さんが呟く。そう、今回の敵は3体居た。それも……矢を放つ青い奴、板が頑丈な赤い奴、鋭い針を持つ黄色い奴……あの時の3体。忘れもしない、自分が1人で戦ったあいつら。思わず右肩に手を置く。痛みなど感じないハズなのに、右腕が痛んだ気がした。
アプリを確認する。青い奴が射手座、赤い奴が蟹座、黄色い奴が蠍座らしい。なるほど、名前と能力は一致してる訳だ。それに、今度は隠れて奇襲をしてこなかったんだねぇ。
「姉さん。青い奴は下の顔から大量の矢を、上の口からは槍みたいな大きな速い矢を飛ばしてくる。赤い奴の板はかなり頑丈だから注意。黄色いのは……あの鋭い針に気をつけて。それに、あいつらは連携してくる」
「は? バーテックスが連携?」
「ああ。あの板が矢を反射するんだ。それで矢を防いだり避けたりすると、黄色い奴の攻撃が飛んで来る。厄介な奴らだったよ、ホント」
「お兄ちゃん……戦ったことあるの? それに、右肩をずっと押さえてるけど……まさか」
「……あの黄色い奴にね。自分はその時のこと、よく覚えてないけど」
樹と友奈ちゃん、美森ちゃんが自分の話を聞いて唖然としているのが見えた。少しショッキングな話だったかねぇ……でも情報の共有は大事だし、危険性は教えておいた方がいい。精霊バリアに頼りきりになるのもダメだしねぇ。
しかし、2日続けて。しかも3体……自分達の時に比べてペースが早すぎる。それに、いきなり複数投入してくるのも予想外だ。こっちはロクな訓練もしていない上に変身出来ない美森ちゃんも居て、彼女を守る必要もある……あの時より人数が多いが、それがどこまで有利に働くか。
「……そう……あいつが……」
「……姉さん?」
「お、お姉ちゃん……?」
「「風……先輩?」」
ふと気付くと、姉さんが何やら俯いてぶつぶつと呟いているのが見えた。いつの間に大剣を手にして、その柄を強く握り締めている。そして顔を上げた時……その表情は、怒りに染まっていた。
「あいつが……楓の腕を……っ!!」
「はいストップ」
「へぶぅっ!?」
「「「ええっ!?」」」
そう叫んで飛び上がった姉さんの足に、直ぐに変身して左手の水晶から光の鞭を出して巻き付けて止める。すると姉さんは勢いよく、顔からビターン!! と木に叩き付けられた。そして、射手座の槍みたいな矢が一瞬前に姉さんが居た場所を通り過ぎた。その後、鼻を抑えながら涙目になった姉さんが立ち上がって自分に迫る。
因みに、変身すると何故か車椅子が消えるので今の自分は立っている。
「……ったいじゃないの楓!!」
「自分の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、落ち着きな姉さん。只でさえ戦闘経験が無いに等しいんだ、1人で突っ込んだところでボコボコにされるだけだよ」
「ぐ……」
「落ち着け、勇者部部長。じゃないと、勝てる戦いも勝てないよ」
「……分かった、もう……大丈夫」
「分かってくれたみたいで良かったよ。友奈ちゃん、そろそろ変身しときな。何時さっきみたいに攻撃が来るかわからないからねぇ」
「あ、うん!」
最初こそ同じ形相で怒ってた姉さんだが、何とか落ち着いてくれた。まだ正直怪しいが、直ぐにまた爆発することはないだろう……それに、姉さんの武器は破壊力のある大剣、蠍座よりも蟹座の相手をして欲しいのが本音だ。
友奈ちゃんが変身をする……樹といい友奈ちゃんといい、変身時のウインクは誰に向けてやっているんだろうか。2人共可愛いから、キマってはいるけれども。なんてバカなことを考えていると、射手座が体を上に向けていた。その先には……蟹座の板!
「上から矢が来る!」
自分がそう叫ぶと姉さんと樹は左に、友奈ちゃんは右に跳ぶ。自分は大きなひし形の光の盾を出し、動けない美森ちゃんと自分の上に掲げる。すると少し遅れて、大量の光の矢が降ってきて盾に当たる。
「楓君!?」
「大丈夫!」
とは言うものの、これは動けない。あの時の3人もこんな状況だったっけ……そんなことを思い返していると矢の雨が止み、その矢が今度は跳んだばかりで空中に居る友奈ちゃんを狙って放たれていた。
「わわ、わわわっ!?」
そんな風に慌てつつも空中で連続で拳を突き出して矢を跳ね返すというか弾いている友奈ちゃん……君、本当に戦闘経験ないの? と思わず言いたくなるが、チャンスとばかりに盾を消して光の弓を出し、美森ちゃんから離れて射手座を狙う。あいつのことは覚えている。顔の部分から出す矢と上の口から出す大きな矢は同時には使ってこなかった。なら、今なら無防備なハズ。
「ああっ!!」
蟹座の相手は姉さんと樹がしてくれている。友奈ちゃんは……と彼女の方へと視線を向けた時、そんな悲鳴と同時に彼女が蠍座の尻尾に吹き飛ばされているのが見えた。
「友奈ちゃん! この……っ!」
射手座から蠍座へと標的を変え、矢を放つ。それは蠍座の顔のような部分に当たり、友奈ちゃんから少し引き離すことが出来た……が、ダメだ、まだあいつの尻尾の射程内。だからもう一度、連続して矢を放とうとしたところで、また上から自分に向かって矢の雨が降ってきた。
咄嗟に左足を曲げ、跳ぶ。咄嗟だったので敵側に向かって跳ぶことになったが……攻撃してきた射手座に視線をやると、光の矢を出しながら上の口に大きな矢が装填されているのが見えた。
「同時に扱えたのか!」
弓を消して翼を出し、急降下。その数瞬後、矢が通り過ぎた。寒気など感じないハズなのに背筋が凍った気がする……そう、一瞬気が緩んだ時、顔を強く殴られたような衝撃が自分を襲い、強く下の木に叩き付けられた。
「あ……ぐ……っ……!?」
何が起きたかわからない、というのが本音だ。頭が強く揺らされたせいか、目の前がぐらぐらと揺れている。何とか意識こそ保っているが、まともに体が動かせない。
そんな自分に……無慈悲にも光の矢の雨が降ってきた。
「あ……」
蠍座に吹き飛ばされたまま動かない友奈ちゃんが、何度も針を振り下ろされている。今は牛鬼がバリアを張って守ってくれているけれど、いつまで保つかわからない。
「ああ……」
バリアの上から射手座の槍みたいな矢の
風先輩と樹ちゃんは蟹座の板に翻弄されているみたいだった。樹ちゃんの糸は攻撃力が足りてない。風先輩では速度が足りてない。2人の助けに向かうことは、出来そうになかった。
「やめて……やめてよ……!」
ー 私、結城 友奈! あなたは? ー
ー はじめまして、1年2組の犬吠埼 楓です ー
何故か、2人との出逢いを思い出した。
「友奈ちゃんと楓君を……私の大切な人達を……!」
ー 大丈夫、私が守るよ! ー
ー 自分も、頑張るよ ー
「いじめるなああああああああっ!!」
少し前の2人の言葉を、思い出した。私は、守られたいんじゃない。頑張ってほしいんじゃない。私だって、守りたいんだ。私だって、頑張りたいんだ。
カチリと、頭のなかで何かがハマった気がした。勇者アプリに指を伸ばす。タップすることに、戦うことに……もう、躊躇いはなかった。
「私も……守るんだ」
変身した時、私は青を基調とした勇者服を着ていた。足が動かない私でも移動出来るようにか、髪に着いているリボンが自在に伸びて操作できるみたい。
私の声に反応してか、蠍座がこちらを向く。私は手に拳銃の形の武器を出し、それを針に向かって放つ。それは狙い通りに針に当たり、根元からへし折った。
「私も……頑張るんだ!」
拳銃を消して、今度は散弾銃を2丁両手に持ち、放つ。それなりの反動の後に飛び出たそれは蠍座に満遍なく当たり、その巨体を仰け反らせた。クルリと散弾銃を回転して再装填し、再度放つと今度は後退させる。それを3回、4回、5回と繰り返す。
「東郷さん……凄い……!」
復活した友奈ちゃんからの称賛を嬉しく思いつつ、ある程度距離を離したところで今度は狙撃銃を取り出して高い位置にある木に移動し、寝転んで狙撃体勢に入る。
(何で変身したら落ち着いたのかは……今はどうだっていい。私も戦える、今はそれだけでいい)
また友奈ちゃんを狙おうとしていた蠍座の顔を狙い撃ち、大きく仰け反りながら後退したのを見てから再装填。今度は遠くで楓君を攻撃している射手座を狙う。その際、念のために蟹座も視界に入れておく。
何故だろうか。乙女座の時もそうだったけど……私は敵に……この3体に……どうしようもない程に、怒りを抱いている!!
「今度こそ……私も守るんだ!」
狙撃。射手座の上の口、その中に見えた発射口らしき部分を撃ち抜き、破壊する。
「今度こそ……私も頑張るんだ!!」
再装填、後に狙撃。今度は下の顔の眉間部分。それは狙い通りに当たり、射手座の体が縦に少し傾いた。
「今度こそ……今度こそ!!」
そんな言葉がずっと、私の口から無意識に漏れていたことに……私は気付かなかった。
原作との相違点
・友奈のギャグが無い
・この時点で先代勇者の存在を知る
・その他。マジで多過ぎて多分原作通りの方が少ない←
という訳で、説明と美森覚醒回でした。原作より蠍座に対する殺意が高い彼女です。拳銃1発、散弾銃計12、狙撃1回ぶちこんでます。
前回は以前との勝手の違いに翻弄される楓君。今回は認識との相違で撃ち落とされました。ボロボロになっていく主人公。でもこれって私の愛なの(重い
前書きの勝手に動いたのは勿論美森です。ぶっちゃけ泣くこともなければ恥ずかしいことも言わない予定だったんです。どうしてこうなった_(:3」∠)_
そろそろUAが50000越えそうです。次回で3体との戦いも終わる予定ですので、記念に何か番外でも書こうか悩んでます。書く場合はリクエストから拾います。
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