咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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最近更新速度が落ちてきたなぁ……という訳でお待たせしました(´ω`)

漫画ゆゆゆの4巻やっと手に入りました。はっはっは、内容くっそ重てぇ。私のDEifとか霞んで見えますな!

今回、とうとうあのにぼし娘が登場しますが……この先は読んでからのお楽しみ←

彼女が好きな方は、ちょっと注意です。賛否両論ありそうですが、必要なことなのです。


結城 友奈は勇者である ー 7 ー

 ここは夢だと、そう思うのに時間は掛からなかった。神樹様といつも会っていた空間とも違うし、何より自分は生身だ。生身で、自分は……しっかりと()()()()()()()()

 

 そして今自分が居る場所は……過去に何度も来たことがある、のこちゃんの部屋だ。会えない時間が長過ぎて、自分でも気付かない内に彼女に……彼女達と過ごしていた日々を求めていたのかもしれない。何だか恥ずかしくなり、()()()頬を掻く。

 

 「カエっち」

 

 「……うん。君も居ると思ってたよ……のこちゃん」

 

 いつの間にか、讃州中学の制服を着た……成長した姿ののこちゃんがベッドに腰掛けていた。ここまで都合が良いと、誰かの意思を感じてしまうねぇ。

 

 ふと気付くと、のこちゃんが座っているベッドの掛け布団が盛り上がっていることに気付く。どうやら彼女以外にもそこにいるらしい。候補として上がるのは、美森ちゃんか銀ちゃん。ここが夢ならば、そこに居るのはきっと……。

 

 「その掛け布団は、銀ちゃんかい?」

 

 「当たり~。流石カエっち。ほらミノさん、恥ずかしがってないで出ておいでよ~」

 

 「わー! 待て、話し合おう園子。まだ心の準備が……ああっ」

 

 どうやら予想は当たっていたようで、のこちゃんがそう言うと布団をひっぺがそうとする。中から銀ちゃんの抵抗する声が上がるが、あっさりと布団は取られ……中からのこちゃんと同じく仰向けで寝ていた讃州中学の制服を着た、成長した姿の銀ちゃんが現れる。

 

 布団が剥がされたことで自分と目が合った彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめ、ベッドの上でスカートを押さえてペタンと……所謂女の子座りをする。何とも可愛らしい姿に、思わずくすりと笑みが溢れた。

 

 「久しぶりだねぇ、2人共……って言うのは、夢だからおかしいのかな?」

 

 「ううん、おかしくないよカエっち。ここはね、私の獏と枕返しっていう新しい精霊の力で作り出した“夢空間”。私の力が足りなくて大規模な空間は作れないけど……私の部屋と、カエっちとミノさんを夢に呼び出すくらいなら出来るんだ~」

 

 「つーわけで、その……久しぶり!」

 

 のこちゃんの説明になるほど、と思う。獏も枕返しも、自分でも知ってる夢に関する妖怪達だ。自分も与一で弓の命中率を上げたり出来るし、他の精霊がその特色を生かした能力を持っていてもおかしくはない。

 

 それに……例えこれが本当に夢でも構わない。自分とて彼女達には会いたかった。何せ、あの大橋での戦いから……ずっと会えなかったんだからねぇ。そう思いつつ、銀ちゃんに手を振って2人の元に近寄る。普通に歩ける……そのことが、とても嬉しい。

 

 「会いたかったよ、2人共」

 

 「……うん。私も……会いたかった……うええええんガエっぢいいいいっ!!」

 

 「おっと……っ!?」

 

 「あ、あたしも、その……会いたかった、ゾ」

 

 泣き出したのこちゃんに抱き着かれ、遅れて銀ちゃんも抱き着いてきて……驚愕する。本当に……夢とは何でもありらしい。

 

 ()()()()()。今や自分よりも小さくなった2人の少女の体の暖かさを、確かに自分は感じていた。今更になって気付く。のこちゃんが言った“夢空間”では、どうやら捧げた供物も戻ってきているらしい。現実ではないからなのだろうが……見えなかった左目も、聞こえなかった左耳も……見える、聞こえる。失くした右腕で彼女達を抱き締められる。

 

 思わず、のこちゃんのように両の目から涙が零れる。悲しいからではなく、嬉しいから。一時的でもいい、のこちゃんの言う“夢空間”すら自分の夢でしかなくても、それでもいい。確かに感じているこの温もりが嘘でも……今は、有難い。しばらくの間、自分達はもらい泣きした銀ちゃんも含めて3人して抱き合って泣いていたのだった。

 

 

 

 落ち着いて3人でベッドに座った後……のこちゃんが左、銀ちゃんが右、自分はその間……改めてのこちゃんから説明を聞いていた。この“夢空間”では自分達が()()()()()状態、想像出来る姿で居られること。彼女達が成長している姿かつ讃州中学の制服を着ているのはそれが理由なんだとか。

 

 「どうかな? カエっち」

 

 「うん、2人共良く似合ってるねぇ」

 

 「良かった~♪」

 

 「そ、そうかな? ……へへっ……♪」

 

 (どうにも銀ちゃんの様子が……しおらしいというか、より女の子らしくなったというか……気のせいかねぇ?)

 

 そう褒めるとベッドから立ち上がってくるくると回ってスカートを翻すのこちゃんと頭を掻いて照れ笑いをする銀ちゃん。変わらない笑顔を見せてくれるのこちゃんに対して、銀ちゃんは……失礼な言い方になるかもしれないが、随分と女の子らしくなった。

 

 制服の鑑賞もそこそこに、彼女達の現状を教えてもらった。彼女達はあの日以来、どこかの一室に奉られるように共に保護されているらしい。接触出来る人間は身の回りの世話をする人間を除けば、後は安芸先生と一部の大赦の中でも上の人間だけらしい。

 

 「実はね、安芸先生からカエっちとわっしー……今は東郷さんなんだっけ。それから勇者部の話は聞いてるんだ~」

 

 「おや、そうなのかい?」

 

 「安芸先生、あれからあたし達の専属とかお付きの人? みたいな立場になったらしくてさ……外の話、色々してくれるんだ」

 

 「頼んだら写真とかも撮って見せてくれるんだよ~。制服をイメージ出来たのもそのお陰だしね~」

 

 (何時撮られたんだろうか……)

 

 少し疑問には思うが、まあこうして彼女達の制服姿を見れたのだから良しとしよう。それに、安芸先生が彼女達の為に動いてくれている、楽しませようとしてくれているようで良かった。

 

 保護されていると言えば聞こえはいいが、その実態は監禁のようなモノだという。動かない体では娯楽など2人での会話くらいのモノで、後は安芸先生が持ってくる写真や外での話くらいなんだとか。少し前までは勇者システムのアップデートの為に端末まで取り上げられていたらしい。端末が戻ってきたから、こうして精霊の力を使っている訳だ。

 

 「でね~、こないだミノさんにカエっちのおよ……」

 

 「わー! わー!! 園子! それは言っちゃダメな奴!」

 

 「おや、自分には秘密かい? 気になるねぇ」

 

 「その、秘密っていうか、えっと……とにかく楓には教えない!」

 

 「わかったわかった、聞かないから落ち着いて。のこちゃんの口から魂出てる出てる」

 

 何かを言おうとしたのこちゃんの襟首を掴んでガクガクと揺らす銀ちゃん。激しく前後に揺さぶられた彼女の口から魂的な白いものが出ているので止めさせる。そんなに顔を赤くさせて、のこちゃんは彼女から一体自分の何を聞いたのか。

 

 「安芸先生から聞いたんだけどさ、楓も……その……結界の外とかの話を忘れたって本当?」

 

 「嘘だよ?」

 

 「えっ、ミノさん信じてたの?」

 

 「園子は知ってたのか!? な、なんでそんな嘘を? って須美の為か」

 

 「それと、勇者候補の中に自分の姉と妹の名前もあってねぇ。友華さんから話は聞かされていたから、そこに向かう為の方便として、ね」

 

 自分が何故彼女達のように保護されずに勇者部に居るのかという話をしたり。のこちゃんは自分が嘘をついていることは気付いていたらしい。銀ちゃんは知らなかったが、直ぐに理由に気付いてくれた。

 

 今思えば、友奈ちゃんが居る以上自分がサポートとして行かなくても須美ちゃん……美森ちゃんは1人で居ることはなかっただろう。怖がりな彼女を1人にはしておけない、なんてのは自分の独り善がりだったのかもねぇ。尤も、姉さん達のこともあったので結局は向かっていただろうが。

 

 そんな真面目な話以外にも思い出話に花を咲かせる。美森ちゃんがこの場に居ればもっと楽しかっただろうが……それは、この場の誰もが思っていることだろう。だから、誰も言わなかった。でも……今度は4人で。そう、全員が思ったハズだ。

 

 数時間、ずっと話していた。その間、のこちゃんはずっと自分にべったりで、銀ちゃんも恥ずかしそうにしつつも右手をずっと繋いでいた。まるで現実で会えない時間を埋めるように。それでも、楽しい時間とは早く過ぎるモノであり……夢である以上、いつかは醒める。

 

 「あ……これは……」

 

 「なんだ!? 体が透けて……!?」

 

 「……あ~あ、もう終わりか……これはね、夢が醒める合図なんだ。私の力じゃ、皆が寝てる間だけしかこうして夢に呼べないんだよ。それに……同じことをするなら、またしばらく時間を置かなきゃいけないんだ~」

 

 「おや……それじゃあ、次に会うのはしばらく後になるんだねぇ……いつか、夢でなく現実で……いつでも会えるようになりたいねぇ」

 

 「……うん……カエっち」

 

 「うん?」

 

 「ごめんね……ぐすっ……私達の夢……叶えられるかわからなくって……カエっちの夢、叶えてあげられないかも……ひっ……しれない」

 

 (園子……前にあたしには大丈夫だって言ったのに……やっぱり空元気だったんだな)

 

 突然自分達の体が透けだし、それは夢から醒める合図だと言う。しかも同じことをするならしばらくの時間を要する。何とも上手くいかないものだ。だが、会えて良かった。彼女達の姿を見れて、彼女達の話を聞けて……彼女達の現状を知れて、安心出来た。

 

 そう思いながら言うと、のこちゃんが泣きながらそう言った。銀ちゃんが彼女を辛そうな表情で見ているのが少し気になったが……今は泣いている彼女の方が大事だ。

 

 「……いいんだよ、のこちゃん。それよりも、君達が生きてくれている方が嬉しい。それに……供物だって、いつか戻る。また、この夢のように五体満足で……皆で昔みたいに一緒に居られる日が来るよ」

 

 「うん……うんっ……」

 

 「銀ちゃんもおいで?」

 

 「えっと……お、お邪魔します……」

 

 泣くのこちゃんを抱き締め、銀ちゃんにもそう言うとまた顔を赤くして恥ずかしそうにおずおずと抱き着いてきた。彼女達も年相応に成長した姿をしているが、昔に比べて背が伸びた今の自分よりも彼女達は小さい。すっぽりと、とまでは言わないが充分に抱き締められた。

 

 彼女達を安心させるように……自分も、この温もりを忘れないように。完全に目覚めるその時まで、3人で抱き合っていた。

 

 (それにしても……のこちゃん達の夢に自分の夢、か)

 

 

 

 そんな話……()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 いつもの時間に目が醒めた。何か……とても幸せな夢を見た気がする。残念ながらその内容は思い出せないが……本当に、幸せな夢を見た……そんな気がする。

 

 (覚えていないのが残念だねぇ……)

 

 上半身を起こして左手を目の前に持ってきて握る。いつもの、冷たいとも温かいとも感じない体。なのに、何故だろうか……その手に、前にも感じたことのある温かさが残っている気がした。

 

 

 

 「ミノさん、おはよ~」

 

 「おはよ、園子。ってうわまだ5時半じゃん……なんでこんな早い時間に。でも……うーん、何だかいい夢見た気がする!」

 

 「え、覚えてないの?」

 

 「覚えてないって……何が?」

 

 「……ううん、何でもない」

 

 (あの空間のことを覚えてない……多分、カエっちも……そっか、覚えてるの私だけか……もっとカエっちと色々しておけば良かったな~……あれとかこれとかソレとか)

 

 

 

 

 

 

 2度目の戦いから1ヶ月が経った。その間は至って平和な日常そのものと言っていいだろう。いつ敵がやってくるかわからないという緊張感はあったものの、勇者部は普段通りに活動し、猫の里親探しも順調に進んだ。ただ、そこに楓の助言で勇者としての力の把握に努める時間を各々が取っていた。とは言うものの、そこまで本格的な訓練は行えなかったが。

 

 せいぜい毎日アプリの説明テキストを確認するのを日課としていたくらいで、後は自室で変身して武器を持つ者は軽く振ったり手に馴染ませたり、友奈は父から学んでいた武術の動きをしていたりしただけである。この時、樹がワイヤーを使って部屋の掃除をしていたところを楓に見つかり、“掃除くらいは勇者の力を使わずにやりなさい”と珍しく怒られていた。

 

 部室で皆が精霊を出していると、友奈の牛鬼が精霊達を齧り出すという珍事も起きた。風の犬神も、樹の木霊も、美森の青坊主も齧られたが、唯一夜刀神だけは齧られる前に反撃。その長い体で牛鬼の首を絞め、牛鬼は泡を吹きながら短い手で必死に夜刀神の体をタップしていた。精霊達のヒエラルキーの頂点が決まった瞬間でもあった。

 

 他の部員は知らないが、美森はこっそりと青坊主に様々な芸や技術を学ばせて居たりする。横に割れた卵のような見た目の青坊主は黒い部分から小さな手を出すことが出来、カメラを使ったり料理の手伝いをしたり出来るという。彼(?)が美森の命令の下撮った隠し撮り写真は数知れず、美森のパソコンの中に納められている。

 

 一部怪しい動きはあったものの、概ね平和であった。が、遂に3戦目となる戦いの合図である樹海化警報が鳴り響いた。5人は樹海に来ると直ぐに勇者に変身し、遠距離攻撃出来る楓と美森は少し距離を置いて場所取りをして、他の3人はアプリに映る敵の下へと急ぐ。

 

 「1ヶ月振りだけど、皆大丈夫よね?」

 

 「もちろんです! ちゃんと毎日説明テキスト読んでましたから!」

 

 「が、頑張る!」

 

 「美森ちゃんは大丈夫かい?」

 

 「勿論。テキストは全て頭の中に叩き込んであるわ」

 

 強化された勇者の聴覚は離れていても会話を可能にしていた。全員が戦闘に問題ないと判断し、もう間も無く敵と接触する頃、風が気合いを入れるために叫ぶ。

 

 「そんじゃ、今回も勝つわよ。勇者部5ヶ条1つ、“成せば大抵なんとかなる”! 勇者部ファイトぉぉぉぉっ!」

 

 「「「「オー!」」」」

 

 気合いは充分、やる気も充分。そんな勇者部の前に姿を現すのは、かつて楓も戦ったバーテックス、山羊座の名を冠するカプリコーン。その姿を見た楓がカプリコーンの情報を伝えようとしたその時、敵の上空から短刀が降り注いで突き刺さり、爆発を引き起こした。

 

 「え……!? 東郷さん?」

 

 「それともお兄ちゃんが……?」

 

 「いいえ、私達じゃないわ」

 

 「うん……皆、上だよ」

 

 前線に居た3人が突然爆発した敵に驚き、後方に居る2人がやったのでは? と疑問の声を上げるが美森は否定する。そんな中、楓が全員にそう伝えて言われた通りに見上げる4人。そこには、敵に向かって落下する、赤い勇者服を身に纏った茶髪のツインテールの少女の姿があった。

 

 「ちょろいわね……封印開始!」

 

 そう叫んだ少女は先の短刀をカプリコーンの周囲に投げて突き刺し、本来数人で囲んで祝詞を唱えなければならない封印の儀式を1人で発動させる。1人で行ったことに風が驚き……同時に、彼女が1人でバーテックスを倒そうとしていることを悟る。

 

 「思い知れ、私の力をね!」

 

 やがて現れる御霊。その姿を見た全員が警戒する。前回の戦闘で御霊毎に固有の能力を持つことは分かっている。その見た目から判断するのは不可能である以上、どんな能力を持つのか分かったものじゃない。

 

 数秒の間を置き、御霊から大量の毒々しい色をした煙が噴き出した。それは御霊の姿を隠し、近くに居た3人にも襲い掛かる。

 

 「わ、わっ!? 何この煙ー!?」

 

 「ガス!? こほっ、前が見えません……」

 

 友奈と樹がそんな声を上げ、後方に居る楓と東郷から全員の姿が見えなくなる。2人は同時に舌を打ち、楓は美森の腰に左手を回すとそのまま片手で抱き、美森もリボンを彼の体に巻き付けて固定し、楓は翼を出して飛び上がる。その直後、楓達が居た場所にまで煙が広がってきた。

 

 空中で美森は御霊に狙いを定めようとするが、やはり煙のせいで見えない。が、3人の周りにバリアが発生しているのが見えた。毒ガス……2人が同時に煙の正体に辿り着く。

 

 「そんな目眩まし……気配で見えてんのよ!!」

 

 少女は見えない御霊に対してそう言うと両手に刀を持ち、言った通りにまるで見えているかのように御霊に近付き、その2刀を振るい切り裂く。が、一撃では足りなかったのか切れ込みが入っただけで御霊は健在であり……それも着地後に投げられた短刀が切れ込みに入って爆発したことで砂と消える。それと同時にガスも消え失せた。

 

 「殲……滅!」

 

 「諸行無常」

 

 それを見届けた少女からそんな声が聞こえ、側に浮いていた戦国武将のような鎧姿の精霊が続くように一言呟く。彼女が現れてから撃破まで僅か1分足らず。勇者部の面々はあまりの早業と出来事に何も言えず……楓と美森はゆっくりと3人の側に降りて翼を消し、美森もリボンを外して少し離れる。

 

 そんな5人に、少女が近付いてきた。が、5人……楓以外の4人に目を向けるなり腰に手を当て、はぁ……と溜め息を吐く。その姿に、風と楓が少し顔をしかめた。

 

 「えーっと……誰?」

 

 「そっちの先代勇者はともかく……揃いも揃ってボーッとした顔をしてんのね」

 

 「えっ」

 

 「こんな連中が神樹様に選ばれた勇者ですって? ……本当なの?」

 

 友奈の問いかけを無視し、さらりと毒を吐く少女。いきなりそんなことを言われてびっくりとしている友奈を他所に、少女はそう続けると最後には鼻で嗤う。友奈を無視された上に初対面の少女にそんな態度を取られ、美森も少し顔をしかめ、樹と友奈は苛立つよりも困惑が大きい。

 

 「……で、君は誰なんだい? それと、初対面の人間にその態度は失礼だと思うけどねぇ」

 

 明らかに不機嫌な声の楓。普段あまり怒らない彼にすれば珍しい声に、少女よりもそっちに意識が行く勇者部の面々。少女も一瞬慌てたような顔をするも、それを見たのは楓だけであった。そんな表情を見て、楓はおや? と内心首を傾げる。

 

 「……こほん。私は三好 夏凜。大赦から派遣された、正真正銘の正式な勇者よ」

 

 「……へぇ……大赦から……ねぇ」

 

 大赦、と聞いて風がそう呟く。その声に籠められた怒りに楓を除く勇者部がビクッと肩を跳ねさせた。少女はそれに気付いているのかいないのか、そのまま言葉を続ける。

 

 「つまり、あんた達は用済み。はい、お疲れ様……」

 

 「勝手なことを……っ!」

 

 「姉さん」

 

 少女……夏凜の勝手な言い種に思わず激高しそうになる風を、楓は彼女の右手を掴むことで止める。どうして!? そんな声が聞こえてきそうな程の怒りの形相を浮かべる風に、楓はただ首を振る。ただ、楓も怒りを覚えない訳ではない。

 

 「三好さん、と言ったねぇ? それはつまり、今後自分達は戦わなくていいと大赦が判断した……そう捉えていいんだね? 大赦に君が来るなりそう伝えてきた、そう言っても問題ないね?」

 

 「え゛っ」

 

 「自分達は用済み、君がそう言ったのをこの場の全員が聞いた。今更撤回は聞かないよ。自分達はともかく、友奈ちゃんと美森ちゃんは勝手に調べられて何も知らされないままに戦う羽目になったんだ。それを今更用済みだなんて言われて、心穏やかで居られるほど……自分は優しくなれないんだよ」

 

 淡々と、落ち着いた声色でそう言葉にする楓。いつもの朗らかな笑みなどどこにもなく、浮かぶのは無表情。ただ、その緑色の瞳に怒りの灯が灯っているのは誰にでも分かった。思わず3人が、同じように怒りを抱いていた風でさえ彼から少し距離を開けた。普段怒らない人間程、怒る時は怖いのだ。

 

 そして、夏凜としてもこの状況は不味かった。大赦から派遣されたという彼女は、実のところ現地の勇者及び先代勇者達の“援軍”としてやってきた。さっきの言葉は、早い話が自尊心や自己顕示欲から咄嗟に出た言葉である。しかも大赦からは先代勇者の機嫌は損ねないようにと口酸っぱく言い聞かされていた。

 

 その理由は、万が一にでも楓が勇者としての責務を放棄しない為だ。園子、銀と並んで多く満開をした楓は勇者としての適性の高さもあり、彼が思っている以上に重要度が高い。それは他の勇者にも言えることだが。

 

 また、夏凜自身も“先代勇者”という存在に敬意を持っている。己の端末も元はと言えば先代勇者の端末のデータを元に新しく作られた物であり、最新システムやバリアもなく、小学生の時に戦っていたと教えられている。それで敬意を抱かない程、彼女は恥知らずでも世間知らずでもない。

 

 力を示してカッコよく勇者デビューをしようとしたが故に口を滑らせてしまった為に起きた悲劇。何とか挽回をしようとするも、樹海化が解除される光が既に迫ってきており……。

 

 「次に会うとき、君がどうするのか……楽しみにしてるねぇ」

 

 そんな、先程までとはうってかわってからかうような声色の言葉を聞きながら、夏凜は勇者部とは違う場所の現実世界へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 「……先日は……私の不適切な発言で皆様に不快な思いをさせてしまい……誠に申し訳ありませんでした」

 

 翌日、転校生として楓達のクラスにやってきた夏凜。放課後に勇者部にやってきた彼女は5人の前に立つと、4人にとっては意外なことに。薄々そんな気がしていた楓にとってはそうでもないことに。そう言って素直に謝罪するのだった。

 

 口は悪いかも知れないが本当はいい人。そう、夏凜の印象が勇者部に刻まれた瞬間であった。




原作との相違点

・色々と制限付きな夢空間

・説明テキストを熟読している友奈

・怒られる夏凜←

・その他色々



という訳で、夢空間で園子と銀との再会、夏凜ちゃんお爺ちゃんに怒られるというお話でした。ここ、賛否両論ありそうですが……お爺ちゃんや大赦に怒りを抱く風が居る以上、怒られるのは当然だと思います。つか楓が止めないとこの時点で風と仲違いしててもおかしくないという。

次回以降は彼女も原作のように動くと思います。大丈夫、友奈と楓が居るから(謎の信頼

次の番外編は何書こうかなーと悩んでいるとふと頭に楓のみ奉られるルートの話が浮かびました。マジで勇者の誰も救われないくっそ鬱い、一部の方の胃に大ダメージ与えそうな内容でした……後はラジオとか。でもラジオは先駆者の方がやってるしなぁ←

次回も普通に本編を進めます。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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