東郷 美森/158cm 乃木 園子/156cm
2人共小学生時代から7cm伸びてるんですよね。なので本作の銀ちゃん(中)は152cmです。新士時代の楓は銀ちゃんと同じなので、17cm伸びてます←
ゆゆゆい無料単発で姉御肌姉さん来ました。初の風ssrですげー嬉しい。樹は3人来てくれてますが。
これ投稿するまでに怒涛のように誤字報告を頂きました。念のため名前は出しませんが、誠にありがとうございます。
今回、かーなーり原作と違います。今更ですがね。
『今週末は子供会のレクリエーションをお手伝いします。折り紙の折り方を教えてあげたり、一緒に絵を描いたり、やることは沢山ありますよ、夏凜さん』
『は? ちょっと待って、私もなの!?』
『楓に言われて昨日入部してたでしょ。勇者部部員として、ちゃーんと参加してもらうわよ!』
『それは形式上よ! 私のスケジュールを勝手に決めないで!』
『日曜日用事あるの? やろうよ夏凜ちゃん! 楽しいよ?』
『守ることになる世界に住む人達のことを知るのも必要だと思うよ。ただ戦うだけが、勇者じゃないんだからねぇ』
『それとも、嫌?』
そんな会話の後、結局流されるように了承してしまった。なんで私が子供の相手なんか……とは思った。でも、気が付けば頷いていた。その時の結城 友奈の喜びようには呆れたし、楓……さんのこう、微笑ましげな笑いにはむず痒い思いをしたけれど。
この非常時にレクリエーションだなんて何を呑気な……そう思わない訳ではない。ただ、その日はたまたま空いていただけで、暇だったから……それだけだ。それ以外の理由なんて、ない。
なのに、何故だろうか。気付けばその日の帰り道に本屋に寄って折り紙の折り方が書いてある本を買い、スーパーで折り紙を買い、序でに夕食のお弁当も買い……トレーニングの後の時間を使って色々と折っている自分が居た。
「……いや、何やってんのよ私は。こんな予習みたいなことを……」
ふと我に帰り、途中まで折っていた折り紙を軽く指で弾く。
ー 夏凜ちゃん凄い! ー
ー 三好さんは物知りなんだねぇ ー
「……私は完成型勇者なんだから、折り紙くらい簡単なのよ」
何故か、プールの時に私を称賛するバカみたいに能天気なあいつの笑顔と、微笑ましげに笑う楓……さんの言葉を思い出した。あんな風に褒められたのは……初めてだった。
勇者となる為には過酷な訓練が必要で、ライバルだって居た。自分を高めて勇者になることが最重要で……勇者になることだけが、私の目的で。誰かに褒められることなんて、殆ど無かった……それこそ、親からでさえ。
私よりもあらゆる点で遥かに才能があった兄貴。親の期待も称賛も……全部兄貴に行った。クラスで一番勉強が出来ても、クラスの誰よりも運動が出来ても、褒めてもらったことはおろかロクに優しい言葉をかけてもくれなかった。兄貴は褒めてくれていたけれど、それさえ皮肉や憐れまれているようで気に入らなくて悔しくて。
そんな兄貴には絶対になれないのが、勇者。楓……さん以外の男には適性の“て”の字すらも無いという。私が彼を尊敬しているのは、そんな“特別”な部分もある。直接会って会話もした今は、それだけではないけど……。
「この……い、意外と難しいじゃない……こう折って……次は……は? これどうやんのよ!? ちゃんと分かりやすく説明文書きなさいよね……ったく……」
念願の勇者になっての初出撃は、戦闘にだけ視点を向ければ上々。口さえ滑らなければ……でも、親に兄貴を引き合いに出されて怒られた時のように反感は抱かなかった。自分でも不思議な程に……思えば、私は怒られたことはあっても“叱られる”ということは殆どなかった。
ー 君が謝れる子で良かった ー
ー 怖がらせちゃったみたいだねぇ。ごめんね ー
ー 勿論、君の言う最強の勇者の力も宛にしているよ。頼りにさせてもらうねぇ ー
あの人から言われた言葉の1つ1つを思い出す。転校して直ぐに顔を出した時は、正直許されるとは思っていなかった。ところが実際は謝罪は暖かく受け入れられ、怒ったことを逆に謝られ……口だけか本心か、私を頼りにすると言ってもらえた。
全てが初めてだった。勇者部の奴らも、彼も。能天気な奴らで、非常時にレクリエーションなんてやるくらい危機感無くて、訓練だってロクにしてないトーシロ集団で……なのに、どうしてこうも心を掻き乱されるのか。
わからない。わからないから、どう向き合っていいかも、対処法も知らない。あのバカみたいにぐいぐい来る奴にどう対応するべきなのか。あの朗らかな笑顔にどんな表情を浮かべればいいのか……そんなことは、誰も教えてくれなかったのだから。
「……うっひゃう!? な、何よ……って電話か……って楓さんんんんっ!?」
考え込んでいると、不意に近くに置いておいた端末が鳴った。びっくりして画面を覗き込むと、そこには“着信中”との文字が出ていて、その下に掛けてきている人間の名前……犬吠埼 楓の名前が出ている。電話番号は今日の帰り際に全員のモノを勇者部部長から強制的に登録させられているので、掛かってくること自体は不思議でもなんでもない。
ただ……誰かから掛かってくるのが久しぶりなだけで。
「と、とった方が良いわよね? っていうかとらないと失礼よね? 待たせるのもダメって言ってる間に時間が……ええい、女は度胸!」
意を決して、画面の通話のマークをタップ。着信音が止まり、繋がる。
『もしもし、三好さん?』
「あ、はい! も、もひもひ!」
空気が死んだ。少なくとも、私にはそう感じた。噛んだついでに舌を噛み切って死んでしまいたかった。
『……ふ……くく……っ』
「~~~~っ」
穴があったら入りたい、とは正に今の私のような心境なんだろう。思わずというような、頑張って堪えようとしたけど無理だったような笑い声が端末越しに聞こえる。顔に全身から熱が集まったかのような錯覚を覚えるほどに顔が熱い。とても人には見せられない。
『いやごめんね。ちょっと集合場所の再確認を、と思ったんだけど……迷惑だったかねぇ?』
「い、いえ……」
『そっか、良かった。集合場所なんだけど、勇者部部室じゃなくて現地……児童館になるから、間違えないようにね?』
「え゛っ!?」
慌ててカバンの中にある、結城 友奈から無理矢理に手渡されたプリントを確認する。するとしっかりと10時に現地集合と書かれていた。てっきりあの部室かと思っていたから、このままだと部室に向かうところだったわ。
『その様子だと部室だと勘違いしてたみたいだね。連絡して良かったよ』
「あ、はい……アリガトウゴザイマス」
『どういたしまして。児童館の場所は分かるかい? 不安なら、部室で集まってから一緒に行く?』
「だ、大丈夫よ。端末もあるし、地図も見られますし……」
『うん、分かった。何かあったら連絡してくれたらいいからねぇ。こっちからも一応、前日にもう一度確認の連絡をするからねぇ』
「は、はい」
そこまで話してまたね、と言って、それにあ、はいと返して電話は切れた。端末を持っていた手が力なく落ち、ハァ……と息が漏れる。敬意を持つ相手、それも異性、しかもいきなりの電話……知らず知らず緊張していたらしい。
疲れた。もう少し折り紙を練習するつもりだったけれど、目の前の物を折って切り上げよう。そう思って折ること数分、1羽の赤い鶴が出来上がる。完璧を目指してきっちりと丁寧に折っただけあり、完成型勇者に相応しい出来だと自負する。
「……寝よ寝よ」
また、褒めてもらえるだろうか。そんなことを不覚にも考えてしまい……忘れようと、そのまま寝ることにした。全く……こっちに来てからペースが乱されっぱなしだわ。
「おっ、来たわねー夏凜。感心感心」
「こんにちは、夏凜さん」
「こんにちは、夏凜ちゃん」
「まぁね……こ、こんにちは」
当日の6月12日、教えてもらった通りに児童館に集合時間の10分前にやってくると、既に楓……さんと妙に大きなカバンを背負った勇者部部長とその妹が居た。彼に名前を呼ばれているのは、4日前に勇者部の部室で行った彼の誕生日会の時に私から名前呼びで良いと言ったからだ。
誕生日会をするのは、初めてだった。市販のケーキにお菓子、東郷のぼた餅……私は食べなかったけど……で祝った小さなモノ。当日にいきなり始まったものだからプレゼントなんて持ってきてなかったので、後日高級煮干しを贈らせてもらった。我ながら微妙なチョイスだとは思うし、他の奴らは微妙な表情か苦笑いだったけど、楓……さん本人は喜んでくれた上にその場で食べて美味しいと言ってくれたので良しとする。
「良かった! 来てくれたんだね夏凜ちゃん!」
「まぁ、ね。って抱き付いてくるな! 暑苦しいわ!」
集合時間の5分前になると、結城 友奈と東郷もやってきた。正直、まだこの非常時に……と思わないではない。ただ、来ると言った以上すっぽかすのも憚られる。それに、わざわざ電話までしてくれた楓……さんにも申し訳ないし。
結城 友奈に抱き付かれて顔を押し退けた後は、プリントのタイムスケジュール通りに進んだ。勇者部としての自己紹介から始まり、そのまま折り紙教室。勇者部部長は意外にも器用に花やら動物やらを折って男女の関心を集めていた。妹の方は頼り無さそうな印象があったが、子供達への対応は落ち着いていた。
東郷は……何をどう折ったのか、妙に完成度の高い戦闘機らしき紙飛行機を折って男の子からキラキラとした目を向けられていた。逆に結城 友奈は色々な花を折って女の子から折り方をねだられていた。
「こうして……次はどうだったかねぇ?」
「あのね~、こうするの~」
「そんでこうするんだよー!」
「おお、皆凄いねぇ。良く覚えてるんだねぇ」
楓、さんはゆっくりと折って、時折子供達に折り方を聞いては手助けしてもらって仲良くしていた。片腕が無いからか、子供達も協力して1つの折り紙を折っている。教える、と言っていいのかは疑問だけど……楽しそう、とは思う。
「うぅ~、おれないー!」
「あぁ、もう……貸してみなさい」
「ふぇ?」
「ここを、こう……ほら、やってみなさい。そう、そうやって……違う違う、こっちに……」
「うーん、うーん……できたー!」
私はと言えば、そんなにバリエーションも無かったので他の5人に比べると集まる子供は少なかったんだけど……正直、勇者部を甘く見てたわ……偶々目に入った、鶴を折ろうとして折れなくて癇癪を起こしていた女の子を見付けたので見ていられず、手伝う。
所々間違うことはあったものの目の前で実演し、少し手を貸して修正し、思わず怒鳴らないように気を付け……ようやく、1羽の鶴が完成する。それは歪で、とても綺麗な出来とは言えないけれど……折った女の子はとても嬉しそうで、満足げで。
「ありがとー! おねえちゃん!」
「……良かったわね」
そんな、優しい声が自然と出たことに……自分でも驚いた。
折り方教室が終わった後、子供達と一緒に昼食。その時、私と楓、さんだけ昼食の準備ではなく、別の部屋でやることになる人形劇の準備をしていた。この人形劇には私は参加せず、子供達と一緒に見ることになっている。子供向けの人形劇なんて面白いのかしら……と思いつつ、手にした勇者人形と魔王人形を見やる。
勇者は結城 友奈で、魔王は楓さんだと言う。魔王はあの部長の方がいいんじゃない? と思ってつい呟いてしまうと近くに居た楓さんがくすくすと笑って同意してくれた。実は妹からも時々“悪役っぽい”と言われ、東郷からもキャストの変更を提案されたこともあり、1度落ち込んだんだとか。その時のことを話す楓さんは、とても楽しそうだった。
準備を終えてから少しして部屋に呼び戻される。何故か楓さんが先に入るように促してくるので疑問に思いつつも扉を開けると、パン! パン! と連続して大きな音が響いた。敵襲!? と思ったが別にそんなことはなく。
【かりんおねえちゃん、おたんじょうびおめでとー!!】
そんな子供達の言葉が、私を出迎えた。思ってもみなかった出来事に、思わず思考が止まる。
テーブルの上にある色んな料理。その真ん中にある……大きなケーキ。その上にある板チョコには、“夏凜ちゃんお誕生日おめでとう”の文字。
「……なに、これ。なんで……」
「入部届に生年月日書いただろう? それを、友奈ちゃんが見付けてねぇ」
「ま、勇者部に入ったからにゃあ祝わない訳にはいかんでしょ。それに、歓迎会も兼ねてるわ」
「どうせなら子供達とも一緒にお祝いしたいなーって。どう? 夏凜ちゃん。驚いた?」
言葉が出ない。もし勇者部のメンバーだけだったら色々と出てただろうけど、子供達にそんな言葉は聞かせられないし。それに、誕生日をやったことなんて……祝ってもらうなんて初めてで、何を言ったらいいのか分からなくて。
「おねえちゃん、こっちこっち!」
「あ、ちょ……」
そんな私の手を、さっき一緒に折り紙を折った女の子が引いて、ケーキの前に座らせて、隣に座ってきた。それを皮切りに勇者部も、他の子供達も座る。そして歌われる……子供達曰く、お誕生日の歌。勇者部の面々も、楓さんすら恥ずかしげもなく歌って、改めておめでとうと言われて……誤魔化すことなく言うのなら、泣きそうになるくらいに、嬉しかった。
ケーキは市販だが、料理の一部は勇者部部長がわざわざ作ってきたらしい。あの大きなカバンの中身の殆どがそれだったようで……え、これあいつが作ったの? 大丈夫? と思ったものの見た目も味も良かった。正直意外だわ。思わずそう呟くと、あいつはにっと笑って“またご馳走したげるわ”なんて言ってきた。どこまで本気なんだろうか。
サプライズの誕生日会の後に休憩を挟んだ後は人形劇。これまた意外にも、ストーリーも演技も子供向けではあったものの子供達と一緒に楽しめ……いや、まあ、悪くはなかった。
そんな1日を終えて自宅に帰ってきて直ぐに、カバンから1つの折り鶴を取り出してリビングにある棚に飾る。不恰好なそれは……私の手を引いたあの子が私と共に折ったもので。奇しくもそれは……私の勇者服の色でもある赤色で。
ー プレゼントだよ! ゆーしゃのおねえちゃん! ー
「……良く出来てるじゃない」
まあ……こんな日もたまにはいいかな、と。そんなことを思った。この後、勇者部部長……風からNARUKOへの招待が送られてきたので仕方なく入ると一気にチャット……コメント? が送られてくる。
風からはこのグループを登録しておけと。樹からはこれから宜しくと。東郷からはいつかぼた餅を食べさせると。結……友奈からは、改めてハッピーバースデーと。楓さんからは、何でも相談に乗るからねと。それら全てに了解の一言を返すと、また怒涛の如くコメントが来る。
慌てつつも返していくと、1つの写真が送られてきた。児童館の子供達と勇者部のメンバーが私を中心に映ったそれ。私の右には楓さんが、左には友奈が。私と楓さんの後ろに風が、前には樹が、友奈の左には東郷が。そして……私の膝の上には、一緒に鶴を折ったあの女の子が。
“これから全部が楽しくなるよ!”。写真の前に送られてきた友奈の言葉。相変わらず能天気な奴……そう思いつつも、不思議と穏やかな気持ちで居られた。
数日後の部活中。牛鬼を頭に乗せた友奈が勇者部の活動を映した写真を春の勇者部活動と書かれた記事に貼り付け、東郷はパソコンで何かの作業を行い、風は学園祭に向けての勇者部による劇のストーリーに頭を悩ませ、友奈から“にぼっしー”のあだ名で呼ばれた夏凜が頼まれていた猫探しのポスターに描いた猫の絵を妖怪? と酷評され、楓が首に巻き付いている夜刀神に頬を舐められながら端末から勇者部のホームページに来ている依頼を確認する。
そんな時、樹の溜め息が部室に響いた。部員全員がどうしたのかと問い掛けてみたところ、次の音楽の授業であるという歌のテストの結果を占ってみたところ、死神の正位置という不吉な結果が出てしまったとのこと。意味は破滅、終局なんだとか。
「だ、大丈夫だよ樹ちゃん! こういう時は何度も占えば別の結果が……」
という友奈の励ましも意味を成さず、その後3度占って結果は変わらず死神の正位置。嬉しくもなんともない死神のフォーカードが完成してしまった。
「という訳で、今日の活動はこれよ!」
大事な妹の危機とあっては黙っていられないのが姉の風。黒板に“今日の勇者部の活動、樹を歌のテストで合格させる”と書き記す。勇者部は困っている人を助ける部活、それは部員も例外ではないのだ。
「歌が上手くなる方法かぁ……」
「まずは歌声でアルファ波を出せるようになれば勝ったも同然ね。良い歌や音楽というモノは大抵、アルファ波で説明がつくのよ」
「んな訳ないでしょ!」
「“まずは”、の難易度が高過ぎないかい……?」
樹がそうなのかと聞き返すよりも早く、夏凜のツッコミと楓の苦笑いが東郷に向かう。彼女本人は冗談でも何でもなく、本気でそう思っているのだから質が悪い。
「この子、1人で歌う時とかは上手いんだけどねぇ」
「そうかい? 一緒にお風呂に入ってた時とかよく一緒に歌ってたけど、その時も上手かったよ?」
「そういえば小学生の高学年になる前まで一緒に入ってたわね、あんた達」
「高学年!? 樹ちゃん、男女七才にして云々という話があるのよ!? 後でその時の楓君の話を詳しく……」
「お、お姉ちゃんだって小学生になるまで一緒に入ってたじゃない! 東郷先輩はあの、ちょっと距離が近いです」
「うーん、これは自分が悪いのかねぇ?」
「いえ、風と東郷です」
「夏凜ちゃんも楓くんには甘いよね……」
そんなちょっとした暴露話も出たものの何とか流れを修正し、結論として人前で歌うことによる緊張が問題。なので、友奈の“習うより慣れろだね!”との言葉を切欠にその日の活動を終了して学校を出てカラオケに向かう勇者部一行。
部屋に入るや否や即座に曲を入れ、歌い始める風。楓は久しぶりにカラオケに来たなぁと懐かしく思い、風に挑発された夏凜は友奈を巻き込んでデュエットで歌い、東郷はマラカスを振って盛り上げに徹し、樹は次は自分が歌うことを忘れて純粋に2人の歌を楽しんで聴く。
「夏凜ちゃん上手いねー」
「と、当然よ」
「次は樹だねぇ……大丈夫かい?」
「う、うん……」
と返すものの、やはり緊張している樹。マイクを手に立ち上がり……いざ歌い出すと、やはり緊張からか上擦ったり噛んだり音を外したりと人前では上手く歌えないとの評価を覆すことは出来なかった。
歌い終わり、散々な結果に落ち込む樹。そんな彼女の前では、頼んだお菓子や料理の半分を平らげた牛鬼の首を夜刀神が絞めていた。そんな2匹のやり取りが視界に入り、落ち込んでいた顔に少し笑顔が戻る。
「やっぱり、簡単にはいかないみたいだねぇ」
「……うん。人の目があると思うと……」
「そっか……樹。久しぶりに、何か自分と歌ってみようか」
「え? う、うん」
兄妹の間でそんな会話がされた後、東郷が歌う曲のイントロが流れ始めるや否や楓と夏凜を除く3人がキリッとした表情で立ち上がり、ビシッと敬礼をする。楓は楓で懐かしそうにマイクを手にする美森を見詰め、夏凜は突然の行動に驚き、誰も答えることなく美森が歌い始める。そして歌が終わるまで、誰1人体勢を崩すことはなかった。
「え、何? えっと……何?」
「東郷さんが歌う時はいつもこうだよ? 私達」
「そ、そうなの……相変わらずよくわかんないわね……」
「あ、次は自分達だねぇ……樹、ちょっとおいで」
「えっ? あ、うん……っ?」
思わずそう聞く夏凜だったが、友奈の返答に余計に困惑する。その後に流れてきたイントロを聞いて楓が反応し、樹を呼び寄せる。疑問に思いつつも素直に樹が近寄ると楓は彼女の手を引き、樹は彼の足の間に収まった。
「昔はこうやってお風呂に入って、良く一緒に歌ってたねぇ」
「あ……うん」
「目を閉じて、後は思い出しながら歌おうか。歌詞は間違ってもいいからねぇ」
「……うん」
言われるままに、樹は目を閉じる。流れる曲は過去に兄と共に風呂で何度も歌っていた曲だ。お風呂と言えばこれ、という兄の言葉から何度も聞いて、温かなお湯に揺られながら歌っていた……そんな、楽しかった記憶が甦る。
背中には兄の温もり。目を閉じている樹の瞼の裏には、その時の光景が浮かんでいた。湯気で白くて、歌えば良く響いた風呂場。温泉の素なんて入れて歌に合わせて気分を出して、ついつい長湯することも多かった……そんな、温かい思い出。
「「ばばんばばんばんばん♪」」
「! これは由緒但しきむごもご」
「東郷さん、今良いところだから。押さえて押さえて」
「……懐かしいわ。風呂場の前を通ると、いつもこの歌が聞こえてきてねぇ……」
「……何よ、やれば出来んじゃない」
完全にリラックスした樹と楓が歌う曲を聞いて興奮する美森の口を押さえる友奈と、昔を懐かしんで優しい眼差しで弟と妹を見る風。そして、予想以上に上手かった樹の歌声に驚く夏凜。
上手く歌えたのはこの1曲だけで後は散々な結果に終わる。それでも、勇者部は樹の歌の上手さを認識出来たし、また聴きたいとも思う。だから、この日は歌いに歌った。樹が緊張せず歌えるように、また樹の歌声を聴けるように。
少しお手洗いに、そんな言葉と共にトイレまでやってきた風。その頭の中には、カラオケの最中に大赦から来た連絡が思い返されていた。
「……最悪の事態を想定しろってさ」
「それが、大赦からの連絡?」
「……」
「……そう。私には何も言ってこないのに」
いつの間にか後ろに居た夏凜に伝えるように呟くと彼女はそう聞き、風は黙ることで返答として夏凜も納得したように頷く。念のため、と夏凜は自分の端末を見る。そこには言った通り、大赦からの連絡はない。
最悪の事態。最も簡単に思い付くのは、やはり勇者の敗北。ないしは世界が滅ぶこと。とは言っても、今の連絡はそういう意味ではないだろう。先代の時とは異なり、異常な周期でやってくるバーテックス。それが一気にやってくる、予想外の行動をしてくる……最悪、残ったバーテックスが全てやってくることだってあり得る。そういう状況を想定しろ……ということだろう。
「……怖いなら、あんたに統率役は向いてない。私や……先代の楓さんなら、もっと」
「夏凜」
上手くやれる。そう言い切る前に、風が彼女の名前を呟く。言ってしまえばそれだけだが、それだけで夏凜は動きを止めた。言葉だけでなく、体の動きもだ。それは、鏡越しに見えた風の表情が……彼女の目が、薄暗い怒りを宿していたからだ。
「あんたが楓を……先代を尊敬してるのは知ってる。あんた自身が優秀なのも、知ってるわ。でもね、これは……このグループのリーダーはアタシで、これはアタシがやるべき“役割”で……アタシには、アタシの目的があんのよ」
「……」
「それに……アタシはね。本音を言えば、先代勇者の楓とあの子……いいえ、楓にはもう戦ってほしくないのよ。あんたと大赦は……どうか知らないけどね」
そう言って、風はトイレから出ていった。残された夏凜はしばらくそこから動けず……動けるようになった時には、心配した友奈が来ていた。大丈夫? と聞いてくる友奈に大丈夫だと返し、2人で部屋に戻る。
ー 楓にはもう戦ってほしくないのよ。あんたと大赦は……どうか知らないけどね ー
その道中、そしてカラオケが終わって自宅へと帰る間もずっと、夏凜の脳裏にはその言葉と……風の、怒りを宿した瞳が残っていた。
原作との相違点
・ちゃんと児童館に来る夏凜
・子供達と勇者部に誕生日を祝われる夏凜
・カラオケで一曲だけちゃんと歌える樹
・その他色々です。探してみてね←
という訳で、原作では出来なかった子供達とのサプライズ誕生日会と樹の歌のテスト、カラオケのお話でした。誕生日会と子供から鶴をプレゼントに貰う夏凜ちゃんを書きたかった。もうキャラ崩壊とか気にしない。今更ですけどね。
総力戦も間近。戦闘書くのが楽しみで仕方ないです。戦闘にしろ日常にしろ、なるべく分かりやすく、細かくと考えながら書いてますが、大丈夫ですかね?
総力戦の後、また番外編を書く予定です。例のアレとほのぼの系で口直し……出来るかは私次第。頑張ります。活動報告へのリクエストはいつでもお待ちしてます。くめゆとのわゆはごめんなさい←
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)