50000UA突破記念番外編。タイトル通り、DEifの続きとなります。どこまで続くんだろうか、このシリーズ←
尚、本編でのゆゆゆいはもうしばらくお待ちを。具体的には、結城 友奈の章の終わりまで。ゆゆゆいルートはがっつりやるか番外集みたいになるかは未定です。
アンケートにご協力ありがとうございました。結果、本編の銀ちゃんとリンクします。つまり……どこかで銀ちゃんは泣いたということに←
いつの間にか総合評価2000越えてました。皆様、誠にありがとうございます! 今後も頑張って参ります( ≧∀≦)ノ
「皆さんの活躍の~♪ おかげで~♪ 新しい援軍の勇者達を呼べるんです~♪」
小学生組の召還からしばらく経ち、現れるバーテックスを撃破して行っていたとある日。勇者部の部室に集まっていた面々は上機嫌なひなたからそう聞かされた。
あまりに上機嫌な為に須美がもしや……と聞いたところ、今回はやはりひなたの時代、西暦時代の勇者達がこの不思議空間にやってくるのだと言う。
「ひなたさんの仲間達、なんですね。な、何人くらい来るんですか?」
「5人ですよ樹ちゃん。より賑やかになりますね。その中には、園子さんのご先祖様もいます」
「のこちゃん達のご先祖様か……きっと2人みたいな、ふんわりした雰囲気の人なんだろうねぇ」
「「えへへ~、それほどでも~♪」」
「ふんわりしてるか? アレ」
「いやー、どちらかと言えば……独特?」
ひなたの言葉を聞き、新士がくすくすと笑いながらそう言うと園子ズが同じように照れ笑いをする。それを見ながら銀(中)が隣に居る小さな自分に問いかけると、銀(小)も首を傾げながら答えた。
照れていた園子(小)だったが、未来の自分だけでなくご先祖様にまで会えると喜びを露にする。須美は5人もの勇者が現れるとのことで戦力も上昇し、作戦の幅も広がると戦略面で喜色を示す。
「これで勇者の数が20人近くに! 風先輩。勇者部、大きくなりましたね!」
「全くねぇ……あたしゃそろそろ引退かしら? 後は若い者に任せて、のんびり縁側ライフを……」
「樹、姉さん縁側ある家に引っ越すってさ。これからは2人きりだねぇ」
「お姉ちゃん……私達、頑張って暮らすからね……ぐすん」
「止めてよ!? アタシは弟と妹からまだまだ離れないんだからね!?」
「樹が風を弄るとは珍しいわね……」
「これも新士君が居るからかしらね」
友奈が無邪気に喜び、風が隠居する年寄りのようなことを言ってボケるとすかさず新士が弄りに行き、樹がそれに乗る。楽しそうに弄る弟と泣き真似までする妹に風も大慌てし、夏凜と東郷は樹が風を弄るという珍しい光景に珍しそうにしていた。
そんなやりとりを皆楽しんで見ていたものの、これでは話が進まない。ということで、園子(中)が自身も気になっているご先祖様とはどんな人物かとひなたに問いかけると、ひなたは目を輝かせて話し始める。
「一言で言えば、西暦の風雲児ですね。初代勇者なんですが、その肩書きに相応しいです。新士君達の予想とは、残念ながら少し違いますね」
「風雲児!! か、カッコいい……流石初代様だ!」
「ふふふ、カッコいいとか、そんな次元じゃありませんよ? 今想像したカッコよさを100倍にしてみて下さい」
「100倍とは、また凄い数字ですねぇ」
「それでもまだ彼女……乃木 若葉の素敵さには到! 底!! 及びません」
「ご先祖様……普通じゃないんだね~」
「園子ちゃん、安心しなさい。あんたも普通じゃないから」
ひなたが言った“風雲児”に反応する友奈。その後の彼女の言葉に新士が凄い自信だなぁと感心しながら呟くとそう返ってきたので苦笑いになり、園子(小)ものほほんと感想を言うと夏凜が諭すように言った。
東郷が他の勇者はどうなのかと質問を続けると、ひなた曰くシャイな人から賑やかな人まで色々居て、共通して素敵な人物達であるという。そして、東郷と須美を見ながらからかうようにこう言った。
「西暦ですからね、実は外国人の方も……アメリカから来た勇者とか居たりして」
「米兵!?」
「須美ちゃん、一大事よ!」
「はい! 竹槍を持ってきます!」
「楓、これ使って」
「はい、そこまで」
「「あたっ」」
アメリカと聞いて目が据わり、敵対心を露にする東郷と須美。物騒なことを言い出した時点で新士は風がどこからか取り出したハリセンを受け取って2人の頭を軽く叩き、痛くはないがそこそこの衝撃を受けた2人の動きが止まる。
「なんでハリセンなんか持ってるのよ」
「楓関連で東郷と園子が暴走した時の為にね。まさか楓本人に使わせることになるとは思わなかったケド」
「あ、はは……すみません、外国人は冗談ですよ。まさか東郷さん達がここまで反応するとは……」
「東郷のトリッキーさにはその内慣れるわ。私も初めはメッセージのやり取りで驚いたし」
「おや、そうなんですか? 今度聞かせて下さいねぇ、夏凜さん」
「ええ、良いわよ新士君」
「え、ちょ、夏凜ちゃんやめてー!」
ハリセンを新士に手渡した風に呆れの視線を向ける夏凜に、風が胸を張って答える。頭を押さえる東郷と須美に苦笑いしつつ冗談だとひなたが謝ると、夏凜は慰めるように経験談を語る。それに興味を持った新士にその時のことを話す約束をする夏凜に、顔を赤くした東郷が阻止するべく突っ込むもさらりと避けられる。
くすくすと皆が2人の攻防を笑いながら見た後、ひなたが興奮したようにいよいよ勇者がやってくるという。勇者部も小学生組も一様に、その初代勇者達の登場を胸を弾ませて待っていた。
が、いつまで待っても一向にやってこない。中々姿が見えないかつての仲間達に、ひなたも少し寂しそうである。
「大丈夫だよひなたちゃん。風雲児なんだもん、遅れることがサプライズだよ!」
「い、一体どれほど凄い人なんだろう……風雲児……あたし、少し緊張してきた」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ銀ちゃん。それに、凄い人ならここにもいっぱいいるじゃないか」
「そりゃあ大きいあたし以外は皆凄い強い人だけどさー」
「あたしよ、お前はいちいちあたしを引き合いに出さなきゃ気がすまんのか」
「どうどう、落ち着いてミノさん」
「そうですね……では、若葉ちゃんがどれぐらい凄いかを具体的に語っちゃいましょうか!」
と、そこまでひなたが言った時、部室内にアラームが鳴り響く。もうすっかり聞き慣れたそれは、バーテックス……造反神による襲撃が始まったことの合図。
「容姿端麗、文武両道。弱きを助ける大英雄。町をあるけば皆が振り向く輝くオーラ!!」
「もしもしひなタン? ひなターン?」
「女性ですけど、男の子の新士君を含め、皆さん魅力に撃ち抜かれること間違いなし! 私が育てた若葉ちゃんをお楽しみに!」
だと言うのに、ひなたは意に介さず。園子(中)が目の前で手を振っても止まらず。目を輝かせて若葉を売り込む姿はさながら営業マン。女性だが。新士も魅力に撃ち抜かれると言われた園子(中)と園子(小)が素早く彼の左右に陣取り、その手を抱き寄せる。間に挟まれた新士は、ただただ苦笑いを浮かべるだけである。
「とりあえず、ひなたさん。説明してくれるのは有難いんですが……警報も鳴ったので、自分達は出撃したいんですがねぇ……」
「小学生に気を使わせてんじゃないわよ」
「あ、はい。ごめんなさい」
「あー……また後で教えて下さいねぇ」
「はい!!」
新士がやんわりと諭すように言うと、夏凜がひなたを叱り、彼女はしょんぼりと申し訳なさそうに肩を落とす。そんなひなたに新士は仕方ないなぁと頬を掻きながらそう言うと、それはもう満面の笑みが返ってきた。新士は再び苦笑いし、夏凜は呆れから溜め息を吐いた。
ふと、東郷が端末を見てこの場に居る者達以外の勇者が敵と接触しそうであると告げる。全員が確認すると、確かにこことは違う場所に勇者の反応があり、敵を示す反応と接触しそうになっているのが分かる。
「大変だ、敵の前に召還されちゃったんだ。早速合流しないと……ちょっと遠いから急がないと」
と、友奈がそう言った時だった。
「じゃあ、自分が先行しましょうかねぇ。この場だと自分が一番速度出ますし、先に
「「「ダメッ!!」」」
新士がそこまで言った時、そんな短くも必死な声が部室に響いた。思わずその場に居た全員が声の主……中学生の園子、東郷、銀に視線を向ける。本人達は新士の前に行って3人でその両手を握り締める。そのあまりの勢いに、思わず園子(小)も自分の意思とは関係なく新士から距離を取らざるを得ない。
「絶対ダメだよアマッち! 何が起きるかわからないんだから!」
「仲間だってこんなに居るんだぞ!? わざわざ1人で行くことなんかないって!」
「私も、私達も一緒に行くから! お願いだからやめて! ね!?」
(あー、この反応……そうか、
3人の怒濤の引き留めの言葉に苦笑いを浮かべつつ、新士はそう悟る。己の“1人”という言葉へのこの過剰なまでの反応だ、わからないハズがない。そもそも彼女達は本当に隠す気があるのかと疑わしく思う程だ。
このままでは、もしかしたら園子(小)辺りが気付くかもしれない。彼がそう危惧した時、ひなたから助け船が出される。
「ふふふ、大丈夫ですよ新士君。若葉ちゃん達は皆強いですから……とは言え、何が起きるかわからないのも事実です」
「そういうこと! ほら、早く行くわよ。楓から手を離す!」
「「「……はーい」」」
ひなたと風に言われて新士から渋々手を離す3人。その後、園子(中)と銀(中)を除いた勇者達は部室から出て西暦の勇者達が居るであろう場所へと向かうのだった。
「銀さん達があんなに焦るなんて……なんかびっくりだよな」
「本当にねぇ……余程のことをしたんだろうねぇ。大きい自分に会ったら説教しないとねぇ」
「過去の新士君が未来の新士君にお説教なんて、なんだか変な感じね」
「大きいアマっち……どんな感じなんだろうね~」
途中、小学生組がそんな会話をしているのを……真実を知る勇者部の面々は複雑な思いで聞いていた。
「あー、やっちゃったなぁ……新士にバレてないかな?」
「アマっち、多分9割方気付いてるね~」
「マジで? 自分が死んでるの……もう殆ど気付いてるのか……」
「……? それは多分呼ばれた初日で気付いてると思うよ? 私が言ったのは、死因とかも含めた“全部”に対してなんだけど……」
「前から思ってたんだけどさ、園子の新士に対する理解力とかお前らの察しの良さはなんなの?」
(これ、私が聞いていい会話なんでしょうか……?)
一方、部室ではそんな会話があったそうな。
あれからしばらく。無事に西暦勇者達と接触し、少しばかり問答があったものの連携して敵の殲滅を終えた勇者達。部室に戻ってひなたとの再会もそこそこに彼女からこの不思議空間の説明をされ、その後にお互いに自己紹介を始める。
「改めて、乃木 若葉だ。それで、戦闘の時にも言っていた私の子孫というのは……」
「は~い、私で~すご先祖様。乃木 園子、小学生バージョンです」
「宜しくね、ご先祖様。乃木 園子、中学生バージョンだよ~」
「そ、そうか……よろしく。体のパーツは私だが、雰囲気はひなたに似てるな……」
「うふふ、不思議ですねぇ。うふふ……」
己と子孫との雰囲気の違いと子孫が年代別に2人居るという異様な光景に戸惑う若葉の言葉に、ひなたが妖しく笑う。答えを知るのは彼女のみである。
その後、唐突に新士を除く小学生組3人からサインをねだられる若葉。その際に銀から“風雲児様”と呼ばれ、接触時にもそう呼ばれたことを思い出して何やら嫌な予感を覚える。
「ちょっと待て。君達、その風雲児とは一体?」
「ひなたさんからそう聞いてましてねぇ。何でも、容姿端麗、文武両道。弱きを助ける大英雄。町を歩けば皆が振り向く輝くオーラ。自分を含め、皆が魅力に撃ち抜かれること間違いなしとか……」
「「「うんうん!」」」
「ひ~な~た~!? またお前はそうやって……」
新士が聞かされたことを伝えると同意するように頷く小学生組。彼は苦労してるんだなぁと若葉に対して苦笑いを浮かべているが、他の3人は目を輝かせている。年下の子供達にそんな表情をされ、更にはひなたの凶行……若葉にとっては……に恥ずかしさからか握り拳を振るわせる。そんな彼女に、ひなたはてへっと舌を出して誤魔化す。
「待て待てい。乃木 若葉が乃木 園子の先祖ってのは名字が一緒だから分かるけど……じゃああの2人はなんだ?」
そう言ったのは若葉と同じ西暦勇者の土居 球子。彼女の視線の先にあるのは、自身の仲間である高嶋 友奈と……髪型の差異や服装を除けば見た目も背丈も、声すらも瓜二つな結城 友奈の姿。お互いにお互いの姿に戸惑いを隠せず、それでも同じように改めて自己紹介を行っていた。
「高嶋さんは友奈さんの先祖?」
「もしや、あたし達みたいに同一人物?」
「「ど、どうなってんのか分からん。教えてくれ、須美!」」
「同一人物ではないわね、銀。それから銀ちゃん」
「あ、こっちの須美が答えた」
「流石須美、友奈のことはお前が1番だな」
勇者部全員の共通認識にあるのが、友奈のことは東郷にお任せ。その期待に応えるように、東郷は言う。あの2人は確かに似てはいるが、全くの別人であると。それは何となく分かるのだと。
「そうね、高嶋さんと彼女は別人。私にも、何となくわかるわ」
同じように別人だと言い切るのは、西暦勇者の
「み、皆さん。改めて宜しくお願いします。精一杯頑張りますので……」
「こ、こちらこそ……よろしく、お願いします。仲良くやっていきましょう」
「ねぇ楓。あの2人、何だか似てない? こう、奥ゆかしいというか、なんというか」
「そうだねぇ、姉さん。なんだかこう、庇護欲みたいのが出るねぇ」
小動物のような雰囲気が似通っている杏と樹の姿に、姉と年下の兄が同じようにうんうんと頷く。背丈も年齢も違うのだが、姉兄的にはどうにも似ているらしい。
そんな会話の中、ふと気になったように……というか、気になって仕方なかったように若葉が新士の方を見て問い掛ける。
「しかし、男の勇者か……私達の時代には居なかったな」
「えっ、こいつ男だったのか!? 髪長いし顔もそっちの……妹の子に似てるからてっきり女かと」
「土居さん……男子の制服を着ているのだから当然でしょう」
「タマっち先輩……樹ちゃんだよ」
「新士くん、だっけ? でもさっき風さんが楓くんって……ともかくびっくりだよねー」
「おや、西暦には居なかったんですか。まあこっちでも男の勇者は自分以外に居ないみたいですからねぇ。ああ、名前については後で説明しますねぇ」
西暦の勇者達が驚いたのは、男の勇者が居たことだった。もしかしたら自分達が知らないだけで居たかもしれないが、少なくとも5人は見たことがない。それは西暦の巫女であるひなたも同様だが。
しかし、若葉が気になっているのはそれだけではない。確かに男の勇者も大いに気にはなったが……他にもある。こほん、と咳払いを1つした後、彼女は新士……の、両隣に居る己の子孫達に目を向ける。
「それも気にはなるが……その……乃木」
「「何ですか~? ご先祖様~」」
「ああ、どっちも乃木か……ややこしいなってそうじゃない。何で2人はここに来てからと言うもの、ずっと彼の両腕に組み付いているんだ?」
「若葉……折角気にしないようにしてたってのに……」
「仲良しさんだねー、新士くんと園子ちゃん達」
「そうね、高嶋さん」
「小学生カップル……しかもそこに未来の彼女……まるで恋愛小説のような光景が見られるなんて……はぁ」
若葉が聞くと、球子は苦々しく表情を歪めながら若葉を睨み、高嶋は笑いながら微笑ましげに3人を見つめ、千景はあまり興味はない……ようでやはりあるのかちらちらと見ては目を逸らす。そんな中、杏は仲が良い男女という関係性、しかも三角関係のように見える光景にどこかうっとりとしている。そんな彼女を見た園子ズは、目をキラーンと光らせて人知れずロックオンする。
「あー、気にしないで、直ぐに慣れるから。一定時間楓から距離を離すと泣き出すのよ、この2人」
「風さん、それは大丈夫なのか?」
「その辺は……察して。また後で詳しく話すわ」
「何やら複雑な事情があるようだな……分かった」
苦笑いしながら手を振って気にするなという風に、若葉は腕を組んで首を傾げる。聞いた限り、大丈夫そうには思えないからだ。だが、その後に風から耳打ちされてそう悟り、小声で返しつつ頷く。彼女の察しの良さに、風は感謝した。
「未来の小学生って進んでるんだな……それに比べてタマ達は……なぁ、どう思うあん……」
「これ、私が書いた小説なんだけど……これとか……後はこんなジャンルも……最近は年上の……と年下の……所謂“お”で始まり“タ”で終わるジャンルにも手を出してて……」
「これは……こ、こんなモノまで!? はぁ……はぁ……是非先生と呼ばせてください!!」
「ちょっと目を離した隙にあんずを変な道に引きずり込むんじゃない!!」
恋愛とは無縁だった自分達の勇者生活を思い返し、園子(小)に抱き着かれている新士を見て悲しくなる球子。ハァ、と溜め息を吐いて杏に同意を求めて彼女の方を向くと、そこには園子(中)に端末の画面を見せられて何やら興奮している杏の姿。時折妖しい単語も聞こえ、その光景はさながら洗脳されているかのよう。部室に球子の焦りが混じった怒声が響いた。
夕方、寄宿舎の一室を使って西暦勇者達の歓迎会を開いていた。この歓迎会は何だかんだでやっていなかった小学生組の歓迎会も兼ねている。2人の友奈が既に打ち解けていたり、風と若葉のリーダー組が仲良くなったり、日本大好きな須美が読書好きだと言う杏に話を聞いたり。銀はゲームが得意だと言う千景と共に球子と一緒に居たり。若葉も園子(小)に手を握られ、それをひなたに微笑ましそうに見られたり。新士は少し離れて見ていたが、高嶋に呼ばれて共に友奈から押し花を教わったりしていた。
気が付けば歓迎会が始まってからかなり時間が経っていた。少しして、須美が中学生組と新士の姿が無く、この場には西暦組と新士以外の小学生組しか居ないことに気付く。
「あれ、いつの間にか風さん達と新士君が居ない……?」
「風さん達はもう帰っているぞ。全員が寝不足では有事の際危ないからな」
「ご先祖様~。じゃあアマっちは~?」
「アマっち……とは犬吠埼君のことか。いや、雨野君、と呼んだ方が良かったな」
「新士君なら、風さん達と一緒に帰りましたよ。彼は寄宿舎に住んでいる訳じゃないですから」
「そっか、新士君は風さん達と一緒に住んでるって言ってたもんね」
須美の質問に若葉が答えると、次は園子が質問するもそれはひなたが答えた。彼女の言に、高嶋が納得の意を示す。予め、新士からは本名は犬吠埼 楓だが、小学生組として召還されたので当時の養子先の名前である雨野 新士で通していることと、寄宿舎ではなく家族である犬吠埼姉妹の家に住んでいることは説明されていた。
ここでようやく時計に目をやった須美が夜になっていることに気付く。そんなにも長い間杏に昔の日本の話をしてもらっていたことを申し訳なく思い彼女に謝るが、杏は自分も楽しかったと笑って返す。
「皆、優しいからリラックスできるというか……未来の勇者達も、いい人揃いだね」
「しかし、ふと思ったが……未来でも勇者達が居るってことは、敵もしぶといってことだよな」
「逆に考えようよ。人類側も滅んでない、あの状況を乗り切ったんだって」
「確かにな! 前向きでいいぞ、あんず。7タマポイントあげよう」
杏が今日出会った未来の勇者達のことを思い返しながらそう言うと、球子が不安……というより面倒そうに呟くも杏の言葉に笑顔になり、謎のポイントを与える。それを受け、杏は嬉しそうに笑った。
彼女の言葉を聞き、若葉もこうして未来がある以上、勇者である自分達は守りきれたのだと誇らしげに言う。その事実を再確認したからか、高嶋も少し涙ぐみつつ嬉しそうに頷いた。
「そうだ、今度は私達が神世紀の事を聞きたいな。須美ちゃん、教えてくれる?」
「勿論です。それでは、私達のことをお話しますね。神樹館小学校に通う、4人の話を……」
須美も、園子(小)も、銀(小)も代わる代わるに語っていく。楽しいことも、辛いことも、嬉しいことも、色んなことがあった……その日々を。
所々で杏が暴走しかけ、それを球子が必死になって止め、若葉とひなたが苦笑いし、高嶋は楽しげに、千景は……少し少女達を羨ましそうにしながら話を聞き、楽しい時間は過ぎていった。
「新士君は良かったの? 風先輩からは残ってて良いって言われてたんでしょう?」
「流石に、あれだけ異性が居る空間に居る勇気はないですねぇ」
少し時間は遡り、寄宿舎から出た辺り。新士は東郷と共に歓迎会の際に出たゴミを焼却炉に捨てていた。歓迎される側としてさせる訳にはいかないと彼女に言われたものの、さっさとゴミを持って行かれると何にも言えなくなり、こうして2人で捨てに来て、今は戻る途中という訳だ。
「それに、杏さんの自分とのこちゃんを見る目が少し……」
「ああ……」
園子(中)に何やら画面を見せられていた後、杏はどこか新士と園子(小)を見る目が怪しかった。悪いものではないとは思うのだが、どうにも落ち着かなかったので1度距離を置きたかったのだと言う。あの新士に距離を置かれるという杏の視線を思い出し、東郷も納得の声が漏れる。
ふと、東郷は彼と2人きりという状況を再認識する。思えばこうして2人になるのは初めてのことかもしれない。彼の側には必ずと言って良いほど小学生組の姿があったし、そうでなくとも家族である2人や園子(中)が居た。尚、園子(中)は前ほどではないにしろまだたまに耐えきれなくなって泣き出すことがあるので注意しなくてはならない。
「それに、東郷さんとこうして2人になるのはあんまりなかったですしねぇ」
「……そう、ね」
馴れない。東郷の今の心境は、その一言に尽きる。彼から東郷と呼ばれることも、敬語を使われることも。“のこちゃんさん”と呼ばれ、嬉しさと悲しさが混ざった彼女の表情の理由や心境も今なら良く理解出来る。彼と再び逢えたことは嬉しい。だが、彼にとっての東郷……“須美”とは過去の己であり、自分はあくまでもその未来の姿なのだ。名前すらも違う今、かつてのようにとはいかない。
(それでも……)
1度は忘れてしまった過去。あの日々のように接したい、接してほしいと思うのはワガママなことか。それとも、この心に宿る寂しさや悲しさはその日々を忘れてしまったことへの罰だとでも言うのか。
「ところで東郷さん」
「なに? 新士君」
「のこちゃんにもしてることなんですが……こうして2人で居る時は、須美ちゃんと呼んでもいいかねぇ?」
そんなことはないとでも言うように、彼からそんな提案が出された。思わず東郷の足が止まり、それに気付いた彼の足も止まり、振り返る。東郷の記憶と何も変わらない、穏やかな……朗らかな笑みが、そこにあった。
「え……あ……」
「ダメ、ですかねぇ?」
「ち、違うの! それは、私としても嬉しいけれど……いいの?」
「勿論、自分から言い出したんだからねぇ」
思ってもみなかった提案に少し唖然としたものの、彼に聞かれて慌てて答える。ダメな訳がない。あの日々のように彼に接して貰える。それはまるで、あの日に失った時間を取り戻すかのようで。同時に……あの日の悪夢を思い出させるかのようで。
「須美ちゃんは気付いてると思うけど……自分は、自分がどうなったか、ある程度想像はついてる」
「……」
「多分、偶然自分しか樹海に行かなかったか……自分が殿として1人残ってそのまま……そんなところだろうねぇ」
「っ……そう、ね……」
新士の予想はほぼ当たっている。自分達の行動や言動が原因とは言え、もうそこまで気付いてしまっている。なのに、彼は普段と変わらずに過ごしている。それが、東郷を含めた勇者部は不思議だった。
未来に自分の姿はない。自分に……“未来”は存在しない。それに気付いていないならともかく、気付いているのなら取り乱しても良い筈だ。なんで自分がと、死にたくないと、恐怖に泣き叫んでも誰も文句は言わない。少なくとも、東郷は自分なら泣いて喚く自信があった。
「新士君は……」
「うん?」
「怖く、ないの? だって、こんなの……自分がもう死んでるって突き付けられているようなモノじゃない」
「そりゃ、怖いよねぇ。ああ、怖いとも」
あまりにあっさりと、怖いと認めた。意外……ではない。東郷は覚えているのだ。初戦の時に彼が溢した恐怖を。それでも、自分達が怖い思いをするなら己が守り、頑張ると言った彼の背中を。
「でも、きっと……無意味に死んだ訳じゃないんだ」
「なんで、そう思うの?」
「だって、目の前に“東郷 美森”という“未来”があるじゃないか」
「あっ……」
「自分が死んだとしても……君達が無事に生きている未来があるんだ。それは自分が君達を、結果はどうあれバーテックスから守りきれたという証。これ以上に嬉しいことはないよ」
嘘だ、そう叫ぶことが出来たらどれだけ良かったか。東郷は覚えているのだ、彼の夢を。“自分達の夢が叶った姿を見てみたい”という、誰よりも東郷達の未来を望んだ夢を、はっきりと。
それでも、そう叫ぶことは出来なかった。あまりに彼の笑みが幸せそうだったから。少しだけ混じった悲しみが、あまりに痛々しかったから。他ならぬ己という存在が、彼の死が無意味でなかったことの証だったから。
「須美ちゃん」
「……」
「君は、幸せな日々を送れているかい?」
東郷は俯き、目を閉じる。辛いことはあった。悲しいこともあった。苦しくて投げ出したくなって、死のうとさえ思ったこともあった。
だが……勇者部と、何より友奈と出逢えた。記憶も戻り、かつての親友とも再会出来た……1人を除いて。幸せか? 幸せだろう。ただ、そこに彼が居ればもっと……そう思わずには居られない。しかしそれは叶わぬ夢に過ぎず……こうして奇跡のように再会出来ても、それは結局夢、幻のような出来事でしかなく。
「……ええ。私は……私が生きる日々は……間違いなく、
それでも、東郷は彼が望むであろう答えを言った。例えそれが泣き笑いで、悲しみに溢れた言葉であっても……その言葉自体に、何一つ嘘はなかった。
それでも、望まざるを得ない。
(貴方とも……そんな日々を生きたかった……っ)
感情のままに東郷が新士を抱き締め、身長差からその豊満な胸に彼の顔が埋まり、あまりに力強いその抱擁から逃げられない彼が精霊によって窒息死から助け出されるまで後1分弱。
今回は特に捕捉はありません。という訳で、DEifの続き、楓(新士)との西暦組の絡みの花結いの章3話でした。東郷さんにもちょっと救済ありですが、まだまだ危ういですね。
銀ちゃんは銀(中)にやんちゃな妹の如く甘えてます。弄り方は新士君と良く似てますね。因みにDEifを書くときは新士、雨野と書いてますがしょっちゅう楓と書いてしまいます←
次回は本編の続きです。遂にあのツインテ娘が登場。遂に勇者部が……赤、青、黄、緑、ピンク、そして楓の白……うーん、この戦隊色。天に輝く5つ星(6人)!
番外編はまたしばらく空きそうです。次は、何もなければクラスター戦終了後くらいになると思います。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)