咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

流石に以前程の執筆速度は出ませんね……なんで1日とか2日に1回とか投稿出来たんだ私。

ゆゆゆいでは思いやりぐんちゃんと東郷さんコスのコラボキャラが来てくれました。ぐんちゃんの尊みが深い……。

ラストイデアが楽しくて仕方ないです。レジェンドもっと落ちて←

今回、かなり原作と変わっています。まあ銀ちゃん生存とか満開回数が少ないとか違いが大きいからね、仕方ないね。


結城 友奈は勇者である ー 17 ー

 何度目かの樹海化が起き、直ぐに変身する6人。その中で美森がアプリで敵を確認する。数は1、名前は双子座。この敵さえ倒せば、延長戦も終わる。

 

 「さて……今回の敵で本当に終わり。またアレ、やるわよ!」

 

 「また? ホント好きね、こういうの」

 

 「先輩は体育会系気質だから」

 

 「騒ぐのと楽しいのが好きなだけだよ」

 

 「楓うっさい。さあ! 敵さんきっちり昇天させてあげましょ。勇者部ファイトーっ!」

 

 【おーっ!!】

 

 円陣を組み、気合いを入れる6人。今度は夏凜も抵抗無く参加している。声が出ない樹も、その顔にやる気を漲らせていた。

 

 そこから少しして、今までのバーテックスと比べれば小さな影がシャカシャカと高速で走ってくる。総力戦の際、満開した樹によって倒された双子座、その色違いである。

 

 「なんだかちっちゃいねー」

 

 「自分と友奈ちゃんは見てないね、あのバーテックス」

 

 「あれって樹が倒さなかったっけ?」

 

 「双子座という名前の通り、元々2体のバーテックスなのかもしれませんね」

 

 レオに取り込まれていた為にその姿を見ていなかった友奈と楓がああいうのも居るのかと不思議そうにする隣で、風が確認するように呟くと樹が頷き、美森が自分の考察を述べ、それを聞いた5人はなるほどと頷く。

 

 「ま、いずれにせよやることは同じよね」

 

 「そうだねぇ。バーテックスは倒す……それで、終わりだよ」

 

 「うん! よーし、やるぞー!!」

 

 夏凜、楓、友奈と続き、楓は翼を出して飛び上がり、同時に夏凜と友奈も跳び上がる。遅れて樹、風も続き、美森は高い位置にある木の根に向かう。

 

 本来なら、ここで動けたのは夏凜と友奈の2人だけだった。しかしここでは、彼女達は皆散華の存在を知り、その恐怖がありつつもこれで終わりだという意識がある。故に、初動こそ遅れたものの全く動けないということはなかった。

 

 「3人同時だ。動きを止めるよ」

 

 「了解です!」

 

 「うん! 一緒に!」

 

 「「「せーのっ!!」」」

 

 先行していた楓達3人が声を掛け合い、同時に左拳を突き出して双子座目掛けて落下し、その丸い頭部のような部分を同時に殴り付けて進行方向と逆の方へと吹き飛ばす。

 

 確かな手応え。しかし、双子座は倒れた状態で少しばかりジタバタとしたもののピョンと跳ねて再び立ち上がり、また走り出そうとし……その両足に緑色の光のワイヤーが絡み付き、真っ正面にビターンッ! と盛大に転けた。

 

 「うわ、痛そう……」

 

 「これは、樹か。ワイヤーの扱いはもう勝てそうにないねぇ」

 

 「やるじゃない」

 

 「っ!」

 

 その姿を見た友奈は自分が転けた訳でもないのに額を押さえて顔をしかめ、楓は樹の手際の良さを褒め、夏凜も簡潔に褒める。近くまで来ていた樹は2人に褒められたことで笑顔を浮かべ、ぐいっとワイヤーを引くと両足を絡めとられたままの双子座が逆さまに浮き上がる。

 

 「どっせええええいっ!!」

 

 「これで終わり……だから!」

 

 その浮き上がった体を風が大剣で横一閃して両断し、後ろから美森が狙撃銃の引き金を引くと彼女の頭上に光が集まり、レーザーとなって突き進んで双子座の頭部を撃ち砕き、撃ち砕かれた双子座はべしゃっと地面に落ちる。

 

 「ナイスよ東郷! さて、さくっと封印するわよ、皆!」

 

 「任せなさい。封印、開始!」

 

 「バーテックス、大人しくしなさーい!」

 

 「お前で最後だ、よ!」

 

 風の声に従い、美森を除いて意思を込めて封印の儀式を始める5人。魔方陣のようなモノが双子座の下に現れ、その体から他のバーテックスと比べて遥かに小さな御霊が現れる。が、そこからが問題だった。

 

 「出た、御霊……!?」

 

 「なに、この数!?」

 

 樹がかつて破壊した小さな御霊。それが今回は凄まじい量が出てきたのだ。以前にもあった御霊が分裂した、なんて物ではない。文字通り大量に、多過ぎて柱を作り出す程。しかもまだまだ出て来ており、足下にも御霊が転がっている。

 

 全員で御霊に攻撃していくが、破壊する速度よりも出てくる速度の方が速い。夏凜が短刀を投げつけ爆発させて一気に破壊する。風が大剣を巨大化させて峰の部分で押し潰す。樹がワイヤーで包囲して収縮させて切り裂く。美森が先程のレーザーを放って消滅させる。それでも、減らない。彼女達の攻撃範囲では、全てを破壊するには至らない。

 

 4人の顔に焦りが出る。別に攻撃することで満開ゲージが増えることは怖くはない。使う意思を持って満開を叫ばなければそれは発動しないと知っているのだから。しかし、儀式を行った以上制限時間が出来てしまい、このまま破壊出来なければやがて封印出来なくなり、復活する双子座が神樹に走っていく姿を黙って見ていなければならなくなる。

 

 「皆、ちょっと離れて!」

 

 不意に、楓がそう叫んだ。その直後に風、夏凜、樹の3人は疑うことなく御霊から離れ……その御霊を、巨大な白い光が飲み込んだ。さながら物を袋で包むように。

 

 前回の満開によって更に増した楓の勇者の力。それは扱える光の量が増えるということでもある。楓は光を風呂敷のように広げて全ての御霊を包み込み、光を操作して空中へと持ち上げる。

 

 「友奈ちゃん!」

 

 「うおおおおっ!! 炎の……勇者キーック!!」

 

 その光目掛けて、跳び上がっていた友奈が新しい精霊、火車の力を使った炎を纏った足を突き出して高速で落下する。それは光に突っ込み、貫き……友奈が着地するのと同時に楓の光の中で友奈の炎が巻き起こり、1つ残らず御霊を焼き尽くし、破壊し尽くした。

 

 念のためと、美森がアプリを確認する。勿論、その画面には双子座の文字は無い。制限時間を表す数字も空中から消えている。先の12体のバーテックスの生き残りは、ここに殲滅されたのだ。

 

 「ナイスよ楓! 友奈!」

 

 「おっと」

 

 「わわっ! 風先輩、苦しいですよー」

 

 「くっ、美味しいところを持っていかれたわ」

 

 「……!」

 

 「お疲れ様、2人共」

 

 倒した嬉しさを体現するように楓と友奈に抱き付く風。少し悔しそうに、しかしその顔には苦笑が浮かんでいる夏凜。そんな夏凜を見てくすくすと笑っている樹に、リボンを動かしてぴょんぴょんと跳ねながら5人の元に戻って2人に労いの言葉をかける美森。

 

 笑い合う6人。気付けば樹海化は光と共に解除され、見慣れた学校の屋上へと戻って来ていた。これで本当に戦いは終わったのだ。心にやってくる安堵。そして……寂しさ。

 

 「……本当に、終わったのね」

 

 「うん。これで、皆のお役目は本当に終わりだよ」

 

 「……そっか」

 

 確かめるように呟く風に、楓はいつものように朗らかな笑みを浮かべて頷く。その言葉に風は頷き……樹と共に、車椅子に座る楓を後ろから抱き締めた。

 

 これで終わり。それはつまり、楓が大橋の病院へと入院するということだ。もうこれまでのように直ぐ近くに居るということはない。もっと言えば、部室に来ることもないのだ。散華が戻る、その日までは。

 

 それを理解しているから、姉妹は楓から離れなかった。それを理解しているから……友奈達3人は、姉弟の姿を少し離れた場所で見ていた。そして、翌日の学校にはもう……彼の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 友奈ちゃんの後ろ、私の左隣の席。そこにあるハズの姿が無くなってから、私達だけでなくクラスも少し暗くなった気がした。バーテックスがやってきた日の翌日……つまりは昨日、先生から楓君が一身上の都合で休学すると告げられた。その理由を知るのは、私達勇者部だけなのだけど。

 

 昨日は楓君が入院したばかりということでお見舞いには行けなかった。風先輩と樹ちゃんは学校を休んで色々と用意したりお手伝いしたりしていたみたいだけど。

 

 勇者部のホームページにも、楓君が入院したという報告をしてある。主に老人会の人から心配と早く良くなるといいねという応援のコメントが沢山来ている。本当に、早く良くなる……供物が戻るといいのだけど。

 

 「……はぁ」

 

 友奈ちゃんの溜め息が聞こえた。少し離れた席では夏凜ちゃんが退屈そうにしている……私もきっと、同じような表情をしているんだろう。隣に彼が居ない。それだけなのに、全く違う世界に居るかのようで。

 

 授業がいつもよりも遥かに長く感じる。今日は部活があるからお見舞いにはいけないけれど、明日はお休みなので朝からお見舞いに行ける。早く1日が終わらないだろうか。

 

 

 

 そんな事を思っていたのも既に昨日の話。私と友奈ちゃんは電車を使って楓君が居る大橋の病院へと向かっていた。少し遠いが、彼と会うためだと思えば別に苦でもない。

 

 因みに、風先輩と樹ちゃん、夏凜ちゃんは別の時間にお見舞いに行くらしい。皆で集まって一緒に、とも思ったのだけど、それぞれに用事があるとのことで私達は私達で先にお見舞いに行くことになったのだ。

 

 「東郷さん、それなあに?」

 

 「お見舞いの食べ物。別に楓君は病気で入院した訳じゃないし、病院食って味気ないと思うから」

 

 友奈ちゃんに膝の上の四角い袋を指差されながら聞かれたのでそう答える。言った通り、この袋は食べ物……それも楓君用の一口ぼた餅を入れた重箱が入っている。

 

 味覚を失った友奈ちゃんが居るのにぼた餅はどうかとも思ったのだけど、私達が帰った後に食べて貰うなら問題ないはず。以前のように直ぐに会えない以上、こんな時でもないと彼に食べてもらえないから。それに、重箱を取りに行くというお見舞いの理由作りも出来るし。

 

 「友奈ちゃんも、何か持ってきたの?」

 

 「うん! えっとね……これ!」

 

 そう聞いてみると、友奈ちゃんはカバンから1つの写真立てを取り出した。その中に納められていたのは、6種類の花を使った押し花。

 

 「押し花ね。とても綺麗……」

 

 「皆の勇者服にあったお花で作ってみたんだ」

 

 そこまで花の名前に詳しくない私では全部を言い当てられないけれど、私のアサガオに友奈ちゃんの桜の花……どこで見つけたのかしら。もうすぐ秋なのに……楓君の白い花菖蒲、後は……ユリかしら。それからわからないのが2つ。とにかく、その押し花はとても綺麗だった。

 

 集合写真とはまた違う、私達が勇者だから私達だと分かる押し花の集合写真。友奈ちゃんらしい、素敵なお見舞い品だと思う。きっと彼も喜んでくれるハズ。

 

 電車に揺られながら楽しく雑談することしばらく、ようやく目的地に辿り着いた私達は病院で受付の女の人に楓君の病室を聞くと、身元を聞かれ、学生証を見せるように言われ……少しパソコンを操作した後に笑顔で教えてもらった。

 

 少しの疑問。それは友奈ちゃんも同じだったのか首を傾げていたけれど、今は早く楓君の病室に行きたかったので気にしないようにする。教えられた、随分と奥まった所にあるエレベーターに乗り、目的の15階へ。大きい病院だとは思ったけれど、まさか15階まであるとは思わなかった……というか、このエレベーターには15と1以外のボタンが無いのだけど。

 

 「……ここ、だよね?」

 

 「その筈だけど……嫌な雰囲気ね」

 

 止まることなく辿り着いた15階。ただ、その階はなんというか……嫌な雰囲気をしていた。人の気配が無い。それに、少し薄暗い。エレベーターの前には長い通路があるだけで、後は直ぐ近くに非常階段に続く扉と、エレベーターの横にもう1つエレベーターがあるだけ。1階の乗った場所にはこのエレベーターの他には無かった筈なのだけど。

 

 長い通路の先に見える扉を目指して、友奈ちゃんに押されながら進む。窓1つ無い、日の光が一切無い少し暗い蛍光灯のみの変な通路。掃除は行き届いているのか通路や壁自体は綺麗なのだけど、それがかえって不気味に見える。

 

 「これは……注連縄(しめなわ)、だっけ?」

 

 「なんでこんなものが……」

 

 少しして扉の前に来ると、扉の上と天井の間に大きな注連縄が飾ってあった。病室の前の通路は横に広がっていて、トイレも給湯室もある。まるで、この階から出なくても良いように。この病室の近くから離れなくても良いように。

 

 気持ち悪い。違和感だらけで、この階は気持ち悪い。1階が人も沢山居て普通の光景だった分、この階は異世界にすら思える。早く楓君に会おう。友奈ちゃんと顔を見合わせて頷き、扉を開ける。

 

 「……うん? おや、友奈ちゃんに美森ちゃん」

 

 「……わっしー……?」

 

 「え、須美?」

 

 そこには大きなベッドに横たわる楓君と……体と顔に包帯を巻いて病人服を着ている、車椅子に乗った知らない金髪の女の子と灰色の髪の女の子と……仮面を着けた、大赦の人間と思わしき人が居た。

 

 

 

 

 

 

 「えっと……お見舞いに来ました~」

 

 「お邪魔だったかしら……?」

 

 「いや、大丈夫。来てくれて嬉しいよ、友奈ちゃん、美森ちゃん」

 

 「良かった。えっと、この人達は……」

 

 「東郷さんを見てすみ? わっしー? って呼んでたけど、知り合い?」

 

 「……ううん。初対面だわ」

 

 わっしー……今は東郷さんだっけ。それから……赤い髪の女の子は確か、結城 友奈ちゃん。当代の勇者で、カエっちを除けば最高値の適性を誇るっていう。

 

 もしかしたら、会うかもとは思ってた。だけど、こんなに早く会えるとは思っていなかった。それに……やっぱり、私とミノさんのことは忘れてるんだね。知らない人を見る目で見られるのは……結構、辛いなぁ。

 

 「……あはは、ごめんね。須美って言うのは……わたし達の大切な友達の名前で、わっしーはそのあだ名なんだ~」

 

 「……そう、なんだよ。そっちの子が、その友達と良く似ててさ。つい、ね」

 

 何とか、笑って誤魔化す。前のわっしーなら追及されたかもしれないけど……今のわっしーは記憶が無いから、大丈夫だよね。

 

 「そう、なの……楓君。この人達はまさか……」

 

 「美森ちゃんの予想通りだと思うよ」

 

 「それじゃあ……先代の、勇者」

 

 「えっ、私達の先輩勇者!?」

 

 「えへへ、その通りだよ。私と、ミノさんと、カエっちと……鷲尾 須美って子の4人で、一緒に勇者としてバーテックスと戦ったんだよ」

 

 「ミノさんってのはあたしのことな」

 

 驚く2人に、思い出しながら教える。そう、今でも思い出せる。4人一緒だったこと。一緒にお話したり、遊んだり……戦ったりしたこと。最後の戦いは辛かったけれど、その前の日々はキラキラとしてて、思い出すだけで温かい気持ちになれる。

 

 「そうだ……貴女達の名前、教えてほしいな」

 

 「あ、さ、讃州中学、結城 友奈です」

 

 「東郷 美森、です」

 

 「……美森ちゃん、か……」

 

 「……いい名前だな」

 

 名前も、姿も安芸先生から教えてもらっていたけれど……やっぱり、本人の口から聞くのは違うね。後は……寂しいかな。私達の知っているわっしーなのに……目の前に居るのはもう、私達の知らない美森ちゃんなんだって突き付けられるのは。

 

 「次はわたし達だね。乃木さん家の園子ですー」

 

 「三ノ輪 銀っていうんだ。宜しく、2人共」

 

 「園子ちゃんと銀ちゃんだね! 宜しくお願いします!」

 

 「宜しく、お願いします。あの、2人の体は……やっぱり」

 

 「カエっちから聞いてるんだね。満開も……散華も」

 

 「……ええ」

 

 「そっか。うん、この体は散華の結果。両手も両足も捧げちゃってまともに動けなくなっちゃって……2年間ずーっと、この病院の最上階に居るんだ~」

 

 「あたしも左手以外の四肢を捧げちゃったから、園子とおんなじ階に居るんだ」

 

 ミノさんはいつも退屈そうにしていたっけ。わたしはのんびりするのが好きだったし、近くにミノさんも居たし、安芸先生もカエっちの行動とか当代勇者が居る勇者部のことも教えてくれたし……1週間に1回は夢空間でカエっちとも会えたし、それほどでもなかったけれど。

 

 ……嘘。やっぱり寂しかった。夢空間じゃなくて、生身で会いたかった。話したかった。当代勇者の子達ばっかりズルいって思ってた。だから、不謹慎だけど……こうしてカエっちとまた会えて、直ぐ近くに居ることが嬉しい。

 

 「……? 最上階? でも、ここに来るまでの通路に部屋なんて……あ、もう1つのエレベーター」

 

 「そう、それに乗れば最上階に行けるんだ。今日まで降りることは無かったけどね」

 

 「……それはやっぱり、散華のせいで?」

 

 「まあ、そうだな。一般の人に見られる訳にも、知られる訳にもいかないしさ」

 

 「特にわたしはね。カエっちと同じ場所……捧げちゃってるから」

 

 「……楓くんが言ってた、もう1人の心臓を捧げた勇者って……」

 

 「うん。わたしのことだね」

 

 2人が来る前、3人で少し話してた。久しぶりだとか、また満開したんだとか……心臓を捧げたからここに来たんだとか。嫌なお揃いだね、なんて皆で苦笑いして……神託で出たバーテックスは全部倒したとか、そんな話もして。

 

 でも、殆ど勇者部のこととか、わっしーとお姉さん、友奈って子が心配だとか。後は私達も含めて早く神樹様が散華を戻してくれるといいねとか……そんな話をしてて。そんな時に2人が来たんだ。

 

 「……2年間、ずっとその状態で過ごしてきたん、ですよね。辛くはなかったの……?」

 

 「辛かったよ」

 

 「そうだよな……辛かった」

 

 わっしーが聞いてきたからミノさんと一緒に即答する。夢空間の中で、カエっちはいつか神樹様が散華を治してくれる、また自分の意思で動けるようになるって言ってくれたけど……治る気配は、全然なくて。今こうしてここに居るのも、ずっと黙ってる仮面の人……安芸先生が連れてきてくれたからで。

 

 本当は、ここに来るのはダメなんだ。大赦の人は私とミノさんを奉ってて、本当ならその部屋から動かしたくないんだから。この部屋だってそうだ。勇者部の人達がお見舞いで来てるとは言え……部屋の前には注連縄、ベッドの裏や棚の裏みたいな見えない場所には沢山の紙のヒトガタが貼り付けてある。もう、カエっちも奉られているんだ。

 

 きっと、わっしー達は知らない。ここに来られるのは勇者と一部の大赦の人だけ。神様に力を借りた、満開と散華によって神様に近付いた勇者達と、それを知っている大人達だけ。後の一般人は門前払いを受けているなんて、ね。

 

 「……そのリボン、似合ってるね」

 

 「……このリボンは、とても大事なモノなの」

 

 折角カエっちのお見舞いに来てくれたのに雰囲気を暗くしてしまったから、何とか空気を変えようとして……わっしーがしているリボンが目について、そのまま聞いてしまう。返ってきた言葉は意外で……それでも、嬉しいもので。

 

 「それだけは、覚えているのに……ごめんなさい。それ以外は……思い出せ、なくて……っ!」

 

 「……美森ちゃん……まさか……」

 

 「す……東郷……」

 

 「……ううん。仕方ないんだから……いいんだよ」

 

 ああ、分かっちゃった。わっしー……美森ちゃんは泣きながら謝ってる。リボンを握り締めながら、私達の方を見て……そうだよね、美森ちゃんは……わっしーは真面目で、頭も良かったから。

 

 彼女は……自分が私達と同じ先代勇者だったってことに、もう気付きかけてるんだ。ヒントは、きっとあったんだよね。その涙を拭ってあげたいけど……わたしは、動けないからそれも出来ない。あの時渡したリボンを、記憶を失っても大切にしててくれて嬉しいのに……抱き付くことも出来ない。

 

 「東郷さん……大丈夫、だよ。バーテックスは全部倒して、戦いは終わったんだから。散華だって、神樹様がいつか戻してくれるから」

 

 「……そう、よね……いつか……いつか、きっと……」

 

 友奈ちゃんが美森ちゃんを抱き締めて、そう呟くのが聞こえた。でも、肝心な美森ちゃんは……口ではそう言ってても、まるで信じてないみたいだった。

 

 2人は……知らないんだね。戦いは、まだ終わってない……終わらない。きっとまた、時間を置いてバーテックスはやってくる。その時、別の勇者が見出だされるのか……それとも、彼女達が再び勇者として戦うことになるのか。

 

 ねぇ、神樹様。カエっちに供物を戻してくれるって伝えたなら、どうして戻してくれないの? どうして、無垢な少女にしか力を貸してくれないの? どうして、カエっち以外の男の子はダメなの?

 

 いつになったらわたし達は……また、一緒に……。

 

 

 

 少し時間が経って落ち着いてから、私達は5人で楽しくおしゃべりしてた。また……わっしーとゆーゆと、友達になれたと、思う。ミノさんとゆーゆは結構話が合うみたいで、ずっと一緒に居たみたいに仲良くなってた。安芸先生はずっと黙ってたけど、何だか雰囲気が穏やかな気がする。わたし達がこの人は味方だと言ったからか、2人も気にしなくなってた。

 

 わたしと美森ちゃんはカエっちの側で勇者部のこととか聞いて、学校のカエっちのこととか聞いて……え、待って。カエっちとわっしーとゆーゆのスリーショットとか凄く羨ましいんだけど。記憶を失ってもカエっちの右側陣取るとか……え、本当に記憶失ってるんだよね? 後カエっち、この膝枕しながら撫でてる小さい女の子についてもう少し話を……。

 

 そんなこんなで楽しい時間は過ぎていって、電車の時間があるからと2人が部屋を後にするのと一緒に、私達もそろそろ戻らないと他の大赦の人が煩くなるので……と部屋を出る。その際、エレベーターの前で美森ちゃんに声を掛けられた。

 

 「乃木さん。それから、三ノ輪さんにも少し聞きたいことがあるのだけど」

 

 「なに?」

 

 「答えられることなら答えるゾ?」

 

 「そんなに難しいことじゃないわ。貴女達の端末、今どこにあるのかなって。持ってるようには見えないから」

 

 なんだそんなことか、と思った。同じ勇者なんだから、変身の為に必要な端末は気になるのかなとか、別に深く気にすることもなくわたしは答えていた。

 

 「わたし達のスマホは、大赦が預かってるよ。わたし達はいざというときの切り札でもあるけど……普段は怖がられてるからね。変身出来ないように手元には置いといてくれないんだ」

 

 「ネット環境とかも制限されてるから、暇で暇で仕方ないんだよな……」

 

 「怖がられてる……?」

 

 「うん。その理由は、またいつか……ね」

 

 きっと……この時、わっしーは気付いたんだね。ううん、元々もしかしたらとは思ってて……確信させちゃったのかな。

 

 

 

 「……そう……やっぱり勇者は……そして精霊は、その為の……」

 

 

 

 エレベーター前で別れたわたし達には聞こえなかったその呟き。きっとゆーゆには理解出来なかったその言葉。それに気付けていれば……彼女の行動を事前に止められたかもしれないのに。

 

 

 

 

 

 

 ― そんな…… ―

 

 暗い空間。そこに、少女の姿の神樹は居た。初めて勇者部が乙女座を倒した時からずっと期待を、希望を持って試行錯誤を繰り返してきた。戻せないと思った楓の散華を、供物を戻すという期待。強化されていたバーテックスの御霊に含まれる天の神の力、それと自分達の力を合わせれば、不可能だと思われた供物の返還が出来る……そう、希望を持っていた。

 

 

 

 ― ……足りない……っ!? ―

 

 

 

 だが、計算外のことが起きた。いや、予期は出来たかもしれない。だが、惑星規模の御霊を持ってしても足りないとは思わなかったのだ。

 

 計算外だったのは2つ。1つは、総力戦での楓の7回目の満開。これによって只でさえ絶望的だった供物の返還が遠退いた。しかし、それでも惑星規模の御霊を見れば、それまでの()()()()()御霊があれば、何とか戻せる筈だった。ずっとお手本を見て、ずっと試行錯誤してきた。彼と彼女達の未来を見られると、勇者達が報われると、その為に努力してきたのだから。

 

 2つ目の計算外。それは、他のバーテックスと違って獅子座は()()()()()()()()()()こと。強さだけであればバーテックスの中でも最強でありながら、獅子座単体の天の神の力は他のバーテックスと比べてもむしろ少なかったのだ。故に、合体しても神樹の想像するよりも得られた天の神の力が少なかった。

 

 どちらかの計算外が無ければ良かった。満開していなければ、力が足りた。強化されていれば、力が足りた。いや、強引にでもやろうとすれば戻せる。しかし、それをすれば四国を守る結界や人々の生活を支える恵み等の力がしばらく無くなってしまうから出来ない。

 

 ― 次の襲来は……まだ数年先……また、数年待たせるの? ―

 

 神樹が予期する次の襲来はまだまだ先の話。そこまで待てばいいだけ。しかし、神樹には見えている。聞こえている。彼女達の泣き顔が、彼女達の悲しみが。

 

 楓の存在のお陰で力は今尚増し続けている。彼女達の供物は戻せる。だが、彼女達だけ戻れば……それもまた、不審に思われるだろう。“何故彼だけが戻らないのか”と。そして、また悲しみや泣き顔が生まれるのだ。

 

 ― どうしよう……どうしたら……っ ―

 

 心を、感情を得たが故に神樹は……“私達”ではない“私”は思い悩む。答えは出ない。彼女には、それを出す為の経験が無いのだから。“私”は神でありながら人に寄りすぎた。そして、もし仮に答えを出せたとしても……。

 

 ― ……悩んだら相談……そうだ、勇者の子達も言ってた……なら、私もあの人に…… ―

 

 崩壊(おわり)は始まっている。そう……何もかも遅すぎた。




原作との相違点

・袋叩きに合う双子座

・友奈と東郷が園子に呼ばれない

・病院にて園子、銀と再会

・勇者が死なないことを教えられない

・その他ちょっと多過ぎて……逆に教えて下さい←



という訳で……不穏だらけのお話でした(雑)。前書き通り、かなり原作と変わっています。ここから本筋はそのままに、過程がかなり変わっていきます。いや、この流れでそのままやっても違和感凄いですしね←

今回で先代勇者集合+α。色々と知っているので一見穏やかな終わり(少なくとも原作のようないきなり真実を伝えられるということは無かった)ですが、さてはて。

やっぱり戻せなかった楓の供物です。話の流れと満開で“あっ(察し”な人も居るのでは? どうなるんだー(棒

そしてまた東郷さんチャージ。フルチャージ。月は見えているか。スキャニングチャージ。NPチャージ。マキシマムドライブ。準備はよろしいか?

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