咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

ゆゆゆいイベントではチケット18枚。SSR園子(中)を引き当てましたが被った←

でもFGOでカーマ引けたので私は満足です。

今更というか改めての確認というか、本作ではだいぶ原作とキャラや展開が変わっています。改めてご了承下さい。

今回、あんまり話が進みません……そして、チャージ段階です。なんのチャージかって? 読めばわかりますよ(にっこり

一時ランキング7位に載ってました。皆様ありがとうございます。今後とも本作を宜しくお願いします。


結城 友奈は勇者である ー 8 ー

 「あーもう! なんなのよあの子、腹立つわ~!」

 

 「まあまあ、落ち着きなよ姉さん」

 

 「お兄ちゃんもお姉ちゃんも凄く怒ってたね……」

 

 あれから家に帰ってきたアタシは、さっきの樹海で会ったあの……三好 夏凜って言ったっけ? の事を思い出して苛立っていた。愛する弟と妹が宥めてくるけど、樹海の時程ではないにしろ怒りは治まらない。

 

 あいつのあの言葉は、アタシだけでなく勇者部の皆も、その気持ちもバカにするような言葉だ。樹はアタシと楓と一緒に居ると言って戦うことを決めてくれた。友奈は誰かが傷付いたり怖い思いをする位なら自分が頑張ると勇者になって、東郷は楓と友奈を守ると覚悟を決めてくれた。

 

 楓には特に何も言ってなかったけど、それでも許せない。大赦から来た、という点ではアタシも言えたことではないが……というか、そもそもあんな子が来るなんて連絡は受けてない。

 

 「まあ、姉さんの気持ちも分かるけどねぇ」

 

 「だったらなんで止めたのよ……」

 

 「止めなきゃ斬りかかってたでしょ。姉さんにそんなこと、させる訳にはいかないしねぇ」

 

 「まさかー、流石のお姉ちゃんもそこまでは……」

 

 「……」

 

 「お姉ちゃん!? 何か言って!?」

 

 楓の言葉にむっすーと、我ながら子供のように膨れる。その後に言われたことについては、樹には悪いけれど反論出来なかった。アタシだけでなく勇者部の皆までバカにするように言ったのと……アタシの憎い大赦から来たっていうのもあって、あのままなら怒りに任せて本当に斬りかかってたかも知れない。アタシの服を掴んでガクガクと揺さぶる樹には申し訳ないけど、ねぇ。

 

 「しっかしまぁ……我が弟ながら怒ると怖いわー。普段怒らない人が怒ると怖いってのはホントねぇ」

 

 「自分だって怒る時は怒るさ。でもまぁ、根はいい子だったみたいで良かったよ」

 

 「は? あいつが? まっさかー」

 

 「不器用な子、なんだろうねぇ。自分が“初対面なのに失礼じゃない?”って言った時に慌ててたしねぇ。その後も狼狽えてたし……気が昂って口が滑ったか、それとも自分達に己の力を見せ付けたかったか……ま、褒められたことじゃないけどねぇ」

 

 「お姉ちゃんは時々弟の観察力が恐ろしくなるよ……」

 

 「お兄ちゃん、そこまで見てたんだね……」

 

 楓があいつの事を根はいい子なんて言っても、到底信じられなかった。いや、弟を信じてない訳じゃないのよ。ただ、あんな暴言吐かれた上に短い接触だったから信じるにしても色々足りないだけで。

 

 にしても、前々から察しが良いのは分かってたけど……ここまでだと凄い以外の言葉が出ないわね。別に引いたりはしない。その察しの良さに助けられてるところもあるからね……アタシの動きを止めてくれたみたいに。

 

 「ま、あの子が大赦から来たっていうなら、転校なりなんなりで讃州中学にやってくるだろうねぇ」

 

 「でしょうね。また暴言吐いてきたらどうしてやろうかしら……」

 

 「流石に次はしないと思いたいねぇ……」

 

 「同じ勇者なんだから、仲良く出来ないかな?」

 

 「あの子が謝ってくれるなら、少なくとも勇者部には迎え入れてあげようかしらね」

 

 「歓迎はしないのかい?」

 

 「第一印象が悪すぎるわ。まあ、楓の“根はいい子”って言葉に期待するわ」

 

 

 

 

 

 

 なんて会話をした翌日に、本当にやってきたあの子が頭下げて敬語で謝ってくるんだから人生何があるかわかんないわー。友奈と樹はあっさり許しちゃうし、楓も“君が謝れる子で良かった”なんて言っていつもの朗らかな笑いをするし、東郷は東郷で“楓君と友奈ちゃんが良いなら”なんて言って水に流すみたいだし。

 

 「……部員が許したのに部長であるアタシが許さない訳にはいかないでしょ。でも、次は許さないわよ」

 

 「悪かったわ。流石にもう言わない……また怒られたくないしね」

 

 「怖がらせちゃったみたいだねぇ。ごめんね」

 

 「い、いえ! 私が悪かったので!」

 

 そう言った……夏凜でいっか。夏凜は楓に目を向け、冷や汗をかいて逸らした。まあ、側に居たアタシ達でも怖かったくらいだし、直接怒られたこの子はもっとでしょうねぇ。ただ、随分とアタシ達と楓への対応が違うというか何というか……恐怖? 違うわね……あーもう、楓じゃないんだから相手の感情とか詳しくわかんないっての。で、取り敢えずはこの子から説明をしてもらうとするか。

 

 「こほん……まあ、私が来たからには完全勝利は確実よ。大船に乗ったつもりで居ていいわ」

 

 「なぜこのタイミングで? 最初から居てくれても良かったんじゃ……」

 

 「私だって直ぐに出撃したかったわよ。でも“大赦”は二重三重に万全を期しているの。最強の勇者を完成させる為にね」

 

 「最強の勇者、ねぇ」

 

 「ええ。私の勇者システムは貴方を含めた先代勇者の戦闘データに……あんた達先遣隊のデータ、それらを得て調節されていて、対バーテックス用に最新の改良を施されているの。端末自体も最新型なのよ」

 

 やっぱり楓にだけはなーんか違うわね、この子。対応が丁寧というか……先代勇者だから? 大赦から丁重に扱え、とでも言われているのかしら……にしては、どうにも柔らかいというか。

 

 そんなことを考えていると、それに……と言った夏凜が近くにあったモップの柄を掴み、軽く振るってビシッと決める……かと思いきや、後ろの黒板に柄の先がガンッとぶつかった。これは……ツッコンだら負けかしら?

 

 「あんた達トーシロとは違って、勇者となる為の戦闘訓練を長年受けてきているわ!」

 

 「狭いんだからモップを振り回さない。危ないよ?」

 

 「あっ、はい。ごめんなさい」

 

 「あんた、楓に弱くない?」

 

 「仕方ないでしょ……先代勇者は私やあんた達からしたら先輩も大先輩。敬意を持つのは当然じゃない」

 

 「……そんな大層な人間でもないんだけどねぇ、自分は」

 

 (後、昨日と今日の差が……怒られたくないし)

 

 あ、最後のは分かる。怒られたくないって思ったわねこの子……私も同じこと思ったから分かるわー。それに、本当に根はいい子なのね。少なくとも……大赦はともかく、この子自体は信じても良さそう。まあ、まだ要観察……かしらね。

 

 「で、三好さんは今後どうするんだい?」

 

 「勿論、この……勇者部? に来るわ。それがお勤めだもの」

 

 「そうなんだ! よろしくね夏凜ちゃん! ようこそ勇者部へ! 一緒に勇者も部活も頑張ろうね!」

 

 「いきなり下の名前!? ていうか部員になるつもりはないんだけど!? 私はあんた達がしっかり勇者としてのお勤めを果たすかの監視の為に……」

 

 「おや、それなら部員になった方が良くないかい? 一番近い場所で自分達のことを見られるし、自分達のことも知れるよ?」

 

 「それは、そうだけど……」

 

 友奈も楓もこの子を部員にするつもりで居るみたいね。まあ謝ってはくれた訳だし、迎え入れるのは別にいい。歓迎するかどうか話は別だけどね。それに、監視って言葉も気に入らない。トーシロってのは反論出来ないけどねぇ。

 

 後、今のやりとりでこの子がアタシ達についての情報をあまり持ってないってのも分かった。東郷が先代勇者ってことも知らないみたいだし、友奈の適性の高さも知らないんじゃないかしら。不真面目、ってことはないでしょ。大赦から情報を聞かされてない……って線が濃厚ね。

 

 「それに……監視されないといけない程、自分達は不真面目じゃないよ。皆、それぞれ覚悟を持って勇者をやっているんだ。決して、お遊びのつもりじゃないんだよ」

 

 「……わ、分かったわよ。別に私も、そこまで言うつもりじゃなかったし……」

 

 「そっか……良かった。穿った見方をしちゃったみたいでごめんねぇ」

 

 「あ、いえ、その……元はと言えば私が言い過ぎたからなんで……」

 

 「敬語なのかそうじゃないのかはっきりしなさいよ」

 

 「うっさいわね! こっちも割とテンパってんのよ! こんな風に諭される感じに言われるの……初めてだし……」

 

 だから何でこの子楓以外にはこんな攻撃的なのよ。打てば響く感じは嫌いじゃないけど。それに、最後は割と近い距離に居るのに聞こえないくらい小声だし。なんて言ったのか気になるわね。

 

 この後、彼女の精霊の義輝(よしてる)が友奈の牛鬼にもきゅもきゅと齧られた……その際、“外道め!”と喋ってた……後、その牛鬼が楓の夜刀神にまた首絞められてた。友奈にはちゃんと精霊の管理をしろと怒り、逆に楓には感謝してた。流石にアタシでもそうすると思う。

 

 「そう言えば、この子喋るんだね」

 

 「ええ、私の能力に相応しい強力な精霊よ」

 

 「あ、でも東郷さんには3匹居るよ。楓くんは4匹」

 

 「え゛っ」

 

 友奈がそう言うと、東郷と楓がアプリを操作して精霊を出す。東郷は青坊主、タヌキ見たいな見た目の刑部狸と人魂みたいな不知火……この子はちと苦手……で楓は与一、陰摩羅鬼、だいだらぼっちね。あ、与一が義輝と意気投合してるのかハイタッチしてる。同じ人型だからかしら。夏凜もショックを受けてたみたいだけど、2体のやり取りを見て少し嬉しそうにしてるわね。

 

 「ど……どうしよう夏凜さん」

 

 「今度はなに……?」

 

 「どしたの樹……ってあらまぁ」

 

 「死神のカードが」

 

 「勝手に占っておいて不吉な結果出さないでくれる!?」

 

 さっきからタロットを広げてた樹が何やら恐ろしいモノでも見たかのような表情で言ったので後ろから覗き込むと……見事に死神のカードを引き当てていた。これにも彼女はお怒り……ツッコミ役が板についてるわね。

 

 「はぁ……と、兎に角、今度からは私も戦うから。足引っ張るんじゃないわよ!」

 

 「その心配はしなくても大丈夫だよ。彼女達は確かに君や自分のように訓練は受けてないけれど……2度の実戦は確かな経験になってるからねぇ」

 

 「そ、そう……」

 

 「勿論、君の言う最強の勇者の力も宛にしているよ。頼りにさせてもらうねぇ」

 

 「……任せなさい! そいつらは勿論、先輩にだって負けたりしないわ!」

 

 「頼もしいねぇ」

 

 ここまでのやり取りでこの子の人間性はある程度見えたわね。負けず嫌い、ツッコミ気質、後はプライドも高い。アタシ達をトーシロ扱いしてるのはそれだけ勇者となる為の訓練って奴を重ねたからなんでしょうねぇ。で、そんな訓練も無しに勇者になったアタシ達に思うところがあるって訳だ。アタシ達に心を開くのは何時になるのやら。

 

 この後、勇者部で“かめや”にうどんを食べに行くので夏凜を友奈と楓が誘ってたけど、彼女は訓練やらなんやらでそんな暇はないと拒否して帰っていった。友奈は残念そうにしてたけど、こればっかりはねぇ。

 

 「夏凜ちゃんも一緒に来れば良かったのにな~……かめやのうどん、美味しいのに」

 

 「頑なな感じの人でしたね」

 

 「ま、最初よりは印象はマシになったわね……それに、ああいうお堅いタイプは張り合いがいがあるわ……ふふふ」

 

 「お姉ちゃん……悪い顔してるよ」

 

 「今の勇者部には居ないタイプの子だったねぇ」

 

 「どうやったら仲良く出来るかな……」

 

 そしてかめやでの食事中、そんな会話をする。友奈は悩んでるみたいだけど……存外、友奈と楓が接していれば2人には心を開いていきそうなのよねぇ。2人共人タラシみたいなところあるし。

 

 ま……なるようになるでしょ。そう結論付けて、アタシは3杯目のうどんの残った汁を飲み干すのだった。あ、おかわり頼まなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 勇者部が“かめや”でうどんを食べている頃、夏凜は宣言通りに着替えてからトレーニングを開始し、1人で住んでいるマンションからそう遠くない海岸で勇者としての得物である2刀を振るう。部屋の中にも数点のトレーニング機材が置いてあり、鍛練に余念がない。食事は全てコンビニ弁当で済ませる。金銭は勇者としてのお役目に就いた時から大赦から受け取っている。

 

 大赦に“讃州中学に着任、初接触時に少々問題があったものの和解。現勇者は危機感が足りない印象だが、先代の存在で覚悟はある模様”との連絡を送り、その日を終える。

 

 翌日、楓達のクラスの男女別れての体育。初夏に入ったので女子は水泳をしており、鍛えた身体能力を存分に活かす夏凜は注目の的になっていた。

 

 「夏凜ちゃん凄い! まるで水泳選手みたいだってみんなびっくりしてるよ」

 

 泳ぎ終えてプールサイドに上がる夏凜に駆け寄り、そう伝える友奈。そんな彼女の言葉にピクリと眉を潜め、少し苛立ったように夏凜は表情を歪める。

 

 「あのねぇ……結城 友奈。勇者はね、すっごくないと世界を救えないのよ。勇者の戦闘力は本人の基礎運動能力に左右されるわ。だから私も先代勇者も訓練をしていたの。あんたも少しは自覚を持ちなさい」

 

 「楓くんも?」

 

 「……はぁ、そうよ。先代の勇者達はね、2年前にもやってきていたバーテックスと戦っていたの。まだ精霊もバリアも存在していなかった上に当時は小学6年生……私があんた達と違ってあの人に敬意を持っている理由が分かるでしょう?」

 

 (……2年前……?)

 

 友奈と夏凜の会話が気になったのか、壁を掴みながら近くに来ていた美森が夏凜の言葉を聞いて首を傾げる。2年前。己の記憶を失ったのも2年前。別に関連性はないのだろうが、何故か耳に残った。

 

 「楓くん、そんなに凄い人だったんだね~」

 

 「今の話の感想がそれ!? ……あんたねぇ、よく馬鹿だって言われるでしょ……」

 

 「あはは……実はそうなんだよねー」

 

 「そんなことないわ! 友奈ちゃんはそんなところも可愛いの!」

 

 「うおっ、いつの間に!? ていうかそれフォローになってないから。馬鹿だって肯定してるから」

 

 「東郷さん……照れるよ~♪」

 

 「喜ぶな! 馬鹿だって肯定してるって言ってるでしょ!?」

 

 疲れる……夏凜の心境はその一言に尽きた。そもそも勇者部の面々からして夏凜にとってはあまり馴染みのない人種なのだ。友奈のようにぐいぐいと来る、バカにされても笑って流すような人間は勿論のこと、真面目な奴かと思えばこんなボケをかましてくる美森も理解の外である。

 

 勿論、人の了承もなく占ってきた上に死神のカードを突き付けてきた樹もそこに入る。夏凜からすれば初接触時に怒りを示してきた風が一番まともに見える始末。楓は友奈寄りだが、どうにも彼の自分への対応はむず痒い、というのが彼女の正直なところであった。

 

 放課後、同じクラスの3人と共に勇者部部室にやってきた夏凜。まだプールでの苛立ちが残っているのか、それを抑える為かその手には煮干が入った袋があり、そこから1つ取り出して齧る。

 

 「昨日は出来なかったから、情報交換と共有をするわ。一緒に戦うことになる以上、必要なことだしね」

 

 「……なんでニボシ?」

 

 「なによ。ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPA、DHA……ニボシは完全食よ。あげないわよ?」

 

 「おや、そんなに栄養があるのかい? それは知らなかったねぇ。三好さんは物知りなんだねぇ」

 

 「え、あ……か、完成型勇者だから当然よ!」

 

 風が夏凜の持つニボシに疑問の声を上げると彼女は怒涛の勢いでニボシに含まれる成分を答える。多くの成分を全て噛まずに言い切った夏凜に楓は純粋に驚き、クスクスと微笑ましげに笑いながら称賛すると夏凜は少し頬を赤くしてニボシを噛みながら胸を張る。

 

 「では、私のぼた餅と交換しましょう」

 

 「……何それ。小さいのもあるし」

 

 「さっきの家庭科の授業で少し。小さいのは楓君用。いかがですか? ぼた餅」

 

 「美森ちゃんのぼた餅は美味しいよ。後、自分にもニボシを1つ分けてくれないかい? 直接食べたことはなくてねぇ」

 

 「まあ、1つくらいなら……ぼた餅はいいわ。はい、どうぞ」

 

 「ありがとねぇ……うん、意外とイケるねぇ」

 

 「当然!」

 

 そんな会話を挟みつつ、夏凜は黒板に情報を書いていく。先代勇者の戦いの記録からバーテックスが襲来する周期は平均20日だと考えられていた。だが実際は1体目となるヴァルゴの襲来の翌日に再び襲来、しかも数は3体も一気にやってきた。そこから1ヶ月後、つまりは一昨日の5体目となるカプリコーンの襲来。明らかな異常事態である。

 

 夏凜曰く、大赦の予想としては帳尻を合わすため、今後は相当な混戦が予想されるという。再び数体が同時に現れるかもしれない。間を置かずに畳み掛けてくるかもしれない。或いは一体通した後に直ぐにまた一体、と時間差で攻めてくるかもしれない。

 

 「私と先代ならどんな事態にでも対処出来るけど、あんた達は気をつけなさい。命を落とすわよ」

 

 「うーん、その“先代”っていうのはやめてほしいねぇ。自分の事は楓と呼び捨てでいいんだよ? 同い年だしねぇ」

 

 「え゛っ……あー、えっと……じゃあ、楓……さん」

 

 「うーん……まあ、いきなり呼び捨ては難しいかな?」

 

 ((((なんでさん付け……?))))

 

 (や、やりづらい……というか、同い年とは思えないんだけど……それに年齢の近い男子との関わり方なんてわかんないし)

 

 勇者部の面々に注意をすると楓にそう言われて言い淀む夏凜。訓練付けの日々を送っていた彼女に男子の、それも敬意を持っている相手を呼び捨てにするのは難しかった。それに彼女から見て楓は同い年とは思えない程の落ち着きと雰囲気を持っている。だからだろうか、さん付けや敬語にもあまり抵抗はなかったりする。勇者部の部長であり上級生でもある風にはそんな感覚など微塵も持てないと言うのに。

 

 「こほん……他に戦闘経験値をためる事で勇者はレベルが上がり、より強くなる。それを“満開”と呼んでいるわ」

 

 (……満開、か)

 

 夏凜が続けて満開ゲージの場所を聞き、確認する勇者部。そんな中で楓だけは目を閉じて考え込み、左手で右足を軽く撫でる。

 

 満開の強力さは楓も良く理解している。同時に、そのデメリットもだ。今や温度を感じることが無くなってしまった体、感覚の無い右足、聞こえない左耳、見えない左目。そして……と満開を1つする度に供物として捧げていったモノ。当時聞かされた時、その供物を捧げる行為……“散華”のことを、大赦は伝えなかった。

 

 そして、夏凜からその散華について語られる様子はない。つまり、彼女にも知らされていない可能性が高い。それは一応は大赦に所属する風も同様だろう。

 

 (伝えるか? 散華を……今の彼女達に?)

 

 伝えるべきか、伝えないべきか。楓は悩む。今も夏凜が満開の説明をしている。満開をすればするほど勇者としての能力、レベルは上がり、強くなると。それは間違いではないし、強くなることは彼自身実感している。

 

 当時は伝えた。それは他の3人とも既に世界の真実を知り、覚悟を決めていたからだ。だが……今の勇者部にはどうだろうか?

 

 夏凜自身は、楓は信用も信頼もしても問題ないと思っている。問題なのは彼女が大赦側の人間であることで、散華を伝えると彼女経由で何かしら行動される危険性があることだ。

 

 後は、風の大赦への憎しみの度合。満開を知った今、散華を伝えればそのまま怒りが爆発する恐れがあった。己の体と大赦が今正に散華の存在を伝えていない事実。止めることは、可能だろう。だが、その後どうなるか想像が出来ない。

 

 そして美森の存在である。散華の話から己の足と記憶の理由に思い至る可能性があった。それで戦えなくなるだけなら、まだいい。楓が危惧しているのは、先代勇者として彼女が他の2人のように保護という名の監禁を受けることだ。それは己にも当てはまるのだが。

 

 「……えで」

 

 (……神樹様は、自分はともかく彼女達にはいつか供物を戻せると言っていた。それを伝えれば、まだどうにかなるか……?)

 

 「楓!」

 

 「っ!? な、なんだい? 姉さん」

 

 「いやー、あの子も満開経験無いらしくてねぇ。先代勇者の楓はどうなのかなって」

 

 「あ、ああ……満開経験ねぇ」

 

 考え込んでいた楓はそこまで話が進んでいることに気付かなかった。そして風に満開の回数を尋ねられ、他の4人も興味津々に見られて言い淀む。完全に散華について言うタイミングを逃した、そう内心で楓は舌を打つ。

 

 それに、満開の回数をバカ正直に告げるのも憚られる。真実を伝えた時、それがそのまま散華の回数に繋がるからだ。しかし、大赦にも満開したのは告げているので“していない”と言うのもおかしい。

 

 「そうだねぇ……自分は、“4回”しているよ」

 

 「おお……つまり、楓くんは勇者レベル5って訳だね」

 

 「見たか! これがアタシの弟よ!」

 

 「なんであんたが威張んのよ!」

 

 だから、大赦に告げている回数を言うことにした。友奈は感嘆の息を漏らし、美森と樹も同じように頷く。風は我が事のように楓の頭を撫でながら胸を張り、夏凜はそんな風にツッコミを入れる。

 

 撫でられながら、楓はこの場で伝えることは諦める。まだ勇者となって1ヶ月の少女達に伝えるのは、タイミングを逃したこともあるが時期尚早と考えた為だ。覚悟を決めていた自分達ですら1度は折れかけた。そんな経験も後押ししたのだろう。

 

 それでも……いずれ伝えねばならない。言わなかったことを、言えば良かったと後悔した少女が居たのだから。知って戦えなくなっても構わない。その時には、己がどんなことをしてでも何とかすると初戦から決めていたから。

 

 (今からでも、姉さんを止める算段でも付けておこうか)

 

 運動部みたいに皆で鍛練でもしようか。いいですね。友奈ちゃんは起きれないでしょ。私も起きれないかも。そんなやり取りをする勇者部と呆れる夏凜を見ながら、楓はそう締め括るのだった。




原作との相違点

・挑発控えめな夏凜

・先代勇者を知っていて敬意をもってる夏凜

・ツッコミが増えた夏凜

・夏凜に対して微妙に距離がある風

・その他諸々



という訳で、全く進んでません。漫画だと半分くらいですね。

散華のことは、この時点で伝えるかかなり悩みましたが先送りする方向になりました。わすゆの時とはあまりに状況が違いますしね。とは言え、近い内に伝えると思います。神樹様のことや供物が戻ることもセットで。じゃないと爆発規模が凄まじいことになりますしね。全く、誰だこんなストーリー考えた奴←

前話の感想で闇深い人多くて笑ってました。類友かな?

次回はやっと夏凜の誕生日だとかまで進める予定。初満開までもう少し……楽しみですなぁ←

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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