咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

ついにお気に入り1000件突破! ありがとうございます!

また誤字報告いただきました。誠にありがとうございます! 今更ですが、誤字報告を頂いた場合は念のため名前は出さず、前書きにて御礼申しあげます。

FGOようやくイベント終わらせました。いやー、長かった。ゆゆゆいのフラワーガチャは爆死しました←

今回、かなり原作と違う部分があります。ご注意ください。


結城 友奈は勇者である ー 11 ー

 『満開は確かに、自分達勇者の力を大きく高める。だけど、それは只でさえ人の身には過ぎた神様の力を、更に借りて発動するんだ。当然、大きすぎる力には……代償が付き物だよねぇ。それが“散華”……皆が知らない、大赦が教えていない満開のデメリット』

 

 

 

 何よ……それ。

 

 

 

 『満開の花が後になって散るように……満開の後に、体の機能の何かを供物として捧げることになる。どこを、何を捧げるのかは分からない』

 

 

 

 そんなの……知らない。

 

 

 

 『証拠なら、君達の目の前に居る自分こそがその証拠になる。右足、左目、左耳。全部その散華の影響さ。自分以外の先代勇者が戦えないのも、最後の戦いで満開を多用したからだ』

 

 

 

 「何よ……何よそれ!!」

 

 「お姉ちゃん……」

 

 「風、先輩……」

 

 聞いていられない。聞きたくない。そんな思いから、声を出さずには居られなかった。樹と友奈の心配そうな声が聞こえた。けれど、今のアタシにはそれに答える余裕は無かった。

 

 「夏凜、あんた」

 

 「夏凜ちゃんは知らないと思うよ。何せ、自分達の時も自分達には……自分達のサポートの人にすら知らされていなかったんだからねぇ」

 

 「……夏凜ちゃん……?」

 

 「……本当よ。満開にデメリットがあるなんて私……聞かされてない」

 

 夏凜に怒鳴ろうとした瞬間に、楓がそう言った。不安そうな顔の東郷が名前を呼ぶだけで問い掛けると、夏凜も震えながら首を横に振る。どうやら本当に知らされてないみたいね。

 

 「……楓君がその……散華のことを知ってるのは、実際にそうなったから……?」

 

 「いや、実は戦いの前に知る機会があってねぇ。詳しいことは、この戦いの後に話すよ」

 

 「……なんで今、散華のことを言ったのよ」

 

 「本当なら、もう少し経験を積んでから話すつもりだった。だけど、今回は敵が全部やってきた総力戦だ。そして……満開は、必要になる。あの一際大きい奴……獅子座は、満開無しで勝てる程甘くない。実際、当時の自分達が4人満開してもやっとだったからねぇ」

 

 獅子座……あの、一番大きなバーテックスね。楓が言うんだから、実際そうなんでしょ。当時と比べて強化された勇者システムでも……満開は必要になるってことね。

 

 不思議なことに、そう冷静に考えられてる自分が居る……違うわね。怒り過ぎて、一周回って冷静になっている感じ。怒りの対象は勿論バーテックス。そして……大赦。

 

 「それなら、黙っていた方が良かったじゃない。デメリットがあるって聞かされて、それが体のどこかを供物として捧げるなんて言われて……満開を使おう、なんてなる訳ないじゃない」

 

 「そうだねぇ……実際、満開を知ってから使った自分達は……実際に散華を経験して、心が折れそうになった。本当なら、言うべきじゃないんだろうねぇ」

 

 「なら……なんで言ったのよ」

 

 今喋ってるのは、アタシと楓だけだ。皆はアタシ達の会話を黙って聞いてる。友奈と樹はハラハラとして心配そうで、東郷は不安げ。夏凜は難しい顔をして、楓を見てる。アタシは……目の前の、車椅子に座ってアタシ達を見てる楓を……泣きそうになりながら見ていた。

 

 アタシは……楓に怒ってるんじゃない。むしろ教えてくれたことには感謝してる。もし、何も知らないまま使って、何かを代償にした時……それが満開のせいだなんて気付かないか、気付くにしても遅かったかもしれない。

 

 散華。楓が今の状態になった、本当の原因。そんなの、知らなかった。知らなかったのよ。代償として、供物として捧げる? そんなことを知ってたら勇者になんて……勇者部、なんて。

 

 大赦はなんでこんな大事なことを黙っていた。先代勇者がそうなったなら、知らないなんてことはあり得ない。それに……その捧げた代償は、()()の? 2年前に戦って満開した楓が今もそのままなのに……嫌な想像をしてしまう。

 

 「……言えば良かったと、言わなかったことを後悔した子が居たんだ。そして、皆には知らないで居るよりも、知っていて欲しかった。それが残酷な真実でも、後で知って絶望するよりは良いと、そう思ったんだ」

 

 「……捧げたモノは……楓の身体は……治るの?」

 

 これで治らないなんて言われたら……アタシは、本当に何するか分からない。戦いが終わって直ぐに散華のことを黙っていた大赦に攻め込むかもしれない。身体を捧げてまで戦った楓をまた戦わせて、樹を……勇者部の皆の身体を捧げさせてまで戦わせる大赦に。

 

 世界を守る為に必要なのは分かる。よくよく考えれば、デメリットを知っていたら満開を使うことを躊躇ってしまう。そのまま必要な時に使えずに負けたら……何の意味もなくなってしまうのだから。でも、それでも……頭では分かっていても、感情が納得しないのよ。

 

 「……大丈夫。いつか、治るよ。根拠は今は、言えないけどねぇ」

 

 いつもの朗らかな笑み。それを浮かべて言った楓は、それを疑ってないみたいだった。只の慰めなのかもしれない。皆の心を軽くする為の嘘なのかもしれない。アタシを、アタシ達を安心させる為の……出任せ、なのかもしれない。

 

 「信じられないかもしれないよ。怒りだとか、不安だとか……そういうのも、自分に向けてるかもしれない」

 

 「楓……」

 

 「無理に使うことなんてないんだ。使う意思を示さなければ、ゲージが溜まっていても発動はしない。もしかしたら、皆でなら使わずに勝てる可能性だってあるからねぇ」

 

 「そ、そうだよ! 皆でなら、満開しなくても勝てるよ!」

 

 「そうだよお姉ちゃん! 今までだって勝てたんだし……夏凜さんだって仲間になってくれたんだから」

 

 「……ええ、任せなさい。この完成型勇者である私がいるんだから。満開なんて使わなくても……勝利は確実よ」

 

 友奈が、樹が……夏凜が、前を向いてそう言う。でも、アタシは……そんな風に思えない。7体よ? 先代勇者達が満開を使って苦戦したって言う奴もいるのよ? 

 

 「姉さん」

 

 「楓……」

 

 「勇者部のことは、自分も一緒だよ。姉さん1人の責任になんてさせないさ。終わったら、幾らでも自分を責めていい。だから、今は……今だけは、いつもの姉さんになってほしい」

 

 楓が近付いてきて、その左手でアタシの右手を握る。左目に医療用眼帯を着けている顔は、真っ直ぐアタシの顔に向いていて、その右目はアタシの目を見てる。いつの間にかアタシよりも大きくなった手。アタシをもう少しで追い越しそうな背。樹に似て可愛かった顔も、すっかり男の子らしくなった。

 

 大事な……本当に大事な弟。勇者部のことを一緒に背負ってくれる、アタシの不安を和らげてくれる……本当に、大事な。そんな弟に頼まれて……部員達が、やる気になってる。これでもうだうだ言うなら……お姉ちゃんとして、部長として、アタシはアタシを許せない。

 

 「……ええ。もう、大丈夫よ。お姉ちゃんの女子力にかかれば、7体のバーテックスなんてなんのそのよ」

 

 「流石、自慢の姉さんだよ。美森ちゃんは……どうだい?」

 

 「え? あ……うん。大丈夫。私はもう、決めてるもの。楓君と……皆と一緒に守る。皆と一緒に……頑張るって」

 

 「そっか……ありがとねぇ」

 

 アタシを含めて、皆が笑顔を浮かべる……浮かべられた。やってやろうじゃない。アタシ達勇者部に敵う敵なんていないのよ。

 

 「今度こそ行くわよ、皆。勇者部……変身!」

 

 「「はいっ!」」

 

 「うん!」

 

 「ええ!」

 

 「ああ!」

 

 全員で横一列に並んで、同時にスマホの勇者アプリをタップ。勇者に変身して、改めて壁の近くに居るバーテックスを見る。

 

 数も大きさも負けてる。でも……アタシ達は、勝つ。勝って、また勇者部の依頼をこなして、家族にご飯を作って……そうね、また甘えさせてもらいましょうか。

 

 そんなことを思いつつ、今度こそ円陣を組む。夏凜は渋ったけど、楓と友奈が手招きしたら顔を赤くしつつそろそろと寄ってきたので無理やりアタシが引き寄せる。アタシから右回りに夏凜、楓、友奈、東郷、樹、そしてまたアタシ。

 

 「あんた達、なるべく満開は使わない方向でね。終わったら好きなもの奢ってあげるから……絶対勝つわよ!」

 

 「ホントですか!? 美味しいものいーっぱい食べよっと! 肉ぶっかけうどんとか!」

 

 「言われなくても殲滅してやるわ。後、私は高級ニボシね」

 

 「わ、私も叶えたい夢があるから。お姉ちゃん、私ケーキがいいな」

 

 「皆を……国を護りましょう! 風先輩、私は新しく出来たお店にあるという宇治抹茶ジェラートが何故か妙に気になるのでそれでお願いします」

 

 「大丈夫、皆でならやれるさ。ああ、自分はラーメンでも頼もうかねぇ。昔どこかで徳島ラーメンってのが美味しいって聞いた気が……」

 

 「あんた達欲望に正直ねぇ……全くもう。さぁて行くわよ! 勇者部、ファイトオオオオッ!!」

 

 【オーッ!!】

 

 

 

 

 

 

 私は後ろに下がって狙撃銃を手に狙撃体勢に入り、皆は前に出る。今回は数が多いので楓君も空を飛んで前に行く。マップを軽く確認。映っているのは牡牛座、魚座、天秤座、牡羊座、水瓶座、双子座、そして楓君が危険視してた獅子座。彼が注意するだけあって、その威圧感は明らかに別格。

 

 事前に楓君から簡潔にバーテックス達の情報は聞いている。牡羊座は斬ると分裂し、魚座は煙を出して爆発を引き起こす。天秤座は遠距離攻撃を大きな錘に引き付けて回転して体当たりしてきて、水瓶座は左右の球体から水球や水流を飛ばしてくる。双子座、牡牛座は初見で、獅子座は小さな追尾する火球と本体程の大きさの火球、更にはレーザーまで飛ばしてくるという。

 

 マップを見る限り、バーテックスの進行速度にバラつきがある。7体も居るのに、牡羊座だけが突出してきている。その牡羊座を夏凜ちゃんが上から切りつけると頭部がパックリと裂け、動きが止まったので撃ち抜く。そのまま夏凜ちゃんが前回のように周囲に短刀を突き刺して1人で封印の儀式を始めると、牡羊座から御霊が出てきた。

 

 「凄いよ夏凜ちゃん!」

 

 「ふん、これくらい当然よ!」

 

 「他の敵が来る前に倒すわよ! ……ってこいつ、凄い速さで!?」

 

 友奈ちゃんが夏凜ちゃんを褒めて……羨ましい……風先輩がそう言うと、御霊が凄まじい速さでその場で独楽のように回転し始めた。夏凜ちゃんがその御霊に向かって短刀を投げ付けるけれど、それは回転によって弾かれる。

 

 「任せて!! やぁっ!!」

 

 友奈ちゃんが回転を気にせずに殴り付けると殴った箇所が砕けて回転が止まったので逃すことなく撃ち抜く。すると御霊は砂になり、友奈ちゃんが手を振ってきたので笑顔を返す。そんな中、私の頭には先程の楓君の散華の話が繰り返されていた。

 

 彼は言った。散華の証拠は自分自身だと。動かない右足、見えない左目、聞こえない左耳を供物として捧げたんだと。正直に言えば、身体を捧げてまで戦うことに思うところはある。でも、これで終わりという思いでそのことには蓋をした。ただ、あの時は黙って聞いていたけれど……私は疑問に思うことがあった。

 

 (楓君が言った供物は3つ。だけどあの日、部室で彼が言った満開の回数は()()……満開と散華の回数が合わない)

 

 残り1回分、彼は何を捧げたのか。いえ……そもそも、本当に彼が満開したのは4回なの? 実はそれ以上ということも考えられる。隠したのは、やっぱり心配をかけたくないから? それに、彼は身体の()()を捧げると言っていた。()()ではなく、機能と。物理的に失う訳じゃなくて、その機能を失う。その機能とは、どこまで……。

 

 (……いえ、それは戦いの後でもいい。まずは勝たないと……それに、そっちも気になるけど、敵の動きも気になるわね)

 

 まるで叩いてくれとばかりに前に出た牡羊座。特に抵抗らしい抵抗も無くあっさりとやられた敵は、何がしたかったのか。そう思った時、遅れて来た……大きな角のような部位に苔の生えた胴体に鐘を吊るす柱がある、妙な見た目の牡牛座が鐘を揺らした。すると、近くの皆が耳を抑えて蹲るのが見えた。楓君もフラフラとしながら着地し、翼が消える。

 

 「な、何よこの気持ち悪い音は……っ!?」

 

 「ぐ……こ、こんな能力が……武器が出せない……っ」

 

 「こ、これくらい、勇者なら……あ、ぁ……っ!」

 

 あの鐘が鳴らす音のせいか。そう確信して撃ち抜こうとした時、私の目の前の地面から魚座が飛び出してきた。

 

 「このバーテックス、土の中を!? そんな能力まで持っていたの!?」

 

 楓君から聞いてない能力。彼も知らなかったか、それとも忘れていたか……そんなことはどっちでもいい。これだと狙撃が出来ない。いつ出てくるか分からないし、周りに敵が居るという状況が私の集中力を掻き乱す。

 

 マップをチラッと確認。魚座は私の周囲を高速で動き回っている。でも地中に居るから攻撃が届かない……出てきた所を撃つしか。いや、今なら撃てるのでは? と思ってマップを確認しながら改めて牡牛座に銃口を向けると、魚座は私の真下にやってきた。咄嗟にリボンを動かしてその場から離れた瞬間、私が居た場所を突き上げるように魚座が出てきた。

 

 「このっ……」

 

 狙撃銃の銃口を魚座に向ける。だけどその頃には、また地面に潜っていた……素早い。狙撃銃だと避けてからの反撃が間に合わない。散弾銃や拳銃では皆の援護をするには射程が足りない。魚座を無視して皆と合流するには私の機動力が足りない。つまり、私はこの魚座を倒さないといけない。

 

 狙撃銃を消して2丁の散弾銃に変更。出てきた青坊主に端末を持ってもらい、マップを確認。全体の動きを大まかに把握しつつ、魚座が出てくる時を待つ。皆のことは……信じるしかない。

 

 「早く出てきなさい……蠍座みたいに蜂の巣にしてあげるから」

 

 そう呟く私から何故か、青坊主が距離を取った。

 

 

 

 

 

 

 美森が魚座と対峙している頃、他の5人は牡牛座の鐘の音に苦しめられていた。頭の中を掻き回されるような不協和音に身動きが取れなくなる中で、樹が動く。

 

 「こんな……こんな音は、ダメ。音は、音楽は皆が幸せになれる素敵なモノなのに……こんな音は……ダメええええっ!!」

 

 叫びと共に手を、ワイヤーを伸ばす。ワイヤーは牡牛座の鐘の部分に幾重にも絡み付き、鐘の動きを止める。それと同時に、不協和音も止まった。

 

 「ナイスよ樹!」

 

 「っ!? 皆、避けるんだ!」

 

 風が言った後に回転している天秤座の姿が目に入った楓が叫び、全員がその場から跳ぶ。その直後、竜巻の如く回転する天秤座の側面から錘付きの鎖が伸びてきて5人が先程まで居た場所を薙ぎ払った。それは楓の知らない行動であり、ここにきて新しい動きをするバーテックスに思わず舌打ちをする。

 

 だが、天秤座は過去に楓が相対した敵。その攻略法も覚えている。楓は翼を出して飛んで天秤座の上を取り、翼から弓へと変更し、落下する合間に与一の力を借りて矢を連射して天秤座を上から射抜く。10、20と光の矢が天秤座の体を穿ち、やがてその回転が止まる。

 

 「止まった! なら、これでええええっ!!」

 

 その隙を逃さず、跳び上がった風が勇者の力を使い巨大化した大剣で天秤座を横一閃に切り裂く。が、空中で無防備を晒す風に水瓶座が水流を放ってきた。しかし、直ぐに翼を展開した楓が風の腰に左手を回して抱き締め、水流の射線から逃れる。

 

 「助かったわ楓」

 

 「どういたしまして」

 

 「友奈! 遅れんじゃないわよ!」

 

 「うん、夏凜ちゃん!」

 

 「「はああああっ!!」」

 

 笑顔を浮かべて言葉を交わす犬吠埼姉弟。そんな2人を他所に、夏凜と友奈はタイミングを合わせて水流を放ち終えた水瓶座に向かって跳び、夏凜が×字に切り裂いた後に友奈が拳を打ち付け、2人の剣と拳を受けた水瓶座は大きく後退する。

 

 風を下ろし、現状を把握する楓。牡牛座は樹が抑え、天秤座は風が切った傷を修復中で水瓶座も同様。牡羊座は撃破、魚座と双子座は楓からは見えない。獅子座が微動だにしていないのが不気味だが、そういえば決戦の時も最初は動いて居なかったと思い返す。

 

 「今のうちに3体まとめて封印するわよ! って……何? バーテックスが……」

 

 「っ!? わ、ひっ、引っ張られる!?」

 

 「樹! ワイヤーを切るんだ!」

 

 風がバーテックス達を封印しようと動き出した時、突然3体のバーテックスが後退し始める。必然的に牡牛座の動きを止めていた樹が引っ張られるものの、楓の言う通りにワイヤーを切って難を逃れた。

 

 バーテックスの動きに戸惑う勇者達。そんな中、楓は後退……否、集まるバーテックスを見て、どこか既視感を抱いていた。

 

 (後退……いや、集まってる……()()()()()()()()()()? なんだ、どこかで見たことが……っ!? まさか!?)

 

 そして、思い出す。かつて見た結界の外に居た小さな星の数程のバーテックス、それらが集まって合体ないし融合することで今の大きさのバーテックスになっていく様を。

 

 もし、その融合が小さなバーテックスが巨大なバーテックスになる為の機能なのではなく、元々バーテックスが持っている能力であるならば? それを、あのバーテックス達も行えるなら? その考えに至った時……それは、答えとなって現れた。

 

 「……全く、面倒な……」

 

 思わず呟く楓。彼の……勇者達の目に映るのは、獅子座、牡牛座、天秤座、水瓶座、それらの特徴を併せ持つ一体の巨大なバーテックス。レオ・スタークラスター。それが、勇者達の前に立ちはだかる壁の名前である。

 

 「合体した? こんなの、聞いてないわよ……」

 

 「でも、まとめて倒せるよ!」

 

 「友奈さん、前向きですね……」

 

 「でも友奈の言う通りじゃない。まとめて封印開始よ!」

 

 「っ! 来るよ皆。気をつけて!」

 

 丁度会話が終わる頃、レオの前に円を描くように大量の小さな火球が現れる。“小さな”、とは言っても勇者達と比べればそれは充分に大きいのだが。そしてそれは、一斉に5人へと襲い掛かった。

 

 一斉に跳び、避ける5人。しかし火球は予め楓から聞かされていた通りに追尾してくる。しかもその誘導性はかなり高いようで、素早く右に左にと曲がったところで直ぐに軌道を修正してくる。

 

 「くっ、この……しつこい! あ、やば……っ!!」

 

 「お姉ちゃ……きゃああああっ!!」

 

 堪らず、風が振り返って大剣で切り裂く。が、1つ切り裂いたところで迫る火球は他に大量に存在し、己の失敗を悟りつつ風は大剣を盾にして火球を受けた。そんな彼女の姿に気を取られ、動きを止めてしまった樹にも火球が殺到し、避けられずに受けてしまう。

 

 「追ってくるなら、そのまま返して……あっ!? ああっ!!」

 

 「このぉっ!! くっ、硬……うああっ!!」

 

 追尾してくるのなら敵にぶつけてやる、そう思ってレオに向かってUターンする友奈だったが、レオの近くで己を追尾する火球と新たに向かってくる火球に挟み撃ちにされて成す術なく撃ち落とされる。夏凜は流石と言うべきか火球を避けつつ接近し、レオの牡牛座の角らしき部分に二刀で斬り付ける。が、あまりの硬さに逆に斬り付けた二刀の方が折れ、そのまま火球を受けた。

 

 「皆!? この、邪魔を……っ!?」

 

 「よくも!! っ! ぐ、ああっ!!」

 

 そんな光景を魚座を相手取る合間に見てしまった美森は狙撃銃へと持ち変えてレオを狙い撃とうとするも、それは魚座が彼女の眼前の地面から出て視界を塞ぐことで邪魔され、また潜る頃には目の前にレオの放ったレーザーが迫っており、そのまま直撃する。楓もレオに怒りを向けて接近するが、バラけていた火球が全方位から集中して向かってきた為に翼を球体の盾に変え、そのまま火球を受けた。

 

 

 

 「……っ、まだまだぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 黒煙の中から落下する光の球状の盾。それを再び翼へと変えた楓は全員が倒れていることを確認し、怒りの声を上げてレオへと突っ込む。レオが新たに火球を生み出せば、直ぐに翼から弓へと変え、与一の力を借りて光の矢を連続して放ち、可能な限り撃ち落とす。残った火球は弓を翼に変えて突っ込んだ際にすれ違い様に切り裂いた。

 

 「だいだらぼっち!!」

 

 火球が爆発した際の爆風で更に加速。そのままの速度を維持し、精霊のだいだらぼっちの出現と同時に翼を巨大な左手へと変えて握り拳を作り、レオの巨体を殴り付けた。結果、レオを大きく後退させ、その巨体を拳の形に凹ませることに成功する。そしてまた翼へと変えて追撃をしようとし……。

 

 「っ!? ごぼっ……!?」

 

 下から飛んできた水球に気付くのに遅れ、捕らわれた。いきなり水の中に放り込まれる形になった楓は混乱し、思わず動きを止めてしまう。それを見逃すレオではなく……無慈悲にも、レーザーで水球ごと撃ち抜かれた。

 

 

 

 

 

 

 「……痛……」

 

 痛さと熱さに顔をしかめつつ、友奈は体を起こして立ち上がって周囲を見回す。その目に映ったのは、倒れ伏す仲間達。何とか立ち上がろうとしているのが見えたことで安堵し……レオへと目を向けて、唖然とする。

 

 「楓くん!!」

 

 「……ぐ……っ」

 

 それは、レーザーに撃ち抜かれて落下する楓だった。だが、落下していたのも数秒のことで直ぐに楓は翼を出して体勢を整えた。それを見てホッとする友奈だったが……レオが背部から生えている触手のようなモノを楓の視界外から伸ばしているのが見えた。

 

 それを見た友奈の行動は、ほぼ無意識だった。彼女は彼に向かって跳び上がり、伸びる触手を殴り飛ばす。そこでようやく楓は友奈と触手の存在に気付き……直ぐ側に小さな火球が迫っているのが見えた。

 

 「友奈ちゃん!!」

 

 「えっ!?」

 

 咄嗟に楓は友奈の手を取って引き寄せ、翼を消して再び球体の盾を作り出して耐える。しかし、それだけでは終わらなかった。火球が全て着弾した後、もう1本の触手が盾に巻きついてきたのだ。

 

 「ちっ……これじゃ盾を消せない……」

 

 「ど、どうしよう楓くん……」

 

 「姉さん達に期待するしかないねぇ……っ、友奈ちゃん、耐えて!」

 

 「う、うん!」

 

 触手のせいで盾から形を変えることが出来なくなった楓と盾の中に一緒に居るから外に出られない友奈。そんな彼女にそう答える楓だったが、捕まったまま動きのないことに疑問を抱く。かと思えば、自分達を捕まえている触手がまるで2人を盾ごと己の体に叩き付けるように動き出したので次に来るであろう衝撃に備える。

 

 

 

 「「……えっ?」」

 

 

 

 しかし、恐れた衝撃が来ることはなく……まるで、水の中に入り込むかのように。2人を包んだ球状の盾は2人の間の抜けた声と共に、レオの体へと沈み込んだ。

 

 「……楓? 友奈?」

 

 「お兄、ちゃん……? 友奈、さん?」

 

 「楓さん!? 友奈ぁ!?」

 

 「楓君……友奈ちゃん……?」

 

 残された4人は、ようやく起き上がった体ではどうすることも出来ずに……ただ、その光景を目にしていた。




原作との相違点

・散華暴露

・攻撃してくる天秤座と水瓶座

・めっちゃ邪魔してくる魚座

・主人公と共にスタクラに取り込まれる友奈

・その他沢山



という訳で、散華暴露と総力戦開始、楓と友奈がスタクラに取り込まれるお話でした。風は楓と前向きな3人によって鎮火、美森は元々覚悟決めてたのとそれ以上に疑問があったので控えめなリアクションでした。デカイ花火の前には、色々な花火が上がるものですよね←

感想でDEifが人気だと書いてたので確認したところ、最初のDEifがPVトップで笑いました。私も皆様も類友類友←

今回、思いきってかなり原作と変えました。特に最後。友奈は巻き込まれた形ですね。

次回で総力戦終了予定。それが終わればまた番外編です。片方は救いのない奉りルート。それともう1つ、ほのぼのか甘々か、とりあえず鬱から離れたのを口直しに書きます。どうせ、また、重くなる。

DEifのように、この話が好き、このシーンが好き、ここのこのキャラが好き、なんてのも大歓迎です。人気投票でも……やめよう、東郷さんかわっしーが1位になりそうだ←

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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