咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

また大量の誤字脱字報告を……ありがとうございます。どうしてなくならないの……。

ゆゆゆいのランイベ、超級星3取れなくて泣きそうです。でも大輪祭で亜耶ちゃん来てくれたので釣り合い取れた←

あれからまた番外編のリクエストをいただきました。ただ、可能な限り応えたいとは思っていますが、どうしても話が膨らまない場合もあります。ご了承下さい。

今回、また少しorかなり無理があるかもしれない描写があります。これもご了承下さい。

今回の3つの出来事!(オーズ)
1つ、高速詠唱NPチャージ(FGO)
2つ、フルチャージ(電王)
3つ、スキャニングチャージ(オーズ)


結城 友奈は勇者である ー 16 ー

 それは、皆がまだ温泉に入っている頃。同じタイミングで男性用の温泉に入り、そう時間を掛けずに上がった自分は車椅子に乗って旅館の中を進んでいた。その途中、自分は夕飯の時に居た女将さんと遭遇し……。

 

 「……今、時間いいですかねぇ?」

 

 「ええ……勿論」

 

 それだけの短い会話の後、女将さんに個室へと案内された。部屋の広さはそれなり。2人掛けのソファが2つ対に置かれ、間にはガラスのテーブル。その上には白いテーブルクロスに一輪の白い花を差した花瓶が1つ。談話室、みたいなモノだろう。

 

 ソファの1つに車椅子から移り、女将さんも正面のソファに座る。お互いに見詰め合い、少しの間を置き……最初に口を開いたのは、自分。

 

 「……お久しぶりですねぇ……友華さん」

 

 「はい、久しぶりね……楓君。元気そうで何よりです」

 

 女将さん……いや、もういいか。彼女は一時自分の養子先にもなっていた高嶋家の党首、高嶋 友華さんだ。最後に会ったのは、自分が助っ人として姉さん達の元に帰る前、次の勇者候補のことを聞いた時になるか。

 

 「ここは大赦絡みの旅館、とのことでしたが……」

 

 「ええ。大赦……その中でも、高嶋の家が運営しているの。ご褒美にと合宿先として使うことにしたのも私からの案よ」

 

 「それはまた……何故?」

 

 「そうね……貴方とあの子を……もう1度見たかったから、ね」

 

 なるほど、ここは高嶋の家の旅館なのかと納得する。その旅館を合宿先として使わせてくれた理由を聞いてみると、そんな言葉が返ってくる。あの子……とは、言うまでもなく、美森ちゃんのことだろう。彼女がまだ須美ちゃんだった頃、友華さんと会ったことも話したこともあるのだから、気になるのも分かる。

 

 「……友華さん」

 

 「なにかしら?」

 

 「自分は、貴女に謝らなくちゃいけない」

 

 自分がそう言うと、友華さんは予想外とでも言うように目を見開いた。それはそうだろう。何せ自分と彼女はかなり険悪なままに別れ、今日まで会うことは無かったのだから。それも、自分が怒りをぶつけて彼女のことを目の敵にして。

 

 だが、時間が経って落ち着いた今なら……少なくとも、あの時の自分は怒りに目を曇らせていたのだと思える。

 

 「貴女にも立場があって、貴女にも守る物がある。それを理解していながら、自分は貴女も大赦と同じだと……そう怒鳴って、目の敵にして、酷い言葉をぶつけてしまった。本当に……ごめんなさい」

 

 「……いいえ。確かに、私は党首として高嶋家や、そこで働く人達を守らねばならない立場です。けれど……私も、貴方達を……勇者という、残酷な運命を背負わせている大赦の人間に変わりはありません。貴方のあの日の怒りは、決して間違ってはいません」

 

 頭を下げ、あの日の……決戦の後に目覚めた日に彼女に失望して、怒りと酷い言葉をぶつけてしまったことを思い出し、謝る。その時の言葉は、この世界に転生し(うまれ)て最も怒り狂った状態で出た本心だ。ただ……その怒りの全てを彼女にぶつけるのは違うだろうと……冷静になってから、そう思ったのだ。

 

 正直なところ、彼女に糾弾されることも視野に入れていた。だが、友華さんは糾弾するどころか自分の怒りは間違っていないと言ってのけた。その顔に、微笑みすら浮かべて。出来た人だと思う。こんな自分より……よっぽど。

 

 「それにね? 私は楓君に怒られるよりも……その後に、遠回しにでも嫌いだと言われた時の方が傷付いたわ。だって私達は……例え短い時間であっても家族で、親子だったんだもの。息子に嫌われて傷付かない母親は……居ないわ」

 

 「……そう、ですか」

 

 「ええ。ねぇ楓君……貴方は、まだ私を……嫌っていますか?」

 

 浮かんでいた微笑みが、不安げなモノへと変わる。一見すれば4~50代の妙齢の女性。顔が人の姿をした神樹様にも似ていて整っていることもあり、可愛いと表現することも出来るような友華さん。これで実際は80歳を越えているのだから、人間とは不思議なものだ。

 

 そんな彼女の言葉に、自分は首を横に振る。もう、彼女に対して罪悪感こそあれど怒りは無い。彼女が言ったように、自分達は短い時間とはいえ家族だったのだ。そうして過ごした時間の中で、自分は彼女がどういう人なのかを知っていたハズだった。なのに……。

 

 「いえ……自分はもう、友華さんを嫌ってなんていませんよ。虫のいい話かもしれませんが、ねぇ」

 

 「そう……良かった」

 

 自分がそう言うと友華さんは、本当に……本当に嬉しそうに……笑った。

 

 そこからしばらく、自分達は雑談をしていた。自分からは学校での出来事や勇者部での活動、勇者部の皆のこと。友華さんからは……相変わらずと言うべきか、貴景さんとの惚気話。昔と変わらず仲が良いようで何よりだ。

 

 貴景さんと言えば、友華さんより1つ年上なのだが老人とは思えない程にゲームが上手かったっけ。自分達先代勇者4人でゲームをしていた時に試しに対戦してみないかという話になり、自信があった銀ちゃんと対戦して完勝していた。昔はTシャドウというプレイヤー名で活動していて、その名はゲーマー界では知らぬ者は居ないとまで言われたとか。

 

 「……楓君」

 

 「なんですか?」

 

 「貴方達が検査を受けた病院から、大赦にカルテが送られています。私は大赦の上層部の1人として、そのカルテに目を通しました」

 

 不意に、友華さんが真面目な顔をして自分の名前を呼び、そんなことを言ってきた。個人情報とかどうなっているんだとか、医者でもないのに分かるのかとか言いたいことはあるが……良くも悪くも、この世界は神樹様を祀る大赦によって回っていると言っても過言じゃない。カルテを手に入れるくらい簡単なのだろう。

 

 ただ、何故今その話題を出すのか……と言いたいが、予想は出来ている。

 

 「……大赦では、貴方を乃木さんと三ノ輪さんのように管理しようという話が出ています。理由は……分かりますね?」

 

 「まあ、ねぇ……今回の自分の“散華”が原因でしょう」

 

 「やはり……気付いているのですね」

 

 「流石に分かりますよ」

 

 総力戦の時にした満開、その散華。皆にはわからないと言ってはいるが……実のところ、何を捧げたのかは理解している。ああ、分かるとも。何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 今はまだ、皆にも……一般の人にもバレては居ない。それこそ知っているのは自分の検査を担当した医者とカルテを受け取った大赦くらいだろう。もしバレたら、パニックになりかねない。もしかしたら、ゾンビとでも言われるかもしれないねぇ。

 

 「でも、今自分が勇者部から離れるのは……正直、不安ですねぇ。姉さんと美森ちゃんは不安定だし、友奈ちゃんも少し気になるしねぇ」

 

 「……大赦としては、貴方を管理する方向で話が進んでいます。勿論、現勇者達の心境や感情を考慮するべきという意見も出ていますが……」

 

 「管理する、という案が優勢だと。自分の散華のことがあるから」

 

 「……その通り、です。恐らく、夏休み中か……それが終わる頃には、通院から入院……それも大橋にある病院へと」

 

 「大赦は姉さん達にどう説明するつもりですか? それに、学校のこともあるでしょう」

 

 「……それは……」

 

 やはり……大赦は昔と変わらない、か。いや、分かるとも。自分の散華を考えれば、このまま勇者部として過ごさせるよりも……バレる危険性を排除する為にも管理した方がいいと。それに、神託で出たバーテックスは倒し終えたのだ。自分のお役目……現勇者達のサポート役というのは、もう終わったことになる。

 

 サポートのお役目が終わった時、自分がどうなるのか分からなかった。このまま皆と過ごすのか、のこちゃんと銀ちゃんのように管理されるのか、それ以外なのか。どれも可能性があって……それが、管理するということになっただけなのだろう。

 

 問題なのは、それを姉さん達にどう説明するか。強引に入院、管理したところで姉さん達が納得するハズもないし、姉さん達と大赦の間に大きな溝が出来る可能性は高い。姉さんに至っては既に出来てしまっている。であるなら、どうするべきか……大赦への不満は出るだろうが、出来る限りそれを抑える方法はある。

 

 要は、大赦からあれこれ言うから不満が出る。敵意を向けられる。なら、それ以外の存在が説明すればいい……例えば、()()()からとかねぇ。とはいっても、焼け石に水程度にしかならないだろうが。

 

 「……ごめんなさい、楓君」

 

 「いいえ、わかってましたからねぇ。せめて、お見舞いや電話くらいはさせて貰えると有難いんですがねぇ」

 

 「何とか、便宜を図ってみます。私も……私達も、勇者の子達を悪戯に悲しませたい訳では……決してないのですから」

 

 「信じますよ……友華さん」

 

 

 

 話を終えた自分が部屋に戻ると、皆も既に戻っていた。お風呂上がりだからか皆髪を下ろしていて、何だか新鮮な感じがするねぇ。

 

 「あら? お帰り楓。随分長風呂だったのねぇ」

 

 「いいや、直ぐに上がったんだけど……途中で女将さんと会ってねぇ。今まで話してたんだ」

 

 「女将さんって、あの茶髪の人? ちょっと友奈ちゃんに似てたわよね」

 

 「綺麗な人だったよねー」

 

 「あの女将さん、80越えてるんだってさ」

 

 【嘘ぉっ!?】

 

 「っ!?」

 

 新鮮な姿の皆の見たことのある反応を見て、自分はくすくすと笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 風に連絡が入った翌日の部室。勇者部の6人が全員集合し、部室にあったアタッシュケースを開いて中に端末が入っていることを確認しなから、風が話し始める。

 

 「バーテックスに生き残りが居て、戦いは延長戦に突入した……纏めるとそういうこと。だから、これが返ってきた……いきなりでごめん」

 

 「姉さんの責任じゃないよ」

 

 「そうですよ、先輩もさっき知ったことじゃないですか」

 

 「ま、その生き残りを倒せば済むことでしょ。私達はあの総力戦だって乗り越えたんだから、生き残りの1体や2体どうってことないわよ」

 

 《勇者部5ヶ条、なせば大抵なんとかなる!!》

 

 「その通りですよ、皆が居れば大丈夫です!」

 

 「……ありがとう。そうね、バーテックスなんて私達勇者部6人が居れば問題ないわよねぇ」

 

 バーテックスの生き残り。そう聞いて旅館で早朝に会話をした友奈、美森は不安を覚えたものの、会話を続けていく内にその不安も消える。夏凜が言ったように、この6人はあの絶望的な総力戦を乗り越えたのだから。

 

 それは風も同じだったようで、5人の言葉を聞いて俯き気味だった顔を上げ、笑みを浮かべる。この6人ならば、乗り越えられないモノ等無いと。弟と妹、後輩達の顔を見ながら、彼女はそう思った。

 

 生き残りを倒せば、それで本当に終わりなのだ。それさえ終われば、また楽しい日々が戻ってくる。また、この6人で部活をしたり、どこかに出掛けたり、遊んだり出来る。そう思った……ただ、1人を除いて。

 

 「……明るい空気の中悪いんだけど、ちょっと自分の話を聞いてくれないかい?」

 

 「楓? どしたの急に」

 

 「大事な話だよ。とても大事な……ね」

 

 苦笑い気味に言う楓。そんな彼の様子に、皆が不思議に思う。その中でも、美森と友奈が、強烈に嫌な予感を感じていた。

 

 「自分の散華がわからない……前に、そう言っていたよねぇ?」

 

 「え、ええ……まさか、分かったの?」

 

 「ああ……というか、実は最初から分かってはいたんだけど……かなり言いづらくて、ねぇ」

 

 「言いづらい……?」

 

 楓が言葉を続けていく毎に、5人全員が嫌な予感を感じ、それが急激に膨れ上がっていく。不意に、楓は車椅子を操作して風に近付き……彼女の左手首を掴み、それなりに力強く手を引いて自分の方へと引き寄せる。何の備えもしていなかった風は必然、楓の方へと倒れ込む。丁度、彼の胸に顔を寄せるように。

 

 「ちょ、楓? いきなり何……すん……え? あ……待って……そんな……嘘……」

 

 いきなり手を引いた楓に文句を言おうとした風だったが、その顔が少しずつ青く染まっていく。そんな訳がない、これは何かの冗談だ……そう言いたくて、そう思いたくて、数秒間()()()()()()()()()()()()

 

 だが、そこで()()()()()()()()()()()()()()()()。どれだけ音を聞こうとしても、それは聞こえない。嫌でも、理解したくなくても……分かってしまった。彼が、何を捧げたのかを風の様子を見ていた4人も理解してしまい、その顔を青ざめさせる。

 

 「待って……ねぇ、待ってよ……」

 

 「通院していたのは、これのせい。生き残りを倒したら自分は……大橋の病院に入院することになるらしいよ」

 

 「大丈夫なの……? だって、これって……散華って、こんなものまで捧げることになるの……!?」

 

 「先代勇者の子の1人も、同じモノを捧げてる。これが一般の人に知られれば、大変なことになるからねぇ……その可能性を可能な限り無くすためには、仕方ないよねぇ」

 

 風の目から涙が零れる。その涙を左手の指で拭いつつ、楓は苦笑いしながら続ける。5人は、彼の言うことは理解出来ていた。それでも、納得出来るかどうかと言われれば話は別で。

 

 「楓君……何で今……それを言ったの?」

 

 「このまま黙っていることも……勿論考えた。だけど、隠しきれることじゃないしねぇ……それに、通院中にもいずれ大橋の病院に移ってもらうって話も聞かされていたからねぇ……理由を黙ったまま行っても、納得出来ないだろう?」

 

 「だから……今なの?」

 

 「……生き残りを倒して直ぐに行くことになるよりは、良いと思ったんだ。今なら……心構え出来るだろう?」

 

 美森は車椅子を動かして楓に近付き、問い掛ける。彼のいつもの朗らかな笑みと共に返ってきたのは、そんな言葉。確かに、このまま隠し続けたとして……もし何かの拍子で自分達に、或いは一般の人に発覚すれば……今よりも酷いことになっていただろう。それは想像するに難くない。

 

 だが、それが良いとは言えない。否……楓という存在が勇者部から、自分達の側から居なくなると考えれば、何一つ良いこと等ないだろう。心構えなんて出来る訳がない。またこの6人で……そう想像した未来が、他ならぬ彼の手で砕かれたのだから。

 

 「病院じゃなきゃダメなの? ずっと家に居るんじゃ、ダメなの!?」

 

 「外聞の問題だろうねぇ……それに、検査も続けなきゃいけないしねぇ」

 

 「また離れることになるの!? また……また、あんたを1人に、あんたを1人にしなくちゃいけないの!?」

 

 「……ごめんね、姉さん……樹……」

 

 「あ……うああ……っ!」

 

 楓の体を正面から力一杯抱き締め、風は泣き崩れる。樹も楓の後ろから抱き付き、声も無く涙した。また、家族が離れ離れになる。また、彼が1人居なくなる。それがどうしようもなく悲しくて、泣くのを堪えられなくて。

 

 それは他の3人も同じだった。美森は楓の左手を握って泣き、友奈は己の右耳に手を当てつつ瞳を揺らしながら嘘だ嘘だと呟き、夏凜は風達を見ていられないと拳を握り締めながら目を逸らす。

 

 「お見舞いとかは、出来るらしいよ。電話だって、出来るってさ……会いに来て、くれるんだろう?」

 

 「……行く。絶対に、出来る限り毎日、それが無理でも電話だって……絶対に……絶対に!」

 

 「うん……嬉しいよ。大丈夫、2度と会えなくなる訳じゃない。ただ、離れた病院に居るだけ……場所だってハッキリしてるんだからねぇ」

 

 気休めにもならない言葉だと理解しつつも、楓は言う。また会える。いつだって会える。声だって聞ける。だから……離れていても、寂しくはない。風に、樹に、美森に、友奈に、夏凜に……そう、言い続けた。

 

 “心臓”……楓があの日、神樹へと捧げたモノ。その鼓動と共に……彼はまた、彼女達とのありふれた普通の日々をも捧げた。

 

 

 

 (心臓……楓君が捧げたモノ……なんで……なんでそんなモノを捧げたのに……楓君は()()()()()()()()?)

 

 

 

 美森に、そんな疑問を残して。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく、夏休み終了も間近となったとある日。いつものように部室に集まっていた勇者部の面々。茹だるような暑さに風と友奈が簡易テーブルの上に上半身を乗せてスライムのように溶けていた。

 

 「あ゛ー……あっついわねぇ……」

 

 「ですねー……」

 

 「溶けてるねぇ」

 

 「そうね」

 

 溶けてる2人を見ながら、これまたいつものようにパソコンで作業をしている美森と直ぐ側で端末から勇者部のホームページを見ている楓が苦笑いする。因みに、樹と夏凜の2人は部活の為外に出ている。

 

 一時は暗くなった勇者部だったが、今ではすっかり元通り……とまではいかないまでも、ある程度明るくなっていた。楓が言ったように、病院に行ったところで何もまた会えなくなる訳ではない。それに、散華が戻ればまた帰ってこれるのだ。だから勇者部は、楓が病院へ行くその時までの時間をたっぷりと楽しむことにした。彼の、そして自分達の寂しさを少しでも埋める為に。

 

 「なんで楓くんと東郷さんはへーきなの~……?」

 

 「心頭滅却すれば火もまた涼し。日本国民足るもの、気の持ち様でどうとでもなるのよ、友奈ちゃん」

 

 「自分はまあ……そういう体質だからねぇ」

 

 友奈の疑問に、美森は右手の人差し指を立てながらさらりと言ってのける。風から疑わしげな目で見られるものの、本気でそう思っている彼女は自信満々の表情から揺らぐことはない。

 

 楓は苦笑いしつつ、その一言で済ます。温感を捧げていることを知る美森だけはそれを聞いて悲しげにするも、直ぐに隠すように同じように苦笑いを浮かべた。心臓を捧げたことを言っておきながら温感のことを言わないのはおかしいかもしれないが、2年間隠し続けているモノと事実上目の前で失うことになったモノとでは訳が違う。それは美森も理解していたし……不謹慎な話だが、唯一知っているということに少し優越感もあった。

 

 

 

 「そういう体質ねぇ……暑いとか寒いとか感じ難いってこと? 羨ましいわー」

 

 

 

 だから……美森は風が何気なく言ったことに対して怒鳴りかけ、何とか耐えた。風に悪気があった訳ではない。どちらが悪いと言えば、黙っている楓の方が悪いのだろう。それでも、知っているからこそ……その言葉に対して小さくない怒りを覚えた。

 

 「……そうだねぇ。そんなに暑いなら、何か冷たい飲み物でも買ってくるかい? 暇だし、自分が行ってくるよ」

 

 「あ、じゃあ私も行くー」

 

 「そうねぇ……一緒に行きましょっか。東郷、あんたはどうする?」

 

 「あ……いえ、私はここで作業の続きをしています」

 

 「そっか。東郷さん、何がいい?」

 

 「そうね……緑茶をお願い」

 

 そんな会話をして、3人は部室から出ていった。その際に美森は楓と視線を合わせ、感謝を込めて頭を下げる。楓が飲み物を買いに行こうと言い出したのも、美森の怒りを感じ取ったからだ。その理由が分かるから、場の空気をリセットする意味も兼ねて風を連れ出したのだろう。それが分かるから、美森も感謝した。

 

 友奈は、あの日からなるべく楓と共に行動するようになった。それを少し寂しく思うものの、美森はそれも仕方ないと思っている。合宿の日……もっと言えば、入院していた日から、友奈の中の楓への感情が少しずつ変わっていっているのを、美森を理解していたからだ。

 

 そんな友奈が可愛くて仕方ないと、己の中にあった怒りが消えていったのを自覚した美森の視界にとあるモノが映る。

 

 「あら……楓君、忘れて行っちゃったのね」

 

 それは、大赦から返された楓の端末だった。空気をリセットすることに意識を向けていたために机の上に端末を置き、そのまま忘れて行ってしまったのだろう。珍しい楓の失敗に、美森は思わずくすりと笑い……耳元で悪魔が囁いた。

 

 (楓君の、端末……中には当然、勇者アプリもある。そして……精霊のリストも)

 

 端末が戻って来てから今日までの間に、勇者部のメンバーに1つの変化があった。それは、夏凜を除く5人の精霊の数が1体ずつ増えているということ。

 

 精霊が増えた者と増えていない者。その違いは、美森だけでなくとも理解している。即ち、満開を使ったかどうか。使った5人は増え、使わなかった夏凜だけが増えなかった。つまり、精霊は満開を使う毎に1体ずつ増えていくということ。

 

 (……先代勇者である楓君はともかく、私が最初から3体もの精霊が居たのはずっと疑問だった。でも、今なら……勿論、そうだと決まった訳じゃない。でも、可能性は限りなく……高い)

 

 なぜ、友奈達と同じ時期に勇者になったハズの自分だけが複数の精霊を持っていたのか。その理由を、美森は察しかけていた。否、ほぼ確信していると言ってもいい。状況証拠だけがあり、確たる証拠が無いだけの話なのだ。

 

 自問自答を繰り返しつつ、いけないと思いつつも楓の端末に手を伸ばし、掴む。電源ボタンを押してスリープを解除。映し出されるのは……パターンロック画面。

 

 「……ごめんなさい、楓君」

 

 一言謝り、美森は一切の躊躇無く指を動かしてパターンを入力。あっさりと、ロックを解除した。何時だって楓と友奈のことを見ていた美森だからこそ出来る芸当。勿論本人にバレたら間違いなく怒られるだろうが。そして、映し出されたホーム画面の背景を見て、彼女は息を飲む。

 

 ホーム画面には、勇者アプリと他の2つ3つ程度のアプリ。その背景に映し出されているのは、旅館で撮った写真。楓と美森が隣り合い、友奈が真ん中に立つ朝焼けを背景にしたモノ。他の3人は知らない、この3人だけが知っている秘密の写真。

 

 (……それでも私は……貴方を知りたい)

 

 沸き上がる罪悪感。一瞬の躊躇。それでも結局、真実を知りたいという気持ちが勝った。勇者アプリを開き、精霊のリストを開き……中に目を通す。

 

 (夜刀神……与一……陰摩羅鬼……だいだらぼっち……)

 

 美森だけでなく、他の勇者部メンバーも知る精霊達。美森も知った温感の散華と楓の申告、そして総力戦での満開。正しければ、精霊の数は6体。美森からすればそれでも充分多いが、全ての散華が発覚していることにもなるので多少安心出来る。

 

 

 

 だが……やはり、真実とは残酷なモノであって。

 

 

 

 (茨木童子……天狐(てんこ)……っ、槍毛長(やりけちょう)提灯火(ちょうちんび)……そんな……8体……っ!?)

 

 リストに存在する精霊の名前……その数、8。つまり楓は総力戦のモノも数えて7回満開していることになり……美森も知らない散華が、後2つ存在するということになる。

 

 「楓君……貴方は、他に何を失っているの……?」

 

 もうすぐ3人が戻ってくるかもしれないとホーム画面に戻ってスリープモードにし、元の場所に置く美森。泣きそうになるのを必死に堪え、部室の天井を見上げる。

 

 後2つ、楓が捧げたモノ。それは最早、想像することも出来ず……かといって、怖くて聞くことも出来ず。美森は勝手に見てしまった罪悪感もあり、見たことを隠して過ごした。

 

 

 

 時は過ぎていく。バーテックスの生き残りも現れず、学校も始まり、楓の心臓のことがバレないように同じクラスの友奈、美森、夏凜が気を付けて過ごし……そして9月の中頃、ソレはやってくる。

 

 生き残りのバーテックスが。そして……崩壊(おわり)が。




原作との相違点

・生き残り戦前に精霊の増える理由発覚済み

・台詞とか色々



という訳で、久しぶりの登場の友華と楓の仲改善、心臓散華、満開回数発覚、不穏チャージのお話でしてー。

遂に発覚した満開回数。その数7回です。つまりはあの時点では銀ちゃんと同じ6回、総力戦で園子と並んだことになります。最後の散華は、実はここまででヒント(になってるハズ)が出てます。わかるかな?

病院に入院とか、散華暴露とか無理があると思われるかもしれませんが……そこは何とか、ご了承下さい。

次回、本編は置いといて番外編です。DEifが一番多かっ
た為、それを予定しています。なので、アンケートは終了致します。皆様、投票ありがとうございました。

……その次の番外編で、2位、次で3位を書こうと思います。なので、アンケ自体は残します。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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