咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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書き留めはここまで。次回からのんびり投稿になります。


鷲尾 須美は勇者である ー 1 ー

 家族に涙ながらに見送られた自分。あの時に自分も涙の1つも流せば良かったのだろうが、体感で既に100年近く生きている身ではそれは叶わなかった。我ながら薄情な人間だとは思うが、出なかったものは仕方ない。とは言うものの、心配事がない訳ではない。両親の様子を見る限り、自分を養子に出すことは寝耳に水で両親にも知らされていなかった事後承諾だったからか、相当苦悩してくれたようだ。そうなる程に愛情を注いでくれていたのは、子供冥利につきるというものだ。姉の風は妹の樹をよく自分に任せていたが、姉御肌な姉は年上から年下までの信頼は厚く、面倒見も良い。自分が任せ、姉が任せろと言ったのだ、きっと大丈夫だろう。あそこまで泣いてくれたのは、正直予想外だったが。

 

 心配なのは、やはり樹。あの子はまだ高学年に上がってそう時間は経っていない上に自分にべったりだった。姉よりも自分に懐いていたのは流石に分かっていた。だからこそ、その自分が居なくなって大丈夫なのか? と心配が絶えない。しかしあの子は自分の、何よりも姉の妹だ。きっと自分が居ない環境でも成長し、乗り越えてくれるだろう。心配も多いが、お役目とやらを終えて帰った時の成長具合が楽しみである。

 

 そんな感じに心境を語った自分だが、あの日から既に1週間経っている。雨野家の養子としてやってきた自分を出迎えてくれたのは、あの日の使者と同じ格好、同じ仮面を着けた多くの使用人と、これから親子として接していくことになる男の姿だった。詳しい容姿の説明は省くが、がっしりとした180半ばの身長の壮年の男だ。仮面こそ無いが、使用人達と同じ服装なのは彼も大赦に所属する者だからだろうか。

 

 「ようこそ、雨野家へ」

 

 朗らかな笑みと共に低い声で歓迎してくれた彼の姿は記憶に新しい。その日から自分は、犬吠埼 楓ではなく、雨野 新士(あまの しんじ)となった。

 

 

 

 

 

 

 三ノ輪 銀にとって、雨野 新士は突然やってきた転校生である。

 

 自らが通う小学校、名を神樹館(しんじゅかん)。その夏休みが終わり、始業式の日早々に遅刻した彼女が教室に入って見たものは、見覚えの無い男子生徒が自己紹介をしている場面であった。

 

 「今日から皆さんと共に勉学に励む仲間となります、雨野 新士です。どうぞよろしく」

 

 「ギリギリセーフ!! って、あっ」

 

 「……お願い……しま、す?」

 

 「……えーと……その……遅刻した三ノ輪 銀です! よろしく!」

 

 自己紹介中だと知らずに勢いよく自分のクラス、5年2組に入った銀。それを見ながらも自己紹介を続けるが、視線が銀の方へと向く転校生らしき男の子。その男子の自分の第一印象は間違いなく変な子になっただろうと、銀は担任に叱られながら思った。

 

 

 

 「さっきはごめんなさい!」

 

 「別に気にしてないよ。ほら、頭なんて下げなくていいから」

 

 休み時間、銀は直ぐ様新士の下に向かい、頭を下げて謝罪した。新士としては驚きこそしたがそこまで気にしてはおらず、むしろ直ぐに頭まで下げて謝ってきた彼女の人柄に好感を覚えていた。転校生の最初の自己紹介を台無しにしたことに罪悪感を覚えていた銀だったが、相手が本当に気にしていないことにホッとしつつ、頭を上げて改めて相手の男子……新士を見る。

 

 男子にしては長めの首程の黄色い髪。顔立ちはまだまだ幼さがある為か少女のようにも見え、瞳の色は緑。身長は先程の自己紹介の時に見た限り、自分と同じくらい……と、そこまで思ったところで、新士が苦笑いしながら自分の顎に右手の人差し指を当て、首を傾げるのが見えた。

 

 「んー、自分の顔に何かついてる? ジーっと見てるケド」

 

 「うぇ!? いや、えーと……目! 目と鼻と口がついてるな!?」

 

 「うん、そりゃあねぇ。むしろついてなかったらびっくりするねぇ」

 

 「で、ですよねー……」

 

 新士に問われたことで自分が初対面の男の子の顔をジッと眺めていたことに気付き、急に恥ずかしくなってすっとんきょうな事を言ってしまい、それをくすくすと笑いながら至極当然に返されて更に恥ずかしく思いつつ脱力する。どうにも自分のペースが乱れていると感じた銀は、なんとか挽回するべく気持ちを持ち直すことにした。

 

 「ねぇねぇ。雨野君ってどこから転校してきたの?」

 

 「なぁ、雨野って運動得意? 昼休み遊ぼうぜ!」

 

 「おおう、ちょっと待ってね、1人ずつね」

 

 が、その持ち直した気持ちも転校生特有の一時的な人気者化によってクラスメイト達が押し寄せ、その対応に新士が回ったことで無駄になり、銀はまたガックリと項垂れるのであった。

 

 

 

 昼休み、銀は再び新士の下へとやってきていた。

 

 「朝のお詫びとしてこの神樹館小学校の案内をしようと思う!」

 

 「うん、それは有難いケド……いいのかい?」

 

 「あたしから言い出したことだからな。あたしに任せなさい!」

 

 そんな会話から始まった学校案内。ここは資料室、ここは保健室、ここは音楽室と歩きながら説明していく銀とその少し後ろを歩く新士。その道中、新士は自分がなんだか睨まれているような気になり、銀の案内を受けながら周りを気にしていると男子から睨まれているような印象を受けた。

 

 「で、ここが職員室。あんまり来たくない場所だな」

 

 「流石に職員室の場所くらいは知ってるよ」

 

 「え? なんで?」

 

 「自分、転校生だからねぇ。職員室には最初に向かうよ」

 

 転校してきたばかりである自分が何かしただろうか? と内心首を傾げるが、銀が振り返りながら職員室を指差して説明と感想を述べ、苦笑いしながらそう返すとそれもそっかと納得した様子で照れ笑いをする銀。素直に可愛いと思った新士は成る程、それが理由かと納得する。なんということはない、ただの男子達の嫉妬の視線というわけだ。

 

 新士から見て、銀は姉の風、妹の樹と同様に美少女だ。直ぐに謝ることが出来る気持ちの良い性格で、こうして初対面の自分の案内を自ら買って出るくらい面倒見も良い。男子からの人気があることを想像するのは難しくなかった。

 

 「三ノ輪さん」

 

 「え? げっ……安芸(あき)先生……」

 

 「丁度良かった。貴女から遅刻した理由をまだ聞いてなかったわね……ちょっと職員室に来なさい」

 

 新士が1人納得し、銀が次に行こうと動き出す瞬間、職員室の中から彼女に声が掛かる。あっやべっと顔に出る銀に飽きれ顔で手招きするのは、眼鏡を掛けて一纏めにした髪を左肩から前に垂らしている女性、新士と銀クラスの担任である安芸。名前は不明である。

 

 「やー、雨野くんの案内がまだ」

 

 「自分のことなら気にしなくていいよ。後は放課後にでも探険がてら散策するから」

 

 「ごめんなさいね雨野君。さ、いらっしゃい三ノ輪さん」

 

 「え、ちょ、待っ」

 

 手を引かれて職員室に連れ去られる銀を見ながら、新士は苦笑いを浮かべた。この後銀は昼休みが終わる数分前まで、安芸によって軽いお叱りを受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 乃木 園子にとって、雨野 新士はどこか自分と波長の合う初めての異性である。

 

 大赦の中でも上里とツートップの位置に居る名家、乃木家。その令嬢として産まれた園子は、家の地位の高さ故に他の人間から近付き難い存在として見られることが多く、それは同級生でも変わりはなかった。神樹館でも休み時間も昼休みも1人で居ることが多く、普段は寝て過ごしている……というか、気が付いたら寝ていることが多かった。それは自覚しているのかいないのか天然かつのんびりとした性格と、ボーッとするのが好きで気が付けばそのまま寝てしまうという彼女自身の問題であるのだが。

 

 今日もそんな風に1日を過ごすのだろうか、そう考えて教室に入ると、既に何人か居る生徒達の中の1人の男子生徒が目に入る。その生徒こそが雨野 新士。昨日転校してきたばかりの彼は、園子に気付くと微笑みながら手を振った。

 

 「おはよう」

 

 「……! おはよう、なんよ~」

 

 なんてことのない朝の挨拶だが、そんな普通の挨拶を交わせたことが園子には嬉しかった。昨日は三ノ輪 銀に案内を受け、それ以外では他のクラスメイトに囲まれていた為、彼と接する時間はなかった。自分が近付けば会話の1つ簡単に出来ただろうが、それをすると他のクラスメイト達が自分に遠慮するかもしれない。それが嫌だったから、動かなかった。が、今なら生徒は少ないし朝のホームルームまで時間もある。1日我慢したこともあり、園子は自然と新士の方へと向かった。

 

 「?」

 

 「アマっちは朝早いんだね~」

 

 「あ、アマっち? まあうん、朝からやることが多くてねぇ……で、君の名前はなんだっけ?」

 

 「酷いよアマっち~。昨日自己紹介したのに」

 

 「流石に30人近いとねぇ……正直、しっかり覚えてるのって三ノ輪さんくらいなんだよねぇ」

 

 自分の席に鞄を置くこともなく一直線に向かってきた園子に首を傾げる新士に向け、なんとなく思い付いたあだ名で話しかける。そのあだ名に苦笑いを浮かべつつもちゃんと返してくれたことを嬉しく思いつつ、名を聞かれたことに驚いた。

 

 驚いたとは言うものの、まあそうだろうとは園子も自分で言いながら思っていた。まだたった1日しか経っていないし、彼と多く接していたのは銀だ。彼女の印象が強すぎて他が薄れるのも仕方ない。とは言うものの、乃木の名字を持つ自分の名前を覚えていないのは予想外ではあった。この神樹館の生徒ならば……いや、この四国の人間ならば、名前はともかく名字くらいは覚えているモノだと思っていた。“乃木”にはそれほどまでのネームバリューがあるのだから。

 

 チラッと、園子は他の生徒の様子を軽く確認する。自分達の会話が聞こえていたのだろう、新士に向けて信じられないといった顔をしている者、何を想像したのか青ざめている者、何やら口パクで新士に伝えようとしている者もいる。別に何かする訳でもないのだが、そんな風に思われているのかと悲しくなる。

 

 「それじゃああらためまして……乃木さんちの園子です~」

 

 「これはご丁寧に……雨野さんちの新士です。よろしくねぇ」

 

 「! よ、よろしく~!」

 

 乃木の名を聞いても、新士は他の生徒のように態度を変えることはなかった。それどころかおふざけ混じりの自分の名乗りに、同じように返してくれた。そんな“普通の友達”のような会話が、本当に嬉しかった。今日1日はきっといつもよりも楽しくなる……そう思うくらいに。

 

 

 

 同日、園子は自然と新士を観察していた。このクラスの席順は出入口側から五十音順と決まっており、“あ”で始まる新士は一番前の端という位置にいる。対して園子は丁度真ん中辺りで、自分よりも前ならば端から端まで見渡せる。なので、新士の背中はよく見えた。

 

 授業態度は良い。ノートもしっかり取っているし、黒板に答えを書くように言われた時にはスラスラ書けているので理解も出来ているようだ。少なくとも今日行われた授業で理解出来ていないところはないらしい。休み時間にはまだ人気者効果が続いているのか、男女問わずに話し掛けられていた。その中には銀も居て、“今度あたしの超オススメの場所を紹介してやるからな!”と笑いながら言っているのが見えた。即ち、友達とのお出かけ。何とも心踊る言葉だと園子は思った。そして、このままではまた昨日のように話し掛けられないまま終わると危機感を感じ、昼休みに話し掛けようと決意する。1日と休み時間を我慢したのだから昼休みくらいはいいだろう……そんなことを考えていた。

 

 そして昼休み、園子は教室から出ようとする新士に声をかけた。

 

 「アマっち~」

 

 「んぁ? なんだい乃木さん」

 

 「どこに行くのかな~って。あ、私のことは乃木さんじゃなくて、ノギーとかそのっちとか呼んでいいよ~」

 

 「あだ名かぁ……そうだねぇ。じゃあ“のこちゃん”って呼んでもいいかい?」

 

 「おお~のこちゃん。いいよいいよ~」

 

 まさかあだ名呼びをすんなり受け入れてくれるとは思っていなかった分、喜びが大きい園子。やはり彼は他のクラスメイトとはどこか違うと確信を深める。勿論、園子にとって良い意味でだ。

 

 「で、どこ行くの~?」

 

 「どこかのんびり出来るところでも探そうと思ってねぇ。あんまり食べた後は動きたくないしねぇ」

 

 「おお~。それなら私が良い場所を知っているのですよ爺さんや~」

 

 「本当かい? それなら教えておくれ婆さんや」

 

 「了解~♪」

 

 こんな寸劇にも付き合ってくれる。話のテンポも語尾を伸ばすところもなんとなく似ている。そんな共通点が嬉しくて、場所を案内する為に彼の前に出る時にその手を掴んで引く。咄嗟の、というか嬉しさのあまりと言うべきか。そんな行動をとった自分に驚きつつ園子は進み、新士も園子の速度に自然と合わせて付いていく。どうやら歩く速度まで似ていることに、園子は口元を弛めた。

 

 尚、園子が案内したのは中庭であり、2人はベンチに座ってのんびりとボーッとして過ごした。

 

 

 

 

 

 

 鷲尾 須美にとって、雨野 新士は同じお役目を担うことになるであろう相手であった。

 

 (今日も一緒にいるのね……乃木さんと雨野君)

 

 彼が同じクラスに転校してきてから1ヶ月。須美が登校して教室に入ると一番最初に視界に入るのが、今入った出入口に一番近い席に座る新士と、その隣の席の椅子を借りて新士の机に頭を置いて寝こけている園子の姿だ。この時の新士の行動として、本を読んでいるか寝ている園子の頭を撫でているか肘をついた手の上に頭を置いて一緒に寝ているかの3パターンに別れる。今日は本を読んでいるらしい。そこまで考えると、扉が開いた音に反応して本から顔を上げた新士と目が合った。

 

 「おはよう、鷲尾さん」

 

 「ええ、おはよう、雨野君」

 

 簡単に挨拶を交わし、須美は自分の席に向かい、座る。そして授業の準備をしつつ、彼女は雨野 新士という人物について考える。

 

 鷲尾 須美は別の家からお役目の為に鷲尾家に出された養子である。養子に出されたと言っても元の家と同じように今の両親からも愛されている。そして須美は、新士が自分と同じく別の家から雨野家に出された養子であると、今の父から聞いていた。

 

 乃木、上里、高嶋、土居、伊予島、鷲尾、三ノ輪、白鳥、赤嶺、そして雨野。以上が大赦の中でも高い地位に存在する名家であり、お役目……つまり“勇者”、或いは“巫女”を輩出してきた。しかし年々神樹様から勇者として選ばれる子供が減り、須美や新士が“勇者は名家より輩出される”という伝統の為に養子に出された訳だ。

 

 自分と同じ立場であるハズの彼。しかし、その態度はあまりに須美とは違っている。真面目過ぎる程に真面目で、お役目にどこまでも真摯に向き合う須美に対し、新士は気負うこともなく自然体で居る。決して不真面目という訳ではないのはこの1ヶ月で理解しているのだが……園子と言い銀と言い、大事なお役目を請け負っているという意識があるのかないのかわからない。そもそも本当に男である彼がお役目を担っているのかも半信半疑なのだが。

 

 (私が気負いすぎ、なのかな……?)

 

 まだ始まってすらいない“お役目”。だからこそいつ始まるかもわからない。警戒して、備えて、常在戦場の気持ちで居る……と、いうのに。

 

 (あんな風に気の抜けた姿を見せられると……ね)

 

 彼の席で気持ち良さそうに眠る園子。本を読みながら時折彼女の頭を撫でている新士。今はまだ教室に姿を見せていない銀。こんな調子ではいざお役目が始まった時にちゃんと出来るのかと不安になる。が、まあ今はいいか……と自分の気まで抜けていくような気もした。

 

 そして、今日もまた1日が始まる。それは同時に、戦いの日が近付くことを意味していた。




原作との相違点

・勇者の数が3人から4人に。

・園子に友達(主人公)が増える。

相違点ではないですが、5年生の時点でわすゆ組は同クラスとしています。お役目的にも一纏めにした方が良さそうですしね。

次回から一気に原作付近まで飛ぶ予定です(´ω`)

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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