50000UA突破しました。皆様ありがとうございます! 今後とも本作を宜しくお願いします。
今回、ちとお試しでアンケートをしてみたいと思います。内容は後書き部分にて。
アンケートは終了しました。ご協力ありがとうございました!
前回に引き続き、戦闘回です。戦闘書くのたーのしー。
「シャー……」
「ふぅ……ふらつきも、敵の攻撃も落ち着いたか……大丈夫だよ、夜刀神。心配してくれてありがとねぇ」
あれから攻撃が止むまでずっと視界がぐらぐらとしていたが、ようやく落ち着いた。その間バリアを張り続けてくれていた夜刀神が心配そうに鳴いて自分の頬をペロペロと舐めてきた為、御礼を言ってその頭を撫でる。
射手座の方を見ると、何やら体に穴が開いてそこから煙を吹き出している。一体何が起きたんだ? そう思い、状況を確認するべく周囲を見回す。すると、射手座に何かが当たり、また穴が開いてそこから煙が吹き出た。その何かが飛んできた方向を見ると、変身した美森ちゃんの姿が見えた。
「……変身、しちゃったか」
いや、分かっていたことだ。勇者として再び選ばれた以上、変身しない方が逆に危険だ。それでも、勇者の戦いなんて忘れて、勇者のことなんて忘れて……平和な日常の中で幸せに生きていて欲しかったと思うのは、間違っていたんだろうか。
……頭を切り替える。彼女の援護、後方支援は正直有難い。その強さ、頼もしさは勇者部の中で誰よりも自分が良く知っている。嗚呼、知っているとも。ずっと一緒に戦ってきたんだから。
それに、彼女は変身した。戦うことを選んだ。だったら今度は最後まで一緒に戦おう。他ならぬ美森ちゃんがそれを望んでいた。守ると、一緒に頑張ると。忘れるものか。記憶を失って尚同じことを叫んだ彼女の言葉を……忘れるものか。
「それに……先代として今代にあんまり情けない姿を見せたくはないしねぇ」
立ち上がり、消えていた翼を出し、飛ぶ。狙いは……蟹座。そうと決めたら一直線、最速で向かう。その途中、美森ちゃんの方を確認すると目があったので軽く手を振っておく。すると彼女は安心したように頷いてくれたので自分もつい笑みが浮かぶ。
「楓! 無事なのね!?」
「お兄ちゃん大丈夫!? なんか凄い落ち方してたよ!?」
「大丈夫だよ2人共。心配してくれてありがとねぇ……でも、今はその蟹座をやるよ」
「ええ!」
「うん!」
飛んできた自分を見た姉さんと樹も安心したように息を吐く。心配かけて申し訳ないとも思うが、心配してくれたのは素直に嬉しい。だが、長々と会話するにはバーテックス共が邪魔だねぇ。射手座は美森ちゃんが封殺して、蠍座は友奈ちゃんが美森ちゃんの援護を受けて殴り飛ばしている。という訳で、3人で目の前の蟹座を相手する。
速度を落とさずにそのまま接近。すると蟹座は一枚の板を自分の進行方向に置いた。それを避け、切り裂くつもりで翼を板に当てる……が、やはり頑丈で弾かれ、冷静に空中で姿勢を正す。心なしか以前よりも硬い気がする。
「やっぱり硬いねぇ」
「私のワイヤーじゃびくともしなくて……」
「ふむ。じゃあ樹、そのワイヤーで板の動きを止めるのは?」
「やってみる!」
自分がそう言うと、樹は早速試してくれた。4本のワイヤーを伸ばし、2本ずつ使って2枚の板に巻き付け、その動きを止める……が、少しずつ樹がその場から板に引き摺られている。
「わ、私の力じゃこれ以上は~……」
「充分よ樹! 後は、アタシの女子力でええええっ!!」
自分が動くよりも速く、姉さんが2枚の板を大剣で切りつける……が、弾かれた。しかしよく見てみると、板の全体にヒビが入っていた。どうやら乙女座の御霊程の強度はないらしい。
「もう! いっ!! ちょおおおおっ!!」
1度弾かれて着地した姉さんが再び飛び上がり、大剣を振るう。するとガシャンッ! とガラスが割れるような音と共に、2枚の板が砕け散った……恐るべし、姉さんの女子力。
その直後、蟹座が尻尾らしき部分のハサミを開き、砕いたばかりで空中に居る姉さんに向かって伸ばしてきたが……それは突然、何かによって砕かれた。それを見た姉さんは驚きつつも着地し、後ろを振り返り……美森ちゃんの姿を見て、また驚いた表情を浮かべた。
「東郷!? ……そっか、戦ってくれるのね」
「そういうことみたいだねぇ……樹、もう1度頼むよ」
「うん!」
姉さんが嬉しそうに呟く。美森ちゃんもしっかりと姉さんの援護をしてくれた……和解も直ぐに済みそうだ。さて、自分もいい加減何か活躍しないとねぇ。具体的には……姉さんみたいに、板の1つでも壊してみせようか。
自分の頼みを聞いてくれた樹が先程と同じように板を2枚止める。自分は飛んで少し距離を取り、再び全速力で突っ込む。速度を維持したまま翼を解除。出すのは……より多く光を注いで作り上げる、あの日の4枚の爪。
「あの日のリベンジだ……これでも、男の子なんでねぇ!!」
爪を突き出し、板にぶつける。出していた速度とぶつかった時の衝撃が体に走る。それでも勢いは止まらず、1枚目の板を砕き、2枚に差し掛かり……少しヒビが入ったところで、流石に勢いが落ちてきた。
「まだ、だああああ!!」
1度手を引き、板の上に乗って爪を振り下ろす。今度は爪が突き刺さり、そこから板が砕け散る。あの時割れなかった板を割れた。小さなことだが、リベンジを果たせたので良しとする。
板が砕けたことで落下を始めるが、直ぐに爪を翼に変えて飛ぶ。その際に自分に向かって残った2枚の板が飛んでくるが、片方は樹のワイヤーに捕まり、もう片方は姉さんが大剣を叩きつけて止める……というか砕く。
状況を確認。射手座は相変わらず美森ちゃんが押さえてる……というか、ちょっと見ない内に穴だらけで煙を吹き出しまくっている。敵ながら憐れみすら感じる程だ……蠍座の方は、友奈ちゃんが押さえてくれている。時折美森ちゃんの狙撃を顔らしき部分に受けているのか、幾つか穴が開いている。
「友奈ちゃん!」
「楓くん!? 大丈夫だったー!?」
「大丈夫だよ!! そいつ、何とかこっちに持ってこれるかい!?」
「やってみるー!!」
少し距離があるので大声で叫び合うように会話する。その間に蟹座の胴体のような部分に翼を当てるように飛び、頭部と胴体を断ち切る。樹が捕まえていた板は姉さんが会話をしている間に破壊していた。これで再生するまでは蟹座は何も出来ないだろう。
友奈ちゃんのところに目をやる。すると、丁度彼女が蠍座の尻尾を掴んで縦に1回転し、勢いをつけてこっちに投げ飛ばすところだったってえぇ……あれ、投げられるんだ。これは危ないと樹のところに降り、彼女の腰に左手を回して飛ぶ。
「わわっ、お兄ちゃん!?」
「姉さーん。そこ、危ないよー」
「えっ? ってどわああああっ!?」
いきなり掴まれたからか、それとも飛んだからか慌てる樹を微笑ましく思いつつ、姉さんに注意を呼び掛ける。その声に反応してか姉さんが上を見上げると、既に蠍座が落ちてきているところだった。気付いた姉さんは少々女子力が感じられない悲鳴を上げ、間一髪逃れる……あ、蟹座が蠍座の下敷きに……まあいいか。
「エビ持ってきたよー!」
「持ってきた、というか投げたよねぇ。ナイスシュート、友奈ちゃん」
「投げたの!? アレを!?」
「友奈ぁ!! 危ないでしょうが!! 後、それサソリ!」
「ごめんなさい! 後、エビに見えたんです!」
ぴょんぴょんと跳びながらこっちに来た友奈ちゃんがやり遂げた顔で手を振りながらそう言って来たので樹を地面に下ろしつつ誉めると、隣で樹が驚愕する。下敷きになりかけた姉さんは友奈ちゃんに怒りつつツッコミを入れ、友奈ちゃんは素直に謝った。うんうん、少し真面目さは足りないかもしれないが、勇者部らしくて良い空気だ。
「それと楓! なんで樹だけなのよ!」
「や、自分片腕だから。後、姉さんだけならともかく大剣ごとはちょっと掴みにくい」
「思ったよりマトモな返答だった……そうよ、楓は片腕……こいつのせいで……」
姉さんは自分にも怒ってきたが、そう言うと脱力したように項垂れた。何かボソッと呟いたのは……聞こえたけど、聞こえなかったフリをしておこう。
そんなことをしていると、蠍座が起き上がって尻尾を姉さんに向かって伸ばしてきた。まずい、反応が遅れた! と、自分を含めた姉さん以外の3人が焦った表情を浮かべた時だった。
「お前のせいで……楓はああああっ!!」
姉さんが、振り返って大剣を下から上へと振り上げて蠍座の尻尾を弾いた。更にそのまま体を回転させつつ蠍座に向かって踏み込み、一閃して尻尾を切り飛ばし……飛び上がり、その顔に大剣を半ばまでめり込ませ、蠍座は再び頭部から地に沈む。
蠍座の前に着地し、右手で持った大剣を肩に置く姉さん。頭を振って肩に掛かった髪を払った後のその表情は、どこかスッキリしているようにも見えた。
「アタシの大事な弟の腕を奪ったんだから、尻尾の1つや2つ奪ったっていいでしょ」
「お姉ちゃん……カッコいい!」
「さっすが姉さん。男前だねぇ」
「カッコいいです風先輩!」
(なんだろう……嬉しいんだけど嬉しくない)
何故か自分達が誉めてるのに微妙そうな顔をする姉さん……いや、何でかは分かってるけどねぇ。後でちゃんと誉め直そう。流石姉さん、綺麗だったよってねぇ。
風が蠍座を沈めた後、4人で蟹座と蠍座の2体を囲み、封印の儀式を始める。すると蠍座の中から乙女座と同じ逆三角錐の形をした御霊が現れ、蠍座の下からも蟹座の御霊が出てくる。直ぐに破壊しようと動く4人だったが、ここで予想外の出来事が起きた。
「えっ、増えた!?」
「こっちは絶妙に避けてくるよ!?」
「なるほど、御霊によって固有の能力があるのか……厄介だねぇ」
蠍座から出た御霊が大量に分裂し、蟹座の御霊は友奈の拳をひらりひらりと紙一重で避けるのだ。ヴァルゴの時は単純に固かっただけだった為、動くとは思っていなかった風と友奈は驚き、楓は冷静に推測する。
だが、楓は分裂する相手とは戦ったことがある。その時の対処方でいいだろうと翼からワイヤーへと変えようとした時、分裂していた御霊が緑色の光のワイヤーによって残らず一纏めにされた。
「樹……?」
「いっぱい居るなら、全部纏めちゃえばいいよね。それに、怒ってるの……お姉ちゃんだけじゃないんだよ」
思わず呟く楓に、樹は俯きながら楓にそう答える。
彼が養子に出る前から、兄にべったりだった樹。ソファの上での膝枕と頭を撫でられるのは彼女にとって至福の一時だった。だがその手は奪われ、片足は感覚が無いという。姉のように復讐したい、という気持ちにはならない。どんな感情なのかもイマイチ良く分かってないのだから。だが、怒りを覚えない訳ではない。
「私だって……!」
樹がグッと力を入れる。するとワイヤーは収縮し、本体を残して他の御霊を細切れにする。
「私だって、怒ってるんだからー!! えぇぇぇぇいっ!!」
もう1度、ワイヤーを引きながら力を入れる。今度は本体に切れ込みが入り、そのまま細切れにされた御霊が砂となって崩れ落ち、下の木に吸収されるように消えた。
「ナイスよ樹! さっすがアタシ達の妹!」
「えへへ……うん!」
「樹ちゃん凄い! でも、こっちはどうするの?」
「そいつは自分に任せて」
姉と友奈から称賛され、照れる樹。その間も友奈は蟹座の御霊に拳に蹴りと攻撃を仕掛けていたが、なに一つ掠りもしない。どうする? と3人に問い掛けると、楓が着地しつつ翼から光の形を変える。
友奈の拳や蹴りといった“点”による攻撃は当たらない。なら、より範囲の広い“面”による攻撃ならばどうか。そして楓は、勇者部の中で最も多くの攻撃方法を持つ。中には当然、面による攻撃もあるのだ。
「“だいだらぼっち”」
楓がそう言うと、側に頭が富士山のようになっている土気色の体が丸い、腹の部分に“巨”と書かれている精霊が現れる。楓は左手を上に掲げ、光を操作すると彼の手を包み込むように、蠍座の尻尾も握ることが出来そうな巨大な左手が現れる。
左手を上に掲げ、パーの形に開いたその手を振り下ろす。今までのように紙一重で避ける程度では、逃げ切れる筈などなかった。ゴシャッという音の後にその巨大な手が消えた時、そこには御霊の姿等何処にもなく、代わりに砂が木の上に積もっていた。
「面で押し潰せば、問題ないねぇ」
「我が弟ながら何でもありね……飛んだり大きい手を出したり」
「楓くんも凄い! でも、何で今まで使わなかったの? 強そうなのに」
「使ってる間、動けないんだよ。後、大きすぎて使いづらい」
「お兄ちゃん、精霊がショック受けてるよ……」
さらりと言った楓の行動に思わず冷や汗をかく風と素直に称賛した後に疑問符を浮かべて首を傾げる友奈。それに楓が答えると、だいだらぼっちがガーンッ! とショックを受けたように落ち込み、それを見ていた樹が苦笑いする。
「さて、後はあいつだけね。皆、行くわよ! あ、楓は東郷の所ね。念のため、守ってあげなさい。儀式はアタシ達だけでも充分だしねぇ」
「はい!」
「うん!」
「了解だよ、姉さん」
3人は未だに美森から主に上の口の中の発射口と下の顔を狙撃されて封殺され続けている射手座に向かい、楓は翼を出して美森の元へと向かう。機動力に乏しい美森の防衛に様々な手段を取れる楓を回すのは、彼女への風なりの御詫びと気遣いでもあった。
楓が美森の左隣に着地する。それと同時に、3人が儀式を実行したのだろう。射手座の下の顔にある口から御霊が現れ……射手座の体の周囲を高速で周回し始めた。
「は、速すぎるよー!?」
「あーもう、なんで今回に限って!」
「ど、どうしようお姉ちゃん」
射手座の近くに居る3人から、慌てたようにそんな会話が聞こえてきた。だが、楓も美森も慌てた様子はなく、むしろ落ち着いている。
「どう?」
「問題な……いえ、そうね……楓君」
「うん?」
「貴方がそこに、隣に居てくれたら……必ず当てるわ」
「……それくらい、御安い御用って奴だねぇ」
楓が聞くと、美森は問題ないと言おうとして、途中で変えて答える。彼女の答えに楓は笑って了承し、先程よりも少しだけ距離を詰めた。
楓が己の左隣にいる。自分が、彼の右隣に居る。ただそれだけのことなのに、美森は不思議と落ち着き……不思議と、その位置がしっくりと来ていた。その心地好さの中で、狙撃銃のスコープを覗き込む。相も変わらず射手座の体の周りを高速で周回する御霊。それを撃ち抜くことに意識を注ぐ。
引き金を引く。さっきまで何度もやっていたことを、もう一度やる。放たれた銃弾は真っ直ぐに飛び……寸分の狂いなく御霊を撃ち抜き、ついでに射手座の体にもう1つ風穴を開けた。
「お見事。流石、美森ちゃんだねぇ」
楓からの称賛が耳に届くと、自然と美森は笑みを浮かべていた。
最後の御霊を私が撃ち抜いてから少しして、昨日と同じく学校の屋上に戻ってきていた。でも、昨日とは少し違う。今回は私も、皆の直ぐ近くに居た。
「お疲れ様、美森ちゃん。助かったよ」
「楓君……うん」
「東郷さーん!」
私の直ぐ左隣に居た楓君が、朗らかな笑みを浮かべながらそう言ってくれた。良かった、今度は守れた……? “今度は”? と自分の考えに一瞬疑問符が浮かぶものの、友奈ちゃんに正面から抱き付かれて霧散する。
友奈ちゃんに遅れて、風先輩と樹ちゃんもこちらへと歩いてきた。樹ちゃんは目をキラキラとさせていて、風先輩は……少し気まずそう。かく言う私も、部室でのことを思い出して少し気まずい。
「かっこ良かったよ東郷さん! もうドキッとしちゃった」
「ありがとう、友奈ちゃん」
「東郷先輩、凄かったです!」
「樹ちゃんも、ありがとう」
「あー、その……助かったわ、東郷」
「風、先輩……」
友奈ちゃんも樹ちゃんも私の手を取ってそう言ってくれる。変身して、皆を助けられた。皆、無事で良かった。そう思っていると、風先輩が頬を掻いて目を逸らしながら……それでもお礼を言ってくれた。だから私も、言わなきゃって……そう思った。
「風先輩……部室では言い過ぎました。ごめんなさい」
「……いいのよ。私も、黙っていてごめんなさい」
「いえ、内容が内容でしたから……それに、私も覚悟を決めました」
楓君と友奈ちゃんが攻撃されて、変身した時から覚悟は決まってる。何度も心が叫んでる。私も守る、私も頑張る。その言葉を胸に、私は何度も引き金を引いていたのだから。
私から不安を取り除いてくれた、いつも私を守ってくれた友奈ちゃん。私にいつも笑いかけてくれて、心に安心をくれた楓君。そして、私の学校生活を楽しいものに変えてくれている、風先輩と樹ちゃんも居る勇者部。皆を守る為に、皆と頑張る為に。
「私も……勇者として頑張ります」
「東郷……ありがとう! 一緒に国防に励みましょうね」
「……国防……はいっ!」
そうだ、これは歴としたお国の為にもなる戦い。即ち国防。なんて素晴らしい響き。勇者部としての活動に立派な国防が加わるなんて……思わずうっとりとしてしまう。何故か頭の中で陸軍将校と海軍将校の服を着た4人の子供がビシッと敬礼しているのが脳裏に浮かんだ。それはそれは素晴らしい光景だった。
隣から楓君の苦笑と呆れと微笑ましさが混ざったような生暖かい視線が突き刺さり、ハッとしてこほんと咳払いを1つ。いつまでもうっとりとしている訳にはいかないわ。そういえば、と気になったことがある。
「そういえば友奈ちゃん。課題は大丈夫なの?」
「課題……? あっ!? 課題……明日までだった。アプリの説明テキストばっかり読んでて忘れてた……」
「ふふ、そこは守らないし頑張らないから、友奈ちゃんだけで頑張ってね」
「そんなー! か、楓くん!」
「自分に助けを求められてもねぇ……まあ、手伝うくらいならいいか」
「楓くん……!」
「ダメよ楓君。友奈ちゃんの為にならないわ」
「そうは言ってもねぇ。最初くらいは大目に見てあげないかい?」
「ダーメ。1回やったらクセになっちゃうもの」
「楓くぅ~ん……」
「でもねぇ、こんな風にすがられると……」
「甘やかしてばかりもダメよ」
「「夫婦とその子供か(ですか)」」
あれから屋上を後にした私達は、結局友奈ちゃんのおねだりに楓君と私が押しきられ、いつかのように私の家で勉強……今回は友奈ちゃんの課題を見守っていた。手伝いだけは絶対にさせません。友奈ちゃんも楓君も大好きで大切だけど、それはそれ、これはこれです。
とは言うものの、適度に休憩と糖分の補給も忘れない。友奈ちゃんはぼた餅を作ると元気になって活動的になる。アメとムチはしっかりとしないと。勿論、楓君用の一口ぼた餅も忘れない。これを作ると、楓君は本当に嬉しそうに、美味しそうに食べてくれるし、実際に美味しいとも言ってくれる。それを見るのが、私は大好き。
友奈ちゃんの課題が終わったのは、夕方5時を回った頃。戦いと課題の両方で流石の友奈ちゃんも疲れたのか、フラフラとしながら帰っていった。でも……楓君はまだここにいる。私が、もうちょっとだけ話がしたいと言ったのだ。それを彼は、いつものように朗らかに笑って頷いてくれた。
「それで、話というのは……学校で聞きそびれたことかい?」
「……うん」
「確か……真っ白な男の子、だったかな?」
「うん……そうよ」
そんな会話の後に、私は話した。頭の中で真っ白な男の子の後ろ姿が過ること。その男の子に比べて背は高くなっていたけれど、その姿が変身した楓君と瓜二つなこと。種類こそわからないけれど、時折綺麗な白い花も見えること。
私には2年間の記憶がない。足も、動かない。それは2年前に交通事故にあったからだと教えられていること。でも、それよりも前の記憶にはそんな男の子も、白い花もなかったこと。
「だから……私の失った2年のどこかで、私は楓君と会っているんじゃないかって……楓君は、私の記憶が失われたことの理由を知っているんじゃないかって、思ったの」
「……そっか」
「……うん。それで、その……どう、かしら……」
楓君が目を閉じて考え込む。それは自分の中の記憶を探っているのか、それとも……少しして、彼は目を開けて……私を見て、苦笑いを浮かべた。
「ごめんねぇ。美森ちゃんの期待には応えられそうにないや」
「……そう」
「少なくとも、自分が“東郷 美森”と出逢ったのは、あの入部の日だしねぇ……ただ、白い男の子っていうのは、間違いなく自分のことだろうねぇ。他に真っ白な勇者なんて居ないし」
「そう、なのね」
「前に勇者仲間の子が怖い夢を見て深夜に自分に電話を掛けてきたことがあって、その時その子の元に行くために変身したことがあるんだ。もしかしたら、それをどこかで見られていたのかもねぇ」
「……そうかも、しれないわね」
「ごめんねぇ」
「ううん、いいの。私こそ、いきなりこんなこと聞いてごめんなさい」
そんな会話の後、彼は私の親に頼んで自宅まで送ってもらった。彼を見送った後に部屋に戻り……考える。
彼の表情を見る限り、嘘は付いていなかった。でも……多分、本当のことも言っていない。ずっと彼を見てきたんだ、表情1つ見ればある程度見分けることができる。友奈ちゃんに対しても同じことが出来るのは内緒だ。
どこからが嘘でどこまでが本当なのか、情報が少なすぎる今は判断出来ない。問い質したところでかわされるだろう。それに、悪意があってぼかしてる訳ではない。彼はそういうことはしない人だ、それは確信を持って言える。
「……今は、それが分かっただけでも充分、かな」
いつか、本当のことが聞けるだろう。もしくは、思い出すかもしれない。それに、記憶がないことは確かに不安だし、2年間のことは気になるが……今過ごしてる日常は、それ以上に幸せを感じてる。今はそれでいい。
(それにしても……)
その深夜に電話をしたという勇者仲間の子……流石に非常識じゃないかしら。そんなことを思うと、何故か私の頭にブーメランが刺さったイメージが浮かんだ。
原作との相違点
・完全に封殺されてる射手座
・最終的に頭部だけにされた上に蠍座の下敷きになった蟹座
・頭には風穴を開けられ、尻尾を切り飛ばされて頭をかち割られ、御霊を細切れにされた蠍座
・戦闘内容や屋上での会話の内容等、その他色々。
という訳で、かなり原作と内容が変わった戦闘回でした。これでもバーテックスは強化されてます。それ以上に勇者部がヤバかっただけです←
楓君の4体目の精霊はだいだらぼっちです。山や湖沼を作った等の話がある巨人の妖怪ですね。出した巨大な左手ですが、FGOのジャガーマン宝具、もしくはガッシュのバオウ・クロウ・ディスグルグを思い浮かべると分かりやすいと思います。
UA50000越えたので、次回は宣言通り番外編予定です。活動報告にあるリクエストに応えるつもりですので、鬱かほのぼのかは分かりません。また幾つかのリクを混ぜて書くかも←
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)