咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

35 / 142
お待たせしました(´ω`)

また誤字脱字、更には文の修正まで頂きました。ありがとうございます。見直ししてるのに何故見逃すのか……誤字脱字を出さない人間になりたい。

今回、かーなーりやりたい放題です。そこまでやる? ってくらいです。そして1つの区切りでもあるからか久々に11000文字越えました。

キーワード:“姉さんマジパネェ”


結城 友奈は勇者である ー 12 ー

 「わ、私達……どう、なったの?」

 

 「……取り込まれた? いや、呑み込まれた、のかねぇ」

 

 暗い。なのに楓くんの光のお陰なのかお互いの姿はハッキリ見えてる。自分達がどうなったのかよく分からなくて楓くんに聞いてみると、眉間に皺を寄せて苦々しげな表情を浮かべていた。

 

 ふと、私達の状態を改めて見てみる。楓くんに手を引かれた私は、そのまま彼の左手に肩を抱き寄せられている。足はこの光のボールみたいなのについている。丸いからちょっと立ちにくいけど、今は仕方ないよね。

 

 「さて、どうしたものか……迂闊に盾を解除出来ないし……」

 

 「なんで……ってそっか、ここはバーテックスの中だもんね」

 

 「そういうこと。何が起きるかわかんないからねぇ……内臓とかあるのかねぇ、バーテックス」

 

 「あ、あんまり想像したくないなぁ……?」

 

 真っ暗だけど、ここはバーテックスの中。もし楓くんの盾……これ、盾だったんだ……がなくなったら私達がどうなるか分からない。そんな言葉に納得しつつ、楓くんが言った内臓の一言に思わず想像してしまい、苦笑い。でもバーテックスって本当に内臓とかあるのかな……骨とか無さそうだけど。

 

 そんなことを考えていると、カリカリ……っていう音が聞こえた気がした。何かを齧るような、削るような……気のせいかな? と思ったけど、やっぱりずっと聞こえてる。楓くんも聞こえたのか、辺りを見回し始めた。

 

 「楓くん。この音……」

 

 「うん、なんだろうねぇ……いや、この感覚……盾に負荷が掛かってる。体内に居るから? それとも……」

 

 カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ。ずっと聞こえる、途切れることのない音。盾の外は何も見えないのに音だけが聞こえて、何だか不安になる。戦う時とは違う、別の不安。昔、怖いテレビ番組を見た時みたいな……そんな怖さ。

 

 思わず、楓くんにしがみついてしまう。すると楓くんも私をより強く抱き寄せた。2人してキョロキョロと辺りを見回すけど、やっぱり暗いままで……かと思った時、一瞬白い何かが見えた気がした。

 

 よーく目を凝らす。すると、また白い何かが見えた。一瞬だけじゃなくて何度も、何度も。前にも、後ろにも、右にも、左にも、上にも、下にも……何度も。

 

 「……っ!? 友奈ちゃん! 見るな!!」

 

 「あ……あ、ああ……」

 

 楓くんの声が聞こえる。けれど、私は目の前の光景から目を離せずに居た。怖いのに、見たくないのに……体が強張って、動かないんだ。

 

 段々と、その白い何かがハッキリとしてきた。カリカリ、カリカリと音がする。それは“歯”だった。それは……私を丸呑み出来そうなくらい大きな……“口”だった。

 

 

 

 「いやああああああああっっ!!!!」

 

 

 

 「友奈ちゃん! 落ち着いて!」

 

 「いや! いや!! やだああああっ!!」

 

 どこを見ても口だらけだった。どこを見てもその口が閉じたり開いたりしていた。カリカリカリカリ言ってたのは、楓くんの盾を噛んで削る音だった。それを理解した時、私の中の不安が、今まで耐えていた恐怖が爆発した。

 

 食べられる。齧られる……殺される。真っ白な、口だけしかない何かが……多分、バーテックスが、楓くんの盾の外に隙間なく存在して、どこもかしこもそれしか見えなくて。

 

 反撃出来るなら、きっと耐えられた。楓くんだけじゃなくて東郷さんも、風先輩も、樹ちゃんも、夏凜ちゃんも……皆が居たなら多分、耐えられた。でも、ここでは反撃出来なくて、ただ見ていることしか出来なくて。ずっと盾が削られる音を聞いていることしか出来なくて。

 

 怖い。怖い、怖い怖い怖い!! 何も出来ないのがこんなにも怖い。ただただ見ていることしか出来ないのが涙が出るくらいに怖い。ただただ齧られる音だけが聞こえるのが何も考えられなくなるくらい怖い。

 

 「友奈ちゃん! ……ダメかっ。満開は……いや、盾が消えるかもしれないから危険過ぎる……」

 

 「いやだ……やだよう……出して……東郷さん……皆……」

 

 「……すう……」

 

 

 

 「友奈っ!!」

 

 

 

 「ひっ! ……ふぇ?」

 

 急に耳元で大きな声で名前を呼ばれて思わず身が竦む。すると、左耳を塞がれて少し上を向かせられながら頭を抱き寄せられた。誰が、なんて分かりきってる。ここには私と楓くんしかいないんだから。

 

 楓くんの顔以外が見えなくなる。左耳が塞がれているからカリカリって音が聞こえなくなって、右耳はドクンドクンって……楓くんの心臓の音だけが聞こえる。

 

 「落ち着いて。外は見なくていい……耳もこのまま塞いじゃおう。別に聞いていて楽しくないけれど、自分の心臓の音でも聞いていてねぇ」

 

 「あ……え……と……」

 

 楓くんと目が合う。こんな状況なのに……ううん、違う。こんな状況だから……楓くんは、いつもみたいな朗らかな笑顔を浮かべていた……浮かべて、くれていた。

 

 楓くんが座り込む。すると当然、私も座り込むことになって……まるで、楓くんにもたれ掛かるみたいな体勢になる。

 

 「少し盾の形を変えて、四角くしたんだ。これなら座りやすいだろう?」

 

 「う……うん……」

 

 「残念だけど、自分達に出来ることは少ない。今は……外に居る姉さん達に任せよう」

 

 「……うん」

 

 そう言って、楓くんは私を抱き締める力を少し強くした。今の私は、目の前に楓くんの笑顔があって、楓くんに思いっきりくっついていて、左耳は楓くんの手で塞がれてて、右耳は楓くんの心臓の音を聞いていて……あはは、楓くんがいっぱいだ。そんな風に思って、思わず笑って……さっきまで泣いてて、怖かったのが嘘みたいだ。

 

 「大丈夫、守るよ。友奈ちゃんも、たまには守られていい。頑張ってもらっていいんだ。先代勇者は伊達じゃないってねぇ」

 

 「……ありがとう、楓くん」

 

 守られていい、頑張ってもらっていい。私が守るんじゃなくて……頑張るんじゃなくて。なんでだろう、私がっていつも思ってたのに……今は、その言葉に甘えたくなる。風先輩と樹ちゃんが羨ましいなぁ……こんなお兄ちゃんか弟が、私にも居たら……なんて、ね。

 

 今は……今だけは、甘えさせてもらおう。きっともうすぐ外に出られる。皆が、助けてくれる。その後は……楓くんに甘えさせてもらった分、助けてもらった分……頑張ろう。

 

 (とは言うものの……少しずつ、光が削られてる。広げようにもこれ以上は……小さいバーテックスが密集してるからか? ……姉さん達の満開は、多分免れないねぇ。全く……自分の力の無さがイヤになる)

 

 

 

 

 

 

 「あ……楓……友奈……」

 

 ヨロヨロと立ち上がった風は、そのままふらふらとレオに向かって歩く。

 

 「楓君……友奈ちゃん……」

 

 離れた場所に居る美森は倒れたまま、レオに向かって手を伸ばす。

 

 大事な弟が、後輩が呑み込まれた。大切な人達が、敵に取り込まれた。その光景をまざまざと見せられた4人の中で、風と美森の2人が最も精神的にダメージを受けていた。届くはずもない声で2人の名前を呼び、届くはずもない手を2人に向かって伸ばす。

 

 そんな風を、楓も捕らわれた水球が取り込んだ。美森の目の前を、魚座が砂を巻き上げて背を見せながら泳いだ。2人は俯き、動きを止める。

 

 「お、お姉ちゃん!! 東郷先輩!!」

 

 「っ……風に東郷! しっかりしなさい!」

 

 樹と夏凜が叫ぶが、やはり動かない。そんな2人の心にあるのは……失う恐怖と、敵への怒りだ。

 

 楓の向けられると安心する朗らかな笑みが頭に浮かぶ。友奈の見ていると元気になる笑顔が頭に浮かぶ。2人がそんな笑顔で会話をしている、見ているだけで楽しく、見ている側まで笑顔になる風景が浮かぶ。今正に、それらが奪われようとしている。

 

 握り拳を作る。失ってたまるか、奪われてたまるか。大事な家族なのだ。大事な友達なのだ。欠けることすら想像出来ない程に、大切な。

 

 (供物を捧げるのは……怖い)

 

 (でも……それ以上に、2人を失う方が、もっと怖い)

 

 だから、意思を示す。故に……“ソレ”は花開く。

 

 「楓を……友奈を……」

 

 「楓君を……友奈ちゃんを……」

 

 

 

 ー 返せ……っ!! ー

 

 

 

 樹海から伸びる幾多の光の根の先で、大きなオキザリスとアサガオが花開く。満開……溜め込んだ勇者の力を解放し、更なる力を得る勇者の奥の手。代償として体のどこかの機能を供物として捧げることになる……だが、2人は供物よりも2人を失うことの方が怖かった。

 

 豪奢かつ神秘的な勇者服に身を包んだ風は大剣を横に一閃。それだけで、水球が弾け飛んだ。同じような勇者服に変わった美森は8つの砲門を持つ戦艦のようなモノに乗り、向かって来た魚座を邪魔そうに見下した後に一斉射撃し、その体を消し飛ばして御霊を露出させる。

 

 「この程度の敵なら……封印の儀式も不要なのね」

 

 その言葉と共に砲撃し、御霊を撃ち抜いて砂へと変える。まるで樹海に染み込むように消える様を見て、美森は何度見ても不思議な散り様だと感想を溢し、そう言えば双子座はどこに? と思いマップを確認する。

 

 「っ!? 神樹様に近い上に速い……!? 何で気付けなかったの!」

 

 双子座は、既に神樹からそう遠くない距離まで近付いていた。思わず神樹の方へと振り返る美森が見たのは、ダカダカと高速で走る……まるで首と両手を1つの板で拘束されたような人型のバーテックス。他のバーテックスに比べると小型だが、それ故にか走る速度は凄まじい。

 

 美森が狙って砲撃するも双子座はその小さな体と速度で避ける。風はレオに向かって切りかかっている。満開していない夏凜と樹では間に合わないだろう……それは、誰もが理解していた。夏凜は左肩を確認し、満開ゲージがまだ溜まりきっていないことを確認して舌打ちをする。だから、樹は動いた。神樹に向かって飛び上がり、双子座の姿を視界に入れる。

 

 (私も……私が、やるんだ)

 

 供物として何を捧げることになるのかはランダム。兄のように手足を捧げるかもしれない。聴覚を捧げるかもしれない。もしかしたら……そう思い、樹は己の喉に手を触れる。

 

 (それでも……例え、そうなったとしても)

 

 折角出来た夢を手放すことになるかもしれない。見つけたやりたいことが、出来なくなるかもしれない。それでも……大事な家族を失う方が、大切な先輩を失う方が……世界が滅びて日常を失う方が、何倍も怖い。

 

 (だから……だから!!)

 

 「私だって……やるんだ!! “満開”!!」

 

 空に鳴子百合の花が咲く。風達と似たような勇者服に変わり、背に金色の輪に鳴子百合が咲いているようなモノを背負い、遠くに居る双子座へと開いた右手を向ける。

 

 「そっちへ……行くなああああっ!!」

 

 背の百合から大量に、高速で伸びる緑の光のワイヤー。それは走る双子座を追い越し、逃げ場を失くし、体にぐるぐると巻き付き……引き寄せ、1回樹海に叩き付けてから持ち上げる。

 

 「おしおきっ! えいっ!」

 

 ぐっ、と手を握る。するとワイヤーは一気に収縮して双子座の体を細切れにし……露出した小さな御霊は、ワイヤーを突き刺すことで破壊する。

 

 「でええええりゃああああっ!!」

 

 大剣を倍の大きさに、更に倍、更にと繰り返し、今やレオの角にまで匹敵する程に巨大化し、それを気合と共に全力で振るう風。それはレオの右の角に当たり……驚くことに、スパンっと切り飛ばした。

 

 「「「……えっ?」」」

 

 まさかの光景に見ていた3人もポカーンと間の抜けた表情を浮かべる。そんな3人のことなど知らんとばかりに風は大剣を消して切り飛ばした角に追い付いて細く尖った部分を両手で持ち……振りかぶる。

 

 

 

 「楓とおおおお!! 友奈をおおおおっ!! 返せええええええええっっ!!!!」

 

 

 

 怒りの形相を浮かべ、己の何十倍モノ大きさの角を……全力でレオに振り下ろす。その形相と奇行とすら呼べる行動に引いたかのようにレオが僅かに後退するも、その程度で逃げられる筈もなく……上半身に叩き付けられてめり込み、残った角もへし折れ、体中にビキビキとヒビが入った。

 

 「っ! やってることはアレだけど、ナイスよ風!」

 

 そのヒビの中に、夏凜は見覚えのある光を見た。彼女は即座にレオの体に跳び移り、駆け上がる。そしてヒビの中へと幾つもの短刀を投げつけ……短刀が体内で爆発。その結果、レオの巨体に比べると小さいが勇者達に比べると充分に大きな穴が空き……その中に、白い光で出来た四角い何かがあった。

 

 「楓さん! 友奈!」

 

 「……助けてくれると、思ってたよ!」

 

 夏凜の声に答え、楓は随分と小さくなった四角い盾を翼へと変え、友奈を左手で抱きながら穴から飛び出し、その前に夏凜もレオの体を蹴って離れる。風もめり込ませた角から手を離し、自分も離れる。

 

 2人の姿を見て、全員がホッと安堵の息を吐く。楓と友奈もまた、無事を伝えるように笑顔を浮かべた。楓は友奈を下ろし、友奈は少し名残惜しそうにしつつも離れた。全員に笑顔が戻るも、それは直ぐに引き締められる。

 

 「……何よ、その元気っぽい玉……って楓が言ってたわね、大きい奴も作るって」

 

 レオがボロボロの体を修復しつつ、小さな火球を頭上に集めて己の体程の大きさの巨大な火球を作り出していた。あまりの大きさに風が顔をひきつらせる。それは勇者部の面々も同じであった。が、風は大剣を手にして覚悟を決める。

 

 「勇者部一同、封印開始! アタシがこいつを防いでる内に、早く!!」

 

 【了解!!】

 

 風は大剣を前にしてサイズ差が違いすぎる巨大火球を真っ向から受け止め、彼女の指示を受けた5人はレオを囲うように移動し、封印の意思を込めて手を翳す。するとレオの巨体が光に包まれ、その光が遥か上空へと昇っていく。

 

 よし、と風がそう思った瞬間、火球が勢いを増して風を呑み込んだ。だが、そこで火球は消失し……風は花びらを散らしながら元の勇者服に戻り、力尽きたように落下する。

 

 「風先輩!?」

 

 「アタシに構わず……そいつを倒せええええっ!!」

 

 「倒せ……って……あの御霊を?」

 

 友奈が心配から風の名前を呼ぶが、彼女はそれよりも御霊をと叫ぶ。しかし、その御霊を見た全員が唖然とした表情を浮かべ……夏凜がそんな言葉を溢す。

 

 レオから露出した御霊。それは惑星規模の大きさを誇り、更には遥か上空……そんな言葉すら陳腐に思える程の遥か彼方、宇宙空間に存在した。大きさ、そして場所。4体のバーテックスが合体したことと言い、何もかもが規格外だと絶望にも似た感情が襲い掛かる。

 

 (……似てるねぇ、あの時と)

 

 ふと、楓は大橋での決戦を思い出した。あの時も1度は散華に恐怖し、心が折れかけた。今回も規模こそ違うが、それと変わらない。御霊があまりに巨大で、しかも宇宙にあって、どうすればいいか分からなくなって心が折れかけている。

 

 だから、楓は動いた。それに続くように、友奈もまた……動く。

 

 「大丈夫だよ。あれが御霊なら……やることは変わらないねぇ。あんなもの、ちょっと大きいだけさ。いつもみたいに壊して、それで終わりだよ」

 

 「そうだよね……敵がどんなに大きくたって……どんなに怖くたって。それでも諦めない。それが……勇者だよね」

 

 上を向いて御霊を見据える2人。それに釣られるように3人も空を見上げ……決意と覚悟を瞳に宿す。どっちにしろ、破壊せねば世界が滅ぶのだ。ならば、嘆くよりも、絶望するよりも……動いた方がいい。何よりも、3人は2人の諦めない姿に希望を見たのだ。

 

 「さて……それじゃあひとっ飛びしようかねぇ」

 

 「わ、私も行く! って飛べないよ私!?」

 

 「友奈ちゃん、乗って。今の私なら……友奈ちゃんをあそこまで連れていけると思う」

 

 「東郷さん……ありがとう!」

 

 「樹と夏凜ちゃんには封印を続けてもらおうかねぇ。頼んだよ? 2人共」

 

 「わかった。お兄ちゃんも友奈さんも東郷先輩も頑張って!」

 

 「友奈に東郷。楓さんの足引っ張らないようにね!」

 

 樹と夏凜の激励を受け、翼を出した楓と友奈を乗せた東郷が一直線に御霊に向かって飛び上がる。精霊バリアの恩恵で高速で飛んでも問題ない3人は、速度を緩めることなく進んでいく。

 

 小さくなる3人の姿を眺めた後、樹と夏凜は現れた数字を確認する。秒数は3桁ではあるが、それでも猶予は数分程度。オマケに封印中の為に侵食も始まっている。それでも自分達がここから動けない以上3人に……否、満開を残している2人頼りになる。

 

 (お兄ちゃんには……勿論友奈さんにも、してほしくないけれど……)

 

 (何で肝心な時に私は……後1つゲージが溜まっていれば、使えたのにっ!)

 

 片や心配そうに、片や悔しそうに顔を歪める。そんな2人を遥か下に置いて成層圏近くまで来た3人。もう少しもすれば届くという距離で、レオの御霊がこれまでの御霊と同様に行動を起こす。レオの小さな火球……それと同じくらいの大きさの正方形の物体を大量に投下してきたのだ。

 

 「御霊が攻撃!?」

 

 「私が迎撃する! でも、数が……っ」

 

 友奈が驚愕し、美森が8つの砲身をフル稼働させて迎撃する。しかし、あまりにも数が多かった。幸いなのは、攻撃の強度自体はそれほどでもないこと。だが、美森だけではいずれ対処出来なくなる。そう、()()()()では。

 

 

 

 「問題、ないねぇ……“満開”!!」

 

 

 

 (……泣きたくなる程に綺麗な……白い、花)

 

 友奈と東郷の前で、大きな白い花菖蒲の花が咲き誇る。宮司服にも似た勇者服に変わり、樹に似た大きな金色の輪を背負い、その輪に取り付けられた10個の巨大なひし形の水晶。楓の満開した姿と、その際に咲いた花を見て、美森の脳裏にも同じ花が過る。

 

 (白い男の子も、白い花も楓君のモノだった……それに、何であの花が泣きたくなる程に綺麗なのかも……やっとわかった)

 

 「行くよ、美森ちゃん」

 

 「……ええ!!」

 

 美森達の上に移動し、水晶の全てを美森の満開の周囲に円を描くように設置。その水晶の1つ1つから白いレーザーを放ち、美森の砲撃と共に迎撃していく。その砲門の数、計18門。迫る正方形の物体を1つ残らず、接近すらさせずに撃ち落とす様を、友奈は特等席で感嘆の息を吐きながら見ていた。

 

 (()()()()()()()()()()()()()から……こんなにも泣きたくなるのね)

 

 宇宙空間まで辿り着くと、御霊からの攻撃は止まっていた。美森の満開も少しずつ花びらとして散っていき、これ以上の維持は出来ないようだ。

 

 「後は……お願い……っ!」

 

 「「任せて!」」

 

 完全に消える前に美森の満開から御霊に向かって跳ぶ友奈と彼女と同時に御霊に向かう楓。近付いたことで改めて御霊の規格外の大きさに2人は気圧される……なんてことはなく、その瞳に宿るのは絶対に壊すという決意のみ。

 

 友奈はぎゅっと右手を握り締める。何を失うかはわからない。もしかしたら、満足に動けなくなるかもしれない。

 

 「それでも私は……楓くんと、東郷さんと、風先輩と、樹ちゃんと、夏凜ちゃんと一緒に勇者部を……当たり前の1日を……だから! “満開”!!」

 

 宇宙で、大きな桜が咲き誇る。豪奢で神秘的、かつ神々しさが共通する勇者服に身を包んだ友奈。彼女の満開は背中にある金色の輪、その左右から伸びる巨大な腕であった。

 

 楓よりも先に、友奈が右の巨腕で御霊を殴り付ける。巨大な御霊に対してあまりにも小さな腕から繰り出される拳は、一瞬の間を置いて弾かれた。

 

 「一撃でダメなら、何度だって!!」

 

 右が弾かれたなら左で、それも弾かれたならまた右でと繰り返し巨腕の拳を振るう友奈。楓も御霊に向けて水晶からレーザーを放ち、ダメなら4つの水晶で正方形の壁を形成し、そこに上下に重ねた2つの水晶からレーザーを放ち、その壁に当てることで正方形の巨大なレーザーとして放つ。が、少し傷が入った程度で終わり、思わず舌打ちをする。

 

 そこに、1つの砲撃が撃ち込まれた。その部分は楓のモノと今の砲撃が合わさり、より大きな傷……ヒビへと変わる。驚いた楓が砲撃が飛んで来た方向を見ると、完全に満開が解けた美森の姿があった。

 

 「……ありがとねぇ、美森ちゃん。友奈ちゃん!」

 

 「うん! そこだああああっ!!」

 

 美森へ感謝し、友奈へと声をかける楓。それを聞いた友奈は頷き、ヒビに向かって拳を振るう。殴り付けられたヒビはより大きく広がり……同時に、何度も殴り付けていた友奈の巨腕にもヒビが広がる。

 

 「私が、皆を守るんだ! 私が、頑張るんだ! 皆を守って……私は!!」

 

 友奈の脳裏に浮かぶのは、レオの中で守ってくれていた楓。そこから助けてくれた勇者部の仲間達。倒れ伏す風。心配そうな樹。悔しそうな夏凜。ここまで連れてきてくれた東郷。そしてまた、共に御霊に立ち向かう楓。

 

 「勇者に……なる!!」

 

 結城 友奈は、勇者に憧れている。誰かを守れる勇者に、誰かを笑顔に出来る勇者に。誰かが苦しんでいるのが嫌だった。誰かが悲しんでいるのが嫌だった。だからいつも明るく振る舞って、たまに空気が読めないフリをして間抜けなことを言って。そこには素も入っているが、彼女はそういう女の子だった。

 

 その為なら己が辛くても、怖くても頑張ろうと思えた。今だって怖い。戦いはずっと、怖い。本当は体中が痛くて、火傷だって出来ていて熱くて。それでも、憧れた勇者になるんだと本気で思って、叫んで。

 

 しかし、叩き付けた左の巨腕は……御霊のヒビを広げたところで砕けた。

 

 「あ……っ……負けるもんか……負ける、もんか!」

 

 一瞬、砕けた巨腕を見て友奈の顔が絶望に染まりかけ……堪えて、御霊を睨み付ける。呑み込まれた時の闇を思い出して震える。それでも負けないと声に出して、今にも砕けそうな右の巨碗を握り締めた。

 

 「いやー、固いねぇ。まるで最初の時の御霊みたいだねぇ」

 

 友奈の隣に、楓はふわりとやってきた。必死な友奈とは対照的に、いつものように朗らかな笑み……ではないが、苦笑いと共に、普段通りの口調で。そんな彼の姿を見た友奈は、思わず脱力する。

 

 「もうっ、楓くん! 早く御霊を壊さないと……」

 

 「落ち着いて、友奈ちゃん。どうにも君は1人で突っ走るきらいがあるねぇ……先代勇者の仲間を思い出すよ」

 

 膨れる友奈に、楓はくすくすと笑って返す。流石の友奈もこれには怒りを覚える……なんてことはなく、ただこの状況でも笑える彼に困惑する。己はこんなにも必死なのに、何故笑えるのかと。

 

 「友奈ちゃん。君だけが守る必要はない。君だけが、頑張る必要はないんだ。“勇者”にはいつだって“仲間”が居るものだよねぇ……君をここに連れてきてくれた美森ちゃんみたいに」

 

 「それは……そう、だけど……」

 

 「それとも君は、自分だけで誰かを守らないといけないって思ってる?」

 

 「そんなことない! でも、今は私しか」

 

 「自分が居るよ」

 

 楓の言葉に反論しようとして、その一言で目を見開く。目の前には、朗らかに笑う楓。当たり前だ、ずっと一緒に居たのだから。友奈は必死に拳を振るっていたからかそんな当たり前のことも忘れて、自分しか皆を、世界を守れないと思い込んでいた。

 

 「自分が居る。さっきまでは個人で攻撃してた……だけど、ダメだった。けれど……乙女座の時のように君と2人なら……きっと出来る」

 

 「楓、くん……」

 

 「頑張れ、勇者。自分達も……自分も一緒に頑張るからねぇ」

 

 かつて人形劇の前にも言われた言葉。それは友奈の胸にじんわりと染み渡り……彼女の顔にも、笑顔が宿る。それを見た楓は1度頷き、友奈の右隣に移動する。

 

 「景気付けに、5ヶ条でも言ってみるかい?」

 

 楓の左手の握り拳の周囲に4つの水晶が設置され、光を紡ぎ……彼の左拳を光のグローブで覆う。それは端から見れば、白い光の大きな拳にも見えた。

 

 「いいね! 2人で1つずつ! その後に必殺技だね!」

 

 2人と御霊の間に3つの水晶で大きな三角形を形成する。それは敵からすれば壁にしかならないが……勇者達からは、潜り抜けると力を増すブースターの役割も果たす。

 

 「それじゃ、自分から言おうかねぇ……勇者部5ヶ条1つ。なるべく諦めない!」

 

 更にもう1つ、残った3つの水晶を使って先に形成した三角形と御霊の間に別の三角形を形成。2人からは六芒星に見えるように位置取りをする。

 

 「勇者部5ヶ条もう1つ! 成せば大抵、なんとかなる!!」

 

 同時に、2人は動き出した。速度は自然と合った。同時に1つ目の三角形を通過し、速度と勇者としての力が強化される。

 

 「ダアアアアブル!!」

 

 「勇者ああああっ!!」

 

 もう1つの三角形を通過。更に強化された速度と力。いつの間にか友奈の右の巨碗には楓の白い光が纏われている。その2つの光の拳を……御霊に広がるヒビに向けて突き出した。

 

 

 

 「「パアアアアンチッッ!!」」

 

 

 

 音もなく、御霊に突き刺さる2つの光の拳。そこから数秒の間を置き……御霊の全体にヒビが広がり、やがてそれは砂となって散った。同時に、友奈と楓の満開も花びらとして散っていき……2人は元の勇者服の姿に戻る。

 

 「えへへ……やった……」

 

 「やったねぇ……お疲れ様、友奈ちゃん」

 

 「……うん」

 

 ゆっくりと、地球の重力に引かれる2人。その2人を、一輪のアサガオの花と美森が出迎えた。

 

 「お疲れ様、2人共」

 

 「東郷さん……美味しいところだけ貰っちゃった」

 

 「美森ちゃんもお疲れ様……流石に疲れたねぇ」

 

 「……ごめんなさい。最後の力でこれだけは残せたけど……保つかは、わからないの」

 

 友奈を横抱きに抱える美森と疲れきった様子の友奈。楓は友奈と比べるとまだ体力が残っているようだが、立つ気力は残ってないのか美森の隣に座り込む。

 

 美森が僅かな満開の力を使って残した、大気圏に突入する為のアサガオの花。もしかしたら、地上に辿り着くまでに形を保てないかもしれない。それ以前に大気圏で燃え尽きるかもしれない。

 

 「大丈夫……神樹様が守ってくださるよ」

 

 「そうだねぇ……きっと、守ってくれるよ」

 

 「……うん」

 

 しかし、2人は大丈夫だと笑い……美森も釣られて笑って。そして大気圏に突入する為に閉じる花。中に居る3人は蕾状態のアサガオに守られ、地上へと落下する。

 

 「……大丈夫かい? 2人共。自分が居るから狭いんじゃ……」

 

 「えへへ、おしくらまんじゅうだ。楓くんももっとくっつこうよ」

 

 「そ、そうよ楓君。友奈ちゃんもこう言ってるし……ほら、ぎゅっと!」

 

 「落ち着いて美森ちゃん。まあ……2人が良いなら、良いか」

 

 流石に3人、しかも男である楓も居ては狭苦しい。しかしそんなことは気にしない友奈と、むしろばっちこいとばかりに2人に両手を回す美森。そこにはもう不安も、恐怖もなかった。美森は2人に手を回して抱き締めながら、口に出さずに思う。

 

 (それに……もし、このままダメだったとしても……2人となら、怖くないもの)

 

 

 

 

 

 

 樹海へと落下する3人を乗せた蕾。その軌道上に、樹のワイヤーが幾重にも重なって網のようになり、蕾を受け止めようとする。しかし大気圏よりも上から落下してきた速度と勢いは緩まず、ワイヤーを引きちぎる。

 

 「っ……!」

 

 直ぐにまた網を張る。1つがダメなら2つ、2つがダメなら4つ、4つでダメなら8つ。何度も何度でも張り直す。それでも、止まらない。

 

 「止まって……」

 

 16。32。ぶちぶちと引きちぎられるワイヤーを、また何度も張り巡らせる。

 

 「止まって!」

 

 64。128。ようやく勢いが、速度が落ちてきた。それでもまた引きちぎられ、再度を樹は張り巡らせる。

 

 「止まってええええっ!!」

 

 叫びと共に生み出すワイヤーの網。128から先は数えていない。やがてそれらの網にくるまれた蕾は地面スレスレでようやく止まった。樹の頑張りが、止めた。

 

 「やった! 凄いじゃない樹!」

 

 「夏凜さん……確認を、お願いします……」

 

 「わ、分かったわ!」

 

 「……えへへ……お姉ちゃん、お兄ちゃん。私……頑張ったよ。だって、自慢の妹……だから」

 

 満開が解けて倒れ込む樹を背に、夏凜が蕾に近付く。すると蕾はまた花開き、中から美森を中心に左に楓、右に友奈が、眠ったように目を閉じて横になって現れた。

 

 「楓さん! 友奈! 東郷!」

 

 夏凜が叫んでも、3人は微動だにしない。彼女の脳裏に満開の代償という言葉が過り、嫌な予感だけが増していく。

 

 焦りながら周囲を見回す夏凜。しかし目に入るのは倒れ付した風と樹。満開をしていない己だけが立っている。誰も動かない。そんな状況に、思わず夏凜も涙ぐむ。

 

 「なぁ……起きろよぉ……目を開けてよぉ……」

 

 

 

 「「大丈夫だよ……夏凜ちゃん」」

 

 

 

 その声にハッとして、夏凜は3人の方を向く。そこには目を開けて微笑む東郷……そして名前を呼んだ、ひらひらと左手を振って朗らかに笑う楓と東郷と同じように微笑む友奈。

 

 「あー……死ぬかと思ったわ……ま、生きてるわよー」

 

 「ケホッ……コホッ……」

 

 風もそう言って倒れたままひらひらと手を振り、樹も生きてることを知らせるように咳き込む。全員、生きている。不安が一気に安堵に変わり、思わず夏凜の目から涙が溢れた。

 

 「何だよバカ……さっさと返事しろよ……」

 

 

 

 

 

 

 バーテックスとの総力戦、ここに決着。負傷者を出しつつも神託で知らされた12体を殲滅した……讃州中学勇者部の、6人が。

 

 樹海化が解除され、戻ってきた讃州中学の屋上で……夏凜は誇らしげにそう、大赦へと伝えたのだった。




原作との相違点

・鉢巻を巻かずに見下しながら魚座を消し飛ばす美森

・双子座捕獲の後に一回叩きつけてる樹

・スタクラの角斬った上にそれを叩き付けてる風

・ハイマットフルバースト(美森と楓の満開合体攻撃)

・ダブル勇者パンチ(10話ぶり2回目)

・その他色々。相違点が沢山……来るぞUMA!



という訳で総力戦決着でした。もう本当にやりたい放題です。超楽しかった←

実は東郷さん、わすゆの決戦時と同じ言葉で仲間を送り出してます。気付いた人はいるかな?

ここからまた色々と原作とは変わってきます。少なくとも過程は大分変わらざるを得ないですね、何せ前提が違いますし。

本編次回は病院からスタート予定。さぁ、散華の時間だ。何を失うかな?

次回は予告通り、楓のみ奉りルートです。楽しみな奴は類友だ! 怖いけど見ちゃう人も類友だ! それ以外の人もとりあえず類友だ!!←

その後はご安心下さい、ほのぼの予定ですよ(活動報告のリクエストを漁りつつ)。ラジオも考えましたが、そうなると……讃州中学生徒(読者の皆様)に手紙を頼むかも? 今は関係ない話ですがね。人気投票とかもやってみたい……調子に乗りすぎですかね? 自重します。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。