咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

また誤字脱字報告が……ありがとうございます。見直しても! 見直しても! 誤字脱字は……無くならないんだ……っ!

誰からの、とは言いませんがくっそ鬱いリクエストを頂きました。本気で救いなくて笑う。やめてよね、こんなのもらったら書きたくなっちゃうだろ……←

アンケはまだ続きます。現在DEifが優勢ですね。ほぼ決まりかもしれませんが……どんでん返し、あるか?

今回もほのぼのです。


結城 友奈は勇者である ー 15 ー

 「うわー、凄いご馳走!」

 

 「あの、部屋間違えてませんか? アタシ達には少し豪華過ぎるような……」

 

 「いえいえ、とんでもございません。どうぞ、ごゆっくり」

 

 宛がわれた部屋に戻り、浴衣に着替えた自分達の部屋に持ってこられたのはお刺身や大きな丸ごと一杯のカニ等の海の幸だらけのご馳走。友奈ちゃんと美森ちゃん、夏凜ちゃんと樹が目を見開いて驚き、自分も同じように驚く。大赦が用意した合宿先の旅館とは言え、ここまで豪華な料理が出るとは思わなかった。

 

 姉さんが心配そうに旅館の女将らしき人物……茶髪を後ろで結わえた、見覚えのある女性だ……に聞いてみると、女将さんは笑って首を振り、料理を持ってきた従業員の人共々深々とお辞儀をして……自分と目を合わせた後、部屋の襖を閉めた。

 

 ……まさか、とは思う。だがこの旅館は大赦がらみのモノであるから、別にあり得ない訳ではないのだろう……後で、会いに行ってみようかねぇ。自分もあれから落ち着いたし、ねぇ。

 

 「私達、好待遇みたいね」

 

 「お役目を果たしたご褒美、ってことなんでしょ?」

 

 「つまり、食べちゃってもいいと。こんなの美味しいに決まってるじゃない……じゅるり」

 

 《お姉ちゃん、よだれが……それに友奈さんが……》

 

 ご馳走に目を奪われていた姉さんを筆頭に、樹の書いた文字を見た友奈ちゃん以外の動きが止まる。樹の言う通り……書いた通り、友奈ちゃんは散華の影響で味が感じられない。そんな彼女の前で自分達だけが美味しい美味しいと味わうのは……気が引ける。

 

 「おおっ! このイカのコリコリとした歯応え……それにお刺身のつるつるとした喉越し……うーん、いいね! それにこれは……炊き込みご飯だ! 良い匂~い♪」

 

 「……もう、友奈ちゃん。いただきます、が最初でしょ?」

 

 「そうだった。ごめんなさ~い」

 

 しかし、自分達の思いとは裏腹に友奈ちゃん自身は既に座布団に座り、料理を口に感想を言っていた。あらゆる方法で料理を楽しもうと……実際に楽しんでいる彼女を見て、姉さんも夏凜ちゃんも驚き、その後に敵わないなぁと苦笑する。自分も似たような表情を浮かべていることだろう。

 

 ……彼女は、暗い雰囲気を嫌う。今の行動も本心ではあるが、さっきの空気をどうにかしたいという思いもあったのだろう。それが分かるから……自分も、自分達も気にしないようにしないとねぇ。この優しい子の為にも、ね。

 

 友奈ちゃんの左隣に座っていた美森ちゃんが笑いながら注意し、遅れて夏凜ちゃんが友奈ちゃんの右隣に座る。自分は友奈ちゃんの対面に座り、右に樹、左に姉さんが座り、目の前のご馳走に箸を伸ばす。

 

 姉さんにカニの足やらハサミやら甲羅やらとやってもらう。利き腕じゃない左手での動作にもこの2年で慣れたとは言え、流石に片腕でカニをバラすのは無理があるしねぇ。で、そのカニの身を一口……うん、美味い。

 

 「場所的にお母さんを私がするので、ご飯のおかわりをする人は言ってね」

 

 「東郷が母親か……厳しそうね……」

 

 「門限を破る子は……柱に磔りつけます」

 

 「おや、少し厳しいんじゃないかい? ちょっとくらいなら良いじゃないか」

 

 「お父さん……!」

 

 「貴方がそうやって甘やかすから……この子の為にもなりませんよ」

 

 「夫婦か」

 

 《前にもこんなことがあったような?》

 

 美森ちゃんの隣には炊き込みご飯が入ったおひつがある。美森ちゃんがお母さんか……厳しくも優しい良妻になりそうだねぇ。なんて思っていると、夏凜ちゃんが冷や汗をかきながら呟き、美森ちゃんも反応して脅すように言った。

 

 これは流れに乗るべきなのかと思い、この場で唯一の男として父親役で苦笑いしながら言ってみる。すると友奈ちゃんが自分の方を見ながらそう呼ぶ……いや、磔りつけられそうになってる子供って君なのか。美森ちゃんも友奈ちゃんもノリノリだねぇ。姉さんのツッコミと樹の文字はスルーさせてもらおう。

 

 「母さん、おかわりを頼むよ。多めにねぇ」

 

 「はい、どうぞ」

 

 「お父さんいっぱい食べるねー」

 

 「友奈もいっぱい食べて大きくならないとねぇ」

 

 「……え、あ……ふぁい」

 

 「まだ続けるのね……友奈、どしたの?」

 

 「え!? あ、いや、なんでもないでふ!」

 

 ちょっと楽しくなってきたので続けてみる。ふむ……夫婦、か。いずれ自分も、彼女達も家庭を持つことになるだろう。それこそ、のこちゃんも銀ちゃんも。そうなった時、彼女達の旦那はどういった人になるのか。彼女達の未来が楽しみだねぇ……? 未来? 何か……忘れてるような……気のせいかな。

 

 自分が続けると美森ちゃんも友奈ちゃんも同じように続けてくれた。美森ちゃんにおかわりをよそってもらい、茶碗を受け取りながら子供役の友奈ちゃんを呼び捨てにすると、少し間をおいて友奈ちゃんは答える。姉さんが聞くと慌てながら噛みつつお刺身を口に運ぶ友奈ちゃん……少し顔が赤いのは、呼び捨てにしちゃったからかねぇ。

 

 《とうごう先パイがお兄ちゃんとふうふなら、私のお姉ちゃん?》

 

 「うん? ……そうだねぇ。もしそうなったら、確かに美森ちゃんは樹にとって義理の姉、姉さんにとっては義理の妹になるのかねぇ」

 

 「後輩が義理の妹とか気まずいってレベルじゃないんだけど……」

 

 「楓君と夫婦……はぅ……こほん。樹ちゃんみたいな妹が出来たら、きっと楽しいわね」

 

 「風は小姑ね」

 

 「だぁれが小姑だ!」

 

 樹の文字を見て、少し考える。まあ本当に自分と美森ちゃんが夫婦になったなら、当然樹と姉さんと美森ちゃんは義理の姉妹になる。その時には自分が東郷 楓になるのか、それとも美森ちゃんが犬吠埼 美森になるのか……そんな未来も、もしかしたらあるのかも知れないねぇ。

 

 それこそ、友奈ちゃん、のこちゃん、銀ちゃん、夏凜ちゃん。彼女達とそうなる可能性も無くはない。勿論、今は名前も知らない誰かとそうなることもあるだろう。きっと、どんな未来になっても……楽しくて、幸せな日々を過ごせるだろうねぇ。相手が彼女達なら、姉さんは確かに気まずいだろうけど。

 

 友奈ちゃんと美森ちゃんが少し顔を赤くし、夏凜ちゃんがくつくつと笑いながら姉さんを弄り、姉さんがそれに反応し、樹もくすくす笑い……自分も楽しんで。そんな和やかな雰囲気で、時間は過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 豪華な夕飯を食べ終えた私達は、旅館の広い温泉を満喫していた。私は友奈ちゃんにお風呂用の車椅子を押してもらいつつ、のんびりと温泉を堪能する。

 

 「良いお湯だねー」

 

 「そうね、友奈ちゃん」

 

 「あ゛あ゛~……生き返るわ~……」

 

 「本当ね……」

 

 私だけでなく皆も気持ち良さそうにしている。温泉なんていつぶりになるだろうか。それに、友奈ちゃんと……皆と一緒にお風呂というのも新鮮で良い。流石に混浴はないみたいだけど……仮にあったとしても、彼は普通にしているのが容易に想像出来る。

 

 「夏凜、あんたなんでそんなに離れてるのよ」

 

 「っ! ぐ、偶然よ偶然」

 

 「……はっは~ん? 楓が居る訳でも無し、女同士でなぁに照れてんだか」

 

 「別に照れてなんかないわよ!」

 

 「こう広いと泳ぎたくなるねー」

 

 「ダメよ友奈ちゃん」

 

 「わぷ」

 

 1人離れた場所に居る夏凜ちゃんに疑問を覚えたのか、風先輩がそう言うと彼女は赤くなりつつ偶然だと言い張る。そんな彼女に何を察したのか、風先輩は立ち上がって一糸纏わぬ体を見せ付けつつからかうように言った。お風呂にタオルを浸けるなんてこと、私がさせません。

 

 そんな2人と、2人のやりとりを見ている樹ちゃんを他所にスイーッと泳ごうとする友奈ちゃんの顔にお湯をかける。お風呂で泳ぐなんてお行儀の悪いことも勿論させません。そんなことをしていると、風先輩と樹ちゃんの視線が私に向いていることに気付いた。

 

 「どうしました?」

 

 「いやぁ……へっへっへ。何をどうしたらそこまでのメガロポリスなボディになるのか……コツとか教えて頂けませんかねぇ?」

 

 「……ふ、普通に生活しているだけです」

 

 メガロポリス? と疑問に思うものの、2人の視線が私の胸に向けられているのを見て何を指しているのか悟る。確かに私の胸は同年代と比べても大きいとは思うけれど……これといって何かをしている訳ではない。勝手に大きくなったのだから、何をどうとは言えない。

 

 大体、大きくても良いことなんてあんまりない。男性からは嫌な視線を向けられるし、肩だって凝る。寝る時だって息苦しく感じることもある。そう考えると、楓君が勇者部の黒一点なのは有難い。嫌な視線も感じないし、話す時は目を見てくれるし。

 

 ……ただ、あんまり普通に接されるのも、それはそれで私に魅力がないのかと思ってしまうけれど……水着を褒めてくれた時も恥ずかしげもなく似合うと言ってくれた。少しくらい照れてくれても……我ながら面倒な性格をしていると思う。

 

 「お背中流しまーす!」

 

 「ひゃああああっ!?」

 

 「夏凜も結構可愛い悲鳴あげるわねぇ」

 

 「……!」

 

 いつの間にか湯船から出ていた夏凜ちゃんの背中を友奈ちゃんが流そうと手を触れたところで彼女から悲鳴が上がる。それを風先輩がにししっと笑い、樹ちゃんが同意するように頷く。そんな風に、楽しいお風呂の時間は過ぎていった。

 

 

 

 「自分は別の部屋に行った方が良いと思うんだけどねぇ……小学生ならともかく、中学生で男女一緒っていうのは流石に、ねぇ」

 

 温泉から部屋に戻ってきた私達の目の前には、6枚三対のお布団。私達からしばらく遅れて戻ってきた楓君は窓際にあるロッキングチェアに座って苦笑していた。楓君の言うことは分かる。男女七歳にして同衾せずという言葉もあるし。

 

 ただ、少し恥ずかしいとは思うものの、私はそこまで忌避感は無かったりする。それは私だけでなく友奈ちゃんと夏凜ちゃんも同様みたい。因みに、寝る場所は夕飯を食べた時の座った位置と同じ。

 

 「もしくは、押し入れにでも入ろうか? それか、布団をずらすとか……」

 

 「別に楓が変なことするなんて誰も思ってないって。姉としては弟を1人にする方が不安よ」

 

 《お兄ちゃんもいっしょにねよ?》

 

 「そうは言ってもねぇ……皆ももう年頃なんだから、自分のような男とすぐ近くで寝るっていうのはどうなんだい? あんまり寝顔とか見られたくないんじゃないかい?」

 

 「わ、わわわ私は楓さんなら別に……信頼、出来ますし」

 

 「私も楓くんならいいよ? 皆で一緒に寝るのも合宿っぽくていいよね!」

 

 風先輩の言う通り、楓君が変なことをするとは私も思ってないし、夏凜ちゃんと友奈ちゃんも同じみたい。友奈ちゃんはもう少し男女の差について考えた方が良いと思うけれど……でも、楓君に名前を呼び捨てにされた時に赤くなっていたから、少しは考えているのかな。

 

 普通なら距離を開けるのだけど、これは楓君の日頃の行いや私達に対しての行動の賜物かしらね。彼の私達を見る目は、何故か年下……そうね、まるで孫を見る祖父のよう。そんな彼が変なこと……直接的に言うなら、夜這いといったことをするようには思えない。

 

 なんだったら、風先輩と樹ちゃんじゃなくて私が隣に寝てもいい。あの温かさと心地よさをもう一度……? もう一度? なんでそんなことを思ったのかしら……?

 

 「……まあ、皆が良いならいいんだけどねぇ」

 

 「はい、決まり。そろそろ布団に入っちゃいなさい」

 

 「はいよっと……全く、もう少し危機感を感じてほしいねぇ……」

 

 苦笑いしながら、楓君は片足でぴょんぴょんと跳んで真ん中の布団に向かい、風先輩の手を借りて布団に入る。その後に皆も布団へと潜り込んだ。因みに、私は最初から布団に入っている。

 

 「で……寝る前に少しお話しましょうか。合宿に来て話すことと言えば……分かるわね?」

 

 「訓練で何が一番キツかったとか?」

 

 「そうだねぇ……昔、一緒に訓練してた子のフォローとかかねぇ。女の子だから気を使うしねぇ」

 

 「夏凜、違うから。楓も答えなくていいから」

 

 「やはり、日本の今後の在り方ですね」

 

 「それも違うから……」

 

 《コイバナとか?》

 

 「それ! 流石樹!」

 

 「そういうのは自分が居ないところでやってほしいんだけどねぇ……」

 

 後はもう寝るだけ、といったところで風先輩がそんなことを言い出す。夏凜ちゃんが少し悩んでから呟くと、楓君も続けて答える。一緒に訓練してた子、というのは先代勇者のことかしら。確か、楓君以外に3人居たとか……男の勇者は彼だけなのだから、当然他は女の子。当時は小学生とは言え、やっぱり気を使うのね。

 

 風先輩が違うと言うので、次は私がこれだと思うものを答えてみる。やはり日本国民としては日本の未来を熱く語らなければ……と思ったものの、これも違うらしい。次に答えた……書いた? のは樹ちゃんで、これが正解なんだとか。

 

 コイバナ。確かに、合宿と言えば……みたいなところはある。でも、それは楓君の言うように、彼が居ないところでやるべきなのでは……というのも、私達はあまり楓君以外の男性との関わりがない。必然的に、そういう対象と言えば真っ先に彼が上がる。

 

 「コイバナ! 風先輩は……やっぱり良いです」

 

 「なんで止めたの友奈!?」

 

 「姉さん、同じ話しかしないからねぇ。チアリーダーの格好した姉さんに惚れた人が居たんだけど、その人がデートに誘っても告白してきても断ったんだろう?」

 

 「その理由がその人が……というか、同年代の男子はいやらしい画像を見てたり子供っぽくて嫌だから、でしたっけ」

 

 「……それ、大方の男子に当てはまるんじゃないの?」

 

 《私たちはもう10回以上きかされてます》

 

 「うわぁ……」

 

 「……仕方ないでしょ。身近な男として楓が居るんだから、どうしても基準がこの子になっちゃうのよ」

 

 「「「ああ、なるほど」」」

 

 「それで納得されるのもどうなんだろうねぇ」

 

 樹ちゃんが書いたように、私達はこの話を1年の頃から聞かされているし、樹ちゃんも楓君も家でも聞かされていたらしい。正直に言えばうんざりとしている。友奈ちゃんですらこの様子なんだから……ね。

 

 それに、風先輩が言うことも分からなくはない。私だって身近な男性と言えばお父さん、楓君になるし。それに楓君は同年代の男子と比べると明らかに落ち着きがあるし、そういう視線だって向けてこない。老熟している、もしくは枯れてると言ってもいいかもしれない。

 

 「自分と樹に義理の兄が出来るのはいつになるんだろうねぇ」

 

 《ねー》

 

 「しばらくはあんた達から離れる気はないわよーだ。楓は……我が弟ながら、あんまり想像出来ないわねぇ……」

 

 「うん? そうだねぇ……勇者部の皆は、勿論好きだよ。先代勇者の子達もねぇ。恋愛は……まだ、分からないねぇ」

 

 恥ずかしげもなく言う楓君。それは友愛から来る言葉なのだろうけれど、好きだと言われるとどうしても赤くなることを自覚する。友奈ちゃんと同じで、彼は直接的に好意を伝えてくれる。それは嬉しいけれど、同じくらい恥ずかしい。現に夏凜ちゃんも赤くなってるし、友奈ちゃんは……。

 

 「……ぇへ」

 

 (友奈ちゃんの顔が幸せそうに蕩けてる……!?)

 

 「待て待て、何いきなり友奈を撮ってるのよ東郷」

 

 「今の一瞬で携帯を取り出してカメラモードにして更にシャッターまで……!? 完成型勇者の私が全く見えなかったんだけど!?」

 

 「美森ちゃんは相変わらずだねぇ」

 

 《どうしてお兄ちゃんは受け入れてるの!?》

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、元々遊び疲れていたこともあっていつの間にか眠ってしまっていた勇者部。寝る前には樹がしっかり電気を消している。そこから少しして、楓は自分の体に重みを感じて目が覚めた。

 

 (……ああ、姉さんか)

 

 「んふふ……楓……樹ぃ……散華が治ったのね……よか……くかー……」

 

 いつの間にか、風が自分の寝床から楓の寝床へと入り込んでおり、彼に抱き付いていた。その状態の彼女の寝言を聞いた楓は少しの間を起き、優しく微笑む。そして彼女の頭を撫でようと左手を動かそうとするも、その手は誰かに握られていて動かなかった。

 

 誰か、というのは言うまでもなく左側に寝ている樹。彼女は風のように寝床にこそ入ってはいないがかなり近寄ってきており、右手でぎゅっと彼の左手を握り締めていた。その姿はとても愛らしく、楓もまた朗らかに微笑んだ。

 

 (……動けないねぇ)

 

 が、姉に抱き付かれ妹に手を握られては只でさえ動きにくい体が全く動けなくなる。寝返りも打てず、唯一の腕は動かせず。朗らかな笑みが苦笑いになるのも仕方のないことだろう。

 

 ふと周りが気になり、楓は頭を動かして頭上の3人を見る。夏凜と美森はぴっしりと眠った時の姿勢から動いておらず、すやすやと寝息を立てている。そして友奈は横向きになり、何かを手にしながら幸せそうに眠っていた。

 

 (……押し花、かねぇ?)

 

 暗闇に慣れた目と窓から入る月の光で見えたのは、何かの花を使った押し花だった。それが己の変身した時の水晶に描かれた花……花菖蒲であることに気付くも、特に何か思うでもなく頭を元に戻す楓。そこから特に何をするでもなく、楓は眠りに落ちた。

 

 

 

 次に彼が起きたのは、外が白み始めた頃。端末を見れば5時半過ぎとなっており、幸いと言うべきか風は何故か夏凜の布団へと侵入して彼女に抱き着いており、夏凜は寝苦しそうにうんうん唸っていた。

 

 姉とは違って変わらず手を握っていた樹の手を優しく引き剥がし、体を起こした楓は足下に置いてあった車椅子に座り、部屋にある洗面所で顔を洗い、これまた備え付けのトイレで用を足して窓際へと近寄り、車椅子からロッキングチェアへと乗り換えて揺られながら朝焼けを眺める。

 

 「……楓君……?」

 

 「おや……美森ちゃん。おはよう、起こしちゃったかい?」

 

 「ううん……大丈夫。おはよう、楓君」

 

 次に起きたのは美森であった。挨拶を交わした彼女は楓と同じように自分の足下に置いてあった車椅子へと這いながら乗り込み、顔を洗って楓の正面までやってくる。その手に、いつも髪を縛っているリボンを巻いて。

 

 「……綺麗ね」

 

 「……そうだねぇ」

 

 少しの間、2人は向かい合って窓から見える朝焼けを眺めていた。特に何か言葉を交わすこともなく、ただ黙ってこの静かな……それでいて心地いい空気を楽しんでいた。

 

 「……あれ……楓くん……東郷さん……?」

 

 「「おはよう、友奈ちゃん」」

 

 「うん、2人共おはよう」

 

 次に起きたのは友奈であった。彼女もまた挨拶を交わした後に同じように顔を洗ってから2人の居る場所に行き、空いている椅子に座る。手に持っていた押し花は、その前にカバンの中にしまっていた。

 

 「東郷さん、そのリボン肌身離さずだね」

 

 「……うん。私が事故で記憶を失った時に持っていた物なんだって。誰の物かも分からないけれど……とても……とても大切な物な気がして」

 

 「そっか……」

 

 (……やっぱり、記憶を失っても君は……美森(すみ)ちゃんなんだねぇ)

 

 ふと、美森の手に巻かれているリボンを見ながら友奈は呟く。それを聞いた美森はリボンを撫でながら、思い返すように言った。それを聞いた友奈は本当に大切なんだと笑い……そのリボンが誰の物か知っている楓は、記憶を失って尚リボンを大切にする美森に笑みを浮かべる。

 

 「2人は海を見ていたの?」

 

 「自分は海もだけど、朝焼けもだねぇ」

 

 「……私は少し、考え事……ねぇ、2人共。バーテックスって、12星座がモチーフなんだよね……でも、星座って他にもいっぱいあるでしょ?」

 

 「ああ、夏の大三角形座とかね!」

 

 「聞いたことないよ友奈ちゃん……そうだねぇ。少なくとも、自分が先代勇者だった時は、12星座以外のバーテックスは見たことないねぇ」

 

 「……でも、楓君が見たのが全部とは限らないでしょう? 本当に……戦いは終わったのかしら」

 

 美森が不安を口にする。星座だと一口に言っても、その種類は多岐に渡る。それこそ12種類等では済まない程に……美森は、それだけバーテックスは存在するのではないかと思っているのだ。もしそれが現実となった場合、戦いはまだまだ終わらないことになるのだから。

 

 「……大丈夫。その時は自分が守るよ」

 

 「楓君……ううん、そうなったら、私だって頑張るわ」

 

 「うんうん、皆でなら怖くないよね。それに、人類を死のウイルスから守ってくれた神樹様が居るんだしね」

 

 (……神樹様……か)

 

 彼女の不安を取り除くように、楓がいつものように朗らかに笑う。その笑顔を見て自然と美森と友奈も笑顔になり……それでは駄目だと、美森は自分もと訴え、友奈も続く。2人の言葉を受け、楓は頷いた。

 

 ただ、美森は言葉にせずに友奈の言葉に最後まで賛同しなかった。彼女の中では、人類に寄り添い、日々の恵みを授けてくれている神樹について少しの不満……疑心があった。勿論、それを言葉にはしない。だが……それは少しずつ大きくなってきている。

 

 「そういえば、バーテックスってなんでいっつも私達のところに出てくるのかな?」

 

 「ああ、それは神樹様が結界にわざと弱いところを作って敵を通しているからさ。そうすることで敵の現れる場所を誘導しているんだ」

 

 「楓くん物知りだね~」

 

 「友奈ちゃん。楓君は先代勇者だし、そもそもアプリに書いてあったわよ」

 

 「えっと……あはは。でも安心かも。それって神樹様にはっきりと意志があるってことだもんね」

 

 「そうだねぇ……感情だってあるかもしれないねぇ」

 

 (……本当に感情があるなら……散華のことをどう思っているのかしら、ね)

 

 手にしたブラシで美森の髪を解かしながら友奈が疑問を呟くと楓がそれに答える。先代勇者時代に他の3人と共に勉強もしていた彼は直ぐに答えられたし、美森が言うようにこれはアプリのテキストにも載っていることでもある。

 

 忘れていたことを誤魔化しつつ、友奈は笑いながらそう言い、神樹と精神の状態で直接会ったことがある楓も本当に感情があると知りつつ呟く。そんな2人とは対照的に、やはり美森は穿って見てしまう。こんなことではいけないと思っていても……1度出た疑心は消えてはくれない。

 

 「……美森ちゃん。やっぱり、不安かい?」

 

 「……そう、ね。暗いこと考えると、ずっと悩んじゃって……でも、2人が居るから……皆が居るから……もう、大丈夫」

 

 「東郷さん。悩んだら相談、だよ」

 

 「それは……でも、こんなこと相談しても困るでしょう?」

 

 「そんなことないよ。それに、暗いこと考えると悩んじゃうの……分かるもん。そんな時はね、誰かと一緒に居るといいんだよ。だから私が東郷さんと一緒に居るよ。ほら、ぎゅーっ」

 

 「自分も一緒に居るよ。友奈ちゃんみたいにぎゅーっとは出来ないけどねぇ」

 

 「……ありがとう、2人共」

 

 そんな美森の顔を見てどう思ったのか、楓がそう聞くと美森は少し悩んだ後に素直に答えた。今は側に2人が居るから、あまり深く悩まなかった。だが、もし1人だけだったなら……きっと、ずぶずぶと沼にハマるようにどんどん暗い方へと考え込んでいっただろう。

 

 その気持ちは、友奈にも分かった。病院に入院していた時の彼女こそが、正にそうだったのだから。もしあの時楓と会わなければ、眠れない夜を過ごしただろう。誰かと居る時の心強さと安心感を、友奈は身を持って知っていた。

 

 だから、友奈は美森の不安を無くすように後ろから抱き付いた。楓もまた、言葉だけではあるもののはっきりと告げる。今目の前に、自分は居るのだと。側に、自分は居るのだと。それが伝わったから……美森も、また笑顔を浮かべられた。

 

 その後、友奈は他の3人が起きるまで美森の髪を弄り、楓の髪も弄って美森とお揃いの髪型にしてみたり、折角だからと朝焼けをバックに3人並んで携帯で写真を撮ったりして過ごした。楓と美森が隣り合い、友奈が真ん中に立つ朝焼けを背景にした写真には……3人の笑顔が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 合宿も終わり、後1ヶ月もすれば学校が始まる。合宿中は文化祭での出し物……劇の配役や演出等を話し合い、花火や夏祭りもしっかりと楽しんだ勇者部。各々自分達の家に戻り、のんびりと過ごしていた頃……風の端末に、その知らせは届いた。

 

 

 

 『敵の生き残りを確認。次の新月より四十日の間で襲来。部室に端末を戻す』

 

 

 

 戦いはまだ……終わっていない。




原作との相違点

・5人ではなく6人で寝る

・美森と友奈の語らいに楓参入。写真も取る

・蕩けてる友奈

・怪談無し。風のチアリーダーエピソードインターセプト

・バーテックスとの戦いよりも神樹への不平不満疑心がある美森

・その他色々あるんだってばよ



という訳で、合宿後半でした。男としては羨ましいと思うでしょうが。きっと楓だから許してもらえるハズ←

《》←は樹の書いた文字を表しています。なので、中1の彼女が書いたとして“先パイ”のような表現をしています。誤字ではありません。

さて、次回以降からまた不穏なことになる予定ですが……原作とかなり違ってきている為、原作通りに行くとは限りません。先代勇者とか、園子の心境とかもかなり違いますしね。

このペースならば、番外編は次回の次になるかもしれませんね。ところで、他の先駆者の方々に比べて受けとるリクエストが鬱や暗い話寄りなのは私の勘違いでしょうかね←

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

UA10万突破記念番外編。内容は

  • DEifの続きで行こう(鬱orほのぼの)
  • 勇者部活動報告校内ラジオ(ほのぼの)
  • 犬吠埼家禁断ルート(鬱or暗め)
  • 誰かとの親密ルート(ほのぼの)
  • 私に良い考えがある(活動報告リクエスト)
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